これは奴らの仕業だ!

    ●青森県某所
     ダム開発が発端となって村人達が二分し、対立している村がある。
     この村ではダム開発派と、ダム反対派が一進一退の攻防を繰り広げており、何か悪い事があるたび反対派の嫌がらせだと思い込んでいたらしい。
     その中には、単なる偶然や、勘違いなどもあったが、相手の仕業であると信じて疑わない村人達が多かったせいで、都市伝説が生まれたようである。

    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が来、たようだな!」
     妙なところで台詞を噛み、神崎・ヤマトがコホンと咳をした。
     誤魔化したつもりが、誤魔化しきれていない。
     そんな気まずい状況の中、今回の依頼が語られた。

     今回、倒すべき相手は、人間の姿をした都市伝説だ。
     こいつの顔はなぜかハッキリとしておらず、パッと見ただけでは誰だか分からない。
     しかし、村人達には敵対しているグループのメンバーに見えるらしく、それが原因で何度か争いになっていたようだ。
     ダム開発派の大半は土地を持っている奴で、口では村のためである事を強調しているが、実際には金しか興味が無い。
     逆に反対派は村の掟や伝統を重んじるタイプらしく、近隣の木々がダム開発の邪魔になると言って薙ぎ倒している事に腹を立てている。
     都市伝説が現れるのは、このどちらか。
     現れた方は、そのまま都市伝説の退治へ、もう片方は敵対派の住民を抑え込み、アリバイ作りに協力してやってくれ。
     ちなみに都市伝説は自由自在に顔を変える事が出来るようだが、服装までは変わらない。
     その事さえ分かっていれば、大しては強くないから、パパッと倒してしまってくれ。


    参加者
    玖珂・双葉(黒紅吸鬼・d00845)
    玖・空哉(弾丸クック・d01114)
    白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)
    クリスティーナ・サヴァロフ(魔道の探求者・d05612)
    及川・翔子(剣客・d06467)
    リーファ・エア(自称自由人・d07755)

    ■リプレイ

    ●賛成派
    「ダムの賛成、反対って作るたびに揉めるんだよね。でも、結局は地域住民の意見なんて蔑ろにされて、利権にまみれた政治家さん達が押し切っちゃうんだけれど……。ま、そんなところに都市伝説が現れるんだから面倒くさいよなぁ」
     複雑な気持ちになりながら、沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)が賛成派の集まっている村長の家にむかう。
     村長の家には村の有力者達が集まっており、『どうして、こんな良い話に反対するのか、訳が分からん』と愚痴をこぼしていた。
     そこから漂うのは、淀んだ金のニオイ。
     おそらく、ここに居る人間の大半が、ダムの開発によって、何らかの利益を得るのだろう。
     村の発展を考えているというよりも、自分達の利益を最優先しているように見えた。
    (「都市伝説よりも一般人が問題ね。面倒ごとにはならないといいけど……」)
     険しい表情を浮かべながら、及川・翔子(剣客・d06467)が村人達に視線を送る。
     この様子では、ダムを開発する事によって数十億の利益が転がり込むのだろう。
     ここでダム開発が頓挫すれば、莫大な損失が出てしまうため、後には退けないようである。
    「あっちで怪しい集団を見た! 早く、こっちに来てくれ!」
     荒く息を吐きながら、クリスティーナ・サヴァロフ(魔道の探求者・d05612)が家の中に飛び込んできた。
     クリスティーナが指を差したのは、反対派が拠点にしている仮設テントとは正反対。
     おそらく、賛成派をここから遠ざけるつもりなのだろう。
     しかし、村人達は余所者の言葉と言う事で、何やら怪しんでいる様子。
    「念のため、様子を見に行った方がいいんじゃないか。確か、その場所ってダムの建設予定地の近くだろ? 何か妙な真似をされると面倒になると思うんだが……」
     すぐさま字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)がフォローを入れ、村人達の顔色を窺った。
     流石に村人達も、無視できない。
     万が一の事があれば……、すべてが御釈迦。
     そこまでのリスクを無視して、楽観的でいる事などほぼ不可能。
     そのため、半数の村人が様子を見るため、望達についていく事になった。

