クリスマス2015~海風で揺れたイルミネイト

    作者:菖蒲

    ●neige
     季節がぐるりと巡れば、春夏秋冬を感じさせる四季折々の顔が覗く。
     橙に彩り魔女が踊ったハロウィーンから足早に、表情をがらりと変えた世間は赤と緑に飾られた。点滅する電球に飾られて湊の風も暖かに思わせた。
     クリスマスムードに彩られた街に劣らず横浜・赤レンガ倉庫も様変わり。
    「わ、わ、クリスマスマーケットなのね!」
     不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)の金の瞳が幸福に満ち溢れた。
     光に彩られたクロスステッチのデザインモール。活気あふれる商業施設がノルウェーに飾られて、異国情緒が何処か違う表情をちらりと見せた。
     幸福そうなクリスマスソングに想いを馳せて、クリスマスツリーの前にどしりと座ったテディベアが小さく挨拶を見せる。
     本場顔負けのシュトーレンにドイツソーセージ。ノンアルコールのホットドリンクの暖かさが胸に染みた。ヒュッテが作り出す街並みは、この季節にしか見れない不思議な装いで。
     スケートリングに反射した街の光りが美しい。
     打ち上げられる花火の色に、揺れるキャンドルガーデンが胸へふわりと温もりを与えた。
     君が歩けば、サンタクロースが現れる。
     そんな招待状を手に、この聖夜に想いを馳せて。
     
    ●Weihnachten!!!
    「ジョワイユーノエル! 今年も行きましょう。横浜赤レンガ倉庫なの!」
     幸福そうな真鶴が手にした『みなとみらい』のパンフレット。観光客向けに発行されたものだろうか、クリスマス特集と書かれた赤字が何とも微笑ましい。
     イベントに目が無いエクスブレインの言葉を聞きながら、当日の『晴れ時々雪』の文字をスマートフォンで見詰めた海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が「ホワイトクリスマスか」と小さく呟く。
    「すてき、すてきなの! あのね、ご紹介するの!」
     張りきった彼女の手に握られた『ジョワイユーノエル』と書かれたメモは詳細がびしりと書いてあった。

     異国情緒漂う街並みが一斉に光を増した。露天(ヒュッテ)にはクリスマス小物やドイツソーセージ、シュトーレン。暖かなスープや美味しいスイーツが並んでいる。
    「お腹空いてくるよなあ……結構種類も多かったっけ」
    「勿論なの。それに、ツリーの前には大きなテディベアもこんにちはなのよ」
     記念写真を撮るのだって良い。赤レンガ倉庫にはスケートリングも設置されている。冬を楽しむのだってきっと良い思い出になるだろう。
     スケートやりてぇなと冗句めかして笑った汐に真鶴も小さく頷いた。 
     赤レンガ倉庫には様々な店舗が入っている。何気ない日常をショッピングやカフェで過ごすのだって良い。グリーティングするサンタと出会えば『プレゼント』を貰えるかもと真鶴は付けくわえた。
    「あとね、クリスマスだからイベントで花火もあがるの!」
    「ますます、デートコースって感じだな。15分の空中散歩だっけか……観覧車もいいな」
     憧れると小さく笑った汐は潮の香りを感じられる山下公園も魅力的だと小さく笑う。
     ライトアップされた街並みを眺める観覧車。静かな公園を往くのだって良い。
     運河パークや西洋館にはキャンドルパークが開かれているらしい。幻想的なそれを楽しみながらディナーを楽しむ事もこの季節にしか出来ない事だろう。
    「潮の香りが、とっても素敵。それに、キャンドルの揺らめきだって幻想的なの。
     西洋館のディナーに予約するのだっていいかもなの。ちょっとした背伸び、なの」
     くん、と背伸びの仕草をして見せて。真鶴は小さく笑う。

    「恋人と、気になる人と……友達と、クラスメイトと、部活の仲間と。
     みんなみんな、沢山の過ごし方があるの。これをスルーするのはきっと損なの。
     ね、御一人ならマナや汐先輩と御一緒しましょうね。きっときっと、楽しいハッピーエンドが皆にも訪れる筈だから。ううん――『ハッピー』が皆に降り注ぐの」
