●がんばれ慈眼衆、がんばれ依さん
都内某所にて。
慈眼衆たちからの提案に、刺青羅刹『依』はふむ、と頷いた。
「成程……慈眼衆の習わしとして行う戦勝の宴。そこに、武蔵坂の皆様も招待したいと。よき考えかと思います」
は、と頷きを返す慈眼衆一同。その表情は真面目だった。
「では、早速猪でも捌きましょうか。この時期であれば、さぞ脂ののったものが……」
「否。若者である灼滅者達を招く以上、我らのしきたりに拘る必要はない。彼らの流儀に従い、彼らの作法に則り仕儀を行う」
己の声を遮って告げられた言葉に、依はしばし沈黙した。……何がとは言わないが、嫌な予感がする。
額に一筋の汗が伝うのを感じながら、依は恐る恐る唇を開いた。
「……具体的には、どのような祝宴をしようと?」
そんな依に、慈眼衆のひとりが一枚の紙を差し出した。丁寧にそれを開いてみて……詳しい内容に目を通すまでもなく、依は硬直した。
ビビッドでブリリアントな色遣いのチラシに、やはり派手派手しい蛍光色の文字が乱舞している。既に嫌な予感が当たった感しかしないが、覚悟を決めて依はその字を読み上げてみた。
「イエーイ、ゴイスーな戦勝パーリィの始まりDA! ダンサブルなageageナンバーに乗せて、朝までダンスホールでフィーバーしよう☆ ゴキゲンなビンゴ大会もあるYO☆」
微妙に棒読みっぽくなったのもむべなるかな。チラシからじとーっと視線を上げた依の目の前で、慈眼衆は生真面目に言い放つ。
「ならぬぞ依。相手は灼滅者、ナウなヤングだ。彼らの作法によれば、今の態度は『マジテンサゲ』とかいうよくないものに相当すると聞く」
「そ、そうですか……」
言い慣れてない感満載の『ナウなヤング』発言に、もう一筋汗を流す依。もういい、もういいのです皆。そう言いたくなるのをぐっとこらえて、依は先ほどから隅の方で軽快かつ複雑なステップを踏んでいる集団に目をやった。
「ちなみに彼らは何を」
「灼滅者だけを踊り狂わせ、我らは座して見るままというのではあちらも興醒め……いやテンサゲというもの。故、こちらも若……イケイケヤングのパーリナイに相応しき舞を披露せねばなるまい」
「……そうですか。そうですね」
もはや諦め気味に答える依。アゲアゲダンシンの練習(と言うか、むしろ修行)に励む慈眼衆の真顔が怖い。しかもダンス自体はキレッキレだったりするのがまた怖い。
そんな依の胸中など露知らず、隊長格の慈眼衆は一同に向けて声を張り上げる。
「此度の仕儀、しくじる事は許されぬ。命を賭してでもやり遂げよ!」
「応ゥゥ!」
「……いえ、あの」
覚悟が重い。そしてキツい。
大丈夫かなこれオーラを全身に滲ませながら、依はそっと額を拭うのだった。
●そんなこんなでこうなった
ところ変わって、武蔵坂学園。
「……慈眼衆が、ゴイスーな戦勝パーリィに招待してくれるって」
ビビッドでブリリアントでテンションアゲアゲなチラシを前に、灼滅者たちは微妙な顔をしていた。
「なんか、渋谷のシャレオツなクラブを貸し切りだってさ」
「慈眼衆が?」
「慈眼衆が」
顔を見合わせる灼滅者たち。慈眼衆と戦勝パーリィ……もといパーティ。慈眼衆とシャレオツ……オシャレなクラブ。慈眼衆とテンションアゲアゲ。なんだろうこのミスマッチ感。
「行く?」
「どうしよう」
もう一度顔を見合わせる灼滅者たち。その中の一人が、ふとチラシの隅に目を留めた。
「……一応、あまりにもあまりなことになりそうなときは『依』が止めてくれるって」
こっそり書き足されていた追伸に、灼滅者たちは揃って思う。
あまりにもあまりなことになりそうなお誘いなんだな……と。
●レッツビギンパーリナイ
夜霧・一輝(ストップアンドゴー・d34263)は、シャレオツなクラブの入口で立ち尽くしていた。
(「来てしまった……なんかえもいわれぬ好奇心に抗えずに……半ば突発的に……」)
入るべきか入らざるべきか、たっぷり悩んでから覚悟を決める一輝。その間に何度か他の灼滅者が入店していく流れに乗りそびれたのは、ともかくとして。
「よ、よし、いくぞ……」
そうして飛び込んだダンスフロアでは――。
「みんなー! あげてくよー!」
元気一杯な掛け声と共に突撃してきた、HAKO・ON・THE・MIKOSHI……もとい只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)一行。
「お祭り好きの血が騒いでならないわ……」
目をきらきらさせた神之遊・水海(秋風秋月うなぎパイ・d25147)が、その辺の慈眼衆に視線を送る。謎の神輿に呆然としていた彼らは、思い出したように拳を突き上げた。そう、今夜はパーリナイ!