    ●反対派
    「いやあ、何時の世も文明派と自然派はなかなか相容れねーな。風景写真をよく撮る身としちゃぁ、自然に残って欲しいが……。まぁ、俺らが率先して関わる事じゃぁねーか」
     自前のカメラとフィールドワークに適した服装で同行カメラマンを装い、玖・空哉(弾丸クック・d01114)が反対派の拠点になっている仮設テントにむかう。
     仮設テントは村長の家が見える高台にあり、村人達が妙に殺気立っているようだった。
     その場所を支配していたのは、歪んだ正義。
     正義は我にあり、と言う気持ちが強いためか、自分達の行動が何ひとつ間違っていないと思い込んでおり、村の自然を守るためなら賛成派の命を奪っても構わないと言わんばかりの雰囲気であった。
     しかも、そういった考えが間違っていると否定する者はいない。
     そんな事を言えば、即座に裏切り者の烙印を押され、命の保証すらなくなってしまうのだから……。
    (「双方の思いは大きければ大きいほど引けないものだな。掟や伝統は大儀の名の下に人を陰惨に殺す事さえあると聞いた事はあったが……、この状況はまさにそれか」)
     警戒した様子で辺りを見回しながら、白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)が溜息を洩らす。
     この状況で、都市伝説が賛成派を装って問題を起こせば、理性の箍(たが)が外れて何をするか分からない。
    「まあ、金のために伝統を軽んじるってのは、俺も好きじゃないですよ」
     プラチナチケットを用いて反対派の関係者を装い、玖珂・双葉(黒紅吸鬼・d00845)が意見を述べる。
     これを聞いた反対派が満面の笑みを浮かべて『同志よっ!』と叫び、双葉をギュッと抱きしめた。
     それから、自らの考えや理想を延々と語り始めたが、興味がないせいかほとんど念仏状態。
     そのまま肩を組んで村に伝わる伝統的な歌や踊りにつき合わされる始末。
     早く帰りたい、この状況から逃げ出したい、と思っても、プラチナチケットのおかげか、人徳なのか、決して放してくれなかった。
    (「個人的には賛成派寄りなんですが……。まあ、伏せておきましょうか」)
     見習い記者として反対派に潜り込み、リーファ・エア(自称自由人・d07755)がお茶を飲む。
     なんだかんだ言っても、お金は重要。
     正直、ちょっとうらやましいと思っているが、反対派の気持ちもわかるので、複雑な様子。
    「住民の方々の写真も使うかも知れないんで、他の場所で撮影させてもらえないっすか?」
     何やら村の方が騒がしくなってきたため、空哉が反対派の興味を逸らそうとする。
     しかし、反対派の村人は賛成派に動きがあった事で緊張が走り、双眼鏡を覗いたまま動こうとしなかった。

    ●怪しい影:賛成派
    「地域の発展、いいよねー。お金も入って幸せいっぱいだし♪」
     不審人物が見つかった場所を目指しつつ、直司が賛成派の考えを肯定しつつ釘をさす。
     しかし、賛成派の政治家はその事に気づいていない様子で、『ははは、世の中がすべて。どうせ滅びゆく村だ。買って貰えるうちが花だろう』と言い放つ。
     おそらく、貰った金で村を捨てて、もっと大きな町に行くつもりでいるのだろう。
     どちらにしても、村には執着しておらず、後の事など全く考えていないようだった。
    「……誰! そこに隠れているのは!」
     ハッとした表情を浮かべ、翔子がティアーズリッパーを仕掛ける。
     確かに、攻撃は命中した……が、相手が誰だか分からない。
     村の関係者か、都市伝説か、茂みに隠れて分からなかった。
    「よし来たっ! 大当たりなんだよっ! 天然理心流土方道場一番隊組長、沖田直司。推して参る!!」
     自ら名乗りを上げながら、直司が必死に後を追う。
     今のところ、相手が都市伝説かどうか分からない。
     だが、ここで逃がしてしまえば、火種になる事は間違いない。
    「やはり、交渉より、こっちの方が得意だよ。そら、全弾遠慮せず、受け取れ !」
     怪しげな人物の行く手を阻み、クリスティーナがマジックミサイルを撃ち込んだ。
     最悪の場合、相手が反対派の住民かも知れない。
     それを確かめるまでもなく、攻撃を仕掛けてしまったが……、相手を確認しようとすれば、それだけ時間がロスしてしまい、逃げられてしまう可能性も高くなる。
     そこまでの危険を冒して、相手の確認をするだけの余裕はない。
    「……消し炭にしてやる。これ以上争いの火種が炎上しない為にもな!」
     怪しげな影の後を追い、望が茂みを掻き分けていく。
     クリスティーナの攻撃が、何発か攻撃が命中したはず。
     しかし、それすらも確認する事が出来ぬまま、望達は怪しげな影を追いかけた。

