美味しいけど、食べるのは難しい

    作者:芦原クロ

     雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)は、とある噂を耳にした。
    「ネットで出回ってる噂なんだけど、北海道で、夕方に道を歩いていると、無理矢理食べさせて来る変態が出没するんだって」
    「食べさせるって、なにを?」
    「ソーセージ……あっ、大きいからフランクフルトって言うんだっけ? それを、無理矢理食べさせて来るらしいよ」
    「なにそれ、怖いしキモいんだけど!」
     数人の女子中学生が、嫌そうに悲鳴をあげた。

    「変態と呼ばれる男の正体は、都市伝説だな。太さ36mmほどの、大きい調理済みソーセージ……一般的には、フランクフルトと呼ばれるものだ。それを無理矢理、食べさせて来るようだ」
    「太くて大きいソーセージ……喉に詰まったら大変なのよ」
     資料を広げた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の言葉に、思わず喉元を手でおさえる憂奈。
    「その通り。幸い、まだ死人は出ていないが、喉に詰まると危険だ。フランクフルト自体は美味だが……この都市伝説は無理矢理、フランクフルトを口の中に突っ込んで来るからな。夕方に、ここの道を歩いていれば都市伝説が出現するぜ。田舎道だが、念の為、人払いをしたほうがいいだろう」
     ヤマトは地図の一点を丸で囲み、説明を続ける。
    「この都市伝説は、熱々だったり冷めていたりするフランクフルトを、口の中に無理矢理突っ込んで来る。そのフランクフルトを、思い切り噛んで食べたりすると、どんどん弱体化するようだ。噛んだり、引きちぎったり、潰したりすると、効果抜群みたいだな……何故かは知らんが。さっきも言ったように、フランクフルト自体は美味い。フランクフルトを食べまくって都市伝説を弱体化させて倒すか、問答無用で即攻撃を仕掛けて倒すかは、お前達が決めるといい」
     資料を片付けながら、ヤマトは灼滅者たちに視線を送る。
    「熱々なら尚のこと食べ難い……しかし冷めたものだと、季節的に悲しい気持ちになるかも知れない。だが、お前達ならなんとか出来ると、俺は信じている!」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)
    雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)

