魔法少女毛呂山ゆずりん

    作者:小茄

     埼玉県入間郡毛呂山(もろやま)は、約3万5千人の住む町。果樹園が多く、特にゆずの産地として知られている。
     そんな静かな町の一角に、老夫婦が営む小さな民宿があった。
     売りは真心の籠もったおもてなしと手料理。
     そしてお爺さんが長年の歳月を掛けて作り上げた、露天風呂。
     ――かぽーん。
    「ちょっと熱いけど……良いお湯」
    「極楽極楽」
     紅葉や絶景と言った要素は無くとも、冬晴れの空の下で入る温泉は良い物。
     二十代だろう、宿泊客の若いカップルが貸切状態で温泉を楽しんでいる。
    「そこのお若いお二人さん、この町に来たならゆずを忘れちゃいけません。ゆず湯に入って下さい」
     と、湯気の中から唐突に姿を現したのは、中学生くらいだろうか、小柄な女の子。
     なにやらヒラヒラした衣装を纏って、手にはゆず山盛りの籠を抱えている。
    「あ……あー、えっと」
     孫娘だろうか、祖父母のお手伝いなんて偉いなぁ。とは思いつつも、せっかく恋人と二人で露天風呂を満喫しているのだし、余り邪魔して欲しくも無い訳で。
    「ごめんなさい、私柑橘系の匂いがちょっとダメで……」
     しかも、彼女は柑橘系が苦手だったのだ。
    「は? 柑橘系がダメ?」
    「うん、だからえっと……悪いけど」
    「……アナタは、ゆずよりも彼女さんが大事なんですか!?」
    「え?」
    「ゆずと彼女どっちが大事なの?」
    「いやちょっと意味が」
    「はっきりしろや! マジカルユズパンチ!」
    「ふごっ?!」
     ゆずを握り込んだ拳で彼の顔面を殴りつける――かと思いきや、口にゆずを押し込むテクニカルな魔法(物理攻撃)だ。
    「ちょっと! 幾らなんでもやり過……」
    「マジカルスプラッシュシャワー!」
    「ぎゃあっ!」
     今度こそ、抗議しようとした彼女の顔面を殴りつける――かと思いきや、眼前でゆずを握り込み、果汁を思い切り浴びせる魔法(物理攻撃)だった。
    「悪は滅びました。でも私の……マジカルゆずりんの戦いはまだまだこれからです!」
     物言わぬ姿(死んではいない)で浮かぶ二人を弔うかの様に、湯船を大量のゆずで満たした少女は空を見上げ、戦いへの決意を新たにするのだった。
     
    「中学生の柚木・柚香(ゆずき・ゆか)って子が、闇堕ちしてダークネスになりかけていますの」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の説明によれば、埼玉県毛呂山町に暮らす、ごく普通の少女が、闇に魅入られご当地怪人になろうとしているのだと言う。
    「今はまだ、完全にダークネスになってしまった訳ではなく、人間としての意識も残っている様ですわ。手遅れになる前に、闇堕ちから救う……それが出来ない様であれば、灼滅して下さいまし」
     
    「彼女はその名の通りと言うか、町の特産であるゆず愛に溢れるご当地怪人になっていますわ。町の外から訪れた観光客に対し、熱烈なまでにゆずを勧めるのだけれど……」
     元々余り利口なタイプではないせいか、勧め方も色々間違っているらしい。
     その上、少しでも難色を示すと、ゆずの敵=悪と看做して襲いかかって来る様だ。
    「折しもゆず湯の時期ですし、未来予測の様に、町の外から来た人間が複数人で露天風呂に浸かっていれば、嫌でも向こうから接触してくるはず」
     多少足場が滑り易いと言った事も無きにしもあらずだが、比較的広く戦闘も可能だろうと絵梨佳は言う。
     
    「貴方達の力量を考えれば、そこまで危険な任務でも無いはずですわ。湯冷めしない様に、しっかり温まってくると良いんじゃないかしら」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    磯貝・あさり(海の守り手・d20026)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)
    坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)

