「この近くに温水プールあるだろ? 流行ってる怪談があってさ」
「へぇ」
そういやさ、と語り始めた少年の話に相づちを打ったのは、連れの少年だった。
「受け狙いで頭に門松のかぶり物、下半身は人魚の格好して登場しようとして溺れた女が居たんだってさ。で、それがクリスマスパーティーの余興だったからか、クリスマスツリーを持った奴が通りかかると襲いかかってくるらしいぜ?」
「なんだそりゃ?」
あまりにアレな怪談だったせいか、連れの少年はあっけにとられるが、話し始めた少年は動じない。
「まぁ、言いたいことは解るけどな。想像してみろよ、門松のかぶり物つけて襲いかかってくる下半身人魚の溺れた女の幽霊」
「……あー、想像すると確かに怖いかもな」
「だろ? しかも運良く逃げ延びたとしてもいつの間にか持っていたクリスマスツリーが門松に変わってるらしいんだ」
別の意味でと付け加える少年に語り手の少年は補足する。
「何それ、怖ぇぇぇぇっ」
そもそも意味がわかんねぇ、と続けながら少年はもう一人の少年と共に去り。
「ふふふ、噂はちゃんと広まってるようね」
物陰から一部始終を見ていた少女はほくそ笑む。
「この調子よ、この調子で怪談を広めれば、クリスマスなんてお一人様お断りイベントで浮かれてこの辺りを闊歩するバカップル達の数は激減する筈っ。そうすれば私だってもう、惨めな思いをしなくて済むんだからっ」
ぐっと拳を握りしめた独り言をもし、人が聞いていたなら、きっと生暖かい目で見たことだろう。
「門松じゃない……おかしくね?」
「えっ」
だが、背後から聞こえた声に振り返った少女が見たのは、門松のかぶり物をし、青白い顔をした人魚。
「う、嘘っ。何で本当に居るのよ、あ……」
取り乱し、後ずさった少女の手から、クリスマスツリーの飾りが付いたシャープペンシルが落ち。
「かどまづべっ」
飛びかかろうとした門松人魚は少女の身体から生えた闇に上半身を呑まれた。
「な、何よこ……う、くっ……」
呆然とする中、闇は完全に異形を喰らい、身体に異変を感じた少女がうずくまると。
「か、門松ぅぅぅぅ」
立ち上がった時には門松のかぶり物をした人魚に変じていた。その手にメモ帳とペンを持つ異形に。
「と、言う訳で一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている」
情報提供者として火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)を紹介しつつ座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は集まった君達にそう告げた。
「ただ、今回のケースでは人の意識を残して一時踏みとどまるそうなので」
「もし灼滅者の素質があるようであれば、闇堕ちからの救出をお願いしたい」
また、そうでないときは完全なダークネスになってしまう前に灼滅を。それがはるひからの依頼だった。
「それで、問題の少女の名は、栗須・茉莉(くりす・まつり)、中学三年の女子生徒だな」
独り身の嫉妬から、怪談を流行らせてクリスマスの街にカップルが溢れるのを阻止しようとした茉莉は、都市伝説と化した噂に襲われ、逆に都市伝説を喰らってしまうことタタリガミと化してしまうという。
「元の都市伝説はクリスマスツリーを門松に変えることを最優先に動く。故に、ここに掌サイズのツリーを用意した。これを見せればタタリガミが君達の前から逃亡することはあるまい」
ちなみに、バベルの鎖に引っかからず茉莉と接触出来るのは、タタリガミへの変貌が終わった直後のタイミングになるとのこと。
「場所は温水プールの前で、日没後だからか茉莉の眺めていた少年達を最後に二時間は誰も通りかからない」
人よけの心配は不要と言うことだ。ついでに言うなら温水プールの看板を照らす照明や周囲の電柱に街灯がある為明かりの心配もない。
「もっとも、救うとなれば戦闘は避けられないが」
闇堕ちした一般人を救出するには戦ってKOする必要があるのだ。
「尚、茉莉と接触した時人の意識に呼びかけることで弱体化をさせることも出来る」
噂を広めようとしたのも独り身の寂しさと嫉妬から来るもの。
「なので、一番効果的なのは容姿自慢の男性が、愛をささやくなり交際を申し込むと言った方法になるであろうがね」
とは、はるひの談。
「最後に、戦闘になれば茉莉は七不思議使いと妖の槍のサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
