ひとりぼっちの爆弾魔

    作者:宮橋輝


     彼ら四人は、高校時代からの付き合いだった。
     三年間、サッカー部で苦楽をともにしてきた仲。決して強豪とは言えなかったが、気の合う仲間達と過ごす日々は、それだけで宝物だった。
     そして今、四人は同じ大学に通っている。学力も揃って似たり寄ったりだったのは、類は友を呼ぶという証かもしれない。
    「――あれ、もうこんな時間かよ?」
    「うわ、やばっ。明日、朝からバイトだってのに」
    「四人揃ってっと、ついつい時間忘れちまうよなぁ」
    「いい加減誰か彼女作れよー」
    「ばっか、悲しくなること言うなって」
    「それより、今晩泊めてくんない? バイト先、お前んちのが近いし」
    「あ? またかよ、別にいいけどさ」
    「よーし、じゃあこいつの家で飲み直そうぜ」
    「まだ飲むのかよお前」
    「やっと全員ハタチ越えたんだし、たまにはいいだろー」
     笑い声を響かせながら、四人は青信号の交差点へと差し掛かる。
     中ほどまで歩いた時、背後からくぐもった声が聞こえてきた。
    「……楽しそうに、しやがって」
     四人が振り返ると、そこにはガスマスクで顔を隠した迷彩服姿の男。
    「な、何だこいつ」
    「おい、ケーサツ呼んだ方がいいんじゃね?」
     異様な雰囲気に慌てた四人のうちの一人が携帯電話を手に取ると同時に、ガスマスクの男が懐から何かを取り出す。
    「え、まさか、それ、手榴だ――」
     それの正体に気付いた一人が青ざめた瞬間、男は手榴弾のピンを引き抜いた。
    「みんな……爆発してしまえ……!」
     

    「全員揃ったか。……時が、来たようだな!」
     待ち時間にクロスワードパズルを解いていたらしい神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、教室に灼滅者が集まったのを見て顔を上げた。
     半分ほど埋まったクロスワードパズルを机の隅に寄せ、事件の説明を始める。
    「お前達に向かってもらう現場は、神奈川県にある交差点だ。ここに、都市伝説が発生した」
     今のところ犠牲者は出ていないが、未来予測によると、近いうちに大学生のグループがここで殺されてしまう。その前に、都市伝説を倒さなければならない。
    「都市伝説の名前は『ロンリー・ボマー』、ガスマスクで顔を隠した迷彩服姿の男だ」
     ――彼にまつわる、こんな噂話がある。
     その昔、交差点の近くには一人の男が住んでいた。あまりに人付き合いが下手で、恋人はおろか友達の一人もいなかった彼は、毎日毎晩、窓から交差点を眺めては、楽しそうに言葉を交わす人々を羨ましく思っていたという。
     やがて、孤独に耐えかねた男は精神を病み、嫉妬に突き動かされるままに暴走を始める。
     ガスマスクと迷彩服に身を固めた彼は、どこからか手に入れた手榴弾と火炎瓶を手に、連れ立って交差点を歩く人々を爆殺するようになったのだ――。
    「この交差点の周りにそんな男が住んでいた事実はないから、単なる噂に過ぎないがな」
     まあ、市街地で手榴弾投げてくるような男が現実にいたら別の意味で怖い。
    「ロンリー・ボマーは、深夜、交差点の中央で『4人以上』が条件を満たせば現れる」
     その条件とは『親しい人の自慢をする』、あるいは『互いの仲の良さを見せ付ける』こと。
     間柄は、家族、友達、恋人――何でも構わない。どうしても心当たりがなければ、ここにいるメンバー同士で仲良しを装う手もあるだろう。たとえ初対面であっても、教室に集った以上は同じ事件の解決にあたる仲間には違いない。
    「敵は一体とはいえ強力だ。でも、心配いらない。俺の全能計算域が、お前達の生存経路を導き出す」
     ロンリー・ボマーの攻撃手段は三つ。前に立つ一人を燃やす火炎瓶と、複数の敵をまとめて爆発に巻き込む手榴弾、そして殺気を纏った拳の連打だ。
     作戦を考え始める灼滅者たちを眺め、ヤマトは自信に溢れた笑みを浮かべる。
    「お前達なら、必ず解決できると信じている。それじゃ、頼んだぜ」
     彼はそう言って、やりかけのクロスワードパズルを手元に引き寄せた。


