銀河ステーション

    作者:菖蒲

    ●stella transvolans
     秋を忘れ、冬の寒さを思い出す。厚手のコートとマフラーの用意が必要であろうか。
     色付いた葉は青々とした少年時代を忘れたかのようにほんのりと頬を染めて揺れている。
     海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)は冬空に白い息を一つ吐き、祖父の愛用した望遠鏡を担ぐ。都会の空よりもなお明るい、『そら』を目指す様に電車に乗り込んだ。
     警鐘と共に動きを止めた電車は無人駅に到達する――そこは、銀河ステーション。
    「なんてさ、ちょっとした冗談だって楽しいだろ?」
     レジャーシートとスナック菓子、暖かい日本茶を魔法瓶に詰め込んで。
     リュックサックと望遠鏡を肩にかけた汐が振り仰げば不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)が息を飲む。
    「――まるで、プラネタリウムなの」

     暦はぐるりと巡ってゆく。
     汐と真鶴の誘いは12月に見ごろを迎える『ふたご座流星群』を見に行こうと言うものだ。人工的な灯りをぼんやりと灯した無人駅、そこから一歩踏み出せば自然が織りなす鮮やかな光りが降り注ぐ。
     飾られた宝石が降り注ぐかのようなその場所は、微かに潮の香りが漂った。
    「海沿いの駅から、山の丘へと歩いて行けば、本当に綺麗なんだ。
     無人駅って言ってもさ、そこまで都会とは離れてないから丘の上からなら街の明かりも見えるはず」
     駅の名前を汐や真鶴に聞けど、忘れたと首を振る。童話になぞって銀河ステーションと秘密を共有する様に呼ぶだけだ。
    「天体観測だけじゃないの。何処か、秘密の場所を探しても良いと思うの」
     きっと、それが思い出になるだろうから。ふたりだけの、友人同士の、小さなひみつ。
     だから、この『ないしょばなし』にもう一つだけ重ねよう。
    「でも、この場所は俺達だけのひみつだぞ」
     ――それは、この冬に訪れた星々の為の、ひみつ。
     次は、銀河ステーション。銀河ステーション。降りられる方は……。


