ソロモンの大悪魔達~闇夜に舞うは闇翼の剣士

    作者:J九郎

     埼玉県の秩父地方の山中にある、今は閉鎖された鉱山跡。
     葉を散らせた木々に埋もれ、人々からも忘れ去られたその鉱山の坑道の一つから、何か巨大な黒い塊が飛び出した。その黒い塊は、まるで撃ち出された砲弾のような勢いで、月明かりの夜空を引き裂くように突き進んでいく。
     やがて黒い塊は、森の木々を遥か見下ろす上空に達すると、そこで急速に減速し、停止した。
     次の瞬間、黒い塊は弾けたように内側から膨張する。いや、そうではない。その者が、全身を覆っていた翼を広げたのだ。夜闇よりもなお暗い、まるで闇そのものを凝縮したような実体のない闇の翼を広げたのは、フクロウの頭を持った怪人だった。
     羽根飾りの付いた黒い帽子に、闇夜にはためく黒いマント。その身を覆うのは軽装の剣士の如き皮服で、その手に持つのは鈍色に輝く鋭い細剣。
    「ホッホーウッ!!」
     封印から解放されたソロモンの悪魔・アンドラスは、静けさの支配する山中を引き裂くように、一声甲高く啼いた。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。強力なソロモンの悪魔達が、一斉に封印から解き放たれ、出現しようとしている、と」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)はかつてないくらい真剣な声でそう告げた。
    「……この間の第2次新宿防衛戦で灼滅したソロモンの悪魔・ブエルを覚えてる?」
     妖の問いに、灼滅者達が頷く。
    「……そのブエルを裏で操り、情報を集めさせていたのも、彼らだったみたい。……ソロモンの悪魔達は、これまでブエルが集めた情報を元にして、大攻勢をかけてこようとしてる」
     そして、と妖は震える身体を自ら抱きしめるようにして言葉を続けた。
    「……解き放たれたソロモンの悪魔は、最低でも、18体。……どのソロモンの悪魔も、ブエルと同等の強力な力を持ってると見ていい。……この戦力は、現在活動が確認されているどのダークネス組織よりも強力かもしれない」
     妖の言葉に、教室に緊張が走る。
    「……でも、いくらソロモンの悪魔が強大といっても、今なら付け込む隙はあるかもしれない」
     ソロモンの悪魔達は、封印から脱出して出現した直後は、その能力が大きく制限され、配下を呼び出す事もできない状態になるらしい。
     更に、複数のソロモンの悪魔が同じ場所に出現すれば、他のダークネス組織に察知される危険があるため、ソロモンの悪魔は一体づつ別の場所で出現するというのだ。
    「……つまり、出現した直後なら、各個撃破できる可能性が僅かだけど、ある。その瞬間が、灼滅する最大のチャンス」
     だがもちろん、ソロモンの悪魔達も自身の弱点は充分把握しており、出現する場所は慎重に決定するため、十分な戦力をその場所に送り込む事はできない。よって襲撃に加わる事ができる灼滅者は、1つの襲撃地点に8名まで。それ以上の人数を送り込めばソロモンの悪魔に察知され、出現場所を変えられてしまうだろう。
    「……だから、この8人でソロモンの悪魔を灼滅するのが、今回の目的」
     妖は真剣な声でそう告げた。
    「……決して、成功の見込みが高い作戦じゃない。むしろ、危険の方が遙かに大きい。……けど、成功すれば、ソロモンの悪魔達の出鼻を挫いて戦力を大きく削ることが出来る。……私にはみんなの帰りを待つことしかできないけど、必ず生きて帰ってきて」
     妖の不安混じりの激励に、灼滅者達は強く頷き返すのだった。


    参加者
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)
    御門・心(日溜りの嘘・d13160)
    鹿島・悠(赤にして黒のキュウビ・d21071)
    牧野・春(万里を震わす者・d22965)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ

