夕暮れに炎灼けて

    作者:幾夜緋琉

    ●夕暮れに炎灼けて
     神戸市は東お多福山。
     六甲地区で唯一、広大な草原が拡がる。
     草原の一角には、ススキの草原……一時期は管理を放棄されてしまい、生息の危機に陥っていたが、ボランティアの方達等の尽力の結果、ススキ草原は戻りつつある。
     ……しかし、そんなススキ草原に、迫り来る獣。
    『ウゥゥ……』
     呻き声を上げて……そして、草原に立つのは、炎に包まれた身体の獣、イフリート。
     草原を、居心地の良い運動場の如く、走り回るイフリートは、夕焼けから夜半の夜空に、赤く映えるのであった。
     
    「皆、集まってくれたか? それじゃ早速だが、説明を始めるぜ!」
     神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達にニッと笑うと、早速説明を始める。
    「今回、神戸の東お多福山、広大なススキ草原が拡がる所に、イフリートが出没した様なんだ」
    「イフリートはまるで自分の運動場の如く、夕刻から夜半にかけて、そのススキ草原を走り回っている様だ」
    「幸いこのイフリートが走り回っているのは人の居ない時間だから、イフリートが一般人に被害を及ぼしているという事は無いんだが……放置しておくには危険だ。だから今のうちに、皆の力でイフリートを退治してきて欲しいんだ」
    「無論イフリートというダークネスは強力なダークネスであるのは間違い無い。だが、皆の力を合わせて、確実に灼滅してきて欲しい。宜しく頼む」
     そして、続けてヤマトは、詳細な説明を続ける。
    「イフリートは夕焼け空の下に現れ、完全に日が落ちる頃まで暴れ回っている。その時間にススキ草原へと向かえば、恐らくイフリートの暴れる姿を認める事が出来るだろう」
    「イフリートはその獣の四肢を生かし、とても素早い動きで皆を翻弄してくるのが予測出来る。基本的にはヒットアンドアウェイの攻撃が基軸になるだろう」
    「また、イフリート自体、体力、攻撃力が高い相手だ。素早い動きで攻撃を交わす事が出来るから、中々体力を削ることが出来ずに戦闘が長期化する可能性もある。長期化し、不意を突かれる事が無い様、注意して欲しい」
     そこまで言うと、最後にヤマトは。
    「何にせよ、このススキ草原はボランティアの手によって復興した大切なススキ草原だ。これをイフリートに荒らされるのは、心苦しい所だ。だから、早急に暴れるイフリートを退治してきてくれ。宜しく頼むぜ!」
     と、ヤマトは頷くのであった。


    参加者
    香坂・颯(優しき焔・d10661)
    桃之瀬・潤子(神薙使い・d11987)
    大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)
    ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)
    白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)

    ■リプレイ

    ●夕焼けの空
     兵庫県は神戸市、東お多福山。
     六甲地区にあり、唯一広大な草原が拡がる山で、その草原の一角にはススキの草原がある。
     このススキの草原は、一時期管理放棄されてしまい、生息地の全滅の危機に陥っていた。
     しかし、近くに住むボランティアの方達の尽力の結果、ススキ草原は元の姿を取り戻しつつある。
    「ススキ草原で暴れるイフリート……なんかひっさしぶりに、こういう邪魔のない所で殴り合い出来る気がします。私が求めてたのは、こういうのですよこういうの」
    「? ……ワンワン、お散歩……元気そう?
     と、何処か嬉しそうなアンネスフィア・クロウフィル(黒い一撃・d01079)の一言に、ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204)が首を傾げる。
     それにシエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)と香坂・颯(優しき焔・d10661)、ルチルが。
    「そうですか……でも、何故このイフリートは草原を走り続けているのでしょうか……?」
    「さあな。まぁこの広い草原を運動場にしていると言う。遮る物のないこの場所は、確かにいい運動場になるだろうけど」
    「ええ……イフリートは理性が無いと聞きます。つまり、元は理性のある人、走る事に拘りがあったのかもしれませんね」
    「……もふもふ? 楽しそう、だけど、灼滅しなきゃ……ごめんね」
     シエナにこくりと頷く颯。
     でも、その言葉の後に、改めてヤマトから貰った写真をちらり。
     そこには、広大に拡がるススキ野原の写真と、ボランティアの方達が映った記念写真。
     その写真を見れば、そのススキ野原がとても美しいものであると判る。
    「……折角ボランティアの人達が手入れしたススキが、イフリートの炎に灼かれては気の毒だな」
     と、その呟きに、桃之瀬・潤子(神薙使い・d11987)と、アンゼリカ・アーベントロート(黄金少女・d28566)、そして白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)が。
    「そうだね。ボランティアの人達が大事に大事にしてきたススキを燃やされない為にも、頑張って阻止しないとね!」
    「ああ。よーし、ルチル、アンネ! -feather-のメンバーの強さ、見せてやろーぜー!!」
    「オレもまけねーぞー!! 先生、がんばろーぜ!!」
     そんな仲間達の気合いに対し、静かに先頭を歩くのは大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)。
    「……」
     無言で、ただ、真っ直ぐに前へ、前へと歩いて行く彼に、他の仲間達は、後をついて行くのであった。