     雪の様に。幸福が訪れる筈だから――2015年の君へ送る。


    ■リプレイ


    「クリスマスマーケットですよー!」
     車の号令の元に男三人、テンションマッハでクリスマスを謳歌です。とは言うものの、イアニスは「迷子にならない様に気を付けておくれ」と肩を竦めているではないか。
     何処か大人の風貌のイアニスへちらりと視線をくべながらもメメメは「写真撮ってー!」とはしゃぐ車へカメラを向ける。
    「あ、サンタ!」
     嬉しそうな笑顔を一つフレームに。今年の【螺子ノ巻】は幸福で満ち溢れている。
     イルミネーションで飾られた赤レンガ倉庫。史明とのクリスマスが最後なのだと朔之助の瞳には涙が滲む。
    「目にゴミでも入った?」
     憎まれ口も忘れぬ彼が何時も通りで安堵する。ツリーを目指して歩き続ける彼に史明はいいねと小さく笑った。
    「来年も、一緒に来れたらいいな」
     小さく笑った言葉の後に、来年の約束をと狙う史明へと向き直る。聞いてくれるだろうか、今からの話を――
     不破先輩との呼び掛けにマナでいいのと慌てた様に笑った真鶴に雄哉は肩を竦めてベンチへと腰掛ける。
    「僕が邪魔しちゃ、いけないね。まだ、楽しそうな人達の輪には……入れない」
    「じゃあマナが遊びたいから、遊んでくれる?」
     小さな予見士はへらりと笑い手を伸ばす。こんな夜だもの、楽しまないと損でしょう?
    「わ、たくさんあって目移りしちゃいますね」
     陽桜の購入したスイーツに真鶴は盛大に頷いた。分けっこの提案は勿論OK。女の子は『食いしん坊』なのだから。
    「陽桜さん、マナ、あれがたべたい!」
    「じゃああれも――それと、一緒に写真撮りましょう?」
     大きなクマさんと瞳を輝かせた彼女に真鶴は大きく頷いた。テディベアに寄り添って、満足げな笑顔が二つ。
    「マナー、遊びに来たぞ! メリークリスマスだ!」
     食いしん坊なリュータに付き添う様に「これは?」と問い掛ける真鶴へ思い出したようにリュータは駆けだした。
    「ほら、マナ。シュトーレン! ケーキ食べたいっつってたろ? だから、今日はケーキ食いに来たんだぞ!」
    「わあ、じゃあわけっこしましょ?」
     瞳を輝かせる真鶴に、あっちのワッフルもと誘うリュータに真鶴は嬉しいと走り出す。
     欲しい物を互いに言い合って、クラスの皆にも沢山お土産を買っていこう。教室のツリーに飾るものも、ぬいぐるみのリボンもたくさん。
     顔を隠した黒いサンタの出没にご注意を!
     ショートケーキ・モンブラン・ロールケーキ・ザッハトルテ・ティラミス……ますます『お腹の空くクリスマス』になってゆく。
    「こまけぇこたぁいいんだよ!」
     とにかくサンタクロースは大忙し。普段から頭を抱えているから、今は収益なんて関係ない――筈。
     赤レンガ倉庫は去年、二人で来たとポンパドールとニコはりねを手招いた。【メリクリ】と挨拶した二人に嬉しそうにりねは笑う。
    「クリスマスマーケットたのしもうネ!」
    「ポンパドール、嬉しいのは解るが浮かれるのも大概にしろ。『おにいさん』だろ?」
     呆れた雰囲気のニコに買いこんだ食べ物をどうしたものかとポンパドールが慌てて見せる。
     そんな雰囲気も面白くて――ぎゅ、と熊のぬいぐるみを抱き締めたりねは「おにいさん、あっちに」とテディベアの前へと手招いた。
     大きなテディベアと、ちいさなクマさん。三人そろって今日は写真を撮ろうじゃないか。
     デートだから張り切ってと胸を張ったユメの視線はイルミネーションへ。美味しそうだとくんと鼻を鳴らせたユメの手にはカリーヴルスト。饒舌なユメが腕に抱え上げた料理に小さく笑みを漏らしながら紫王は「ほら、凄いね。ユメより身体が大きい」とクマを指差した。
     抱きついちゃ駄目と止める言葉に頬を膨らませる彼女へと「もうすぐ花火が上がるから」と頭を撫でて。
    「さて、食べ足りないならデザートでも……なんてね」
     大好きなアイス姉さまと一緒と瞳を輝かせるフェリスに呼ばれて、カフェのソファへと座ったアイスバーンは小さく息を付く。
    「いい席がとれちゃったみたいでよかったですね?」
