ソロモンの大悪魔達~血は燃ゆる

    作者:立川司郎

     本来、それは機能するはずのない落書きに過ぎないはずだった。
     古びた洋館の一室には、大量の書物が埃にまみれて置き去りにされている。書物は様々な言語で書かれたものが混じりあい、内容もまた一つ二つに分類出来る程度ではない。
     魔術。
     錬金術。
     占い。
     そういった、日の当たる場所を歩く人が忌避するような内容のものである事を除いては。
     長い間放置され続けてきたその洋館の一室に書かれた、どす黒い魔方陣が突如、光を放つ。
     起こるはずの無い魔方陣の起動は、降り積もった埃をまき散らしながら、巨体を出現させた。
     開け放たれた窓から差し込む光が、その巨体を照らし出す。
     背中には大きな鷲の翼が生え、全身はつやつやと赤く輝いている。恐らく体は、何かの金属で出来て居るのだろう。
     頭部は牛で、足は蹄。
     手にしたバトルアックスといい姿といい、やや愚鈍で脳筋といわれる部類に属しそうな印象だった。
     だが彼は、周囲を一瞥して書物を手にする。
    「……下らんな。このようなもので我らが呼べるものか」
     このような児戯にも等しい魔方陣の上に出現してしまった事自体、彼は不愉快であった。 
     我はザガン。
     錬金術を扱うともヒトに噂された事がある、ザガンである。
     近くに転がったワインを開栓して傾けると、すっかりアルコールの抜けたワインが零れ出た。
     ……いや、零れ出たものはワインではない。
     滴る水を確認すると、ザガンは月を見上げた。まずは暫く、ここで体を休めるとしよう。
     丁度書物が大量に残されており、暇をつぶせそうだ。周囲に飛び散っているものと、魔方陣を描いているものは人間の血だろう。
     ザガンを満足させるには、十分だった。
     
     年始早々、隼人は慌ただしい様子で教室にやって来た。
     厳しい表情の隼人は、いつもより口数が少なかった。人数が集まると、隼人はまず依頼内容ではなく、現在の状況について語り始めた。
    「とんでもねェ予知が判明した。強力なソロモンの悪魔が一斉に解き放たれて、出現しようとしているらしい」
     第二次新宿防衛戦で灼滅した、ソロモンの悪魔ブエルが情報を集めていた裏にも彼らが居たらしく、それまでブエルが集めた情報を元にして大攻勢を仕掛けてこようとしているらしい。
    「動いているのは、最低でも18体居る。奴等はみんなブエルと同等の強力な力を持っている。……現在確認されている、どのダークネス組織よりも戦力が強力である可能性がある」
     しかし、封印から脱出して出現した直後はその能力がまだ完全に使える状態に無く、配下を呼び出す事は出来ないと隼人は話す。
     更に、他のダークネス組織に感知されるのを防ぐ為、各自バラバラに出現しているらしい。
     各個撃破が可能だというわけだ。
    「むろん、奴等もそれは承知の上だから慎重に出現場所を選んでいる。もし大量の戦力を送っちまったら、ソロモンの悪魔達は別の場所に出て来るだろうな。これを見越した上で送り込める戦力は8名だ」
     サーヴァントも出来るだけ、直前までカードに封印しておいた方がいいだろう。
    「お前達が向かうのは、山深くにある洋館の廃墟だ。元々裕福なオカルト研究家が住んでいたらしいが、惨殺事件を起こして以来誰も寄りつかない。出現するソロモンの悪魔は、ザガン。……元々の戦力も馬鹿高ェから弱点らしい弱点は無いに等しいが…とにかく力押しは全く効かないと思ってくれ」
     作戦は非常に厳しいものになる、と隼人は告げる。
     成功する見込みが少なく、無理だと思ったら撤退をするべきだ、ともかく一体でも倒す事が出来れば良いと隼人は心配そうに言った。


    参加者
    科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)
    宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)
    シェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)