    ●燃やすススキに
     そして、灼滅者達はススキ野原へと到着。
     灼滅者達が到着した頃には、丁度夕刻……空から差し込む夕陽が、野原を赤く染め上げる。
     そして、目の前に拡がる大きなススキ。
    「うわ、ススキって意外とおっきいんだね! オレ、向こう見えないとこあるもん。ねぇ、先生よりもおっきいのもあるんじゃない?」
     と、興奮気味に言う周……でも、目の前には、そんなススキ野原を駆け回る、イフリートの姿もある。
     そんなイフリートの姿を見て……軽く溜息をつく蒼侍。
    (「……今回も違ったか……」)
     少しの失意……しかし、すぐに気を取り直して。
    「イフリートは、全て斬る」
     と、刀を構える。
     そして構えた灼滅者達に対し、イフリートは気付いていない様で、野原を走り回っている。
     ……そんなイフリートの素早い動きと、なんだか遊んでいるようなイフリートの動きを、冷めた視線でじーっと眺めているルチル。そしてそれに颯が。
    「流石に遮る物がないと、なかなか捕まってはくれなさそうだね。けど……鬼ごっこは日没で終わりだからね。それまで存分に相手をしてあげよう」
    「ん……もふもふ……楽しめた? ……灼滅、開始」
     そしてルチルがサウンドシャッター、周が人払いを展開。
     すると、展開された殺気と、張り詰めた空気に、イフリートが気付いたようで……灼滅者達の方へ視線を向けてくる。
     そしてイフリートが。
    『ウグルルルルゥゥ……!!』
     と咆哮を上げて、威嚇。そして、次の瞬間……イフリートがこちらの方へと駆けてくる。
     そんなイフリートの駆け込みに、真っ正面から対峙する颯と、彼のビハインド、綾。
    「っ……!」
     二人で以て、その特攻を、しっかり受け止める。
    「今だよ!」
     と掛け声と共に、他の仲間達がイフリートを包囲網を一気に築く。
    「よーし、誰がトドメ刺すか、競争だな!」
     と、アンゼリカが笑顔で仲間達に言うと、ルチル、アンネスフィアが。
    「ええ、そうですね。でも、無理はしないで下さいね?」
    「……ん」
     微笑むアンネスフィアに、こくこくと頷くルチル。
     そして、イフリートの包囲網を構築完了すると共に、颯はシャウトで受けたダメージを回復。
     綾も、ルチルからラビリンスアーマーで回復をして貰う。
     そして、包囲網前方、周はビハインドの先生と共に。
    「ススキ野原でかくれんぼ? オレ鬼を探すのも得意だよ! せんせい、勝負勝負!」
     ニコニコしながら、周の言葉にやれやれと言った感じで肩を竦める先生。
     そしてレッドストライクに、霊撃でそれぞれ攻撃を叩き込むと、あわせてクラッシャーの潤子がティアーズリッパー、蒼侍が黒死斬、と、イフリートの前方から立て続けに攻撃を仕掛け、体力を削り去って行く。
     そして、前衛陣に対し、左右展開したアンネスフィアとシエナは、十字架戦闘術とソニックビート、後方についたアンゼリカは鬼神変で、EN破壊を叩き込む。
     そして、行動が一通り一巡し、次のターン。
     イフリートはヒットアンドアウェイを主体にしようとしていたのだが……退路をいつの間にか断たれてしまっては、ヒットアンドアウェイなどできやしない。
    『グゥォオオ……!!』
     そんな行動を潰された怒りの咆哮が、ススキを振るわせる。
     そんなイフリートに、潤子が。
    「こっちだって簡単には引かせないんだからねっ!」
     と声を上げる。
     そして次のターン。
     イフリートは、炎を纏った腕、脚から攻撃を繰り出してくる。
     四肢を使った素早い攻撃……更にイフリートの動きを制限する為に、包囲網を崩す事が出来ないから、その攻撃を躱すのは難しい。
     周と先生が、ガツッ、と体力が削り取られていく。
    「ちょっと面倒くさい相手だね」
    「ああ……だが、イフリートは、全て斬る……!!」
     潤子の言葉に、並々ならぬ意思で刀を構える蒼侍。
     そして蒼侍がティアーズリッパーで福破りを付与する一方、潤子が神薙刃でイフリートの体力を削る。
     更に颯はレッドストライク、綾が霊撃を仕掛ける一方、周と先生は、それぞれ自己回復で戦線を維持する。
     更にルチルが、状況を見てセイクリッドウィンドやラビリンスアーマーで、追加回復を行う。
     今回の肝は、戦線を維持する事。
     戦線を維持すれば、イフリートがこの包囲網を脱出する事も無いし……ヒットアンドアウェイ攻撃をする事も出来ない筈。
     そして戦線維持に、中衛、後衛が左右、後方から攻撃し、バッドステータスを立て続けに追加。
     アンネスフィアが黒死斬で足止めを付与し、シエナが縛霊撃で捕縛。
     更に後方、アンゼリカが。
    「ほらー、覚悟しろー!!」
     とグラインドファイアで炎に炎を付与する。
     三分、四分、五分……時は経過。
     流石にイフリートと言えども、大量のバッドステータスの下に、かなり動きが鈍り、苦戦している。
    「ん、寒くなってきたからかな、動きが落ちてきたね? もっと動けるように僕の炎で燃やして上げようか」
     と、颯が挑発ともとれる言葉を投げかけると、イフリートは。
    『グゥゥ……ウウウァアア!!』
     更に高く、咆哮を上げて威嚇。
     しかし、その身体から吹き出す炎の迸りには、最初の頃のような勢いもなくなってきていて。
    「……もふもふ、そろそろ、終わり……?」
     とルチルの言葉にアンゼリカが。
    「そうだな! よーっし、一気にいくぞー!!」
     大きな声で気合いを込めて、スターゲイザーの一撃を、その脚に向けて叩き込む。
     その一撃を喰らい、大きく体勢を崩すイフリート……。
     顔の方から地面に突っ込むように倒れ込んだイフリートへ、颯が。
    「鬼ごっこは楽しかったかい? なら、そろそろ閉幕といこうか。運動はもう十分しただろうしさ」
     と宣告。
     そしてその宣告と共に、綾とコンビネーションをとった、蛇咬斬と霊障波。
     更に周も。
    「かっこいー、せんせい、オレたちもいっくよー!!」
     と先生に合図を送り、レッドストライクと霊撃の連携。
     その二連打を受け、イフリートの四肢に、大きな傷が。
    『グ、グゥゥ……』
     どうにか立ち上がろうとするものの、中々立てないイフリート。
    「……イフリート。これで、最後だ……!!」
     と蒼侍が、その頭上から渾身の居合い斬りを放つ……イフリートは、その一撃に、炎に包まれ、墜ちていった。

