遥凪の誕生日 ~ciel de nuit~

    ●Observation astronomique
     ページをめくる。
     秋から冬を迎えるのは景色や服装だけではない。菓子にも季節はある。
     しっとりとした甘さの栗に甘酸っぱい林檎。なめらかな南瓜も心をくすぐる。
     雑誌の新作スウィーツ特集に目をやりながら、さて今年はどうしようかと考えて。
    「……ん?」
     目を留めたのは、少し変わったカフェの紹介だった。
     せっかくだし、ここにしよう。
    「星空……か」
     
    ●La journee speciale
    「宇宙に行かないか」
     雑誌を手にした白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)の言葉に、数人が顔をしかめた。
    「宇宙飛行士にでもなるつもりか?」
    「本物の宇宙じゃない。カフェだ。毎年誕生日はカフェで過ごすことにしていてな」
    「ああ、そうなんだ。……宇宙のカフェ?」
     反芻に、彼女はこくりと頷いてとあるページを示す。
    「宇宙というか、星空をモチーフにしたスイーツを扱う店らしいんだ。と言っても、よくある星座の形やシンボルマークではなく、星空などをイメージしたものが多いらしい」
     透き通る青のゼリーに星のアラザンを閉じ込めたムースに、青とも紫とも取れる宵闇空のクリームにカラフルなシュガーを散らしたモンブラン。ころんと丸いマーブル模様の惑星のチョコレート。もっとシンプルに、星の形のゼリービーンズ。
     まるで星空を切り取ったかのようなスイーツばかりだ。
    「それから、星空をモチーフにしたアクセサリーも扱っていて、こちらはカフェ内の物販スペースで購入することができる。せっかくだから覗いてみるのもいいかもしれないな」
     めくった先のページには、夕方から夜に移りかけた空のグラデーションに星を散らしたペンダントトップや、銀河を閉じ込めたリングなどが載っている。
     どれどれと雑誌を覗き込むその様子にまたくすりと笑い、眼鏡のテンプルへ手をやった。
    「甘い星空を楽しむのもまた一興」
     眼鏡の位置を直しながら、海の底を映した瞳を細めた。


    ■リプレイ

     星々の煌めきの下、宵闇色の世界に溜息をつく。
    「わ、わ、ほんとに宇宙の中みたい」
     夜色と星がきらきらしとってすごく綺麗。不思議な空間についはしゃぐ気持ちを抑え想々がちらと兄を見ると、彼も果てなき未知の空に夢を抱いていた頃を思いだしつつ、綺麗だと眺める。
    「宇宙って小せぇ頃憧れてたなぁ……」
     智之の言葉に微笑み、どれにするかメニューとにらめっこ。気になるのは普段選ばないパフェ。
    「あ、あの……食べきれんかったら代わりに食べてね……」
     そわそわしながら言う想々に笑う。妹が食べたいものを食べて欲しいから、食べきれなくなった時は彼が食べる約束。
     俺は星屑のモンブランにしよう、と決めて店員を呼ぶ。
     やってきたパフェは、星のチョコと青いゼリーのグラデが可愛い。アラザンが散ったホイップもアイスも甘くて。
    「えへへ……美味しいなぁ、幸せ」
     嬉しげにもそもそ食べる彼女の美味しそうな表情を見ていると癒され、目を細めて微笑みを。
     頬にクリームをつけてるのを見つけ、
    「付いてるぜ」
    「うぇ、何?」
     和みながら取ってあげると不思議そうな顔になり、
    「え……あっついとった!? は、恥ずかし……!」
     照れ隠しに上目遣いで見やり、アラザンとかがちりばめられたモンブランを見て、
    「あ……お兄ちゃんのも美味しそう」
    「お、食う?」
     モンブランを掬ってあーん。
    「一口交換、ね」
     パフェを一口差し出すとぱっくり。美味しい?
    「美味い!」
     へへ、と笑いながら答える智之に想々も笑う。
    「ふふ、良かったぁ」
     後で物販も行きたいと言うともちろん快諾。
     星空のアクセ、見つかるといいな。楽しみに言う彼女に、へぇ、アクセとかも置いてあるんだなぁ。と口にし。
    「(想々に似合う、星の輝きが綺麗なイヤリングがあればお土産にあげよう……)」
     そう、思いながら。

