伝説の割烹料理人

    作者:なちゅい

    ●男がさばくものは……
     福島県某所にある古戦場跡。
     所々に残る爪痕がこの地で古く、戦いがあったことを現代に伝えるだけのこの場所にも、時折ブレイズゲートが現れている。
     現在、何者かの手によってブレイズゲートを破壊されるという事案が起こっているが、ブレイズゲートの全てがなくなっているわけではないらしい。
     武蔵坂学園の灼滅者達は、ブレイズゲートの、そしてダークネスの発見の為、巡回を続けている。
    「割烹料理人のアンブレイカブル……とか、でないかしら」
     魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)は仲間と共に巡回しつつ、そんなことを考える。

     狭霧の考えはどうやら現実のものとなったようだ。
     新たに発生したブレイズゲート。そこにまた新たなアンブレイカブルが蘇る。
    「ここはどこだ……」
     彼の名は、船ヶ迫・義宏。白い調理服を纏い、頭には同じく白い和帽子を被った中年の男性だ。
     多くのダークネスが血で血を洗う戦いを繰り広げた、武神大戦天覧儀。船ヶ迫はそこで敗退し、命を落としてしまったのだ。
     既に天覧儀は終結し、武神大戦は新たな戦い『獄魔覇獄』へと進んでいるが、命を落としてしまった船ヶ迫がそれを知る由もない。
    「敗戦したはずだがな。蘇ってしまったのか」
     船ヶ迫はある程度の記憶を取り戻す。そして、彼は大きな斧を担いだ。
    「料理をまた作りたくもあるが……、俺も修羅でしかないのだな」
     戦いを欲する内なる衝動はアンブレイカブルとして当然のこと。それは、料理を作ること以上に、彼にとって優先されるのだ。
     見れば、この場へと現れる学生の一団がいるではないか。これなら、湧き出る衝動を少しでも抑えられようというもの。
    「さあ、来るがいい。この斧でお前達をさばいてやろう」
     船ヶ迫はそうして、龍砕斧を構える。
     一方、ここを訪れたのは、武蔵坂学園の灼滅者達だ。一行は見つけたアンブレイカブルの灼滅の為、スレイヤーカードの力を解放していくのであった。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    久我・なゆた(紅の流星・d14249)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)
    白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)

    ■リプレイ

    ●割烹料理には惹かれるが……
     ブレイズゲートへと立ち入った灼滅者達。学年も旅団もバラバラのメンバー達だ。
     魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)は今回依頼に参加した仲間に対し、丁寧に挨拶を交わす。
    「まだまだ、福島のブレイズゲートはなくならないなぁ……」
     活発系体育少女の久我・なゆた(紅の流星・d14249)は、際限なく出現するブレイズゲートについて考える。
    「でも、ブレイズゲートのダークネスが戦いを求めるなら、相手になるだけだよ!」
     仲間達の視線に気づいた彼女は、気合を入れていた。同意する高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)も、気合十分のようである。
    「ふむ、絶景絶景。それで、ターゲットはどこかしら?」
     空を飛ぶアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が双眼鏡で見渡すと、ブレイズゲートの中心に1人の男が立っているのが分かった。
     メンバー達は、その男……伝説の割烹料理人、船ヶ迫・義宏のそばへと向かう。
     その途中、これから始まる戦いに備えて周囲の音の遮断も行っていた狭霧が、徐に口を開く。
    「高級料亭で割烹料理を作っていた人が、どうしてアンブレイカブルになって武神大戦天覧儀に参加したのか、気にはなります」
     もっとも、その理由を船ヶ迫が語るかは分からないが……。
    「割烹料理ねぇ。合わせるならドイツの白ワインかしらね。折角の和食だし、甲州と合わせてもいいかも」
     20歳のアリスは、ワインを嗜む。だが、そのワインに合う料理を作る職人は、残念ながらアンブレイカブルでしかない。
    「どちらにしろ、表の顔と会ってみたかったわ」
     とはいえ、生命のやり取りが楽しくないわけでない。彼女にとって、それはそれで別腹とも言うべき楽しみであるのだ。
    「料理を愛する修羅ですか……。殺し合いではなく、料理対決で決したかったですがねぇ……」
     世の中はままならないものだと、紅羽・流希(挑戦者・d10975)は語る。できるなら、自身も料理好きなので、何かレシピを教えてもらいたいと流希は考えていた。
    「自慢の一品のレシピを教えてもらえるかな。あまり作るのに値が張らないもので、男の子が喜びそうな……」
    「料理人かー。美味い料理食わせてくれんならいいけどな」
     同じく、サウンドシャッターを使うなゆたも、自慢の一品のレシピを教えてほしいと希望する。夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)も、自慢の料理が食べられたらと考えていたのだが。
    「希望とあらば、構わんが……」
     それを聞いていた、船ヶ迫。背中に背負った斧は、遠目でも目立つ。
     その彼が視線を向けた先には……。
    「バカはしんでも、なおらないって、言うけど、ホントに、なおらないの、ね」
     白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)が船ヶ迫へと敵意……いや、侮蔑の視線を向けている。
    「料理、つくってれば、まっとうに、生きれたのに。自分の欲に、まけたのね」
    「二兎を追う者は一兎も得られない。その中途半端な生き方じゃ、武神大戦を勝ち抜けなかったのも当然だね」
     夜奈同様、比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)も、敵の境遇に呆れすら覚えていた。
    「さっさと来なよ、アンブレイカブル」
     彼女は相手を挑発するように呼びかける。
    「まあ、今回の目的は灼滅だからな。いっちょ、やってやりますか」
     レイジは料理人の作る料理が気になりつつも、これから始まる戦いに胸を躍らせていた。
    「ならば、前置きは抜きだ。行くぞ」
    「よろしくお願いします」
     狭霧は船ヶ迫に対しても、丁寧に挨拶をする。
    「Slayer Card,Awaken!」
     アリスが叫び、スレイヤーカードの力を解放し、船ヶ迫目がけて駆けていく。それに続く灼滅者達を、船ヶ迫は悠然と斧を構えて迎え撃つのだった。

