クリスマスだから餅でいいよね? 雪モッチア登場

    作者:聖山葵

    「ぐぎぎ……ケーキ、ケーキと何で餅じゃ駄目なのさ」
     そこにあったのは、明らかに絶望だった。
    「なんで……」
     クリスマスに餅パーティーと書かれたチラシの束を握りしめつつ、少年は空を仰ぐ。
    「なんで餅じゃ駄目もっちぃぃぃ!」
     絶叫と共に異形へ変貌した少年は分厚いチラシの束を勢い任せに引きちぎり。
    「もちっ、もちっ、もっちああああっ!」
     更に細かく切ったチラシを頭上に投げて紙吹雪を作ると、その下で身体を激しく揺する。
    「ふぅ、テンション上がってきたもちぃ! みんながあくまで餅のクリスマスを認めないならわいにも考えがあるもちぃ!」
     ぐっと拳を握った雪餅頭の怪人物は実力行使もっちぃと叫びつつ走り出すのだった。

    「と言う訳で、一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回は雪餅だな」
    「雪餅と申しますのは、米粉を水で練り蒸籠で蒸したお菓子ですね」
     サンタ服で登場した座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)の言に補足を加えたのは、今回の情報提供者である姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)。
    「本来なら闇堕ちした時点で人の意識はかき消えてしまうものなのだが、今回の場合人の意識を残したまま一時踏みとどまるようなのでね」
    「『灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい』と言うことですね?」
    「そう言うことだ。『また、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を』と続くがね」
     言葉を継いで確認したひなきゅんにはるひは頷きつつ一つ付け加える。
    「今回闇もちぃする少年の名は、雪嶋・義人(ゆきしま・よしと)。中学三年の男子生徒になる」
     自分の愛する雪餅を広める為、クリスマスのパーティーを利用しようと思った義人だったが、クラスメートを誘おうとしたものの、チラシを貰ってくれる人すらおらず、目論見はものの見事に失敗。
    「悔しさを含む諸々から、『クリスマスには餅を!』と荒ぶるご当地怪人雪モッチアと化してしまう」
     ぶっちゃけ、頭が雪餅になっただけの格好ではあるが、その辺りは人の意識が残っているからか。
    「君達がバベルの鎖に引っかからず義人に接触出来るのは、夕方、とある大きな公園に設置されたツリーの下、闇もちぃ直後のことになると思われる」
     クラスメートの家や塾と行った場所を周り、全員にお断りされ、行き着いて闇もちぃするのがそのツリーの下らしい。
    「接触しても引き留めねば雪モッチアはそのまま走り去ってしまう、よってまずはクリスマスパーティーについて聞くといい」
     君達は初対面の相手だろうが、今のところパーティーの参加希望者はゼロ。興味を持って自分から尋ねてきた相手をむげには出来ない筈だ。
    「ついでに言うなら異性の方が食いつきも良いと思ってね。今回は助っ人も呼んである」
    「……よろしくお願いします」
     言いつつはるひが示した先で軽く頭を下げたのは、倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)。
    「さて、話を戻そう。現場になる公園だが義人との接触から一時間ほどは誰も足を運ばないこの公園のツリーが本領を発揮するのは、電飾がつくようになる日没後なのでね」
     よって、明るく人気のない一時間のうちに全てを終わらせる必要があるということでもある。闇もちぃした一般人を救うには戦ってKOする必要があり、戦闘は避けられない。
    「接触時、人の意識に呼びかけ説得することで弱体化させることも可能だ。時間が限られているのだから狙って見るのも一つの手だな」
     闇もちぃの原因がパーティー計画の失敗であることを鑑みると、やはり効果的なのは、そのパーティーに行くことを約束するというものだが、これは諸刃の剣でもある。
    「君達が参加してくれると言えば、雪モッチアにとって君達の前で足を止める必要もまた消失する。参加人数が増えれば増える程効果はあるだろうが、故に全員や半数以上があっさり参加を確約するのは危険だ」
     不参加の灼滅者が小人数残ったとしても、この程度ならいいもちぃと立ち去ってしまう可能性があるからだ。
    「幾人かは迷ったり、『気になることがあるから』といった理由で質問して引き留めるなどと言った足止め方法で解決出来るものだがね」
     もっとも、逃げる前にKO出来る自身があるなら、足止めの必要もない。ある程度消耗させてたたみかけられると思ったところで参加を希望していなかった面々が参加希望に回り、更に弱体化させて一気にKOしてしまうと言う方法もある。
    「尚、雪モッチアは戦闘になればご当地ヒーローと妖の槍のサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     ただし、妖の槍のサイキックもどきについてはつららを撃ち出す技のみ。
    「そして、この少年だがラッキースケベ体質らしい。女性が接近戦に望むのは避けた方がいいかもしれないと一応忠告しておこう」
     最後にしれっととんでもないことを付け加えると、義人のことをよろしく頼むとはるひは君達へ頭を下げたのだった。
     


