夜の公園。
1人、ベンチに座る女子高生の目は、赤い。同い年の彼氏と大喧嘩したばかりだった。
「少々お顔を見せてもらってよろしいですか?」
「え?」
女子高生が顔を上げると、目の前に青年が立っていた。
黒のマントを羽織り、シルクハットには歯をモチーフにした刺繍が施されている。
「思った通り美しい……おや帽子くん、君も彼女を気に入ったのかい?」
青年が、シルクハットに話しかけ始めた。
無論、帽子が喋るはずもなく、その様子は独り芝居のよう。
すると青年は、シルクハットを女子高生に無理矢理被せた。
「仕方ないなあ。あとで『感想』、聞かせておくれよ?」
「ちょっ、何を……きゃあああ!」
突然、シルクハットが、女子高生の頭にかぶりついた。
そのまま、もしゃりもしゃり、と全身をそしゃくしていく。
「どんな味だった? しょっぱい? きっと涙のせいだね……あれ、食べ足りないって? それじゃあ、次の『ごちそう』を探しに行こうか」
帽子を携え、青年はその身を闇に溶かした。
「都市伝説って、どうしてこうも物騒なのかな。たまには人を幸せにするものがあってもいいと思うんだけど」
霊犬ルミを撫でながら、ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)が首をひねった。
「人間は、幸せな話よりも怖い話を求めるという事なのかも知れないな」
しみじみと告げる初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が出現を予知したのは、都市伝説『帽子男』。
彼の持つ帽子は、人食い帽子。
1人でいる人間に近づき、帽子を無理矢理被せてくる。帽子に人間を食べさせるために。
「ぞっとしないね」
帽子が人間をそしゃくする場面を想像して、ミカが頭を振る。
『帽子男』に接触するためには、誰かが囮となる必要がある。
場所は都内にある、とある公園のベンチ付近、時間は夜だ。男性より女性を好むらしい。
「ボクも、女性に間違われる方だけど……」
「ミカ先輩なら、『帽子男』の眼鏡にかなうと思うぞ」
ただし、囮が人食い帽子食べられてしまう前に、仲間たちは割って入ってほしい。
戦闘において、人食い帽子は『帽子男』の武器となる。こちらの体に食らいつき、ドレインやEN破壊などを繰り出してくる。
ポジションは、スナイパーだ。
「ある意味、都市伝説らしい理不尽さではあるが……こんなものを放置しておくわけにはいかないな。よろしく灼滅を頼む」
参加者 | |
---|---|
村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275) |
高倉・奏(二律背反・d10164) |
クリス・レクター(夜咲睡蓮・d14308) |
ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951) |
渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562) |
マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938) |
綵・麗(生命を断ち切る瞳を封じる者・d35918) |
春矢崎・七九(世通り正直なエミュレータ・d36068) |
●闇夜の帽子男
夜の公園で、猫……グレーのターキッシュアンゴラがもだえている。
「クリスにゃんこだ! 可愛い可愛い♪」
(「トーヤ……ってちょっと抱き上げなくていいから」)
猫の正体は、身を隠そうと変身したクリス・レクター(夜咲睡蓮・d14308)。しかしすっかり渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562)に、もふもふされている。
(「ぐぬぬ……あ、パー子まで……あー、もう」)
ウイングキャット・パーシモンまでがじゃれついてきて、クリスはあきらめモード。桃夜たちにされるがままだ。
「それじゃ、行ってきますねい!」
びしっと手を挙げ、マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)が、1人ベンチの方へ歩いていく。フリフリの服を着て、今回の囮役である。
それから、綵・麗(生命を断ち切る瞳を封じる者・d35918)やミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)たちも物陰や茂みに身をひそめる。
「ささ、期待してまっせ先輩方~」
春矢崎・七九(世通り正直なエミュレータ・d36068)が、にこやかに告げる。
けれど、その内心はというと、自らの影の中でうごめくモノの方に興味が傾いていたり。
(「さて、見た目はともかく、やってることは紳士に程遠いことだよね」)
村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)は、都市伝説の風貌に、他人とは思えないものを感じていたりする。
「早く、かの似非紳士のご尊顔をお目にかかりたい所だけど……」
「紳士なら女性を待たせたりしないですよね?」
高倉・奏(二律背反・d10164)がじっと見つめる向こう、ベンチに座ったマナは、足をぶらぶらさせながら、思案にふけっている。
うつむき、何を考えているのかといえば、
(「明日の天気はどうなりますかねい……」)
「おやおや、夜更けに綺麗な花が一輪」
歯の浮くような言葉とともに、現れる人影。
マナが顔を上げると、人影……『帽子男』が大げさに両腕を広げた。
「想像通り、いや想像以上に可憐だ。君もそう思うよね、帽子くん……うん? わかっているよ、今夜はお腹がすいてるんだよね」
『帽子男』が言うが早いか、シルクハットが襲い掛かった。
空洞の中には、びっしりと生えた牙が見える……!
