「なー、ここってあの噂の場所じゃねぇ?」
「え? あ、ホントだ」
「じゃあ、僕達……変なオッサンに襲われて尻に生クリーム塗りたくられちゃうの?」
オレンジ色に染まった景色の中、会話するのは小学生ぐらいの男の子が三人。
「そんな訳ねーだろ、噂だよ噂」
内一人がそれを笑い飛ばし、廃団地に挟まれた道の方へと歩いて行く。
「あのままじゃ駄目。きっと来ちゃう……ああ、私があんな噂広めてしまったから」
物陰から苦悩する少女は呟く、このままじゃあの子が襲われて生クリームまみれにされてしまうと。
「……ああ、美味しそう。じゃなくて! 駄目よ、助けないと」
よだれを拭い頭を振った少女が少年を尾行し、それと遭遇するのに、それ程時間はかからなかった。
「ヒェヒェヒェヒェヒェヒェ、これはいい小学生スイーツ」
「な、なんだコイツ……噂の、本当に」
「君、逃げ――」
現れたでっかい生クリームの絞り袋を抱えた不審者と少年の間に飛び込み少女は盾となり。
「っ、邪魔をするならお前ごとデコレートしべっ」
絞り袋を向けられた瞬間だった。少女の身体の一部が、闇のように変質し、異形の口に変貌し、不審者に食らいつく。
「な……あ、うわぁぁぁぁっ」
人型をしたモノがむさぼり食われる姿を見てしまった少年は絶叫をあげて逃げ出し。
「ヒェ、ヒェヒェヒェヒェヒェヒェ……ククククク、ヒャハハハハハハ」
残ったのは、片手に携帯端末を持ち巨大生クリーム絞り袋を抱えた元少女の姿だけだった。
「と言う訳で、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起ころうとしている」
座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)曰く、今回はタタリガミなのだとか。
「ただ今回のケースでは人の意識を残して一時踏みとどまるようなのでな」
もし問題の少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しいとのこと。
「また、もしも完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅をお願いする」
そんなことなどない方が良いに決まっているのだがねと続けたそれがはるひからの依頼だった。
「妄想で我慢出来ず、噂にしてしまった『生クリームで小学生を襲う変態』の噂に目撃証言が出るに至り、自責の念に駆られて現場に赴いた少女は、襲ってきた都市伝説を逆に喰らい、タタリガミと化してしまう」
「居るかもしれないと思っていたけど、小学生を襲うなんてとんでもない変態ね」
「私もそう思う」
頷き合う情報提供者の神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)とはるひはツッコミ待ちなのだろうか。
「えーと」
生暖かい目で二人を見るのは、以前二人の犠牲になったことのある元小学生、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)。
「ともあれ、このままにしておけなくて少年と君達に集まって貰ったと説明しておこう。少女の名は、兵悟・良(ひょうご・りょう)。高校一年の女子生徒で小学生が大好きらしい」
はるひ曰く闇堕ちした少女のバベルの鎖に引っかかることなく接触出来るのは、都市伝説を喰らい巨大生クリーム絞り袋を抱えた都市伝説の姿となった直後だとか。
「知っているかも知れないが、闇堕ちした一般人は人の意識に呼びかけ説得することで弱体化させることが出来る」
戦闘を楽に進めたかったり早期撃破を狙うなら、試みて損はないだろう。
「噂を広めたことで小学生の身に危険が迫ることを憂いた結果がこの顛末なのでね、そのままでは小学生を襲う存在になってしまうと訴えれば効果があると見ている」
もちろん参考にとどめて自分なりの説得をしてみるのも自由だ。
「そして戦闘になれば、良はタタリガミとバスターライフルのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要があり、戦闘は避けられない。
「この時、小学生がいれば絞り袋からクリームを噴射するバスタービームもどきで優先的に狙ってくるので注意とも言い添えておこう」
