カップルなんて滅びてしまえ!

    ●都内某所
     カップルにとって憩いの場として知られていた公園があった。
     ここでは朝から晩まで代わる代わるカップルが、イチャイチャ。
     『ひょっとして、完全予約制なのか!?』、『順番とかあるのか!?』と思ってしまうほど、カップルにとっては好評だったようである。
     そのせいか、『カップルなんて滅びてしまえ!』、『だ、誰かヒットマンを! 奴らを仕留める事が出来るヒットマン的な誰かを!』と言った感じになっていき、『実を言うといるんだよ。カップル専門のヒットマンが……』と言う風に噂が広まって、都市伝説が生まれたようだ。

    『カップルなんて滅びてしまえ。そう思う奴は、ここに……いないよな?』
     いつもと違う台詞を吐きつつ、神崎・ヤマトが参加者達の顔を見る。
     途端に、何人か……、視線を逸らした。

     今回、倒すべき相手は、カップル専門のヒットマン的な都市伝説だ。
     コイツはナイフ一本で女性の背後の忍び寄り、男性の態度を見ながらナイフでザクリザクリと痛めつけていくようだ。
     ここで男性が助けようとすれば、一思いに女性を殺ってしまうようだが、逆に怯えていたり、助ける事を躊躇っていた場合は、相手の顔色を窺いつつ、痛めつけていくようだ。
     しかも、男性の惨めな姿を散々見せつけた後で、女性の顔を切り付けて解放するのが、今までのパターン。
     残念ながら、圧倒的に後者の方が多く、未だに入院している女性もいるようだ。
     おそらく、お前達が現場に着く頃には、誰かが襲われている最中だろう。
     だが、ここで女性を救出すれば、男性のブライドはズタズタ。
     お前達に八つ当たりをするかも知れない。
     かと言って、放っておけば女性の顔がズタズタにされるから要注意だ。
     ちなみに都市伝説は全身黒ずくめでマントを羽織っている。
     しかも、足音を立てる事なく、背後に忍び寄る事が出来るため、不意打ちに注意する必要があるだろう。
     また、都市伝説は女性の顔を切り刻む事を何よりの悦びであると感じているから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    銀嶺・炎斗(シルバーフレイム・d00329)
    立湧・辰一(カピタノイーハトーブ・d02312)
    水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)
    盾神・一真(中学生ダンピール・d04440)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    四条・識(シャドウスキル・d06580)
    城守・千波耶(愚か者セイレーン・d07563)
    九竜・英里(リトルシュガー・d08453)