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)
    八重葎・あき(ゲームと餃子で生きていける・d01863)
    宗形・初心(スターダストレクイエム・d02135)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    ジョン・フール(仮面の男・d06120)
    百目鬼・はじめ(氷炎界を統べし魔王という設定・d06945)

    ■リプレイ


     ――深夜、神奈川県某所。
     人通りがすっかり途絶えた歩道を、八人の少年少女が歩いていた。
    「あふぅ……、ねむ……」
     眠そうに目をこすりつつ、海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が欠伸をかみ殺す。小学一年生という彼の学年を考えれば、もうとっくに寝床についている時間だろう。
     同学年の八重葎・あき(ゲームと餃子で生きていける・d01863)はまだまだ平気そうだが、それは彼女が普段から夜更かしに慣れているためだ。むしろ、ゲームをするこの時間帯は日中より目が冴えているかもしれない。
     ESPを用いて十八歳の外見に変身した若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)が、それとなく周囲を見回す。小中学生が多いこのメンバーだと人目を惹くのでは、と危惧していたが、どうやらその心配はなさそうだ。
    「孤独で心を病んだ人……という伝説ですか。微妙に現実味がありますね」
     前方に視線を戻し、都市伝説の舞台となった交差点を見て苦笑する。宗形・初心(スターダストレクイエム・d02135)が、めぐみに言葉を返した。
    「都市伝説……現代社会が生み出した闇の部分の具現化ね」
     寂しさのあまり嫉妬に狂い、交差点を連れ立って歩く人々を爆殺するようになったガスマスクの男――『ロンリー・ボマー』。それは、人付き合いが希薄になりつつある世の中ならではの噂話といえるだろうか。
    「交差点にボマーが現れるだなんて、最初に考えた人はスゴイの」
    「ガンシューティングゲームにでてきそうな敵だね……」
     歩とあきのやり取りを聞きながら、楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は何となく収まりが悪い気分になる。
    (「積極的に退治する気が起きねェ都市伝説も居たもンで……」)
     いわゆる『リア充爆発しろ』な心情が理解できなくもないだけに、今回の敵に対してはいささか複雑な気持ちを覚えていた。
     盾衛の思いを知ってか知らずか、ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)が口を開く。
    「孤独の都市伝説、気持ち分かる。哀れ。が、世間迷惑。即、滅す」
     その一言で、盾衛も考えを切り替えた。ロンリー・ボマーがどういう存在であれ、このまま放っておけば一般人の命が危険に晒されることに変わりはない。
    「……ま、ブツクサ言っても仕方あンめ。いっちょ行くかね」