だが。
「そうは……させない」
シルクハットを食い止めたのは、麗だった。
●灯下の灼滅者
目隠しをしていても、麗の介入タイミングは完璧だった。
同時に七九たちが駆け付け、『帽子男』に不意打ちを浴びせる。
(「イケメンだろうがなんだろうが、夜の公園でそんな格好して帽子と会話してたら、その時点でもう不気味だよね……」)
一樹のオウル・アイに照らし出された『帽子男』の姿に、ぼんやり思うミカ。
「マナちゃん、大丈夫だった?」
「はい、皆様のお陰ですの」
仲間を背に庇い、桃夜の殺気が公園を包む。余計な緊張感が抜けているのは、猫クリスのお陰。
音声遮断を終えたミカも、『帽子男』を睨むと、
「どうせ食べさせるなら、もっとみんなが喜ぶようなもの食べさせてよね! 例えば……そう、公園に落ちてるゴミとか!」
「ひどいなあ。帽子くんはグルメなんだよ?」
するとマナは、小首を傾げ、
「その帽子、本当におしゃべりするのかしら?」
「もちろんさ。帽子くんはボクの大事な話し相手、親友だからね。……え、帽子くんは親友だと思ってないって!?」
ウソ泣きを始める『帽子男』に、マナはドン引きだ。
「見た目はかっこいい方なのに、中身は残念ですねい……」
「ホントに……。帽子趣味ってとこまでは大いに結構。しかし、他所様にご迷惑をお掛けした挙句、命を奪うってのは戴けませんね」
殲術道具で武装する奏。その背後に、ビハインド・神父様が現れる。
「帽子は大人しく被られてなよ」
猫姿を解いたクリスに言葉をぶつけられ、『帽子男』が困ったように笑った。
「帽子くんの食事の邪魔をすると……ひどいよ?」
●牙剥くシルクハット
月下に、一樹が舞い踊る。
不規則なステップは、攻めに回れば予測不能な攻撃となり、守りに転じれば、ひらりと敵の攻撃をかわす。
敵の目が女性陣に向いた瞬間、レイザースラストで攻撃を潰す。
「紳士たるもの、仲間が手にかけられるのをむざむざ見過ごすいわれはないからね……」
「どうや、紳士もどきの怪人! この御方の紳士っぷり! 貴様なんぞ足元にも及ばんわ!」
七九が、一樹をさして勝ち誇る。
「つーか、その帽子に意思あるんですか? あるならまだしも、ないなら無機物に話しかけてる痛い人じゃないですか!」
奏が、加護を宿した聖剣で、マントを切り裂く。
「君たちには聞こえないのかな? 帽子くんの声が」
「うん。残念だけど」
クリスが、練り上げた魔法弾で応じる。同時に、前衛の相方を鼓舞するのも忘れない。
「トーヤ、パー子、最後まで気を抜かず頑張ろうね」
「うん、大丈夫」
気合が入るのを感じる桃夜。支援するパーシモンも、にゃあ、と鳴く。
そして、桃夜が槍を突き出す。夜気を切り裂き進めば、破壊の力が増していく。
貫かれた『帽子男』の懐に、聖なる加護に身を輝かせたミカが潜り込む。
霊犬ルミとともに、シルクハットによる防御を打ち崩しつつ、
「いっぺんその帽子と、お話してみたいな」
「あいにくと帽子くんは人見知りでね」
自ら地面に転がり、態勢を立て直すと、『帽子男』がシルクハットを投じた。
奏の腕に噛みつくと、ぼきり、と背筋が凍るような音が響く。
「帽子くん、せめて苦しまないように……おっと!」
「マジかる・ショータイム!」
魔法少女スタイルに転じたマナが、無手となった『帽子男』に肉薄する。
「おひとりだけのところを狙うなんて卑怯な方ですねい……マナ達が成敗してあげますの! さ、一緒に戦いますよう、ケレーヴちゃん!」
白ふわウイングキャットが姿を現す。
「それじゃ、いきますの!」
人差し指をくるりと回すと、『帽子男』が魔力で包まれ、熱量を奪い取る。マジカル!