    ■リプレイ


     タタン、タタンと規則正しい音がひとつ。
     手にしたミニ・ボストンに熱い紅茶とブランケット、カイロを詰め込んで。百花が見下ろす車窓は暗い海が広がった。
    「電車に乗ってって……近場でもちょびっと旅行気分ね♪」
     車窓に映ったエアンと百花。二人の顔が楽しげで不思議と胸が高鳴った。次の停車駅はどこだろう――名も知らぬ星見の駅はもう少し。
     だいすき、と。囁く声は電車の音に飲まれぬ様に――もう少し話をしよう。銀河ステーションに着くまで。
     誰も気には止めない無人駅。海に揺れる蛍烏賊より明るい童話の世界に踏み入れて依子は振り仰ぐ。
     ニット帽を耳まで降ろした篠介が、星明かりを頼りに丘へと向かう。「篠介隊長、旅の行先はどこにしますか?」と冗句めかして笑えば、ゆっくりと副隊長の頸へと褒美のマフラー。
     手を繋いで、何処までも。昏い森に何か出るかもと小さく笑って二人して顔を上げる。
    「――此処がワシらの秘密の場所じゃな」
    「二人の秘密基地、なんて素敵」
     めぐる時を遡って、ねえ、星と二人だけの秘密の話をしませんか。
     肩に持たれて眠る御調の肩をとんとんと叩いた衛は開いた扉をじと見つめる。
    「わ、わ」
     慌てて起きた彼女が反対方向に向かいそうになり、あたふたと身体を逸らす。飛びおりる様に電車から降り立った駅舎から眺める星が余りにも美しいから。
    「駅でこれだから、向こうはもっと……?」
     鞄につめたブランケットと星図盤。星屑を数えて、毀れた笑みが愛しくて。
     もっと眺めたいと願う彼女の肩を抱いて綺麗と告げるのはもう少し。
     静まり返った駅舎で二人、「さむっ」と苦手な寒さに震えた御伽へと「カイロいる」と囁く頬に照れ隠し。
    「――内緒、……あるの?」
     無人の駅にふたりぼっち。内緒話に丁度良い。不満げな茅花の瞳に映る星屑に願いを込めて瞬いた。
     幼い子供の様に首を傾いで、「貴方の意地悪、嫌いじゃないわ」と囁くその言葉に一つだけ、教えてあげよう。
    「――俺も。茅花さんの悪戯、嫌いじゃないぜ」
     音を立て開く扉のその先に頬を掠める潮の香りが懐かしい。
     立ち止った成海の声に振り仰いで汐は「おひとり?」と茶化す様に声を掛けた。
     ペルセウスの星屑の下、齧った特別を思い出し、成海は「きっと、私も海島さんと一緒なんです」と唇に乗せた。
     空と海、青の息吹がいのちを紡ぐ。
     学年も、外見も、何も似通ってないけれど――今日は『似た者同士』としてふたご座に肖ろう。
    「これもナイショのひとつになる?」
    「じゃあ、今日も特別かな。センパイ」
     浜まで歩きましょうと振り仰ぐ。海の近くが、らしく居られる筈だから。
    「無人の駅って、わたし初めて」
     ふるりと震えたましろに倭は故郷の様子を思い出す。峠の無人駅、そのすぐ傍の牧場跡でのキャンプ――冒険譚のようなそれにましろは瞳を輝かせた。
     炎を灯したオイルランプの光りに誘われて、冷たくなった掌を握りしめて二人でひみつのばしょへ。
    「わ、わ、すごいよ、光りのシャワーみたい!」
     眸で輝く星が全て。ミルクティーの湯気の様に登る願いを重ねてひとつ、ふたつ。
    「また来ようね、ひみつのばしょに」
     指切りを交わして――もう、叶ってしまった、たった一つの願いを飲み込んだ。
     一人掛けのレジャーマット、肌寒さを感じながら旅往くボストンバックを抱えたイコの掌は愛しい人と繋がって。
     手招く様な星の世界に誘われて、マットの上に腰かけて、特等席へと御招待。
    「そうです、薄着はハグする口実なのですよぉ、ヒヒ!」
     冗談交じりに、ぬくもりを分かち合う塩蔵の仕草に笑みを零したイコがブランケットにくるまった。
     伝わる温もりが、愛おしくて。顔を上げたら、出発の音がする。
     降る星の雨を追い掛けて、旅路は安全だろうかと一人瞬く腕の中――あなたとならば、世界の涯てまでも。
     じじじ、と電子音と共に人工的な明りが存在する。見慣れたそれを眺める壱の胸元からひょこりと顔を出したきなこが興味深そうに尻尾を揺らした。
     見慣れた顔触れの商品群。あちらこちらと目移りするみをきに壱は「ココア?」と問い掛けた。
    「すごい……!」
     は、と顔を上げたその向こう――満天の星空に、宇宙の神秘を思い知る。
     どんな願いを掛けようか。手を握り、一つ言葉にしてみよう――このぬくもりが、ずっと傍に。
     流れた星に『エーイドリョク』と小さく一つ。顔をうずめた後頭部は獣の香りがするものだった。


