ノブレス・オブリージュ ~新たな秩序を作る為に

    作者:長野聖夜


     鋭い棘の様な冷たさを感じる宵闇。
     その闇の中を歩く少女。
     ――何故……。
     どうしてこれ程までに、私の中で眠る『私』の様な存在が、蔓延る様になったのだろう。 
     切っ掛けが、サイキックアブソーバーと呼ばれる物の出現にあるのは、『私』の記憶からも分かっている。
     ――けれども……。
     何故、其れは作られたのか。
     何の為に。
     どういう意図で。
     ――或いは……。
     今の秩序を否定する為に、誰かが其れを創り出したか。
     今のダークネスと、人の在り方を正す為に。
     ――でも、其れは。
     ダークネスたる私には、決して相容れられないもの。
     ならば、旧体制を破壊して、新しい人とダークネスの在り方の秩序を基盤とした新世界を創造出来れば……あの、『灼滅者』と言う名の『異常』を、この世界より浄化出来るかも知れない。
     その為には……。
    「組織化……これが、必要ですね」
     そう結論付けた少女は、宵闇の向こう、暗がりの町へと歩きだす。

     ――ノブレス・オブリージュを胸に秘め、この世界を変える為に。


    「灼滅者は異常、か。でも、エクスブレインとは言え、一般人の俺には、仲間で、共に歩む存在なんだよ。……勿論、リーリャちゃんもね」
     瞼の裏に現れたその光景を見つめながら、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) が小さく呻く。
     そんな優希斗の様子に、何人かの灼滅者達がそっと近づいた。
    「……皆。……やっと見つけたよ、リーリャちゃん。……子爵のいた部屋への刺青蝙蝠達の侵入を防ぐ為、自らその身を闇に堕としたあの子のことを……」
     出発前に何かあったら探し出すって約束したから、と微笑む優希斗。
    「リーリャちゃんは、リーリヤと言うヴァンパイアとしてある町に現れる。理由は、彼女の求める、新たな『ダークネスと人の在り方』を広げて行く為の『組織』を作る為らしい」
     灼滅者達が介入できるのは、その町の裏通りを彼女が歩いている時。
     故に、灯りが無ければ捕捉が非常に難しい事、また、狭い通路の為、最大で8人までしか戦いに参加できないことを除けば、最低限の人払いのみで戦える。
    「ただ……」
     優希斗が目を瞑り、僅かに沈黙する。
     その様子を見た灼滅者達が怪訝そうに続きを促した時。
    「……もしかしたら、リーリャちゃんを救うのは非常に厳しいかも知れない。……見えないんだ……決定打が……」
     苦しげに呟く、優希斗。
     ただ……と軽く頭を振る。
    「それでも……何とかしてきて貰えないか? ……どんな手段にせよ、止めて貰わないといけないのは……確か、だから」
     優希斗の囁きに、灼滅者達は、其々の表情で返事を返した。


    「リーリヤは、戦斧による強烈な一撃、そして、ヴァンパイアとしての能力、ショットガンによる範囲攻撃、自己回復能力、とかなり多彩な能力を持っている。ポジションは、ディフェンダーの様だ」
     更に言えば、普段は温厚であり、無益な殺生は好まない。
     しかも、弱者救済を是としており、ダークネスや一般人であれば、種族問わず『家族』として迎え入れると言う性格らしい。
     但し、家族として迎え入れられるその優しさも、温厚な性格も、灼滅者達に向けられることはまずないだろう。
    「それだけリーリヤは、皆を『異常』と考えている。しかも、戦術方面にも明るいから、どんな状況下においても、撤退の可能性を考えているし、その場、その場で最適な行動を取ろうとするみたいだ」
     優希斗の呟きに、灼滅者達が小さく頷く。
    「まあ、一番の問題は、リーリャちゃんをどうやって呼び覚ますことが出来るのかが、ハッキリしない、と言う事なんだけれど」
     悩むように苦しむように告げる優希斗。
    「でも……もしかしたら、リーリャちゃんを呼び起こすだけじゃなくて、ダークネスである『リーリヤ』に何らかのアクションを起こして、その理想を否定し、倒すことが出来れば、もしかしたら……」
     ただ、これだけで上手くいく保障は無い。
     彼女を救いたいなら、他にも幾つか手を考えておくべきだろう。
     優希斗の説明に、灼滅者達が静かに首を縦に振る。
    「勿論、油断は出来ない。もし彼女を救うのが難しいと思うなら、灼滅も辞さない覚悟で行くべきだと、俺は思っている。此処で彼女を救えなければ、恐らくは……」
     それ以上を告げずに、優希斗は深呼吸を一つついた。
    「皆がどんな結末を選び取るとしても、俺も一緒にその罪を背負うよ。後……一つだけ。リーリャちゃんがいなかったら、あの戦いで足止め班は全滅していたし、メイヨール子爵の所に瑠架が行くよりも先に、襲撃班の皆も全滅していた、と思う。リーリャちゃんがいたから、皆無事で戻って来れたことは、忘れずに伝えて欲しい。……どうか、気を付けて」
     見送りの為に一礼する優希斗に頷き、灼滅者達は其々の想いを胸に秘め、教室を後にした。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    色射・緋頼(先を護るもの・d01617)
    各務・樹(虹雫・d02313)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)
    雪風・椿(南海闘姫・d24703)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)

