クロキバ・バトルロワイアル

    作者:のらむ


    「……先代の黒牙は、白の王に敗れ果てた……」
     ここは誰かの夢の中。どこからか、声が聞こえてくる。
    「……黒牙の名を継ぎうるものよ……」
     その声は小さくとも力強く、強い意思が感じ取れる。
    「……王を噛み砕く牙の魂をその身に宿すものよ……」
     声の主は1人では無い。かつてこの世に誕生し力を振るったであろう歴代のクロキバ達が、語りかけてきているのだ。
    「……我らが牙を受け継ぎ、新たな黒牙となれ……」
     先代のクロキバの声は、その中に含まれていない様であったが。
    「……新たな黒牙を志すものよ、我らの導きに従い……」
     これは、誘い。新たな黒牙を継承する資格がある者達に投げかけられた、誘いである。


    「皆、第2次新宿防衛線、お疲れ様。皆の頑張りの甲斐あって、光の少年タカトの野望は阻止されて、業大老、絆のベヘリタス・ザ・クラブを含む強大なダークネス達の灼滅にも成功。本当に凄いと思うわ!」
     集められた灼滅者達を前に、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)はそう話を切り出した。
    「しかも今回の戦争では、闇堕ちする灼滅者を1人も出さずに勝利できた。私を含む多くのエクスブレインが凄く嫌な予感を持っていただけに、とっても安心したわ」
     だけど、と鳴歌は言葉を続ける。
    「多くの戦果を得て勝利できたことは喜ばしいことなんだけど……実はあの戦いの後、おかしな夢を見る灼滅者が出ているらしいの。もしかしたら皆の中にも、その夢を見た人がいるかもしれないわね」
     そしてその夢に関しても、エクスブレイン達は非常に嫌な予感がしていると鳴歌は言う。
    「もしもおかしな夢を見て、その夢の中で何かを言われたとしても、その言葉には簡単に従わないようにして頂戴。本当に、嫌な予感がするのよ」


     時刻は午前1時。山形県蔵王のとある雪原に、4体のイフリート達が集結していた。
     そのイフリート達はかつて灼滅者達と相対した事もある。アカハガネ、ヒノコ、チャシマ、ヒイロカミの4人であった。
    「コエヲキイタイフリートハ、ワレラヨニンダケナノカ?」
    「み……多分、ソウダト思ウ」
     アカハガネの問いにチャシマが答えると、アカハガネは静かに頷き他の3人を見やる。
    「ナラバ、サッソク、シアオウゾ」
    「マテ。……タシカニイフリートハ、コレダケ。デモ、マダ他ガイルミタイダ」
     動こうとするアカハガネをヒイロカミが制止すると、程なくして雪原にそれは現れた。
    「ガウッ、アレハ、ダークネス?」
     ヒノコの視線の先には、強力な力を持つダークネス達がいた。
     その種族はイフリートに限らず、多種多様。まるでダークネスの混成軍の様であった。
    「タダノダークネスデハナイナ。ナルホド、ヤミオチシタスレイヤーカ、オモシロイ」
     アカハガネの言葉に、集まった闇堕ちした灼滅者が戦闘態勢を取る。
    「サァ、タタカオウ。サイゴマデタッテイタモノガ、クロキバダ」
     闇が蠢く蔵王雪原で、闘いの火蓋は切って落とされた。


    ■リプレイ


     飛び交う炎、氷、魔術に毒に拳に斬撃に銃弾に闘気に殺気。
     闘いが始まった瞬間、闇の力を得た灼滅者達のサイキックが、蔵王雪原中に飛び交った。
    「ロードローラーの速度、重量、数による切宮殺戮術をご覧あれ。死ぬほど熾烈に轢殺だよ♪」
     初っ端から悪目立ちし始めたのは、複数のカラフルなロードローラーと化し雪原を闊歩するウツロギだった。
    「黒牙ノ力――日ノ本ヲ統ベルニ相応シイ王ノ力、外国(トツクニ)の者、マシテヤロードローラーナドに渡ス訳ニハイカヌ」
    「つーかいきなり出てきて調子に乗ってんじゃねえ! その鉄屑俺が引き裂いてやる!!」
     彩夏の巨大両刃剣がロードローラーの巨体を叩き斬り、影の狼と化した一の鋭い牙が、ロードローラーの巨体を喰いちぎり、ロードローラーはそれはもう派手に爆散していくのだった。
    「さて、と……恐らく最初の数分間が勝負ですかね。余計な邪魔者もいるかと思いましたが、どうやら杞憂の様です」
     スサノオの少女橘花はそう呟くと、白き炎に包まれた二つの卒塔婆を構える。
    「ああ、やはり外の世界は素晴らしいね。夢の中に引き籠る連中の気がしれない……精々生き残ってやるさ」
     玉は殲術道具を模した武器を構え、静かに雪原中のダークネスを見据えた。
    「平和は乱すが正義は守るものっ、中島九十三式・銀都参上!」
     銀都は全身から激しい炎を吹きあげて敵陣を包み込み、
    「着物に焦げ跡をつけるなんてキミは何を考えているんだい? 許されるとでも?」
     女性ものの着物を着た羅刹時雨は引きつった笑みを浮かべ、その炎に風車の影を放ち反撃する。
    「ワシの名前は実(みのり)って呼んでつかー」
     犬耳犬尻尾が付いた軍服少年実がワクワクした表情で突撃しビームを放ち、
    「手緩いわ! そんな惰弱な力で倒せるとでも思うておるのか」
     美咲は黒き龍の如きオーラを纏い無数の拳を繰り出した。
    「……ん、それによって学園に縁がまだ繋がるなら、行こう」
     止水は呟くと構えを取り、影の弾丸を撃ち放つ。
    「他ノ人に、クロキバヲツガセル訳ニハイキマセン……タトエ私が不幸ニナロウトモ」
     葵は人型イフリートの姿で鋭い爪を振るい、
    「嗚呼、何て開放的なのかしら。身体が軽い、これなら人類救済も直ぐに出来そう!」
     廊は笑みを浮かべ溢れんばかりの殺意を撒き散らす。
    「クロキバなぞ知るか! 我の願いは全てを破壊する事のみ!」
     黒竜と化した悠は叫びと共に激しい稲妻を撒き散らし、空を縦横無尽に駆け巡る。
    「うぜぇ……タカトとか言う偽りの光だった小僧が消えたとい言うのに……煩い塵蟲共だ」
     黒武は忌々しげに呟くと、霊力の網を生み出し敵の身体を縛る。
    「は! やっと表に出られたか! ダークネスの貴族としては、そうそう簡単に負けてやる訳にはいかねぇなぁ!」
    「悪いが勝つのはこの俺だ……この紅十字にかけて、誓いは必ず果たす!」
     吸血鬼ユーグは血で創り上げたアームブレイドで斬りかかり、屍王トリハがほぼ同時に赤き水晶から無数の光線を撃ち出した。
    「さぁ、我が宿主。準備はいいか。この最高の舞台を共に楽しもうや。祭りの始まりだ!」
     シャドウ禍月は力任せに赤き闇の巨腕を振るう。
    「ハッ、よりどりみどりってなァ! さあ、ヒーロータイムだ!」
     戦闘狂を装った矜人は中央に突撃し、拳を構え冷静に敵を捌き、
    「力を手に入れれば更なる強敵と闘える……勝ち抜いてやるぜ」
     統弥は寄生体の鎧で身を固め、盾を突出し迎撃していく。
    「…………」
     静かに戦場を駆ける白虎、紋次郎は、拳を喰らいながらもすぐに鋭い牙で反撃した。 
    「ふん、ヨシヤには悪いガいい機会ダ。日々のうっぷんを晴らさせてモラウぞ」
     人型の炎に変じた嘉哉は焔を身に纏い、背を向ける敵に炎の一撃を叩きこむ。
    「黒牙の力があれば何が出来るのか。とても興味があります」
     凛音は槍を構えると静かに狙いを定め、素早い踏み込みと共に刺突を繰り出した。
    「東大阪市のォォォォォ科学力はァァァァァ世界一イィィィィィ!!!」
     銃と化した五指からハンナは銃声響かせ弾丸を放つが、銃声より肉声の方が喧しかった。
    「うっさ……さっさと私を守ってよ、肉楯……私動く気ないからさ……」
     淫魔深々見はその銃弾を避けようともせず適当にオーラを放って適当にハンナをぶっ飛ばした。ハンナは適当にぶっ飛ばされた。
    「思ッテタノト違ウウナ……ソコソコ実力者の粒揃いカ」
     戦は燃え盛る黒狼の腕を振りかざしながら弱った獲物を探すが、
    「そこの君……一体何をしているのかな?」
     自身の信義に反する行為をした戦に狙いを定めたけいは、巨大な剣を振るい戦に猛撃を仕掛ける。
    「ウオォォォォォォオオオン!!」
     白き狼と化した玲は衝撃波すら発生する巨大な遠吠えを雪原に響かせ、
    「中々良い気迫ですわね……さあ、血わき肉躍る修羅の巷を楽しみましょう!」
