
『真夜中に口笛を吹いていると、白蛇に食べられる――』
そんな噂を聞きつけて。
真夜中の廃屋の調査をしていたアリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)の前に現れたのは、血塗れの本を持つタタリガミだった。
『この家に昔住んでいた子供は、人身売買によっていなくなってしまったそうです……そのときの人買いの合図が口笛だったとか』
小さな女の子の姿をしたタタリガミ。
タタリ・ナナはアリスの方をちらりと見てから語る。
『まあ、真実かどうかは分かりませんが。現実にあったことを、怪物のせいにするのは古来よりのならわしですから……私も先人達を真似て作ってみました。この都市伝説の子を』
タタリガミが口笛を吹く。
すると、影がするすると暗闇から這いよる。どんどんと長く長くなっていく躯体が部屋全体に伸び――巨大な白蛇の形を作った。
「シャアアアアア!!」
『放っておけば、この子が本当に人を食べ出すでしょうね』
大蛇が威嚇するように唸り上げ。
タタリガミは都市伝説の頭を一撫でして、幻のように姿を消した。
『さて、次はどんな都市伝説を創りましょうか。それでは、御機嫌よう――灼滅者のお姉ちゃん』
「アリスさんからの、情報提供により都市伝説が確認されました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者達に依頼を説明する。
「今回の依頼は、口笛を吹くと出現して人を襲い出す都市伝説の灼滅です」
陽が沈んだ夜の時間帯。
場所は、とある廃屋の周辺で。
口笛を吹くと現れる都市伝説。巨大な白蛇の姿をした怪物であり。人を喰らう凶暴性をもった獣だ。早々に撃退しておかねば被害が出かねない。
「皆さんには、廃屋の中で白蛇を呼び出して戦ってもらうことにはなります」
この都市伝説は、口笛を吹いて呼び出した者を中心に攻撃してくる。
廃屋の中は、荒れ放題なので多少足場が悪いが。広さは戦闘する分には問題ないようだ。
「人を喰らおうとする危険な都市伝説です。充分にお気をつけて。皆さんの健闘をお祈りします」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165) |
![]() 苗代・燈(風纏い・d04822) |
![]() 魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911) |
![]() 可罰・恣欠(リシャッフル・d25421) |
![]() フリル・インレアン(小学生人狼・d32564) |
![]() アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721) |
櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003) |
![]() 新堂・アンジェラ(業火の魔法使い・d35803) |
●
「昔、ばあちゃんが言ってたなあ……夜に口笛を吹いたら蛇が出るって。まさか都市伝説として現れるとは」
苗代・燈(風纏い・d04822)は、腰から提げれるタイプのLEDライトを持参。足場は良くないということで、動きやすいスニーカーを履いてきており。白蛇を呼び出す前に足場の悪いところを確認し、覚えておく。
陽が沈んだ夜の時間帯。
灼滅者達は、問題の廃屋へと足を踏み入れていた。
――この家に昔住んでいた子供は、人身売買によっていなくなってしまったそうです。
「嫌な噂話ですね」
首を傾げる魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)の顔が、準備してきた明かりに照らされた。
「……雛人形と5月人形のつぎは……白蛇……いいよ……ナナのお話に……つき合ってあげる……だけど……人を食べる白蛇は……人を襲うまえに…………斬り裂く……」
殺界形成を使用しておき。
光源となるハンディタイプのライトを用意していた、アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)も、屋内の床や壁の穴の場所や足場の不安定な箇所を見て回る。新堂・アンジェラ(業火の魔法使い・d35803)は、空飛ぶ箒に乗ってLEDライトを首に下げていた。
(「手を空けたくなっても対応できるし。あと、この状況なら頑丈で動きやすい靴を選んでおいて正解だったみたいね」)