    ■リプレイ


     ゴーストタウンか、とも思える程人気のない静かな裏通りを闊歩する、ロングコートに身を包んだ幼さを残す外見の少女。
     ――不意に、ピタリ、と運んでいた足を止める。
    (「……来ましたか」)
     そのまま、髪を銀に、瞳を血の様に紅く染め、その衣服を漆黒へと塗り替えていく。
    「リーリャさん、あの時はありがとうっした。おかげで皆無事で帰ることが出来たっす。その御恩返しに参りやした」
     腰に吊ったハンズフリーライトで周囲を照らしながら、声を掛けたのは、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) 。
     少女……リーリヤは、ギィ達の姿を認め僅かに目を細めた。
    「……未来予測、か」
    「はい、そうです。リーリャさん」
     静かに呼吸を整えそう告げたのは、ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171) 。
    「生きているなら、神様だって殺してみせる」
     スレイヤーカードを解放して二振りの鋏を構え、瞳を真紅に染めるは、杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015) 。
    「家族、ですか……」
     四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781) が軽く唇を噛み締めながら、音を遮断する結界を張る。
     戦場を覆って人々を近づけ無い様にするESPは、今回は誰も展開できないが、ある程度の間はこれでも凌げるだろう
     其々に身構える灼滅者達に、小さく息をつき、リーリヤが戦斧を構え、ショットガンを突きつけた。
    「アポトーシスの組み込まれた悪性変異種であり、『異常』であるお前達に、私の理想を邪魔させはしない」
     そう言い捨てながら。
     リーリヤは、躊躇いなく引鉄を引いた。


