雨の日は私を殺す

    作者:篁みゆ

    ●雨の日は嫌い
     雨の日は嫌い。私は小さかったけれど、お母さんが眠って起きなくなった日が土砂降りだったのは覚えている。
     傷ついていた子猫のみゅーちゃんを拾って、一生懸命世話をしていたけれど、元気になったみゅーちゃんが突然虹の橋の向こうに行ってしまったのも雨の日だった。
     そして、今。
    「雨の日の引っ越しは大変ですね」
    「そうですね、晴れてなんて贅沢は言わないから、雨だけは止んでくれればよかったんですけど」
     ずっと隣に住んでいた幼なじみが引っ越していく。父と幼なじみの月人のお母さんの会話が、私の頭の上でかわされていた。
     引っ越しのトラックが出発し、月人のお父さんが自家用車のクラクションを鳴らした。
    「……お別れだな」
    「……」
     絞りだすように告げた彼の言葉にうまく応えられず、涙だけがあふれる。大人たちの交わす挨拶が、雑音のように聞こえる。月人のお母さんも妹の海ちゃんも車に乗り込んで、最後に月人が。
    「……じゃあな」
     告げて車に乗り込んでいく。
    (「なんてなんでなんで。雨はいつも私の大切なモノを連れて行ってしまう。雨なんて雨なんてあめなんて、大っ嫌い!!」)
     車が、ゆっくりと走り出す。私はいつの間にか、お気に入りの花柄の傘をさしていなかった。父の悲鳴のような声が聞こえる。車が数m先で止まった。
     よくわからない……ただわかるのは、雨が嫌いだってこと。それと八つ当たりのように湧き上がってくる暴力衝動――。
     

    「おったんやね」
    「ああ。雨の日のお別れのせいで、雨が嫌いになった少女がね」
     灼滅者が教室に足を踏み入れると、すでに室内にいた篠村・希沙(暁降・d03465)が神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)と言葉を交わしていた。
     希沙が席につくと、瀞真は和綴じのノートを開く。
    「希沙君の予測があたってね、一般人が闇堕ちしてデモノイドになる事件があるよ。デモノイドとなった一般人は、理性も無く暴れ回り、多くの被害を出してしまう。だが、デモノイドが事件を起こす直前に介入することが可能だから、なんとかデモノイドを灼滅して事件を未然に防いで欲しいんだ」
     デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている事がある。その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。
    「救出できるかどうかは、デモノイドとなったものが、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているよ。デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまうから注意をしてほしい」
     そこまで言うと、瀞真はひとつ息をついた。
    「今回デモノイドとなってしまうのは中学2年生の女の子、月原・寧々(つきはら・ねね)君。彼女は雨の日に悲しい別れを経験しているせいで、雨が嫌いでね……今回も雨の日に、生まれた時からお隣同士だった幼なじみが引っ越してしまうんだ。そのショックで、デモノイド化してしまう」
     デモノイドとなってしまうと、彼女はまず数メートル前で止まった車に襲いかかるだろう。次に、近くにいる父親を狙う。だが彼女が人を手にかけてしまってからでは、彼女がデモノイドヒューマンになれる可能性は殆ど無い。だから、彼女が人を襲う前に彼女に接触することが必要だ。
    「だが、事前に接触して引っ越しや別れを邪魔することはできない。そうすると闇堕ちするタイミングがずれてしまうからね」
     彼女に人間の心を失わせないには、幼なじみ一家や父親をすみやかに避難せる必要があるだろう。また、彼女の人間の心をとどめおくために、説得も欠かせない。
    「場所は住宅街の、車庫付きの住宅が並んでいるあたり。家の前の道路は引っ越しの車が止まれる広さはある。雨のおかげか、この道を歩いている一般人は殆どいない。通行人を装ったり、曲がり角に身を隠したり……他にも何らかの手段をとって、寧々君がデモノイドになる瞬間を迎えてほしい」
     寧々はデモノイドヒューマン相当の攻撃と、縛霊手相当の攻撃をしてくる。
    「彼女の悲しみは深いかもしれない。けれども雨が連れてくるのは悲しいことだけではないと、少しでも思ってくれればいいなと思うよ」
     よろしく頼むね、と告げて瀞真は和綴じのノートを閉じた。


    参加者
    雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)
    炎導・淼(ー・d04945)
    ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)
    三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)
    南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)
    華井・鼓(中学生人狼・d27536)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    敷原・舞(糸紡ぎのエトワール・d35853)