     少し降り始めた雪で、寒くなかったかとアイスバーンが不安げにフェリスを見詰めれば、幼い子供は瞳を丸くして「寒いの大好きです」と微笑んだ。
     赤くなった鼻に小さく笑って、イルミネーションを二人眺めてココアを啜る。楽しい今日に感謝を乗せて――含んだココアは甘かった。
    「凄いね、凄いよぅ……♪ こんなに素敵な光りを灯せたら、絶望だって乗り越えられるね」
     アイスクリームのカップを手にしたたまきの声にフォンダンショコラの甘さを感じてハガネが小さく頷く。
     綺麗だなと顔を上げたハガネの手元から、ぱくりとつまみ食いをしたたまきの満足そうな表情に責められる訳もない。
     間接キスと言う言葉を飲み込んで、二人揃って笑みを零す。また一緒に――こうしてられますように、と願って。
     付き合う前は平気で繋いでいた指先が遠い気がして、歩調だけ合わせてゆっくりと進んでゆく。
     じ、と視線を落とした夕姫の様子に首を傾げた兎紀はスノードームの中で手を繋ぐ人形達に合点が言った様にそっと手を伸ばす。
    「なーにやってんだよ、ほら」
     ひらりと振ったてのひら。首を傾げ、どうすればと震える唇に「今更だろ」と呟く言葉と逸らされる顔に頬が自然に熱くなる。
     恋人って――嬉しくて、とてもしあわせ。


     スケート位なら難なくこなせると恣欠のスマートな身のこなしに瑞樹は転んだ事を思い出し笑みを漏らす。
     ひとつ、ふたつとレッスンを乞うて。手を差し伸べる彼の元へとゆっくりと滑る瑞貴に恣欠は頷いた。
    「――そうだ、『友達』から、貴女への願いの小さな手助けです」
     幻影水晶を耳朶に揺らして、友達だから共に在ると楽しい――そうかもしれない、そうじゃないかも、しれない。
     つねの誘いに頷いて、慣れぬスケートに春は彼女のエスコートで懸命にチャレンジしてみせる。
     スケートの後は定番のコンポタにミネストローネ。美味しそうだねと少しだけ分け合って、温もりを共有すれば――春と出会った日が脳裏に過ぎる。
    「早いもんだよ、ほんと。来年もこうやって二人で過ごせたらいいけど、まだ仲良しだったら」
    「『だったら』は嫌」
     首を振って。手袋越しじゃない温かさが嬉しいから。ぎゅ、と握った掌の代わりに思いを乗せて空を仰いだ。
     去年乗った観覧車は童話の城の様だと顔を上げた葉へと千波耶は絵本の様なフルーツアートのリンクに笑みを零した。
    「葉くんはスケート出来るの?」
     手を引こうかと伸ばされた指先に――滑れるという言葉を飲み込んで、そっと握りこんだ。
     せんせーとわざとらしく呼んだ言葉に千波耶は「……止まれないけど」と悪戯めかして小さく笑う。
     何処か嬉しげな彼女の唇から洩れる白い息。来年も一緒に居られたら――そういう彼女に未来を考えて葉は瞬いた。
    「右脚でスーッとやって左脚はスィーッなカンジ?」
     経験者の春陽の言葉に何とも言えぬ表情の月人はやってみようと笑みを浮かべる彼女によってリンクへと押し出され、バランスを崩す。
     大人びた、一人で何でも出来そうな彼がこうして小鹿の様に震えている浮かぶ笑みに「ムービー撮っとく」の言葉が増えれば滑れないのも忘れて駆けだした。
    「ちょっ――」
     勿論、転ぶのはご愛敬。
     ワークショップで作成したテディベア。緑の瞳の薄桃色のぬいぐるみは大きなリボンと花飾り――ベアららと名付けたそれを鉄は抱えて歩いてゆく。
    「ららのはテツ先輩そっくりなイケメンでしょ?」
     ダークブラウンの生地に赤いシャツと黒い帽子。抱えて歩くのは恥ずかしくないと笑みを零して。
     大好きなテディベアと先輩と、ぬいぐるみと揃って一緒に写真を撮ろう。
     名前を付けられない思いとともに――今を切り取って。
    「冬人、今日は付き合って貰ってすまないな。ありがとう」
     友人へのプレゼントを買いに来たと言うセンリに付き添って冬人は柔らかに微笑んだ。
     初めて見る赤レンガ倉庫に綺麗だと瞳を輝かせる彼女へと冬人は「星の中を散歩してるみたい、ですね」と呟いた。
     彼が共に過ごす相手が居なくて良かったと、思うのは――浅ましいのだろうか。
     彼女の隣を誰かに明け渡す日のことを考えない自分は――……?