    ■リプレイ

     雑草と低木に隠れ、屋敷はひっそりと建っていた。
     月明かりに照らされた建物は蔦が這い、原型すらうかがえない。おそらく建築当初は美しい建物だったのだろう。
     中はひっそりと静まりかえっており、宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)は照明を手にして先頭を歩き出した。
     無造作にあちらこちら本が置き去りにされていたが、一人で住まうには広すぎず狭すぎない。こんな時でなければ、この静寂なたたずまいに綸太郎も魅力を感じる余裕があっただろう。
     ドアに近づくが、物音はしない。
     振り返って仲間に合図をすると、ドアを押し開く。
     キイ、と軋んだ音をたててドアが開いた。
    「まだ居ない」
     綸太郎が言うと、科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)がすぐに動いた。
     積み上げられた本の横に日方がLEDライトを置くと、明かりが室内に広がっていく。持ってきたライトを、隙間を埋めるように部屋の四隅に置いて行く日方。
     その表情は厳しく、道中より更に口数は減っていた。
    「明かりはこんなもんでいいか?」
     それでも気持ちを奮い立たせるように、日方は努めて明るく皆に声を掛けた。
     皆それぞれライトを用意していたが、窓から差し込む月明かりもお互いを認識する分には十分であろう。
     息をのんで見守る8名。
     綸太郎、そして淳・周(赤き暴風・d05550)がゆっくりと前に立つ。
     やや構えるように立った周の手には、ギターがあった。
    「来い……」
     周が小さく呟く。
     彼らの後ろに立った明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)はヘッドライトを調整し、目を細めてほっと息をつく。呼吸を整えるようにして吐息を吐くと、弓を構える。
     天槻・空斗(焔天狼君・d11814)は、ザガンってどんな悪魔だっけ、とシェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521)に聞いている。首をかしげて、シェレスティナは記憶をたぐり寄せていた。
     話をしながらも、二人とも意識は魔方陣に向けられていた。
    「戦闘中に効果的な作戦をひらめく位に、知恵を強化して欲しいもんだな」
    「そうだね。……多分、普通に攻めるだけじゃ勝てない」
     シェレスティナが答えた。
     リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)はどこかワクワクしているように見えたが、手が少し震えているのは戦いへの興奮かもしれない。
     力量を遙に越えた相手との戦いは、楽しみであると同時に怖くもあるからだ。
    「さあ、倒してこよう」
     リリアナは己に告げる。
     窓から空をじっと眺めて居た白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)は、風がふわりと吹いたのに気付いた。はっと視線を戻して、即座にビハインドの名を呼ぶ。
    「…ジェードゥシカ」
     夜奈が呼ぶのと同時に、綸太郎とシェレスティナも呼び寄せる。
     全てのサーヴァントが魔方陣の前に飛び出すと同時に、魔方陣が埃を巻き上げた。埃にまみれているだけであった魔方陣が起動し、巨体を出現させる。
     背には大きな鷲の翼、全身は金属のようにつやつやと輝く。
     悪魔、ザガンである。
    「……」
     無言でザガンは、バトルアックスを構える。
     出現と同時に、一斉に行動を開始した灼滅者達の動きを一瞥する。
     周が鳴らす弦の音が開幕を告げると、空気が振るえザガンを包んだ。ナイフを手の内に握り飛び込んだ日方の背後から、影となるようにリリアナも足を踏み出す。
     ぞくりと、リリアナの胸の内が高鳴る。
     高揚感はMAX。
     肉体に刻まれた戦いの技を信じて、8名は戦いを開始した。