尚、戦場となるであろう廃団地に挟まれた道は、夕方である故に明かりも要らなければ小学生達が立ち去れば誰も通らない為、人よけの心配もないのだとか。
「流石に捨て置けないのでね」
「あ、うん」
良のことをどうかよろしくお願いすると頭を下げたはるひに何とも言えない表情で和馬は頷いたのだった。
参加者 | |
---|---|
立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312) |
アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674) |
神虎・華夜(天覇絶葬・d06026) |
六道・光琉(小学生デモノイドヒューマン・d20376) |
●であい
「この先の筈、接触したらすぐに戦闘になると思うから油断は出来ないけど……」
ちらりと傍らを向いた神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)の視線が間隔を開けて並び立つ廃団地へと戻り。
「被害がまだ無い事だけが救いね」
主語がなかったものの、何について話しているのかを場にいた面々は全員が理解していた。
「……しかしなんで生クリームを小学生にかけるのか分かりませんね」
自分が撒いた噂を止めようとして都市伝説の姿となってしまう経緯に驚いたアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)もその一人。
「たぶん、理解出来ない方が良いんじゃないかなぁ?」
遠い目をした鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はそれよりもと話題を戻す。
「はるひさん達ならわかるのでしょうか?」
と、アルゲーがエクスブレイン他一名に答えを求めてしまうことを危惧したのかも知れない。
「オイラはクラッシャーで良かったよね?」
「はい」
それを差し引いたとしても、問題の少女との接触は間近。作戦を確認しておくことに不思議はなく。
「一応……僕も囮は出来るのかな」
「りっ、り、六道ちゃん」
お復習いする二人を横目で見た六道・光琉(小学生デモノイドヒューマン・d20376)の呟きを拾ったのか、華夜が呼び止め。
「華夜さん、どうしたの?」
「六道ちゃん、危ない時は私が守ってあげるわね」
かくんと小首を傾げる光琉を安心させるように華夜は微笑みかける。そこにあったのは、現場へ至る前、つかの間の穏やかな空気であり。
「わぁぁぁぁっ」
「……始まったか」
子供の悲鳴に立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312)が見たのは、異形の口にくわえられた不審者の足が嚥下される様子。
「う……あ……ヒェ、ヒェヒェヒェヒェヒェヒェ……ククククク、ヒャハハハハハハ」
苦しみ、巨大な生クリーム絞り袋をどこからとも無く取り出した少女は、突然狂ったように笑い出し。
「良ちゃんね?」
「ヒェ? ……だ、れ」
華夜の呼びかけに女子高生がしちゃ拙いだろうという笑いを止めた良は声の主を探し振り返ろうとして固まる。
「え?」
「ステ」
標的は小学生と聞いていたからこそ、視線の先の和馬は虚を突かれたが、危機感を覚えたアルゲーがビハインドのステロに指示を出すよりも早く、短い見つめ合いは終焉を迎える。
「……惜しい」
「は?」
「惜しいスイーツっ、あと二年……いや、二年ちょっと若かったら……ん? うおおおおっ」
あっけにとられた和馬の前で何やら悔やみだした変態少女は、視線を横に逸らして大げさに仰け反る。
「ふぇ?」
何故ならそこにいたのは紛れもない小学生だったのだ。
●推定変態
「なんて美味しそうな小学生スイーツ!『小学生が居なかったらもうこの子で良いか』とか妥協しかけた自分を殴りたいスイーツよ」
「あ、オイラもやばかったんだ……」
何とも勝手な言い分に下手すれば標的にされていたかも知れない誰かがポツリと漏らすが、流石にアルゲーもこれを良かったと手放しで喜ぶことは出来なかった。
「まぁ、それはそれ。せっかく素敵な小学生がやって来てくれたなら歓迎して然るべきスイーツね」
何故ならが絶賛ターゲッティング中であるのだから。
「ヒェヒェヒェ、では美味しくデコレーしょばべっ」