     銀河ステーション。宮沢賢治の童話を思い出した名草の言葉に優衣は「銀河鉄道の夜が好き」と告げた。
     澄んだ星空に、星図と方位磁石を一つ。彼らの『天空旅行』が始まった。
    「宮沢賢治なら藍晶石に例えるのかな? それとも瑠璃?」
     あれは、これはと一つ二つと指差して。ロングマフラーで寄り添ったからだが星の森で迷子になった。
     星屑と君。どちらも綺麗で残しておきたいから。一緒にと伸ばした手に、フレームの中で微笑み会った二人が残る。
     望遠鏡と防寒対策。友に進むライドキャリバーが小さく音を立てる。
     真理の胸に過ぎった漠然とした不安と虚しさを飲み込む事が出来なくて。
     今日の夜空は美しい。ヘル君と呼んだ相棒と寄り添って。今日は一人で空を見よう。
     吹き抜ける風に揺れる木の葉。丘の上で感じたメロディーを口ずさむ紗夜に天摩は小さく頷いた。
     音楽を作り出そうと夢中になった彼女に「朝まで一緒に」と付け加えた天摩は腰を据える。
    「何か、願いが?」
     彼女の言葉に曖昧に笑みを浮かべた。
     どうしてだろう、自分の中に生まれた星の様な感情は、流れていかない気がして――煌めくそれを見送って唇を鎖した。
     丘に登って、街中では見れない景色に冬人は息を飲む。ちらと視線を向けたセンリの緊張した表情に、自然に強張った身体が憎い。
    「……不思議ですね。遠出も、星空を見るのも」
     呟く言葉に頷いて、綺麗だなと呟くセンリに彼はついと顔を上げた。落ちる星屑が丘の向こうの街と混ざり合う様に輝いて。
     星の中を散歩してるんですねと加えた言葉にセンリは可笑しそうに小さく笑う。
     紅葉が色付く様に、ざわめく胸が何処か可笑しくて。この景色を一緒に見るのは先輩が良い。なんとなくだけれど、そう思う。
     丘の廃屋の屋根にエスコート。心桜は明莉の呼び声に誘われる様に屋根へと登る。
    「高ーい! 星が近ーい!」
     両の手を広げて、星に近づける気がしないかと笑う彼に心桜は可笑しそうに小さく笑う。降る流れ星はまるで、人の命。ダークネスが塵になった後どうなるか。考えるだに解らないその言葉に首を傾げた彼女は明莉の肩にこてんと凭れる。
    「魂が星に還るのかもしれんなあ」
     オリオン座を差して、落とした口付けに。共に笑いあえるこの日々が尊いから。いつまでも輝いていて。
    「やや寒いですが、絶好の天体観測日和ですね……♪」
     嬉しそうな翔也の言葉に頷く薫は用意した椅子に腰かけて、ブランケットにくるまった。
     おにぎりとお茶、絶好の観測日和に翔也の用意した悪戯は長めのマフラー。二人で包まれて暖かさを共有しよう。
    「あっ、流れ星です」
     翔也さん、と呼んだ声。願い事は三回唇に乗せて。リズム良く。これからも、ずっと共にと――
     さとの行きたい所まで。そう告げた錠の言葉に小さく頷いて理利は丘を登る。
    「星を好きになった切欠はなんですか?」
     小さな呟きに、首を傾げ夜の間だけ見えると図鑑で読んだ明るいうちに気付いて貰えない、暗闇の中で光る存在。
    「おれは……」
     灼滅者になってから、闇の中でも変わらずにいる星へと羨望が満ち溢れて仕方ない。迷いは、生きてる証拠だと頭にポンと掌を載せて。
     傍で願いをかなえる星となりたいと。そう祈る彼との時間が続く様に、ああ、今日は泣いてしまいそう。
     大きめの枝に二人揃って腰かけて、緋頼は小さく瞬いた。
    「暗いと星って綺麗なんだね」
     いつもは綺麗な星は見れなくて。都会の明りが隠した景色に落ち付くと白焔は胸を撫で下ろす。
    「わたしも、周りが暗い方が綺麗かなあ?」
     落ちた影に重ねた唇の温もりが、言葉を飲み込んで繰り返される。
     己の隣にいる時が一番綺麗だから。自惚れは真実と変わって、輝いた。
     小高い草原で二人きり。関係が恋人と言う名になってからは初めての経験だ。
     静香の膝に頭を乗せて、星を眺める暦は柔らかに眸を細めた。
    「一番近くで、本物より綺麗な星を見ていますよ? 暦の瞳に映った星屑を」
     星空(ひとみ)を褒められるのは気恥ずかしい。頬に差した紅色も愛おしくて、暦は夜空(ひとみ)の方がと髪先へと手を伸ばした。
     そんな何気ない時間が酷く、愛おしくて。