     出現直後で対応が遅れるはずのザガンを見越して、後ろに位置した灼滅者の殆どは守りと狙いを定める為に力を集中させる事に専念した。
     このまま攻撃を仕掛けても、回避される可能性が高い。
     実際、ザガンは飛び込んだ日方の動きを直前で躱して、リリアナが放ったベルトを弾いた。日方はザガンの反撃から逃れる為、即座に飛び退く。
     ……速いな、と日方が呟いた。
     反応も早いし、恐らくパワーも桁外れだ。
     じろりと見まわしたザガンは、既にここに灼滅者が居る事を察していたのだろう……驚く素振りがなかった。
    「行くぞ科戸」
     止水の声が、日方に向けられる。
     最初の矢は日方に、そして次はリリアナに向ける。空気を切り裂く止水の矢が、日方の精神を研ぎ澄ましていく。
     ただひたすら、この刃を一撃でも多くザガンに当てる為一矢が力を与えてくれた。
    「……確かに貰ったぜ」
     止水に答えると、日方が再び攻撃に転じた。
     ザガンの周囲は綸太郎と周、そして更に月白、シェレスティナの猫イリス、さらに夜奈の前を護るビハインドが包囲している。
     次々襲いかかる灼滅者達を、ザガンは高い身体能力で躱していく。
     シェレスティナは回り込む隙を狙っている日方と目線を合わせ、結界を展開した。相手をねじ伏せる結界ではザガンを押さえる事は出来ないであろう。
     シェレスティナもそれは承知していたが、それでも手応えの堅さに目を細める。
    「ザガン……すごくすごく強いね」
     大きさに、シェレスティナは小さく笑いを零した。
     諦めては居ない。
     その隙に飛び込んだ日方の放った影が、ザガンを捕らえるのがしっかりと見えていた。仲間と繋がり、そして支え合う事でザガンを灼滅する事は可能だ。
     その希望が少し見えた気がした。
    「ここにも居るぜ…!」
     日方の放った影が、ザガンの腕に喰らい付いた。
     ようやく捕らえた、と思った日方をザガンがじろりと振り返る。
    「ブエルを倒したと聞いたが……少しは面白くさせくれるのだろうな」
     ザガンはそう言うと、バトルアックスを振り上げた。炎が巻き上がり、業炎が火球となって飛び散る。
     来る、と思った時には既に炎が迫っていた。
     綸太郎の傍から月白が飛び出さねば、それは日方を焼き尽くしていただろう。綸太郎は月日にではなく、無言で自身の前にシールドをする。
     心を抑えなければ、勝てない相手。
     しかしザガンの攻撃は容赦がなく、バトルアックスを叩きつけられた月白の傷は月白自身ではとても癒しきれるものではなかった。
    「くっ……」
    「駄目だ」
     ぽつりと綸太郎が、注意を引こうとした日方を制止する。
     サーヴァント達が盾になっている間に、総力を挙げて叩く。
     それは、綸太郎達の覚悟の上であった。圧倒的な力に叩きのめされ、消えていく月白の姿を見送った綸太郎は、少し唇を噛んだ。
     淡々と……周と、そして残ったイリスとビハインドにシールドの展開を準備した。
    「残りは4、それまでにどれだけ叩けるか」
     ぽつりと綸太郎は呟いた。