    「織姫が馬以外で誘ってくるとか珍しいな?」と笑った錂に織姫はこっちと手招いた。
     雪の結晶のペンダントをプレゼントにと包んだそれを手にスケートに行こうと彼の手を引いた。
    「っておい、勢い尽きすぎっ!」
     する、と滑った彼女を抱きとめて、胸元へと飛び込んだ小さな彼女が想像以上にか細くて、女の子だと実感させて。
    「鐐さん、お顔真っ赤だよ~ん」
     婚約者の腕をとって、エスコートするよと七狼は笑みを浮かべる。
     揃いのワイングラスは成人祝いの品として拵えて。「シェリー」と呼んだ彼の声についと顔を上げたシェリーは眸を輝かせた。
    「わ、記念撮影しよう」
     頬への不意打ちに、可愛いなと笑った七狼へしたり顔の彼女は甘い一枚を手にサンタを探す。
     良い子二人ならきっと会える筈だと彼の腕を引いて、タイルを蹴った。幸せな思い出を増やす様に走り出す。
     恋人の聖地も憧れる――けど、共に歩きたいと涼砂の手を引いて百舌鳥は往く。
     恋人同士に見えるかな、と考える彼に手を離すと消えてしまいそうだと涼砂は掌に力を込める。
    「ほしいものはね、んと……何か、身に着けていられるもの」
     宝石の嵌ったシンプルな揃いのリング。嵌めて空を見よう、今日は綺麗な花が咲くから。
     イルミネーションにサンタクロース。駆け出すましろを見失った倭は曖昧に笑み漏らす。
     合流はツリーでと電話越しに聞いた声は何処か楽しそう。サンタの役をしようとするのはお互いさまで。
    「冷えてきたし、温かいものがいいな」
     考えることは同じだね、プレゼントを手に持って、一緒に美味しい物を食べに行こう。
     楽しげに手を引く律花は幼さを感じさせる様で。ブーツ型のマグカップが可愛いと笑う彼女にそれをと春翔はセレクトした
    「このあとはテディベアと写真撮りたいんだけど……」
     可愛い申し出に思わず笑みを漏らせば、頬を赤く染めた律花が拗ねた様に視線を逸らす。
     君が楽しければ、俺も楽しいと唇に笑みを乗せた。
     サンタ探しの旅に出発だと鶫はケレイと共に往く。光の海も、輝く『キミ』も楽しくて。
     プレゼントを用意出来なくても良いよと笑って誘ってくれた彼女に、寒さも忘れる様な温もりを感じてしまう。
    「わたし達は良い子だから絶対会える筈!」
     お洒落でもない子供染みた提案でも君が笑ってくれるなら――雑踏へ手を引いて。
     暖かいココアに、イルミネーションが点滅し続けて、二人を祝福する様に揺れている。
     緋凍は瑠羽奈の掌をギュ、と握りしめ「綺麗なイルミネーションですわね」の言葉に小さく笑みを浮かべた。
    「とっても綺麗ですね、でも瑠羽奈も負けてないですけれどね?」
     二人一緒の時間をこうして寄り添って――素敵な時間だから。とても幸せだと握りしめた指先の温かさに酔いしれた。
     1年振りの横浜。つい先日の様だと美希が白い息を吐けば優生は「嬉しいよ」と彼女の手を握りしめた。
     佇むテディベアと大きなツリー。ゆっくりと歩を止めて、美希はゆっくりと顔を上げた。
     ふんわりとした金の毛並みに優しい瞳。まるで――あなたみたい。
     おいでと手招く優生は一番欲しい彼女の笑みをカメラへと閉じ込めた。
     はやく、と逸る悟へ追い付く様に光の海へと飛び込んでゆく想希は瞬いて――「きれい」と互いに声を漏らす。
    「これが俺らの未来の希望の光なんかもな」
    「……君と俺が合わさったら、何でも出来そうな、そんな光」
     悟の言葉に想希は囁いた。愛してるよりも何処か気恥ずかしくなる様な、愛おしいことば。
     輝きに、「ずっと一緒に居てくれるか」と囁く声を――頷きと抱きしめる腕の強さで答える様に。
     鐘を鳴らそう。ひとつ、ふたつと。
    「後輩の手前カッコつけちまったけどさ、正直もうダメだと思ってたんだ」
     殺して欲しいと願ったそれが、意地でも戻らないとと変えてくれた彼女や、仲間達。
    「高明さんが、居なくなって……ずっと考えていましたわ。