     車の気配がないことを確認して、灼滅者たちは全員で交差点の中央に立つ。
     四人以上が『親しい人の自慢をする』あるいは『互いの関係を見せ付ける』ことができれば、ロンリー・ボマーは出現する筈だ。
    「ピリオド。私側、寄ると良い」
     ガイストが、自らのビハインド『ピリオド』を呼び、そっと腕を引く。仲睦まじく寄り添う二人の傍らで、歩が霊犬の『ぽち』と戯れていた。
    「僕のぽちは世界一可愛いんだ~。お手におかわりにおすわりに、何でも出来るんだよ♪」
     満面の笑みで、柴犬のさらさらした毛並みを撫でる。彼の愛犬自慢に続いて、百目鬼・はじめ(氷炎界を統べし魔王という設定・d06945)が前に進み出た。
    「――さあ、この俺様を褒め称えるがいい!」
     胸を張る彼を見て、初心が表情を綻ばせる。
    「ふふ、本当に百目鬼先輩は楽しい人ですね」
     その横から、あきがひょこりと顔を出した。はじめの隣に立ち、親しさをさりげなくアピール。
    「魔王さまはすごいんだよ。だって氷炎界はおろか、この世界ひいては全次元を裏から牛耳る大魔王なんだから……。すごいなー憧れちゃうなー」
    「カッコいい~っ♪ 皆を守ってくれるなんて、漢だよね~っ!」
     ぽちを撫でつつ、歩が合いの手を入れる。ロンリー・ボマーを誘き寄せるための演技ではあるが、言葉の半分は嘘ではない。皆の賞賛を受けることで囮を務めようとするはじめの男気は、充分称えられるべきものだろう。
     楽しげに笑うめぐみが、少し大げさとも思える仕草で相槌を打つ。適当にツッコミを交えて話を合わせるジョン・フール(仮面の男・d06120)が、顔を覆う仮面越しに周囲を見渡した。敵がいつ出てきても対応できるよう、気を抜かずに警戒にあたる。
     フォークダンスでも踊れそうな輪の中で、盾衛が声を張り上げた。
    「キャーはじめクン格好良いー! ステキー! 抱いて、やっぱ抱かないでー!!」
     半ばヤケクソ気味に叫びつつも、心のどこかで冷静になってしまう自分がいる。
    (「……いや、コレ俺でも爆弾ブン投げ込みたくなるシチュだわ。主に怪しさ全開的なアレで」)
     まあ、それで敵がまんまと誘き出されてくれるなら何の問題もないが。
     皆の絶賛(?)を受けて、はじめが満足げに笑みを浮かべる。
    「ふ……仕方の無い奴らだ。俺様の領域に辿り着くのは貴様らでは不可能だが、困った事があれば俺様を頼るがいい」
     実のところ、内心ではいつ敵が出てくるかとドキドキしっ放しなわけだが、囮を引き受けると言った手前、もはや後には引けない。
     はじめが、周囲の仲間に気付かれないよう深く息を吸い込んだ瞬間――彼の背後で、くぐもった声が響いた。
    「楽しそうに、しやがって……!」
     灼滅者たちが視線を向けると、そこには迷彩服を纏い、ガスマスクを着けた男の姿。
    「出たわね、都市伝説! その存在、ここで逆に爆散させてやるわ」
     初心が声を上げると同時に、全員が戦闘態勢を整える。
    「さ~てと、頑張るぞ~っ♪」
     バトルオーラを全開にした歩が、ぽちの背をぽんと叩いた。
    「わん、わんっ!」
     吠えるぽちの後方で、変身を解いためぐみがスレイヤーカードを頭の前にかざす。
    「祈願、封印解除!」
     解除コードを叫んでカードを掲げた瞬間、彼女の両手にガトリングガンと天星弓が現れた。同じく、装備の封印を解いたあきが、栃木のヒーローとして名乗りを上げる。
    「おもてなしの街から、もったいないの精神と共に参上っ!」
     普段のぼんやりした姿と打って変わった、明るい声と表情。活発な性格と思わせる演技も、ヒーローの務めだ。
    「いつかとちぎに来てくれるかもしれない人のためにも倒さないと……!」
     ご当地愛を胸に、護符揃えを構える。
     かくて、ロンリー・ボマーと灼滅者たちの戦いが始まった!