東・啓太郎(独り歩き・d25104)の流すアイドルナンバーがホールを包めば、やがて羅刹グルーヴに身を任せた慈眼衆とイカした灼滅者ダンスを決める学生たちの夢のコラボが実現する。
そう、クールなサウンドに身を任せれば、ダークネスも灼滅者もノーサイド!
炎道・極志(可燃性・d25257)が華麗なステップを刻めば、斎倉・かじり(筋金入りの怠けもん・d25086)も立てた指で応えて。
「貴女も私も超! エキサイティン!!」
「エキサイティン!!」
喝! とか言わんばかりの顔で唱和する慈眼衆。サムズアップする葉子。そんな彼らを見て、ドイツ出身のセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)はぱちくりと瞬いた。
「なるほど……本来の日本の若者とは休日とか夜はこのように楽しむものだったのか」
幸か不幸か、セレスの勘違いを訂正する者はこの近くにはいなかった。祖父がよく聴いていた曲に気付いてステップを踏み始める彼女の脇を、貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)が元気よく駆け抜ける。
「今夜は寝かせないよぉぉぉぉぉぉ!!」
「あ、葉月さんその台詞」
「ダウトォォォォ!!」
示し合わせたかのように綺麗にツッコむ小夜凪・凛花(全力愛情娘・d32494)と凪野・悠夜(朧の住人・d29283)、そして山桜・芽衣(コーヒーウルフ・d35751。ダウトとは何ぞやと慈眼衆の一人に問われれば、悠夜はふっふと胸を張って。
「互いに権謀術数を競い全力で『ダウトォォォォォォォオオオオオオ!!』と叫ぶ、ただそれだけで良いんだ! さあ一緒に叫ぼうじゃないか!!」
「ダウトなのにトランプ使わないの!? ダウトってただ叫ぶだけのものじゃないよ!」
華麗なボケへのシフトに更にツッコむ芽衣。その横でいつの間にかおやすみモードに突入しようとしている葉月。もはや何が何やらのカオスである。
「ちょ、みんな、あの……暴走し過ぎじゃないかな!?」
わたわた手を振る凛花が現実逃避に走り始めるまで、あと少し。
そんな灼滅者たちの盛り上がりと、やはり超真顔で盛り上がりまくっている慈眼衆を横目でちらっと見比べて、有瀬・桂(人の心の光・d34395)は密かに苦笑い。
「こちらを喜ばせようとしてくれてるのはひしひしと伝わって来るんだけどね……」
頑張れみんな、頑張れ依さん。とりあえず手伝えることがあればと、桂は空のグラスを手に取った。
桂からドリンクを受け取りながら、風真・和弥(風牙・d03497)はぼんやりと慈眼衆のアゲアゲダンシンに目をやった。
なんだろうこの謎の敗北感。クラブなんてそもそも完全アウェーなのに、なんだろう、この。
ふと脳裏をよぎった恐ろしい考えを振り払うように首を振って、和弥は椅子に深く身を沈めた。
やはり所在なさげにグラスを揺らしながら、旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)は口の端をひくひく震わせて。
「いや、いいのだが……いいのか、これは」
まあ、ツッコむのも野暮だろうと自分に言い聞かせて、砂蔵は羅刹たちと灼滅者の入り交じるホールを見やった。
(「相対するのではなく、寄り添う……そういうこともできるのだろうか」)
と、にわかにその一角が割れる。慈眼衆に両腕を掴まれ運び出されているのは、砕牙・誠(阿剛さん家のドエムっぽい忍者・d12673)だ。
「強引なガールハントは御法度ぞ!」
「い、今のは単に一緒に踊ろうって意味だったんだよぉぉぉ!?」
「言い訳無用、去ねい!」
ぽーい、と店外に放り出されるアフロ、もとい誠。どうやら、語弊のある言い回しで依をダンスに誘ったのが原因らしい。その一部始終をすぐ近くで見届けていた熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)が、気を取り直すようににへらっと笑って依に菓子箱を差し出した。中身は、手作りの桜カステラだ。
「おみやげ、どうぞー」
「これはご丁寧に、どうも……有難く頂戴します」
しずしずとおみやげを受け取る彼女の肩を、翔也は同情を込めてぽんと一度叩いた。
そんなあれこれがありつつも、ホールはますます熱くアガっていくばかり。軽やかに舞う慈眼衆をちらちら見ながら、神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)はふと呟いた。
「何と言うか……上手いんだが、ダンスと言うよりむしろ演武に見えるのはオレだけか?」
「あ、それわしも思った」
くるっとターンして天井を指しつつ、アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)が呟きに応える。ラメとフリンジで飾ったスーツでキメた彼にも、ゴイスーとかシャレオツとかテンションアゲアゲの意味はいまいち分からないらしい。
まあ、とりあえずダンスパーティということは分かるからいいのだ。そう結論付けたアレクサンダーは、トゥナイはフィーバーとばかりにもう一度天井に指先を向けた。
