体育館裏と告白と~和馬の誕生日

    作者:聖山葵

    「二度も意表をつけば、普通のやり方では感づかれる。そこで君達に声をかけさせて貰った」
     君達の前に現れた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は、まずこれが11月30日に誕生日を迎える鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)の誕生日を祝う計画であることを明かす。
    「だが、ドッキリ的な誕生日祝いも回数を重ねるほどしにくくなるのは、必定。そこで今回の祝い方は、こうだ――」
     まず和馬を下駄箱に入れたいかにもラブレターな手紙で体育館裏に呼び出す。
    「そして、誰かが手紙の主のフリをして愛の告白……をすると見せかけて、祝辞を述べるっ『お誕生日おめでとう』とな」
     後は隠れて様子を窺っていた他のメンバーで和馬を掠いつつネタばらし、パーティー会場に借りておいた体育館の中で持ち込んだ料理やケーキ、飲み物でお祝いする、と言うことらしい。
    「君達は、告白者として少年をドッキリにかけても良いし、影から反応を楽しんでもいい。偶然居合わせちゃった果たし合い希望の番長に扮して気まずくなるのも良いし、物陰から『ちくわ大明神』とか言うだけの人でもいい。少年への告白と見せかけて自分の意中の相手を誘い、その人に告白するのも自由だ」
     和馬がいればこの辺りでツッコミの一つや二つ入っていたのだろうが、惜しむべきはツッコミ役の不在か。ちなみに、倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は体育館を借りる為の手続きに向かって席を外しているのだとか。
    「また、体育館でのパーティーの料理や飲み物についてはこちらで手配しておくことを約束しよう」
     持ち込みも危険物劇物、嫌がらせにしかならないモノ以外なら受け付けているとのこと。
    「これが、作戦決行の時間だ。準備もある、参加する場合は三十分前集合となる」
     くれぐれも時間だけは遅れないようにと続けると、はるひは君達に背を向け。
    「では、当日体育館前で会おう」
     片手をあげるとそのまま去っていったのだった。
     