     華乃は二刀を手に猛然と玲に突撃する。
    「我等夜鴉なり、誰ぞ挑む者は在るか?」
     全身が肥大化した赤褐色の鬼と化した佐那子は、大型の日本刀『縷紅一文字』に黒き炎を灯し、一気に振り下ろす。
    「ハッ、このオレが相手してやるよ、この『火兎ヘキサ』がなァ!」
     ヘキサは佐那子に飛び掛かると、得意の蹴り『火兎の牙』を叩きこむ。
    「バトロワ、楽しそう……やるからには、全力で行くね……」
     柚來は無邪気な笑顔を浮かべながら、心を惑わす歌を紡ぐ。
    「喧しい歌だぜ……『黒牙』だかなんだか知らねぇが、貰える力は奪ってでも貰っておかねぇとなぁ? クハハ……!!」
     釼はその歌に一瞬魂を揺さぶられるもすぐに調子を取り戻し、柚來に雷の拳を叩き込んだ。
    「面白イ! 実ニ面白イゾ! 果テシナキ闘争……勝利、敗北、闘争ノ産物全テが心地ヨイ!」
     六腕の異形と化した草次郎はそれぞれの腕から青黒い弾丸を発射し、み大爆発させた。
    「撃ちたいから撃つ。そこには快楽も理由も、なにも必要ない」
     咄嗟に空中を旋回し爆発を逃れた芽瑠は、連装機械弓で草次郎を狙い撃つ。
    「ツギナルクロキバノザヲイフリートイガイニワタシテナルモノカッ! ワガナハホムラミチッ!オシトオルッ!」
     一本角に螺旋の炎を纏った獅子型イフリート淼は、戦場を駆け抜け敵を蹴散らしていく。
    「あの獣の歓喜も絆も慈愛も贖罪も、全て飲みこみ漆黒に塗り潰すのよ」
     琥珀はその異形から無数の影の触手を伸ばし、獅子の身体を縛り飲みこんでいく。
    「失うもんはもう無い。欲しいのは黒牙の力だけだ」
     シュウは混じる膨大な殺気で周囲のダークネス達を包み込み、
    「黒牙になるの……なにがなんでも……それがリアの願いだからね……ふふっ……」
     友繋夕希は魔力の矢を次々と放ち。虎視眈々と勝利を狙う。
    「光と闇の心理に迫る為にも、力は手に入れておきたい所だが……さて。実力試しといきましょうか」
     沙夜は影を纏わせた連撃を放ち、敵を強襲する。
    「この娘の体を奪う千載一遇の機会、無駄にはしない……鬼神裂刃」」
     のぞみは巨大断罪輪を風車の様に回すと、霊力が込められた大風の刃が放たれた。
    「あのヒトのコトが、どうしてもわかりたい、なくしたくない、の。だから、私が、黒牙、もらう、ね」
     ミツキは力を込めた杭を勢いよく放ち、反撃する。
    「九句黎明に百鬼は灼く……空亡」
     悟の左腕に刻み込まれた刻印が眩い光を放ち、放たれた魔力の塊が大爆発する。
    「グ……これ位じゃあ倒れんよ……クロキバの名を継ぐのは、僕や」
     身を焦がす爆炎に耐えた神楽は、着物をはためかせ周囲に獄炎を撒き散らした。
    「王を殺す力を得る為……てめえらまとめて吹き飛ばしてやるぜ!!」
     俊輔は溢れだす赤いオーラを地面に叩きつけると、その余波で周囲のダークネス達が吹き飛んだ。
    「必死過ぎんだろ、お前。貰いもんの力になんの価値がある?」
     玉緒は迫る衝撃波を雷で掻き消すと、巨大な鬼の拳を俊輔に叩き込む。
    「お祭りだー! 暴れるぞー! 今日の私はフィリアじゃなくてベリスだー! ホントは黒より赤がいいんだけどな!」
     ベリスはライドキャリバーに乗って戦場を駆け抜け、ハルバードで次々と敵を斬っていく。
    「わー! 元気一杯だね君! チモシーとも遊んで遊んで!」
     チモシーは振り下ろされたハルバードを下半身の魚骨で受け止めると、影がたっぷり詰まった金魚鉢を叩きつけた。
    「蔵王の雪原か……王の転生を阻止できるなら、何があっても戦い抜く」
     日方は北風の如く戦場を駆け抜け、無差別に鋭い斬撃を放ち、
    「戦場で無差別に辻斬りとは面白い……だが、襲う相手を間違えた様だな……」
     和弥は目にも留まらぬ速さで動き、黒き刃に赤い文様が浮かぶ禍禍しい刀で斬りつけた。
    「もっと、力を得ねばなラない! そして俺ハ神ヘ反旗を翻ス……!」
     祐一は強い意志と共に両刃剣を振るうと、そこから放たれた炎が雨の様に降り注ぎ、
    「黒牙の力は、王たる我にこそ相応しい」
     小町は臆す事無く静かに手を掲げると、展開した白炎が炎の雨から小町の身を護った。
    「闘うのはすきじゃないんですけどね。それと戦いが不得手かどうかは話が別なんですよ」
     昴は身体中に刻まれた鎖模様を実体化させると操り、周囲の敵に無差別に叩きつけていく。
    「クロキバとか何だっけかでも力が手に入るのは良いことだよね救える人増えるし全部殺せば寂しくないよね殺す殺す殺す!!」
     幸は影で創り上げた人型と共に駆け、死角から攻撃を放つ。
    「なぁなぁなぁなぁ! 楽しい遊び場ってココかぁ? はははっ、飽きるまで死ぬ程遊ぼうじゃねぇか!」
     スサノオと化した実季は白炎を身に纏い、何も考えずひたすらに他者に突撃していく。
    「小細工は不要だ。純粋な力を以てして、全員蹴散らせてやる」
     冬崖は鉄塊の如き巨大なハンマーを振るい、圧倒的な破壊力を撒き散らす。
    「……中々の威力。だが、純粋な力なら負けはしない」
     一撃を受け止めたヴォルフは刀に畏れを纏わせ、強烈な斬撃を放つ。
    「悪ぃがテメェらの炎は頂くぜ。同胞どもは元より俺様の餌さ」
     不意にその横から強襲したカミカゼが、円状の白炎を呼び出し実季を焦がす。
    「「「グルルァァァアアアアア!!!」」」
     赤眼三つ首のドラゴンラハブは、雪原中に轟く方向を上げ同時に巨大なブレスを放ち、
    「……随分面白い物が見れたわね。でももう十分よ、この手でお休みなさい!」
     ブレスを受け切ったアンブレイカブルロミィは、その首に黒き手刀を振り下ろした。
    「うるさい、うるさい、うるさい……! お前たちは煩すぎる。黒牙の力を得るのは私だ、私の安心のために皆死ねぇっ!!」
     四肢が竜と化した淫魔アルトリアは、理性を捨てあらゆる敵に攻撃を仕掛けていき、
    「力は、力を欲している者に与えられるげきです……皆さん、頑張って下さいね」
     悪魔ミオはサイキックエナジーから生み出した薬品で、アルトリアの傷を癒しその力を高めた。
    「ごきげんよう、みなさん。わたしは『帳の』貴婦人よ。そして、さようなら」
     曜灯は優雅に槍を振るい会釈すると、放たれた白い闇が曜灯の身体を覆い隠した。
    「ニャハハハハハ! 最後までこそこそして美味しいところをもってくなんて力を得るなんて相応しくないにゃ。これでも喰らうニャー!!」
     清和はちょこまかと戦場を駆けながら、闇に向かって滅茶苦茶にビームを乱射した。
    「やぁーっと外に出られたの思ったら随分と『お仲間』が多いじゃねーか……だりぃぜ。さっさと潰しあってくんねーかな」
     晴汰は箒で空に飛ぶと、影を操り地上の敵に攻撃を仕掛ける。
    「ダメじゃない、楽しちゃ。明日死んでもいいように、今日を全力で生きなさい」
     六六六人衆ミレーヌは『断頭男爵の鋭牙』の力を解放し、上空から無数のギロチンを落下させた。
    「この戦場こそ、私が待ち望んでいたもの! ダークネス同士の、終わりなき闘争を!」
     雄哉は混戦の中敵とみなした相手の背後を取り、次々と拳を打ち放っていく。
    「強気が残るに至る必然は……退屈。ならば謀ろう。僅かでも秤が揺らげと場を乱そう」
     ヴィントは最善手を選ばず、この戦いを乱そうと気まぐれに毒をばら撒いていく。
    「迷惑な話だ。だが貴様如きの計略は、私に通用しない」
     気配を抑えていた真夜は毒をひらりと避け、灼熱の斬撃を以て反撃した。
    「いつか、いつかの夢。たぶん、ニキータには、相応しい夢。だから、戦う」
     ニキータは蒼き寄生体纏わせた身体で打撃を撒き散らぢ、
    「従者よ、不満は分かるが今は耐えてくれ……さあ、私如きに倒されるという絶望に沈んでくれたまえ」
     千鶴はビハインドを盾としつつ心を惑わす歌を放つ。
    「友達や恋人同士で戦い合う人もいるのかなあ……楽しいよねえ、そういうの。大義名分も友情も愛情もごちゃ混ぜにして潰しあおうよ」
     屍姫はこの状況を心から楽しみ、禍禍しい禁忌の魔導書から死の魔術を撒き散らす。