むろん変態少女の凶行を許すかというと別問題なのだが。容赦なく振り下ろされたクロスグレイブが都市伝説の影響を受けまくっている良を地に這わせ。
「欲望に負けちゃだめよ」
呼びかけながらも華夜は変態少女の上からどけたクロスグレイブを振り下ろす。一連の流れこそ所謂十字架戦闘術である。
「ぐぎ、い、いきなりなびゃっ」
「……あなたが噂を広めそれに後悔し止め様としたのは素晴らしいと思います、ですがこのままではあなたはただ小学生を襲うだけの存在になってしまいますよ」
「このままでは子供を危険にさらしてしまうことになるぞ。小学生をかばおうと、身を盾にした君がそんなことを心から望んではないはずだ」
実際襲いかけて殴り倒された気もするが、きっとあれは気のせいと言うことなのだろう。アルゲーが抗議しようとして霊犬の荒火神命から六文銭を撃ち込まれる変態へと呼びかければ、光線を撃ち出した辰一も説得に加わり。
「小学生、を……襲う? 子供を、危け……うぐっ」
投げかけられた言葉を反芻した良は顔を歪めて呻くと額に手を当てながら、膝をつき。
「びゃばっ」
ご当地ビームはまさにその瞬間、命中した。
「うぐぐ、何めきょっ」
更に追い撃つように振り下ろされた超弩級の一撃。
「えーと……」
「戦闘で苦戦すると危険ですからね。体力の削るのは協力しましょう」
複雑な表情で和馬が言葉を探すと、応援の灼滅者が魔剣「Durandal MardyLord」を手に言ってのけた。
「……まぁ良いんだけどね、戦闘も始まってるし」
「……和馬君」
「あ、うん」
呼びかけられとある少年がサイキックソードを手に我に返れば、既に前方には斬撃の嵐が吹き荒れていた。巻き起こしたのは、アルゲーの手にあるウロボロスブレイド。
「ヒェべびっ」
翻弄される変態少女を更に霊障波が襲い、飛来した光の刃が斬り裂き。
「く、う……何のこれしきスイーツ、小学せ」
「お姉さん……お姉さんは皆を護ろうとしてくれたんだよね。そのお姉さんは……本当にこんなことをしたいの?」
「えっ」
蹌踉めきつつも身体を起こし絞り袋を構えようとした良の視線が、真っ直ぐ見つめる光琉の視線とぶつかり、良の動きはとまる。
(「僕もやらないと。きっと、こうやって華夜さんや皆が……僕も助けてくれたんだから」)
どこかで戦いは怖いと思いつつも、気力を振り絞ったのだろう。
「違うんじゃないかな?」
「わ、私……は……うっ」
続けた問いかけに目を逸らした少女が顔を歪め。
「あの子達が……襲わ、襲、襲う……ふ、防……」
「お姉さんの中に悪い人が居る……でもお姉さんは抗ってる。だから……助けるよ」
譫言のように途切れ途切れの言葉を漏らす良を前に一振りされたウロボロスブレイドが伸びた。
「いくよ……白玉ちゃん」
「ナノ」
短くナノナノの白玉が鳴いた時には、もう光琉の殲術道具が少女へと襲いかかっており。
「うあっ」
光琉のかけた声で動きを止めていた良は避けることも能わず、ウロボロスブレイドに巻き付かれ。
「ナノっ」
巻き起こされたたつまきが身動きのままならぬ少女を飲み込んだ。
●声よ
「ヒェヒェヒェヒェヒェ」
いくつもの傷を作りつつそは笑う。
「神命っ」
「がうっ、ぎゃんっ」
主の命を受け、飛び出した荒火神命が光琉の代わりに噴射された生クリームの直撃を受け、吹っ飛ばされ。
「だ、大丈夫六道ちゃん? あ、ああ、生クリームついてるじゃない」
生クリームの飛沫を受けた光琉へと華夜は駆け寄る。庇われたからこそダメージはなくちょっと顔や髪に飛び散って居るぐらいだが、はた迷惑な攻撃だった。ただ、都市伝説の行動パターンに縛られているとしても、それは悪手だった。
「クリームで小さい子を不幸にしちゃうなんて、貴女が望んだ事なの?」
「うぐっ」
華夜の非難とクリームまみれになりつつも目を潤ませ、どうしてこんな事をするのと自身を見上げてくる光琉の視線に絞り袋を抱えた少女はたじろぎ。
「目を覚ませっ」
「べすばっ」
影を宿した魔導書の背表紙で辰一に殴りつけられた変態少女が生クリームを飛び散らせながら吹っ飛ぶ。
「う、うくっ……」
アスファルトを転がり、身を起こそうとしたところにかかるは人影。
「彼らの説得を聞き入れて今の悩みの解決を図るのも、このまま倒されて消滅して被害を出さずに済むのも貴方の自由です。好きに選びなさい」
影の主は応援に駆けつけた灼滅者であった。
「一応言っておきますが……彼らは君を助ける為に集まった。聞こえているんでしょう、その声が?」