    ●命のやり取り
     飛び出したアリスは正面から突っ込んでいくかと思いきや、戦場を縦横に駆け回り始める。
    「出し惜しみはしない。あなたも全力で向かってきなさい!」
     そして、彼女はまず、魔法の矢を白い光と共に撃ち出し、船ヶ迫へと浴びせかけた。
     逆に余り動き回ることなく、戦いを行っていたのは流希だ。両手に集めたオーラを撃ち出す彼に躊躇などない。料理について教わることができたらと考えていた彼。だが、一度戦いが始まってしまえば、目の前のアンブレイカブルを灼滅すべく、非情に徹していたのだ。
     その前では、麦が両手に集めたオーラを拳に纏わせ、連撃を浴びせかけていた。
     灼滅者に先行された船ヶ迫は立て続けに攻撃を受けていたが、多少の攻撃では、そのアンブレイカブルはびくともしない。
    「オレがお前らを掻っ捌いてやろう」
     船ヶ迫は背中の斧の柄を掴み、灼滅者目がけて叩き付けてくる。
     その前にロングコートを羽織った男性が前へと出てきた。それは、夜奈の祖父、ビハインドのジェードゥシカだ。元ロシアの軍人の彼は、まだ若い灼滅者達の盾となってくれた。
     しかしながら、片手で軽々と斧を振り下ろす船ヶ迫の力は脅威だ。そして、その威力も。ジェードゥシカは思った以上の威力に小さく呻く。
     その後ろから、なゆたが船ヶ迫の前へとやってくる。
    「久我流の空手、お見せするよ!」
     彼女は赤毛のポニーテールを跳ねらせつつ、敵のアゴを目がけて上段蹴りを炸裂させた。ウイングキャットのレムも、回復不要と判断して猫魔法を飛ばす。
     前にいた狭霧もダイダロスベルトを伸ばして敵を貫きつつ、狙いを定める。クラッシャーとして戦うのが初めての彼女。だからこそ、チームの火力となるべく、一生懸命に攻撃を繰り出す。
     そこで、ビハインドのジェードゥシカが、先ほどのお返しとばかりに霊撃を船ヶ迫へ叩きつけた。
     さらに、夜奈がやや苛立ちげに船ヶ迫へと躍りかかった。そして、白光と共にクルセイドソードを一閃させる。
    「こどもだからって、ナメてると、もう一回、しぬよ?」
     夜奈自身、内なる殺人衝動に耐え続けている。だからこそ、自分の欲に負けてしまった船ヶ迫が余計に嫌いなのだ。
    「ナメてなくても、ころす、けど」
     鋭く目を光らせる夜奈の目は殺意に満ちていた。
     同じく、正面から仕掛ける柩が肉薄する。
    「料理への未練を、ボク達が断ち切ってあげるよ」
     彼女はマテリアルロッドを握りしめ、先端に魔力を込めて叩きつける。
     暴発する魔力に耐えた船ヶ迫へ、さらに、レイジも攻め入った。
    「しゃーねーな! 今日は俺がお前を料理してやるよ!」
     妖の槍を抉るようにして突き付けるレイジ。それに穿たれた船ヶ迫も黙ってはいない。
    「生憎、料理されるのは好きではないのでな」
     そう告げて灼滅者へと突撃してきた彼は、右手に握った斧で前列メンバー達を薙ぎ払っていくのである。

