ナースを倒すため、まずは仲間を全力で!

    作者:雪神あゆた

     滋賀県のあるマンションの一室で。
     ベッドに横たわった傷だらけの男――ご当地怪人が顔を斜め上に向けた。
    「姉ちゃん、すまねぇな」
    「何を言っているんですか、すまないことなんて何にもないですよー」
     怪人が見ているのはナース服の女。
     もっとも普通のナース服というには、女が着ているそれは、胸元が大きく開きすぎていた。スリットも縦に長く入り、女の足を存分に見せつけている。
     女は、淫魔いけないナース。
    「お客様が元気になるのが、私にとっての悦びです。気をやってしまいそうなほどの悦びです。あはぁん」
     ナースは目を潤ませ、はぁぁ、と熱っぽい息を吐いた。
    「では、今から、お体たっぷりマッサージして差し上げますねー」
     
     教室で、姫子は灼滅者に説明を開始する。
    「道後温泉にいた、道後六六六の、いけないナース達が、琵琶湖周辺に現れました。
     いけないナースは、マンションの一室を、いけないマッサージ店に改装。
     そこで安土城怪人と天海大僧正との抗争で怪我をしたダークネス達を、敵味方かかわりなく癒やしているようですね。
     ここにいる皆さんには、そのいけないナースの一人を灼滅してほしいのです」
     お願いします、と姫子は頭を下げ、そして続ける。
    「マッサージ店のいけないナースは、非常に警戒心が強く、ある条件を満たさない人が近づくと、すぐ逃げてしまいます。通常だと接触は難しいでしょう。
     でも、条件を満たす人が近づいた場合、ナースは逃げずにお客さんとして出迎えてくれます。
     条件とは、激戦の末、戦闘不能になっていること、です」
     だから、と姫子は説明を続ける。
    「灼滅者の皆さんは、ナースの部屋に行く前に、2グループにわかれ、互いに戦ってください。どちらかを戦闘不能にするまでの真剣勝負を。
     幸い、ナースの部屋があるマンションの傍に、十分な大きさの空き地があります。ここなら、人目を気にせず戦えます。
     戦った末、敗北して戦闘不能になった人たちは、ナースの部屋に客としてはいれます。ナースも快く迎え入れてくれるでしょう。
     そして、敗北した側の人たちの治療が終わらないうちに、勝った側の人たちが、ナースの部屋に侵入し、ナースと戦ってください」
     その場合、ナースはお客様を守るため、侵入者と戦おうとする。このときなら、ナースを灼滅することもできるだろう。
     戦闘では、ナースはサウンドソルジャーの三つの技を使うほか、巨大な注射器の針を妖の槍のように使ってくる。
    「決して強い相手ではありませんが、油断はしないでくださいね」
     姫子は注意を促した。そして、
    「マッサージ店に客として入るためには、『本気で』戦って戦闘不能にならないといけません。
     ナースとの戦いよりも、むしろ、皆さん同士での戦いの方が激戦になるでしょう」
     
     そこまでいうと、姫子は灼滅者一人一人の目を見つめた。
    「いけないナースが活動を再開したということは、もっともいけないナースも琵琶湖周辺に来ている可能性があります。
     いけないナースを灼滅していけば、もっともいけないナースと接触するチャンスもあるかも、しれませんね。
     皆さんの活躍を、期待しています! 仲間同士で戦って、というのは心苦しいですが、それでも、ご武運をお祈りしています!」


    参加者
    久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    ヴィラン・アークソード(彷徨える影狼・d03457)
    中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ


