食の悪波に呑まれて

    作者:幾夜緋琉

    ●食の悪波に呑まれて
    『うぅぅ、も、もう食べられないよぉ……』
     口に手を当てて、もうお腹が限界だと訴えるのは、細身の青年。
     しかしそんな細身の青年の前には、キロ単位のカレー、唐揚げ、ラーメン等々が並んでいる。
     ……大食いで慣らしたお腹には、其れくらい余裕だと思っていた。
     しかし、終わりが見えることの無い食の応酬は、流石に彼の胃袋をもはや限界にまで拡張している。
     でも、青年の前にいる食料が。
    『ほらほらー、食べてよ食べてよー。大食いさん♪』
    『コレくらいで諦めたら、まけちゃうよー?』
     追い詰める言葉を投げかけながら、更に追い込んでいく。
     そんな食料達の応酬に、もはや涙目の青年……それを、離れた所から見ているのは、シャドウ。
    『ふふふ……面白い。自分に自信がある物で追い詰められる光景は、いつ見ても愉しい……♪』
     そしてシャドウは、更に悪夢を加速させる為に、更に食材を追加していくのであった。
     
    「皆様、お集まり頂けた様ですね。それでは僭越ながら、私から説明させて頂きますね」
     と、執事服に身を包んだ野々宮・迷宵は、集まった灼滅者達に深く一礼すると共に、早速説明を始める。
    「本日集まって頂いたのは、シャドウの動きを察知出来たからなのです。どうやらこのシャドウ……大食いで有名な方の夢に取り憑き、食べ物を大量に食べさせて、悪夢の世界の中で苦しめている様です」
     と言いながら、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)に視線を配る。そして。
    「このままだと、彼の気持ちは折れてシャドウの悪夢に落ちてしまいます。そうなる前に、シャドウを退治し、彼を悪夢から救い出してきて頂きたいのです」
    「無論、シャドウは強力なダークネスの一つですので、油断出来る相手ではありません。しかしながら、彼をこのまま放置しておく訳にもいかないのです」
     そこまで言うと、続けて迷宵は詳細な情報を説明する。
    「今回のシャドウの配下は、大食いの材料に良くなりそうなものです。カレーとか、からあげとか、ラーメンとか……それぞれが挑発するような言葉を吐き、そして追い詰めてきます」
    「無論、皆さんが対峙すれば、この食材達がそれぞれ自分の食材を活かして攻撃してきます。カレーはカレールーをぶっかけてきたり、唐揚げは中から弾けてみたり、ラーメンは熱々の汁を噴出してきたり……」
    「とはいえ、このシャドウの配下達の攻撃力はそこまで高くはありませんし、体力も多くありません。問題は、シャドウ自身なのです」
    「シャドウは基本的に、自分が特に優位にならないと姿を現しません。つまり、私達が不利な光景を見せつける必要があるのです」
    「皆さんが苦戦している姿を暫く見せつければ、シャドウは姿を現します。そしたら、一気にシャドウを灼滅するよう、力を合わせて対峙する様にお願いします」
     そして、迷宵は最後に。
    「何にしても、彼はこのままでは悪夢に呑まれて死んでしまいます。その前に彼を救い出し……可能ならば、また大食いの世界で活躍出来るよう、皆さんで応援して上げて下さい。宜しくお願いします」
     と、ペコリと頭を下げたのである。


    参加者
    風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    海北・景明(大人になる前のピーター・d13902)
    風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)
    ニアラ・ラヴクラフト(愛を創造するもの・d35780)
    桜咲・優(信頼のかけら・d35833)