ぶるりと体を震わせる『帽子男』の足元に、帯が走る。
「頭から……やる」
麗の声とともに、ダイダロスベルトが軌道を変えた。急速に上昇すると、
「……!」
ばさり、と髪の毛ごと、『帽子男』の頭を切り裂く。
ダイダロスベルトを巻き戻す麗。その攻撃の隙間を埋めるように、縛霊手『百目鬼手』で七九で一発入れてやる。
「いやー、ええ服ですなーマントもええですなー、さて帽子さんはー?」
そのまま、霊糸で『帽子男』の動きを封じると、
「へへ、邪魔やろ? ジャマーだけに……っと!」
束縛を逃れ、ひらり、街灯の上に降り立つ『帽子男』。
「こら、突っ立ってんやないで、帽子掛けさんよお!」
「いつまでも遊んでいられないね。帽子くんの我慢も限界だ」
『帽子男』の表情からは、余裕が消えつつあった。
●霧散の奇術師
「守りの力ごと喰らってあげなよ、帽子くん!」
「おっと、貴兄の思うままにはさせないよ?」
『帽子男』を覆っていた破壊の力が、砕ける。
一樹の蒼の剣だ。同じ紳士として対抗心をのぞかせ、
「そのいでたち、中々悪くはないけど……女の子ばかりを狙う輩を紳士とは認められないなあ」
「何せ帽子くんは好き嫌いが激しくてね。そうだろう帽子くん?」
「ねえ神父様、帽子に愛おしそうに話しかけてるよあの人怖い!」
奏の訴えに、しかしビハインドは、あさっての方を向いてスルー。
「ひどい! 私まで痛い人にしようとしてませんか!?」
神父様にあしらわれたやるせない気持ちを、『帽子男』にキックでぶつけてやる。
アスファルトの上を転がる『帽子男』。麗へとシルクハットを向けるが、
「食いつくな……気持ち悪い。死ね」
麗の斬撃が、それを拒否。
シルクハットを跳ね除け、『帽子男』を斬り捨てる。その速力は、都市 伝説には到底とらえられるものではない。
「仕方ない、こっちで我慢してくれるかな」
シルクハットが、今度は桃夜にかぶりつく。
「いたあ! 女の子が好きなんじゃなかったの?」
「トーヤ! 今すぐ治すから、根性で耐えるんだよ!」
駆け付けたクリスが、回復の術式を施す。きっ、と『帽子男』を睨むと、
「今すぐ、帽子通り越して雑巾にしてやるよ?」
主人の怒りをこめ、パーシモンがパンチ。軽く見えた打撃は、しかし『帽子男』の体を突き飛ばす。
その先には、魔法の円陣が待つ。
マナが手をかざすと、その中から魔法の弾丸が生まれた。ケレーヴの魔法と一緒に、千変万化の魔法光を煌めかせる!
更にそこへ、鈍い輝きが添えられる。ルミの六文銭の乱舞だ。
シルクハットがそのいくつかを噛み砕く中、ミカの剣が一閃する。
これもくわえてしまおうとするが、霊体化した刃は、帽子ごと男を断つ。
「ひ……助けておくれよ……」
「帽子が人を食べるなんて、なに贅沢させてんのさ。大人しく頭にのってりゃ、こうなることはなかったんだよ……」
一転、許しを請う『帽子男』への返答は、桃夜の冷たい視線と妖冷弾。
「さ、もうオシマイにしようね♪」
「根棲み様の餌んなります? 今秒間600万匹は居ますで」
熊鼠のごとき耳と、ずんぐりした胴体が、『帽子男』を覆い尽くしていく。
七九の影から、無数の鼠が吐き出されていた。
「帽子は……帽子らしく……おとなしく……ね」
闇から抜け出るように麗が近づいたかと思うと、『帽子男』の胸に刃が突き立っていた。深々と。
麗がナイフを抜いた途端、力を失い、倒れる『帽子男』。シルクハット共々、黒い霧となって、消えていく。
「今更ですけど、正直その帽子似合ってないって思ってました」
奏の本音が、『帽子男』の心にもとどめをさす。
「い、いやだ、消えたくない……」
「紳士なら、大人しく運命を受け入れるものだよ」
一樹が、首を横に振る。
虫の息となった『帽子男』とシルクハットに、七九はそっと耳打ち。
「なあお前、わいの帽子なれへんか? 万一があったらわい喰ってくれや」
ぱん、と手を打つと、
「せや! 舌の共有しよ! ……できるか知らんけど。ともかく、いいもん食わせたるで!」
すると了承したのか、シルクハットが、七九の体に吸い込まれていく。『帽子男』とともに。
「帽子掛けは、ついでやな」
怪異の気配が去り、平凡な公園の風景が戻る。今の出来事が、悪い夢だったかのように。
しかし、皆の体に刻まれた傷が、現実の証。それを癒すのは、クリス。
「お疲れさま。ラーメンでも食べてかえろっか」
「いいね。疲れた時は美味しいものが一番!」
桃夜も賛成。奏ものりかけるが、
「あーでも、こんな時間に食べると太りそうな~」
「カロリーは……今だけ目を瞑っておくといいと思うよ♪」
「ずいぶん寒くなって来たしね、温まっていくのもいいかな」
暖を取るようにルミを抱えたミカもうなずく。
ささやかな戦勝祝いも、悪くないかもしれない。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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