     プラネタリウムみたいな中をきょろきょろ見回して、ふたりは溜息をこぼし。
    「すごく綺麗ですね!」
     興奮気味に言う音雪に夜音が笑って頷く。
     夜や星が好きで、仲良しさんと久しぶりのお出かけさんは嬉しくて。
     はいどうぞ、とメニューを広げて顔をつきあわせて、どれにしようかな。
    「夜音さんが選んでくれたのとおんなじのにしたいな……いい?」
     お茶はあんまり詳しくない音雪のお願いに少し考えて、夜音はリラックス系を選んで、彼女の分も一緒に頼み。
    「落ち着いたカフェでのんびりさん……大人っぽいねぇ」
    「はわ、確かに大人っぽい。ふふ」
     夜が来る前にも似た色の店内で、カップを手にちょっぴり大人気分。
     なんて言うのもケーキが届けばなんのこと。
    「夜音さん夜音さん見て下さい、このチョコすごく綺麗!」
     音雪が星空モンブランと惑星のチョコに感動し、夜音も青のゼリーや星空のムースに目を輝かせて、
    「わ、わ……音雪ちゃんこれすっごいきらきらさんだよぉ…!」
    「わぁ、夜音さんのムースも綺麗で可愛い……っ」
     お互いのスイーツに大感激。
     一口ずつ、交換こしません? 気になる気持ちを抑えきれず誘ってみれば、そちらも美味しそうと思っていた夜音は喜んで、お互いにあーんって。
    「音雪ちゃんのは甘くて美味しいさん……!」
     感激の声を上げる夜音に、音雪はほっぺを押えて満面の笑みで。
     お次はムースの星を掬って交換こして。今度はチョコを交換!
     スイーツのせいだけじゃない甘さに笑顔の花が咲く。
    「あのね、お店で星のゼリービーンズ見つけたの」
     夜音が庵の皆にお土産さんにしよっか、と笑い、
    「うんっ!」
     って頷いて、音雪もふふって笑う。
     女子会、楽しい!

    「スイーツを食べに出掛けるのは久しぶりですね」
     いつもよりは、テンションというものが高めで、いつもより、機嫌良さげな柚羽に腕を引かれ、
    「……そういえば前に甘い物食べに行ったの、9月だったか」
     そうだな、久しぶりだな。と応える紫月に笑いかける。
     柚羽のオーダーは星空のムース。言葉も、スイーツ自体も、綺麗だと思いまして。
     さて彼は何を頼むのでしょう。
    「しーくんは何に……」
    「オーダーはゆーさんと同じの。お揃いがいい」
     えっ?
     何だか驚いた顔してる彼女を見て、首傾げ。
     その仕草にまた動揺してしまい、ええとその、何と言いましょうか。
    「えと、チョコミント魔人が物凄く珍しくチョコミント以外を……と思いまして」
     それらしい理由で誤魔化し。本当はお揃いという言葉にとても驚き、視線を落とした。
     そんな彼女に、紫月は眠たげな目を向ける。
    「……確かにいつもそれ食べてるが……俺だってチョコミント以外の物食べるし」
     それに魔人じゃない、とちょっぴり訂正。
     確かに、眠気覚ましもあってチョコミントをよく食べるけれど。
     口の中で言い訳する彼女と不思議そうに彼女を見る彼の前に星空を固めたムースが置かれ、紫月は視線を移した。
    「あ、ムース来たから食べるか」
     傍に居たい人と同じものが食べられる。その幸せを噛みながら、ムースにスプーンを入れて、
    「(ゆーさん、何だか様子が少し変だな)」
     喉に詰まらせる事はあり得ないと思いつつも、詰まらせるなよと言葉掛け。
     目を伏せたまま柚羽もスプーンを手に取り、
    「(少し彼の顔見られない……)」
     只管ムースを口に運んで。
    「(何故でしょう、味に集中したいのに上手く出来ない)」
     けれどなんだか、とても甘い。