    ●先制
     闇と静寂が支配する真冬の秩父山中で、突如光が弾けた。続いて、複数の轟音が、周囲の静寂を打ち破る。
     それは、今まさに坑道から飛び出した黒い影へ向けての、灼滅者達の一斉攻撃だった。
    「想定通り、そこから出てきましたね」
     牧野・春(万里を震わす者・d22965)が、底面にライトを取り付けたガトリングガンで飛翔する黒い影――ソロモンの悪魔・アンドラスに光を投射しつつ、銃弾の嵐を浴びせ掛け、
    「できれば、坑道から出る前に終わらせたかったんですけどね」
     皇・銀静(陰月・d03673)は、アンドラスがその身を覆う闇の翼と同質の影で、アンドラスを包み込む。
    「高度を上げる暇は与えません」
     続けて、御門・心(日溜りの嘘・d13160)が琵琶『げんじょう』を奏でれば、発した音色が夜の静寂を破ってアンドラスを打ち、
    「とんでもない強敵、腕が鳴るっす!」
     押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)の放ったサポーターが、一直線に伸びアンドラスを刺し貫いた。
    「とにかく、完全復活させないために頑張らないとね」
     それでもなお上空へ飛び上がろうとするアンドラスを、由井・京夜(道化の笑顔・d01650)が放ったリングスラッシャーが追いすがり、
    「怖くないワケ違う。でもアタシ逃げたくない。だって、ツヨイ敵と戦う、勝っても負けてもタノシイもん」
     ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)の構えるトーテムポールから放たれた白光が、アンドラスを射抜く。
    「ホーウッ!!」
     アンドラスは一声高く啼くと、全身を覆っていた闇の翼を開き、空中でその梟頭の異形を露わにした。
    「我ハ蘇り封印を解いテ奇襲トは我には意外デあっタ」
     奇妙なイントネーションで奇妙な発言したアンドラスは、表情の読めぬ瞳で眼下の灼滅者達を睥睨する。
    「何を言ってるのかよく分からないんですが」
     そんなアンドラスへ、暗視ゴーグルをつけた鹿島・悠(赤にして黒のキュウビ・d21071)が放ったオーラキャノンが迫っていった。光弾は、避けようとするアンドラスをしつこく追尾し続け、
    「梟のくせに、頭上がお留守ですよ」
     突如上空から降り注いだ魔法の矢が、アンドラスを射抜いた。
    「ホウッ!?」
     アンドラスの頭が180度回転し、頭上に向けられる。そこには、空飛ぶ箒に跨り突進してくるジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)の姿があった。
    「人は飛ぶ事ヲ我は断ル!」
     咄嗟に闇の翼をはためかせ、突撃を回避しようとするアンドラスだったが、ジンザは構わずアンドラスの脇をすり抜けていく。
    「おっと、おまけです」
     すり抜けざま、ジンザは隠し持っていた蛍光塗料をアンドラスに浴びせ掛けた。アンドラスが回避行動に移っていたためにごく一部しかアンドラスには付着しなかったものの、全身を黒い衣装で固めた中で、わずかでも付着した蛍光塗料は十分に目立つ。
    「ブエルは言っタ灼滅者の故ニ彼ラは予知能力を推測すル」
     完全な奇襲からの一斉攻撃を受け、少なくないダメージを受けているはずのアンドラスだったが、その言動からも表情からも、焦りは見られなかった。

    ●死闘
    「我ハ剣士の一撃離脱ゆえニ必勝!!」
     空中を舞っていたアンドラスが、細剣を構え急降下を開始する。
    「降りて来るよ! 気をつけて!」
     ずっとアンドラスの動きを追っていた京夜が警告を発する間にも、アンドラスは急速降下しファム目掛けて目にも止まらぬ速さの突きを連続して繰り出していた。距離が離れているにもかかわらず、放たれた剣圧は物理的殺傷力を持ってファムに襲いかかる。