何でもかぶり物の門松は竹の部分が一本外れるようになっているらしく、槍の技はその竹槍で繰り出してくるとのこと。
「私も一応独り身だ、独り身の寂しさは少なからず解るつもりで居る」
だからこそ、捨て置けないのか、はるひは君達に茉莉を頼むと頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
海北・景明(大人になる前のピーター・d13902) |
火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095) |
高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857) |
高坂・透(だいたい寝てる・d24957) |
秋山・梨乃(理系女子・d33017) |
富芳・玄鴉(語り部フォーさん黒カラス・d33319) |
●門松人魚
「……凄い事になりましたね」
星の輝く寒空の白く曇る吐息を風になびかせて、火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)は呟いた。
(クリスマスツリーを門松に変える都市伝説を探していただけだったんですが……)
どうしてこうなったかまでは、明にも解らない。
「何故、クリスマスはこの様な彷徨える子羊を作るのでしょうか……?」
ウクレレの弦に触れつつ、明の横にいた紅羽・流希(挑戦者・d10975)は空を仰ぎ。
「クリスマスに悲しくなる気持ちはわからないでもないけど……恋人がいなくたって、楽しいことはたくさんあるはずよ。友達と遊んだり、いっそ一人映画を楽しんだりね」
答えることのない星空の代わりに口を開いたのは、海北・景明(大人になる前のピーター・d13902)。
「悲観に暮れたり、噂を広めて嫌がらせする必要なんてないってことですね」
「ええ、そうよ」
椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)へ景明は頷くと、用意してきたツリーのピアスに触れ、雰囲気を変える。
「……さ、行こうか。レディを待たせちゃいけないからね」
一人のキザ男が誕生した瞬間であり、作戦開始が近づいたと言うことでもある。
「そうだな、しかし……」
促される形になった他の灼滅者達の中、秋山・梨乃(理系女子・d33017)は歩き始めながら視線をアスファルトに落とした。
「みんな、少し人の目を気にし過ぎなのだ。クリスマスをどう過ごそうが、個人の自由だと思うのだが」
「まぁ、考えようは人それぞれでございやしょうが、噂話の悪用はいけやせんなぁ」
応じた富芳・玄鴉(語り部フォーさん黒カラス・d33319)は、これはお説教にございやすねと続けると他者に倣い。
「か、門松ぅぅぅぅ」
対面に至るまで、さして時間はかからなかった。
「一つ前に行った依頼も人魚を題材にしていやしたが、趣が随分と異なりやすねぇ。なんとも奇天烈な噂を物語ったようで……」
「ふぁ……とは言え、このままあの女の子を放っておいて寝てる訳にもいかないよねぇ」
街灯に照らされ咆吼を上げる異形の姿に玄鴉がコメントすれば、あくびの漏れかけた口元を押さえ高坂・透(だいたい寝てる・d24957)は目を擦ると、フードの中で寝ているナノナノをそのままに歩き出す。
「では、私達も行きましょうか……」
「はーい、了解!」
うながされて応じつつ、高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)はちらりと流希の背を見た。
(「やっぱり、紅羽先輩を超引き立てたいなぁ」)
男の中の男と麦が評した流希の手が動き、ウクレレの弦が歌い出し。
「門ま……つ?」
クリスマスソングの旋律に動きを止めた門松頭の人魚はこの時ようやく灼滅者達に気づいた。
●接触
「今回は百物語は語る必要がございやせんかね……」
まぁ念のためと人払いに玄鴉が語り始める中。
「綺麗な髪だね」
最初に話しかけたのは、景明だった。
「えっ」
「頭の門松それイケてるねー。盛り髪ってやつでしょ? オシャレ!」
戸惑いを浮かべる元少女を今度は麦がよいしょする。盛り髪と言うか、被り物。頭に角松を乗せているのではなく、門松の形をした兜かヘッドギアを被っているのに誓いが、それはそれ。