「ヘイ、話は聞いたぜガイズ。ったく、そんなむさい格好でしかめっつらブラ下げてお前らってヤツは――」
ぐぐっと俯き、言葉を溜めに溜めた後で、巽・真紀(竜巻ダンサー・d15592)は刺青入りの肩に腕を回して。
「わかってんじゃねーか!!」
満面の笑みでダンサーを名乗って、彼は早速慈眼衆にヘッドスピンを教えにかかる。
角に邪魔され悪戦苦闘しつつも、なんやかんやでHIPHOPなスピンを体得してみせた慈眼衆の姿に、深草・水鳥(眠り鳥・d20122)が隅っこの方からそうっと拍手した。そこにこもるのは、純粋な感心の気持ちだ。
「もしかしたら……お互い、分かり合えて……仲間になれば、いいね……」
小さく呟いて、水鳥はほんのり笑みを浮かべる。
それにしても、なんでこうなった。発案者に一度話を聞いてみたいと思いつつ、香祭・悠花(ファルセット・d01386)はしゃらりとタンバリンを鳴らす。
「しかし音楽在るところ喜びあり!」
という訳で、レッツダンス! 霊犬のコセイと一緒にくるくる回る悠花の軽快なステップに、ギャラリーからどよめきが上がった。彼女と慈眼衆のダンスバトルを盛り上げるように、一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)がDJブースから熱いMCを贈っていく。
「パーリナイ? パーリナイ♪」
テンション高く叫べば、応える声がホール中に響く。そう、楽しもうと思っていればオールオッケーバッチグー! 狂ったように踊りまくったっていいじゃない、ナウなヤングのダンパだもの!
その盛り上がりを見て、紅羽・流希(挑戦者・d10975)が小さく笑んだ。
「やはり、諍い合うより、こうやって楽しむのが一番かと思いますねぇ……」
呟きつつ取り出すのは、琵琶。意外そうな周囲の顔に、流希は弦を掻き鳴らすことで答えてみせる。
「こういった楽器でも、ノリの良い演奏は出来ますよ……」
和風テイストのクラブミュージックにテンアゲマックスの慈眼衆たちに踊りつつ近寄って、牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)は眼鏡を光らせる。
「若者の間ではお洒落眼鏡というものが流行っています。」
挑戦したらどうでしょうと差し出すのは、星型レインボーカラーのゴキゲン眼鏡。興味深そうにそれを手に取る慈眼衆を、依がもの言いたげに見つめていたとかいなかったとか。
その依にそっと歩み寄って、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)は複雑な笑みを浮かべる。
「とてもおつかれさまでした」
思う所がないわけではない。だが今は、それより彼女を労いたい気持ちが勝っていた。
「良かったら、少しくらいは踊りませんか?」
「私で宜しければ、一曲ご一緒致しましょう」
誘う掌を、依の手がそうして静かに受ける。
しかし慈眼衆、真面目が過ぎてすごくシュールです。
そんな感想を揃って抱いていた刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)と刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)は、気を取り直して手近な慈眼衆に声をかける。晶とのダンスバトルを受けて立つ者を横目に、渡里はひとつ問うてみる。
「ああ、そうだ。安土城怪人の組織としての癖とか、手を組んでる組織とか分かる範囲で教えて貰えると助かるな」
「安土城怪人は、堅固な守りと、多くの配下を集める力をもつ。白の王と協力関係にある為、早急に対応せねば此方の不利となろう」
ふむ、と頷き、お礼を述べて、渡里は姉妹の方を振り返る。折しも技を競い終えた晶と慈眼衆が、高く強く掌を合わせたところだった。
「いい勝負だったな……」
「いかにも」
淳・周(赤き暴風・d05550)が、爽やかヒーロースマイルでがっしと慈眼衆の手を握る。日頃のしがらみなど捨ててのダンスバトルは、こちらもかなりイケイケな感じに白熱した。被っていた赤アフロをひょいと外して、ユニフォーム交換よろしく手渡せば、ごつい両手が丁重にそれを受け取った。
これがヤングのファッションなれば、とアフロを被る慈眼衆の姿に、小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)がきらーんと目を光らせる。
「今のナウな若者らの間の流行はモフモフ、なの」
黒猫着ぐるみを着込んだ美海がもふもふについて大いに語れば、好奇心旺盛な羅刹たちがわかったようなわからないような顔をして頷いた。
「ひあうぃーごー、れっつぱーりぃー♪」
そこへテンション高く登場する、【文月探偵倶楽部】のゆかいな仲間たち。目付きの悪いクロネコ――本人曰く『正装』でキメた文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)を筆頭に、たちまち着ぐるみ軍団が慈眼衆を取り囲む!