     2人で出掛けるの久々振りな気がするけど、今日は美味しい宇宙の旅!
    「羽柴ちゃん、これこれ!」
     いろんな星空のお菓子達が並ぶメニューを眺め、水金地火木土天海! と惑星チョコを順に指差す健に笑い。
    「メニューの全部注文したくなっちゃうね?」
     わくわくして言う陽桜に、メニューもマジ目移りするけど。
    「食い甲斐ありそうな惑星型ムースケーキにするか!」
     木星の縞模様は栗とチョコ。金星はパッションフルーツ。土星はカシスとチョコに輪っかも付いて、地球は中の地殻までゼリーやガナッシュで再現。
     宇宙っぽい柄の食器で出て来たら更にテンション上がるか? ちょっぴり期待。
    「あたしは星空のムースとモンブランから!」
     一緒にあったかいミルクティも。カップも星空イメージなのかな?
    「……健ちゃん、食べるメインじゃなくって、ちゃーんとお菓子のディティールまで眺めて楽しむんだよー?」 眺めて楽しむよりすぐお腹に入れちゃいそうだと思った様子で陽桜は大真面目にそう言い、
    「ひおは健ちゃんと違ってちゃんと楽しむもん」
     とは言うけれど先に届いた星空モンブランに目を輝かせ。
     ティポットには南の夜空、カップには天の川が描かれ、ポットから天の川にミルクティが注がれる。
     溜息をつく彼の前、ムースケーキが並ぶのは紺に星を散らした銀河の皿で、宇宙に浮かぶ惑星を眺めるよう。
    「……って目で見て愉しむのも醍醐味だからな!?」
     陽桜がすぐにフォーク刺し食べようとする様子を見逃さずにツッコむと、むーわかってるよっ。と頬をふくらませ。
     笑って健もフォークを手に取った。
    「まぁ幾ら食うの勿体無いなんて言ったって、食わなかったらもっと勿体無い訳だしなー」
     だってこれはスイーツなんだもの。
    「それじゃ、半分食べる?」
    「僕のも食ってイイぞ?!」
     訊かなくても分かってる。丁寧に切り分けて分け合い、お互い相手のも貰って笑み。
    「それじゃ一緒にいただきます、なの!」

     久しぶりのデートでご機嫌な鈴親は、席につけば最近のことを話したり。
     櫟は彼女の話に時折揶揄を挟みつつ耳を傾け、こういう店、嫌じゃなさそうで良かった。
    「忙しいのは分かってるけど、たまには鈴にも構ってね」
     ほんの少し不満げにワガママを言ってみる彼女の可愛い不服には悪いと思うも少し笑って、
    「そーやって拗ねて貰えるの、何か嬉しい」
     ごめんね、とあやすように頬を撫でるとくすぐったそうに笑い返した。
     どれにしようかな。宵色クリームと星シュガーのカップケーキ、惑星チョコを頼んで。
    「見て見てー、すっごいキレイ」
    「これも一緒にどーぞ」
     届いたスイーツにスマホを取り出す彼女に、夜空に似た珈琲も撮影にそっと提供。
     彼提供の珈琲も添えて早速スマホでパシャリ。
    「ふふ、どうしたの櫟くん」
     ジッと見てくる彼に、変なのー。とけらり笑って言うと、スイーツに目をやってから彼女を見て。
    「いや、鈴が甘い物食べてるの見るだけで胸焼けしそうだなって」
     それだけで嫌って程満たされるから、と胸の内で加え。
     彼の反応が見たくて、悪戯っこくカップケーキを一口分差し出して。
    「はい、分けてあげる。あーん」
     差し出された一口には一瞬狼狽えるも、奪うようにぱくり。
    「……俺の話、聞いてた?」
     聞いてたけれど、聞いてません。
     悪戯な彼女の笑みに心の中で溜息をつき、物販スペースへも一瞥。
    「鈴はさ、アクセサリーならどーいうのが好きなの?」
     然り気無く、何でも無いように尋ねる。そう、何でもない質問。
     楽しい話題にノリノリで、鈴親はちょっと考え、
    「うーん、ゴールド系のピアスとか好きよ」
     ハートとか星モチーフが多いかも、と続けて。
    「櫟くんはアクセ付けるっけ?」
    「俺は別に……ああ、でもゴールド系は俺も好きかも」
     迫る特別な日、得られた答え。無意識に顔も綻んで。
     櫟の笑みに鈴親もふわと笑う。
     彼と過ごす時間は、暖かくて心地いい。

