●
こんなに雪が降らないと、雪が恋しいと雪女は嘆かないだろうか。
このまま続くと、雪を降らせるために雪女が人里へ降りてこないだろうか。
もし、白い影があれば、それは雪女かもしれない――。
●
「雪女っていっても、実態は白い影のようだ」
夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)は、そう語った。
見つけた噂話をエクスブレインに調べてもらったところ、都市伝説の存在が分かったのだ。
場所は、降雪地帯。
しかし、異常気象のせいか、まだ雪は積もっていない。
「都市伝説は、人間くらいの大きさをしている白い影で、夜になると町中を徘徊するようだ。
白い影は遭遇した相手を凍らせて殺す。まさに、雪女のようにだ」
都市伝説は、複数出現させたつららを相手に突き刺す遠列攻撃と、冷たい息を吹きかける近単攻撃、冷気の炎で相手を凍てつかせる近列攻撃をしかけてくる。
「時間は夜なので、一般人を気にすることはない。しかし、都市伝説と遭遇するためには、何らかの策が必要だ。
エクスブレインが言うには、都市伝説は雪を求めているため、雪みたいなもの、もしくは冷たいものを持っていれば、向こうからやってくるらしい。
都市伝説をおびき出すために、何か用意していったほうがいいだろう。
噂が大きくなって、都市伝説が変わる前に、都市伝説には消えてもらおう!」
参加者 | |
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若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426) |
西海・夕陽(日沈む先・d02589) |
待宵・露香(野分の過ぎて・d04960) |
花衆・七音(デモンズソード・d23621) |
阿久津・悠里(キュマイラ・d26858) |
夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732) |
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784) |
ノーヴェ・カルカブリーナ(地中海風メイド・d35635) |
●1
「人に危害を加える前に倒しちまうぞ! ……にしても興味深い都市伝説だよな!」
「ほんま。何の噂から出てきたんか知らんけど、こんな現代の街中に雪女なんて、中々風情があるで」
「炎系の都市伝説を使う俺とは、相対と言えるがな!」
「最近の異常気象は都市伝説の行動さえ左右するのね……」
夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)と花衆・七音(デモンズソード・d23621)が都市伝説について語る中、待宵・露香(野分の過ぎて・d04960)は何気なしにつぶやいた。
夜になり、集まった灼滅者。灼滅者たちの腕や肩には、都市伝説をおびき寄せる道具が携えられている。
その中で一人、身軽なノーヴェ・カルカブリーナ(地中海風メイド・d35635)は、のんびりと手を重ね、
「雪が好きな白い影が相手ですけれど~、こんな痛くて怖い戦いじゃなくて~、雪合戦とかで闘いたかったですね~」
「雪かー。あたし、一応、東北出身なのよ。せいぜい脛くらいまでしか積もらないトコだけどね。だから、雪景色がちょっぴり恋しい気持ちはわかるわ。ただ……雪は年が明けてからが本番じゃないの?」
「そうなんですか~?」
「違うの? これは、地元ならではの感覚ねー」
ノーヴェの返事に、ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)は出身地の違いを納得する。
会話の途切れを見計らっていた西海・夕陽(日沈む先・d02589)は、わずかにできた間に口を開き、
「考えたんだが、こっちで相手を誘き出せるのなら、戦いやすそうな広い場所で冷たい物をださないか? その方が、手間も省けると思うんだ。場所は、もう確認してある」
それはいいと、皆がうなずいた。
今から場所を探すというなら時間の問題もでてくるが、決まっている場所へ移動するだけなら何の問題もない。
灼滅者たちは、さっそく夕陽の見つけた場所へ移った。
そこは、平たい空き地だった。
「街灯が少し遠いわね。ちょっとだけ、明かりを足しましょうか」
ウィスタリアは、持っていたランタンを置いて、空き地をさらに戦いやすい環境に変えた。
そして、ノーヴェとウィスタリア、七音はそれぞれの持つ明かりで、仲間たちが持ってきたクーラーボックスなどを照らした。