    参加者
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    ミラ・グリンネル(お餅大好き・d24113)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)
    氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152)
    貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)

    ■リプレイ

    ●さだめ
    「モッチア、か」
     オレンジ色に染まる景色の中で、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は呟きを吐息と共に吐き出した。
    (「そういえば学園にきて初めての依頼はモッチアだったなぁ」)
     記憶を掘り起こし、視線を横に流せば、そこにいるのは桜餅のご当地ヒーロー、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)。
    「まったく、今年は餅に始まり餅に終わるのかなぁ……」
     自分の運命にため息を漏らした仲間が元桜モッチアであったのは、偶然なのか。
    「ヘイ、オウカ! どうしたデスか?」
     そんな元モッチア仲間の顔を覗き込んだのは、金髪と1mを10cmは越えたもっちあ(名詞)を揺らすミラ・グリンネル(お餅大好き・d24113)。
    「そう言えば、もうすぐお正月……そして、お正月が終わると鏡開きですねぇ……」
     ふふっと笑む天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)は目だけが笑って居らず、視線の注がれた先は自分にはない豊満な何か。
    「天城さん、どうかされましたか?」
     更に姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)がたゆんと胸のましゅまろというか雪餅(比喩表現)を弾ませて問いかければ。
    「……何か最近こうシリアスな依頼に出会えてないんですが、私に何が起こっているんでしょう……?」
     などとぼんやり空を見上げていた時と雰囲気が一変し、罪もない公園の地面がえぐれる勢いで踏みつけられてもきっと仕方ない。
    「あかん!」
     認めで見て解る程不穏な空気を感じた迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)は慌てて巨と虚の間に割り込み。
    「うみゃあああっ」
     事件は起きたのだった、もっちあもっちあ。
    「大丈夫、いかなる攻撃も耐え抜くこと。それがディフェンダーの務めや……ぐふっ……」
     頬に手形をつけて倒れ込む者一人。
    「うう、何で接触前からこんな目に」
     滂沱の涙を流す者一人。
    「ラッキースケベ体質ですか。……そんなESPを持った防具が発見されたら嫌ですね」
     一連の流れを見ていた氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152)はこれから起こりうる何かを暗示するような光景から目を逸らすと、ポツリと零す。
    「どちらかというと炎次郎君は犠牲者ですよ? と言うかそもそもそんなESPが存在するかとかツッコミどころは補完も有りますけどね」
     実際、悲劇を起こしたのは桜花のToLOVEる体質なのだ。ただ、これから遭遇する少年の体質に巻き込まれれば、自分がもっちあ(動詞)されても不思議はない。
    「行きましょうか、炎次郎君の犠牲を無駄にしないためにも」
    「ちょっ」
     貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)の声に力尽きたことにされた犠牲者が声を上げ。
    「なんで餅じゃ駄目もっちぃぃぃ!」
     ツリーの下で絶叫と共に一人の少年が異形へと変貌する。
    「始まりましたね。倉槌さんは始め興味のない振りをして、最後に賛同する感じでお願いします」
    「……わかりました」
     接触対象の闇もちぃを確認したセカイの指示に倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は頷きを返し。
    「ねぇ、餅パーティー参加したいんだけど」
    「え?」
     かけられた声に雪餅頭の怪人が動きを止める。
    「餅パーティって何でショウ? ミラ、とっても気になりマス!」
    「気に……なるもちぃ? それって――」
     驚きに立ちつくす雪モッチアは、桜花の後ろから身を乗り出したミラの声を聞き、ようやく興味を持って貰えたことを理解した。

