デパートのベンチで休んでいたミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)は、高校生ほどの少年が小学生の弟と思しき少年に語っているのを耳にした。
●ねぼすけさんなジャック・オー・ランタン
お前知ってるか? ハロウィンのこと。
そう、つい最近やったあの祭り。
ハロウィンは元々お話があったりするんだが……そんな中で、ジャック・オー・ランタンってのがある。
かぼちゃのランタン、見たことあるだろ? あれがそのジャック・オー・ランタン。
そのジャック・オー・ランタンにも逸話があるんだが……それはいい、重要な事じゃない。
重要なのはその先、ねぼすけさんなジャック・オー・ランタンがいるってことさ。
ねぼすけさんなジャック・オー・ランタンはハロウィンが終わった後にやって来て、いろんな奴にトリック・オア・トリートって言うんだ。
もちろん、ハロウィンが終わった今、お菓子をやるやつなんかいない。
だからそのジャック・オー・ランタンはいたずらするんだが……どんな悪戯をすると思う?
それはな……お前を食っちまうんだよ!!
驚き涙ぐんだ弟を慌てた様子で慰め始めた兄……そんな姿を横目に、ミーシャは先程の噂話をメモに纏めた。
「気になるよね。事実なら大変だし、知らせないと」
静かな息を吐くとともに立ち上がり、出入り口に向かって歩き出す。
エクスブレインへと知らせるために……。
●夕暮れ時の教室にて
「それじゃ葉月、後をよろしくね!」
「はい、ミーシャさんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)はミーシャに頭を下げたあと、灼滅者たちへと向き直った。
「とある街を舞台に、次のような噂話がまことしやかに囁かれています」
――ねぼすけさんなジャック・オー・ランタン。
纏めるなら、ハロウィンが終わったあとしばらくの間、深夜の街中にジャック・オー・ランタンが出現する。トリック・オア・トリートの質問を受けた際、お菓子を与えなければ……ジャック・オー・ランタンは巨大なかぼちゃの化物へと変わり、そのものを喰らってしまうだろう。
「はい、都市伝説ですね。退治してきて下さい」
葉月は地図を広げ、町外れの道路を指し示した。
「現場となっているのはこの道路。深夜帯ともなれば車はともかく歩く者は幸いにも皆無に近い……そんな場所です」
この場所を午前一時以降に歩けば、都市伝説は出現する。
後はお菓子を与えず、化け物と化した都市伝説を退治すれば良い……という流れになる。
敵戦力は巨大なかぼちゃの化物の形をした都市伝説のみ。力量は、灼滅者八名と同等程度。
攻撃面に特化しており、相手を噛み砕こうとし体力を奪う、ランタンの炎を噴射し複数人を焼きつくす、怪しい光を放ち複数人の心を惑わせる、トリック・オア・トリートと質問し複数人の足を止めさせる……といったもの。
「以上で説明を終了します」
葉月は地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
「なぜ、このような都市伝説が生まれてしまったのかはわかりません。しかし、人通りが皆無に近いとはいえ危険な状態であることに違いはありません。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
古海・真琴(占術魔少女・d00740) |
ミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351) |
倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431) |
蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547) |
仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171) |
月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644) |
哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397) |
ライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596) |
●遅れてやってきたトリック・オア・トリート
きらびやかな電飾も少し収まり、街路樹を飾るイルミネーションがだけが街を輝かせている、深夜帯の道路。ひと気の失せたこの場所を、灼滅者たちは都市伝説、ねぼすけさんなジャック・オー・ランタンを呼び出すために歩いていた。
古海・真琴(占術魔少女・d00740)の手に収まっているのは、クッキーの詰め合わせを綺麗にラッピングしたもの。
「まぁ、ある意味見せるためのダミーだし」
失敗作も多分に含まれていると語りながら、隙間なく周囲を見回していく。
一方、倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)はどことなく浮かれている様子のミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)に声をかけた。
「お主、少し浮かれておるようじゃの。その気持ちを改めてシャンとするのじゃ」
「えー?」
特に気にした様子もなく、ミーシャは弾んだ調子で歩を進める。
それから五分ほどの時が経っただろうか? おおよそ車三台分ほど先にある場所に、子供のような影が出現した。
影は電灯を浴び、南瓜のランタンのようなカボチャ頭を映し出す。
都市伝説・ねぼすけさんなジャック・オー・ランタンであると判断し、灼滅者たちは立ち止まった。
気にする様子なく、都市伝説は近づいてきた。
一人ひとり分ほどの間を開ける形で立ち止まり、元気な笑顔を浮かべ……。
――トリック・オア・トリート!
