サンタクロースはあわてんぼ

    作者:カンナミユ

    「メリークリスマース!」
     陽気な声がクリスマスソングが流れる商店街に響く。
    「めりーくりすます、さんたさん!」
     チラシを配るサンタはクリスマス商品を予約して貰う為に店頭に立つ店員なのだろう。だが、それでもその姿は子供にとっては本物のサンタに違いない。
    「さんたさん、あーちゃんね、おにんぎょうさんほしいの!」
    「ぶーぶ、ちょーだい!」
     幼い女の子とよちよち歩きの男の子がサンタにお願いすれば、慌てて駆け寄るのは二人の母親。
     すみませんと頭を下げると二人をサンタから離す。
    「ままー、いまのさんたさんでしょ?」
     母親と手を繋ぎ歩く女の子は見上げて言えば、そうねと笑顔が返る。
     買い物帰りの3人はクリスマスソングを耳に歩いていると、
    「まま、どうしてくりすますまえにさんたさん、きたのかなあ」
     ふと、女の子は疑問を口にした。
     母親はうーん、と少し大げさに考えるしぐさをし、
    「クリスマスの飾りを見て勘違いしちゃったのかもね」
     そう言い、大きなクリスマスツリーへと視線を向けた。
     きらびやかなクリスマスツリーに、クリスマスソング。母親が言うように、勘違いをしてサンタがプレゼントを配りに来てもおかしくないかもしれない。
    「まま、あーちゃんね、おにんぎょうさんほしいの」
    「ぶーぶ、ぶーぶ!」
    「お人形さんに自動車ね、サンタさんにお願いしないと」
     無邪気な我が子の笑顔を目に、母親ははにかんだ。
      
    「まだ先なのに、どこもかしこもクリスマス一色に染まっていれば、勘違いしたサンタも慌てて飛び出すかもしれないよね」
     小さなサンタの人形を手に結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)はそんな事を口にした。
    「理央、サンタクロースがクリスマス前に現れるという噂が実体化する事が分かったんだ。君達にこの件の解決をお願いしたいのだけど、頼めるかな?」
    「任せてください」
     識守・理央(オズ・d04029)が頷くのを目に相馬は資料を開くと説明をはじめる。
     場所は郊外にある商店街。
    「この時期はどこもクリスマスの飾りをしているだろ? それを見た子供達が『サンタさんがクリスマス前に来るんじゃないか』と話し、噂になってね」
    「その噂が都市伝説になったと」
     理央は言い、相馬は説明を続けた。
    「サンタクロースはトナカイがひくそりに乗って空を飛び、商店街にやって来る。もちろん、人々は驚きパニックになる訳だ」
     相馬の説明によれば、商店街に訪れたサンタはプレゼント配りをサポートするミニサンタ達を呼び出すと人々を攻撃してしまうという。
     いくらなんでもサンタが攻撃するなんてと理央は疑問を抱くが、
    「実は不良達が空き缶をサンタに投げつけてしまうんだ。トナカイはびっくりするし、サンタも痛い思いをする。そんな事されたら誰だって怒るだろ?」
     そう話す相馬の言葉に理解した。
     空き缶やら小石やらを投げつけられたサンタは怒り、不良どころか周囲の人々をも攻撃するという。
    「サンタさんを怒らせない方法ってないんですか?」
     理央と一緒に説明を聞いていた三国・マコト(正義のファイター・dn0160)が聞けば、
    「サンタはクリスマスソングや飾りに引き寄せられるように商店街へと向かったようだから、不良達を近づけないとか……後は、そうだな、近くの公園とかに誘導するとか」
     資料をめくり、相馬は話す。
    「ミニサンタはとても弱く、そりに乗るサンタは灼滅者達と同じ位の強さだが……自分がクリスマス前に来てしまったと知ると慌てて帰るように、消滅してしまう」
    「せっかくだから帰る前サンタさんと楽しく過ごせたら面白いですよね」
     マコトの言葉に相馬と理央は頷いた。
    「相手はクリスマス前にやって来たサンタクロースだが、お前達なら大丈夫な筈だ」
     そう言い、相馬は資料を閉じると灼滅者達を見渡し言葉を続けた。
    「少し早めのクリスマスを皆で楽しんできて欲しい。頑張ってくれ」


    参加者
    識守・理央(オズ・d04029)
    柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    琶咲・輝乃(あいを取り戻した優しき幼子・d24803)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)
    上里・桃(生涯学習・d30693)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)