    ■リプレイ

    ●呼び出されて体育館裏
    「テーブル、イスはこの数でいいでしょうか。飲み物も大丈夫ですね」
     並べられた机を見回し、点在する1.5リットルサイズのペットボトルを確認した蒼香はセプテントリオンの仲間達にそろそろ行きましょうと声をかけた。
    「こ、今年もちゃんとお祝いしたいですね」
     とは、自分を含めた胸の大きい幾人か用のテーブルスペースを確保してから蒼香に続いた満月の弁。
    「……気にしたら負けね」
     そのスペースをちらりと見た翠はすぐに視線を逸らすと、仲間達を追い。
    「しかしはるひ殿もよくやるな」
    「ふ、そう褒められると何ともこそばゆいな」
     体育館を出て最初に見えてきたのは、言葉を交わす日和とはるひだった。
    「明らかに褒めていないと思うのだけど」
    「同感だぜ」
     とりあえずツッコミを入れるためにパンフレットを丸めだした翠に同意したのは、葵。
    「だが、和馬殿は誕生日ということなら、僭越ながら祝辞を述べさせてもらうぞ。依頼で何度か世話になったしな」
    「そうだな、今年も和馬の誕生日はキッチリ祝うんだぜ!」
    「では、そろそろ隠れる人は隠れましょうか」
     ある種目的の一致を見た一同は、ツッコミを入れられるはるひとツッコミを入れる二名を残して各々配置につき。
    「始まる前からこの調子じゃ……和馬くんも大変ね、その分しっかりお祝いしてあげなきゃね」
    「そ、そういえば鳥井さんの好みは何でしょうか? 好きな物を聞いて置けば良かったですね」
    「くっ、何というツッコミ。流石は灼滅者と言うことか」
     少し遅れてツッコミを終えた二人がブツブツ呟くはるひを引き摺りながら物陰に移動する。
    「ちゃんと和馬は来るかなークラスメイトの俺として無事に過ごせる事を願うんだぜ」
     葵が物陰で声を上げるが、前半に至ってはおそらく杞憂。
    「えーと、こっち……だったよね?」
     誰かの手紙を片手に周囲を見回しつつ、本日の犠牲者こと鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が現れたのは、それから十数分後のことだった。
    「さて今年の誕生日もある意味ドッキリですよね。和馬くんはどんな反応をしてくれるでしょうか」
    「うむ、いささか楽しみではあると言わせて貰おう」
     物陰から蒼香達がじっと見つつ感想を口にしていることにも気づいた様子はなく。
    「あ……ええっと」
     人影を見つけて立ち止まった和馬は、言葉を探して視線を彷徨わせる。
    「私がここに居るのは偶然だ。断じて告白の練習をしていた訳ではないぞ」
    「えっ」
     振り返った日和の告白で産まれたのは、短い沈黙。
    「……違うからな」
    「うーん……そ、それじゃ、オイラ何も見てないから」
     念を押す日和にひとしきり考えた上で、和馬が下した決断は若干気を遣いつつ横を通り抜けると言うモノだった。
    「待て、和馬殿! いつものツッコミはどうした? くっ、これは放置プレイか!」
    「……ふぅ、多分手紙の主は別の人だよね」
     後ろで騒ぐMめの人をスルーしつつ、和馬は進み。
    「さん……にん?」
     驚き目を見張ったのは、視界に飛び込んできた人影が三つあったから。
    「あ、アルゲーさん達は大丈夫でしょうか?」
     恐る恐ると言った態で満月が覗き込んだ直後のこと。
    「……和馬くん、来ていただきありがとうございます」
     言及されたアルゲーは、固まったままの和馬に向かって軽く頭を下げた。
    「えっ、あ、うん。けど……」
    「以前、一緒に依頼に行った時から気になっていました。この気持ちはLoveではなくてLikeかもしれないけど、こんな私でも友達になってくれませんか……?」
     手紙をくれたのがアルゲーかと問う間もない。と言うか、が用件を切り出すより横にいたメイド服の忍が顔を赤くして切り出した方が早かった。
    「えっ、ええっ? あ、友達なら全然構わな」
    「我々はイカスイとスイカのまぁアレよ、イカスイ会よ」
     正面から来るかと思えば側面からのお友達になってコール。虚を突かれつつも何とか答えようとしたところで、今度は絹代が名乗る。
    「い、いかすい?」
    「あー大丈夫、わかってる、わかってる。みんな割と好きだろスイカ。こいつにイカスミをかけりゃ絶品よぜっぴマァッズ! クッソマズ!」
     理解の追いついていない様子の和馬にヒラヒラ手を振るなり、徐に取り出したスイカへイカスミをかけて口に運んだ絹代は口元を手で覆うと物陰に走り去り。
    「ふぅ……ああ、告白中? ならいい。まとめて入会していただきます。ぜひご一考……」
     すぐさま戻ってくると絹代から忍と交互に見られた和馬は、流石に叫んだ。
    「誰が入るかぁぁぁぁっ!」
     組み合わせもだが、絶品と言い切る前に本音が出るところにしても、何事もなかったように戻ってきて入会を勧めるところにしても、ツッコミどころしかない。