     甘いものが苦手な芥汰も、度重なる夜深とのデートで、今ではすっかりメニューを辿る指先も慣れたもの。
    「甘味、慣れテ来た? 沢山、甘味デーと。しタもン、ネ」
     そんな彼に夜深はほわと笑う。
    「えへへ。二人、軌跡、結果……思うト。感慨深イ、かモ!」
     嬉しそうな彼女に笑い返し、ね、どれにする? とメニューを示す。
    「夜深、星空のムースとか好きそう。でもモンブランも綺麗だな、夜空の色」
     挙げた名前にきょとん。
    「ふぇ? 如何しテ、悩ンでル、めニュー。解タ、の? らぶぱわー?」
    「らぶ……ウン、まぁそんな感じ」
     沢山デートしてるもの。
    「エと、エと。我侭、良、だタら……ムーすと、もンぶらン、希望ヨ」
     半分こ、シまショ? ちらり見上げて言う彼女に苦笑。
    「半分こ、ね。勿論、分けっこしましょ」
     彼の答えにぱっと顔が輝き早速店員を呼び注文。
    「今の時期天体観測は寒いから、室内でプラネタリウムもアリだな……」
    「御家、プらネたりウむ……雨、寒冷、気にセず。星空堪能、可能? 素敵!」
     目を輝かせる愛し人に笑い、
    「今度、家にも小型のやつ置いてみようか」
    「御家内。御星様らンぷ、吊るシてル、し……既、星空ミたイ、けド」
     確かに既に星空の天井だけど。
     スイーツが届けば当然のように掬って君の口許へ。
    「ハイ、あーん……美味し?」
    「あーン……美味シ♪」
     ふんにゃり頬緩めて幸せそうに笑う。
    「あくたんモ、あーン! 御星様、御味、如何?」
     綻ぶ顔を見ればそれだけで満足だけど。お返しが来れば当然の如く口を開いて。
    「……ン、美味し」
     ちろり唇の端を舐め、
    「夜深に勝る甘味は無いケド、こういうカフェも良いね」
    「あイや!? あ、あくたん、だテ。我限定、特別、甘味ネ?」
     顔を赤らめて主張する彼女に口元を綻ばせ。
    「今度はどこに遊びに行こうか」
     君とならどこでもいいけれど。
     芥汰の言葉に夜深もほわり笑う。
    「今度……どンな思イ出、出来ル、かナ? 楽シみ!!」
     それはきっと、幸せな思い出になる。

     お揃いで買った、宇宙モチーフのペンダントが胸元で煌めく。
     モンブランも、チョコも、ムースも、メニューにあるスイーツ全部を頼めば、テーブルの上に広がる宇宙。
     それらを前に、亮が愛おしい大切な人へ問いかける。
    「ゆーき、どれからがいい?」
     綺麗で、可愛くてわくわくするねぇ。
     これぞ萌えだね。見るもの全て萌えとして処理する彼にとって、このスイーツも萌えの対象なのだ。
     悠祈はどれにしようかとテーブルの上を眺め、
    「りょーちゃん、モンブラン食べたいのー。あーん」
     お菓子大好きなのよ、いっぱい食べたいの!
     そんな彼のお望み通り、いっぱいのスイーツはすべて彼らのもの。
     ぱっくんと口に入れれば笑みが浮かび、お返しにとフォークで一口掬う。
    「ゆーきもりょーちゃんに食べさせてあげるの、はい。あーんして?」
     あーん、と亮も口を開けぱくり。
     その一口が甘いのは、砂糖やクリームのためだけでなく。
    「たべあいっこしようか、ほら、あーん?」
     一口、また一口と差し出して、食べさせあって。ふふ、美味しいね。
     特別なひとときに、悠祈があどけない笑みをいっぱいに浮かべる。
    「りょーちゃんとデート楽しいの、幸せなのー!」
     お菓子美味しいねー。いっぱいに広がった宇宙デザート、二人でブラックホールみたいに食べつくしちゃおうなのー。
     無邪気な言葉に亮も笑顔で頷いた。
     とっても甘くて、とっても特別な時間。

