ソロモンの大悪魔達~老魔フルカス

    作者:邦見健吾

     夜の学校の中庭に、突如として文様が浮かび上がる。妖しく光る軌跡は弧を描き、線を結び、やがて1つの魔法陣となった。
    「フォフォフォ……久方ぶりの外界じゃわい」
     そして魔法陣から放たれる光が一際強くなり、しわがれた声とともに奇怪な存在がせり上がってくる。
     魔法陣から出現したそれは巨大な老人の頭のようで、しかし体がなかった。手足は頭部から直接伸び、両手には毒々しい妖気を帯びた大鎌を携えている。大きな目玉で周囲をぐるりと見回し、その風貌には残忍さと狡猾さが表れていた。
    「さてさて、退屈せねば良いがのう。フォッ、フォッ、フォッ、フォッ……」
     一声笑うだけで禍々しい魔力が漂う。これこそソロモンの悪魔が一柱、フルカス。まさしく邪悪の化身である。

    「年明け早々ですが、大きな事件が起こりました。よく聞いてください」
     いつも淡々としている冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)には珍しく、一度前置きしてから説明に入る。
    「ソロモンの悪魔の中でも強力な個体達が、封印から解き放たれて出現しようとしています。難しいとは思いますが、これの灼滅をお願いします」
     どうやら悪魔達はブエルを使って裏から情報を集めていたらしく、少なくともブエルと同等の悪魔が総勢18体。現在活動が確認されているダークネス組織よりも強力な戦力かもしれない。
    「私が出現を予知したのはフルカスという名の悪魔です。フルカスは夜中の小学校に現れます」
     本来は強力な存在だが、今回は好機ともいえる。
    「悪魔達は封印から脱出して間もなくのため、力がを大きく制限され、配下を呼び出すこともできません。しかも他のダークネス組織に察知されるのを防ぐため、悪魔達はバラバラの場所に単独で出現します。つまり、灼滅のチャンスです」
     もちろん悪魔達もそれは把握しており、出現場所は慎重に決定するため、こちらも最小限の人数しか送り出すことができない。1つの箇所に迎えるのは8人まで、それを超えれば悪魔は場所を移してしまうだろう。
    「フルカスは老人の頭から手足が生えたような、奇怪な姿の悪魔で、大鎌を持っています。また炎を操ることもできるので、注意してください」
     弱体化している状態とはいえ、その力は灼滅者とは比べ物にならない。しかしここで逃せば、力を蓄える機会を与えてしまう。できればこの機に灼滅したい。
    「単刀直入に言って、成功する確率は低いでしょう。ですがソロモンの悪魔を逃せばどんな悪事を起こすか分かりません。少しでも数を減らすことが重要になるでしょう。……それでは、よろしくお願いします」


    参加者
    比嘉・アレクセイ(貴馬大公の九つの呪文・d00365)
    クラウィス・カルブンクルス(依る辺無き咎の黒狗・d04879)
    四津辺・捨六(伏魔・d05578)
    八坂・善四郎(海を見に行く・d12132)
    北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)
    南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)
    儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120)
    堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)