    ●村長の家付近:反対派
    「金よりも伝統とかを重んじる側かぁ、こんな身だとやっぱり伝統とか伝承の方が気になってきちゃうんだよなぁ」
     反対派の村人達と話しながら、双葉が村長の家に近づいていく。
     村長の家が近づくにつれ、反対派の村人達がピリピリし始めたが、伝承と言う言葉を聞いてリーダーと思しき男性が、この村に伝わる話を語り出した。
     その話は、河童と遊んだ話や、天狗と遊んだ話、村人達が協力し合って大百足と戦った話などであったが、どこまで本当なのか分からない。
     しかし、村人達が自然を大切しなくなり、私利私欲に走ったせいで、村が衰退していったという話には信憑性があるように思えた。
    「ま、自然を守るというのも、心情としては分かります。でもやっぱり、もっとお互いに話し合うのが必要だと思いますよ」
     ある程度の理解を示した上で、リーファが反対派のリーダーに意見を述べる。
    「何度も話し合ったさ。少しでも、相手の気持ちを理解しようとしてな! だが、相手の答えは決まって、こう。『もう決まった事なんだから、いまさら変えられない。……諦めろ』ってな」
     リーダーの表情は、険しかった。
     この様子では、何度も、何度も、賛成派のところに足を運んだのだろう。
     晴れの日も、雨の日も、風の日も……。
     それでも、結果は同じ。場合によっては門前払い。
    「ここで失うものは多大でお金で買う事は出来ないと思います。お金だけが人生じゃない。大人の皆さんなら、もっと大切な事もあるって知っていると思いますが……、村長さんは違うようですね」
     悲しげな表情を浮かべ、睡蓮が村長の家に視線を送る。
     その時、都合が悪く、村長が現れた。
     それがどうしてなのか、分からない。
     何か目的があったのか、ただ何となくなのか……。
     ただ一つ言える事は、一触即発。最悪な状況と言う事である。
    「とにかく、落ち着いて。別に喧嘩に来たわけじゃないんだし」
     ふたりの間に割って入り、空哉が何とか説得しようとした。
     もちろん、それが無駄な努力である事は分かっている。
     分かっているが……、このまま何もしない訳にもいかない。
    「どうやら、こっちはハズレのようですね」
     賛成派に同行した仲間達からメールが届き、リーファが残念そうに口を開く。
     だからと言って、このまま帰る訳にはいかない。
     目の前の問題を片づけなければ、帰ったところで同じ事。
    「ここで暴力沙汰になったら、お互いにとって困るはず。ここは穏便に」
     ふたりに釘を刺しつつ、双葉がゆっくりと間合いを取っていく。
     ……未だに睨み合いは続いている。
     その時、村長の携帯電話から、アイドルユニットが歌う流行りの曲が流れてきた。
     途端に鬼のような形相を浮かべ、携帯電話を取る村長。
     反対派のリーダーも見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに視線を逸らす。
    「なんだと、そんな馬鹿な!?」
     それは望達と共に様子を見に行った議員からの電話であった。