    「この戦いに感情は必要ないの。ただ目の前の敵を砕き散らせれば、それでいいの」
     智以子は魔術の苦痛を耐えきり飛び出すと、屍姫に向けて拳を放つ。
    「己すら名乗れぬ、ぬるい魂などに負ける気はない! 我輩を倒す程の信念の込められた拳を持つものは、姿を現すが良い!」
     周は立ちふさがる敵を次々と灼熱の拳で吹き飛ばしていき、
    「信念のう……考えた事もない。じゃがわしの本気はおてんば娘に負ける程温くはない。どれ、相手してやろう」
     猯は炎を受けると楽しそうに笑い、それに負けない位熱い炎を周に放った。
    「グ……コレガ、ヤミオチシタスレイヤーノチカラ……!!」
     激しい戦闘が始まり、猛撃を振るいつつも複数の攻撃を受けたアカハガネが膝を付く。
    「ようやく見つけたぜ。言いたい事は色々あった筈なんだが……まあとにかく戦え! 俺が協力してやるぜ!」
    「オレも力になるぜ。この宴、あんたら4人の誰かが勝利すべきだ」
     智巳とハングドマンがそう言ってアカハガネに共闘の構えを示すと、アカハガネは静かに頷き再び武器を取った。
     戦いは、まだ始まったばかりである。


     未だ戦闘は序盤。ちらほらと脱落する者達も出てきているが、この戦いの白熱ぶりはいよいよもって加速してきた。
    「クロキバの名は俺が、この神炎の迦具土神が獲らせて貰う!」
     大輔は蒼き炎で作り上げた剣を振るい、確実に敵の急所を焼き切っていく。
    「悪いが、王を屠る力は私にとっても魅力的でね……そう簡単には譲らないよ」
     斬撃をひらりと避けた律は、赤き逆十字で大輔の胸を引き裂いた。
    「敵ヲ全テ殺セバ、守レルンダゼ? ヒャッハァァァァッ!!」
     破壊する為の力を求め、イフリートクーガーは力の限り拳を振るう。
    「随分と自分勝手ね。まあ、それに関しては私もそう変わらないのかもしれないけれど」
     拳に脳天を打たれたチェーロは後ろへ退がり、氷の蔦を放ってクーガーを捕縛する。
    「いいぜ、もっとだ、もっと殺し合おうぜ!」
     獰猛な笑みを浮かべ突撃した剣は己の身も顧みず、激しい拳の連打を浴びせかけ、
    「否が応にも立ち塞がるというわけですね……でしたら、消えて頂きましょうか」
     クラウィスは身に降りかかる脅威を速やかに排除すべく、剣の身体に強烈な魔力の打撃を叩きこんだ。
    「セイメイには色んな借りを利子つけて返さねぇとな……さあ、力は俺の物だ」
     羅刹奏一郎は白い髪をなびかせながら刀を振るい、巨大な斬撃を撃ち飛ばした。
    「あら、やってくれるじゃない……消し炭にしてあげるわ」
     その斬撃を受けた鏡花が魔力を込めた槍を突き出すと、黒い稲妻が奏一郎を貫いた。
    「折角表に出して貰ったんだ、派手に楽しまねぇとな!」
     ハートのシャドウナブラは影を纏って雪原を駆け抜け、死角からの一撃を繰り出していく。
    「ボクをこんな愉しそうな祭りに出してくれるだなんて珍しく気が利く表人格だね。黒牙の力は貰っておくよ」
     黒血の吸血姫は命を吸い取る赤い斬撃を放ち、
    「黒牙を手に入れるのは妾じゃ。力が無くとも、知恵で勝ち残ってみせよう」
     奏樹は狼の爪で反撃すると、すぐに撤退し身を隠す。
    「さてさて、猟犬の戦いをとくと味わって頂きましょうか」
     眞白は中央の激戦区に敢えて突撃すると、敵を翻弄する様に動き炎の一撃を放っていき、
    「……おにいちゃんをぶったらだめよ? 悪い子はお仕置きなんだって……あなたの薪は、多めに薪を貰うね」
     藍花は喰らいつくように狼の爪を振り下ろし、反撃する。
    「ザ・ハートへの手土産にクロキバの力はうってつけというもの。必ず妾が持ち帰ってくれよう」
     紅緋は両腕を使って戦場を勢いよく跳ね、多方向に影の弾丸を撃ちこんでいき、
    「黒牙の力には興味がある……その力、この私『嘯く者』カルトマヘンに寄越せ」
     カルトマヘンは異形化させた右手で、自身に傷を与えたものを引き裂いていく。
    「悔いを繰り返さん為にも、力が必要なんよ……こんな所でやられるかぁ! ……穴子神霊剣っ!」
     アナゴクオンは非物質化させた片腕の穴子で敵の魂を撃ち砕く。
    「私と遊んで、私を愛して」
     朔眞は蠱惑的な微笑を浮かべ戦場を舞い、男女問わず魅了していく。
    「残念だが力は俺のものってもう決まってるんだ。さっさと消えて行け」
     魔女ロキフグスは魔術を詠唱し、鋼鉄の荊が他者を縛り傷つけていく。
    「さあ、君を芸術的に仕上げよう」
     女性専門の『死体芸術家』の六六六人衆である真咲は、ペンチから始まりメス、ノコギリ、軍刀にサブマシンガンといった、様々な道具で芸術を完成せんとする。
    「あら、あなた結構いい趣味してるわね……けど私は、素材になってあげる程安くないわよ?」
     真咲の殺戮技を喰らった淫魔シュガーボムは静かに呟くと、精神を惑わす笑みを投げかけた。
    「消えろ、消えろ、消えろ……闇は全て消えてしまえ」
     ルーナはかつての惨劇の記憶を糧とし、怒りのままに力を振るう。
    「我は『絆を喰らう闇魅』よ、来い! 鵺黒羽! その黒羽をもって奴らの絆を喰らい尽くせ!」
     无凱は空に巨大な鵺の幻影を呼び起こし、周囲の者達に喰らいつかせ、
    「あらら、こっちに向かってきた様ですね。……しょうがないですねえ」
     由衛は幻影の攻撃を避けると、ハートが連なった触手を伸ばし反撃する。
    「白い魔が黒い牙を目指すなんて、滑稽な話でしょう? でも、愉しんで満足できれば、それでいいの」
     白魔は敵に刃を突き立てて微笑み、生命力を奪い取った。
    「ぐるぐるぐるぐる……ハラヘッタ、ハラヘッタ……黒牙になれバ、王が食える……!!」
     夜トは雪原を飛び回ると敵の頭にガブリと喰らいついていき、
    「アノチカラガアレバ、モット、イノチヲ、キザメル……!」
     燃え盛るキマイラと化した命刻は尻尾の蛇で逆に喰らい返し、毒を注入した。
    「ほぉれ、もっとよく見たいじゃろ?」
     瑠々はなんかもうとにかく色んな意味で凄い格好で、金属の如く変質した髪を突き出し、
    「良い、もっと! もっとお願い致します……!」
     サバーカはなんかもう変態だった。
    「此度の戦、『我々』は必ず勝利せねばならぬ……例え汚い手を使おうと」
     瑠威は空を飛び回避と回復に徹底し続け、
    「飛び回ろうと無駄だ……何を失い何を裏切ることになろうと、オレが黒牙になってやる!」
     矧は殺意から生み出した杭状の弾丸を空に向けて射出し、小さな爆発を引き起こす。
    「菖蒲には悪いが……私の地が危ういようでのぅ。まあ、これも結ばれるべき縁だったと言うこと」
     キクリヒメは巨大な数珠を放ち敵陣を縛り付け、
    「まだ倒れはしないわ……琉球怪人ウチナーオルカーの力、とくと刻みなさい!」
     そして放たれた巨大な津波が、ダークネス達に勢いよく襲い掛かる。
    「目標補足……排除開始……斬り捨てる……」
     冷たく坦々と呟いたヘイズは、蒼から禍々しい赤へと変わった刀『雷華』で、敵陣を斬り、
    「中々見事な刀ですが、継戦能力はこちらが優れている筈です」
     悠花は手にした長い棒にヴァンパイアの魔力を流し込み、緋色のオーラを纏った魔の打撃を繰り出した。
    「はぁいみんな、イェルディス・オーストレームでーっす! 黒牙の力、回収しちゃいまーす!」
     イェルディスが呟くと黒の棺が開き、同時に放たれた黒き光が周囲の敵に恐怖を与えていく。
    「ヤルカラニハホンキデイクゾ」
     僅かな所で光を避けた紫闇は、白き焔の一撃を打ち放つ。
    「きゃははっ♪ ほら、みんな早く私のものになっちゃいなよ☆」
     淫魔プレジールは明るくかつ妖艶な笑みを浮かべると、周囲に精神を惑わす結界を張り巡らせていき、
    「生憎だが、私の心を奪うのはたこ焼きのみ……これでも食らえ!」
     ご当地怪人ではなく羅刹なくしなは、死ぬほど熱いたこ焼きを周囲の敵の口にねじ込んでいく。
    「簡単には負けられないわぁ……ヘルカオティック闇おでん陣!」
     やはり怪人では無く屍王な露香は、次元の狭間から暗黒のおでんの具的な物を生み出し、周囲に撒き散らした。
    「サア、僕ト一緒ニ、遊ボウカ」