    ●駆け引き
    「クリスマスやさかい、手作りの和菓子を配ろうと思っててな。でも、作り過ぎてしもたから持ってくわ。冬にぴったりな雪餅や。俺の自信作なんやで!」
    「な」
     練りきりタイプの雪餅を見せる炎次郎に元少年は再び驚きの声を上げた。おそらく、この時点でペースは完全に灼滅者達が握っていたのだと思われる。
    「ねぇねぇ、どんなことやるの……っていうか、どんな餅が出るの?!」
    「あ、えっと……雪餅もちぃ」
    「雪餅? 食べてみたいなっ」
    「色んなお餅知るのがマイブームなのデス。雪餅興味ありマス! ミラも参加して良いデスカ?」
     雪モッチアから返ってきた答えに桜花が目を輝かせれば、ミラもすかさずこれに乗り。
    「も、もちろん、もちぃ」 
    「雪餅でのパーティですか……ケーキに勝るという雪餅の魅力はどの様な所なのでしょう?」
     元モッチア二人の食いつきっぷりに若干呑まれた感のある元少年へ今度はセカイが質問を投げる。
    「あ。そ、それは見た目も綺麗だし。味の方ももちろん魅力的もちぃよ。まず」
    「えーっと……クリスマスにお餅ってあまりにも斬新すぎてちょっと……」
     我に返って説明を始めたなら、今度は紗夕が難色を示して見せ。
    「ざ、斬新すぎる? そんなこと」
    「流石にこれでは行く気にはなれないわ」
     狼狽したところに葉月が不参加を表明。
    「っ、拙いもちぃ! このままじゃ、他の人まで心変わりしてまた参加者ゼロに、そんなことはっ」
     この時、元少年は完全に灼滅者達の術中に填っていた。
    「パーティーに誰も来てくれへんの? でも、たとえ最初は理解されんでも、俺らみたいに楽しそうって思ってくれる人が来るまで諦めたらあかん。餅みたいに粘り強くいかな! なあ、皆は行くよな?」
    「もちろん。けど、来て欲しいなら餅パーティーのこと、もっとみんなに説明しないと」
    「お餅が大好きな人に悪い人はいません! 頑張れば、きっと気持ちは伝わりマス!」
     見計らったかのようなタイミングで察して見せた炎次郎が仲間達に呼びかければ、既に参加を表明した元モッチア二人が応じて雪モッチアに訴えかけ。
    「自信を持って下さい、クリスマスに餅パーティーという、発想は悪くないですし」
     すかさず紗子はフォローし。
    「そもそも雪餅ってどういうものなんだ? 中身とか」
     ここぞとばかりに碧が質問を投げた。
    「無理やり押し付けるんじゃなくて、興味持ってもらうためにも丁寧に説明しなきゃ。ね、聞かせて?」
    「っ、そうもちぃな。百聞は一見にしかず。まず、食べて見るといいもちぃ」
     質問をしてくると言うことは、興味を持って貰えたともとれる。当然、元少年は灼滅者達の言葉を無視など出来ずどこからか雪餅を取り出す。
    「これが雪餅ですか」
    「……美味しそうではありますね」
    「どうもちぃ? 綺麗もちぃ? さ、遠慮せず食べてみるといいもちぃ」
     まんざらでもない様子の灼滅者達に雪モッチアは威圧感を弱めつつ相好を崩した。故に灼滅者達を置いて何処かに去るようなこともなく、説得はうまくいっているように見えた、だが。
    「さ、うわった」
     雪モッチアの体質は忘れた頃にこそ牙を剥いたのだ。