「そんな、おかしく……ね?」
門松の顔出し穴からちょろっとはみ出た髪の毛を指に絡めてモジモジし出したのは、元の少女が褒められ慣れていなかったからか。
「色白だよねー、儚いっていうか女の子らしいっていうか、守ってあげたいって感じ? 人魚……といえば姫でしょー!」
「君の泳ぐ姿は美しいんだろうな」
「う……あ」
二人がかりの褒め殺しにタジタジとなる門松頭の人魚は端から見ればシュールだったが、まずまずの滑り出しでもあった。
「っ……門松」
ただ、いくらか言葉がかわせたとしても、自らを完全に制御出来ているかと言えば、別問題。
「ツリーを……門松に」
都市伝説の行動パターンに引き摺られ始めた元少女はツリーを探し始め。
「落ち着」
「ツリーはここです」
注意を逸らさせるためにか梨乃が威嚇をしようとした時だった、明が掌サイズのツリーを取り出して見せたのは。
「あ」
「それから、これって栗須さんのだよねぇ?」
動きの止まったところで、アスファルトの上に転がっていたツリーの飾り付きシャープペンシルを拾った透が拾得物を、そのまま落とし主に見せる。
「本当は誰かとクリスマスを楽しみたかったんじゃないのかい?」
「う……わた、し……私は……」
掌で顔を覆い、元少女はよたよたと後退り。
「独り身がなんですか、私だって18年間独り身です。……っ」
追い打つように言い放った明は、自分の言葉にダメージを負った。
「キナシ先輩……」
「私も独り身なので、気持ちは解りますが……」
「ええと、声をかける相手が違いませんか?」
そして自分に向けられた気遣わしげな視線に、明が思わずツッコミを入れてしまったとしても仕方のないことだと思う。
「すみません、いくらディフェンダーでも非物理的なものは庇いようが無くて」
「つよく……生きて」
なつみは申し訳なさそうに頭を下げ、先程まで都市伝説の行動パターンと人の意識の狭間で揺れていた元少女までポンと肩に手を置く状況。明の告白は、それ程の力を持っていたと言うことだろう。
「話を戻すけど……君がパーティーに来てくれたら嬉しいな」
ただ、流石に景明は歌うように誘う相手を間違えなかった。
「栗須さんと友達になりたくて、良かったら一緒にクリスマスを過ごそう」
「そうそう、姫! 俺らクリスマスパーティーやるんだけど遊びに来てもらえませんでしょーか!」
すかさず透と麦がこれに便乗する。
「パーティー……っ」
灼滅者達の誘いは元少女の心を揺らすには充分であり、それは同時に少女の中のダークネスにとって好ましからざるものだった。
「門松ぅぅぅっ!」
突如被り物から竹を一本引き抜き、元少女がアスファルトを尾びれで蹴り。
「させませんっ」
迫る竹槍の穂先を、なつみの身体とWOKシールドが遮った。
●荒治療
「説得して頂いて、助かりました」
捻りをくわえた突きを受けながらも、なつみはすぐに立ち上がる。説得による弱体化は、門松人魚の繰り出した一撃にも及んでいたのだ。
「クリスマスが妬ましく思う気持ちが分かるがよ。悪い噂を流していい理由にはならんな」
「きゃあっ」
むしろ痛手を負ったのは、突きかかった直後の隙をつかれた元少女の方だろう。
「それにさ、アタックの仕方違わない?」
身を守る人魚の衣装ごと斬り裂かれた門松人魚に問いつつ、麦はマテリアルロッドを向け。
「ふんわり美少年の高坂くん、ミステリアス系ふおーさん、オシャレ男子アキちゃん先輩……イケメンばっかりだし、気持ちはわかるけどさ、物理的なアタックじゃなくて、するなら告白でしょ?」
「これで大丈夫ですよ」
会話で間を稼ぐ間に明の魔殺の帯がなつみの身体を覆い、傷を癒す。
「な」
先制攻撃をしたはずが、庇われ、庇ったものまで癒やされてしまったからか。麦の挙げた三名からなつみにしせんをやって驚きの声を元少女はあげるが、それもまた失策だった。
「ビビッときた!」
「ぎっ」
魔術によって引き起こされた雷に打たれた門松人魚は身体を仰け反らせ。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
動きの止まった元少女目掛けて透が帯を射出する。後を追うように飛んで行くナノナノのなののしょぼん玉が、鼻提灯を連想させるのはそれまでフードで寝ていたからか。
「くふっ」
「クリスマスに恋人と過ごす事は、別に格好良い事ではない。だから羨む必要もあるまい」
帯の突き立つ元少女に今度は梨乃が交通標識を振りかぶり肉迫し。
「にゃあっ」