    ■リプレイ

    ●公園
    「カップルは滅びてしまえ? 何の冗談でしょう? 人の恋路を邪魔するのは馬にでも蹴られてしまえばいいのです」
     険しい表情を浮かべながら、九竜・英里(リトルシュガー・d08453)が都市伝説の確認された公園に向かう。
     この公園はカップル達にとって、憩いの場。
     朝から晩まで愛を囁き合う事で有名。
     それ故に嫉妬に狂う者が多く、都市伝説が生まれてしまったのかも知れない。
    「まず女性を傷つけるってのが許せねェ……。ギッタギタにしてやらぁ……」
     爆発寸前にまで膨らんだ怒りを抑えつつ、銀嶺・炎斗(シルバーフレイム・d00329)が指の関節を鳴らす。
     都市伝説が狙っているのは、カップル……特に女性であった。
     おそらく、女性が絶望のどん底に落ちていく様を見る事を、何よりの悦びとしているのだろう。
     資料に目を通していくたび、激しい怒りが湧きあがり、怒りのぶつけどころを探してしまうほどであった。
     それほど、都市伝説のやっている事はえげつなく、嫌悪感を覚えるものばかり。
     おそらく、被害者達は炎斗が想像している以上の屈辱と、怒り、苦しみを味わったのだろう。
     そう思うだけで、ズキリと胸が痛んだ。
    「……たくっ! カップルを滅ぼしても、自分に相手ができるわけじゃないんだが……。嫉む暇があったら自分を磨いた方が良いんじゃないか?」
     不機嫌な表情を浮かべ、立湧・辰一(カピタノイーハトーブ・d02312)が愚痴をこぼす。
     辰一も相手はいないが、それはヒーローが孤独故。
     ……とは言え、相手は都市伝説。
     個人的な恨みと言うよりも、存在理由に近いもの。
     そのため、自分を磨く事で、発散できるようなものでも無さそうだ。
    「まあ、ちっと相手をしてやろうかね」
     警戒した様子で茂みに潜み、四条・識(シャドウスキル・d06580)が息を殺す。
     それにしても……、気まずい。
     あっちでイチャイチャ、こっちでイチャイチャ。
     あくまで無関心を装っているが、まわりから聞こえる声は、容赦がない。
     まるで甘えた猫の如く語り合うカップルばかり。
     ……気まずい、気まず過ぎる!
    「都市伝説が出てるのに、なんでこんな盛況なのかなあ……?」
     大粒の汗を浮かべながら、城守・千波耶(愚か者セイレーン・d07563)が疑問を口にした。
     テレパスを使う必要もなく、カップルの気持ちが分かるほど、アレな状況。
     どこを見ても、カップルのせいで、視線のやり場に困ってしまう。
     どうして、こういう時に限って、都市伝説が思った矢先、近くで絹を裂くような女性の悲鳴……。
     思わずガッツポーズを取ってしまいそうになったが、流石にそんな事をしていられないほどの緊急事態。
    (「何だか酷い事になっているわね。それにしても、あの彼氏……、物凄く情けないわ」)
     旅人の外套を使って行動しつつ、水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)が物陰から様子を窺った。
     彼氏と思しき人物が、自分の彼女を盾にして、都市伝説に命乞いをしている。
     ……物凄く必死に。
     さすがに彼女も呆れ果てていた。
     もちろん、この状況で彼女を守る事は困難かも知れない。
     困難かも知れないが、あまりにも情けない。
    「モテないヤローの逆恨み行動は、みっともねーぜ、おっさん!」
     女性の前に立つようにして飛び出し、盾神・一真(中学生ダンピール・d04440)が都市伝説に黒死斬を叩き込む。
     その一撃を喰らって都市伝説がバランスを崩し、一真達を威嚇するようにしてシャーッと鳴き声を響かせる。
     本音を言えば、『カップルなんて滅びてしまえ!』と思っているが、そこは前面に出さずに理性を保つ。
     しかし、そんな一真の感情を逆なでるようにして、男性が『た、助けてくれぃ!』と情けない声を上げて、ガッチリと彼の右足を掴む。
    「……自分の身は自分で守ってください」
     冷たい視線を男性に送り、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)が女性を抱きかかえる。
     しかし、男性は一真の右足にしがみついたまま、『死にたくねえ、死にたくねえ』と呪文のように唱えるのであった。