戦闘になったら箒からは降りるつもりだが。
家の中は、壊れた家具が散乱しており。リビングだったと思わしき部屋は、ゴミ捨て場のような有様だ。
「邪魔な瓦礫は隅にどかしておきます」
都市伝説を呼び出す前の時間を使い。
フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)は、明かりを片手に出来るだけ現場を整える。穴ができている場所の確認も、だ。
「周りも暗いし。灯りを点灯だね、うん」
予想通りの暗さのために、用意した灯りが役に立つ。
櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)は事前に中の荒れ具合を確かめ、どこが戦いやすいか、戦いにくいかを把握しておく。ただ、あまりにもひどい状態であるため。普通に歩くだけでも、ギシギシと何かが軋む音が絶えない。
「さてさて……口笛は嘯く事であり、白蛇は各地で神聖視され神の使いと呼ばれます」
準備は終わり。示し合せる。
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)は持ち込んだライトで視界を確保。
「即ち『真夜中に口笛を吹いていると、白蛇に食べられる』とは"夜の帳に隠れ悪事を働こうとも、必ずや天罰が下る"という意味なのでございます……無論、嘘ですが……」
周囲を警戒しつつ、灼滅者達は口笛を吹く。
夜に奏でられる複数の音。
特に目立つのは、とあるドイツ作曲家の手により生み出されたカノン。門出にふさわしい調べが、謎の技術で輪唱される。
(「都市伝説に開幕殴りされないよう警戒しておくデース」)
(「辺りを警戒しておこうかな。すぐに行動をおこせるようにね」)
仲間が都市伝説の出現条件を満たす間。
目を光らせる天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)と、用心する燈の肌に――悪しき敵意が突き刺さる。
「シャアアアア……」
「出た。上だ」
夜の帳が下りた中。
闇に紛れて巨大な白蛇が、天井に張り付いてすぐそこまで忍び寄ってきていた。
「口笛を吹くと蛇が出てきて食べられる……日本の怪談っていうかホラーだと、こういうの古典なの? あるいは特殊かな?」
都市伝説の出現に備えていた、アンジェラ。南の島でジャングルの原住民として育った少女が、敵との邂逅と同時に一気に襲い掛かる。
「シャッ!」
灼滅者の一撃によって、白蛇が地面へと落下する。
そこにアリスが影縛りで強襲し動きを止めにかかった。
「……じっとしててね……」
影で作った触手を放ち、敵を絡めとる。
灼滅者達は、上手く先制をした形をつくり。音を聞きつけて一般人の方が近寄らないように、狭霧もサウンドシャッターで戦場内の音を遮断する。
「シャアアアア!」
「来たね……」
聖は呟き。
牙を剥いて威嚇してくる巨体と、正面から向き合う。
「タタリガミさんにとっては戯れかもしれないけど……一般人さんたちにとってその都市伝説は恐怖の対象だったんだよね、うん。その気持ちを弄ぶのはちょっと許せないかな、うん。主の名の下に浄化してあげるから、かかってきてね」
●
「積極的に活動し、度々灼滅者の前にも姿を表すタタリガミでゴザルか。なかなか興味深いでゴザルが……まずは生み出された都市伝説を始末してからデース」
ウルスラの黒死斬が煌めき。
死角からの斬撃で敵の腱や急所を絶ち、怪物の足取りを鈍らせる。
「タタリ・ナナは色々なところで現れるな……中々に油断できないタタリガミみたいだな」
精密な神薙刃が、燈によって放たれ。
激しく渦巻く風の刃を生み出し、敵を斬り裂く。
「……ま、そのことは置いておいて。白蛇が一般の人を襲い始めたら大事だ。さっさと片付けよう。頑張ろうなハルル」
白い毛並みの柴犬の姿をした霊犬は、主人に応えるように斬魔刀と六文銭射撃で攻撃を加えた。
「シャアアア!!」
「おっと、危ないですね」
大蛇が主に狙ってくるのは、口笛を吹いていた者。恣欠は都市伝説の牙をぎりぎりに躱し。ジャマ―として影縛りとゲシュタルトバスターで、バッドステータスを相手に重ねる。
「真夜中に口笛を吹くと襲われる噂は私も聞いたことがあります。だから、真夜中に口笛を吹いてはいけないという教えでした」
フリルはメディックの役目を担う。
噂が実体化した都市伝説が味方を襲えば、ダメージが大きい者や行動阻害を受けた者を中心に回復していく。