    ■リプレイ


     埼玉県南西部に位置する毛呂山(もろやま)町は、豊かな自然を擁しつつ、都心部からのアクセスにも優れた人口約3万5000人の町。
     町の木にも指定されているユズは、日本において最も古い産地と言われている。
     そんな毛呂山町の一角、元々民家だった所をリノベーションして、老夫婦が民宿を営んでいた。
     ここはその露天風呂である。
    「いい湯じゃのぅ」
     ちゃぷん、と湯船に浸かって、その長い手足を伸ばすのはアリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)。
     英国からやって来た彼女だが、元々日本の(オタク)文化に興味があっただけあって、露天風呂に浸かる姿も堂に入っている。
    「極楽です。ほんと眠くなっちゃいますね」
     こちらもトレードマークのポニーテールが湯船に着かないように纏めつつ、温泉を満喫する四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)。
     ゴーグルも持参しているが、温泉で泳ごうとしている訳ではないらしい。
     年末年始は予約で埋まっているらしいが、この日は宿泊客も無く、今のところ入浴客も灼滅者達だけと言った貸切状態である。
    「柚子湯って冬の風物詩ですよね。健康にも良い効能が沢山有るらしいですし、楽しみです」
     こちらもバスタオルを巻きつつ(※特別の許可を得ています)、白い肌を桜色に染めている磯貝・あさり(海の守り手・d20026)。
     確かに現時点で、湯船にユズは入れられていない。
    「ユズの匂いは何だかほっとしますよね……匂いは大好きなんですが、敏感肌なので柚子湯はちょっと苦手です」
     一方、温泉に浸かる姿もなんだか和風情緒に溢れる、白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)。
     人形の様なと言う表現がこれほど似合う少女も珍しい。
    「それ、自前です?」
    「ん? 雪緒? 何じっと見てるんだよ? ……う、うん、オレの自前だぜ?」
     と、そんな雪緒が凝視しているのは、白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)の胸部。
     雪緒が市松人形ならば、こちらは西洋のドールの様に、小柄で愛らしい少女だが、その胸に関しては体格に比してかなり豊かと言って良い。
    「ってわひゃぁっ!? いきなり胸掴むなぁっ!? 落ちつけ雪緒!」
     おもむろに、わしっと水着の上から掴まれるその胸部。
    「……見ての通り腹と区別つきませんが何か!?」
    「日和姉ちゃんの百物語に呑まれてないかー!?」
     と、二人のじゃれ合いに因果関係があるのかどうかは不明だが、一般人を遠ざけるべく百物語「おっぱい人魚」を披露しているのが――
    「……と言う恐ろしい都市伝説だったのだ」
     これまた、非常に胸部が豊かな天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)。
     そんなスタイルを持ちながら、姫騎士の様な凛々しい精神の持ち主である。
     姫騎士とか言う響きが既にフラグっぽいと感じてしまうのは、心が汚れているからに違いない。
    「はよ出てこんかなー、気持ち良くて寝てしまいそうや」
     ふわぁとあくびをしつつ言うのは、月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)。その名もズバリな彼女である。
     決して、胸部の豊かな女性が多いから、その胸囲の格差社会にふて寝を決め込もうと言う訳ではない。あくまでも温泉が心地良いからである。
    (「なにこの男女比おそろしく肩身が狭い!」)
     と、忘れてはならないのが今回唯一の男子である、坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)。
     圧倒的な男女比を前に、とてもリラックス出来る様な状況では無い様子。寮母さんなどと呼ばれてはいるが、そうは言っても年頃の男性である。
    「寮母さんもこっち混ざります?」
    「ああうん、雪緒ちゃん歌音ちゃん、寮母さんのことはいいからのぼせないようにね」
     と、彼女らの誘いにも乗る事なく、隅っこで背景と同化しながらウィングキャットの信夫(しのぶ)さんを洗う。
     そもそも混ざるってどう混ざるんだろう。
     まぁ、それはそれとして、灼滅者達は暮れも押し迫ったこの時期、単に羽を伸ばす為に露天風呂に浸かっている訳ではない。
     ご当地愛の強さにつけ込まれ、闇へ堕ちた少女を救わんが為である。
    「これはこれは、皆さんお揃いで毛呂山にお越し下さって、嬉しい限りですよ。ご存じとは思いますが、この町の名産はユズでして、是非とも柚子湯に入って下さい」
     と、どこからともなく姿を現したのは、ユズ色のヒラヒラコスチュームに身を包んだ、素朴な雰囲気の少女。
     愛想の良い笑顔に闇の気配は見受けにくいが、今回の標的――柚木・柚香(ゆずき・ゆか)に違いあるまい。