「これを着て一緒に踊りましょう♪」
そう言って白犬、もとい志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)が掲げてみせるのは、バイクみたいな馬の着ぐるみ。顔を見合わせる慈眼衆。ややあって、彼らの一人が口を開いた。
「成程……これがナウなヤングのトレンディだと言うのだな!」
「今のとれんどは、着ぐるみダンスだよ!」
元気いっぱいに言ってのけるミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)。ちなみに、彼女の着ぐるみはまさかのヒマワリ。茎の両脇から腕が出るスタイルで、着たままフィンガースナップできちゃうスグレモノだぞ!
そんなやり取りの末、ホールに登場したお馬さんズを前に、鈴木・レミ(データマイナー・d12371)はこっそり呟く。
「……やっぱり着ぐるみっすよねーうんしってた」
しょうがないね。
さっくり気持ちを切り替えることにして、レミはギターを掻き鳴らす。
「このビートに乗ってこれるなら、ガンガンついてくるっすよ!!」
「にゅ、みんなで踊るのですねっ?」
ぱっと顔を輝かせるぺんぎんさん、じゃなかった平坂・月夜(常闇の姫巫女・d01738)。転がるようにくるくる回り出す彼女に小さく笑って、藍も掌を慈眼衆に向けて。
「あーゆー れでぃー がーいず、あんど、れでぃー」
「いえあー」
命懸けてますと言わんばかりの真顔とキュートな着ぐるみのギャップがサイコーにイカス馬の集団が、一斉に野太い声で応える。さあ、着ぐるみナイトはこれからだ!
「これぞ武蔵坂学園か……」
一種カオスな光景を眺めて、鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)は頭を押さえた。その指先に触れるのは、長くて可愛いウサミミの根っこ。そう、【糸括】の今宵のドレスコードはずばり『ウサミミメイド』だ!
当然のようにウサミミメイドを着こなした木元・明莉(楽天日和・d14267)が、さあ着ろと慈眼衆にメイド服を広げてみせる。素直に着てみる慈眼衆。フリルとマッスルのコラボレーションにイイ笑顔を向けつつ華麗に踊るメイドな明莉は、これでも大学生男子である。
更にフリルいっぱいの傘を抱えた久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)が、ゴスロリ服の裾を揺らして羅刹たちに駆け寄って。
「傘っ! みんなの分も持ってきたよーっ。よりさんも、どうぞっ」
そして始まるのは、小道具を駆使してのゴスロリダンス。萩沢・和奏(夢の地図・d03706)が目を輝かせ、曲に乗るようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「わ、キョンちゃんの傘可愛いー!」
オタ芸を慈眼衆に教え始める明莉、周囲の期待を無下にもできずに悟りの顔で踊る脇差といった先輩たちへのツッコミは放棄することにして、琶咲・輝乃(あいを取り戻した優しき幼子・d24803)はダンスの輪をそっと離れる。
「こんにちは、依。ちょっと話してもいいかな?」
数人の慈眼衆が振り返り、目を光らせる。だが、彼女の言葉が闇堕ちした灼滅者への説得ではないと気付けば、彼らは再び踊りに戻っていった。
祝勝会の準備を労い、慈眼衆の『若者』の認識について問えば、依は困ったような微笑みを見せた……気がした。微かに笑み返して、輝乃は仲間のもとへと向き直る。
「またね、『加賀・琴』」
踏み出しざまに口にした言葉は、果たして彼女に届いたのだろうか。
●クラブの片隅で羅刹とトーク
アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は、バーカウンターのスツールで優雅にグラスを傾けていた。
(「それにしても、粗暴で知られる羅刹とは思えないわね」)
天海大僧正の統制ゆえか、或いは単に戦勝が嬉しいのか。なんとはなしに想像を巡らせながら、アリスは激しく踊る慈眼衆を見やる。
「しかし慈眼の面子の踊り方だきゃァなんとも面妖でござんすねえ」
同じ集団から目を逸らすようにして、撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)が傍らの神坂・鈴音(魔弾の射手は追い風を受ける・d01042)だけに聞こえるよう呟く。彼らの方はあまり見ないようにして、彼女ともうひと踊りしよう……と思ったら、鈴音はその慈眼衆の方へとまっすぐ向かっていくではないか。
慌てて追いかければ、鈴音はまさに慈眼衆のひとりを見上げて唇を開いたところだった。
「皆さんとしては、学園にどんな働きを期待しているの?」
問われた慈眼衆は、じっと彼女を見つめ返して答える。
「我等が同志となり、共にこの日本を外敵より守ることである」
「なるほど。お答えありがとうございます」
ぺこんと頭を下げ、鈴音は娑婆蔵を振り返って笑った。
一方、物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)は世間話のように慈眼衆へと声をかけていた。
「そういや、普段のお前らの祝勝会ってどんななんだ?」