曇りなき声音。
期待の灯火に満ちている、瞳。
蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547)は悲しげに瞳を細め、首を横に振った。
「お菓子はあげません」
「お預けです……です」
月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)が言葉を続け、さっとお菓子の包みを閉まっていく。
傍らに立つ仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)もまた、元気な声音で告げていく。
「ハロウィンはもう終わっちゃったよ? これは私が集めたお菓子だからあげないよ!」
「トリック・オア・トリート! お菓子なんてないよ寝坊助さん。キミには空のバスケットがお似合いさ☆」
締めくくる代わりに、ミーシャが弾んだ調子で畳み掛けた。
「さぁさぁ今日が一体何日かわかるかい? お帰りの黄泉道は閉じられた! 帰る場所のない哀れな亡霊さん。神の名のもとに、その魂の救済を開始するんだよ★」
言葉を終えた時、都市伝説は肩を震わせる。
暗き光に抱かれた後、巨大なカボチャおばけへと変貌した。
その口が、何かを語ることはない。
ただただ瞳に移る灯火で灼滅者たちを照らし、ゆらゆらと揺れながら仕掛ける機会を伺っているかのようで……。
●おぼろに輝くカボチャおばけ
カボチャおばけへの変貌を前に、蛍姫は恐れ慄いたのように一歩後ずさった。
「うわわ、本当に大きなカボチャに変身したよ! ちょっと怖いけど頑張るんだよ!」
ついでとばかりに自らの立ち位置へと移動し、武装。
狙いを定め始めて行く中、真琴も定められたワードを唱えていく
「指し示せ、真琴の誠!」
武装しウイングキャットのペンタクルスを呼びだすとともに、タロットカードに力を込めて投射した。
カボチャおばけの右頬に張り付いていくさまを眺めながら、ペンタクルスへと視線を向けていく。
「前は任せたよ!」
頷き、前線へと向かっていくペンタクルス。間近でカボチャおばけと対峙すると共に魔法を放ち、その巨体を拘束し始める。
僅かでも動きが鈍ったその隙を見逃さず、哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397)は長い髪の薙刀を持つ日本人形の女の子の姿を模した影を解き放った。
「お祭りはもうずっと前に終わったんだ……だからもうお菓子は全部あげちゃったから無いんだよ……」
影は、誤る事なくカボチャおばけを斜めに斬る。
揺らぐことなく、カボチャおばけはおぼろげな光で前衛陣を照らしだした。
心惑わすという輝き。届かぬのならば問題ないと、蛍姫は結界を起動する。
「動かないでね!」
言葉に呼応したかのように、カボチャおばけは僅かに動きを止めた。
結界に力を込めながら、蛍姫は言葉を続けていく。
「悪戯のつもりか分からないけど大きくなって人に被害を加えるなんて度が過ぎてるよ! お仕置きしてあげる!」
「オレが後ろから支える、だから全力で!」
さなか、ライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596)は風を招き光を祓った。
前衛陣は動きの精彩さを取り戻し、カボチャおばけを倒すために駆けて行く……。
カボチャおばけの口から放たれる炎。
強い熱量に耐えた前衛陣に送られた言葉は、トリック・オア・トリート。
返答をさせるために止まらせる魔力を持つワード。
その力を、治療してなお残る炎を祓うため、苺が制止を促す交通標識を掲げていく。
「……」
前衛陣を治療しながら、状況分析を開始した。
霊犬・胡蝶の夢を含め前衛陣を厚くし、治療役も二人置いて挑んだこの戦い、カボチャおばけの攻撃に対して即座に対処する事ができていた。
攻撃の手を緩めず、戦う事ができていた。
「……大丈夫、この調子で戦っていけば、きっと……」
早くに終わらせることができる……と、苺は再び交通標識を掲げていく。
受け取る胡蝶の夢はカボチャおばけの懐へと入り込み、斬魔刀を浴びせかけた。
カボチャおばけが揺らいだ隙を見逃さず噤もまた踏み込み槍を掲げていく。
「とにもかくにも攻撃、なのです……です!」
大上段から振り下ろし、カボチャおばけを叩き落とした。
故にだろう。
カボチャおばけの視線は噤に向いた。
即座に、姫月が盾突撃をぶちかました!
「さぁこちらを向けカボチャ頭、我が相手じゃ!」
視線を受け止めるとともに盾を構え、静かな瞳で見つめていく。
刹那、カボチャおばけが更に肥大化した。
口を大きく開いてきた!