     六六六人衆かと思ったらご当地怪人だった子羊は、世界を恐怖に叩きこむべく血塗れのロッドを振るう。
    「知識は武器であり全てでもある……さて、弱いなりに戦いを楽しみましょう」
     ソフィアは魔力を込めた紙片を放つと魔術が発動し、敵に見えざる斬撃が放たれる。
    「はぢめて堕ちてみたケド、結構コレ悪くないカモ~? 新しいサーカスのステージには丁度良いNE!」
     道家はアクロバティックな動きで敵の間をくぐり抜けながら、無数の炎の玉を投げつけ、
    「1つ語りましょうか……これはどこからともなく現れ人々を氷漬けにしていく、恐ろしき雪女のお噺……」
     零次は怪談によって雪女の幻影を生み出し、反撃する。
    「久しぶりに表に出れたと思ったら面白いことしてるじゃん? チカラとか全然興味ないけど、まあ降りかかる火の粉くらい払おうかな」
     透は両手に生み出した大量のナイフを投擲し、
    「ワタシ、力が欲しい、の。……だから、キエて」
     静佳は水晶の十字架を降臨させ広範囲に光線をばら撒いた。l
    「全て無駄……勝つも負けるも、全て……」
     歪なマネキンの様な悪魔へと変じた天明は、身体の中央にある単眼から魔力の矢を放ち、
    「哀しいね……クロキバの力があれば、私は……」
     アイネは水晶化した尾ひれで、強烈な打撃を放ち返す。
    「かの王を黒く黒く染め上げるだけの欲望を! 呪いを! ぼくには縛られも約束も、願いも、祈りもない!」
     ハインリヒは馬の下半身で駆け抜け、水晶の槍を馬上槍の様に振るう。
    「我が名は道敷……その黒牙とやら、我が継がせて貰うぞ」
     道敷はそう言うと影を蠢かせ、『一日絞殺千頭』を実体化し敵を包み込む。
    「この状況に前に出るのは下策……今はここで力を蓄えるのです」
     吸血鬼エリノアは降りかかる攻撃をいなしつつ、静かに動き力を蓄えていた。
    「こそこそ隠れてねえで出てきやがれ! さっさと覚悟を決めるんだな!」
     葉は空にノイズの蟲を大量に生み出すと、敵を一気に押し潰した。
    「例のイフリート共にも幾許かの体力は残っている……今の内に片づけておくか」
     ルフィアは剣に嵌めこまれた宝玉に魔力を込めヒイロカミに振り降ろすが、
    「黒牙を受け継ぐ者はクロキバとともにあったイフリートであるべきだ。簒奪は許さぬ」
     その一撃を庇ったアモルシアスが魔力の矢で反撃する。
    「結慰のまま生を終えるならそれでも良かったんだけどなぁ……」
     結慰のダークネスは背の水晶の翼を輝かせ、影を放ち敵を飲みこむ。
    「余は『コクヨウ』。黒キ太陽ノ化身デアル」
     黒馬コクヨウはたてがみに黒い炎を灯して戦場を駆け、圧倒的な熱量を放出し、
    「グルルル……クロキバノショウゴウハ、オレガモラウ」
     秋夜はコクヨウの正面から突撃し、鋭い角で突き刺した。
    「我が名はリュブラ……我が勝利の為、汝らは命を捧げるが良い」
     リュブラは空から雪原を見下ろすと口を開き、生を呑みこむ牙で敵の生命力を吸い取った。
    「あら、そんな所にいたのね。役者が演じないのも舞台から勝手に降りるのもナンセンスよ」
     マリナはそう言ってクスクスと笑うと、血の散弾を空に向けてばら撒いた。
    「黒牙のチカラがあったらもっと愉しいことできるかも、って思ったのぉ」
     ヤミは首の後ろから生えたアシナシイモリを振るい、敵を捕縛する。
    「生憎、早々に退場するのは退屈な場ですのでね。楽しませてもらいますよ」
     嘉月はライフルを構えて遠距離から敵を狙い撃ちにし、
    「力が手に入る、それをむざむざヤチカちゃんは逃さないよぉ?」
     ヤチカはクルセイドソード『immortel』を携え、一気に斬り込んでいく。
    「真・五刀流……『無名』」
     剣鬼・無銘は両手の二刀、両肩から生えたニ腕が握る二刀、影から生える大太刀を駆使し、五連の斬撃を放ち、
    「正面から挑むなぞ愚の骨頂……我は勝ち残らせて貰うぞ」
     アストリットは吸血鬼の力を込めた霧を放ち、力を高めていった。
    「出来れば戦闘なんかせえへん方が有利なんやけどなあ……そううまくいかんのが世の常っともんよなあ」
     燎は己から積極的に手を出しはしないが、襲ってくる相手には静かに鋏を振るっていた。
    「我ガ名ハ周防・雛……モトイ、『ロキ』ト呼ンデクレ給エ。今宵ハ良キ殺戮日和……同士ヨ、楽シモウデハナイカ!」
     ロキがそう言うと、ロキに操られた人形ティタニアが大鎌を振るい、人薙ぎで多くの敵を削り取り、
    「今のは結構やばかったぜ……だけどまだ、倒れる訳にはいかねえ」
     八千代は悲しげな顔でそう呟くと、涙を零しながら刀を振るう。
    「凶ツ風となりて戦場に吹き命を刈取ろうか」
     戒那は小柄な体躯を生かし戦場を素早く駆け抜けると、災害の様に無差別に敵を切り裂いていき、
    「そうだ、そうこなくっちゃな! もっとかかってこいよ!」
     全身を切り刻まれ血に塗れたなゆたは、獰猛な笑みを浮かべ爆炎を放つ。
    「竹槍一本でようここまで来たもんやわ……まあ、ビームも出る竹槍やけど」
     ミタチは竹槍を豪快に振るって戦場を駆け、その先端からビームを撒き散らし、
    「死滅しないまでも弱者はまた灼滅者の器に囚われる……互いの存在をかけて、戦うとしましょう」
     ユエファはビームを正面から受けきると、闘気を糧とした雷を全身から放出した。
     

     更に戦いが続き、脱落者の数も徐々に増えてきている。
     その中の多くはとにかく敵に突撃し、力を振るおうとするダークネス達だった。
     生き残ろうと多少なりとも策を弄したダークネスの多くは生き残っていたが、彼らがふるい落され始めるのも時間の問題だろう。
    「打ち砕く……!!」
     昴は全身に焔を纏うと機動力を生かし戦場を駆け抜け、巨大な槍を振るっていき、
    「全ては、我が主贖罪のオルフェウスのために」
     折花は変幻自在な動きで次々と足技を打ちかえしていく。
    「圧倒的な力の衝突……もっと私を高めて頂けるかしら♪」
     シャルリーナは稲妻の如きオーラを脚に走らせ、殺人的な蹴りを放ち、
    「私にそんな趣味はないから、諦めてどこかにいってくれないかしら」
     神父様に蹴りを庇ってもらった奏は、掌から高純度の霊力を撃ち放った。
    「我が魔導の力により朽ち果てるがいい」
     リーグレットが『ジャルダレオン』という名の魔術を唱えると、雪原の上空から無数の炎の隕石が降り注ぎ地を焦がした。
    「我が名は『Nyarla』で在る。未知なる闇を彷徨うものぞ」
     燃える三眼を備えたそのシャドウは渦巻く不定形の肉体から触手を放ち、敵を縛り付けた。
    「がぅーっ! 皆モットみーちゃんト遊ボウナンダヨ!」
     実衣は俊敏な動きで飛び掛かり、元気に牙を突き立てていき、
    「炎獣さんですか。一瞬で凍り付かせたらその炎は消えるのか、炎のままに氷となるのか。見て、みたいなぁ」
     ジンザは尋常ならざる魔力を放ち、周囲の敵を瞬く間に凍結させた。
    「炎とは伝わり、奔るもの。触れて、崩れて、尽きよ」
     六花は緋焔刀に業火を纏わせ、斬撃を放っていく。
    「我は黒牙の導きに何ぞ従わぬ……我達は全てを奪い、手に入れる」
     炉亞は『刻読』の銘打たれた漆黒の剣を無数に生み出すと次々と射出し、
    「先代クロキバの失敗はすっとろいことだ。速ければ誰にも負ける事なんてないんだぜ?」
     殊亜は戦場を疾走しながら呟き、己の姿を模した黒き幻影を飛ばした。
    「夜を統べる力は、私の物よ……!! クク……ハ、アハハハハハハハ!!」
     千尋は蝙蝠の翼を駆使し低空飛行すると、凄まじい勢いで敵の首筋に喰らいつく。
    「我は、力が欲しい……誰にも負けない、力が……!」
     アンブレイカブル迅は、豪快な体術で敵を次々と地面に叩き付ける。
    「黒牙ノ力。イフリート以外ニハ渡サナイ」
     白きグリフォンと化した美弥子は巨大な翼を羽ばたかせて飛びあがり、その羽から無数の炎弾が放たれた。
    「俺は俺の正義を成す為……唯一人の悪となる……!!」
     六六六人衆旭は固い意思を胸に、双刃の馬上槍『鐵断』を振るう。