     北風が灼滅者の顔へ吹く。草がまばらに生えた空き地で、灼滅者たちは四対四、A班とB班に分かれ、向かい合う。
     B班の一人、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は腰を低くした。手を地につけ相撲の構え。ハリマは顔を上げ、
    「こんな戦いめったにしないっすけどね……やらなきゃならないなら、全力で糧にするっす」
     ハリマの視線を、A班のアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が紫の瞳で受ける。
    「どのくらい糧になるか――始めましょうか? Slayer Card,Awaken!」
     封印解除するアリス。それを合図に皆が一斉に封印を解く。
     ハリマも戦闘態勢に入った。地を蹴る。低い姿勢のまま突進。硬化した掌でアリスの顎をかちあげる。
     ハリマの打撃の威力に、アリスの足が地面から離れる。宙を舞うアリス。
     が、アリスは冷静。占い札を空中から地へ投擲。着地と同時、結界を発動。
     結界はハリマたちB班前衛の体を痺れさせる。
     中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)は前衛の仲間が牽制されたのを見、黒の瞳を輝かせた。
    「やるじゃないか、アリス。俺も加減なしでいこうか」
     翔汰は筋肉を隆起させる。腕が光った。気だ。翔汰は気で塊を作り、アリスへ放出。
     が、塊の前に、安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)が立つ。
     塊に打たれふらつく刻。口の中で、
    (「これが仲間からの攻撃……仲間と戦うなんて、珍しい……勝ち負けには、拘らないけど……勝つ方が……踏み躙る方が……気分はいいよね、母さん……」)
     呟きが途切れると同時、ビハインドの黒鉄の処女が動いた。ドレスの裾を翻しつつ霊撃。
     刻も腕を上げた。腕を砲台へ変え、一条の光を放つ。
     霊撃と光線を見、ハリマの霊犬・円が走る。体で二種の攻撃を止める。きゃうんと鳴きながら己を回復させる円。
     円と主のハリマを見つめる刻。何を思うのか、彼の顔からは読み取れない。

     一分が経過。
     傷ついた刻の左右に、嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)と久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)が立った。
     翔は前屈姿勢で腕をだらんと垂らしていた。手にはナイフ。翔の腕が閃いた。ナイフから毒をまき、刻ら前衛に浴びせる。
    「絹代、続けろ」「オッケーっす!」
     絹代は翔の言葉を聞き、にぃ、唇で三日月の形を作る。地に両手をつけ、逆立ち。
     絹代の下の影から瘴気が湧く。瘴気は刻を包み込んだ。トラウマを与える影喰らい。
     絹代はさらに追い打ちをかけようとしていた。絹代の前に幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)が立つ。
     桃琴は片足を前に。大地を震わす音。八極拳の踏み込み。さらに桃琴は足を動かす。
    「桃の技、受けてみてね!」
     桃琴の足が輝き、逆立ちしていた絹代の顔を蹴る!
     その隙に、ヴィラン・アークソード(彷徨える影狼・d03457)は駆けた。片肌脱ぎの着流しの袖を揺らし、刻の前に立つ。
    「落ち着け、今手当てする。焦るな」
     ヴィランは札を取り出す。札を握る手に力を籠め、集中。そして刻の肌に張り付ける。ヴィランの力が刻の中に流れ込み、彼の体勢を立て直せさせた。