    ■リプレイ


    「もう12月なんだね。はやいなぁ~」
     はあっと白い息を吐き出し、白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)は雲ひとつない空を見渡した。
    「ここの所ずっと暖かかったから11月って気がしなかったし。最近一気に寒くなったけど。季節に合った気温って大切だね……」
     ビハインドである先生が仲間の気配を感じたのか、顔を上げれば箒に乗り空を飛ぶ不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)が見える。
     茜から藍に変わり行く空を飛ぶ九朗は、クリスマスソングや飾りに惹かれて商店街にやって来るというサンタクロースを探していた。
     空から見下ろす商店街はクリスマス前だというのに、まるで今日がクリスマスといわんばかりの雰囲気で、確かにこれならサンタクロースが勘違いするのは無理もない。
    「サンタさんと楽しい時間を過ごしたいね」
     ラジカセを持参した識守・理央(オズ・d04029)はサポートに来てくれた燈と共に街路樹を飾っていると、既に飾り付けられた超巨大な靴下が視界に飛び込んでくる。
    「ん……これで、サンタさんをうまく歓迎できたらいいけど」
     用意してきた超巨大靴下の飾り付けを終え、山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は周囲をぐるっと見渡した。
     靴下は透流が事前に編み上げたもので、クリスマス前にやって来てしまったあわてんぼうなサンタクロースを歓迎する為に頑張って作ったのだ。
    「サンタさんなんて年じゃもうないけど、サンタさんを信じているみんなに夢を少しでも与えられたらいいな」
     そんな事を言いながらもサンタを信じていた子供の時の事を思い出す透流だが、ダークネスと血生臭い戦いに身を投じている今の自分に、ちょっと後ろめたい気持ちになってみたり。
     そんな中、柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)は飾り付けに悪戦苦闘中。
    「う……脚立使っても上届かねぇ……」
     木にキラキラぴかぴかの飾りを付けようとするも届かない。脚立を使っても届かない。
     困った。これはもう木登りするしかないか?!
     そんなイオを三国・マコト(正義のファイター・dn0160)もできるだけサポートし、飾りつけた木々はキラキラぴかぴかと輝きを放つ。
     皆でパーティーの準備をしている中、
    「配り終わったよ」
     エイティーンで姿を変えた琶咲・輝乃(あいを取り戻した優しき幼子・d24803)が公園に戻ってきた。
     せっかくサンタと楽しく過ごすなら皆でパーティーを、と考えた灼滅者達は学生主催のパーティーを開くという事にしたのだ。
    「ご苦労様!」
    「子供達、楽しみにしてるって」
     上里・桃(生涯学習・d30693)に応える輝乃はESPを解除し、その姿を戻して服装もいつものものへと戻すが、蘇芳色の着流しはクリスマス仕様となっており、ふわもこである。
     そんな輝乃がふと見れば、サポートに来てくれた【糸括】の皆も飾り付けの手伝いをしてくれていた。
     着ぐるみを着たり、可愛いミニスカサンタの衣装に身を包む仲間達はソリに見立てたクリスマス仕様の人力車でホワイトクリスマスの準備中。
     小さな雪だるまをあちこち設置したり、雪化粧を仕上げたりする中、
    「余計な戦闘は避けてえし、なによりせっかくサンタが来てくれたんだ、いいクリスマスにしてえよな!」
     せっかく来たサンタと共にパーティーを楽しむべく切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)は準備に大忙し。
     誘導や飾りつけは仲間達に任せ、村正は力仕事。大きなテーブルを運び、沢山の椅子を運び、大きなクリスマスツリーを運ぶ。
     エクスブレインの予測では現れるサンタクロースは心無い者の行為によって腹を立て、人々に危害を加えてしまうという。
     なのでサンタが来るらしいルートの安全を村正は確保し、透流が滑走路の誘導灯のようにイルミネーションを飾りつける。これで問題なくやって来れるだろう。
     綺麗に並べたテーブルに理央が用意した食べ物を並べると、桃もスーパーで買ってきた料理を並べ、輝乃もリゾットや蒸し鶏を取り出し、キャンドルを灯せば準備完了。
    「なぁなぁ、マコト。つまみ食いしちまおうぜ?」
     美味しそうな料理が並ぶテーブルを見てこっそり言うイオだが、ふと、周が九朗からの連絡を受けた。
    「サンタさん、見つけたって!」
     