    「にゃふふふふ、着ぐるみの力を思い知れ!」
     シロネコ・ブルーは敵陣に幻の着ぐるみを着せて動きを封じるが、
    「あなた様は全然分かっていませんね。今日本に必要なのは着ぐるみでは無くメイド服なのです……さあ、あなたも素敵なメイドにして差し上げましょう」
     メイド服で世界征服を目論むメイド怪人が『オーダーメイド』なる技でメイド服を着せ返す。
    「クロキバになんてなるつもりないし、適当に負けるつもりだけど。でも戦う以上、殺すつもりで行かせてもらうわ」
     冥は村正『氷血」』を手に、次々と優雅に敵を斬りつけていく。
    「俺は弱者の支配者。いい加減バカの中に籠るのは飽きた。好きに暴れる為にも、勝たせてもらうぞ!」
     春は刃が装着された盾を構えつつ、剣を構え一気に突撃する。
    「避けられそうにないなら……避けずに反撃に出るまでね」
     春の刃に身体を抉られた山吹は踏み止まり、そのまま至近距離から鬼の拳で反撃する。
    「口程にもない雑魚ばかりか……さっさと消えろ」
     冬舞は敵の死角に潜み繰り出す必殺の斬撃で、敵の急所を次々と抉っていく。
    「ふふっ、きゃはっ、きゃははっ! 私の血飛沫あげたんだから、あなたもたくさん血飛沫ちょうだい……!!」
     脚を斬られた桐香は狂笑いを上げ、冬舞の胸に刃を突き立てる。
    「北征入道を追い、殺す為の力を得る為、あなた方には倒れて頂きます」
     カルステンは丸太で作った十字架を振るい、白のシスター服を赤く染める。
    「クク、黒牙の力か。面白いであるな。牢獄から目覚めし鬱憤を晴らすと共に、余と小娘の運命を見定めようではないか」
     カグヤは拘束したビハインドシズナを盾の様に扱い、畏れの力を込めた椅子から業火を吹き放っていく。
    「運命とかちょっとよくわかんないんだけどぉ、なんか黒牙とかいう力、序列にプラスっぽいんじゃね!? だったらヤるしか無くね!?」
     身を焦がす炎に自ら突っ込んだ絹代は、黒の瘴気で硬化させた血をマロンに放つ。
    「殺戮を繰り返し我が頂点に上ることができれば、小娘のお守りや兄の振りをせずとも、この『黒像』が表に出られるというものだ」
     黒像は鉤爪と同化した左手で殺気溢れる斬撃を繰り出し、
    「………………」
     胸を斬り裂かれた翔はすぐさま刀を突きだし、黒像の肩を貫いた。
    「地獄の中心に飛び込むにはまだ早い……一夜の夢ならば、存分に楽しみたいじゃないですか」
     双葉は戦場の端で敵の生命力を奪いながらその場に留まるが、
    「魂を削る程に全力を出し切ってこそ、勝利に価値がある……つまんねえ真似をしてんじゃねえよ」
     そこに姿を表した明が、鞭剣を駆使した赤の斬撃を放つ。
    「闇堕ちした灼滅者達の闘い……中々面白い物を記憶出来た。が、空にて攻撃を避けるのはそろそろ限界か。目立ち過ぎておる」
     ソロモンの悪魔ソフィアは地上に降り立つ勢いを乗せ、獅子の脚を一気に振り下ろした。
    「グ……竜因子の力は、未だ潰えず……この一撃を喰らうといいですよ!」
     背を深く抉り取られた芽生の身体の宝珠が光り輝き、龍の骨をも砕く一撃で反撃した。
    「ロード・ヴィスタ。あなたには消えて貰う」
     ヴィスタはつま先に寄生体の刃を創り、鋭い蹴りを放つ。
    「僕は僕の正しいと思うことをしている。何、僕ら皆同じような存在だ、丈夫だろう?」
     脚を斬られた杏理は唯一水晶化していない右頬を撫でながら笑い、魔力の一撃を叩きこむ。
    「ここにも神への賛美を届けなければいけない者が沢山」
     清音は戦場を静かに渡り歩き、周囲に死の魔術を撒き散らす。
    「貴様の神に興味はない……我等は飢えを満たすのみ」
     義和は金色の居合刀を構え、先祖から受け継がれし剣術の一刀を放った。
    「全てを白に。こんな世界、凍り付いてしまえいい」
     九尾の雪女『雪』はダイヤモンドダストを生み出し、くらった相手に幻影を見せた。
    「かつてのケジメをつけるため……こんな所で倒れる訳にはいかない」
     紫王は瞳に映る幻影を振り払い、雪原に巨大な炎柱を立ち昇らせた。
    「クロキバ自体には興味はない……けど、誰かに譲ってあげる義理もないわ」
     蘭は魔術で生み出した弾丸を瞬間転移させ、変幻自在に攻撃を繰り出していく。
    「…………ッ!!」
     クロノは本能的な動きで弾丸を避けると、全方位に毒霧を放ち敵を蝕んでいく。
    「黒牙は渡さない……私は、もう闇でヒトリは嫌なの、嫌なのー!」
     やらねばやられる戦場に対する恐怖に魂を蝕まれながら、美琴は血液操作で創り上げた血の翼で必死に周囲を斬りつけていく。
    「覚悟を決めるのじゃ。ここに来た以上、最早戦から逃れる事はできぬ」
     白き狼獣人と化した明野は刀を構え、素早い斬撃を抉りこませる。
    「……リュカのねがいを……かなえるためにも、たおれて……」
     決戦存在として育てられたリュカ、そのダークネスは、たった1つの願いの為に巨拳を振るう。
    「チッ……邪魔だ、燃えとけ」
     リュカの一撃に骨を砕かれた御伽は、激しい業火を放ち反撃した。
    「力を求むるは、武人として当然の性……黒き牙の力は俺のものだ!!」
     アンブレイカブル武王は雪原の全てのダークネスに響き渡る様な呼びかけを行い、鍛え抜かれた拳を叩きこむ。
    「凄い威圧感だけど、わたしだってもう未熟じゃない……邪魔はさせないよっ」
     ありすは魔道書を開き魔術を詠唱すると、雪原に再び死の魔術が放たれ一層凍り付いた。


     戦いが始まってから、かなりの時間が経過した。
     全体のダークネスの数割は既に倒れたが、量が量故に未だ混戦具合は緩和されきっていない。
     そして、未だ生き残っているダークネス達の中には、徒党を組んでいる者達もいた。
     徒党を組む者には攻撃を仕掛けないとするダークネスも多く、また徒党の数も少なかったことから、存外生き残っている勢力が大半だった。
    「やっほー、久々登場のリオ君でーす。それじゃ、今日はカガチ君の為に頑張っちゃうよ」
     この戦いにおいて最大勢力を誇る『カガチ衆』と呼ばれるチームの1人、ヴァンパイア・リオは、ヴァンパイアの赤い霧で仲間達を強化、援護していく。
    「カガチがために、カガチがために」
     黒き掌の形を取るシャドウかえ手は標識を掲げ仲間たちに耐性を付与していく。
    「またまた私の登場なのかしらー♪ 今日はカガチのお願い叶えちゃうのかしら♪」
    「HAHAHA、三度ミーの登場デース! 全ては淫魔・カガチのために!」
     『希望の』デアボリカが口からダイダロスベルトを射出し、イガヘッドが巨大なビームを放つと、周囲の敵が正確に撃ち抜かれていく。
    「拙者の名は満願、またの名をロード・マンガン! いざ、尋常に勝負せよ!」
    「命を賭しての死合い……今こそ私の力を振るう時!」
     蒼き雷を纏うマンガンとアンブレイカブル・ハートブレイカーは、一糸乱れぬ連携で敵を薙ぎ倒していく。
    「ギャハハ、黒牙の力とかどーでも良いんだけど久しぶりの娑婆だ。妾の殺戮奇術たっぷり見せてやるぜ!」
    「クラオウ、クラオウ、カガチガタメニ、スベテクラオウ」
     六六六人衆トリックスターが手品を模したサイキックで敵の動きを封じ、スサノオ・玉梓が鋭い斬撃でトドメをさす。
     総勢9名のカガチ衆。彼らはカガチの勝利の為に全力を尽くし、戦いを続けている。
     しかし全体のダークネスの数が減っていく内につれ目立ち始め、その勢力の脅威に気付く者も増えてきた。ここからは闘いも厳しくなってくるだろう。
     だがリーダーのカガチには、未だかすり傷しかついていない。
     次点で勢力が多いのは、『光の王国』という名のチームだった。
    「我らが王をお守りせん……」
    「ルール無用! 潰すも守るも自由だ!」
     青き霊犬氷鬼を従えた氷使い霧院、赤き霊犬炎鬼を従えた炎使い大納が、それぞれ王の西と南を護る様に陣を取る。
    「王には~手出しさせないよ~」
    「新菜が王をお守りするわ!」
     緑のウイングキャット風鬼を従えた風使い風雅、黄のウイングキャット地鬼を従えた土気使い新菜が、更に東と北を護る様に立ち塞がった。