    ■リプレイ

    ●大食い悪夢
     大食い……もしくはフードファイター。
     たくさんの食べ物を、みるみる内に口に収めていく、驚きを見せてくれる人達。
     そんな有名なフードファイターが、シャドウの悪夢に苦しめられているという、迷宵からの依頼。
    「むぅ……大食いのフードファイターさんで遊ぶなんて、許せませんっ!」
    「そうですね……フードファイトも大変ですよね。私はカロリーが気になるので、あまり多くは食べられませんけど」
    「そうね。いつも思うんだけど、大食い……これって一種のスポーツよね。それに真剣に戦っている人を追い詰めるなんて、許せないわ」。ちゃんと倒しておかないとね?」
     桜咲・優(信頼のかけら・d35833)と黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)に海北・景明(大人になる前のピーター・d13902)が肩を竦める。
     そんなフードファイターを虐めるシャドウも、中々姑息な相手。
     自分が優位にならない限り、姿を現さないという。
     つまりは、徹底的に不利な状況を作り出して、誘い出さなければいけないというから、更に面倒。
    「本当、毎度の事ながら、シャドウは厄介ですわね」
    「そうですね……フードファイターの方に、食べる事をトラウマにさせる……一番好きな物を、一番嫌いにさせて、精神的に追い詰めるというのは、卑怯だと思います」
     予測した緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)に、風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)がぽつり、そして。
    「ええ。大食い……の良さはあまりわかりませんけれど、人が美味しそうに食べているのを見るのは、好きですよ」
    「……飯を貪る人間も、無限の可能性を抱える種だ。オレも……演技に挑戦すると決めた」
    「そうだな。やるだけやって後悔ない様にせんとな」
     梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)とニアラ・ラヴクラフト(愛を創造するもの・d35780)に、風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)が頷く。
     そして桐香が。
    「何にしても、この事件がフードファイターさんのトラウマにならない様尽力しますわ。それでは、参りましょう」
     と頷き、そしてニアラがソウルアクセスを発動……そして彼の夢の中へと侵入するのであった。