    ■リプレイ


    「今日はこの時の為にお腹を空かせてきました。存分に喰らわせてもらいますよ」
     現場に到着し、殺界形成を使って人払いをしながら、花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)が告げる。
     実は大食いの焔が、空腹状態で来たというのは、普段よりもっと食べられるということだ。
    「めぐみ、この日のためにフランクフルト早食いの練習してきました。熱々でも速度落ちないですよ」
     若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)も意気揚々と言う。
     都市伝説の負けフラグが、この時点で確実に発生している。
    (「え、なに? フランクフルト食べたい? しゃーねーでゴザルなぁ……」)
     さっさと都市伝説を倒したかった天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)は、空気を読んで、食べる方向に変えたのだ。空気が読める人である。
    「フランクフルトには絶対に負けないですよぉ~!!」
    「とにかく、フランクフルトを食いまくります」
     花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)は、ややフラグを立て気味で、矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)は歩く度に大きな胸が揺れるしで、2人ともなんというか危なっかしい。
    「フランクフルト! 美味しそうだし、いっぱい食べるよ!」
    「食べ物を粗末にするのは勿体無いので、フランクフルトを食べまくって都市伝説を弱体化させて倒す作戦ですね」
     無邪気に喜ぶ姿が可愛らしいフェイ・ユン(侠華・d29900)と、勿体ないと思ってしまう雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)の素晴らしき精神。
     とにもかくにも、素敵な女性陣ばかりだが、その中に1人、性別が違う者が居た。
     ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)は女性と間違われる容姿をしているものの、メンタルはほぼ男の子である。
    「ふと回りの面子を見たら女子ばっかだった件。ここは全力でネタに奔……じゃなかった、あたしが身体を張ってお姫様がたを守らなきゃ男が廃るわよねー」
     ハーレム状態を喜ぶより、むしろ守るほうを考える辺り、立派な男子だ。漢だ。
    『なんだと……きさま、男だったのか!?』
     出現してから隠れて、しばらく様子をうかがっていたというか、女の子たちを観察していたのだろう。
     都市伝説は、あまりのショックで大きな声を出してしまった。
     灼滅者たちが一斉に、声のしたほうを見ると、膝をついて頭を抱えている都市伝説の姿があった。
    『女の子集団が来たぜひゃっほう! でハイテンションだった俺の心を踏みにじりやがって! 騙しやがって! くそっくそっくそっくそうっ!! 許さん!』
    「んぐっ!?」
     都市伝説の男はそう言い、サウンドシャッターを展開して一瞬の隙を見せてしまった、ウィスタリアの口に、太いフランクフルトを突っ込んだ。
    (「あんまり大勢の前で醜態を晒したくない……のに……!!」)
     喉の奥まで押し込まれなかったのが幸いだったが、口の中いっぱいに詰まったフランクフルトのせいで喋れず、ウィスタリアは都市伝説を悔し気に睨むしか出来なかった。
     綺麗な顔を歪ませ、屈辱にまみれたウィスタリアの表情が、都市伝説の加虐心をあおる。
    『む……いいぞ、その顔! この際、男だろうが関係ねぇー!』
     喜ぶ都市伝説。もう変態です。すごく変態です。
     興奮している変態を睨んだまま、ウィスタリアは口内のフランクフルトの温度に怯む。
     それは熱々のフランクフルトだったのだ。
     しかしウィスタリアにも意地が有る。
     されるままでは終わらぬ! とばかりに覚悟を決め、熱々のフランクフルトに思い切り歯を立てた。
    『おぐぅ!?』
     変態が悲鳴を上げる。
     この勝負、勝ちか負けかと言うのなら、確実にウィスタリアの「勝ち」だッ!
     しばらく動かない変態の前で、ウィスタリアは食べやすくなったフランクフルトを無言でもぐもぐしている。味は言われた通り美味らしく、満足そうである。


    「大きなフランクフルトを無理矢理食べさせる……食べ物で人々を苦しめるなんて許せませんですよぉ~! 食事っていうのは何ていうか、救われていないとダメなんですぅ~!」
     すかさず、せりすが主張を始めた。
     変態の視線がそっちに向かう。すると、変態は元気になった。
     なぜなら、せりすが水着姿だったからだ。しかもかなり露出度が高い。
    『ゆ、油断してたぜ……だが次は油断しない! さあ食べろ、フランクフルトを!』
     変態の周囲に、フランクフルトが次々と出現し、宙に浮かんで待機している。
     変態が指し示した方向へ、フランクフルトは飛んでいった。
    「んんっ!? こ、こんなの……熱くて、ヤケドしちゃうですよぉ~……」
     はふはふと呼吸を乱し、必死で言葉を紡ぐせりす。
     悔しいとばかりに変態を見てから、仕方なく、フランクフルトを叩き切った。
    『ええええっ!?』
     容赦の無い行動に変態は叫び、呆然とするが、直ぐに次のターゲットへフランクフルトを放つ。
    「たくさんフランクフルトを食べさせてくれるなんて、いい都市伝説……なのかな?」
     首を傾げていたフェイだったが、フランクフルトが真っ直ぐに自分のほうへ来ていると分かり、自ら口を開いて迎え入れた。
    「……んぐ……むぐぅ……っふぅ……」
     普通に食べているフェイの隣で、ビハインドの无名が保護者的な、静かな怒りの雰囲気を放っていることに変態だけが気付いた。変態だから気付ける事も有るのです。
    『なんだか良く分からんが、保護者の前でフランクフルトを食べるとは、いい、実にいいぞ! もっと食え!』
    「噛み付いたりしながら食べたらいいみたいだし、次からはバクバクと噛み付きながら食べていくね!」
     調子に乗った変態が、またもやフェイにフランクフルトを飛ばす。しかし次は、思い切り噛み付いて食べられてしまう。
     変態の、気色悪い悲鳴が響いた。
    「変態さん、そんなにせかしちゃ、ダメ」
     愛梨が変態に声を掛ける。
     変態は、自分に向けられた言葉だと、すぐに理解した。自分は変態なのだと、自覚しているようだ。
    「女の子には優しく、かつ、しっかりとね?」
     そう言ってから、愛梨は道徳的な緩みを連想させる言動をした。
     見せることを前提にした愛梨の下着を前に、変態はなぜか真顔になって黙る。
     沈黙が流れると、愛梨も流石に恥ずかしくなって来たのか、頬がほんのりと赤く染まる。
    『……分かってない、分かってないぞ、きさま! そんなことで喜ぶのは、普通の男だ! 変態な俺は喜ばん! もっと恥じらえ! ええい、お仕置きだ!』
    「え、え? きゃあっ」
     実はかなり内気な愛梨は、変態の熱弁に戸惑う。
     そんな愛梨の豊満な胸の谷間に、フランクフルトが突っ込まれた。
     肉汁たっぷりのフランクフルトは油が出ている為、愛梨は不快感に苛まれる。
    「うう……ベタベタして、気持ち悪い……でも、負けないもん!」
    『ふはは! 嫌がる姿がたまらんな!』
     変態は大喜びだ。しかし愛梨も負けない。灼滅者として、負けるわけにはいかないのだ。
     谷間に挟まれたフランクフルトを抜き取ると、力の限り握り締め、食いちぎり、かじった。
     またもや響く、変態の悲鳴。
     それでも変態は、フランクフルトを食べさせるのをやめない。
     残りの灼滅者たちに、極太のフランクフルトが襲い掛かった。