    「イダダっ!? ふ、フクロウさん、物凄くツヨイ!?」
     避けきれずに悲鳴を上げるファムに、しかしアンドラスは攻撃の手を緩めず、ひたすらに追撃を加えていった。攻撃を受けたらアンドラスが逃げ出さないように物凄く痛がる演技で侮らせようと考えていたファムだったが、演技の必要がないくらい強烈な連続攻撃だ。
    「しかし、降りてきたのなら、そのまま逃がしません」
     ファムへの攻撃に集中しているアンドラス目掛け、春がウロボロスブレイドを絡みつけるように放つ。だが、アンドラスの片眼がグルリと春の姿を捉えると、
    「ホッホーウッ!」
     即座にファムへの攻撃を中断し、空中に舞い上がってウロボロスブレイドを回避していた。
    「十字架! あいつを見失わないように頼みます!」
     悠が自らのビハインドに声をかければ、ビハインドの十字架は手にしたライトで、高速で飛翔するアンドラスを追尾し続ける。
    「上空に逃げても、無駄ですよ?」
     ライトに照らされたアンドラス目掛け、心がトンカラ帯を射出した。だが、アンドラスの飛行速度は打ち出されたトンカラ帯の速度をも上回り、追いつかせない。銀静も真紅の逆十字を撃ちだし援護するが、高速で飛び回るアンドラスに当てることは適わなかった。
    「想像以上のスピードですが、ドッグファイトの経験は有りますか?」
     飛び回るアンドラスを空飛ぶ箒で追いながら、ジンザは『B-q.Riot』を構えた。そして、アンドラスの飛行ルートを予測して、弾丸をばら撒いていく。速度では遠くアンドラスには及ばないが、牽制で少しでもアンドラスの動きを鈍らせることが出来れば、それで十分だ。するとアンドラスは急上昇に転じ、
    「空ハ飛ぶ灼滅者ノ領域異なルの必然!」
     上空で一旦闇の翼を大きく広げて静止すると、翼をはためかせた。たちまち、翼から無数の闇の羽が弾丸のように放たれ、ジンザに襲いかかる。
    「させないっすよ! 円!」
     そのアンドラスの動きに、いち早く動いたのはハリマだった。ハリマは霊犬の円を担ぎ上げると、上空に向かって力一杯投げ飛ばした。身体を丸めて空気抵抗を減らしていた円は、アンドラスとジンザの間に割り込む位置まで跳び上がったところで身体を大きく広げ、闇の羽からジンザを守る。
    「我は知ル強さ灼滅者ガ連携とあル!」
     だが、ジンザを庇った後自由落下に入った円を、アンドラスは見逃さなかった。円を上回る速度で急降下したアンドラスは、まるで抱き留めるように闇の翼で円を包み込んだのだ。そして、再び翼が開かれたとき、円の姿は完全に消滅していた。
    「サーヴァントの弱点を的確に突いてきましたね。これもブエルの収集した情報の成果でしょうか」
     銀静の言葉に、改めてアンドラスが容易ならざる相手であることを灼滅者達は理解したのだった。

    ●綻び
     戦いは、長期戦の様相を呈していた。アンドラスはその身の軽さとあらゆる方位からの攻撃を敏感に察知する知覚力で、ほとんどの攻撃を回避してしまう。一方で、いわゆる『召喚酔い』の影響なのか、アンドラスの攻撃も高威力ではあるが灼滅者を仕留めきるには至らない。元々アンドラス自身、一撃必殺というよりは手数で相手を圧倒するタイプだったことも理由の一つだろう。
     それでも、灼滅者側の傷は少しずつ蓄積していき、霊犬の円に続きビハインドの十字架も既に消滅してしまっていた。
     だがアンドラスも、体力的には余裕があるものの、明らかに動きが鈍ってきている。アンドラスには自身のバッドステータスを回復する手段がないため、サイキックによる悪影響が残り続けているのだ。
    「そろそろ、行けるかも知れませんね」
     心が、『ひばち』の銃口を、上空を舞うアンドラスに向けた。そして、狙いを定めて銃弾を連射する。当初であればかすりもしなかったであろうその攻撃が、今度はしかし、アンドラスを捉えた。何度もトンカラ帯を放つことでアンドラスの回避パターンを見極めてきたことが、ようやく今になって功を奏し始めている。