     私、高明さんのことが好きです。おちゃらけてて鈍感だけど、優しくていつも笑顔の高明さんが――大好きです」
     そっと手をとって。恋愛レッスンだけでは終わらなかった恋の続きを始めようと口付けを一つ落として。引き寄せた肩の温もりが、生きていると実感させた。
     御調は「返事、聞いてもエエかな」と問う衛の言葉に唇を震わせた。言葉は、とても重たくて――
    「……これから……宜し――」
     ぎゅ、と抱き締めた彼女の体。見開いた眸に覆いかぶさった影が、唇への感触で現状を把握する。輝きの中、重ねた唇がどうにも熱くて、彼の手を引き逃げる様に走り出す。
     二人輝きの中へ――誰も居ない所へと。


     十五分の空中散歩。クリスマスに観覧車――なんて、1年に1階だけだと修太郎は郁を誘った。
    「大きい花火みたいだ」と観覧車をそう例え、隣同士でゴンドラに乗りこんだ。
     暗がりは怖いからと隣り合ったその距離に意識してしまう様に、緊張で汗が滲む。
    「一緒にいたら、安心して貰える?」
     打ち上げ花火の中、寄り添って、暗い場所でも二人で隣に居られたら大丈夫かと郁は彼を覗きこんだ。
     言おうとした言葉は、飲み込んで。誰も見ていない二人きりの場所へ、どうか運んでいって―― 
     セレティアは眼下の街並みを覗きこみ小さく息を飲む。小さく見える人波でも、旭を見つけられると彼女は顔を上げる。
    「お嬢だったら、見つけられるかもしれやせんね」
     きっと、そうだと頷く旭に満足そうにセレティアは唇で弧を描いた。
     死なないでと囁く様に。身体が闇と半分ずつでも、大丈夫と彼女は両の手を開く。
    「好きなように、する」
     ぎゅ、と抱きしめて――離さないから、離さないで。 
     寄り添う様に二人で座り真人はリュカの掌にそっと己のそれを重ねた。
    「リュカと出会っても半年だけど、本当にあっという間だったね」
     ずっと長い間、一緒に居た気がすると思い出を唇に乗せたリュカの小さな笑みに真人は頷いた。
     揺れる様に舞う粉雪。二人で過ごした時間が光の粒子の様にひとつ、ふたつと振ってくる。
    「これからも、ずっと――」
     傍にの言葉とともに振る口付けにジンクスを一つ乗せて。

     ――観覧車の一番天辺でキスをすると、二人はずっと一緒にいられる――

     お姫様は、頬を染めて「しチャ、う!」とぎゅっと瞳を伏せる。
     座席は勿論隣同士。白い息を吐きながら、寄り添う夜深の肩を抱いた芥汰は小さく息を吐いた。
     一昨年の聖夜デートは観覧車の上。二年前も景色が綺麗だった――けど、「本日、景色……其以上、キらきラ、かモ!」と夜深は呟いた。
    「最近の夜深は一層きらきらしてますし、見える景色も眩しい事でしょう」
     なんて、冗句交じりに告げながら、もう一度言う。勿論、ずっと、きみのとなり。
     沙耶々はアンリと肩を寄せ合って、観覧車からの展望を眺める。とくん、と伝わる心音が心地よくて。
    「去年は六本木ヒルズのイルミネーションだったね。でも、ここからの光景も負けないくらい綺麗だね」
     暗い観覧車から眺める街は眩しくて、目を逸らせば愛おしい彼女の瞳が負けない位に煌めいて。
     吸い込まれる様に、口付けて。あと七分だけ――それでいい。もう一度、景色に負けないくらいの口付けを。
     隣り合って、二人の時間。強い海風に揺れたそれに「きゃ」と声を漏らした藍をそっと統弥が彼女を支える。
     ぎゅ、と抱き締めたその体を離す事無く――クリスマスだからと暫し、その温もりに溺れる様に力を込めた。
     愛する人と二人、それがとても幸福で。
    「僕は藍と一生添い遂げたいと思っています。愛してますよ」
     心の底から、囁いた其れに――頷いて、初めての口付けを交わそう。
     頑張ろう――そう決めたものの何処か強張った表情は真咲に伝わって居て。
     強張る肩に、そっと肌を寄せれば震えが僅かに伝わる気がして真咲は「教授」ともう一度彼女を呼んだ。
     低く囁いたのはもう一度、されど最初の『こたえ』
    「まだ返事は貰ってないけど、何度でも言うよ。教じ……いや、初美」