実は灼滅者に合わせるというのは建前で、こういうパーティがしてみたかっただけだろうと悪戯っぽく付け加えれば、慈眼衆は否と答えた。
「確かに興味を持つ者がいたことは否定せぬ。だが、ナウなヤングのめでたき日はこうして祝うしきたりなのであろう?」
ダメだこれ。
本気でそう思い込まれているらしいことに小さく笑って、橘・芽生(焔心龍・d01871)はいかめしい顔の羅刹に言葉を掛ける。
「次の機会には、そちら流のおもてなしをお願いしますね! いのししさんとか食べる機会滅多にないので楽しみ、です!」
雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)もうんうんと頷き、話の輪に加わっていく。賑やかなトークに、羅刹はまんざらでもなさそうに笑みを浮かべた。
旬の猪鍋は確かに魅力的だと思いつつ、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)も壁際にいた慈眼衆に話しかけてみる。先の戦いの感謝と、今後も平穏な関係でありたいことを伝えれば、彼は言葉少なに頷いた。
「ところで、壬生狼組のスサノオはこういう宴には出てこないのかい?」
「あれは、あくまで戦場で使うものなれば」
宴席には相応しくないということだろうか。そう考えつつ、謡は壁に身を預けた。
同じ闇を宿す者として、慈眼衆と話してみるのも一興。そう考えて、逢魔・歌留多(黒き揚羽蝶・d12972)は扇子を畳む。
「羅刹として、貴方達はどのような未来を描いているのですか」
同じタイミングで踊り終えた慈眼衆に問うてみると、彼は迷いもせずに答えた。
「日本の地を外敵から守り抜く為、戦い抜く覚悟」
ふむと頷いて、歌留多は丁寧にお礼を述べる。と、慈眼衆が何かに気付いたように視線を鋭く動かす。その先に、依へと歩み寄るシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)の姿があった。
「……深い感謝を」
今回の戦果は其方のおかげと、シャルロッテは頭を下げてみせる。
そして告げるのは、ラブリンスターのことと、琴の帰還を望む灼滅者たちのこと。
「彼らを説得するだけのものがあるから接触してきたのよね?」
強く押しはせず、ただそう問えば、依は小さく笑った。
「依ちゃんだよね」
無邪気な顔で依を見上げるのは、チョコ餃子怪人姿の高嶺・楠乃葉(餃菓のダンプリンフィア・d29674)。ええ、と頷く依に、楠乃葉は大きな皿を差し出した。山盛りのチョコ餃子に揚げチョコ餃子は、慈眼衆にも好評の逸品だ。
「依ちゃんはチョコ餃子食べた事は無いかな? 良かったらどうぞなの」
「頂きましょう」
依がチョコ餃子を食べ終えるのを待って、高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)は彼女に近付いた。
「私はアナタに命を救われた者です」
そう名乗ると、依は微かに目を細めて。
「もしや、加賀・琴のことを仰っているのですか?」
「……あの夏からもう随分と経ちましたね」
本心を押し殺して、紫姫は冷静に微笑んでみせる。彼女の中に、『琴』を感じることは――できたのだろうか。
琴に対して思うところがあるのは、天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)もだ。踊りもせずにつかつかと依に歩み寄る彼女の姿が、周囲に緊張を走らせる。
「依……いや、加賀さん。ただ貴方に一言伝えたいことがあるだけ」
真っ直ぐに見つめてくる京香を、依は笑顔で見つめ返す。
「少なくとも、ここに一人……あなたの帰還を待っている人がいる。それを忘れるな……」
言うなり、京香は依に背を向けてその場を去った。無茶な戦闘や説得が始まらなかったことにほっと息をついて、東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844)は友人の消えた方を見やる。
「琴さん好きすぎるくらい好きですからねぇ……」
とは言え、朱毘が信じた通りに京香は己を制してみせた。そのことに安堵を覚えているのは、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)もだ。緊張の解けたホールを見やって、彼女は軽く息をつく。
「ところで慈眼衆。あなた達アメリカ慈眼衆化してないかしら、それ」
「アメリカなぞにかぶれた覚えはない。我等はあくまで日本のヤングにバカウケのカルチャーをだな……」
慈眼衆の反論に、エリノアは何故依が訂正しなかったのかと考えかけて……やめた。
空気をほぐすように、ジヴェア・スレイ(ローリングエッジス・d19052)が依へと駆け寄っていく。援軍へのお礼を述べた後、彼女は依にスペードを象るブローチを手渡した。
「良かったら、これ、天海さんに渡しておいて」
「贈り物ですね。承りました」
受け取ったツートンカラーのブローチを、依は丁重にしまい込んだ。
「今日はありがとうございます」
「今回の戦は厳しかったな……そちらにも、かなりの被害が出たと聞いた。謹んでお悔やみ申し上げる」