    「王よ、わたくしの力を、今こそ御為に」
     そして中央、王の傍らには、金色の竜と化した安和が護衛する。
    「僕を守ってくれるの……? 僕は、皆を守るよ。光の王国に仇成す者は、協力して打ち破るんだ!」
     そして王と呼ばれるノーライフキングアーサーは、三対の水晶の翼を広げ仲間に破魔の力を付与していった。
    「黒牙だか何だかむつかしい話位はよくわからんけど、夜の戦いで譲る訳にはいかねえぜ。私は不死身の――ヴァンパイアなんだ!」
    「万物は我が前に自ずとひれ伏す……統べるべきものの力、見せてやろう」
     雨月は巨大な『杭』を振るい、デオントロギアは魔の弾丸で敵を制圧していくと、
    「安心して下さい、私は2人を守るんです、どんな姿になっても……」
     優裏は無表情のままそう言い、仲間の傷を癒すが、何故かその無表情な顔からは絶えず血の涙が流れ続けていた。
    「くっははは! 灼滅者のオトモダチごっごじゃねぇんだ、てめぇらの望むままやればいいんだよ」
     泰孝は九字を唱え徒党を組む者に積極的に攻撃を仕掛け、
    「例エ明ラカナ脅威ガアッタトシテモ、長期戦ヲ見据エルナラ手出シスベキデハナイ……ソウデナイ者ガ多イ事ヲ願ウバカリダナ」
     対称的にイフリート空斗は、身を潜めつつ静かに戦場に留まり続けていた。
    「シロイヌだがクロゴマだか知らねーけど、おれ様が最強だって事を教えてやるぜ! それでダークネスの頂点に立っ……てどうすんだ? なあバカイブ」
    「さあ? 私には知ったこっちゃないですね。遊べればそれでいいのん。それにあの子がルコちゃんに行って欲しくないって言うから……甘酸っぱい恋は応援したくなっちゃうのよねん、私!」
     六六六人衆のルコとイブが真正面から相対すると、一瞬の間の後互いに駆け出した。
     力任せのルコの拳がイブの腹に突き刺さり、イブが振り降ろした真鍮の歯車で出来た縛霊手が、ルコの脳天をバキバキに砕いた。
    「全て喰らい、堕とし、楽しんで黒牙を貰いましょう」
     鬼九は2人のダークネスを引き連れ、鬼と化した左腕で暴虐を撒き散らし、
    「沈むなら、楽しんだ後でなくては意味がないし、つまらないものね」
     紅薫禰は鬼九と行動を共にし、刀身が二本ある大太刀を振るう。
    「うふふっ、もっと血を……わたしの衣を綺麗に……そして、鬼九お姉様のために!」
     黒姫もまた鬼九の側で、敵を力任せに粉砕する。
    「カッカッカ! 様々な強者との戦い! 血が滾らぬわけはないわ!」
     狩りの魔王ザミエルは、腹部の眼球から螺旋状のビームを放って戦闘を激化させるが、
    「ライラは、ボク達のです。ザミエル……お前もまた……僕達が奪う」
     そこに立ち塞がった巧が滞空するカードを放ち、呼び出された複数の剣がザミエルの全身を貫いた。
    「オ前ハ俺ノ獲物ダ! 俺ノ手デ殺シテヤル!!」 
     ギルガイアは尾と一体化した斬艦刀で冒涜者を貫く。しかしほぼ同時に放たれた冒涜者の黒刃もまた、ギルガイアを貫いた。
    「まだ……まだ足りないわ……もっと殺し愛をしなくちゃ……」
     冒涜者がそう囁きかけると、ギルガイアは続きは地獄で殺るかと呟き、冒涜者を抱きしめる様に倒れていった。
    「あっお前! 徹也の知り合いだよなぁ!? ちょっと殺させろよ、なぁ!」
    「げっ、馬鹿な脳筋がこっちに近づいてくる……くそ、面倒くさいがやるしかねえ」
     レツヤは立夏を見るなり物凄い勢いで突撃し、立夏はすごく怠そうに得物を取る。
     そしてレツヤが放った不定形な影が立夏を切り裂き、立夏が巨大な盾を使ってものすっごい勢いでレツヤの顔面を殴り飛ばした。
    「いじめないで……」
     シャドウグレーテルは他者からの攻撃に怯えつつ、無数の巨大重火器で応戦し、
    「……おい、お前ら。僕の大切な妹に手を出すな」
     兄であるソロモンの悪魔ヘンゼルは、髑髏の杖を振るい妹に攻撃を仕掛けたダークネス達を魔術で撃ち抜いていった。
    「炎使い……堕ちたのか。脅威になるなら、また、倒す」
    「貴様トノ再戦ヲ、ズット待チ望ンデイタ」
     ガーゼから生まれた名も無き悪魔とミヤノが真正面から対峙すると、即座に2人はサイキックを放った。
     悪魔は呪いの力で剣と化した腕でミヤノを貫き、ミヤノは無数の護符で悪魔の魔力を封じ込めた。
    「黒牙はわからないけど、引き裂く力をういにちょうだい。そうしたらういが世界を引き裂いてあげるから!」
     羽衣は鬼と化した腕を振るい、純粋な暴力を撒き散らす。
    「……コノニオイ、カイダコトガアル……ナンダ? コイツハ、アトマワシダ……!」
     キメラと化した慧樹は羽衣を前に僅かに逡巡し、踵を返すと別の標的を探しにいった。
    「同胞よ、我の中の半端者からの伝言だ。お前達2人を必ず倒してこいとな」
    「……ああ、そろそろ来る頃だと思っていた。あんまり目立ちたくはないんだ。すぐに片を付けてやる」
     黒曜の鎧を纏った騎士クレンドは立ち塞がると、和守は予想していた様に返し、銃を向ける。
     そしてクレンドが放った死の光線が和守の身体を蝕み、和守が放った精確な射撃がクレンドの頭部を直撃した。
    「兄弟、調子はよさそうだな、その趣味の悪い首輪は捨てないの?」
    「……この首輪は、全て終われば遼に返す。だが俺には不要だ、忌々しい」
     白金が軽口交じりに言いながら敵の喉元を焼き切ると、黒金は炎の蹴りで敵を弾き飛ばしながら返した
     白金と黒金は互いに背を預けながら、互いの死角をカバーして戦闘を行っている。


     更に時は進み、生き残っているダークネスは全体の半数にも満たなくなった。
     この闘いに参加していた4人のイフリートは、ごく少数の灼滅者達の手助けにより中盤付近まで生き残ってはいたが、既に全員倒れてしまっている。
     あちらこちらに力を失ったダークネス、灼滅者達が倒れ伏しているが、戦闘の激しさは変わらない様だ。
     いよいよ終盤戦である。
    「八百万の符を従えるうちが、たがだか二百三百の有象無象に負ける道理なんぞあらへんよ?」
     千鳥は盾となり鎚ともなる強靭な両腕を振るい、敵陣を薙ぎ倒し、
    「ここまで残れたのは、運が良かったのかなんなのか……流石にもう限界ですね」
     イフリートククルは冷静にそう判断しつつも、最後まで足掻こうと炎を放っていく。
    「……俺がクロキバになるんだ。……理不尽にくたばる奴が、使い潰される奴が二度と出ねぇ様に! そのために俺が全てを叩き伏せられる、そんな力を!」
     サイラスは力への渇望と共に突撃し、獅子と虎の頭部の如く変形した両腕を突きだした。
    「我が名は命恩、命恩童子! 戦を愛し、戦乱を望む者なり!戦を呼ぶ黒牙の力、我が手に!」
     傷だらけの命は高らかに声を上げると、徒手空拳でひたすらに猛撃を仕掛け、
    「……その身体ごと……アナタの……覚悟も……断つ……」
     文は両刃の鋏を命に突き刺すと、無理やり刃を開き傷口を広げていった。
    「にゃはは! 貴様等! この夜猫の華麗なる一撃を喰らえい!」
     あきらはしなやかな身のこなしで飛び回り尻尾の触手で敵を縛り付け、
    「王を僭称する者達を倒す力を手に入れる為にも、ここで負けられないね……蒼の王の為にも」
     蒼の王コルベインの崇拝者でありノーライフキングでもあるヒイラギは、黒き日本刀『怨京鬼』で反撃する。
    「さあ、遠慮なしに戦える機会って珍しいしね、折角だしたのしんじゃお♪」
     闇子は銀の寄生体で片腕をドラゴンの如く変化させ、爪を振るう。
    「黒牙に届かなくとも、せめてそれを見届ける、その為にここに来た」
     晶は斬撃に耐え切ると大鎌を振るい、闇子を一気に斬りつけた。
    「たしぇは弱いから、あとでもかてるよね? ……って、流石にもう通用しないかな」
     回避と回復に徹していたタシェラフェルは、迫りくる攻撃に護符で対抗し、
    「ボクのモノにするから泥臭くいくよぉー。きゃけはははっ!」
     破れ鏡の魔物の形態となったシャドウセイは、牙に見立てた鏡片をタシェラフェルに抉りこませる。
    「クロキバ……強い力には興味ありみたいでね。ま、現実世界で沢山遊べるんだ。良い機会だよ、ありがたいね」