噛み砕くどころか丸飲みにでもされそうな程の噛み付きを、姫月は盾領域を広げて受け止める!
「中身は……ロウソクだけ、か。空虚なものじゃの……っと!」
体を捻り、勢いを横へと運んだ後、ミーシャの立つ方角へと蹴り飛ばした。
「そら、今じゃ!」
「さっすがぁ★ じゃぁ援護は任せたよー♪」
弾んだ調子で、ミーシャは杖を構えていく。
バットのようにフルスイング! 魔力を爆発させ、カボチャおばけを前衛陣の中心へとふっ飛ばし……。
噤の魔力が爆発した時、カボチャおばけは墜落した。
しばしの静寂の後、カボチャおばけはゆらゆらと浮かび上がっていく。
よろめいているように思えるさまを前に、噤は静かに告げていく。
「もうすぐです、もうすぐ……です!」
「早く、終わらせてあげないとね」
呼応し、真琴がタロットカードを放った。
左頬へと張り付いた時、カボチャおばけは炎を吐く。
全力で抗う姿勢を見せていく。
風を招き炎をやわらげながら、ライは静かな言葉を投げかけた。
「よくわからないけど、でも、このままじゃいけないんだ。お前にとっても、みんなにとっても」
ねぼすけさんなジャック・オー・ランタン。トリック・オア・トリートを断られたなら、カボチャおばけと化して人を襲う。
人を、傷つける。
「だから倒す。少しでも早く……!」
ジャック・オー・ランタンが人を傷つけないうちに……と、再び優しい風を招いた。
招かれるように放たれた蛍姫の影が、カボチャおばけを飲み込んでいく。
すかさず姫月が踏み込んだ。
「そら飛ぶのじゃ!!」
「まだまだ終わらないよ!」
盾を振るいカボチャおばけを打ち上げたなら、ミーシャの帯が中心を打ち据えた。
さなかに百舌鳥は語り出す。
恋い焦がれた男にとりつき殺した幽霊、緋牡丹の着物姿の美女の物語を。
物語に揺さぶられながら、カボチャおばけは墜落する。
再び浮かび上がろうとする様子を見せたから、噤が静かに歩み寄った。
「一刀、切り伏せます……です!」
大上段から、槍を一閃。
カボチャおばけを切り裂いて、静かに背を向けていく。
「南瓜さんやすらかになのです……」
瞳を伏せた時、カボチャおばけはジャック・オー・ランタンへと回帰する。
ジャック・オー・ランタンは僅かに唇を震わせた後、瞳を閉ざした。
それきり動くことはなく、灯火もまた消え失せた。
灼滅者たちが見守る中、その姿すらも消滅し……。
●また来年
風が吹き、枯れ葉が駆け抜けていく道路。
静寂をざわめきで飾る街路樹の群。
ジャック・オー・ランタンが消えた場所に一番近い木のたもと。ライは静かに目を細めながら、カトルカールを収めラッピングした箱を供えていく。
「せめて、これだけでも……ね」
「本当はハロウィンを楽しみたかったのかなぁ? もしそうだったらごめんね。お菓子お供えしてあげるから成仏してね……」
同様にお菓子を供えながら、蛍姫はひとみを閉ざしていく。
苺もまた、祈りを捧げていく。
「向こうで、たくさん食べてね」
風の音だけが聞こえる沈黙。
変わらずきらめき続けていく、ささやかなイルミネーション。
一歩離れた場所で見守っていた百舌鳥は、囁くようにひとりごちた。
「お祭りって楽しいからずっと続いてほしいけど……その時だけって時間が限られてるからより楽しいんだろうね……」
始まりがあれば、終りがある。
終わるからこそ、その時を精一杯楽しめる。
「寝坊助なカボチャさんは次は遅れないようにちゃんと目覚ましを付けとかないとね……」
けれど、始まりがあれば終りもある。
「……さ、オレたちも帰ろうか。来年に備える……なんてのはまだ気が早いけど、これからやって来るいろんなことに、寝坊しないように……さ」
来年のハロウィンパーティーまで、まだまだ様々な祭りができごとがあるだろう。様々な思い出を刻んでいくだろう。
だから今は、お休みなさい。
また来年、寝坊せずに出会えるように。
トリック・オア・トリート。ハロウィンパーティーの中でだけ使える言葉。
人々に笑顔をもたらす、魔法の言葉。
そうなることを、夢見て――!
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年12月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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