    「ユズ……適当に入れてってください。ふわぁ~」
     良きに計らえとばかりに、大きくあくびをしながら言う悠花。
    「柚子湯って、具体的にはどう言う効能があるんですか?」
    「えぇ勿論です。ユズ湯に浸かれば風邪なんて引かないですからね。冷え性や神経痛、腰痛にも良いんですよ」
     柚香は悠花に頷くが早いか、ドボドボと大量のユズを投入しながら太郎の質問に答える。
    「……」
    「んー、柚子の香りが素敵ですね。偶にはこういうお風呂も良いかなって思いますねー」
     前述の通り、肌が弱い雪緒はそっと湯船を出るが、あさりは立ち上るユズの香りを一杯に吸い込みながら、柚子湯を満喫。
    「この寒い時期やとうち、柚子胡椒を好んで調味料に使う事多いんよね。辛さは強いけど、柚の風味がええし、お鍋の味も引き締まるんし」
    「おぉ! お若いのに、柚子胡椒とは渋いですね」
     ゆずの話題フリに、ユズを投入しつつ食いつく柚香。
    「私もお刺身、お茶漬け、うどんそば、ラーメン、色々な物に使いますよ。青唐辛子と柚子の相性が絶妙なんですよねー」
     柚香はうんうんと頷きつつ、機嫌を良くした様子。
    「あなた達とは、どうやら同志になれそうな気がしますよ。さぁ100%ユズのジュースもご賞味下さい。これが中々にハマってしまう味なんですよ。……おや? どうされたんですか、皆さん?」
     グラスになみなみとジュースを注いだところで、ふと灼滅者達の様子が変わった事に気付く。
    「柚木柚香ちゃん、だよね。僕達は君に用があって来たんだ」
    「えっ、なんで私の名前を……私に用ですか? 魔法少女マジカルゆずりんの力を借りたいと言う訳ですか、いやはや全くもってお目が高い!」
     太郎の言葉を早合点して、高笑いの柚香。
     思い込みがかなり強そうだ。
    「魔法少女としての戦い方を教えるかのぅ」
     あちらが魔法少女だと言うなら、こちらにも魔法少女が居る。さばっと湯船から上がり、アリシアは魔法少女服へと身を包む。
    「はっ?! なるほど、そう言う事でしたか」
     と、さすがの柚香も状況を察して身構える。
    「私の力を借りるにしても、まずは共に語らうに足る腕前かどうか、互いに見定める必要がある。それ故の手合わせを望まれると言う事ですね。よろしい、お受けしましょう!」
     いや、察していなかった。
    「ユズの力を借りて、華麗に登場! マジカルゆずりん!」
     それっぽい動きとそれっぽいポーズで、名乗りを上げる……が。
    「んぎゃっ!?」
     ここは露天風呂、足下の敷石は濡れて滑りやすくなっている。派手にスリップして尻餅をつく柚香。
    「……」
     攻撃を仕掛けるには絶好のチャンスではあるが、武士道……もとい騎士道……いや、魔法少女道的に考えてそれはどうなんだろうと思えなくも無い。
     ――ばしぃっ。
    「ぎゃふっ!?」
     なんて事もなく、アリシアの手から放たれた魔法の矢が柚香に直撃する。
     そう、魔法少女の道は辛く険しいのだ。
    「くっ、いえ……やりますね、魔法少女と呼ぶにはいささか年が行きすぎてるし、そんなエロエロな魔法少女が居るかと思って居ましたが、今の攻撃で解りました。私も魔法少女として全力でぶつかりましょう!」
     すっくと立ち上がる柚香。言いたい放題である。
    「ふっ、その覚悟や良し。だが闇に堕ちた魔法少女などに、絶対に負けやしな――」
    「マジカルユズパンチ!」
     柚香の眼前に仁王立ちし、キリッと言い放つ日和だったが、口上の途中で炸裂する柚香の拳。
     そして握り込みによって果汁が吹き出す、二重の極み的な技だ。
    「ひぎぃ! 柚子果汁沁みるのぉ!」
     顔を抑えて悶絶する日和。約束された様式美だ。
    「壁くらいにはならないとね、行くよ信夫さん」
     あられもない格好で悶える日和を庇う様に、舌切鋏を振るって前に出る太郎。
    「それにしても魔法少女と名乗っておきながら、結構な武闘派みたいで……。さぁ、この攻撃を受けてみなさい!」
     妖の槍を螺旋状に繰り出し、これを援護するのはあさり。
    「く、っ……良いですね、そうでなくては面白くない! 拳を交えてこそ、真に解りあえると言うものです!」