    ■リプレイ

    ●大嫌いな……
     その日は冷たい雨が降り注いでいた。そこにいる少女、寧々が嫌う雨が。
     引っ越し作業中に炎導・淼(ー・d04945)は月人の家の辺りに業者に紛れ込んで身を隠す。旅人の外套に身を包んだ敷原・舞(糸紡ぎのエトワール・d35853)は、自分が最近体験したことを思い出していた。
    (「私も最近、この学園の人に救われて前いた場所から別れを告げたばかり。今もこの光景を見て別れた時の事を鮮明に思い出させる。けれど、この別れはまた出会える別れ」)
     別れがあったからといって全てがなくなったわけではない。それは今、舞がこうして仲間たちと目的を一つにしていることからもいえる。
    (「私は別れの時に決意した事がある。その事をこの子にも持ってもらえたら、もしかしたら……」)
     胸元に手を当てて、祈るように寧々の後ろ姿を見つめる。
    (「彼女が灼滅者として目覚めさえすれば解決、ではない。日常を守り切って初めて救ったと言える。私の時に学んだ事だ」)
     若桜・和弥(山桜花・d31076)もまた、武蔵坂の灼滅者に救われたひとりである。細かい状況は違えども、目指すおおまかなプロセスは同じといえる。
    「次に繋げなきゃ、来た意味が無いからね」
     旅人の外套を纏いつつ、自分に言い聞かせるように小声で呟いた。
    (「降り止まない雨が無いように、降らない雨も、沈まない太陽もまた無いのですけど」)
     空飛ぶ箒に乗って屋根の影に身を隠すジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)は、心の中で小さくため息をつく。
    (「ただ、それで死んだり殺されたりは、ちょっと頂けないですね」)
     彼女に新たな雨の日の嫌な記憶を植え付けた上での取り返しのつかなくなる事態は避けたい、そう思うのだ。
     曲がり角に隠れた南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)は時折ちょこんと顔を出して現場の様子をうかがった。寧々たちに程よく近い電柱の影では、雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)が地味な色の傘をさして立っている。
    (「寧々ちゃんの絶望が、雨の日の辛い記憶が、軽いものだなんて思わない……でも」)
     見えるのはお気に入りの花がらの傘を指した寧々の姿。距離があっても、浮かない表情をしているだろうことはわかる。
    (「自分の力で変えられる未来があるって、そう思えたら、少しは前向きな気持ちになれるかな」)
     なんとか力になってあげたい、思いが募る。
    (「雨も悪くはないって、彼女にも分かってもらいたいよね」)
     同じく近くに立っている三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)は視線の合ったひよりに軽く頷いてみせた。寧々を助けたい、気持ちは同じ。
     きょろきょろと、傘をさした華井・鼓(中学生人狼・d27536)が迷子のように周囲を見回しながら歩いて行く。寧々たちを追い越すときに聞こえた、親たちの別れの挨拶。月人の母と妹が車に乗り込んだのと同じ頃、鼓は車の側を通り抜けた。そして、背後で月人が一方的に別れを告げて、車に乗り込もうとする気配がした。
     車がゆっくり走り出す。ほぼ同時に寧々の父の悲鳴が聞こえた。鼓は走りだした車の前に飛び出す――キキーッ!! 激しいブレーキ音を立てて車が止まった。念の為に怪力無双で車を止めようと、鼓の手は車のボンネットに触れていた。
    「華井さん」
     後方で寧々の父を魂鎮めの風で眠らせた渚緒が、眠った父親を担いでかけてくる。月人の父がクラクションを鳴らし、窓を開けて飛び出しを注意しようとしたその時、車内の四人が気を失ったように眠りに落ちた。渚緒が再び魂鎮めの風を使ったのだ。
    「行きましょう」
     鼓は怪力無双で車を持ち上げ、渚緒とともにその場を離れる。寧々が車を狙ってくるはずだったが、仲間たちがきちんと止めてくれると信じて、振り返らずに。