    「こんな素敵なお店があったなんて知らなかったんだよ!」
     星空にいて、みんなでテーブルを囲むというちょっと不思議な感覚に希紗は声を上げる。
     宇宙でお茶会したらこんな感じなのかな?
     きょろきょろと見回す彼女にくすりと笑い、縁樹が空を見上げた。
    「カフェ、って響きだけでなんとなくお洒落な気分なりますよね」
     星空がモチーフのカフェとか素敵だと思うのです。
    「後で記念に何か買っていこーよ!」
     と希紗が目を輝かせて興奮気味に語り、あ、でもその前に……とメニューをみんなの前に開く。
     ちょっぴり澄ましてリュシールがメニューを眺め、首をかしげる。
    「新メニュー『星空まんまるお月様』……複数人用? 写真もないし何か面白そう。私これにしてみようかな。このメンバー、何となくウサギっぽい人ばかりだし。ふふ」
     順々に見てく。こう、髪型とかそわそわした感じとか瞳とかね?
     見てくるのに小首を傾げつつ、縁樹もメニューぺらり。
    「複数人用ならわたしもそれでっ!」
     元気よく希紗は彼女の注文に乗っかる。
     月と聞いたらほっとけないしね! いつか行く的な意味でも。
     宇宙部の彼女は、いつかみんなで月に行くのが野望なのだ。
    「うーん、新メニューってのも気になるんですけれど」
     縁樹はムースが食べたい気分なのです。よし、別で頼んじゃいましょう。
    「気になったらやっぱり食べるべきだと思うのです、こういうものは!」
     力説する彼女にふたりは笑い、それじゃあクレープとムースを。
     しばらくして来たのはクレープで何かを丸く包んだ大きな袋。ちょんちょんと串が刺さっている。
    「何が入ってるんだろ……あ、遥凪さん。今からこれ開けるんですけど一緒にどうですか?」
     通りかかったところに声をかけると、遥凪は少女たちを見て、それからテーブルの上のものを怪訝そうに見た。
    「……何だろうか、それは」
    「お月様……?」
     何となく、うん、そんな感じはするけれど。
     リュシールが串を次々抜くと口が開き……ざあっと、中身や色様々の沢山のゼリー球! ウサギ模様のお団子! そして、実はお誕生日注文のその中身の幾つかには……
    「あ」
     ひとつ隠れていたそれに気付きちらとリュシールを見やると、いたずらっぽく笑う。
    「希紗ちゃん、取分けお願いしていい? ……遥凪さん、宇宙の申し子がお誕生日のお祝いに月をプレゼントですって♪」
     澄まして言えば、希紗も元気よく応える。
    「よーし! 任せて!」
     さあどれがいいかな?
    「まずはウサギ模様のお団子! これは食べてもらわないとね!」
    「ああ」
    「ゼリー球……遥凪さんはやっぱり赤かな! リボンやオシャレなメガネのイメージで」
    「うん」
    「こっちの射手座模様のも!」
    「……いや、さすがにそんなにもらうわけには」
     ころころと皿に並んでいく小さなお月様に苦笑し、皆もどうぞ、と示す。
    「あ、縁樹もクレープ欲しいです。お願いしますー」
     はいっと手を挙げた縁樹に、希紗が快諾して取り分けてやり。
    「私もムース、一口ほしいなー!」
     そんなお願いには、はいっとスプーンごと渡しつつお裾わけ。
     その様子に笑みを浮かべながら見て、ふと遥凪は先ほどのひとつを手ずから取った。
    「これだけは私のものにさせてもらおう」
     その言葉に、少女たちの間に笑みが交わされる。
     と。
    「誕生日おめでとうございます」
     柚羽が笑いかけ、その隣で紫月も誕生日おめでとさん、と告げる。それから、良いカフェ、見つけたことに感謝。
     その言葉にありがとうと応えるも、祝ってもらえると思っていなかった彼女は少し戸惑い視線をさまよわせた。
    「遥凪さん誕生日おめでとうございます!」
    「遥凪さん、お誕生日おめでとうなんだよ~!」
     縁樹と希紗の言葉にどう応えるか迷い、遥凪は少しの間を置き、それから微笑みゆっくりと応えた。
    「これ以上にない素敵な贈り物を、ありがとう」
     嘘偽りのない、心からの感謝を。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月13日
    難度:簡単
    参加:17人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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