    「初日の出に柚子湯を一緒に提供するということで、手を打ちませんか?」
    「否! 柚子湯は冬の間……いえ、一年を通して提供し続けるべきなのです!」
     ムダに熱い彼女は、悠花の提案にも頷く事なく拳を繰り出す。
    「まぁ暴走しかけやし、言葉だけで説得出来るとは思ってへん。ちと我慢したってなっ、ゆずりん……う、自分で言うとなんか奇妙な感覚や」
     棒術で柚香をいなす悠花と連携を取る様に、ゆずは真っ向から近接戦闘を仕掛ける。
    「くっ?! この連携……っ!」
     繰り出される拳を柚香も必死で防ぐが、網状に形成された霊力が彼女を縛めるようにして、その動きを制限してゆく。
     ダークネスの力を得ているとは言え、複数人の強敵を相手に戦った経験など有るはずも無い柚香。しかし地元愛と闇の力によって徹底抗戦の構えだ。
    「ユズを好きな事はお前の拳からひしひしと感じたぜ。……だが! お前のユズへの愛情は歪んでしまっているぜ!」
    「な、なんですってー!? 私のユズ愛に一点の曇りも有りません! ユズバリアーっ!」
     分裂したリングスラッシャーを乱舞させつつ、更なる追打ちを掛ける歌音。柚香は無数のユズをジャグリングしてこれを防ぐ。
    「どうだ! この方が食べやすくていいだろ」
    「くうっ!」
     次から次に、輪切りにされてゆくユズ。
    「って、あれ?」
    「……」
     間の悪いことに、輪切りにしたユズの果汁が雪緒達数名に降り注いでしまった。
    「あなたにわかるのですか!? ユズの匂いは大好きなんですよ! でも柚子湯は体質的に無理なんです! 入りたいのに! この苦しみがわかりますか!? それでもこれ見よがしに柚子湯をすすめるのですかうわああん!!」
     雪緒は果汁がかかって紅くなった肌をさすりつつ、ギャン泣き状態。
    「ゴーグルがなければ、私の眼も危ない所でした」
    「僕も目を見開かなくて正解だったねぇ……?」
     一方、悠花は持参したゴーグルのお陰で、太郎は細目が功を奏して被害を免れた様子。
    「んおぉぉっ! 沁みちゃうのぉぉ」
     そして相変わらず悶えている日和。
    「ご、ごごごごめんよ雪緒ー!? ね、姉ちゃんもあやまって!」
    「えっ!?」
     と、相手にまで謝罪を要求してゆく歌音。いくら何でも戦闘中の相手にまで謝罪を要求するのは無理があると思うが……
    「ごめんなさい……」
     謝った。
    「柚香さん、あなたのユズ愛はもっと正しい形で発揮されるべきです」
    「否! こ、これこそが……唯一にして最善の形なんです!」
     影の刃を放ちつつ、最後の説得を試みるあさり。柚香は手刀でこれを防ぎつつ、しかしジリジリと押されながら応える。
    「ならば見せてみよ。さあ、やれ! 遠慮等いらぬぞ!」
     日和のマゾっぷりに限界は無いらしく、再び立ち上がって接吻マグロの七不思議を紡ぐ。
     ただ、彼女の圧倒的な迫力と気迫に、柚香が気圧されているのもまた事実だ。
    「ユズが幾らええもんでも、勧め方が悪かったら台無しや。ゆずの名を持つよしみで、止めさせてもらうで」
     ――タッ。
     ゆずは一際大きな置き岩を駆け上り、そのまま跳躍。流星の如き輝きと共に、柚香へ跳び蹴りを見舞う。
    「なっ?! ……ぐうぅっ!」
     とっさにガードをするものの、強烈な衝撃を受けて吹き飛ぶ柚香。
    「さぁ、そろそろトドメと参りましょう」
     体勢を立て直す暇さえ与えず、悠花は棒に燃えさかる炎を纏わせ一気に間合いを詰める。
    「ま、まだです……ユズで日本を、世界を埋め尽くすその日まで……私は負ける訳には!」
    「魔法少女たるもの、戦闘でも可憐さを忘れずにじゃ」
    「――がはっ!!」
     アリシアのマジカルロッドforceに篭められた魔力が、柚香の身体へ激流の如く流れ込み、悠花の棒がその背を強かに打ち据える。
     気力を振り絞り善戦した柚香だったが、その攻撃に耐えるだけの体力はもう残されていなかった。
    「み、見事……です」
    「おっと」
     前のめりに倒れる柚香を太郎が受け止め、どうやら戦いは終わった様だ。