     銃口から迸る逆十字の矢。
     標的は、シャル。
     回復役を落とすのは、戦いの基本。継戦能力を奪うには、其れが一番早い。
     ……だが。
    「そうはさせないわよ、リーリヤ」
     颯爽と箒から飛び降り着陸し、シャルとリーリヤの射線に割って入るは、各務・樹(虹雫・d02313) 。
    「リーリヤ。貴女は怖いのではないですか? 灼滅者が」
     樹のレイザースラストに、銃を絡め取られているリーリヤを、仲間達と連携して包囲しながら問いかけるは、色射・緋頼(先を護るもの・d01617) 。
     右翼からのギィの愛刀の真っ向からの振り下ろしと、左翼からの宥氣の装飾品を断ち切ろうとする斬撃を斧で受け流しつつ、僅かに眉を顰めるリーリヤ。
    「? 怖い? 私が何を怖がっていると?」
    「貴女にとって、同類である、ダークネスでもなく、『弱者』である人間でもない……何時、自分達に牙をむいて来るかすらも分からない、『未知なる者』たる灼滅者が」
     天峰・結城(全方位戦術師・d02939) が周囲にばら撒いた大量のケミカルライトの発光を目印にしながら銀糸を高速で放ち、リーリヤの肩を切り裂きながら続ける緋頼。
    「お前達灼滅者は異常だ。サイキックアブソーバーの稼働以来、突然大量に出現し、我々を殺し続けている。しかも、私の様に、何時でも我らに体を明け渡して自滅して、莫大な力を得る様な爆弾を抱えたままな。これを、『異常』と言わずに何と言う」
    「さて……灼滅者としての貴女と吸血鬼としての貴女……本当はどちらが先に生まれたんでしょうね」
     結城が、ソーサルガーダーを使用して自らの守りを固めつつ、包囲を縮める。
     リーリヤが囲いを如何にして脱出するかを考える間に、悠花が接近して棒を横薙ぎに振るい、その先端から轟雷を撃ち出す。
     雷に胸を撃ち抜かれながらも、独楽の様に回転して戦斧を振るって追撃を許さず、距離を取ろうとするリーリヤ。
     戦斧に肩を切り裂かれながらも、悠花はリーリヤを見つめていた。
    「……リーリヤさんが行おうとしていることは、間違いじゃないかも知れません」
    「なるほど。私の理想を知っているか」
     『家族』として、人とダークネスを迎え入れ、両者の新たな共存の道を目指す理想。
     けれども、ヴァンパイアが『家族』と口にする度に、悠花の胸に疼くのは、過去の記憶と痛み。
     ……故に。
    「あなたが迎え入れたダークネスが、あなたと同じ志を持つとは、わたしにはどうしても思えないのです」
    「あんたが抱える、『生命維持と感染』。これは、どうしても切れない人とダークネスの溝だ」
     リーリヤの背を狙って襲い掛かる、雪風・椿(南海闘姫・d24703) 。
     バイオレンスギターを掻き鳴らして音波を生み、リーリヤを僅かに揺さぶる。
     其の間に……。
    「Schall、Bitte!」
     ラインが短く指示を出すと、シャルが、杖の下に付いたヘ音記号を指揮者の如く振るい、ハートを描きだし樹を癒した。
     チラリと目配せしてくる樹に頷き、高らかに歌いながらフラメンコギターを模したバイオレンスギターを弾き、リーリヤの体を続けて揺さぶるライン。
    「……流石に慣れている、と言う訳か」
    「リーリャさんはあなたに体を受け渡していますが、あなたになりたかったのではないはずですから」
    「吸血鬼は、命を維持する為に吸血する。其れだけなら死なないかも知れないけど、感染は止められない。感染したら人を物としか思わない奴が出て来る。それもあんたの『家族』の中から、必ずな!」
     ラインに頷き、リングスラッシャーを射出する椿。
     放たれた光輪の軌道を見切り、リーリヤがショットガンを構えて、散弾を後衛に撃ち出した。
     が……。
    「おっと! そうはさせないっすよ」
     ギィが黒い炎を纏った拳を振るい、リーリヤが咄嗟にバックステップ。
    「あの時、自分達は肩を並べて戦ってたんすから、そっちの手は分かっているすよ」
     躱されたと知りつつ不敵な笑みを浮かべるギィ。
    「まあ、そっちもでしょうが」
     空隙を埋める為踏み込んだギィの頭上から、宥氣が鋏に炎を纏わせ、レーヴァテイン。
    「確かに灼滅者は異常なのかも知れない。でも皆、人間の味方で仲間だ」
    「そう言い切れる根拠は何処にある?」
     紅蓮の炎を纏った刃に切り裂かれつつ、リーリヤが戦斧を振り上げる。
     鋭い斬り上げを避けきれず斬られそうになる宥氣の前に、悠花が飛び出し代わりに受け止め、鮮血を飛び散らせた。
    「では、あなたの理想が実現する根拠は何処にあるのですか? あなたが私達を否定するのと同じように、わたしも、ダークネスの集団の中に、一般人も集めようとするあなたの考えは否定させて頂きます」
    「あんたと同じ種族でも、人を感染したがる奴は出て来るんだ。なら、殺人鬼やシャドウが一緒じゃ尚更無理だ」
     傷つきながらもオーラキャノンでリーリヤの肩を撃ち抜き、訥々と語る悠花に合わせて椿が言い募り、シールドリングで悠花を癒して見切りを解除。
     其の間に樹が縛霊手を起動させて、霊状の網を展開する。
     展開された網が、軽くリーリヤを締め上げる間に、微かに目を細める樹。
    「リーリヤ。あなたが望むのは、あなただけの箱庭ね」
    「……私の理想が箱庭だと?」
    「ええ。そうよ。弱者の保護を騙った支配」
     弱者である一般人を家族と見做して保護し、ダークネスでも求める者がいれば家族とする。
     しかし、全てを『家族』として受け入れ、そこから出ることを許さぬのは、ただの支配。
     ……『家族』とは、何時か巣立ちの時が訪れる場所だから。
    「思い通りにならなくなるから、灼滅者は『異常』として排除したいのではなくて? それよりも、なによりも……」
     静かに息をつく樹に、リーリヤが怪訝そうに目を細める。
    「何が言いたい?」
    「……もし、あなたの望む世界が本当の理想郷ならば、あなたの中のリーリャちゃんが、予知に掛かって見つかるとは思えないわ」
     それが自分の思い込みでも構わない。
     人の心を動かすのは、きっと想いの籠められた言葉だから。
     樹の真っ直ぐな説得に、リーリヤは思わず顔を歪めた。