ウィングキャットのミケが猫魔法で支援する。
「流石に気の毒だな」
ほぼ一方的な集中攻撃を浴びる門松人魚を見て、交通標識を黄色にスタイルチェンジさせた景明は演技を維持したまま呟いた。ただ、少女を救うためには、攻撃を止めることなど論外であり。
「さて、人を呪わば穴二つと申しやす。他人を羨むのはほどほどにしときなさいな」
縛霊手で握り拳を作りつつ、玄鴉は元少女に語りかける。
「がっ」
「見上げてばかりでは首も痛くなりやしょうて」
落とした大きな拳は網状の霊力を放出させつつ、門松人魚に下を向かせ。
「うっ」
「行きますよ」
蹌踉めいたところになつみが先程のお返しとばかりに八極拳を応用し震脚を効かせつつWOKシールドを元少女に叩き付けた。
「べっ」
顔面を殴打される形になったタタリガミからは女の子らしからぬ悲鳴が上がり。
「よ、よくもやったわね」
起きあがった元少女の目は怒りに燃える。
「串刺しに――」
反撃しようとしたのも無理からぬこと、ただ。
「熱い視線!」
「びゃあっ」
弱体化している上で多勢に無勢では、まともな勝負になるはずもなかったのだ。竹槍を手になつみへ襲いかかろうとした角松人魚はビームで撃たれ。
「く……」
「人魚になんてなっちゃダメだよ、泡になったら一緒に遊べない」
「そんな気持ちだけ、ここに置いていけ」
立て直す暇すら与えられず、叩き込まれる炎を纏った蹴りの一撃と、振り下ろされる断罪の刃。
「ぐぅ、私は……門ま」
「来年も皆で一緒にクリスマスを過ごそうよ」
「ナノ」
炎に焼かれつつも身を起こそうとする元少女にたつまきが直撃し。
「君と、パーティーがしたい」
伝説の歌姫を思わせる歌声で景明は求める。
「私は……うっ、きゃあ」
額を押さえて呻き、傾いだ門松人魚を詠唱圧縮された矢が貫き。
「クリスマスを楽しく過ごしたいなら、学園に来るといい。凄いぞ、色々と」
射手たる梨乃は手を差し伸べる。
「そっか……本当は……私」
アスファルトの上に倒れ込みつつ、竹槍を落とした異形は徐々に人の姿へと戻り始め。
「何とかなりましたね」
ヒレも門松の被り物も消え去るのを見届けたなつみは、周囲を見回して問うた。
「お怪我はありませんか」
と。
●パーティーをしよう
「これでもう大丈夫そうですね……」
戦いの痕跡を出来る限り隠蔽し終えた流希は、周囲を見回して頷くと意識を取り戻した少女をちらりと見る。
「助けるためとはいえごめんなさいね……」
丁度そんな少女を見つめて小さく呟く景明が視界に入るが、敢えて何も言うことはなく。
「まずは学園の説明からですね……」
「そうですね」
「では、帰り道で学園の事を説明しつつ、パーティーの準備もいたしましょうか……」
「いいね! 紅羽先輩ナイスアイデアです!」
代わりにもらした言葉へ明は相づちを打てば、流希の提案に麦が両手を挙げて賛成し。
「いいな。僕も参加させて貰っていい?」
続いて話に加わったのは、外したフードの中に寝息をたてるナノナノを入れたままの透。
「では、場所は何処にしましょう」
「ブッシュドノエルを持ってきてますから、持ち込み可能なお店かいいですねぇ……」
「なら――」
有言を実行に移す試みは撤収の準備をする内に纏まり始め。
「ささ、こちらへどうぞ」
「あ、ええ」
救われた少女はに促され灼滅者達と夜道を行く。
「一足早くはございやすが、クリスマスパーティでもしやしょうか。なに、サンタクロースも慌てん坊にございやすから問題ございやせんでしょう」
ただ、街灯が照らすだけの夜道もこの時の少女には別のものに見えたのか。
「そう……ね」
口元を不意に綻ばせ。
「それでは、道すがら武蔵坂学園の事をお話ししましょうか。学園に来れば、最低でも嫉妬で一般人に迷惑をかけなくてすみますよ」
「学園には彼女無しのイケメンが沢山いますからね……」
「ちょっ、それ本当?!」
明の言葉に、いやおそらくは自分の言葉に食いついてきたのだろう。
「来るなら歓迎するのだ。寂しいなどと思っている暇は無くなるぞ」
急に向き直った少女へ梨乃が口元を綻ばせ。
「本当に期待して良いの?」
注意が他者に向かう様を眺めつつ、流希は願う。
「学園で彼女に素敵な出会いがありますように……」
と。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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