     昏い森は何処か、迷路の様で。お化けなんて居る訳ないと宙を切った言葉に狭霧は小さく息を飲む。
     ホットココアとカメラを肩に下げた朔之助の躊躇いの無い足取りに誘われたカーティスがはっとした様に顔を上げた。
     ひとつ、宙を過ぎ去る星屑。追いかけて、丘の上に転がった彼はクマのブランケットにくるまった。
    「綺麗やな」と、何処からともなく聞こえた言葉に小さく頷いた嵐の仕草でうさ耳ポンチョが揺れた。
     個性的な仲間達は【宵空】に集う様に、星を求める。こうして星を見るのは幾度目かと櫂は嬉しそうに笑みを零した。
     人知れずの星空は秘密の場所と呼べば心地よくて。寒ささえも忘れた様に葵はゆっくり手を伸ばす。
    「――オリオン座は直ぐ分かる。その少し離れた場所、星が飛び出してくる辺りにある星がカストル」
     葵の言葉に小さく頷いて、遠い筈の夜空が近いと玄鳥は柔らかに笑みを零す。星もお化けも、今のこの場所は秘密にしていて――きっと、引力に惹かれてであった秘密の駅なのだから。
    「約束、しとったみたいやね……」
     約束に、簡素な濁りない言葉を乗せた薫はほうと息を吐く。白い息とともに吐き出した褒め言葉は、星達への願いにも似ている様で。
    「ねえ」と言い掛けて名前を呼ぶのは気恥ずかしいと櫂はストールで誤魔化すその仕草も朔之助のビデオカメラに収まって。
     何時の日か、これを見て皆で笑いあえるのだろうと彼は嬉しそうに微笑んだ。
     星の事、図鑑で調べれば良かったかなぁ……、と。ミユの想いは満天の星空で何処かに消し飛んだ。
     コートとマフラーにしっかりとした防寒を整えたナタリアは潮の香りを鼻先に霞めながら顔をついと上げた。
    「……凄い」
     小さな呟きに、【星空眺め隊】の名も映える。銘子はおいでとアルミシートを敷いて真鶴と汐を手招いた。
    「ホットココアを作るわよ。一緒に良ければどうぞ」
     カイロと膝掛け。準備万端であれど、寒さは凌げなくて。汐の小さなくしゃみに銘子は笑みを零した。
    「ねぇおりとん、仙とままれ、岬の誰が暖かいかしら」
     それが近いと両の手を広げてはしゃぐ織兎は小さく首を傾げる。
     ままれと仙、岬。どちらもふんわりとして暖かそう――だけれども、「みんなと一緒に星空ずっと眺めてたいな」と彼は笑みを零してコートにままれを突っ込んだ。
     柔らかに細め瞳が交差して。ミユとナタリアは互いに微笑みあった。
     風に靡くマフラー。寒空は空気が澄んでいる様で、息を吸い込んだ健はカイロを握りしめる。
    「身体冷やさない様に……っと」
     はしゃぐ勇介に手渡したカイロ。茶葉からアレンジしたロイヤルミルクティを抱えた勇介は健の言葉に頷いた。
    「ゆーちゃん、はしゃぎ過ぎっ」と頬を膨らませる陽桜は【きねま】の面々の想いももいの姿に瞳を細める。
     夏に見上げた空は何処までも切なく思えて――陽桜は、今は楽しげな空気に空も煌めく様だと息を吐いた。
     懐炉入りの座布団に腰かけた曜灯は手鍋を火にかけながら野菜たっぷりのポトフを温めた。
    「はい、ポトフが温まったわよ」
     沢山の暖かさ。湯気立つそれに彼らがひとつ、幸福を覚える頃、空に星が降り注いだ。
     星空柄のレジャーシート。上も下も宇宙空間だと【西久保3-D】の友人を招いたららが瞳を輝かせる。
     スープジャーに入れたポタージュに星型クルトンを浮かべて、即席ミルキーウェイを作りだす彼女に「すげー!」とリュータが瞳を輝かせた。
    「俺はお菓子持ってきた! コンペイトウだろー、星の形のクッキーに星の形のキャンディ……」
    「リュータくんは沢山食べるでしょうし、サンドウイッチもいかがですか?」
     柔らかに微笑む耀に彼は眸を輝かせた。丘の上の廃屋の中、寒さもしのげた不思議なピクニック。
     星の話しはマナちゃんが詳しそうと噺を振られた真鶴が「えっとね」と懸命に脳内辞書を引いている。
    「星、ぴかぴかして綺麗だなー」
    「上も下も、お腹の中もお星様いっぱいなのね」
     また、皆で天体観測に来たいねと微笑む先に流れ星一つ。季節巡れば、きっとまた――
    「ほら、あの辺にリゲル。幸運の星、なんだって」
     さくらえが振り返り、想希と勇弥の幸福を祈ると柔らかに告げる。幸運の星の加護を一つ。
     保温ポットの中で揺れたブルーベリーシロップのカフェラテ『Polaris』はこの集まりを祈るかのようで。
     カップに乗せた星型ゴーダワッフル。ホワイトチョコがちらりと見えて愛らしい。
     道標の珈琲に、幸運の流れ星。どれもが甘く蕩ける様な思い出に変化する。
    「そうだ。さくらに成人式の着付けなんて頼めるんです?」
    「じゃ、さくらお願いできるかな」
     振袖をとさくらえに進める想希から視線を逸らしたさくらえは「怪しい気が」と小さく呟いた。
     流れ星と指差す方へ。きっと希望で満ち溢れた未来がそこに待っている。