「……斬り裂く……」
アリスは猫のようにしなやかに動き。
狼のように鋭い、黒死斬の一撃が飛び出す。
「総てを焼き尽くす紅蓮よ!」
アンジェラは、まずは炎を付与せんと。
グラインドファイアによる激しい蹴りを見舞う。
都市伝説の蛇は、身をよじり。ただでさえガタがきている廃屋は、怪物の巨体が這うたびに今にも崩れだしそうに揺れる。
(「巨大な白蛇の都市伝説ですか……あまりにも長いのはニガテです」)
足元の床には気をつけて、狭霧は移動して。
イエローサインを使って味方を回復させる。厄介なことに、戦闘が進むごとに耐えかねた床が抜け始め。足の踏み場が徐々に無くなっていく。
「どのへんが戦いやすいか、調べておいたけど。これはちょっと不安だね」
聖も気をつけながら相手へと近づき、クルセイドスラッシュを放つ。破邪の白光を放つ強烈な斬撃が、夜の闇で一際に輝く。
「ガァアア!」
対して白蛇の方は、どのような足場だろうと気にした様子もない。でかい身体に似合わぬ俊敏な器用さで、うまく隙間をうねり。灼滅者へと突撃してくる。
「生憎通りぬけは禁止でゴザルよ、邪なる者」
ディフェンダーのウルスラは、ラビリンスアーマーをメインに使用して回復を行いつつ。仲間をかばってダメージコントロールを行う。特に口笛を吹いた仲間は集中的に狙われるため、いつでも動けるように気を払っておく。
「夜口笛を蛇が出る。元は『邪が出る』だったそうデース? それも含めて都市伝説でゴザルか」
発音はいわゆる外人的。自称サムライの少女は、多少胡散臭い喋りながらも。価値観は至極真っ当であり、味方を守ることに尽力する。
「明かりがあるとはいえ、やはり少しやりにくいな」
腰のLEDライトが、大きな白蛇を照らす。
敵のみならず、床の心配も怠るわけにはいかない。燈も事前に把握しておいた地形情報を頼りに、注意しながら斬影刃を発動させる。スニーカーで踏んだ場所が、ギリリと嫌な音を立てる度に神経を使う。
薄暗い状況では、足元まで完全に気を配るのはなかなか難しい。かと言って、そちらばかりに気を取られていると相手の動きへの対応が遅れる。集中的に標的にされている者ならば、尚更のことだ。
「シャ!」
一瞬のことだった。
勢いをつけた白蛇が、壁を伝って高速に回り込み。恣欠に対して、顎が外れるほどの大口を開いてかぶりつく。
「なるほど……これが蛇の食事方法……」
それは、異様な光景だった。
こんな時でも飄々と。
上半身をほとんど丸呑みにされつつ、恣欠は呑気にのたまっている。完全に捕食されている最中の図だ。
「た、大変っ。す、すぐに助けます」
慌てたのは味方である。
おどおどしながらも、フリルは幻狼銀爪撃で敵の尾側を攻撃。アリスも己の片腕を半獣化させ、鋭い銀爪で大蛇へと躍り出る。
「……引き裂く……」
「シュッ!?」
驚いた蛇が、たまらず飛び退き。口の中の獲物を吐き出す。
敵の唾液なのか、胃液なのか、それ以外の何かなのか。とにかく、身体中べとべとになりながらも。廃屋の腐った床の上に弾き飛ばされて、恣欠は頭を振る。
「これで切り裂いてやるわ!」
アンジェラが龍骨斬りで、蛇へと追撃。龍の骨をも叩き斬る、強烈な斧の一撃で装甲を貫き。敵の防御を崩す。その隙に狭霧と聖は丸呑みにされていた仲間に駆け寄って、恣欠にラビリンスアーマーを施した。
「すごいことになっていたけど、大丈夫?」
「……なかなか得難い経験でした」
よく分からないが。
とにかく大事には至っていないようだった。
●
「……全力で……斬り裂く……」
屋内の壁や天井などを利用しながら。上下左右の変幻自在に飛び回りつつ軌跡を描き。緩急をつけながらアリスが攻撃を繰り出す。
「シャ、シャッツ!?」
灼滅者の動きに翻弄された、都市伝説は忙しなく頭部をキョロキョロさせる。トリッキーな動作についていけず、雲耀剣の一撃が鋭く突き刺さって傷を広げた。
「まぁ、都市伝説なら灼滅しちゃうから、風情も何もないんだけど。被害が出る前に、しっかり倒しちゃわないとね」
予言者の瞳で自己回復。
狙いの精度を上げて、アンジェラはスターゲイザーを叩きこむ。暗雲に月も隠れた丑三つ時。月明かりも届かぬ下で、灼滅者達は激闘を繰り広げる。
「シャ! シャシャ!!」
敵の傷がリングのような模様が浮かんで、治癒していき。お返しとばかりに、大蛇の口から機銃のような弾丸を飛んでくる。
「――」
狭霧は回復で忙しく立ち回り。
被害が重なる戦線を、支え続ける。
「敵も粘るね」