華やかに着飾った椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)に続き、息も乱さず踊り終えた神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)が頭を下げる。けれど沈痛な面持ちを見せたのも束の間、彼女は依に右手を差し伸べて。
「この後の安土城怪人戦も、綿密に連携していけると良いな?」
その手を受ける依に笑いかけながら、桜咲・優(信頼のかけら・d35833)がジュースのグラスを掲げる。
「こういう協力関係もあるんだなぁー」
もしかしたら、更なる協力だって可能なのかも知れない。ならば依と出来るだけ交流したいと、優は積極的に彼女に雑談を振ってみる。
「今回の戦争で、ダークネスと人間の関係は今までのような考え方では測れない可能性が出てきましたよね」
紗里亜も仲間に同意しつつ、歓談を楽しんだ。
一方、彼女らと共に会場にやって来た不動峰・明(大一大万大吉・d11607)は、バーカウンターで数人の慈眼衆と語らっていた。
これまでの武勇伝を何かと請えば、慈眼衆のひとりが気を良くしたように口を開いた。つい先ほどまで一緒に踊っていた風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)が絶妙なタイミングでドリンクのお代わりを注ぎ足すことも手伝って、慈眼衆の口ぶりは次第に楽しげになっていく。
賑やかな人の波を潜り抜け、羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)もまた依のもとで話していた。
「自分かダークネスかどっちかじゃなくて、一緒にお話できたらいいのにって」
『依』と話して感じたことを素直に口にして、陽桜ははたと口元を押さえた。
「……て、依さんからしたら面白くないですね、ごめんなさい。でも、あたし、依さんも好きですよ」
相容れない敵同士となるかもしれないけれど、それでも。言うなりぺこりと頭を下げて、彼女はダンスフロアへと駆け出した。
「今後はうちらと定期的にこういうパーティや手合わせ等、交流会的なもんでもしていかへん?」
慈眼衆のような強敵との手合わせの機会があれば嬉しいという伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)の意見には、依は難しい顔を見せた。
「ダークネスは、戦闘不能になれば灼滅されるよりほかありません。故、灼滅者のような闘技の仕合は難しいかと」
「ほな、交流の方は?」
重ねた問いには、闇堕ちした灼滅者があと何人か此方に加われば実現できるとの答えが返った。ゆるりと笑んで、依は言う。
「もし、闇堕ちなさって行く当てがなければ、その時は是非我々を頼って頂きたく思います」
「そうだ、依さん。依さんって、学園と天海僧正以外の人の所にアプローチってかけたのか?」
労いの後に桃野・実(水蓮鬼・d03786)がそう問えば、依はまず短く答えた。
「朱雀門高校とは交渉しております」
「朱雀門?」
「ええ。立場がある為、敵対せざるをえない事もあるかもしれませんが、本心では、こちら側につきたいと思っているはず。今後、爵位級ヴァンパイアと交戦することがあるならば、一番の味方となるのは彼ら朱雀門かと存じます」
他勢力と繋がろうとしているのは、安土城怪人側だけでなく、こちらもか。足元に戻って来た霊犬を撫でつつ、実は静かにそう考えた。
六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)も、依に話しかけてみる。
「何と言うか、災難だよね。……体を加賀さんに返す気はない?」
「この身は、私のものでございます」
「なら、いい」
諦めるように言ったあとで、薫はもうひとつ問いを重ねる。
「共存とか、人格交代じゃダメか?」
「僕も、機会があれば聞きたいと思ってた。人とダークネスは共存できると思う?」
穂照・海(夜ノ徒・d03981)がそう言い添えると、依は微かに目を眇めた。
「その質問に答える前に、一つ、質問してよいでしょうか。『この世界の人間と人間は共存していると思いますか?』と」
人間と人間が共存しているのなら、人間とダークネスの共存も可能だろう。そう、依は語る。
「人間は人間を騙しますし、人間は人間を虐げますし、人間は人間を殺しますが、それも含めて、人間と人間は共存しているのですから」
なれば、ダークネスが人間を騙し、虐げ、殺す存在だとしても、それを理由に共存が不可能と断じることはできないと、彼女は続けた。
「……僕には、まだ分からないな」
呟くように答えて、海は依に飲み物を手渡した。
と、それまで慈眼衆に対抗するように激しく踊っていたレイラ・サジタリウス(花影の紡ぎ手・d21282)が不意に依へと歩み寄る。じっと依の目を見据えて、彼女はただ一言だけ告げた。
「今はともかく、いつか必ず連れ戻しますので、そのおつもりで」
「……覚えておきましょう」
依もまた、その一言だけをレイラに返した。
●テンアゲフィーバータイム
「エブリワン、ちゅうもーく! ゴキゲン☆ビンゴ大会、レッツ? スタートだYO!!」
そんな慈眼衆ボイスが響き渡ったホールで、矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)が思い出したようにスピーカーを見上げた。