     愛してると、その言葉に首筋に回された白い腕が返事となって、合わせた唇の温もりは。
     思い出を唇に乗せ、打ち上げ花火にアイスクリーム――他愛もない会話に、踏み出せない思いをいちごは口にする。
    「あのね、私っ」
    「……私から、言わせて下さい」
     震える様に、声を発した由希奈へと、いちごは向き直る。
    「貴女の事が、好きです。私と、お付き合いしてくれませんか?」
    「私も、好きだよ……ずっと、あの時から」
     口付けと共に、開いたドアと共に紅潮する頬。扉の向こうは新しい二人が待っている。
    「ねえ、聞きたい事があるの」
     緋頼は二人きりのゴンドラで親愛なる友人の名前を口にする。真摯な表情の白焔は彼女に悟られた思いに瞬いた。
     可愛い妹の様な二人――恋愛感情が無い、それをどう思うのと緋頼は小さく問うた。
    「二人に他の特別な誰かが見つかったら祝福するよ。もちろん、四人一緒であるのは間違いないんだが」
     結果が出るまで待つから、ゆっくり考えて、踏み込まない様に――尊重しようと告げた言葉に頷いて。
     口付けと、二人の甘い時間を堪能しようと永遠を誓う様にその身を寄せた。 
     デートと言えば観覧車。爽太の鼓動が速くなると同時にひらりはぎこちない空気に小さく首を傾げた。
    (「だだだ大丈夫、心はでっかくつよく! 今日言う、って決めたんだ!」)
     掌に滲んだ汗を拭って「ひらり先輩」と呼ぶその名前がドモって仕方がない。
    「ひひひひらり先輩! 好きです! 一緒に美味しいもの食べてる時も、一緒に遊んだり出かけたりしてる時も!
     ただただ楽しくて、ずっと一緒にいたいです!付き合ってくだしゃい!」
    「……はい。爽太さん。私も、いつも頼りになる、おっきなハートで暖かく包んでくれる爽太さんが大好き!
     ですっ! ……こちらこそ、よろしくお願いします!」
     落ち付いてるふりが出来るのは大人の余裕。求めた口付けにゆっくりと重ねて――もう後戻りはできないよと笑って。
    「好き」の言葉を交わしても一歩を踏み出せなくて――二人きり、交わること無い視線が気恥ずかしい。
     先の不安も、全て敵に回しても彼女を誰にも渡さない――その決意を唇に乗せて、「鶫」と誠は彼女を呼んだ。
    「オレはお前とずっと居たい。絶対に、後悔する未来になんてさせない。だから、こ、恋人になって欲しい」
     風で揺れたゴンドラに後押しされる様に抱き合って、「大好きよ」と囁く言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。
    「わー、綺麗だね! 歩いてきた道、上からだとこうなんだー。あ、あっちのイルミネーションもいいなぁ」
     ひとしきり回った露天、公園。そして締めの観覧車。夕月の言葉にアヅマは小さく頷いた。
     空中散歩は15分間。其れが終わったらもう一度、露天へと向かおうかと彼女が袖をくいと引く。
    (「ふふ、あとね。今年も一緒に過ごせて嬉しいんだよ。ありがとう」)
     ――なんて、言葉、口にしなくても伝わってしまうだろうか。 
     可愛い弟だと黒いポークパイハットを被って草灯はアスルと共に観覧車へと向かう。
     おいでと手を取った掌が思ったよりも大きくて。
    「ルー、もう中学生。なったから」
     空も街も輝いて、星が落ちてきたみたいで――美しいと笑う彼が怖がらないことをからかった。
     掌に「ほら、星が落ちてきたよ」と手渡したオーナメント。メリークリスマス――プレゼントは帰ったら開いてねとアスルもそっと手渡した。


     潮の香りが鼻孔を擽る。山下公園を往くハンスがくるりと振り仰ぎ「倉子さん」と名を呼んだ。
    「世界で、一番愛しています」
    「――……こんな、私でよろしければ」
     ふ、と浮かんだのは途惑い。自分で良いのかと言葉にしたのは照れも滲んで。
     どんな苦難も、己の姿だって、乗り越えて行ける筈だと、彼女の手をとって。今宵、この場はふたりだけ。
     出会えたことの感謝と共に――踊って頂けますか?