    ■リプレイ

    ●フルカス降臨
     灼滅者達は深夜の学校に先回りし、襲撃の準備を整える。静寂に包まれた中庭に、かすかな音が響く。
    (「気分の良いものではないですね……」)
     比嘉・アレクセイ(貴馬大公の九つの呪文・d00365)は光源を設置しながら、わずかに眉をひそめる。ここは奇しくも学び舎で、武蔵坂学園を連想する。ソロモンの悪魔が我が物顔で歩くのは、到底許容出来るものではない
    (「絶対に灼滅っす! こんなのをのさばらせるワケにはならねっす!」)
     心の中で叫びを上げ、決意とともに拳を握る八坂・善四郎(海を見に行く・d12132)。フルカスについて伝承を調べてみたがやはり恐ろしい。また騎士でもあるらしいが、エクスブレインからの情報では騎士らしいところは見られなかった。
    (「……正直怖い。でも、放っておけばもっと怖い事が起きるから……立ち向かう勇気を分けて?」)
     南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)はブレスレットの意匠を取り入れた腕時計に触れ、恐怖で竦みそうになる心を奮わせる。悪魔による悲劇を起こさせないために。
     夜闇の中に金色の光が浮かび上がり、魔法陣を描く。そして光が強くなり、悪魔が魔法陣の中から姿を現していく。
    「フォフォフォ……久方ぶりの外界じゃわい」
     ソロモンの悪魔が一柱、フルカス。鋭利な鎌を携えた老悪魔は、その大きな目をぎょろりとさせて周囲を見回す。
    「さてさて、退屈せねば良い……が!?」
     フルカスが完全に出現して魔法陣が消失した瞬間、灼滅者は光源のスイッチを入れ、悪魔を照らす。
    「オラァッ!」
    「おおっ!?」
     間髪入れず、善四郎が突進して霊縛手を力任せに叩き付けた。フルカスはギリギリで躱すが、襲撃に驚いて間抜けな声を上げた。
    「千載一遇のチャンス、生かして帰すわけにはいかないよ!」
    「うおっ! 目玉を抉り取ろうとは、えぐいことをするのぉ」
     儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120)は身を包む闘気を砲弾に変えて発射。春陽はジェット噴射を起動し、バベルブレイカーを構えて弾丸のように迫る。2人の攻撃はフルカスの眼球を狙うが、フルカスはそれを回避した。格上を相手に特定の部位を狙うのはさすがに難しい。
    (「狙いは灼滅、油断せずに行きましょう」)
     クラウィス・カルブンクルス(依る辺無き咎の黒狗・d04879)はアレクセイとともに光の盾を展開し、仲間を光で覆った。北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)は矢で善四郎を射抜き、眠っていた感覚を呼び覚ます。
    「名高いソロモンの一柱をもてなすには少しばかり心もとないが、このまま退場してもらうぞ」
    「そいつは困った。若者にはジジイをいたわってほしいもんじゃがのぉ」
     四津辺・捨六(伏魔・d05578)は黄色の交通標識を掲げ、前衛に立つ仲間に耐性を与える。しかしフルカスはおどけながら火炎を吐き、魔力の炎が怒涛の波となって灼滅者を襲った。