     ――数分。
    「……わたし達灼滅者は、確かに異常でしょう」
     WOKシールドでリーリヤの攻撃を受け流し、盾の死角から糸を繰り出し、一撃を加えて。
     緋頼が、小さく呟いた。
     ダークネスは人を堕とすことでしか、種を増やすことが出来ない種族。
     しかし、灼滅者は人と交わり、繁殖出来る。
     けれども一方で、常に自らの心の闇に喰われる危険を孕んだ歪な存在。
    「ですが……だからこそ、わたしは、ダークネスも人も、灼滅者も分かり合えて共存できる、其れを理想としています」
    「……そうか」
     淡々と呟きながら、逆十字の光を後衛のシャルに叩き付けるリーリヤ。
     その攻撃を、銀糸を使って自分の方へと引き寄せながら、緋頼が想いを籠めて話し続ける。
    「だから……もしも、ダークネスが人を支配し堕とすのではなく、共に生きる事を望むのであれば、わたしは両者の仲立ちをすることを厭いません」
     其の位の覚悟は出来ている。
     でなければ、こんな理想を語ることなど、できる筈もない。
    「……!」
     緋頼の理想を覚悟に、リーリヤが、攻撃の手を緩める。
     ――その緋頼の姿が、もう1人の自分に映ったから。
    「先ほどあなたは言いました。灼滅者はアポトーシスの組み込まれたダークネスの悪性変異種だと」
     結城が黒死斬でリーリヤの脚を斬り裂き、足止めを行いながら静かに告げる。
    「それがどうした……?」
     問いかけを力に変え、足の負傷を癒しながら、首を傾げて結城に問い返すリーリヤ。
    「では、そのアポトーシスを組み込まれた我々の仲間……リーリャさんが、どうして生まれ、そしてずっと存在しているのでしょうか?」
     戦斧による強撃を、両腕を交差して受け止めながらの結城の問い。
    「それは……」
     咄嗟に距離を取ろうとするリーリヤの背後から、椿が再びリングスラッシャー。
     撃ち出された光輪がリーリヤの脚を切り裂き、彼女が逃げる隙を奪う。
    「……何事にも理由や原因があります。今、あなたが逃げようとしたことにも、リーリャさんがあなたの中で大きくなったことにも」
    「くっ……!」
     シャルに傷を癒されながらの結城の呟きに、僅かに唇を噛み締め次の隙を伺うリーリヤ。
     けれどもそれよりも先に、ギィが黒いオーラを纏ったギルティクロスで追撃を掛けた。
    「仮に善良なダークネスがいたとして、そいつが残虐な暴君に変貌した時に誰が止めるんすかね?」
    「そういうダークネスが現れたら、その時には私が止めよう」
    「お為ごかしには乗らないっす。そのアンタがそうなった場合に誰が止めるのかを聞いてるんすから」
     戦斧に愛刀で戦斧とぶつかっていき、火花を散らしながら、口の端に笑みを浮かべるギィ。
    「それとも、昏い感情に支配されて、闇に堕ちた者の善政と健闘に期待しろと? 笑える理想論っすね」
    「……クッ」
     軽く舌打ちをしながらリーリヤが後退する。
    「俺達灼滅者だって人間と同じ様に笑ったり、怒ったり、泣いたりするんだ」
     ラインの歌に傷を癒された宥氣が呟きながら、鋏でその脇を斬り払う。
     開いた傷口から鋏の錆を感染させ、リーリヤの内部から怒りを湧き上らせた。
    「それがどうした!」
     逆十字の矢で宥氣を撃ち抜こうとする、リーリヤ。
     だが、怒りから生まれた綻びを見逃さず緋頼が割って入って庇い、リーリヤを見つめた。
    「昔は、ダークネスは敵でした」
     そう小さく告げた緋頼に意識を向ける、リーリヤ。
     その隙を見逃さず悠花が懐に飛び込み閃光百裂拳。
     悠花もまた、緋頼の告白に耳を傾けていた。
    「でも、今はそう思いません」
     離脱する悠花を援護する様に銀糸を繰り出しリーリヤの動きを牽制しながら、緋頼が続ける。
    「ダークネスも、私達や人々と同じで、色々な方がいることが分かりましたから」