    「まとめて、爆発してしまえ……!」
     灼滅者たちが各々の隊列についた直後、ロンリー・ボマーが手榴弾を投げる。はじめを中心に爆発が巻き起こり、彼らの全身を強い衝撃が襲った。
    「みなさん、今、回復しますね」
     ナノナノの『らぶりん』を伴っためぐみが、ダメージを受けた仲間に声をかける。浄化をもたらす優しい風が、彼らの傷を瞬く間に癒していった。
     盾衛がすかさず夜霧を展開し、中衛全員の妨害能力を高める。彼らの支援を受けつつ、はじめがロンリー・ボマーに突撃した。
    「ハーハッハッハ! 氷炎界を統べし俺様が貴様如きに止められる筈があるまい!」
     自信たっぷりの台詞とは裏腹に、こめかみにはうっすら冷汗が浮いている。彼は構えた槍に螺旋の捻りを加えると、鋭い穂先でロンリー・ボマーを抉った。
     続いて、ガイストが音もなく距離を詰める。隙間無く顔を覆う包帯の下から、抑揚に乏しい声が響いた。
    「動き、奪う」
     極細の鋼糸を巻き付け、敵の全身を縛る。ほぼ同時、ピリオドがロンリー・ボマーの腕を狙って攻撃を浴びせた。
    「パワー全開、いっくぞ~っ!」
     輝くオーラを全身に纏った歩が、小柄な体格を活かして敵の懐に潜り込む。彼はそのまま両腕で組み付くと、くるりと体を回転させてロンリー・ボマーを投げ飛ばした。
    「手榴弾の投げあいはFPSだけで十分っ!」
     ゲーマーらしい感想を口にしつつ、あきが五芒星の形に展開した護符を一斉に放つ。発動した攻勢防壁が、ロンリー・ボマーの足を封じた。
     サーヴァントのライドキャリバーとともに最前線に立ったジョンが、両手に装備したWOKシールドを構える。できれば前衛たちの守りを固めたかったが、生憎とエンチャント用のサイキックは準備していない。鍛え抜かれた拳を握り、超硬度の一撃を加える。後方から戦場全体を見渡す初心が、己の身にカミの力を降ろした。
    「神薙の力、受けなさい!」
     激しく渦巻く風が、刃となって宙を翔ける。肩口を切りつけられたロンリー・ボマーが、火炎瓶を手にはじめを睨んだ。
    「燃やして、やる……!」
     勢い良く叩き付けられた火炎瓶が、はじめの全身を燃やす。それを目の当たりにしためぐみが、彼の背中に呼びかけた。
    「百目鬼君、大丈夫ですか? 今回復しますね」
     年齢より幼く見られがちなめぐみだが、実ははじめと同学年である。彼女は浄化の風を招くと、彼を包む炎を消し去った。
    「ふ、この程度の攻撃、耐えることなど造作もない……!」
     余裕の表情を崩さないはじめだが、よく見ると膝が小刻みに震えていたりする。『マオウさま』の勇姿を目に留めた歩が、負けじと叫んだ。
    「ぽち、今こそ僕らのわんこパワーを見せるときだっ!」
    「わうっ!」
     トレードマークの犬耳フードを風に靡かせ、ぽちと連携して攻撃を仕掛ける。オーラの拳が連続で叩き込まれた瞬間、ぽちの咥えた刀がロンリー・ボマーの脇腹に食らいついた。
    「そこ、腱、断つ」
     畳み掛けるように、ガイストが死角から鋼糸を閃かせる。鋭い斬撃が、敵のアキレス腱を正確に断った。
    「ピリオド、今、狙い目」
     主の声に応え、ピリオドが追い討ちを加える。あきの放った護符がロンリー・ボマーの額に張り付き、彼の心を乱した。一瞬生まれた隙を逃すことなく、ジョンが拳を固めて顔面を殴りつける。怒りを誘うことは叶わずとも、気を惹くことはできるだろう。
     ガスマスクの下から苦痛に呻く声が漏れると同時に、男の殺気が膨れ上がった。
     狂った雄叫びとともに繰り出される拳が、ジョンを立て続けに打つ。しかし、その連撃も彼に『死』を連想させるには足りない。
     シールドのエネルギー障壁で打撃を受け止め、ジョンは仮面越しにロンリー・ボマーを睨む。
     彼にとって、仮面とは己のあらゆる感情を縛り、自分を自分ではない『何か』と化すもの――だからこそ、それを安易に用いる敵を許すわけにはいかない。
    (「顔を隠すという目的の為だけに仮面を使用し闇討ちを行うなど、俺の流儀に反する」)
     めぐみが、清らかな風を起こしてジョンの傷を塞ぐ。本来であれば個人の回復には癒しの力を秘めた矢を用いたかったのだが、残念ながら今回は活性化していなかった。
    「らぶりんも、回復をお願いね」
     彼女の指示を受けて、らぶりんがふわふわのハートをジョンに届ける。癒し手たちの厚い回復に支えられつつ、灼滅者はロンリー・ボマーを少しずつ追い詰めていった。

     はじめが、槍に塗り込められた妖気を尖った氷柱(つらら)に変えて撃ち出す。突き刺さった氷が、ロンリー・ボマーの体表を凍てつかせた。
    「真ッ二つになりやがれェ!」
     日本刀を構えた盾衛が、上段から真っ直ぐ刀を振り下ろす――と見せかけ、足元から影を伸ばす。
    「……と思ったらココは縛りプレイってなァ!」
     サイキックエナジーで実体を得た影が、触手となって敵の全身に絡みついた。
    「懲罰の十字架よ!」
     初心が凛と声を響かせ、プリズムの如き十字架を降臨させる。眩い光線が、ロンリー・ボマーを次々に貫いた。
     決して、戦いは好きではないけれど。噂話で人が死ぬなんて、見過ごすわけにはいかないから――何としても、ここで止める。