    ●夢に苦しむ
     そして、悪夢の中に侵入した灼滅者達。
     周りが暗闇の空間に包まれている中……青年の居る場所に、スポットライトが当たるよう、ズームイン。
     唐揚げ、カレー、ラーメンにハンバーガー……それら全て、キロレベルで盛られている。
     そんな大量の食べ物に囲まれるような形になっている青年は。
    『う、うう……も、もう……食べられない。む、無理だよ、もう、一杯だよ……』
     口元に手を当てて、どうにか口に入れた物を押さえ込もうとしているのだが……周りの食材達が。
    『ほら、食べて食べてー♪ 大丈夫、まだまだ食べられるよ、君ならさ~♪』
    『もう食べられないって、それじゃー次の大食いで負けちゃうよー? しっかり、たくさん食べて、訓練訓練♪』
     おどけた風な言葉で、食べて食べてー、と奮え踊る。
     それがまた更に。
    『うぅぅ……もう、もう一杯なんだよぉ……もう、許してくれよぉ……』
     と、半ば涙声。
     ……そんな青年と、大量の食材を前に。
    「……本当に、食がいっぱいです、ね……」
    「そうね。やぁだ、ほんとカロリー高いものばっかりじゃない。こんなに一杯食べちゃったら、本当太っちゃうじゃないのよぉ」
    「ええ……でも、なんか美味しそう……」
     風花と景明、優の言葉……とは言え、このまま青年を放置しておけば、食事に対して深いトラウマが刻まれてしまうのは間違い無いだろう。
    「何にせよ、さっさと止めないといけませんわね。皆さん、準備は宜しいですか?」
    「うん」
     桐香に頷き、ビハインドを呼び出すいちご。薫も霊犬を呼び出し、そして桐香が。
    「Erzahlen Sie Schrei?」
     とスレイヤーカードを解放し、青年の元へと駆けつける。
     青年に大丈夫? と声を掛け、自分達の後ろに匿うようにすると、食材達は。
    『えー、何なの何なのー? キミ達何なのー?』
    『僕たちはその子の大食いを訓練してるだけなんだよー。見た感じ、君達一杯食べるように見えないなー?』
     そんな食材達の言葉に、軽く胸に手を当てて。
    「ラーメンに唐揚げ、カレー? うちらはそんなもん別腹や。いっそ押し込んで来なはれ」
     と自信満々の言葉で吐き捨てる。
     それに、食材達が。
    『そうなんだー。クスクスッ。それじゃー、いーっぱい、いーっぱいたべてねー♪』
     と言うと共に、次々と食材は灼滅者達の口元めがけ、突撃してくる。
     そんな食材の攻撃を、とりあえず受け止めていく灼滅者達。
     様々な食材が、渾然一体となって味わう事になる……味は混沌としていて、更に大味。
     こんなのを、味の変化もなく、延々と食べさせられ続けられたら……フードファイターでなくても、嫌になってしまうだろう。
     そんな食材の波状攻撃に。
    「ええい、糞、強烈な攻撃とは凌ぎがたいものだ」
    「そうね。このままだと……押し切られそうね……!」
    「ほんま、どういう状況やねんこれ……圧されてんで皆、はよ!」
     ニアラ、桐香、薫らの口から、焦りの言葉が出てくる。
     そして、食材達の行動一巡した後、灼滅者達の攻撃。
     ……でも、その攻撃は敢えて、余り強くない攻撃を叩き込む。
     先ずはの初ターンは、ある程度命中する。
     でも、次のターン以降も、同じサイキックを使用する事で、強制的に命中率を下げる作戦。
     二ターン目、三ターン目、四ターン目……見切り効果で段々と、命中力が下がっていくと。
    「ちょっと……なによ、なんで当たらないのよ!!」
     怒りを孕んだ言葉を叫ぶ景明に、周りの仲間達も。
    「そうやな。なんで当たらないねん……」
    「こんなに強いとは……これが甘く見た代償でしょうか? あまり、効いていない様に見えます」
    「ええ……このままでは、まずいですね」
    「うぅぅ、このままじゃ耐えきれないよー」
     薫、風花、いちごに優の言葉。
     そんな灼滅者達の泣き言が、夢の空間内に響き始めると。
    『……クスクス』
     どこからともなく、笑い声。
     その笑い声に。
    「誰、ですか!?」
     と紅詩が声を上げる。
     でも、その声に反応は返らない。
    『フフフ、さーだれだろうねぇー』
    『誰~だろ誰~だろ♪ でも、逢えるのかなー? どうだろうねー』
     と、はやし立てる食材達の言葉が、左から、右から響き渡る。
     ……その言葉が、彼らの主人、シャドウの言葉であるのは、当然自明ではあるが、敢えて。
    「気持ち悪い感じですね……お腹もいっぱいだし、もう、負けてしまいそうです」
     弱音を吐き、それにビハインドのアリカも力無く頷く。
     そして……更に数分。
     最早、命中率は殆ど0で、攻撃しても、どんどんと躱されていってしまう。
     そんな、すっかり弱り切った灼滅者達の攻撃に対し、シャドウの配下がガンガン体力を削り去って行く。
     そして、食材達と戦闘開始し、10分程。
    「っ……強い。ねえ、こんなに強いなんて聞いてないわよ!! おかしいじゃないのよ!!」
     半キレ的に、貴明が叫ぶと、それに。
    「そんなの、知らないわよ! 私だって、簡単な相手だって聞いただけなのよ!!」
    『!!!』
    「うるさいわね!! 私は悪くないわよ!!」
    「ちょ、ちょっと、二人とも、ケンカしないで下さい!?」
     桐香とアリカがケンカをし初め、それにおろおろしているいちご。
     ……仲間割れも始まってしまい、食材の攻撃も、ジャストヒットが多くなり、体力も更に、加速度的に削られていく。
     そんな阿鼻叫喚な戦況に、また。
    『クスクス……あー、可笑しい可笑しい。この程度で私に勝とうとするなんて、笑止千万。さぁ、私が最後の鉄槌を叩き込んであげましょうかねぇ』
     と言うと共に……食材の後方から姿を現す、シャドウ。
     そんなシャドウの出現に、内心ほくそ笑む灼滅者達だが……言葉には。
    「何!? まだいるの? もう、これ、無理よ!」
    「そ、そうですね……このままでは、拙いです。でも、どうにかしないと……」
     景明にいちごが頷き……そして、気付かれない様にしながら、逃げるのを装いながら、包囲網を大きく築き始める。
     そして……シャドウの攻撃を、適度に受け流しながら、完全に包囲網を築き終わった時に。
    「ふふ……」
     笑う桐香……そして。
    「さぁ……ここからが本番ね。いい悲鳴を期待するわ!」
     と、シャドウにスターゲイザーを叩き込む。
     不意に討ちこまれた一撃がジャストヒット……突然の不意打ちに、驚愕の表情を浮かべるシャドウ。
     そんなシャドウに。
    「クカカカカカッ。演技も愉快な宴の術だ。傷を負ったものは驚異的で在る」
     と、笑いながらニアラがトラウナックルに叩きつけると、それをきっかけとして、一気に灼滅者達は全力攻撃を開始。
     とりあえず、邪魔になってるシャドウの配下達を、次々と攻撃を叩き込み、次々と灼滅していく。
    「……どうしました? 突然強くなって驚きましたか? ……演技ですよ、私達の、ね」
     と、紅詩がシャドウに向けて言うと、ぐぬぬぬ、と唇を噛みしめる。
     そして、2、3分の内に、シャドウの配下全てを倒し終わり、残るはシャドウのみに。
    「あれ、さっきまで当てれなかった攻撃は、見語tにあんたに当たってはるわ。恨みて恐ろしいなぁ」
    『くっそ……騙しやがって!!』
     と、薫が挑発するように言葉を投げかけ、怒るシャドウに風花が。
    「相手を油断させて隙を突く。常套手段でしょう?」
     とくすりと笑う。
     そして……シャドウを完全に追い込んだ所で。
    「さあ、アリカ、一緒に仕掛けるわよ!」
    「ええ、桐香さん、援護しますよっ!」
    『!』
     桐香、いちご、アリカの三人が声を掛け合い、そして。
    「シャドウ。3人の連携、しっかり味わって逝きなさい!」
     と放ったグラインドファイアの一撃が、シャドウを一刀両断。
     シャドウは、断末魔の叫びと共に……灼滅されるのであった。