    ●告白はいつも不意打ち
    「いやはや、いつぞやの依頼では、覗かれる立場でしたが……。こうやって覗く立場になると、なるほど、楽しいものですねぇ……」
     悪趣味であることには変わりありませんがと続けつつ、混沌とする告白シーンを物陰から眺めるのは、流希だった。
    「これも経験、楽しませていただきますよ……」
     それで良いのか、とツッコミを入れる場面かも知れないが、ツッコミ役は一人が別所で仕事中。
    「おびき出す為に告白するっていうのも大掛かりよね、相手によってはショックが大きそうだわ」
     スルーされたことで物陰に引っ込んできた日和をとりあえず丸めたパンフレットで叩いて喜ばせつつ、翠はほうとため息をついた。
    「あうっ、く……し、しかし、私なら告白をネタにしたドッキリ的なアプローチはちょっと勘弁である。もうじきクリスマスだからな。告白ドッキリの前例を作っていざって時に信じてもらえないのは不幸なのだ」
    「確かに、そうよね」
     同意して見せつつもどことなく翠が腑に落ちない表情で腕を組み。
    「ゆ、湯乃郷さんどうしました、何か考えてそうですけど?」
    「何でもないわ」
     満月へに頭を振って応じると、視線を戻す。
    「あー、えっと、ゴメンね? 来てくれてってことはこの手紙くれたのって、アルゲーさんでいいんだよね?」
     丁度落ち着きを取り戻した和馬が、尋ねた瞬間だった。これに無言で頷いたアルゲーが口を開く。
    「……以前から気になっており今回勇気を持って告白させていただきます……つ、付き合っていただ」
    「うん」
     そして、返事は言葉を途中で遮った。
    「えっ」
    「あ゛」
     一瞬、時間が止まり。
    「う……ううんと、と、友達から、で良いかな?」
     再起動した和馬が目に見えて狼狽えながら、そう申し出る。
    「は、はるひさん、あれは?」
    「うむ、異性からの告白、つまり男の子扱いされたことが嬉しくて考える前に反射で返事をしてしまい、それが失礼かつ軽率だった事に気づいてパニックになった、という所と見た」
    「成る程……」
     蒼香に問われて始めたはるひの解説を聞きつつ、流希はあたふたする一組の男女へ向き直る。
    「え、ええと」
    「あ、その」
     演技に熱が入りすぎて我に返ろうとしたところで不意打ちを受けた少女と、まだパニックから抜け出せない少年。
    「和馬誕生日おめでとうなんだぜ! 会場はこっちなんだぜ!」
    「えっ? 誕生日?」
     たぶん、葵が助け船兼ネタばらしをしなければ、もう暫く混乱は続いたことだろう。
    「あ……そ、そのお誕生日おめでとうございます!」
     助け船のお陰で、何とか言いそびれたお祝いの言葉をアルゲーも絞り出し。
    「あー、そ、そっか。うん、ありがとう。あ、ちょ」
     感謝の言葉が返しつつ手を引かれた和馬はそのまま体育館の中へと連れ込まれた。