    「それでは、いただきます。……同じ味ばっかりだと飽きてしまうので、ケチャップやマスタードで味を変えますね」
    『そこはマスタードじゃなく、マヨネーズだろ!?』
     憂奈に向けて変態がツッコミを入れるが、憂奈は意味が分からないといった様子でなにも答えず、お茶を飲み始める。
    「ちょっと、お茶を飲んで口の中をさっぱりしますね」
    「味そのものは美味しいんですぅ~」
     憂奈の言葉に続き、せりすは相変わらずフランクフルトを叩き切りながら食べている。
    「もっとです……もっと食べさせて!!」
     空腹状態の焔は、まるで飢えた獣のようにフランクフルトを食いちぎっていた。
     普段はしない、ましてや年頃の女の子が絶対しないような凶悪な表情で、フランクフルトを求める焔。
    「熱いのも冷たいのも関係なくおいしくいただきます……だから、もっと!」
     焔の迫力に、流石の変態もビビッてしまう。
    「フランクフルトを無理やり口に突っ込んでくるとな? そっかー、死ね」
     変態はお断り、のウルスラも容赦無い言葉を浴びせる。
     飛んで来るフランクフルトをキャッチし、ウルスラは変態に、ガンを飛ばした。極道のように迫力の有る、睨みだ。
     変態を睨んだまま、ウルスラは用意していた鉄串を、勢い良くフランクフルトにぶっ刺した。
     痛そうに悲鳴を上げる変態をまだ睨みながら、フランクフルトを奥歯で食いちぎる。色んな意味で武闘派です。
     変態はどんどん、弱ってゆく。
    「ふぁふふい、ふぁっふぁふぃふふぉふぃふぁふぁふぃふぇふぉふぃふぁふぉ……」
     めぐみは熱々のフランクフルトを食べている。
     熱い、やっぱり少し冷まして欲しいかも……と、言っているようだ。 
     らぶりんも大口を開けて、一生懸命フランクフルトを食べているが、体長的にツラそうだ。
    「食べ物を一番おいしく食べられる状態で提供しないなんて……許せないですよぉ~」
    『当たり前だろ! 俺は変態なんだからな!』
     せりすの言葉に、変態は堂々と答える。もうここまで来たら、いっそすがすがしい。
    「あ、今度は冷たいフランクフルト……温かい方が美味しいのに……悔しいですぅ~」
     またもや、せりすは渾身の力を込めて、フランクフルトを勢い良く、ぶった切る。
    「うーん、飽きてきちゃったなぁ。味変えよーっと」
     フェイは持って来ていた調味料を使い、味を変えて食べ続けている。
     めぐみと焔、大食いの2人はフランクフルトを沢山食べていた。もちろん、思いっきり食いちぎる感じで。
    「十分味わったら……要は満腹になったらですけど、食後の運動に灼滅しますね」
    「いい食べっぷりね。一応戦闘では、なるべく女性陣を護るわよ」
     嬉しそうにフランクフルトを味わいながら、さらりと告げる、めぐみ。
     続いてウィスタリアが、頼り甲斐の有る発言をする。
    「美味しいなら食べなきゃ損よね」
     ウィスタリアがそう言い、フランクフルトを食べる。
     フランクフルトは、ボリュームたっぷりで、ジュワッとジューシーだ。
     食感も良く、噛みごたえも食べごたえも有る上に、豚肉の肉汁が口の中に広がり、旨味が溢れだす。
     これが噛まずにいられようか。いや、いられない!
     そういうことで、灼滅者たちはフランクフルトを切り刻んだり、食いちぎったりして食べています。
    『う……見ていられん! なんだ、いったいどういうことだ!? フランクフルトはそんなに攻撃的に食べるものじゃないだろ!? もっとこう……なあ!?』
     必死で言葉を並べる変態は、完全に弱体化していた。
     地面に膝をつき、息苦しそうに呼吸を荒げている。
     足を引っ張らない程度にフランクフルトを消費していたウルスラが、いち早くそれに気付く。
     口腔に広がる後味を変えるべく、棒の付いた飴を咥えた。
    「食べ物をおもちゃにする奴には血の制裁を。公共灼滅機構デース。……死ぬがよい」
     そう言い、ウルスラは愛と勇気と逆恨みを込めて、変態を攻撃する。後半の言葉に、ウルスラの想いすべてがこもっている。
    「ごちそうさまでした」
     めぐみは挨拶をしてから、巨大十字架の全砲門を開放し、光線を乱射する。らぶりんはまだ、フランクフルトを食べ切れていない様子だ。
     食べすぎで動けなくならないよう、注意していたフェイも、直ぐに戦闘態勢に入った。
     エアシューズで機敏に滑走し、摩擦を利用しての炎の蹴りを浴びせる。
    『ぎゃあああ! 俺は敗れるのか!?』
    「斬り潰します」
     巨大な鉄塊の如き刀、イクス・アーヴェントを振るい、焔が超弩級の一撃を、変態に叩き込む。
     それがトドメとなり、変態は倒れた。
    『ほ、他の変態が……俺の意志を、継いで、くれるだろう……』
     嫌な発言を残し、都市伝説は完全に消滅した。