     激しく続く両者の攻防。
     船ヶ迫は、龍砕斧を難なく振り回して攻撃を行う。
    「料理人だって斧を扱う。コイツで300キロのマグロだってさばいたのだからな」
     自身の斧について豪語する彼は、アンブレイカブルとして数々の人間をも解体してきたのだろう。
    「さばくなら魚だけにして。人間を解体す(ばらす)のは、肉屋の仕事」
     アリスは戦場を駆け回り、敵の死角を突いて足から延ばした影を大きく広げ、敵へと覆い被らせる。オーラキャノンとマジックミサイル、影喰らい。気魄、術式、神秘、3属性の遠距離攻撃を織り交ぜ、地道にこつこつとダメージを与えていくのがアリスのスタイルだ。
    「世の中、リーチが長い方が何かと有利でね」
    「……同意だな」
     同じく流希も影を伸ばし、先端を鋭い刃と化して敵を切り刻む。彼が距離を取る理由はアリスと違い、深い傷を負っていたからだ。天覧儀で闇落ちをした事もある流希は、細心の注意を払いながら、立ち回る。
     遠距離から飛んでくる攻撃に対処する船ヶ迫。だが、そればかりに気を取られてもいられない。流希の攻撃をサポートするように、麦と狭霧が攻め入ってきていたのだ。
     冷静に対処する船ヶ迫。麦の槍はギリギリのところで躱されてしまう。狭霧はローテーションで攻撃を考えていたようだが、サイキック活性に難があったようだ。悲しいかな攻撃がかみ合わない。
     だが、他のメンバーが攻撃を続ける。なゆたは地面から空手の蹴り技を食らわせ、船ヶ迫の腹に炎を浴びせかけると、柩が真正面から敵の懐に潜り込む。
    「せっかくブレイズゲートまで来たんだ、半端な戦いはつまらない」
     彼女は非物質化させたクルセイドソードの刀身を船ヶ迫の身体へと突き入れる。見た目には何ら変わらぬように見えるが、一閃させた刃は、敵の霊体をひどく傷つけていた。
    「ボクが『癒し』を得る為に、精々楽しませてくれ」
     まだ満たされぬ柩は、船ヶ迫へと更なる戦いを所望する。
     そんな戦いの中、レイジはどうしても、船ヶ迫の料理を食したいという気持ちが拭いきれない。
    「殺り合うのはいいが、お前の料理の腕、見せて欲しいところなんだけどな」
     別段戦いが嫌いなわけではない。むしろ、小細工なしの戦いはレイジにとって臨むところだ。
     ただ、生来の食いしん坊な性格の彼は、戦いの中でも本音をちらつかせてしまう。
    「まあ、俺が食いたいだけなんだけど」
     レイジは射出した帯で敵を貫きながらも、船ヶ迫が作っていたであろう割烹料理を想像してしまうのである。