「そういえば、ビンゴ大会もあるんだったね。景品はどんなのだろ?」
「景品の内訳は知らないけれど、1等はボクのものだ」
きらりと目を光らせているのは、比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)。この為にやって来たと言っても過言ではないと、彼女は配られたカードを握り締める。
早速コールされた番号に穴を開けながら、柩は会場を見守る依の方へ僅か一瞬視線を送った。
(「ボクにも信じさせてくれ、ボクたちは良き隣人になれるのだと」)
【天剣絶刀】の面々も、テーブルを囲んで祝宴を楽しんでいた。
「わ、リーチです!」
高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)がぱっと顔を輝かせて、マイクを持つ慈眼衆の方を見やる。確かに賞品が何なのかは気になるところと思いつつ、神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)は自分に言い聞かせる。
(「同盟を結んでしまっているけど、これは敵情視察みたいなものなんだからね!」)
「慈眼衆……ノリが良すぎだろ」
微妙に呆れ顔なヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)がグラスを並べる傍ら、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が炭酸飲料の封を切って。
「それじゃコルクを飛ばすっすよ。それっ!」
掛け声を待っていたかのように、ぽんと弾けるような音を立ててコルクが飛んで行く。わっと沸き立つテーブルに、ギィは満足そうに瓶を掲げてみせた。
改めて乾杯しつつ、明日等はフロアに目をやり、呟く。
「やっぱり私達も踊らないといけないわよね」
「依さんは踊らないんでしょうか?」
「案外、誘えば乗ってくるかもな」
首を傾げる妃那にそう返しつつ、手際良く空の皿を片付けるヴォルフ。不意にその手から消えた皿は、背の高い慈眼衆がいつの間にか取り上げていた。
「あいこれはすまない。今宵は我々が『ほすと』、お主らが『げすと』故、気遣いは無用ぞ」
しかし、と戸惑いの表情を浮かべる仲間の肩をぽんと叩いて、ギィはフロアを指さしてみせた。
「最後はダンスというのも粋なものっす」
その言葉を待っていたかのように、新たなサウンドがホール中に鳴り響く。和風リミックスされた重厚なそれに合わせて、九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)が舞い始めた。
全霊の誘いには全霊で応じるのが礼儀と彼の踏む足取りは、はじめ古来の作法に則ったそれだったけれど、いつしか熱くなってきて。
彼の舞踏に負けてはいられないとばかりに、鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)が灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)に視線を送る。
「では、一芸仕りましょうか」
「Ja. ご披露と参りましょう♪」
DJブースに合図を送れば、流れ出すのは先の1曲に続けて御神楽ベースの和風ロック。それに合わせて繰り出す演舞は、呼吸もぴたりと揃った対の舞。しなやかに、緩急豊かに、揃いの千早を翻してふたりは踊る。
決めポーズののち一礼して下がる彼らと入れ替わるように、敦賀・攸(高校生七不思議使い・d33379)がフロアに飛び込んだ。
DJブースからちらとそちらを見て、西場・無常(特級殲術実験音楽再生資格者・d05602)がヘッドフォンに片手を添える。
(「粋なことをしてくれるじゃないか。言語センスは……ともかく」)
言葉選びから、慈眼衆の想定しているであろう『ナウなヤング』のセンスは90年代のそれだろうと無常は予想する。
ならばと彼が選んで流すのは、イケイケでゴキゲンな時代に活躍したテクノユニットの名曲。モノノケをモチーフにしたその曲に乗り、攸がロボットダンスを披露する。一切の緩みがないキレッキレのパフォーマンスに、おお、と感嘆の声が上がった。
ホールが熱気に満たされる中、神終・人(怠惰な生命・d12336)率いる【夢幻回廊】の面々がその中央になだれ込んでくる。
「奴らはダークネス……つまりダンスバトルってことだな!」
「此度の慈眼衆の気持ちは嬉しいが、彼らは少し間違っている! 『イケイケヤングのパーリナイに相応しき舞』をするというのであれば、もう一歩踏み込んだ方がより若者が喜ぶのだ!」
九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186)の解釈に、命を賭した慈眼衆への義を立てんと鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)がそう言葉を続ければ、人はぐっと拳を握って。
「川柳リンボーダンスだ!」
ルールは簡単、オリジナル川柳を詠みながらバーを潜って、バーを落としたり川柳を噛んだ方の負けだ!