まるで、示しを合わせたかのように。
「貴女にも好きな子がいるはずでしょ? 悲しませたくはないでしょ?」
「……きっとやり直せますよ、小学生を助けようとしたのは間違いないのですから」
「そうだよ、出来るよ。だって……僕もそうだったから。お姉さんも……手を、伸ばして」
いくつもの声が良へと向けられ。
「あ……わ、私は、く……小学生をクリームまみれにするスイーツ!」
苦しみつつも立ち上がると変態なことを叫んだ。
「おのれ、もう少しでこの身体を手に入れられるところだったというのに良くも邪魔したスイーツな?」
「……なんだ、追いつめられてダークネスの方が出てきただけか」
目に見えて減った威圧感と憎らしげに歪んだ少女の顔を見て辰一がボソッと漏らすと。
「そう言う訳で今度こそそこの小げべぶっ」
撃ち出された魔法の光線が変態予告を中断させた。
「六道ちゃんは、私の子よ!! そこまで好きにはさせないわ!! ……神命」
「がう」
呼び声に応え、生クリームまみれになった荒火神命が光琉を守るように前に立ち。
「……ステロ」
思うところあったのか、アルゲーもまたステロに指示を出す。二者が自分のたいせつなものをそれぞれサーヴァントに守らせ。
「お、おのべっ」
敵意をむき出しにしつつ再び絞り袋を向けようとした少女がロケット噴射を伴う殴撃で宙に舞う。
「びゃばっ」
滞空していた身体は炎を宿したサイキックソードにたたき落とされ。
(「僕だって男の子、頑張らなきゃいけないよね」)
利き腕を変化させた巨大な砲台を光琉は少女の落下点へ向けた。
「華夜さん」
「ええ」
意図は伝わったのだろう。
「ずいいいづうううぅ」
「クリームを塗りたくるなら、貴女の好きな子に、全力の愛で塗りたくりなさい!!」
「ぎゃば」
死の光線が撃ち出されるのにあわせ、嗾けられた影が伸び、撃ち抜かれて悲鳴をあげた変態少女を下からせり上がって一呑みにする。
「う……あ、しょう……が、く」
影が消え去った後には、消滅しかけた巨大生クリーム絞り袋を落とし倒れ伏す少女が一人、戦いは終わったのだ。
●誘い
「今回みたいな都市伝説やダークネスに人々……もちろんいたいけな小学生もだが……人知れず苦しめられている。君には、それらから救う力がある」
目を覚ました少女へ、力を磨きに学園に来ないかと辰一は誘った。
「私にそんな力が……」
少女からすれば、何もかもが唐突すぎたのかも知れない。闇堕ちも救い出されてすぐの勧誘も、だからこそ顔にあったのは戸惑いの色だったのだが。
「私達と来れば、貴女好みの子と会えるかもしれ」
「……ちなみにうちの学園美少年多」
「行くわ」
と、二人の言葉が終わるよりも早く、少女は応じた。都市伝説を生み出すに至ってしまった小学生好きの部分は全くブレていなかったと言うことなのだろう。
「えーと……あれ、大丈夫なのかなぁ?」
「……人の好みは十人十色ですからね、迷惑にならないかぎり大丈夫かと思います」
形容しがたい表情で即決した少女を見つめる和馬の横でアルゲーは言い。
「はるひさんと意見が合いそうですし、学園でも上手くやっていけるのではないでしょうか?」
「や、うん。気が合いそうって所までは同意なんだけど……」
半分だけアルゲーに同意した少年がちらりと見たのは、白玉をだっこし良の方へ視線をやる光琉の姿。
「んと……」
おそらく良が迷っていたら続いて何か声をかけるつもりだったのだろう。
「そうだね。お姉さんと同じような仲間が一杯いるから、きっと……笑顔で迎えてくれるよ。僕の様に」
「っ」
会話にくわわりに光琉がこっと笑顔を笑顔を浮かべると、少女は鼻ごと口元を隠し視線を逸らす、指の間から赤い何かを零しつつ。
「まさか、こんな所で怪我人が出るとはね……」
「……そうですね」
戦闘終了時怪我の確認をしていた二人もこれは予想外だったか。ともあれ、こうして事件はダークネスの誕生を阻止し、一人の灼滅者を誕生させる形で幕を閉じたのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年4月19日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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