     アリス、ヴィラン、桃琴、刻、黒鉄の処女のA班と、翔、翔汰、絹代、ハリマ、円のB班の戦いは続いた。
     互いに前衛を執拗に狙う戦術を繰り出しあい、結果、絹代が深く負傷していた。
     好機を逃すまいと、ヴィランは呼びかける。
    「桃琴、標的は絹代だ。いけるか?」
    「大丈夫だよ、ヴィランお兄ちゃん。これでも拳士だもん。絹代お姉ちゃんにだって負けないよ!」
     桃琴は頷くと、激しく音を立て踏み込む。絹代の懐へ。桃琴は両手を縦に回転させ、絹代の足を払い転倒させる。そして足から炎を噴出!
     絹代は焦げ、熱にのたうつが、それでも立ち上がる。ヴィランが己へと近づいているのを確認。
     ヴィランが攻撃の間合いに入るより早く、真っ赤なスカーフ『マッド・デイモン』を広げ己を包む。
    「耐えてみせるっすよ!」
     ヴィランは腰に下げた刀の柄を掴む。息を吸い込み、己の体に恐れを宿す。抜刀と同時に刃を一閃。絹代の体に一文字の傷を刻む。飛び散る血。
     だが、それでも絹代は立っていた。ふらつきながらも、目は前を見ている。
     アリスと刻は会話する。
    「あれで倒れないなんてね。でも、悪いけど負けるつもりはないの。ここからよ」「なら、攻撃を続けましょう、アリスさん」
     二人とも、肩や腹に深手を負っているが、それでも、瞳には闘志。
     アリスは額に脂汗を浮かべつつも、片手で絹代を指す。
     刻は足を曲げ、そして跳躍。高く飛び、足を光らせた。
     次の瞬間アリスの指から放たれた白い光が、刻の飛び蹴りが、絹代を襲う。さらに黒鉄の処女も顔を曝し、加勢。
     勝負を決めようとするアリスと刻の、それぞれの渾身の一撃。しかし、その光と蹴りは絹代には当たらない。円とハリマが二人の攻撃を体で遮ったからだ。
     ハリマは刻の蹴りの威力に膝をついた。
    「ぐぉ……強いっす……でも、それでも……っ」
     ハリマは歯を食いしばり、膝を伸ばす。立ち上がると同時に、掌を下から上に突き上げる。刻の顎を掌で強かに叩く。鈍い音がした
     翔は普段の眼鏡をかけていない顔を、刻に向けた。殴られた刻の足が揺れている。好機を逃すまいと、翔は腕を持ち上げた。ナイフに炎を宿させ、刃を刻へ振り落す。
    「燃やし尽くしてやらぁ!」
     狙われた刻を、黒鉄の処女が庇う。翔のナイフは黒鉄の処女に刺さった。
     翔汰はその様子を見ていたが、走り出す。黒鉄の処女の脇を抜け、刻に接近。
     翔汰はPride of guardianを嵌めた拳を突き出す。
    「そこだっ!」
     翔汰は刻の顎を殴る。鳩尾を殴る。さらに殴る。
     刻は翔汰の連打に両膝を突き――うつ伏せに倒れた。そして動かなくなる。
     A班はその後、必死の反撃を続けるが――一人倒れたことにより、攻防両面の戦力ダウンは否めず――一人二人倒れ――全滅。