    ●ススキ野原
    「……終わった様ですね……皆さん、お疲れ様でした」
     静かに礼し、労いの言葉を掛けるシエラ。
     それにアンゼリカが。
    「えへへ! 見たかー! 私達の力!!」
     胸を反らして、自慢げに笑う。
     ……そんな仲間達の喜に対し、蒼侍はイフリートの消滅した箇所をしばし見つめて。
    (「……今回も違ったか。いつかは、必ず……見つけてみせる」)
     心の中で呟き、ぐっと拳を握りしめると、一度空を見上げ……そして一人帰路へ。
     そんな蒼侍を見送りつつ。
    「それにしても、本当にイフリートが何故暴れていたのか……判らないですね」
     と疑問をシエナが投げかける。
    「……まぁ、確かに判らない所があるよね。でも……イフリートを倒す事は、灼滅者である使命でもあるからね」
     颯が頷き、そして他の仲間達も頷く。
     そして……改めて周りに視線を配ると、拡がるススキ野原。
    「ススキ達は無事かなっ」
     と潤子が一房、二房、ススキに近づき、状況確認。
     颯も同様にススキを確認し。
    「うん……ススキも大丈夫そうだね。姉さんもお疲れ様。イフリートから僕らを守ってくれてありがとう」
     颯の言葉に、綾は微かにほほえみ、そして颯をそっと抱きしめる。
     そして……イフリートの残した焦げ跡を少々片付ける。
     すると時間は、夕刻から夜に……月も、ススキ野原の地平線辺りに登り始める。
    「……お月見……少し、遅い……?」
     とぽつり呟いたルチルに、アンゼリカが。
    「おお、お月見かー。時期はずれだけど、それいいんじゃねーか? 団子じゃなくて、おにぎりならあるぞー!」
    「……美味しそう」
     アンゼリカにこくこく頷くルチル。
     そして、ススキ野原に座って、並んで月を見上げながら、おにぎりをぱくり。
     月見の時期は過ぎたけれど、美しく登る月を見ながら食べるおにぎりは、また格別。
     そんな一時の休息と共に、灼滅者達は月夜を見上げ、のんびりした時を過ごすのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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