     あきの心に潜む暗き想念が、毒を帯びた漆黒の弾丸と化してロンリー・ボマーを撃ち抜く。お返しとばかりに投擲された手榴弾が炸裂し、後衛の全員を爆風で薙ぎ払った。
    「しもつかれに比べればこれくらい平気……」
     苦手とする郷土料理の名を挙げつつ、あきはそのダメージに耐える。ぽちが六文銭で援護を行う中、歩がオーラを纏う拳でロンリー・ボマーに凄まじい連撃を浴びせた。
    「響き渡って、生命の旋律!」
     絶妙のコンビネーションで、初心がバイオレンスギターから癒しのメロディを奏でる。後衛たちが体力を取り戻したのを確認すると、ガイストは静かにロケットハンマーを構えた。
    「後僅か、外さない」
     全てを粉砕する亡霊の一撃が、弧を描きながらロンリー・ボマーの胴体を捉える。すかさず地を蹴った盾衛が、二段の跳躍から日本刀を大きく振りかぶった。
    「今度こそォ、真ッ二つになりやがれェ!!」
     落下とともに打ち下ろされた重い斬撃が、男の肩口から胸にかけて深々と断ち割る。ジョンのライドキャリバーが、そこに突撃を仕掛けた。
     動きを止めたロンリー・ボマーの首を、ジョンの腕が掴む。
    「俺は、今まで対峙してきた如何なる敵にも恐怖を植え付けてきた。それをロンリー・ボマー、お前にも与えてやろう」
     同じ『仮面』を身に着ける者として、こればかりは譲れない。
     ジョンの腕に吊り上げられた男が、じたばたと苦しげに足を動かす。
     次の瞬間、ロンリー・ボマーは頭から地面に叩き付けられ――そのまま地獄に落ちていった。


     都市伝説の消滅を見届け、ジョンが無言で自らの仮面に触れる。
    「さようなら。不幸な都市伝説はただの噂話に、闇から闇へと還りなさい」
     初心が、孤独ゆえに狂った哀れな男に別れの言葉を告げた。
    「こんな寂しい伝説は、早く無くなるといいですね」
     しみじみと呟くめぐみの前で、盾衛が肩を竦める。
    「ま、リア充はリア充でマメじゃねェとやってらんねッて言うしなァ」
     ロンリー・ボマーも、いっそのこと一人身の気楽さを満喫してしまえば良かったのだろうが……おそらく、そういう訳にはいかなかったのだろう。
     手に入らないと思えばこそ、求める気持ちはより強くなるものだ。 

     ピリオドをカードに封じたガイストが、はじめに向き直る。囮を率先して引き受けた仲間に対し、彼は素直に敬意を覚えていた。
    「はじめ、私、感服」
     敬礼するガイストを前に、はじめは恥じらうようにマフラーで自分の顔を隠す。
    「そ、そうか、ありがとう……」
     小声で答える彼に、ガイストは黙って頷いた。

    「うにゅう、もう、ねむ……い……」
     戦いを終えて緊張の糸が切れたのか、歩が気の抜けた声を上げる。眠気と空腹で限界を迎えつつある彼の様子を見て、めぐみが手を叩いた。
    「さあ、皆さん帰りましょう」
     再び十八歳の外見に変身しつつ、全員に撤収を促す。あきが、思い出したように口を開いた。
    「あ。某PBWのご当地が近かったっけ。後でガイアパワー吸収しないと……」
     彼女が思い描く『某PBW』との関連はさておき、ご当地ヒーローとしては、訪れた土地の力はチャージしておかねばなるまい。

     相次いで踵を返す仲間達の後について、初心が歩き出す。
     彼女は去り際に交差点を振り返ると、この戦いで得た教訓をしっかり胸に刻み込んだ。
    (「……私もしっかりと友達作りをしておかないと、ね 」)
     孤独や嫉妬が生み出す力よりも、かけがえのない友情がもたらすそれの方が――ずっと、素晴らしい筈だから。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