     赤鼻のトナカイが先頭となって引くそりに乗るのは、ちょっぴり太めのサンタクロース。
     沢山のプレゼントが詰まっているのだろう。大きな袋とミニサンタ達を乗せて飛ぶ姿は、絵本からそのまま飛び出した、誰もがイメージするであろう姿であった。
    「お空を飛んで、サンタさんがやってきた……!」
    「やったー! サンタさんだーーー!!!」
     その姿に瞳を輝かせる透流と桃だが、サンタクロースはエクスブレインが説明したように、きらびやかなイルミネーション輝く商店街へと向かっていってしまう。
     これ以上は近づかれては困るので九朗はきらきらと雪を輝かせ、すいっとサンタに並ぶように移動すると声をかけた。
    「すみません」
    「おやおや、箒で空を飛ぶ君は魔法使いかな?」
     サンタクロースは珍しそうな顔を向け、何の用かと尋ねてきたので、
    「ほら、みんなあそこで待ってるよ」
     言いながら公園を指差した。
    「ほう、これは素晴らしい!」
     上空から見えるのは滑走路の誘導灯のように輝くイルミネーション。
     クリスマスツリーも負けじと輝き、流れるのはクリスマスソング。
    「HO-HO-HO! メリークリスマス、サンタさん!」
     サイリウムを振ってサンタを誘導する理央はにこやかに声をあげるとそれに気付いたのか、公園へ進路を変えて着陸する。
    「メリークリスマス!」
     都市伝説とは言えど、サンタクロースを前にイオと周は拍手で出迎え、ESPを使う桃も盛大なお出迎え。
    「なんと、本物のサンタさんがきてくれました!」
    「皆も楽しみにしてたんだよ」
     サンタに言いながら輝乃は配った案内を見てやってきた子供達へと顔を向ければ、皆にこにこと嬉しそう。
    「僕達、これからパーティーをするんだ。是非ゲストとして来てもらえないかな?」
     理央のお誘いの答えは当然、
    「もちろんだとも!」
     その声にわあっと歓声が上がるとそこに登場するのは力仕事を終えた村正。
     トナカイの着ぐるみに着替えた村正は元気いっぱいに、にかっと笑う。
    「よっし、それじゃあクリスマスパーティーのはじまりだ! 盛大に盛り上げるぜ!」
     

    「みんな今日は来てくれてありがとうな!」
     村正トナカイは走り回り、持参した飴を来てくれた人々へ配りまわった。
     嬉しそうに喜ぶ子供達を目に、いつの間にか自分の顔も笑顔になっている。
     そして笑顔はプレゼントを配るサンタへと。
    「あ、あの……」
     緊張気味に声をかける村正だが、サンタはちゃんと分かっている。
    「今年一年、たくさん頑張った君にもプレゼントだよ」
     そう言いながらサンタは綺麗にラッピングされたプレゼントを手渡した。
     プレゼントは何だろう。まさか嫌いな……?!
    「なあに、心配する事はない」
     プレゼントの中身に不安になる村正だが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
     そして杞憂といえば、周。
     周はサンタや皆とパーティーを楽しむ事よりも、万が一に雲行きが怪しくなった時の事を誰よりも心配していた。
    (「サンタクロースをボコすのって気が重たいんだけど、それと同じくらい攻撃されるのも違和感が凄いよ……」)
     なるべく争わずに済む方法をあれこれ考え、そしてそれが上手く行かなかった時――サンタと戦わざるをえなくなった時の事を考えてしまうと食事も喉を通らない。
     そんな気持ちを察したのか、サンタはに椅子に座る周の前にやって来ると膝を突いて優しい顔を見せた。
    「何をそんなに不安がってるのかな?」
    「あ、あの……」
     にこにこ笑顔のサンタを前に周はこっそりお願いをする。
     