    「アタシも、攻撃、当てるよーっ!!」
     ファムが虚空を薙ぐように咎人の大鎌を振り回せば、突如アンドラスの周りに出現した無数の刃が、アンドラスの全身を切り刻んでいった。
    「ホウッ! 我が見切らレ傷を怪我スるは我は切り札ガ残す!」
     明らかに灼滅者の攻撃精度が上がってきていることを見て取ったアンドラスの動きが、変わった。急降下しハリマの前に着地すれすれの高度で浮かび、細剣を突きつける。
    「来るっすか!」
     アンドラスが得意とする連続突きに備え身構えるハリマにアンドラスはしかし、突きを繰り出すことはしなかった。代わりに、剣先をゆっくりと回転させ始める。
    「我は不和ヲ呼ぶ侯爵故ハそなたノ知る」
     たちまちハリマの目から光が消えていき、
    「アンドラス、そこっすか!」
     突然心目掛け、サポーターを打ち出していた。
    「ハリマくん、目を覚まして下さい」
     割り込んだ悠が、盾でサポーターを受け止め、
    「催眠かぁ。不和を司る悪魔とか、アンドラスって一番学園が敵に回しちゃいけないタイプじゃないかな」
     京夜がそんなことを呟きながら、ハリマ目掛けて癒しの矢を放つ。
    「ホッホーウ!!」
     しかしその間にも、アンドラスは次の行動に移っていた。上空に舞い上がり、口を大きく開くと、無数の氷弾を地面目掛けて吐き出したのだ。
    「魔法も使うんですか。本当に面倒くさい相手ですね」
     銀静が、自分が傷つくことを気にした様子もなく、前面に出て可能な限り無敵斬艦刀で氷弾を弾いていくが、全ての攻撃を庇いきれるわけではない。
    「下ばっかり相手をしてる余裕があるんですか?」
     魔法には魔法で対抗と、アンドラスよりも上空に陣取っているジンザが石化の魔法を飛ばす。アンドラスの肩の一部が石化を始め、アンドラスは首をくるんと後方へ回転させ、ジンザの姿を捉えた。
    「魔法使いナる者我は悪魔へノ覚醒が推奨さセる」
    「あいにくと闇墜ちする気はないんですよ。悪魔が相手とあらば、人間として立ち向かうのが魔法使いの矜持です」
     アンドラスの細剣がジンザに向けられたその時。下方から無数の弾丸が放たれ、アンドラスに直撃した。宿敵たる魔法使いを前にアンドラスの意識が逸れた一瞬の隙を突いた、会心の攻撃。アンドラスの首が再びくるんと回転し、その瞳がガトリングガンを構える春を捉える。
    「我は不快なレば死が汝ハ宿命!」
     次の瞬間、ジンザに向けられていた細剣が春に向けられ、そして剣の刃が巨大な針となって柄から飛び出した。そのまま、避ける暇も誰かが庇う暇も与えず、春を刺し貫く。
    「やっぱり、少々力不足でしたかね……」
     春の手にしたガトリングガンが地面に落ち、底面に備え付けられたライトが、闇に染まる大地を無意味に照らした。その、照らし出された地面に、春の身体はくずおれていく。
    「春くん、しっかりして下さい!」
     悠は春に駆け寄ると、これ以上の追撃を防ぐために『隠された森の小路』を発動させ、春を安全な場所へ移動させていった。
    「均衡ハ崩壊しかシて我の勝利ガ今! ホッホーウッ!!」
     春を戦闘不能に追いやったアンドラスが、高らかに啼いた。

    ●決着
    「後輩があれだけ身体張ったんだから、僕もそれなりに頑張らないとね」
     アンドラスが放った氷弾で凍りかけた灼滅者達を、京夜の吹かせた一陣の風が暖め、氷を溶かしていく。
    「ここで倒して勝利を春先輩にも告げられるよう、全力で戦って勝つっす!」
     その間にも、ハリマの影が大きく広がり、上空を高速で飛び回るアンドラスを捉えた。
    「!? 数の減リ汝らの勝機へ失セた何故戦意失セず理解不能!!」
    「肝心の所で人間を理解できていないんですね。なら、身をもって知って下さい」