    「敏感肌の方は、ユズを予め熱湯で何十分か熱したものを、布の袋に入れてからお風呂に浸けると良いですよ」
    「そうなんですか。いつか試してみましょうか」
     ふむふむと柚香の説明に頷く雪緒。
    「近年の研究では通常のお風呂に比べて、柚子湯に入った後はノルアドレナリンが4倍も分泌されていたとか。血行促進だけでなく、脳の働きも活性化してくれるんです」
    「ユズってそういう効果もあるんだなー? 物知りだぜ姉ちゃん!」
     意識を取り戻した柚香を交え、改めて身体を温め直す一行。
     とは言え、今彼女達が浸かっている湯船にユズの果汁は殆ど残っては居ない。
     温泉を無断で柚子湯にしてしまうのは、やはり不味いだろうと言う事で、柚香のユズは残らず撤去したのだ。
     湯量も豊富な源泉掛け流しの温泉は、しばらくするとユズの香りだけを残して、概ね元の泉質に戻った様子。
    「戦闘の分の疲れも、しっかり取らんとのぅ」
    「多少傷に沁みるくらいでも良かったのだが」
     戦いも後始末も終えて、改めてゆったりと湯に浸かり直すアリシアと、小声で呟く日和。
     彼女や日和の場合は特に、湯船の中に居た方が何かと楽そうではある。
    「柚子湯は改めて、元日にでも」
    「先ほどのお話ですね。初日の出とユズ、完璧な組み合わせですよ!」
     先刻退けた悠花の案も、柚香と共に改めて実現へ向けて相談を始める。
    「ところで、これからもゆずりんを続けるんやったら、武蔵坂に来ん?」
    「えっ!?」
    「うん、柚香ちゃんみたいな境遇の子も一杯居るよ」
    「その気があるなら歓迎するぜ! 取りあえず来て、見てみたらどうかな」
     ゆずに続き、太郎(相変わらず隅っこに居る)や歌音も口々に誘う。
    「そうですか……確かに、この毛呂山とユズを広める為には、私も起つべき時なのかも知れませんね」
     と、相変わらずノリの良い柚香はすぐさまその気になり始めた様子。
    「ふぅ、これで一先ず、解決……でしょうか?」
     あさりも笑顔で歓迎の意を示しつつ、今しばらくは、温泉を満喫する。

     こうして、闇に堕ちた少女を無事、救い出した灼滅者達。
     今しばらく温泉を満喫した後、彼女を伴って武蔵坂へと凱旋するのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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