     二人分の買い物袋。塞がった両の手の向こう側で海の傍を往く時兎へと視線を向ける。
     寒くないかへの問い掛けは和泉の首筋にかけたマフラーが答え。海風と、彼の香りが混ざり合う。
    「そうだ……キミに贈り物があるのだけれど」
     イカリソウのペンダント。籠めた思いに気づいた彼の「宣戦布告?」の言葉は、戯れと殺伐とした腥さがして。
    「時兎の”いーモノ”、楽しみにしているよ」
     頸に揺れたソレに、釣り上がる唇が、楽しげに笑っていた。
    「メリークリスマス、凍路くん」
    「……うん、メリークリスマス」
     火照った頬を冷ます冬風の心地よさにさくらは瞳を細める。穏やかに芽生える物だって沢山あった。
     可愛らしいほおっておけない先輩――もっと大きく、大切な存在になっているけれど、言葉はまだ。
    「……あの、ね」
     後輩だと――先輩だと、思っていない。戸惑いに差し出す指先をどうか、重ねてと祈る様に。
     温かいと思うと差し出す指先に思いを乗せて。今はこれでいい、だから、いつか、――どうか――
     去年は握るだけで震えた指先が、一年経って恋人の様になれただろうかと寄り添うからだが固くなる。
     綺麗とか、寒いか、とか在り来たりな言葉も――今は詰まってしまいそうで小太郎は俯いて白い息を吐いた。
    「ね、こた――」
     身を乗り出した希沙へと近づいた顔が、視界いっぱいに。目が離せない、耳まで熱い、頬も熱を帯びて。
     心臓が――痛くて、君しか見えなくて。
    「希沙さん。世界一可愛い、大切な恋人さん。あ、……愛してます」
     ぎこちない言葉に、もう一度。酸素も閉じ込める様に口付けをして。
    「恋人の聖地かー! なんか普通にデートっぽいね」
     へらりと笑った智優利はすり、と嶺滋の腕へと擦り寄った。去年を考えると、今、ここにいるのは不思議だと彼は瞬く。
     降る雪は海辺で見るのは新鮮で。山とは違った風情があると吹く風にふるりと身体を震わせた。
    「……ねぇ、レージ。キス、しよっか。寒いから、くっついてたい気分、なんて……だめ、かな?」
     来年もいっしょに居たいと唇に思いを乗せた。
     ベンチに二人、隣り合って。暖かい紅茶を手に疲れたと問い掛ける勇介へと曜灯はふるりと首を振った。
    「あたしね、夏休みの時にゆうすけにたくさん支えられて、今があるの」
     ありがとう、とその言葉を真剣に受け止めながら、震える様に吐き出した本音に笑みを零して。
    「あたしね、ゆうすけの事、大好きよ」
     初めての言葉に、もう一つ――誕生日とクリスマスにお祝いを。君の幸福を願って。
     妙に長いマフラーは『恋人巻き』用だとリィザは小さく笑みを零す。
     手を繋いで、冬風にふるりと震えた恭輔は「去年を思い出すなあ……」と小さく呟く。
    「あっと言う間の一年間だったね」
     恋人になって、心の深い所に踏み込んだ事が嬉しくて――ぎゅ、と腕へと抱きついて。
    「ほらほら、行きましょ、恭輔くんっ」
     もう少し、この夜を堪能しよう。二人、違う景色が見えるだろうから。
     冷え込む海辺に繋いだてのひらの温もりを感じて。足音と、幸福を感じる静寂に紡は息を吐く。
     潮風と波音と、彼女の言葉。まるで一年を振り返り進む時計の秒針を追いかけて藍は彼女の言葉へと耳を傾けた。
    「私の我儘、笑って付き合ってくれて、私の言葉、優しく聞いてくれる――そんな藍が大好き」
     でも、我儘を叶える役目は自分に少し頂戴と紡はゆっくり振り仰ぐ。
     髪先へ触れた小雪を拾い上げ、触れてもと問う視線と髪を統べる手の感触が心地よい。
     温もりを分け合う様に恐る恐ると触れて、抱きしめて――風邪を引かない様、この特別の日を感じていて。


     幻想的だと周囲を見回る絵里琉はしっかりと手を握るノエルと離れない様にと指先をしかと絡ませる。