味方の回復が間に合わない場面も多々あり。
燈も防護符と清めの風で自身のケアを努める。
「タタリガミさんは、自分が食らって強くなるために都市伝説を作るみたいだけど……どうやら違うみたいだね……、うん。何か理由があるのかな……?」
疑念を浮かべながらも、聖は防御とBS耐性を強固にして攻撃していく。火力の高い近単攻撃を警戒しての気魄耐性の防具も功を奏し、敵からの攻撃を長期的に耐え凌いで味方を守る盾となった。
「下準備は充分ですね」
「……ヂュ、デュ?」
根気よくこなしてきたジャマ―作業。
炎が敵を焼き。捕縛が大蛇の動きを縛る。恣欠は攻撃手段を切り替え、斬弦糸によって更なるバッドステータスの増加を狙う。
「はてさて、生まれが不吉な噂でなければ主として守り神に成ることも出来たであろうに。生まれを選べぬというのはなんとも不幸なものでゴザルな、白蛇よ」
ウルスラのティアーズリッパーが、都市伝説へと迫り。敵は回避を試みるが、積み重なった負の効果で動きが鈍り。死角からの斬撃を、大々的に許す結果となる。
「怖いものとして恐怖していましたが、都市伝説になってしまえば灼滅するしかありませんね。私達は灼滅者ですから」
この好機を逃さず。
足元に注意して、フリルが影業を使用。影縛りによる、影の触手が都市伝説を捕縛する。
「シャ、シャシャー!!」
「……逃がさない……」
相手はなんとか逃れようともがき苦しむが。
アリスも、影縛りを使って加勢する。大蛇の身体には、幾重にも影が喰い込み。加速度的にその動きを縛りあげていく。
「ダメージ優先で叩き込んでいくよ」
そこへアンジェラがレーヴァテイン。
メディックの狭霧も、ここぞとレッドストライクを決める。灼滅者達は猛攻を仕掛け、形勢は一気に傾きを露わとした。
「ッツ! ガー!!」
大蛇は牙を振りかざすが、聖が分厚い刀身の剣を盾のように使って攻撃をいなし。ウルスラも防御を使い分け、上手くダメージを抑えていく。
「食べられるのは、一度で良いでしょうか?」
より手法を攻撃重視に変更。
恣欠の七不思議奇譚が、相手を追い詰める。白の鱗からは流血が夥しく、敵の限界が近いのは誰の目にも明らかだった。
「……もう、おやすみ」
白蛇に声を掛け。
口笛で目覚めることがもうないように、と。
利き手たる左手を異形化させて、燈は鬼神変の拳を振り抜く。都市伝説の巨体が、衝撃によって冗談じみた気安さで宙へと浮く。
「……最速で……斬り裂く」
空中で悶絶する敵へと。
アリスの居合斬りが一閃。目にも止まらぬ抜刀が、闇の空間ごと敵を斬り捨て――両断された白の巨躯が、泡となって消滅する。
隠れていた月明かりが差し込み。
灼滅者達と、戦場となった廃屋を淡い光が包み込んだ。
「結構、疲れたね」
「怖いものとして教わってきたので、少し怖かったですけど、頑張りました」
フリルは無事に事が終わったことに、ほっと安堵する。
戦闘の前より散らかった室内を、ウルスラは眼鏡越しに眺めて肩をすくめた。
「……ま、タタリガミの痕跡など残っておらぬでゴザルよな。さっさと帰りましょうデース」
怪我人を回復させながら。
仲間の言に、燈も頷いてみせる。
「長居する必要もないと思うし、気になるものがない限りはさっさと退散しよう」
「戦闘のあとだけは片付けていけばいいかな?」
最低限の後始末をと、アンジェラが現場を整理する。狭霧も一応、廃屋の中を掃除していき……そこで悲劇は起きた。
ドシャン!!
今日、一番の音を立てて。腐った床を盛大に踏み抜く。狭霧の足は見事に、すっぽりとハマってしまっていた。
「……」
戦闘中ではなかったのが、不幸中の幸いだが。また、戦闘中はずっと気をつけていたのだが。狭霧は無言で、己の両足を見つめる。
仲間が笑いながら手を貸したものだ。
ほどなく事後処理を終えて、灼滅者達は帰路へとつく。
最後にアリスは、此度の元凶タタリ・ナナの消えた方角を無表情で見つめ。誰にも聞こえぬような、小さな声をぽつりと漏らす。
「……どんな都市伝説を作っても……斬り裂く……よ……またね……タタリガミの……女の子……」
| 作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2015年12月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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