    ●悪魔の力
    「お主ら、まるで儂を見知ったように動くの。初見の相手に手の内を知られておるのは、なかなか気持ち悪いものじゃのう」
     状態異状を警戒して耐性を付与し合う灼滅者達。その戦い方を見て、ハウルカスが苦々しく呟く。
    「じゃが」
    「うわっ」
     その時、フルカスの両目が光り、邪悪な魔力の光線が迸った。青色の光は善四郎を呑み込んで動きを鈍らせる。
    「今回復するよ!」
     すかさず堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)がダイダロスベルトを伸ばし、善四郎を包み込む。傷を癒しながら麻痺を取り除こうとするが運悪く失敗。ライドキャリバー・ザインは唸りを上げてフルカスに体当たりを仕掛けた。
    「サポートは任せろ!」
     自力で異常を回復させようと、捨六は護符を投げて耐性を与える。ライドキャリバーのラムドレッドは機銃を連射するが、フルカスは鎌で弾丸を薙ぎ払う。
    (「目標は灼滅、です」)
     魔法使いの梨鈴にとって悪魔は倒すべき宿敵、ここで引導を渡したい。エアシューズで肉薄すると、ローラーに炎熱を帯びさせて蹴りを繰り出す。しかしフルカスは重力を無視した挙動で炎を躱した。
    「もう光線は撃たせないわよ!」
    「おわっ!? 危ないのぉ」
     春陽は動揺を誘おうと再度眼球を狙うふりをして、ダイダロスベルトを矢に変えて撃ち出す。フルカスは一瞬目を庇うそぶりをするが、矢は腕に刺さった。
    「それそれ、儂からもゆくぞ」
     フルカスは魔炎でライドキャリバーを巻き込みながら前衛を攻撃する。狙いが攻撃役である善四郎にあるのは明らかだ。
    「大丈夫!?」
    「は、はいっす……」
     丁は再びダイダロスベルトベルトを伸ばし、善四郎の火傷を癒す。しかし度重なる攻撃で受けたダメージは回復し切れなかった。
    「残りのゲーティアの鍵。そちらの手に渡すわけにはいきませんね!」
    「なーんじゃそれは?」
     アレクセイは霊力を自分に注いで回復しながら、鎌をかけて情報を聞き出そうと試みる。フルカスは面食らったように目を瞬かせるのみだが、狡猾な悪魔の反応など観察するだけ無駄だろう。
    「これでも食らいなさい!」
    「おお、肝が冷えたわい」
     蘭が踏み込み、今度は目を狙わずに赤の交通標識を叩き付ける。フルカスは目を狙われるのを恐れているかのように見えるが、しかしその口ぶりには緊張感はあまり感じられなかった。
    「絶対、倒すっす……!」
     善四郎は傷ついた体に鞭を打ち、槍を構えて突き進む。強く一歩を踏み出し、全霊を込めて螺旋を描く槍を突き立てた。
    「良い子は寝んねの時間じゃぞ?」
    「ぐっ、あ……」
     しかしフルカスはまた目を光らせて至近距離から光線を放つ。魔光が善四郎を射抜き、とうとう力尽きた。善四郎が音を立てて地面に倒れ、灼滅者の間に一瞬緊張が走る。攻撃役が倒れれば撤退を決める手はずとなっており、敗走へのカウントダウンが1つ進んだ。
    「ふむ」
    「どうかしましたか?」
    「なに、こっちの話じゃ」
     その瞬間、何かを心得たように唸るフルカス。クラウィスはその様子に嫌な予感を感じつつ、再び光の盾を広げて守りを固めた。

    ●悪魔の知恵
    「フォフォフォ、こいつはどうじゃ?」
     怪しく光るフルカスの双眸が春陽達を捉え、その精神を呪縛する。フルカスは光線と魔炎でライドキャリバーを蹴散らすと、執拗に後衛、その中でも狙撃手を狙って攻撃を仕掛けていた。
     フルカスの攻撃力は弱体化していても強烈であるが、攻撃に特化しているわけではない。だが灼滅者は状態異状を警戒して補助を重視した陣形を取っており、攻撃役の善四郎が倒れたこともあって強く攻めることができないでいた。
    「風よ、魔を切り裂け!」
    「アイテッ」
     蘭は手の中に激しく渦巻く風を生み出し、フルカスに向かって放つ。風の刃が偶然目に当たったが、ダメージは通常通りだった。
    「えっ」
    「そりゃそうじゃろう、こんなにデカデカと弱点を晒す奴はそうそうおるまいて。一か八かに懸けるその度胸は見事じゃが、博打は外れじゃの」
     灼滅者達は目が弱点と予測したが、実際は弱点ではなかった。目を庇うそぶりをしたのも見せかけだけで、灼滅者達を落胆させるために芝居を打ったのだろう。
    「それでも負けないわよ!」
    「まずい、禿げる、禿げてしまうぞ!」
     目論みは外れたが、春陽は明るい表情を曇らせることなく攻撃を続ける。強酸の液体を投げ放ち、酸がフルカスの頭部に命中した。続けて梨鈴がダイダロスベルトを広げ、矢に変えて発射。宙を貫いて悪魔に突き刺さった。
    「フォフォフォ、それではもう1人眠ってもらおうかの」
    「そうはさせません……!」
     フルカスの目が青い光を灯し、傷付いた春陽目掛けて光線を放った。アレクセイが咄嗟に自身を盾にするが、次の攻撃も庇えるかは分からない。
    「私もおりますよ」
    「うおっ!?」
     その時、クラウィスがフルカスの背後から現れて縛霊手を突き立てた。鋭い爪が細い足を捉え、斬撃が動きを鈍らせた。
    「調子に乗るなよ?」
     捨六はエアシューズを駆り、ジグザグに疾走。距離を詰めながらローラーに炎を纏わせ、蹴りを見舞った。丁はギターをかき鳴らし、活力をもたらす音色で絶え間なく回復を続ける。
    「むむ、やはり一筋縄ではいかんのう。アンブレイカブルであれば歓喜するところじゃろうが、儂はあくまで悪魔での。猛者の相手は勘弁してもらいたいわ」
     灼滅者の攻撃は躱されることも少なくないが、それでも攻撃を重ねることでフルカスにダメージを蓄積させている。
    「じゃがこれで……」
    「ひああああっ!」
     だが再び暗い光が迸り、今度は正確に春陽を射抜いた。そして意識を失ったまま立ち上がらず、2人目の脱落者となった。