    「ごちそうさまでした。もう、お腹一杯です」
     ふう、と一息吐いてから、憂奈は掃除を始める。
    「こんな伝説なら、何度でも相手したいかも……」
     美味しいフランクフルトを沢山食べることが出来て、満面の笑みを浮かべる、めぐみ。
    「ソーセージの中身は肉屋と神様しか知らないっていう、外国のことわざがあるんですよぉ~。沢山食べたあのフランクフルトの中身は、一体何の肉だったのでしょ~?」
     フランクフルトを沢山食べたせりすが、今更そんなことを呟く。
    「ちょっと動いたら、またお腹空いてきちゃったなぁ。帰りに何か食べていかない?」
    「ええ、まだ足りませんね……ラーメンでも食べて帰りましょうかね」
     フェイの言葉に、焔が頷いた。
    「まだベタベタする、気持ち悪いよう」
     愛梨は自分の胸元に視線を向け、溜め息を吐く。
    「そうよね、なんか汚された気分……」
     サウンドシャッターを解除したウィスタリアが、少し遠い目をする。
    「なんでこのクソ忙しい年の瀬に、あんなん相手にせにゃならんでゴザルか……あんなんでも灼滅しておかないと正気を保てない灼滅者の身の上の悲しさよ、デース」
     ウルスラが、いまいましげに舌打ちを零した。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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