    ●いつものアレ
    「……さぁ、お仕置きの……救済のお時間です」
     訪れた惨事に場の空気が氷り、葉月は封印解除の言葉を間違えた。
    「ちょっ、やあっ、何をなさって」
    「あ、えっと、ち、違うもちぃ! わわっ」
     バランスを崩しかけて咄嗟に掴んだのがセカイの柔らかな何かだったことに気づいた元少年は慌ててそれを手放したことで再びバランスを崩し。
    「みゃああっ」
    「うぐっ、ご、ゴメン……これには訳、いや、バランスを崩して……わ、悪気があった訳じゃないもちよ」
    「オウカ、大丈夫ですか?」
    「大丈夫だけど助け、って何処触ってるの?!」
     一言で言うなら、カオスだろう。折り重なった元桜と現雪モッチアの元に駆け寄ったミラが助けると見せかけて桜も乳をちゃっかりもっちあ(動詞)していたのだから。
    「ノープロブレム。オウカは元モッチアの中でも一番の補正持ちデース。四天王で言うところの最初にモッチアされるポジションネ」
    「ミラ?!」
    「けど私は違いマース。ミラに対してラッキースケベ、起こせるものなら起こしてみるデス!」
     思わず叫ぶ桜花をスルーしてフラグをおっ立てながらファイティングポーズをとったミラの胸が大きく弾み。
    「や、やる気もちぃか? はっ、ち、力が出ないこれはどういう」
     何とか身を起こして身構えようとした雪モッチアはパーティー参加者を得、興味を持って貰えたことで弱体化していたことに今更ながら気づいて愕然とする。
    「頃合いではあるか……咲け≪黒百合≫」
     一応、流れ通りではあるし、元少年を救うには戦いも不可避。碧もスレイヤーカードの封印を解くと妖刀《黒百合》を構えた。
    「月代」
     ビハインドの名を呼び、元少年へと放つは鋭い一閃が生じさせる月の如き衝撃。
    「もべらばっ」
     呆然としていた雪モッチアはこれをもろに喰らい。
    「……うふふ、あはは、視界の隅で揺れてる揺れてる……もっちあとましゅまろが」
     一連の流れを見ていた紗夕は見せつけるように揺れたり掴まれたり揉まれたりしたモノを見て笑った。怖い笑いだった。
    「天城さん、どうかされましたか?」
    「お正月近いし、焼くと美味しそうですねぇ……」
     その笑みの中、笑っていない紗夕の目が首を傾げたセカイの姿を捕らえた瞬間、ギラリと輝いた。まぁ、煽るかのようにたゆんと弾むましゅまろが視界に入れば無理はないのだろう。
    「おっと、心の声が。ダメダメ、この怒りは八つ当たり気味に雪モッチアにぶつけましょう」
     そこから独り言を呟いて自己完結に持って行くのだが、一つ問題があった。
    「べっ」
    「え?」
     そう、戦闘は既に始まっているのだ。
    「もっちゃああっ」
     途中まで聞こえた警告に振り返った紗夕が見たのは、仲間の攻撃でこちらに向かって飛んでくる雪餅頭のご当地怪人。
    「きゃあっ」
    「うにゃああっ」
     後衛であったからこそ、そはまず間にいた二人を巻き込み。
    「そ、きゃあああっ」
     そのまま紗夕をも巻き込んだ。
    「うっ」
    「痛たた」
     折り重なる少女達と上がる呻き声。
    「サユ、オウカ、セカイ、大丈夫デスか?」
    「これが、ラッキースケベ体質ですか。……恐ろしいモノですね」
     除霊結界で動きを鈍らせた所から放った黒き波動で元少年を吹っ飛ばし、フラグを変則的な形で回収した犯人が慌てて駆け寄る中、紗子は柔らかな膨らみでご当地怪人の顔をサンドし紅白鏡餅を作り出した二人と真っ平らな台座ポジションになってしまった見た目はビキニアーマー着用実質全裸の紗夕を見てポツリと漏らす。
    「オゥ、これはなんてパラダイスですカ。じゃなかった、いけまセーン、早く助けなくては!」
    「だったらこっちは任せといてくれやす。攻撃以外でこないなセクハラされるとは思ってへんかったけど、これ以上はディフェンダーとして許さへん」
     もう一度言うが、一応戦闘中である。
    「っ、流石にこれでは戦いにならん! 俺も手伝おう!」
     だが、絡み合った状態ではどうにもならず、救助者へ炎次郎に続いて碧も加わり。
    「うぶ、お手数かけ」
    「ど、何処に手を」
    「おおっと、すまんもちぃ」
     恐縮したご当地怪人が謝罪する様はまさにカオス。
    「オウカのお餅は弾力が凄いデスネ!」
    「ちょっと、どさくさに紛れて何を」
    「……私、そろそろ怒っても良いですよね。上で何やってるのかって」
     少し視線をずらせばセクハラ犯行現場の下で、紗夕は怒りにプルプル震えており。
    「さて、戦闘続行だな?」
    「え、ちょっと待」
     ましゅまろお餅サンドから解放された雪モッチアを待っていたのは、断罪の場。
    「では参りましょうか、菫さん」
     白いドレスに黒い着物を羽織った葉月はビハインドの名を呼ぶと頼んだ、自分に合わせて攻撃して下さいと。
    「もぢゃ、びゃべっ」
     引き起こされた雷に打ち据えられた元少年に霊衝波が直撃し、悲鳴が上がる。
    「うぐ、これぐらもぢゃあっ」
     それでもなんとか起きあがって身構えようとした雪モッチアを突っ込んできたライドキャリバーのサクラサイクロンが跳ね飛ばし。
    「これ以上はやらしまへんえ」
    「もぢゅべっ、がっ、うう、酷い目に……ん?」
     炎次郎に縛霊手で殴り飛ばされて転がった先が女性陣の足下だったのは、体質が下から服の中を覗き込ませようとしたのかもしれない、だが。
    「蹴りますね?」
     側にあった紗子の足はローラーの摩擦熱で炎に包まれており、元少年の視界に飛び込んできたのは黒色のウィザードローブの中ではなく炎の赤。
    「東屋さん」
     一方的に雪モッチアがボコボコにされる流れの中、セカイは二振りの刀を構え呼びかける。
    「うん、セカイ行こっ」
    「はい」
     もう充分ボロボロな所へ追い撃つように被害者二名が逆襲に出て。
    「も、もっっちあああっ」
    「貴方の情熱はわかりました。雪餅だけにホワイトもっちあクリスマス、わたくしも参加させてくださいませ」
    「え」
     一矢報いんと気力で立ち上がった元少年の動きが、突然の参加表明にとまる。
    「……だから、還ってきてください!」
    「べっ」
     故に振り下ろされた重い斬撃がクリーンヒットしたのは、必然。
    「い、今何――」
     斬りつけられた事よりもまず、セカイの参加表明を気にした直後。
    「色々、考えたのですが、私も餅パーティーに参加してもいいですか?」
    「お餅パーティ、かなり気になってきました。行きたいです」
    「えっ、ちょ、本当もちぃか?」
     畳みかけるように参加表明する紗子と紗夕の言葉に雪モッチアは棒立ちになり。
    「くっ……雪餅への興味が尽きない……! 俺も参加しよう!」
     隙だらけになった所へダメを押すかのような碧の告白。
    「はは、ははは……わいのわいの苦労は何だったもちぃ? いいや、これはこれで……へもべっ」
     ツリーを見上げ、立ちつくす元少年は死角から衣服ごと斬り裂かれ。
    「べっ、がっ、ばっ」
     傾ぐその身に集中攻撃が容赦なく降り注ぐ。
    「うべらっ、ば……ひ、酷……い、もちぃ」
     最後に繰り出された誰かの蹴りに吹っ飛ばされた雪モッチアは地面を何度か転がって止まるとそのまま力尽き、人の姿に戻り始めたのだった。