    ●老獪なる悪魔
    「年になるとすぐに腰に来るわい。早く倒れておくれよ?」
    「ぐっ……」
     フルカスは蘭に狙いを定め、攻撃を集中させる。灼滅者の攻撃もいくつか決まるが、フルカスの攻撃を捌き切ることはできなかった。
    「これで終わりじゃ」
    「きゃあああっ!」
     悪魔の目から青い光線が撃ち出され、蘭が悲鳴を上げて倒れる。これで灼滅者達は攻撃要員を失い、撤退条件を満たした。
     フルカスは攻撃役を集中して攻撃したせいで、残る5人はまだ体力がある。しかしフルカスもまだ余力を残しているようで、灼滅は困難と予想できる。
    「ですがまだ……」
    「おっと、儂を倒せてもどうなるか知らんぞ。お主が良くても他の者はどうかの?」
    「……!」
     クラウィスは戦いを続けようとするが、現状では勝敗の行方は完全に闇の中だ。もし倒せたとしてもその被害は計り知れない。クラウィスが押し黙り、灼滅者は暗黙の内に撤退を決めた。
    「急いで本隊に合流しましょう」
    「おお怖い怖い、そいつは追いかけて仕留めるわけにはいかんのぉ」
     梨鈴は追撃を防ごうと援軍が来るように装うが、フルカスの言葉に緊張感はなかった。その発言が嘘であることを今までの戦いから見抜いたのだろう。
    「どこまで気付いているんですか?」
     釈然としない気持ちを覚え、ふとアレクセイが尋ねる。少なくとも、この弱体化したフルカスは決して倒せない敵ではなかった。それでも灼滅に至らなかったのは何故なのか。
    「おうとも。このジジイ、伊達に年はとっておらんわい。デカイ目ん玉も付いておるしの。お主らの考えなどお見通しじゃ」
     そう言って、自分の眼球をつつくフルカス。フルカスは灼滅者の作戦や意図を見抜いて攻撃の主力だけを撃破し、手の内を知られながらも撤退に追い込んだ。その鋭い洞察力は、時に圧倒的な戦闘力より脅威となるだろう。
    「とはいえ、お主らの戦いは見事な物じゃった。引き際の見極めも慎重でまた良い。少し読み違えていれば敗北していたのは儂じゃったろう」
     心底感心した様子で灼滅者の戦いを評価するフルカス。狡猾な悪魔ゆえに、その言葉をそのまま受け取るには躊躇するが、その表情からして本心なのだろう。
    「……戻ろう」
     言葉少なに帰還を促し、気を失った善四郎を抱える捨六。フルカスは追撃してくる様子はないが、撤退を決めた以上、長居する理由もない。フルカスの気が変わらない内に急いで退却を始める。
    「やれやれ、首の皮一枚で繋がったわい。この調子では、他の悪魔は何体かやられておるかもしれんな。できれば二度と出くわしたくないものじゃなぁ」
    (「今度は勝つ……!」)
     丁が春陽と蘭を抱えて走ると、嘆息するフルカスの声が背中から聞こえる。雪辱を誓いながら、灼滅者は夜の学校を後にした。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:失敗…
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