     影に囚われ一瞬動きの止まったアンドラス目掛け、ジンザが上空から渾身のオーラキャノンを撃ち放つ。その勢いに押され、アンドラスは地表目掛けて落下していった。だが、さすがに地面に激突するような無様を晒すことはなく、すれすれの所で闇の翼を広げ、滑空する。
    「我は有利なルは未だ!!」
     そのまま地面を這うように飛んだアンドラスは、ファムの前で身体を起こすと、いつの間にか復活していた細剣の剣先を突き付けた。
    「不和は今、汝の憎悪ガ!!」
     ゆっくりと回される剣先が、ファムを睡眠状態に誘っていき、
    「アタシ、眠くない、よーっ!!」
     だがファムは対抗するようにそう絶叫し、アンドラスの暗示を吹き飛ばす。
    「我ガ不和の芽二、破ッた!?」
     もっとも得意とする術を破られ、アンドラスが初めて動揺を見せた。
    「動揺してる今がチャンスだよ!」
     京夜の合図に合わせ、灼滅者達が一斉に攻撃をアンドラス目掛け浴びせ掛ける。銃弾が、オーラの塊が、影の刃が、次々とアンドラスに炸裂していき、
    「我は力、侮るガ愚か!!」
     だがアンドラスはそんな中でも反撃に出た。闇の翼を大きく広げると、回復の要となっている京夜目掛けて闇の羽を連続で撃ち出していく。
    「そうはいきませんよ」
     そこに、悠が割って入った。既に身体はボロボロで、手に装備した盾にもヒビが入っている。ここぞとばかりにアンドラスは闇の羽を撃ち続け、悠の服を切り刻んでいった。遂に盾が耐えきれずに砕け、次いで悠の膝が折れた。
    「ホッホーウッ!」
     アンドラスは、再度の灼滅者の総攻撃を察知するとそれ以上の深追いは避け、攻撃をかわしながら上空へ飛び上がる。
     やがて高空に達すると一転、剣先を心に向け、
    「我の剣技なれバ不敗!!」
     一直線に心目掛けて急降下し、降下の勢いも乗せた必殺の一撃を放った。が、
    「待っていましたよ、この時を」
     言葉通り、狙い澄ましたかのように銀静が心の前に飛び出す。心を刺し貫くはずだったアンドラスの一撃は、銀静の腹部を貫通しており、それが致命的な一撃なのは誰の目にも明らかだった。だが、
    「ぬ、抜けヌ!?」
     銀静はアンドラスの細剣を掴み、アンドラスの得意とする一撃離脱を封じていた。
    「実を言うと割とどうでもいいんですよ僕自身は。未来をだらだらと生きるよりひと時の光もいい。ならば……此処で散るのも一興です」
    「理解不能故に理解不能!!」
     アンドラスの声に、驚愕と動揺が現れる。そして、心がその一瞬を見逃すことはなかった。
    「せっかく銀静様が作って下さった好機、無駄にはしません!!」
     次の瞬間、『ひばち』から放たれた無数の弾丸が炎を上げ、動けないアンドラスを撃ち抜いていった。アンドラスの漆黒の帽子が、マントが炎に包まれていく。
    「ブエルの言っタ灼滅者の危険我ガ理解する……!!」
     そして、アンドラスは細剣を手放すと、その場に倒れ伏したのだった。
    「終わった、かな。ソロモンの悪魔、あと幾ついるんだろうね?」
     アンドラスと同時に倒れかかった銀静を受け止めた京夜が呟く。その頃には、上空を飛んでいたジンザも降りてきており、アンドラスを見下ろしていた。
    「一つ聞きたいですがストラス、ってご存命です?」
     ジンザの質問が聞こえているのかいないのか、アンドラスの瞳は夜空に向けられていて。
    「我の死ハ計画の内なレば、強者でハ戦いガ内に死するノ本望……」
     そう、最期の言葉を残して。ソロモンの大悪魔が一柱・アンドラスの身体は、闇に溶けて消えていった。

    作者:J九郎 重傷:皇・銀静(陰月・d03673) 鹿島・悠(常笑の紅白・d21071) 牧野・春(万里を震わす者・d22965) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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