     実家に居る頃は二人で見たねと思い出を馳せて。蓮花は星空に夢中の風樹をちらりと見つめる。
    「流れ星、見えるかな? 沢山見たいね」
     袖を引っ張る彼女に悪いと頬を掻いた風樹は小さく頷いた。星空の下、小さな義妹との銀河旅行。
    「あ、今流れた! ほらまた!」
     ひとつ、ふたつと降り注ぐ。それが何処までも美しくて――銀河鉄道に乗っているみたいだと冗句めかした。
     流れ星に幸福を乗せて願おう。
    「ね、ひみつ基地……さがそ」
     つい、と指差す時兎の声に聡士がいいねぇと笑みを零す。音をたて自販機で適当に押した缶飲料。

    「流れ星に願う事は?」
    「――内緒」
     森の奥――悪いお化けが居るかもしれない、なんてその言葉が語らうよりも願うよりも十分に面白くて。
     夜はまだ長いから、星空は後に回して、好奇心の侭、森を往こう。秘密の場所を手探りで探して。
    「星見る時の必需品!」
     じゃん、と用意したポットのホットプリン。寒冷へと適応した優雨の鼻孔を擽る甘さに困った様な笑みが浮かぶ。
     夜空を飾った星が、紺の空に光る白と橙を思わせた。青い星が点滅している様に見えて美しい。
    「優雨先輩と一緒に見ているからかなぁ?」
     二人一緒だから、きっと美しく見えるんだと二人で願うのはこれからの幸福と、共に在る為の証左。
     廃屋に二人。冬の空は好きだと珈琲を飲んだ翔琉はほっと息を吐く。
    「星は標であり支えだったって前に話したよな。でも、今はそんなでもないんだ」
     それは、きっと『カケル』が居るから。標で、希望の光で、支え。
     璃衣の藍の瞳に星が駆けた。小さなくしゃみを抱え込み、唇に乗せた願いを星が攫った。
     緑のポンチョにふわふわ耳あて。可愛らしい装いで真琴と潤子は丘へと腰かけた。
    「まだちょっと早いかもですが、今年も色々ご一緒してくれてありがとうございます」
     用意したココアとサンドイッチ。二人の秘密のディナーに乗せた感謝の言葉に潤子の胸が熱くなる。
     こちらこそと笑みを零して、流れる星に願いを馳せよう。
    「ずっとずっと一緒に居られます様に」
     二人揃っての願いなら、きっと、効果も二倍になると、二人の笑みは深くなる。
    「誘ってくれて、ありがと、う……」
     白いニットカーディガンでも海風は小夜の肌を擽る様に吹いてくる。厚手のコートを身に纏った秋邏は彼女の指を掬いあげ、ゆっくりと絡ました。
    「空気が澄んでいるからか……こんなに綺麗な星空は初めて見た」
     小さく吐く吐息に、小夜が小さく頷く。暖かい指先を離す事無く――星に願おう。
     これからも、ずっと、一緒に居られます様に。
     寒い。けれどそれが星を見る絶対条件のように思えて、郁は「願い事3回唱えるんだっけ」と唇に乗せた。
     見えたら祈ろうかと修太郎が郁を追う。コートとマフラー、タイツにレッグウォーマー。寒さ対策を万全に。けれど、掌は寒さに凍える様で。
     差し出す手を握りしめ、どこか積極的な彼女に高鳴る胸を抑えた修太郎はロールサンド『リベンジ』に笑みを零す。
     ぴたりと隣に座って一つ。これからも一緒に――そう願うこの時間が嬉しくて愛おしい。
    「海の向こうには何があるのですか?」
     チェーンで繋いだ指輪が頸でゆらりと揺れている。無意識に触ったのは、昏い底へと飲まれそうな不安感。
     不安なんて消し去る様に、握りしめた掌が、暖かくて。
    「海の向こうには、僕の故郷かな」
     何時か、連れていきたいと。指輪の意味を教える様に唇に乗せて囁いた。
     この星の様に、旅路の終着点がそこならば――きっとそれだって良い。
    「このはさん。終電、出ちゃいますよもう」
     慌てたように走りながら、振り仰いだ星の意味を忘れぬ様に網膜に焼き付けて。
     ――ほら、遠くに見えた銀河鉄道の汽笛が聞こえるかい。
     忘れられない夢に落ちて、君を誘うのだろうから。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月8日
    難度:簡単
    参加:70人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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