    「明莉部長、今回も着ぐるみなんだね……」
     苦笑する輝乃の目前に立つのは巨大な雪だるま――ではなく、明莉。
    「ホワイトクリスマスってねー♪」
     にかっと笑顔で手にするのは人工雪で作った小さな雪だるまだ。
    「あたしもね、ミニスカサンタ服でサンタクロース気分っ」
     ミニスカサンタの杏子は自分とお揃いの帽子をにこにこと手渡した。
    「てるのちゃんもほらっ、サンタさんよおっ!」
    「キョンは風邪を引かないようにね。帽子、ありがとう」
     輝乃がお揃いのサンタ帽を受け取り被れば、可愛いサンタのできあがり。
    「あーと、もういくつ、ねーるーとぉ♪」
     お揃いの帽子を目ににこにこと嬉しそうに杏子が見渡すのは、自分達が飾り付けたツリーだ。
     色とりどりの、たくさんの形のオーナメントは分達で選んだもの。
    「お前ら人使い荒いんだよ」
     そう言いトナカイ脇差が思い出すのはクリスマス仕様の人力車で人工雪やらオーナメントやらを運んだ力仕事。
     とはいえ、口は悪くともワクワクした雰囲気が楽しくて仕方がなかったに違いない。顔にそれがしっかり出ている。
     そんな脇差は皆が楽しむ様子を眺めていると、
    「鈍、ほいよ♪」
    「あ! 雪だるまかわいい!」
     明莉が差し出したのはモミの木の葉やリボン、星のスパンコールでかわゆく仕上がった雪だるま。
     もちろん杏子や輝乃だけではく、明莉は珍しそうに見る子供達にも雪だるまをプレゼント。受け取るミニサンタ達も嬉しそうだ。
    「日頃世話になってるからな、たまにはね」
    「……仕方ないな、どうしてもってんなら貰ってやるよ」
     嬉しそうに受け取る子供達をちらりと横目に脇差はあくまでも硬派を装い受け取るが、内心はめっちゃ嬉しかったようだ。
     硬派を装いきれてない、ツンデレ脇差である。
    「ん? 男子高校生にはかわゆ過ぎる? 気のせいだ♪」
    「わきざしせんぱいはね、かわいい属性も似合うのよっ!」
    「そこ、かわいい言うな!」
     明莉と杏子の言葉に照れ隠しに思わず脇差は二人へココアの紙コップを押し付ける。
    「ほら、琶咲もお疲れさんだ」
    「ココア、ありがとう。脇差」
     手渡すその表情の照れ隠しが微笑ましく、受け取ったぬくもりを感じてクスリと笑ったり。
    「皆、プレゼントありがとう」
     もらったプレゼントのお礼に笑顔の輝乃に、仲間達の顔も笑顔。
     皆で料理を食べたり子供達と楽しんだりと時間は過ぎていき、
    「サンタも皆も、楽しんでくれるといいな」
     ぽつりと言う脇差の言葉に輝乃はこくりと頷き、甘いココアを口にした。
     
     クラスメイトや友達、そして仲間達が楽しむ姿を目に桃も皆とパーティを楽しんでいる。
    「サンタさん、今日は来てくれてありがとう!」
     そう言い桃が渡すのはこの日の為に用意してきた靴下。
    「ほう、私にくれるのかい?」
     嬉しそうに受け取るサンタだが、ふと、ミニサンタ達がじーっと見つめる。
     もちろん、桃はちゃんと準備していた。
    「大丈夫! 皆にも用意してありますよ!」
     わあっと上がる声。ミニサンタ達に桃は靴下を配り、料理を勧めたり。
     そんな桃にお礼とばかりにサンタはプレゼントを手渡した。
    「メリークリスマス! たくさんの経験と思い出を作れますように!」
     プレゼントを受け取る桃を目に一足早いクリスマスを楽しむ透流だが、ふと、自分が用意した超巨大靴下を見ると何かが入っている事に気が付いた。
     気になって確かめてみれば、何とプレゼントが入っているではないか。
     いつの間に入れたのだろうと首をかしげていると、いつの間にか隣にはサンタがいる。
    「これは君が作った靴下だね?」
     優しい言葉に透流はこくりと頷いた。
    「こんなに大きな靴下を編むのはさぞ大変だっただろう。頑張ったね」
     そう言い、サンタは靴下を取り外すと透流へと手渡した。
    「これは頑張って作った君へのプレゼントだよ」
     超巨大靴下を受け取った透流の心にふと、幼い頃の自分の心が重なった。
     
     みんなが楽しんでいる中、九朗はそりを引いていたトナカイの元へ。
     はあっと息を吐けば白く、上空を飛んでいたトナカイ達は寒い思いをしただろう。
    「ご苦労様」
     労いの言葉と共に、九朗はことりと皿を置く。
     それはパーティー料理からトナカイ達が食べられそうなものをいくつか持ってきたもので、本来トナカイは草食だから食べる事はまずないのだが――。
    「まあ、都市伝説だし」
     鼻を近づけ、においをかぐトナカイ達は料理をぺろり。
     美味しそうに食べている様子を九朗はしばらく眺めていたが、ふと目の前にプレゼントが。
    「トナカイ達に料理をありがとう。メリークリスマス」
     そしてプレゼントはイオへも配られる。
    「え、俺にもプレゼントくれるのか!? うわー、ありがとなっ!」
     皆と美味しい料理をいっぱい食べ、楽しく過ごしたイオの顔はひときわ明るいものに。
    「君は今年一年、とても頑張ったようだね」
     真っ白な袋にサンタは手を入れ、大きめのプレゼントを取り出すとイオへと手渡した。
     頬を高潮させ大喜びのイオを目に、サンタはマコトへも手渡す。
    「何が入ってんだろ?」
     さっそくプレゼントを確認しようとするイオだが――、
    「ふふ、それは家に帰ってからのお楽しみじゃ」
     サンタはにこりと微笑んだ。
    「メリークリスマス、来年も良い子にしているんじゃぞ」
    「任せてくれよっ!」
     プレゼントを手にイオも満面の笑顔。
     