都市伝説を誘き出す準備は万端だ。
●2
「さて、ではでは始めるとしようか、諸君」
クーラーボックスを開けた阿久津・悠里(キュマイラ・d26858)は、入っていたクラッシュドアイスをすくって辺りに撒き始めた。
地面に散らばる氷が、寒い夜にもかかわらず、冷気をたちあがらせる。
「……うん。寒くて、すぐ帰りたくなるな。帰りたい」
「そんなに、寒いか?」
「七音は、寒くないのか?」
「うちは、全然だいじょうぶや。子どもは風の子やしな」
胸をはって長い黒髪をはらいながら言う七音だが、それもそのはずだ。
寒くても平気なように、寒冷適応を使っているのだ。皆みたいに寒くない。頬も赤くない。
悠里は、おかしい。などと、ブツブツいいながら、クーラーボックスが空になるまで氷を撒き続ける。
「取りあえず、コンビニでブロック氷買ったけど、これでいいかな?」
夕陽は、ブロック氷の袋をあけると、周りを見渡した。
仲間が、どんなものを用意したのか気になるのだ。
すると、ゴリゴリと氷を削る音が聞こえてきた。
ウィスタリアが、クーラーボックスから取り出したブロック氷をかき氷機で削っていたのだ。
「うーん、夏に買ったペンギンさんがこの時期にも活躍しようとは……」
雪に見えるものといえば、定番のかき氷。
かき氷としては、これに、シロップをかけたら完成なのだが、雪っぽさが半減してしまいそうで悩む。
その側に立っている若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)は、
「雪女なら、もっと山の奥にこもって雪降らせてればいいのに……」
そうぼやいてから、大福のアイスを口にふくんでいた。
もぐもぐと食べてしまえばアイスはなくなってしまうが、たくさん持ってきているので数には困らない。
新たに、アイスを開けると、七音がみぞれ味のシロップがかかったかき氷をさしだした。
「季節外れもええとこやけど、これでも食ってみたらどうかな」
「ありがとうございます」
受け取ると、手がひんやりとする。
七音は、かき氷をみんなに配るため、追加の大きな氷を、かき氷マシンに入れて、ゴリゴリ削り始めた。
「これで、ダメやったら、紙ふぶきを雪みたいに降らせる案もあるんや。そこに袋があるやろ。そこにたくさんの紙吹雪が入ってるんで。ただ、片づけが大変やから、間違って蹴飛ばさんといてな」
「みんな、考えてるんだな。俺は、アイスもいいと思ったんだが、自然に近いものがいいだろうってな。だから、ここは単純に氷だ!」
レイジは、ここぞとばかりに、大きな氷を取り出した。
皆が、冷たい物を出しているので、空き地は心なしか、辺りより温度が低くなっていそうだ。
露香は、氷を細かく砕いて作った二つの雪だるまが溶けないように、あえて寒い所へ行き、一つを胸の前で抱え、もう一つは頭の上に乗せる。
「凍死しそう! とうしよう?!」
「ごちそうさまでした」
かき氷をおいしく堪能したノーヴェは、都市伝説を呼ぶようにスノーグローブを振り始めた。
スノーグローブは、揺らされるたびに球体の中で白い粒を雪のように舞わせる。
寒さとの忍耐勝負になりつつある中、人のような白い影が、ゆらり、と揺れながら道の方から現れた。
すすす、と移動してくる白い影に、それが都市伝説だと灼滅者たちは見抜く。
めぐみは、ナノナノと並んで構えた。
「このまま、山に帰ってくれ……ませんよね。仕方ないので、灼滅させていただきます」
●3
「やっぱり雪女には炎ですよね……融けちゃってください」
ガトリングガンの銃口を都市伝説に向けためぐみは、引き金を引いて、次々と弾丸を発射させた。弾丸は、都市伝説にぶつかるたびに爆炎を起こして、炎を巻き上がらせる。
「雪女というより、霧の塊ですよね、これ……」
炎に包まれた都市伝説を前に、めぐみは、ナノナノのらぶりんに回復役をまかせて、さらなる攻撃をするために構える。
レイジは、その場で足を止め、
「雪女のお出ましってわけか。悪いが人を手にかける前に倒させてもらうぜ! 漆黒の業炎獣奇譚!」
罪人を屠り、その体を灰も残らず燃やし尽くすという怪談を語り、黒い炎を都市伝説の周りにまとわりつかせた。
黒い炎が消える前に、七音が、闇が滴り落ちる黒い魔剣の姿で都市伝説へ突き進んだ。
すでに、夕陽がシールドバッシュで都市伝説に怒りを与えようとしている。
「夕陽、殴ったら、すぐに離れるんや!」
夕陽は、後ろを振り向かず、七音に言われたまま、殴りつけた手を元に戻す前に後ろへと飛び跳ねた。
その空間へ七音が滑り込み、マテリアルロッドで思い切り都市伝説を殴りつける。
さらに、露香がカウリオドゥースをふりあげて、反対側から殴った。