    ●補正は残る
    「ひゃん!? そ、その体質は闇堕ちのせいではなく生来のものだったのですね」
     再び事件が起きたのは、少年が意識を取り戻した直後のことだった。
    「……元に戻ってもなの?!」
    「えっ、あ、ごっ、ごめん」
     無意識に伸ばした手がセカイの雪餅(比喩表現)を掴んでいた事を認識した少年は慌てて手を引くと後退りながら上半身を起こし。
    「っと、ごめ」
     背中に何かぶつかった事を知覚して謝ろうとするが遅かった。
    「みゃああっ」
    「え、べっ」
     頭上に降ってきた何か柔らかいモノに押し潰される格好で再び地面に寝ころぶ羽目になったのだ。ちなみに、押し潰した何かには桜餅柄のプリントがされていたとか居ないとか。
    「もう終わったと思ったのに」
    「ごめん、本当にゴメンっ」
     少年の背に膝カックンされ頭に座る羽目になった桜花がるーと滂沱の涙を流しつつ少年に土下座される事になったのは、仕方ないことだと思われる。
    「ともあれ、これで一件落着か」
    「そうですね」
     ポツリと呟く碧に応じた緋那が視線をやれば、何やら警戒しつつも少年へ近づく紗子の姿があり。
    「元に戻れてよかったですね」
    「あ、ああ。君達のお陰さ。ありがとう」
    「では、次はパーティーですね?」
     一連のドタバタで作ったらしい擦り傷に絆創膏を貼られながら少年が微笑めば、今度は葉月が口を開き。
    「え」
    「約束したからな。参加する、と」
     あっけにとられた少年に聞こえるよう呟いたのは、碧。
    「あうっ、さ、サユ……そんなに強くもっちあしないでもっと優しくして欲しいデス……」
    「本当にお餅パーティするなら行ってみたいですね♪」
     溜まりにたまった何かを1m10cm前後の鏡餅的なナニカにぶつけて揉みしだきつつ、抗議の声をスルーながら紗夕は微笑み。
    「ほな、そのパーティーででも良かったんやけど、作りすぎた和菓子がここにあってな、良かったら食べてや」
     炎次郎が用意していた雪餅を振る舞う。
    「ありがとうございます」
    「パーティーで食べるお餅も良さそうだけど、こうしてツリーを眺めて食べるお餅も良いよね。あ、そうそう。あたし達、武蔵坂学園似通ってて、それとは別に――」
     パーティーに赴く前の小さなブレイクタイム。雪餅を食べつつ桜花は少年説明を始め。
    「ねぇ、良かったら一緒に」
     お餅を広めないかと誘う。それは、一人の少年の新たな門出。
    「わい」
     手を差し出され、これに応じた少年はしっかりと掴んだ、よりによってこのタイミングで躓いて手の中に飛びこんできた左の桜餅を。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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