     リーファは右手の結晶の羽の投擲と左腕のガンナイフの射撃で敵を追い詰めていき、
    「あはは! 近付けないなら近づかなきゃいいんだよね! ……穿て水閃」
     銃撃を受けた磯良は、すぐさま重い水塊を撃ち返した。
    「高尚なジコギセイなんて、馬鹿らしい。あたしが次のクロキバになるの! あたしこそ相応しいの!」
     レドは全身に炎を纏わせ敵に突撃し、
    「王に挑むために黒牙の力が助けになるのなら、この素晴らしき強者を打ち砕き、その名を見事継いでみせよう!」
     灼熱の突撃を受けた破天はすぐに体勢を立て直し、巨大な風の刃を巻き起こした。
    「受け入れましょう、為しましょう、愛しましょう。貴方が私を求めるなら、私も愛をもって応えます。私の中に、融けてしまいなさい」
     白き天使の様な姿のゲイルは唯一結晶化していない口で呼びかけると、両腕の結晶の長剣で斬りかかる。
    「縁やら骸やら簒奪する王を放置するのも業腹、故にこの機械を放置するわけにはな!」
     ロジオンは言葉と共に魔術を発動し、他者を縛る結界を構築した。
    「ここから先生き残る為には地力も必要かもね……だけど新たな黒牙を継ぐのは私、イーリスよ!」
     イーリスは魔力を込めた赤き杖を突きだすと、巨大な影の奔流が敵を飲みこんだ。
    「個人的に、白の王をめっためたにしたいのよ。だから、目指すの。黒い牙を。だから、とにかく、ぶっとんでちょうだい」
     蜜柑色のクリスタルドラゴンと化したアビゲイルは、手に持ったみかん型水晶から闘気の塊を撃ちこみ、
    「……全てを紅に沈める。それだけだ」
     亜里沙は空から禍々しい紅色の雨を降らせ、敵陣を蝕んだ。
    「……結末は分からない。だけど、最後まで戦い抜こう」
     ジュリアンは手にした鏡で敵に幻惑の光を放ち、
    「ペンは剣よりも強しってね。牙とは、どうだろうな?」
     筆一は手にしたペンで影を操り、鋭い斬撃を放った。
    「歌を歌いましょう。戦うなんて野蛮なことよりも、歌っている方が楽しいですから」
     にょろはそう言うと歌を紡ぎ、その歌声を聴いた敵は全身が痺れ上がった。
    「クッ……止まる訳にはいかぬ、奴の力となる為に……」
     朱那のダークネスは全身から青き炎を放ち、敵を焼け焦がした。
    「面白い! 幻獣種は大地の調和を守り。クロキバは天敵に対する抗体かな? 継承? はは、知ったこっちゃねーよなあ! 覚悟! 勿論だ! クロキバの名を穢してやるよ!」
     ソロモンの悪魔蔵乃祐は闘いの中でも楽しそうな笑みを浮かべ、サイキックを否定する魔術を撒き散らす。
    「………………痛いな」
     光線を受けたアヅマは面倒くさげに呟くと、ダイダロスベルトを放ち斬撃を返した。
    「『半身』が紡ぐ物語は新たな道を開く、か。ならば私が『半身』の過ちも疑問も、クロキバを看取った貴女の代わりに背負おう。今も、この先も。だから、負けない」
     玲那は高速で鞭剣を振るうと、周囲の敵をまとめて切り裂いていき、
    「このまま残れるといいんやけどねぇ」
     采は足元の影から無数の動物の影を呼び出し的に喰らいつかせた。
    「私は力を欲する、誰にも負けぬ力だ……その為に手段は選ばぬ」
     アルヴァレスが放った雷が闇を貫き、
    「おぉっと、ここでオレか。別の奴に攻撃しない? ……ダメ?」
     のらりくらりと生き残っていた景瞬は雷を受けると、巨大な鬼の拳で反撃した。
    「僕は人間を脅かすものに黒牙の力は渡さないよ!」
     桃は闇堕ち前とさほど変わらぬ姿で狼の爪を振るい、
    「うーん、アタシも黒牙って柄じゃないんですけどー……でもアタシみたいな半端なシャドウに倒されるようじゃあ、黒牙は告げませんからね?」
     テンション高めのシャルロッテは、巨大な斧で無数の斬撃を放っていく。
    「ふっふーん、こんなにおおっぴらに殺せるんだったら、殺らない手はないよねー。ね、藤姫」
     黒猫は軽いノリで雪原を廻り、目に付いた敵を適当に斬っていく。
     そして巨大なサイ型イフリートと化した知信が炎を吹き出し、災厄を撒き散らす。
    「セイメイを討ち滅ぼす為……黒牙の力は、ボクが継ぐ。そうでなければ、この生に意味なんて無い」
     一誠のスサノオ、ヤトノオオカミは、獰猛に雪原を駆け白き炎で敵を包んでいき、
    「王の転生を喰らう黒牙……我等が悲願を叶えるための鍵をこの手に!」
     アルベルティーヌはその炎をくぐりぬけ、渾身の斬撃を刻み込んだ。
    「既に四門は開かれた……今こそ全力を出す時!」
     銀静は斬艦刀を手にし大きく振り払うと、爆発的な威力が込められた斬撃が敵陣を襲う。
    「まだ倒れられない……黒牙、それをぼくの新しい名前にさせてくれよ……そうすればぼくはもう亡霊じゃない」
     六六六人衆ハヤセは苦しみながらも必至にナイフを振るい続ける。
    「なかなか良い余興であったぞ。退屈に殺されかけておった妾には丁度良い遊び場じゃった……さて、それでは黒牙の力、妾が頂くとしよう」
     この世の全てが己の物と信じて疑わない魔女くるりは、優雅に魔法を放ち命を削りとっていく。
    「斬るか倒れるか、二つに一つだ」
     脇差は素早いこなしで暗殺者の様に敵の急所を抉り、
    「中々楽しかったが、まだもう少し暴れ足りないな」
     小町はナイフを掲げると周囲に呪いが含まれた毒をばら撒いた。
    「そろそろ身体が壊れてきたけれど……もう少し戦えるかしら」
     球体関節人形の姿となったこのとは、ぎこちない動きで周囲にダイダロスベルトを放っていき、
    「この願いは、己の力で叶えてみせる……」
     スサノオ雨音は身体に纏った茨の影を展開すると周囲の敵を縛り付け、
    「私の邪魔をするな」
     夕は茨から抜け出すと、鋭い狼の爪を振り上げ反撃した。
    「我もそなたらも、そろそろ体力に限界が来ている筈……ならば、一気に攻勢に出るべきか」
     ミコトは着物姿で前に出ると、龍の如く異形化させた腕で敵を殴りつけた。
    「中々しつこい敵が増えて来たね……後は最後まで耐えきれるかどうか」
     戦場に潜み生き残ってきた心は、やむなく糸を放ち結界を構築する。
    「我が鉄壁の防御と強烈な攻撃、見てみるが良い!」
     ご当地怪人アレクサンダーはアメフトおプロテクターを装着すると、ライドキャリバーを乗りこなし猛突撃し、
    「私にはクロキバの力が必要……だからどんな手段を使おうと……葱にまみれろ! 九条葱灯籠!」
     ヘイズが高らかに叫び葱を掲げると、空から葱型の炎が一斉に降り注ぐ。
    「もう足も腕もボロボロだけど……そんな事はどうだっていい。どんな手段を使おうと、勝てばいい」
     アリスは傷だらけの身体を引き摺りながら、無数の打撃を打ち放っていく。
    「このような機会、滅多にあるものではない……我は観測者たるシャドウ! 最後まで観させてもらおうか!」
     クロノスタシスは眼球を模した影の球体で敵を飲みこみ、
    「誰よりも長く立ち続けるのは俺だ。さっさと消えな」
     朱音は槍の突きの連打で反撃する。
    「一番のひと、一番のもの……お願い、邪魔をしないで……」
     誰よりも一番を望む新潟夜桜怪人は、しだれ桜ビームで近寄る敵を撃ちぬいていき、
    「……殺しても、殺しても、何ももう、見えないから。このまま母さんと一緒に……落ちて、堕ちて、いければいい……」
     刻はゆらりと前に出ると薄暗い障壁を振り降ろし、着実にダメージを与えていく。
    「世界を変える力……ここまで来たら、しがみついてでももぎ取ってくれよう」
     紅葉がそう言って鉄扇を振るうと、そこから放たれた炎の華が周囲に降り注ぐ。
    「俺は大事なものを守る為、本気で黒牙の力を手に入れる!」
     悠は空に向けて大跳躍すると、落下の衝撃を乗せた重い炎の一撃を繰り出し、
    「ここで焦るな……確実に決めて見せる」
     システィナはマスケットライフル型のガンナイフで精確な射撃を放つ。
    「俺はあちらの木菟の様に甘くはない」
     四肢に機械の鎧を装着した木菟は身軽に空中を跳ねると、巨大な手裏剣で纏めて敵を切り裂いていく。
    「王を噛み砕く力、気になるわねぇ……このまま頂いちゃおうかしらぁ?」