「あの、川柳ってなんなのでしょう?」
疑問を零しつつ、嫌な予感がするからさっさと終わらせようとばかりにトップバッターに名乗り出るアイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)。
「ごろごろろ ごろごろごろろ ごろごろり」
「待ってそれリンボー違う!」
言いつつバーの下をごろごろして潜るアイスバーン。すかさず叫ぶ狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)。なお、実際のリンボーダンスではバーにも地面にも体をつけない決まりだそうです。
「違うですか? では、罰ゲームですねー」
フェリス・ジンネマン(自由謳う鳥の娘・d20066)が月村・アヅマ(風刃・d13869)の手からすりたてワサビを取り上げ、すかさずアイスバーンの口に流し込もうとする。かくして(?)彼女の予感は的中した。
「ダンスにおいても僕達武蔵坂学園は最強であることを慈眼衆の皆さんに見せつけてくれよう!」
「レッツダンシングでござるぜ! イエーー! レッツパーリィ!!!」
踊りつつ叫びつつ、幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)と阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)がバーの周りをぐるぐる回る。ちょっとした儀式に見えなくもない仲間たちの応援を受けて、人がぐぐっと上体を逸らして。
「消しゴムや つぶらな瞳の りんごパイ」
「め、面妖な……いやこれがヤングのセンチメンタルを宿したポエム……?」
ざわめく慈眼衆を横目で見て、人はにやりと口の端を歪める。
「それこそが我が秘策――心を乱して思わず川柳を噛むがぬわーッ!」
人がつるっと足を滑らせた瞬間、からーんと音を立てて落ちるバー。にっこり笑顔でワサビをコップに満たすフェリス。頑張れ部長、逃げ場はないぞ!
「いや今の滑り方おかしいだろ! 何? また誰か何かした!?」
「灼滅者とダークネスなんだから、普通にやったらすんなり成功すると思って」
「いいだろそれで!」
一切悪びれずにワックスの空き容器を振ってみせる紫廉に、刑がほとんど吼えるようにツッコミを重ねる。胃のあたりを押さえっぱなしな先輩の姿に、アヅマが遠い目で呟いた。
「無事に終わる……わけなかったな……」
そんな騒動がありつつも、宴はいよいよアゲアゲマックスフィーバー。
(「もっと肩の力抜いて良いのに」)
相変わらず真顔でキレッキレの慈眼衆を見てそうも思うけれど、折角の招待なのだから踊り狂おうと赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は思う。
「なあ、俺にもダンス教えてくれよ」
そう請えば、返るのは無論の声。慈眼衆と並んでれっつぱーりぃする碧の後ろでは、ビハインドの月代さんも楽しそうに踊りまくっていた。
「ほれ、そこな娘もれっつぱーりぃ」
「えっ、めぐみもですか?」
不意に羅刹に手招かれて、若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)は目を丸くする。運動は苦手なのであまり踊るつもりはなかったけれど、誘われたのなら頑張りたい。
こっそりと心のうちで覚悟を決めて、めぐみもまた流れる音楽に身を任せた。
「なんだかんだで、慈眼衆のみんなも楽しんでるわね。ふふ、こういうのは好きよ」
音楽に合わせて隅の方で身体を揺らすに留めていた玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)が、にこりと笑んで足を踏み出す。
「あたしも混ざってみようかしら?」
呟きは重いビートに紛れたけれど、彼女の思いは伝わったらしい。慈眼衆の一人に手を挙げ返して、曜灯は早速ステップを踏み始めた。
フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)の出で立ちは、まさにこの祝勝会に合わせたものだった。豪華な扇子を振り回し、ダイダロスベルトを羽衣よろしく揺らして踊る姿はまさに圧巻。
一緒に踊る慈眼衆に身体を擦り寄せつつ、フレナディアは笑顔で思う。
(「ノリが古くたって良いじゃない、楽しめればそれでいいのよ」)
この先、互いの行く道がどうなっていくのかはまだ分からない。
だが、少なくともこの夜、灼滅者たちは慈眼衆とのフィーバーナイトをシェアすることに成功した。
冷めやらぬ熱気を惜しみつつ、或いはダークネスと自分たちのこれからに想いを馳せつつ。
ナウなヤングたる灼滅者たちは、ゆっくりとそれぞれの帰路に就くのだった。
作者:猫目みなも |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年12月21日
難度:簡単
参加:90人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 20
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