「同じ技を両方から味わうのは、どういう気分かしら――え?」
微笑んだ露香の顔が険しくなった。
都市伝説の周りに、いくつものつららが空中に浮かびがっていたのだ。
これには、七音も息を飲む。
2人が、都心伝説から離れた瞬間、つららが前衛陣にむかって放たれた。
まるで、連射された弾丸のようなつららの攻撃に、灼滅者たちは、避け切れない。
「まったく、雪を欲しがるのならば里へ降りるのではなく山を登り給えよ。山頂のほうが、まだよく降るだろうさ」
ロマンのかけらもない口調で、悠里は、血の流れる腕を掲げて縛霊撃を叩きつけた。
網状の霊力が都市伝説を覆う中、ノーヴェは癒しの矢で仲間の治癒に当たる。
「……ところで雪女って、雪を降らすんだっけ? 降らすのは雪童だった?」
どうだったかしら。と、ウィスタリアが影喰らいで都市伝説にトラウマを与えると、都市伝説は困ったように、頭の部分らしき場所をうなだれさせた。
しかし、はっ、と、したかのように、気を取り直した都市伝説は、ウィスタリアに息を吹きかけようとする。
「させるか!」
悠里は、都市伝説の冷たい息を、全身で受け止めた。吹きかけられた場所から凍っていく。
「ウナ、みんなを任せた」
ウイングキャットに、同じディフェンダーの役割をまかせると、悠里は祭霊光の代わりに集気法で、氷を打ち消す。
夕陽は、地面を蹴り、
「さあっ冷気の炎と深紅の炎、どちらが上かな? 焔刃顕現っ一刀両断! 燃えろっ無敵斬艦刀!」
体から湧き上がった炎を無敵斬艦刀に宿して、腕を振りおろした。
雪が降らなくて困っているスキー場にとっては、雪女は救いの女神かもしれないが、この都市伝説を、本当の雪女にするわけにはいかないのだ。
「噂が大きくなる前に、奇麗さっぱり吹き散らしてしまおう」
「これでも、どうだ!」
レイジは、大縄跳びの怪談で、ナイフの持った小さな男の子を具現化させた。そして、誰もいなくなるようにと男の子が都市伝説を切りきつける。
露香がレイザースラストで、都市伝説を貫くと、都市伝説がつららを出現させて、後衛へと放ち飛ばした。
「此処はディフェンダーの本領発揮っ。護り抜く!!」
夕陽は、とっさに後衛を守ろうと、つららの中へ飛び込んだ。
手や腹、足などにいくつもの怪我を負ったが、回復は仲間にまかせているため、治す気配はない。
回復の手が明らかに足りないと判断したウィスタリアがエンジェリックボイスを歌う中、夕陽は跳び上がってスターゲイザーを炸裂させる。
「影でも動きが止まるか、試してみるかっ」
夕陽が蹴り込んだ衝撃を利用して弾みをつけると、七音の螺穿槍とめぐみのガトリング連射が続く。
その瞬間を見逃さない悠里が都市伝説の後ろへ回り込んだ。
「昨今の女子高生を嘗めてもらっては困る。今時足技手技の護身術は、淑女が修める必修科目だ――そら、次が来るぞ!」
快活に出鱈目を言う悠里は、爆霊撃を叩き込んで、都市伝説をのけぞらせた。
都市伝説が振り返りざまに悠里へ向けば、ノーヴェが利き腕を巨大な砲台に変えていた。
「ジャマーだから~、相手の邪魔しますよ~。なんちゃって~」
狙いを定めたところで、死の光線を都市伝説にあびせる。
多くの毒を受けた都市伝説は、もがき苦しみ、周りにいる前衛たちに冷気の炎を立ち上がらせた。
「往生際が~、悪いですね~」
さらに灼滅者たちは攻撃を受けた都市伝説は、ぐにゃり、と、ゆがむ。
「炎に劣らぬその氷の力、俺の力となってもらうぞ!」
レイジは、最後にと、倒した都市伝説を吸収した。
●4
「お疲れさん。片付けもいらんそうやし、いらん苦労せんでよかったな」
辺りに散らばっている氷は解けるだけだと、七音は、辺りを見て満足げにうなずいた。
「えっと、食べます?」
「食べます~。帰り道に自動販売機がありましたら~、お礼に~、温かい飲み物を皆さんに渡しますね~」
ノーヴェは、めぐみから残っていた大福をいただいた。
時間が経ってしまったので、アイスが半分溶けているが、それはそれで美味しい。
めぐみも食べていると、ウィスタリアが、「あっ」と、声をあげた。
今年はまだ見ていない雪虫を見つけたのだ。
「雪虫を見掛けということは、雪景色もそろそろな気配ね」
「雪なんか降ったら寒いし滑るし渋滞するし、いいことなんてないけど……。……それでも、たまには雪が降るのも見たいわね。今年の冬はどうなるのかしら」
露香は、ハー。と、息を吐いて、空を見上げた。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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