    ●パーティーは始まった
    「さぁ、ネタはばれたようですし、お祝いをいたしましょう……」
     流希の言葉にそうですね、と相づちを打ったのは、緋那だった。
    「今回は誕生日ケーキのほかにオードブルも作ってきたのでどんどん食べてくださいね♪」
    「ハッピーバ-スデー! 俺からのプレゼントなんだぜ!」
     パイプ椅子を引いて蒼香が微笑めば、葵は祝福しつつプレゼントを手渡す。
    「あ、ありがとう。えーと」
    「中身はわさび餅とクラブで購入した多種多様のお餅だぜ」
     中を確認して良いかと問おうとする和馬に先んじて葵が答えれば、翠は足を止め。
    「あれ、どうしたの姉ちゃん?」
    「何でもないわよ。まずはお誕生日おめでとうだわ、私からは温泉餅……だといつも通りだし被るからこのポシェットをあげるわ」
     頭を振って見せた翠が差し出したのは、肩からかけていた温泉マーク入りのポシェット。
    「お、お誕生日おめでとうございます。わたしからはこれをどうぞ」
     翠に続く形で満月は手袋を差し出し。
    「ありがとう、最近寒くなってきたもんね」
    「和馬さん誕生日おめでとうございます」
     受け取った手袋を抱えて笑顔を見せる和馬に今度は絹代が進み出る。
    「ありがとう。え-と……鬼畜生のための筋トレとヨガ?」
    「若々しくありたい、健康的なボディが欲しい『女性』の間でひっそり評価されているDVDよ」
    「へぇ……って、女性?」
    「いや、まぁほらね? 男に効果がないわけじゃないしね? 別に可愛いままでいて欲しいとかないからね?」
     一瞬遅れてプレゼントから顔を上げれば、絹代が弁解するがひいき目に見ても語るに落ちている。
    「つまり、健康的なレディーになろうとする少年の強力な味かべっ」
     そこにはるひが割り込んできたのは、フォローのつもりなのか。ただ、飛んできたボタンが顔を直撃して最後まで言い切ることは出来なかったが。
    「わ、わたしのボタン……」
     声の方を振り返れば、ボタンのなくなった服の胸元をおさえ周囲を見回す超ボタン砲こと満月の姿があり。
    「先を越されたわね」
    「あーうん、だよね」
    「ええと、私からもいいですか?」
    「あ、ごめん」
     ポツリと漏らした翠に和馬は同意すると、忍に声をかけられ慌てて頭を下げる。
    「本当にごめんね、はるひ姉ちゃんが」
    「いえ」
     解せぬと呟いたエクスブレインが連行されて行く中、もう一度頭を下げた和馬に忍は頭を振り。
    「和馬君、お誕生日おめでとうございます。思いつかなかったのでお花にしました」
    「わぁ、ありがとう」
    「……私も花束を用意しましたのでどうぞ、改めておめでとうございます」
     ガーベラの花束を差し出す忍を見てアルゲーも花束を手に祝辞を述べ。
    「アルゲーさんもありがとう」
    「次は私か」
     二つの花束を抱えて微笑む和馬の前に、進み出たのは日和。
    「手元にはプレゼントの様な物はないが、隠し芸でメスブタの真似でもして進ぜよう」
    「え゛っ」
    「ひぎべっ」
     唐突な宣言で引きつった和馬を置き去りに始まりかけた鳴き真似のようなものは丸められたパンフレットで日和の顔が叩かれて途絶えた。
    「今回は間に合ったようね」
    「えーと、ありがとう?」
     救いの主への礼が疑問系になってしまったのは、展開に理解が追いついていないからか。
    「最後は……私ですねぇ」
    「あ、流希兄ちゃ」
     続いて、ケーキを持った流希の登場に再起動した和馬の言葉は途中で途切れた。
    「えーと」
     向けられた視線の先はケーキの上。
    「本命はいらっしゃるので?」
     とクリームで書かれた文字が何を尋ねているかは明らかだった。
    「告白の練習ができたのですから、次は本番でしょうし、ねぇ……。あ、その時は覗きませんので、ご安心を……。そして、ご武運を……!」
    「えーと、ご安心というか」
     困った顔をした和馬はちらりとアルゲーの顔を盗み見るが、その顔は赤かった。

    ●今日の記念を
    「そういえば告白じゃなかったわけだけど残念だったか?」
    「あれ?」
     そう葵に言われて和馬が首を傾げたのは、色々とカオス過ぎたからだろう。
    「あ、そっか。や、いろんな事が起こりすぎてたから失念してたや」
    「あー、まぁ無理もないんだぜ」
     遠い目をする和馬に同情の視線を注ぎつつ葵は頷き、飲み物の入ったカップを傾け。
    「けど、ありがとう……かな。誕生日を祝ってくれる人がいるって言うのは嬉しいことだし」
    「これはっ、少年がデレべっ」
     何処か照れたように和馬が独言した直後だった。ガタッと身を乗り出したはるひの顔に飛んできたボタンが命中したのは。
    「ま、またボタンが」
    「だ、大丈夫? ボタンどっちいったっけ?」
    「確かあっちの方に転がって行ったんだぜ! あ」
     図らずもボタンを飛ばしてしまった満月の声に葵が指さす先には、何故か四つん這いで床の上に置かれた皿の料理を食べる日和。
    「えーと」
    「あ、和馬君。一緒に写真を撮ってもいいですか?」
     ケーキののった皿を片手に持ったまま、和馬が絶句すればその背に声がかかり。
    「え? うん、良いけど」
     直前に見たモノを忘れて忍の横に歩み寄ると、足を止める。
    「では、私が取りましょう。用意は良いですか?」
    「うん」
    「お願いします」
     緋那は二人が答えるとカメラを構え。
    「いきます」
     シャッターは切られた。楽しい時間を切り取った、一枚。そこには確かに笑顔があり、若干の混沌もあったがそこはご愛敬か。
    「ありがとう緋那姉ちゃん。色々あったけど……来年もまた楽しくこの日を迎えられるといいよね」
     礼の言葉に続けてポツリと漏らすと和馬の顔は何処か嬉しそうで皿の上に残ったケーキを頬ばった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月4日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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