     ブレイズゲート内での戦いは続く。
     灼滅者達に連携に欠ける部分はあったが、それでも互角以上に戦いを繰り広げていたようだ。
    「ぬおおおおっ!!」
     船ヶ迫は怒号と共に、龍砕斧を振り回す。ドラゴンすらも楽に相手にすることができるその斧での一撃は、灼滅者達を苦しめる。
     夜奈はビハインドと共にその攻撃のほとんどを受け止めていたが、回復専門で立ち回るメンバーはいない。サポートが間に合わず、ビハインド、ジェードゥシカは斧での一撃を受け、消えてしまう。
     それでなお、怒りを露わにする夜奈。彼女は敵の死角をついて斬撃を浴びせかける。
    「こうげきは、さいだいの、ぼうぎょ」
     ビハインドとなっている祖父がダークネスに殺されていること、今も船ヶ迫によってその存在を消失させられたこともあるのだが、それ以上に夜奈は船ヶ迫へと同族嫌悪していたのだ。
    「やるな……、子供だからとはいえ、侮れぬ」
     見下ろすほどに小さい相手だが、船ヶ迫は夜奈にプレッシャーすら覚えていた。
     しかしながら、その夜奈とて、船ヶ迫に斬りつけられた傷は浅くない。流希がそれを察し、オーラを撃ち出して彼女の傷を癒す。なゆたのウイングキャット、レムもまた尻尾を光らせて夜奈の傷を癒していたようだ。
     そんな仲間に守ってもらっていた、後衛の柩は船ヶ迫の斧をほとんど受けずに済んでいたが、彼女は敵からの攻撃にはしっかりと備え、装備を固めていた。
     万全を期していた彼女は仲間の状態も確認し、これ以上倒れる者が出ないようにと気遣う。現状、問題ないと判断した彼女は、またもマテリアルロッドを強かに船ヶ迫へと叩きつけ、魔力の爆発を起こす。
     仲間の攻撃の合間を見て、レイジもバベルブレイカーを腕に装着し、先端の杭をドリルのように回転させ、船ヶ迫の身体へと突き刺す。
    「ぬぐうっ……!」
     そこで、船ヶ迫の顔が歪む。8人の灼滅者を相手に、彼は不利を悟っていたのだ。
     それでも、船ヶ迫は背を向けない。最後まで彼は戦い抜くつもりだ。
    「いいね、それでこそアンブレイカブルだよ!」
     彼女は光り輝かせた両の拳を敵へ叩き付けていく。空手家の末娘であり、鍛錬が大好きな彼女は、中学生にしてすでに腹筋が割れているほどに自らを鍛え上げている。
     そんな彼女の拳は、サイキックによってさらに強化され、船ヶ迫の体をも揺らがす。
     そして、体操着の上からでもはっきりと分かるほどにスタイルのよい狭霧。中学生にして大柄な彼女は、胸を弾ませて自分の周囲へと五芒星型に符を放つ。攻防一体のそのサイキックは、船ヶ迫を足止めしてしまう。
    「うぬっ……」
     膝をつく船ヶ迫。その体力はもはや尽きかけている。そう判断したアリスは白い光を放ちながら、サイキックエナジーで剣を作りだし、船ヶ迫の体を斬り伏せた。
    「やるな……」
     2歩、3歩と、後ろによろけた船ヶ迫。地面まで大量の血を滴らせた彼は、もはや斧を振るう力すら残っていなかった。
    「……お休みなさい」
     アリスが彼へそう告げると。船ヶ迫はぐらりと体を揺らがせ、地を這う。
    「まさか、俺が2度も料理される側になるとは……な……」
     彼は最後にそう言い残し、戦場跡から消え去っていった。

    ●次は割烹料理人として……
     この場から消えゆく伝説の割烹料理人。同時に、ブレイズゲートもゆっくりと晴れていく。
    「よっし、灼滅完了っと」
     レイジは一息つき、武器を収めた。
     流希は片手を垂直に立て、「生者必滅、会者定離」と回向を読み、船ヶ迫の冥福を祈ってから武器をしまう。
    「なんとも、手強い相手でしたよ……」
     一筋縄ではいかなかった相手だったからこそ、流希もまた、この勝利に安堵の息を漏らす。
     なゆたも、試合終了ということで、空手式の一礼を行う。
    「押忍……ありがとうございましたっ」
    「ありがとうございました」
     狭霧も船ヶ迫に向けて手を合わせ、黙祷を捧げる。
    「今度、生まれ変われたら、美味しい料理を食べさせてください」
    「やっぱり食ってみたかったなー。おっさんの料理。残念残念」
     それを聞き、レイジは船ヶ迫が作る割烹料理を食べてみたかったと残念がっていた。
     柩はその間、ブレイズゲート内を探索していた。ベヘリタスの秘宝や、ブレイズゲートの発生原因に繋がる情報がないかと考えていたが、残念ながら、めぼしいものは見つけられなかったようだ。
     なゆたは、伝説の割烹料理人が消えた空を見つめ続ける。
    「強さと、料理が出来ることは両立するかな……うん、できるよね!」
     船ヶ迫が極められなかった道。……自分ならきっと。
     なゆたは空に向け、えいと拳を突き付けたのだった。

    作者:なちゅい 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