     しばらくして。刻、ヴィラン、アリス、桃琴の四人は怪我した体を引きずり、空き地近くのマンションの一室を訪れた。
     扉の前に立つ灼滅者。扉がガチャリと開いた。
     中から顔を出したのは、胸元を大胆に見せるナース服の女。いけないナースだ。
     刻は頭を深々と下げる。
    「客としてきました。治療をお願いできますか?」
     刻の真面目な態度とB班の面々がつけた傷の深さのためか、ナースは同情深げな顔をし、
    「ええ、もちろんです! そんなになってとおっても大変でしたねー。でも、もう大丈夫です。すぐに治しちゃいますからねー。さあ、中へ」
     灼滅者たちは、ナースに導かれ、居間へ入る。ピンク色の壁紙。床には複数の布団が敷かれていた。
    「さあさあ。どうぞ、お布団にうつ伏せになってください。たぁっぷりマッサージしちゃいますよー」
     明るい調子で言うナースに、ヴィランが問う。
    「そのマッサージというのは、普通のマッサージなのか?」
     ヴィランの問いに、くすっと笑むナース。
    「あら、もちろん、特別製ですよ? どんなふうに、特別製かというと……やだ、そんなことを言わせるなんてお客様のエッチ」
     そんな会話を繰り広げていると――玄関で扉が轟音を立て開く。
     玄関から居間へ、四人の人物――翔、翔汰、絹代、ハリマが、駆けこんでくる。
     ハリマは声を張り上げ、堂々と宣告する。
    「治療はそこまでっすよ」
     翔汰もナースを見つめていた。胸の谷間や太ももが露出した姿にやや顔を赤らめつつ、けれど、視線を鋭くさせる
    「そこの怪我人たちにとどめをささせてもらう」
     ナースは怪我人たちの前に立ちはだかった。
    「お客様たちに手出しはさせませんよー! お客様、この人たちは私のエッチさと技でひきつけますー。だから、その間に逃げてくださいー」
     ナースは怪我人たちを振り返ってそう告げた。
     アリスは布団の上に座ったまま動かない。首を左右に振り不安げに、
    「怖くて歩けないみたい。ナースさんは患者の私たちを見捨てないわよね?」
     桃琴は今にも泣きそうな顔で訴えた。
    「桃も歩けないよ。あのお兄ちゃんたち怖いよ……助けて、ナースさんっ」
     二人の演技に、ナースは頷き、
    「わかりました。お客様が歩けるようになるまで、時間を――」
     ナースがしゃべっている間に、ハリマと翔汰は視線を交わす。
     そして、ハリマは低い姿勢でナースの懐に飛び込み、相手の背に手を回す。腕でしっかりと彼女を捕まえ――上体をそらす。脳天を床にたたきつける。
     ナースは悲鳴をあげつつハリマの腕から逃れた。倒れた姿勢のまま床をゴロゴロと転がる。
     翔汰は跳んだ。転がるナースを、炎を宿した足で踏みつける。グラインドファイア!
     ナースは燃え上がりながら、かろうじて立ち上がった。注射器を振り回しハリマたちを牽制。ナースは再び怪我人たちへ呼びかけた。
    「お客様、逃げ――」
     ナースの背後に、絹代は回り込む。
    「よそ見するなんて余裕っすか? ダメダメっすね!」
     自分の言葉が終わらぬうちに、絹代は赤いスカーフをナースの首に巻き付け、皮膚と肉を斬る。
     ナースは首から血を流し、顔を青ざめさせる。後ろに下がろうとするが――
     翔がそのナースを追いかける。
    「これで終わりにしてやる!」
     翔は足を高く上げ――閃光百裂拳! ナースの豊満な体を吹き飛ばす。
     ナースは壁にぶつかり、天井からほこりを降らせ――そして消滅。


     刻はナースが完全に消え去ったのを確認し、
    「終わりましたね、皆さん、お疲れ様でした」
     感情を見せない顔のまま仲間たちを労う。
     翔は低くしていた姿勢を元に戻した。翔は胸ポケットに入れていた眼鏡をかけなおし、「そっちこそお疲れさまだ」と返事。
     アリスも仲間たちを言葉で労った後、苦笑をうかべる
    「それにしても仲間同士での戦いは白熱したわね。仲間同士で戦うなんて、六六六人衆やアンブレイカブルを笑えなくなってるわね」
     ヴィランは腕を組む。真面目な顔で、
    「アリスの言う通りだが、しかし、学ぶことも多かったと思う。今後に役立てよう」
     絹代はナースが立っていた場所を見つめていた。
    「肝心な時に、刀剣がこないっていうね……アンタのマッサージは受けてみたかったけど……悪く思わないでほしいっすよ」
     ハリマと翔汰も同じ場所をみつつ、言葉を交し合う。
    「しかし、ナースって、ダークネスだけじゃなくて灼滅者まで治すなんて、本当に無差別なんすねー」
    「敵味方を問わずに治療するナース……いいことなのかもしれないけど、どうもひっかかるんだよな……」
     しばらく会話を交わしたのち、灼滅者たちは、マンションを出る。戦闘開始前には強かった風がやんでいた。
     桃琴は空を見上げる。冬ではあるが、雲一つない青空。
    「仲間のおにーちゃんおねーちゃんと勝負。ライブハウスとはまた違う感じだったねー。今日は負けちゃったけど、次はもっとがんばろ~」
     桃琴の声の無邪気な響きに、仲間たちの何人かが笑った。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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