    ●都市伝説:賛成派
     一方、その頃。
     怪しい人物を追っていた望達は、ようやくその相手を追い詰めた。
    「間違いない。あれは反対派のリーダーだ。囲め、囲め!」
     携帯電話片手に議員が指示を出し、まわりにいるメンバーに指示を出す。
     その間も電話の相手と話をしているようだが、電波状況が悪いせいか何度も聞き直しているようだった。
    「……これは反対派のリーダーじゃないわ」
     リーダーと思しき男性の服が破れている事に気づき、翔子が様子を窺うようにして背後に回り込む。
     最初は周りにいたメンバー達も『そんなのウソだ。俺はこいつを良く知ってする!』と反論したが、誰かと電話をしていた議員が『……本当だ』と呟き、事態は一変した。
     その途端、目の前の男の顔が変わった。
     今度は議員の顔に……。
    「ひぃ、ひいいいいいいい」
     訳も分からず悲鳴をあげ、議員がその場に座り込む。
     その間も電話の主が議員の名前を呼びかけていたようだが、本人はそれどころでない様子。
    「これで都市伝説、確定だね。それじゃ、遠慮なく行くよっ!」
     含みのある笑みを浮かべ、直司がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     それに合わせて仲間達も次々と攻撃を仕掛け、都市伝説をさらに追い詰めていく。
     そのため、都市伝説が次々と顔を変えていったが、正体が分かった後ではほとんど無意味。
    「逃がさない……食らえ!」
     都市伝説の懐に潜り込み、望が紅蓮斬を叩き込む。
     次の瞬間、都市伝説の体が炎に包まれ、断末魔を上げて崩れ落ちた。
    「どうやら、終わったようですね」
     かるくスカートをつまみ、クリスティーナが『ゴキゲンヨウ』の仕草をする。
     ……議員はまだ動けない。
     だが、その表情からこの件には関わりたくないという気持ちが、痛いほど伝わってきた。

    ●村長の家
    「一体、何が起こっているんだ! 訳が分からん」
     議員からの電話を切った村長は不機嫌であった。
     突然、反対派のリーダーが怪しげな行動を取っているという報告があったと思えば、もう一人の自分がいると言いだし、今度は化け物、挙句の果てに祟りだと騒ぎ出したのだから、もう何が何だか分からない。
    「反対派のリーダーならここに居ますし、何か幻を見たんじゃないんですか?」
     すべてを察した上であくまで冷静に、リーファが村長に語りかけていく。
     これには、村長も納得。
    「アイツは疲れているんだな」
     と答えを返す。
     だが、議員と同行したメンバーも、帰ってくれば同じ事を言うだろう。
     その時、村長がどのような態度を取るのか、現時点では分からない。
    「どちらにしても、俺達は考えを変えない、改めない。お前達がこのままダム開発を進めると言うなら、こちらも断固として戦うつもりだ」
     反対派のリーダーがキッパリと言い放つ。
     後先考えずに発せられた言葉は、混乱した村長の心に火をつける。
    「だから、落ち着け。頭に血が上ってたら、冷静に話し合いなんて出来ないだろう」
     ふたりの間に割って入りつつ、双葉が深い溜息を洩らす。
     先程からこのやり取りの繰り返し。
     お互い一歩も引かず、相手の話も聞かず、自分の考えを押し通そうとしている。
     考え方は違えど、同じようにしか見えない。
     どちらにしても、このままではどちらに偏ったとしても、村は滅びていくだろう。
     それが遅いか、早いか、の違いだけである。
    「とにかく、もう一度話し合ってください。今度は相手の話をきちんと聞いて。そうしないと村に災いが……。いえ、なんでもありません」
     わざと言葉に含みを持たせ、睡蓮がコホンと咳をする。
     この様子では、いつまで経っても平行線。
     都市伝説も倒した事だし帰ろう、と仲間達に合図を出しつつ……。
    「それじゃ、帰るとするか。みんなの事も心配だしな」
     睡蓮の合図に気づき、空哉がボソリと呟いた。
     ダム問題を解決する事は出来なかったが、それはそれ。
     もともと都市伝説を倒す事が目的だったのだから、これでいいのかも知れない。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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