    ●コレに懲りずに
     そして……悪夢から解放された青年。
     護り切った青年に……。
    「ふぅ……大丈夫ですか?」
     と優が声を掛けると、それに彼は。
    『だ、大丈夫ですけど……』
     流石に、目の前で戦闘をくりひろげられて、驚いているのだろう。
     しかし、彼の視線は……残った食材の方へ。
     流石に食材を見ると、先ほどまでのトラウマがかなり残っている様で。
    「……未知なる領域に至るが好い。俺を驚愕させよ」
     とニアラの言葉に、いや、もう……フードファイターは、やめようと思う、とぽつり。
     そんな彼の手を握りしめて。
    「死にそうなほど、食べさせられたからって、大食いのセカイから離れるなんて、そんなのダメですっ! 大丈夫です! あなたの事は、ずっと私……いや、此処に居る皆が応援していますよ。だから、もう一度頑張って下さい!!」
     と目を真っ直ぐに見て、励ます優。
     それにいちごや桐香も。
    「そうですよ! たくさん食べる人、好きですよ!」
    「フードファイターって名前、カッコイイと思いますの。だから、これでやめるなんてもったいない。もっと、フードファイターとして頑張って頂きたいですわ」
     そんな励ましの言葉に、段々と元気づけられる彼。
     そして……時間が来て、夢から、脱出。
     寝ている青年の姿は、幾分呼吸も安定していて、大丈夫そう。
    「うん……大丈夫そうですね。彼がまたフードファイターとして、テレビとかで活躍してくれる姿が見れるといいですね」
     と微笑むいちごに、そうね、と桐香も頷く。
     そして……彼が起きる前に、その場を後にする。
     朝日が丁度、地平線から現れる頃。
    「ふふふ。終わったわねー。ねえ、これからラーメンでも食べにいかない?」
     と、景明の言葉に、皆一様に苦い顔。
    「……流石に、今日は遠慮します」
    「そうどすね……」
     紅詩、薫の言葉に皆頷く。
     まぁ、あんなに大量の食べ物を見たわけで……それでお腹いっぱいなのは仕方ない話。
    「仕方ないわね……それじゃ、帰りましょ」
     と景明も頷き、そして灼滅者達はその場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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