    ●堕ちるほどに
    「雨の日は嫌いか? 俺もだよ、気が合うなっ!」
     無事に避難が済むまで、寧々に車を追わせるわけにはいかない。車を目指し駆け出そうとした寧々の前に出た淼が、赤色の標識で蒼い獣と化した寧々を殴りつける。ウイングキャットの寸が、合わせるように肉球を振るった。
     同じく寧々の進路を塞いだひよりが放った帯が、寧々の太ももに刺さった。けれども日和の表情は優しいまま。
    「寧々ちゃんの雨の日の記憶……きっと、すごく辛いよね。雨が嫌いになっても仕方ないって思う」
     彼女の気持ちを否定はしない。彼女が感じている辛さは、真には彼女にしかわからないのだもの。
    「だけど、寧々ちゃんのこれまでの日々は、雨の日ばかりじゃなかったよね?」
     語りかけ、問う。蒼い異形の口の端から、音が漏れた気がした。それを振り払うように、寧々が刀化させた腕をふるう。
    (「誰も傷つけさせない、絶対助ける!」)
     ガッ……それを受けたのは春陽の、同じく刀を埋め込んだ腕。
    「急にそんな風になって驚いた? 怖い? ……大丈夫よ、落ち着いて。私も、貴女と同じだから」
     グル……巨体に似合わぬ俊敏さで後ろに飛んだ寧々は、どこか不思議そうにしている。春陽は黄色に変えた標識で前衛を強化しつつ、言葉を絶やさない。
    「辛い事や悲しい事が重なったから、嫌いになっちゃうのも判るけど、貴女がこのまま暴力衝動に身を委ねてしまったら、去って行った人達や月人くんにとっても、雨が嫌なものになっちゃうわ」
     サウンドシャッターと殺界形成により新たに一般人が戦場に紛れ込むことはないだろう。あとは避難に当たったふたりが、無事に任務を終えて戻ってきてくれることを待つのみ。
    「これからは私達と、楽しい雨の日を探しに行かない? お気に入りの傘だって、雨が降らなきゃ使えないでしょ?」
     アスファルトに落ちて泥水で若干汚れた傘を春陽が拾い上げて、安全なところに置く。間違っても、戦闘中に壊してしまいたくはないからだ。
     その間に動いたのはジンザ。箒に乗ったまま放たれた援護の弾丸が寧々の足を止める。
    「まさにバレットレイン、なんてね」
     すたっと。車の方へは行かせぬように位置取って箒から降りる。
    「あー、どもー。月原さん? こっちの声は聴こえてます?」
     雨の振る音に混ざって、ジンザの声が放たれる。それもまた、雨というカーテン越しに話しているようで、声の通りは良くない。
    「ヒトも自分も壊したいほどに。そんなに雨がお嫌いですか」
     青の中にいる寧々に聞こえている、そう信じて、ジンザは言葉を続ける。
    「でも、見ての通り僕らもずぶ濡れでしてね。雨は誰にも平等です。アナタだけが哀しいとか、それだけは無いですよ」
     その言葉を寧々がどうとったのかは、今はまだわからない。雨を嫌う気持ちに満ちている彼女には、否定のように聞こえたかもしれない。だが、これは寧々に気づいてもらわねばならぬことなのだ。もちろんジンザとて、彼女の気持ちを汲み取ったうえで言葉を選んでいる。
    「雨の日でも作れるよ、楽しい事、嬉しい事」
     交戦前に眼前で両拳を撃ち合わせるのは、和弥にとっての大切な儀式。暴力での解決を是としない為の、伴う痛みを忘れない為のルーティーン。
    「私ね、別れの日から文通を始めたの。今では記念日だよ。貴女もどう?」
     素早く寧々の死角に入り、『春の風』を纏った手刀で切りつけながら、語りかける。
    「友達と別れる、親しい人と別れる。私もその別れを最近して来たばかりだから、悲しい気持ちはよく分かるよ」
     舞の放った糸は寧々の大きく太くなってしまった腕へと絡みついた。話を聞いて、と訴えるように巻き付いて。
    「別れは悲しい事で終わりに出来るの? また出会えるかもしれないのに、それで終わったら本当に悲しくて会えなくなってしまうよ!」
     別れに悲しみ以外の感情を抱いてほしい、だから、舞は必死で言葉を紡ぐ。
    「また出会える楽しみもあるんだよ! 再会した時に成長したね、可愛くなったね、って言われたらすごく嬉しくならない? その努力と楽しみを放棄しちゃダメだよ!」
     ガァッ! 吠えるようにして寧々が糸を引きちぎる。その瞳が見つめる先、車は遠ざかっている。
    「雨ね……俺も大嫌いだ。でもよ、雨に罪はねぇぜ! お嬢ちゃん!」
     淼の炎纏わせた蹴撃が、大きな的に常以上の威力を持って襲いかかる。寸の猫魔法が、更に傷を深くする。
    「雨を嫌いでもいいの。でもね、みんなの言うとおり、寧々ちゃんの心ひとつで雨の日を晴れに変えることだって出来るよ」
     ひよりの帯が全方位に広がる。まるで、雨に濡れる翼だ。
    「月人くんだって……メールしたり、電話したり。その気になれば会いにだって行ける」
    「ツ、キ……ト」
     獣のような声の中に聞き取れたのは、今、彼女が別れたくないと願う相手の名前。
    「失いたくないものが有るなら、手を伸ばしてみよう? 大丈夫、あなたは雨になんて負けないよ」
    「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ――」
     苦しむように紡ぎだされた結界が、前衛を襲う。だが即座にその傷が癒えていく――戻って来た鼓が、前衛へと黄色の標識の力を放っていた。
    「いっぱい、つらかったですね。でも、いやなことずっと覚えてたら、たのしかったことを忘れちゃうです」
     霊犬のささらが、鼓が言葉を紡ぐ時間を稼ぐように、寧々へと迫る。
    「月人さんとは、さいごのお別れじゃないはずです。雨の日にお別れなら、雨の日に会いにいきましょう」
     朗らかに告げる鼓に、寧々の動きが少し緩くなった気がした。
    「雨の日は嫌い? 悪いことばかり、本当にそうだった?」
     確認するように声をかけるのは、同じく戻ってきた渚緒。
    「雨だけど彼はまだそこにいるよ。同じ場所に立っているなら消えたわけじゃないさ。君の声はまだ、彼に届く距離にある」
     渚緒も黄色の標識で前衛を癒やす。ビハインドのカルラが、寧々を狙う。
    「雨は君を殺さない。誰のことも殺さない。それでもそう思うのなら、僕らがそれを否定しよう」
     じっと、巨体の瞳が値踏みするように渚緒を見つめている。渚緒も、それに視線を返す。
    「どうせ雨で紛れてしまうさ。君は思い切り泣いて叫んで八つ当たりすればいい。僕らがすべて受け止めるから」
    「雨が大切な人を連れていったんじゃなくて、もしかしたら、雨は大切な人達からの贈り物なんじゃないかしら」
     言葉を重ねるのは、春陽。
    「貴女の悲しみも涙も全部洗い流してくれるように、貴女が寂しくないように、いつも傍にいるよって伝える為に降るんじゃなかって私は思うのよ」
     煌めくように蹴撃を繰り出した後、寧々と距離をとって春陽は彼女を見上げる。
    「雨が降る度悲しむんじゃなくて、去った皆の優しさも思い出してあげて?」
     雨は冷たいだけじゃなくて、きっと優しくもあるから――。
    「アァァァァァァァァ!!」
     咆哮のようなそれは、彼女の葛藤の証だろうか。もしかしたらその瞳から、涙を流しているかもしれない。けれどもそれは、雨が隠してくれている。
    「んー、頭は冷えましたかね」
     明らかに寧々の様子が変わったのが、皆にもわかった。ジンザは魔法弾を放ち、和弥が拳を繰り出す。
    「暴れたい日もあるよね。溜め込んだ物を吐き出して、また人生の続きをしよう。戻っておいで、皆待ってる。貴女のお父さんも、お友達も、皆」
     彼女に目を覚ましてほしい、その思いで舞が弾丸を放ち、淼が振り下ろしたロッドから魔力を注入し、寸が肉球で殴る。ひよりが流星の如き蹴撃で畳み掛ける。
     寧々のダークネスの部分が苦し紛れに放った酸を、舞の代わりに春陽が受けて、すぐさま鼓が符を放って癒やす。ささらとカルラが寧々に迫り、攻撃を浴びせていく。
    「今日を始まりにするんだ。雨の中で生まれた君の力の始まりの日に、虹の下で、悲しい記憶に別れを告げよう」
     渚緒が寧々の巨体を影で縛り付ける。
    「大丈夫です、戻れますよ」
     ジンザの魔法の矢が寧々の胸を貫く。
     傾いていく巨体のシルエットが薄くなっていき、そして残されたのは、一人の少女だった。