    ●怯える男
    「……状況的には最悪ね。特に一真くんの右足……」
     乾いた笑いを響かせながら、千波耶が都市伝説と対峙する。
     その間も背後で言い争う声が聞こえているが……、気にしない。
     迂闊に関わると、さらに面倒な事になりそうである。
    「我、草卒ならず、成すべきことを成すのみ」
     ゆっくりと眼鏡を外した後、辰一がスレイヤーカードを起動した。
     それを見た都市伝説がナイフをペロリと舐め、不気味なほどいやらしい笑みを浮かべる。
     そのため、優雨に抱きかかえられていた女性が、『一体、何が起こっているんですか!?』と言って悲鳴を上げた。
    「詳しい話は後だ。今は……、逃げな」
     キリリッとした表情を浮かべ、炎斗が女性に答えを返す。
     その一言で女性がキュンとなった事は間違いない。
     それを恨めしそうに見る男性。
     八つ当たり気味に、一真の右足を齧っている。
    「邪魔だ! 死にたくなかったら、早く逃げろ。お前がどうなろうと知った事ではない! だから、そんな円らな瞳でオレを見るなァ!」
     何やらイケナイ感情が芽生えそうになったため、一真が男性を蹴って、蹴って、蹴りまくる。とりあえず、甘蹴り。ほんのちょっぴりの優しさ。
    「そっちは……任せますわ」
     あまり関わりたくない、と心の中で思いつつ、英里が都市伝説と対峙する。
     都市伝説の狙いは、間違いなくカップル。
     故に、避難が完了するまで、戦闘に集中する事は出来ない。
    「……悪いが動きは止めさせてもらう!」
     一気に間合いを詰めながら、識が都市伝説に封縛糸を使う。
     だが、都市伝説の動きを止められない。
     都市伝説はそのまま真っ直ぐ、女性を目指して……!
     すぐさま一真が助けに行こうとしたが、男性が右足をガッチリ掴んで動けない。
    「さあさあ、我が打ちし刀の斬れ味、篤と御賞味あれ♪」
     都市伝説を迎えうつようにして、真夜が鋭い連撃を繰り広げる。
     そのため、都市伝説は女性に近づけない。
     ただ、悔しそうに唇を噛み締め、拳を震わせるだけで……。
     その間に炎斗が後先考えずに、攻めて、攻めて、攻めまくる!
     だが、都市伝説も負けてはいない。
     すぐさまナイフで炎斗を斬りつけ……、不敵に笑う。
    「何を……、斬った。何を斬ったと言っているんだよっ!」
     一気に怒りが爆発し、炎斗が都市伝説に戦艦斬りを叩き込む。
     その時、炎斗の胸元から、切り裂かれたグラビア本がはらりと落ちる。
    「どうやら、本気で怒らせてしまったようですね。彼の中に眠る何かを目覚めさせて……」
     必要以上に距離を置きつつ、優雨が後ろに下がっていく。
     その途端、炎斗のまわりに漂っていたピンク色のオーラが、真っ赤に燃え上がったような気がした。

    ●都市伝説
    「それじゃ、ここはお任せします。カップルの避難を優先しなければ、戦いに集中できませんし……」
     避難するタイミングを見計らい、優雨が女性を抱きかかえて走り出す。
     それに気づいた男性が『待ってくれ』と叫んで、今にも倒れそうな勢いでフラフラと女性の後を追う。
     そして、後ろをチラリ。
     ……一真と目が合った。
    「だから、こっちを見るな!」
     何か妙なフラグが立った事を実感しつつ、一真が八つ当たり気味に都市伝説に戦艦斬りを叩き込む。
     それでも、都市伝説はカップルの命を奪うべく、全速力で走り出した。
    「お前を、行かせるわけにはいかない」
     都市伝説の前に立ち塞がり、辰一が金色堂ビームを放つ。
     しかし、都市伝説は諦めない。
     すぐにカップルを探すが……、見当たらない。
    「一体、誰を探しているのかしら? とっくの昔にいないわよ」
     都市伝説を射程内に捉え、真夜が再び影縛りを仕掛ける。
     次の瞬間、都市伝説の動きが封じられ、完全に無防備な状態になった。
    「このまま一気に押し切る!」
     仲間達と連携を取りながら、識が都市伝説に戦艦斬りを放つ。
     その一撃を喰らって都市伝説の体が両断され、断末魔を上げて跡形もなく消滅した。
    「ねえ、帰りにコンビニ寄って、アイス食べない?」
     初依頼のせいか少し疲れた様子で、千波耶が仲間達をコンビニに誘う。
     コンビニがあるのは、歩いてすぐの場所。
     仲間達も断る理由が、ひとつもない。
    「それじゃ、カップルの邪魔にならないように、ソクサクと逃げようかね~。人の恋路を邪魔する奴は~、馬に蹴られて地獄に落ちろって言うぐらいだし~」
     苦笑いを浮かべながら、炎斗が仲間達をつれてコンビニにむかう。
     そこに行けば、必ずあるはず。
     炎斗にとってのバイブル、グラビア本が!
     目指せ、心の桃源郷。
     炎斗はそんな気持ちを胸に秘め、力強い足取りで歩き始めた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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