    「来年も、こうして一緒に居よう。僕が絵里琉さんを照らして、温める火になるから――」
    「……エルの操る火は私にとって暖かくて、綺麗なの。特別な貴方が傍に居てくれるだけで、嬉しいから」
     恭しくその手をとって、銀の指輪へと口付けを送れば王子様みたいねと小さく笑った。
    「キャンドル、綺麗ですね」
     ぼんやりと呟く宇介の視線は傍らの詠子に向いていた。クリスマスを満喫すると小さく白い息を吐く詠子は髪に結った露草のリボンに触れて嬉しそうに瞳を細める。
    「リボン、似合っててよかった。付けてくれて、ありがとう」
    「ありがとうございました。それから、もし、まだ――以前のお手紙と気持ちが代わっていなければ」
     ゆっくりと向き合う詠子の言葉が花火の音で掻き消されてゆく。首を傾げ詠子さんと呼んだ宇介の耳元で、もう一度。こんどは貴方にだけ聞こえる様に――
     妹の手を引いて――それに瞬く海は「渉お兄ちゃん」と小さく呼んだ。
    (「彼女さんができるまでは、このあったかい手はあたしが独占したいな……」)
     お兄ちゃん、と指差すキャンドルの灯りは暖かで。桃から紫のグラデーション、球体のそれは家族へのお土産に。
     戦利品とワッフル、フラムクーヘンを二人で買おう。半分ずつと笑った妹に「ありがとよ」と呟く声は確かに伝わった。
     欧羅巴の雰囲気には落ち付くと笑うリュカへと緊張した様な、不思議な面立ちで愛華は小さく笑う。
     夢うつつの姫君と一緒なら、料理だって美味しさが何倍にも感じられて。
    「メリークリスマス。リュカっちと一緒だと、本当に外国みたい……」
    「ジュワイユー・ノエル。ええ、ボクも懐かしい気分で」
     大人っぽく感じた彼に、鼓動がとくり、とくりと音を立てる。はい、あーんと恥ずかしそうに笑った愛華にぎこちなく口を開いたリュカは美味しいと笑った
    「写真撮ってやるよ」
     くるりと踊る様に遊ぶ璃依にシャッターを切る。翔琉を手招く彼女は「カケルも!」と瞳を細める。
    「1つ1つのメッセージにカケルへの想いも書くからね!」
     刻みこんだ『Happy X'mas.Love you...』に自然に浮かんだ笑みが――ああ、彼女の存在が偉大だと思わせて笑みをくれた彼女が何よりも愛おしい。
     キャンドルの透明な箱に描いたのは母国語で綴った想いとマフラーを巻いた子犬のイラスト。
    「なんて描いてあるのですか?」
     首を傾げるちゆにこのはは曖昧な笑みを浮かべて、名を付け加えられたキャンドルから焔の海へと目を向けた。
    「なんか、ちょっとあたたかいよね」
     ロウソクに手をかざして、ちゆの唇がゆっくりと震えた――すきです、大好きですよ。
     稚拙だろうか、愛を刻むには言葉が浮かばなくて。可愛い彼女の額へと僕もと返した口付けはぬくもりを灯していた。
     蝋燭の灯りは好きと依子は窓の外に広がったそれに小さく息を吐く。
     たまにの贅沢のディナーに美味しいと舌鼓を打つ篠介の表情に好きなのはこれかなと心にメモを得が居て。
    「……何ぞついとるか?」
     ふるりと首を振って。次は年を数えて20になると楽しみだと手を繋ぐ。
     輝きに照らされたその表情に飲み込まれそうだから――今年も過ごせる幸福と、祈りを込めて鞄に仕舞ったプレゼントを指先で確かめる。
     I LOVE YOUはこのあとで、だから、もう少しだけ待っていてサンタクロース。この夜は、まだ終わらない。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:110人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 6
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