    「……」
    「色々、ですか……」
     黙り込むリーリヤに変わって独り言ちたのは、悠花。
     リーリヤが後衛に向かってばら撒いた散弾を、轟雷で撃ち落としながら語り掛ける。
    「……あなたの様に、ダークネスにも色々な方がいることを、今日、私は知りました」
     そう。
     リーリヤ……ノブレス・オブリージュを掲げる彼女の様な、気高きダークネスもいることを。
     或いは、そういうダークネスに任せれば、誰もが望む理想の世界を生み出すことが出来るのかも知れない。
     けれど、もし、そうだとしても。
    「私は、灼滅者の存在は有意義だと信じて、戦い続けていきます。緋頼さんの様な、理想を持った仲間達と」
    「人間は立ち止まっても悩んでも、自分の足で歩いて行けるわ」
     祭霊光で緋頼を癒しながら、樹が決意を籠めて告げる。
    「そうっすよ。だから、余計な指図をする道標は不要」
     ギィがあの時と同じく、漆黒のオーラを纏った刃でその身を切り裂き。
    「リーリヤさん。緋頼さん達は、あなたの理想を越えた理想を求めて戦っているのです」
     告げながら、結城がすかさずシールドバッシュ。
    「……!」
     叩きつけられた盾に反射的に戦斧で応じる、リーリヤ。
    「その理想の為に、リーリャさんを連れ戻したい。そういうことでしょう」
     戦斧にその肩を切り裂かれながらも、諭す結城。
     椿が、結城を援護する様にリングスラッシャーを射出する。
    「共存は、打開策を見つけてからでも遅くないと思うぜ」
    「それは……お前達も同じこと」
     放たれた光輪を斧で切り捨て、散弾銃の引鉄を引くリーリヤ。
     ラインが、散弾に撃ち抜かれながらも、仲間を癒す為、あの時と同じく歌い続けている。
     ――たった1つの想いを籠めて。
    「リーリャさん。あなたを、必ず連れ戻します。あなたに、お礼を言う為に」
    「それはただの自己満足だろう?」
     問いかけるリーリヤ。
     けれども、目を逸らさず、ラインは躊躇いなく頷いた。
    「はい。例え、私の自己満足であってもです」
     淀みなく放たれた答えと、決して揺るがぬその瞳が、リーリヤの心を深く射抜く。
     思わず心臓に手を当てたリーリヤに、宥氣が閃光百裂拳。
     正拳突きから始めた、流水の如き滑らかさで放たれる連撃がリーリヤに深手を与え、よろけさせる。
     そして、其の隙を見逃さず。
    「Gehen Sie! Schall!」
     ラインが鋭くシャルに命じた。
     主の命に応じて杖のト音記号側を勇ましく振るったシャルが竜巻を生み出し、リーリヤがそれに飲みこまれた時……リーリヤは、深い眠りに落ちていった。


     竜巻が晴れるや否やリーリャに駆け寄ったラインが、金髪の少女を抱き留める。
    「リーリャさん……」
     ゆっくりと瞼を開いたリーリャが、素っ頓狂な声を上げた。
    「……わひゃん?!」
    「待たせたっすね。……白馬の王子様たちが、助けに来たっすよ」
     ギィの言葉を、冗談として受け止めたのか、ただ、パチパチと瞬きで返す、リーリャ。
    「……お帰りなさい。リーリャさん。あの時は、ありがとうございました」
     ラインが微笑みつつそう告げると、リーリャは小さく首を縦に振った。
    「はい。ただいま、戻りました」
     そのまま、樹に差し出された手を取り、立ち上がる。
    「さてと、帰りにパーっとやろうぜ。今は何もかも忘れてな!」
     仲間の帰還に喜色を表し笑顔を向ける椿に頷き、灼滅者達は静かにその場を後にした。
     
     

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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