    ●雨の日は私を生まれ変わらせる
    「つめたくないですか? あ、びしょびしょです」
     目覚めた寧々に駆け寄った鼓は自分の傘を差し出したが、すでにふたりともびしょびしょなことに気づいて思わず笑った。
    「でも、いっそ、いやなこと、この雨でながしてしまいましょう! そして今度はたのしい思い出を、いっぱい、ためていきましょう」
    「はいどうぞ。雨が降らなきゃ可愛い傘も、出番が無いですよ」
     ジンザが拾い上げた寧々の傘を、彼女は震える手で受け取った。
    「おつかれさま、頑張ったね」
     ひよりによって優しく叩かれた背中。絶望に、雨の日の別れに負けなかった、そんな彼女を労う優しさが、寧々を落ち着かせる。
     渚緒と和弥が状況や学園について説明するのを、淼や舞は静かに見守っていた。必要があれば、いつでも口を出せるようにしながら。
    「一緒に学園に来ない? 僕らのように雨くらいじゃびくともしない人たちの集まりだよ。君の心配することなんて、何もないんだ」
    「……ほんと?」
    「ああ」
     渚緒の言葉に、寧々は安心したように頷いた。その様子を見て、春陽が口を開いた。
    「さっき、彼の言葉に応えられなかったでしょ。このままお別れしたら泣き顔をずっと覚えられちゃうわよ。だから、言いたかった事を笑顔で伝えてらっしゃい?」
    「案内しますよ」
     春陽の提案と鼓の申し出に一瞬戸惑った表情を見せた寧々だったが、決意するように頷いて。
    「ちゃんと笑顔で、お別れしてくる!」
     立ち上がった彼女を、鼓と渚緒が案内していく。
     いつの間にか雨は小降りになり、遠くの空が明るくなっていた。程なく雨は降り止むだろう。
     もう、雨は彼女を殺さない――。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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