     そして縁が赤い斬撃を放ち、己の傷を癒していった。
    「悪魔に黒牙を継がせるくらいなら……私がなって悪魔を殺し尽くしてやるわ」
     バルベロは翼型の影で敵を切り刻んでいき、
    「力を継ぐのは余であるろ決定している。汝は大人しく余に従うがよかろう」
     水晶の骸骨龍ファリスは、無数の鱗を飛ばし傷を与えていく。
    「イフリートの力となる為……このまま耐えきる。約束を守るのは私の矜持である」
     渡里は無数の糸を張り巡らせ、死角から敵の身体を切り刻んでいき、
    「黒牙の力を得てガイオウガすら飲みこむことができれば、1人で復讐だって出来るんだ。だから……私の邪魔をするなぁっ!」
     九尾の狐と化した彩蝶は鋭い炎の斬撃を放ち、力を得んと立ち続け、
    「勝つ、勝つ、勝つ……例え身体を犠牲にしても、勝つ」
     勝利への執念は負けていない志命は、妖刀を手に斬撃を放ち続ける。
    「私は恐怖と闘う心を以てして、他の誰にも遅れをとるつもりはないわ」
     千草は呪布を放ち敵の動きを封じ込めると、
    「力を……絶望を呼ぶための力を……その全てをよこせ!!」
     蕨はバベルブレイカーの一撃を千草に叩きこんだ。
    「約束した。恋人を護れるくらい強くなって帰るって」
     式は雪原中を巻き込む強大な風を巻き起こし、
    「あのこの願いを、殺さなくていい世界を作る為に、黒牙になる」
     奏は大鎌と一体化した右腕と左手のウロボロスブレイドで敵を斬り、
    「力に興味はなくとも、簡単に負けるつもりはないのでな。それなりに戦わせてもらうぞ」
     グラナティスは激しい炎の奔流を放ち反撃した。
    「先代には鶴見岳で願いを聞いて貰ったからのう……此れも縁、妾が願いを果たす番なのじゃ」
     蝶子は愛槍を突き、薙ぎ、払い、あらゆる手段で攻撃を仕掛けていく。
    「……脚、貰った」
     彩織は影から影へと移動を続け、それ違いざまに敵の脚を斬っていく。
    「私が兄の居場所を護る……その為ならばどんな手を使ってでも生き足掻いてみせる」
     愛梨栖は目的の為冷静に、冷徹に、火の粉が舞うオーラと共に敵を切り刻み、
    「我はヒヤキハヤメノミコト。黒き澱みを欲する、いやしき炎姫ぞ」
     ヒヤキハヤメノミコトは厳かに戦場に中心に佇むと、その身体を中心に巨大な炎の嵐を巻き起こす。
    「ゲホ、あー、まだ生きてたか。生きてるんならもう一撃、放つとしよう」
     嵐を耐え切った供助は、杖に纏わせた雷を解き放つ。
    「生き残るために死力を尽くしてきたけど……最後まで何が起こるか分からないね、これは」
     亀之丞は刀と鬼の拳を武器に戦場を駆け、弱った敵にトドメを刺していく。
    「さあさあ猫たちご飯の時間よ召し上がれ」
     栞は影で創り上げた黒猫に敵を喰らいつかせ、
    「……その禍々しく忌むべき業ごと、切り裂く」
     純人は白き鴉の形に変化すると、栞に業を感じ取り一気に身体を引き裂いた。
    「勇猛、知略、覚悟。それらを以てしても先代は敗れた。ならば勝利を逃さぬ観察眼を養うまで」
     吸血鬼アカツキは灼熱の蹴りで敵を焼き焦がし、
    「………………。消えろ……」
     坦々と蹴りを受け止めた月夜は素手で頭部を殴り返した。
    「……ここに今宵立つのは総てが主役でありそして総てが主役を飾りたてるための脇役……折角の舞台です。楽しみましょう?」
     大半のダークネスが倒れ伏した今、優雨は改めて今ここに立つダークネス達に投げかける。
     闘いは、もう終わる。



     ここまでの戦いを終え生き残ったダークネスはエール、睡蓮、那由他、緋頼、鈴香、彦麻呂、カガチ、蒼刃、翼、麻耶、一夜、レオン、小晴、サキの14人である。
     そして彼らはこれまでやってきたのと同じように、最後の生き残りを賭け力を振るうのだった。
    「もし最後になったら、どんな力がもらえるのかな? なにか無念があったら、片手間にでも晴らしてあげよう」
     一夜は気まぐれに戦場を駆けながら、心を惑わす歌を紡ぐ。
    「そんな歌に私は惑わされぬ、私は生きたい。生きねばならんのだ!!」
     レオンはその歌の苦痛にギリギリの所で耐えきると刃を突出し、一夜の意識を刈り取った。
    「覚悟はとっくに出来てるわ。……これで終わりよ」
     麻耶は槍を手にするとレオンの背後に回り込んで刺突を放ち、レオンは今度こそ意識を失い倒れていった。
    「ふふふ……あなたの命、私の糧にしてあげるわ」
    「グッ……!!」
     その直後、サキが放ったオーラの鎖に縛られた麻耶は、残っていた微かな生命力を奪い去られ、地に倒れ伏す。
    「この、力が、あれば、醜いモノを、薙ぎ潰せ、ます」
     そこに飛び出した鈴香が巨大な影を放ちサキを飲みこむと、サキは精神と身体を蝕まれ、影から吐き出されると既に意識は無かった。
    「一段落ついた様だな、では、失礼するぞ」
     今が好機であると判断した睡蓮は獣の爪を振るい、鈴香の首筋を刈ると一気に仕留めきった。
    「ここまで勝ち上がってこれたのは、私の友のおかげ……卑怯? 何をおっしゃいますか。これが淫魔たる私めの闘いでございます」
     カガチはオーラの塊を翼に向けて放つが、翼はその一撃を炎で掻き消し、逆に寄生体の刃を向ける。
    「わりぃな、これは俺が背負うべきタスクだ。身体も魂も全てやると誓ったんだ」
    「なんと……!!」
     そして放たれた斬撃が、カガチの身体を斬り倒し切った。
     しかし翼はその瞬間、背後から迫りくる何かを感じ取った。
    「後ろから刺すのなんて、武蔵坂のお家芸でしょう?」
     彦麻呂がそう言って突き刺した槍を引き抜くと、翼は声も無く地面に倒れた。
    「これはこれは美味しそうな方がたくさんいらっしゃいますね……では頂くとしましょうか、冥饗屍吸?」
     エールは美しく輝く刃を携え彦摩呂に斬りかかり、魂を砕かれた彦摩呂はそのままフッと意識を失った。
    「あら、見事な腕前ね。だけど、足元には気を付けた方がいいんじゃない?」
    「な……ッ!!」
     エールが気づくよりも早く、緋頼が張り巡らせていた銀の糸が、エールの全身を斬り倒し切った。
    「黒牙の力は私『久我縫那由他』のもの。私自身が高みに至るため誰にも渡さない」
    「ワタシノ名は『蒼刃』、戦イニ必要ナノハ最後ハ力ナノダ。ソノ為ニハ心モ知恵モ要ラヌ。ソレヲワタシガ証明シヨウ」
     那由多の雷の一撃と蒼刃の炎の一撃が交差する。
     そして立っていたのは、蒼刃の方だった。
    「ほしい、ほしい、わたしはほしい。わたしだけのもの、わたしだけの力。奪う為ならなんだってする」
     小晴は攻撃を終えた直後の蒼刃にリングスラッシャーを投擲するが、
    「効カン!!」
     咄嗟に身を翻し攻撃を避けた蒼刃が、そのまま燃え盛る爪で小晴の身体を抉り、小晴はそのまま気を失った。
    「うふふ、最終決戦と行きましょう、私達3人、最も勝ちたい人が勝つわ」
    「これでも本気なんだ、私は。負けはしない」
    「蒼キイフリートノ力、見セテクレヨウ」
     緋頼の呼びかけに睡蓮と蒼刃が答え、一斉にサイキックが放たれた。
     蒼刃が放った強烈な打撃を睡蓮は避け、
     緋頼が放った紅きオーラの斬撃が蒼刃の意識を奪い、
     睡蓮が放った炎の蹴りが、緋頼を一瞬にして気絶させた。
    「………………」
     黒きスサノオ睡蓮は、倒れ伏した2人の身体をしばらく見下ろし、勝利を確信した。
     身体に流れてくる膨大な力を感じながら、睡蓮は呟いた。
    「私の勝ちだ」

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:白鐘・睡蓮(王葬牙・d01628) 
    種類:
    公開:2015年12月28日
    難度:簡単
    参加:373人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 45/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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