    「えへへ。一足早いクリスマスって感じだね」
     プレゼントを配るサンタをサポートするミニサンタを見つめていた燈だったが、その瞳は理央に向く。
    「慌てん坊さんのお陰でちょっと早いけど、メリークリスマス、燈。来てくれてありがとう」
    「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
     イルミネーションの灯りに照らされる表情は少しばかり赤いような。
     みんなで飾りつけたクリスマスツリーを二人で暫く眺めていたが、
    「せっかくのパーティだよ。……一緒に、踊ってくれる?」
     すと燈の前に優しい手が差し出された。
     それを目に静寂は一瞬。
    「燈で良ければ喜んで。一緒に踊ろ!」
     頬を赤らめる嬉しそうに破顔する燈の表情は、まるで真冬に咲く花。
     手を取りきゅっと握れば胸は高鳴り、互いのぬくもりを感じながら二人は少し広い場所へ。
    「さぁ、みんなで踊ろう!」
     その言葉にミニサンタ達が飛び出し、子供達も楽しそうに踊り出す。
     ささやかなダンス会場と化した公園内で、手を取る二人は向き合い、見つめ合う。
     本当はヤドリギの下で誘いたかったけど、それは本番までおあずけだ。
    「ステップなんて知らないけど……。理央くんと一緒だったら楽しいね!」
     にこやかな燈の笑顔に理央は頷き応え。
     輝くイルミネーションに彩られ、二人のダンスタイムは続く。
     

    「皆さん、今夜は素晴らしいパーティーをどうもありがとう」
     楽しいパーティーに満足したのか、サンタはにこやかに礼を言う。
    「もういいの?」
    「ああ、早く来てしまったからプレゼントの準備が山のように残っているからね」
     桃の言葉にサンタは言いながら真っ白なひげを撫で、子供達――灼滅者達を見渡した。
     どうやらクリスマスより早く来てしまっていた事にそれとなく感付いていたのかもしれない。
    「さあお前達、もう帰るぞ」
     サンタクロースの声にミニサンタ達は帰り支度をはじめ、トナカイ達も動き出す。
    「ご苦労様、まぁ本番も頑張りなよ」
     九朗の言葉にトナカイ達は頷くように頭を動かした。
    「さて、お別れはちょっと寂しいけど、すぐにまた会えるからね」
     残念がる子供達に理央は言い、
    「商店街には向かわないでくださいね」
    「本番でがんばってくれよな!」
     九朗と村正の声にサンタは手を挙げ応えて見せた。
    「ではでは皆さん、次はクリスマスにお会いしましょう!」
     手綱を引けばトナカイはいななき、ミニサンタ達も元気いっぱいに手を振る。
     そしてふわりとそりは浮かび、飛び去っていく。
    「クリスマスイブにまた会いましょう。慌てん坊さん!」
     手を振る燈と共に理央が見送れば、
    「ありがとう、サンタさん!」
    「メリークリスマス!」
     桃は元気いっぱいに手を振り、輝乃もサポートに来てくれたみんなと一緒に見送った。
     次は本当の聖夜に会えるだろう。
     サンタクロースはきらきらと星を輝かせてそりを引く。
     そんな様子を目に、七不思議使いとしての能力を使う周は最高のプレゼントを受け取り、仲間達と空を見上げれば星は輝き、サンタクロースはすうっと消えてしまった。
     流していたクリスマスソングを耳にサンタが消えた空を見つめていた灼滅者達だが、ふと、透流の頬に冷たい何かが。
     ――雪だ。
    「今度は、本当のクリスマスパーティの準備をしなくっちゃ」
     ちらちらと舞う冬の輝きを目に透流はふわりと頬を撫で、
    「ありがとー!またクリスマスになーっ!」
     サンタクロースを見送ったイオはふと、アドベントという期間がある事を思い出した。
     それはキリストの降誕を待ち望む期間の事で、リースやアドベントキャンドルを飾ったり、シュトレンを薄く切って食べたりするのだという。
    「俺達も慌てん坊サンタのおかげで本番が益々楽しみになったな♪」
    「そうですね」
     イオの言葉にマコトも頷いた。
     
     クリスマスまであと少し。
     ちょっぴり早いクリスマスを楽しんだ灼滅者達は遠くに鈴の音を聞きながら、しばらく夜空を見上げているのだった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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