     止水の矢が支えとなって、後方から集中攻撃を加える日方やシェレスティナ、リリアナなどは大分リズムに乗って戦えるようになっていた。
     集中していないと、かすりもしない。
    「足を止めろ、でなければ当たりもしないぞ」
     空斗が声を掛け、日方に促す。
     日方が回り込むのに合わせて、周と空斗も同時に動いていた。周がザガンの動きを牽制しつつ日方が回り込む。
     日方が死角から斬り付けると、空斗も跳躍していた。
     穿たれた空斗の蹴りと日方の刃が、ザガンの動きを一瞬鈍らせる。
     リリアナは相手にこちらの行動を読ませないように、更にベルトで翻弄しつつ脇からクロスブレイブを放った。
    「受け取れ……!」
     リリアナが放った砲撃が、ザガンの腕を直撃した。
     すぐに移動を開始し、シェレスティナの攻撃の為にザガンの視界に入るリリアナ。戦いに集中するリリアナは、ただ攻撃の事を考えていた。
     だが、仲間から一歩引いて見ていた空斗はうっすらと感じて居る。
     確かに少しずつザガンの動きを鈍らせてはいたが、後方支援の仲間の狙いや動きが氷結や炎などそれぞれバラバラであった。
     ザガン自体が攻撃を寄せ付けない強さを誇る事もあり、これではこちらが削り負けてしまう。
     ……堕ちなければ勝てない。
     空斗は薄々、そう思っていた。
     ザガンの一撃は重く、斧を叩きつけてイリスを粉砕する。無残で、そして恐ろしく……冷酷な戦いだった。
     巻き上げる炎は、傷を塞ぎながらも立ちはだかる綸太郎の傷を押し広げていく。イエローサインを放って仲間を護る夜奈は、荒く息をつく綸太郎の背に駆け寄った。
    「だいじょうぶ、炎は、こわくない」
     一撃は重いが、周囲を焼き尽くす炎であれば、まだ怖くは無い。
     夜奈の言葉に、綸太郎は頷いた。
     炎に巻かれた綸太郎の傷を癒しながら、夜奈がビハインドに視線を向ける。
     次は、祖父の番。
     せめてシールドをと掛けたが、あの戦力差ではあまり保つまい。
    「使ってくれ」
     止水が照らした光がほんのり心を温かく包み、ほっと呼吸を整える夜奈。自分が落ち着かなければ、と彼女は落ち着きを取り戻すと止水に頷いてみせた。
     ザガンの前に、周が立ちはだかる。
    「弱い所から狙いやがって、これ以上好き勝手させねェ! ……行くぞ!」
    「了解」
     周に合わせて、日方がザガンの懐に飛び込んだ。
     二者の同時攻撃が、ザガンの動きを止めるべく仕掛ける。
     高い跳躍から、狙い澄ました跳び蹴り。周の一撃を、ザガンは軽く半身で躱すと、足元を切り裂いた日方をじろりと見下ろした。
     飛び退こうとした周の腕を、ザガンが掴む。
     はっ、と気付いた時は、周の体が浮いていた。叩きつけられた衝撃で一瞬視界が歪むが、目の前にはザガンの攻撃が迫っていた。
    「っ……」
     飛び起きた周の前に、ビハインドの背が現れる。
     ……ああ、こいつは夜奈が祖父と呼んでいた……。と、周は思いだしながら、体を引きずる。その間に、夜奈が傍に膝を付き力を注ぎ始めた。。
     無言で治癒をする夜奈であったが、それでも力が足りない。
    「やられっぱなし……じゃねぇか」
    「そんな事は、ない。みんな役目、果たしてくれた」
     そう言うと、夜奈は祖父の姿を見守る。
     壁として戦ってくれたイリスも月白も、皆が居てくれたから戦えたのだ。
     しかしザガンは一撃が重く、サーヴァントや綸太郎達が作る壁では支えるのがやっとである。攻撃は後方の三名にほぼ集中させており、止水と空斗は壁の交代要員となるはずだった。
     ビハインドの姿が消える頃、周は立ち上がっていた。
     残りは、周と綸太郎のみ。
     先に動き出したのは、空斗であった。後方で癒やしの矢を放っているのが止水であった事や、体力に余裕のある自分の方が先に壁に回る方がいいとの判断からだった。
     踏み込んだ時、空斗はザガンの視線がこちらに向いたのに気付いた。
     ぞくりと身が震える。
     目線が、合った。
     前に移動してくる空斗と止水の動きを、ザガンも読んでいたのだ。前に飛び出した空斗は為す術がなく、ザガンへの攻撃の手が緩む事にもなる。
    「……来ると思ったぜ!」
     反撃を阻止する為に動いた周を、ザガンの斧が正面から抉った。体から零れた血が、燃えるように熱い。
     ぼんやりとした視界で、ザガンの斧が叩き込まれる感触。
     流れる血が、生暖かい血だまりを床に零した。
     ……二度目は無ぇな。
     動かぬ体で、周は大切な友を思いだしていた。
     動かねばならない。
     生きねばならない。
     ……生きたい。
     ザガンが、飛び込んで来た空斗を無視して、周に斧を振り上げた。

    「死して骸と還れ」

     ……まだ、死ねない。

    「……とっとと起きろよ、寝ぼすけ狼!」
     空斗の唸るような声が聞こえると思うと、真っ白い狼が周の前に飛び出していた。
     それは風のような速さでザガンに喰らい付き、弾かれてなおバネのように飛び込んで反撃に移る。能力を超えたその身体力、そして姿は今までの空斗とは違っていた。
     意識の薄れる周を、夜奈が後ろから抱える。
     震える手で、周の傷を塞ごうとするが、既に深手を負っていて今はどうする事も出来なかった。
    「堕ちられ、なかった…」
     夜奈の目に、うっすら雫が伝う。
     喰らい付く事と仲間を助ける事、どちらかを選ばねばならなかった。
     でも今、夜奈が堕ちれば仲間はどうなる?
     その一瞬の迷いの間に、空斗が飛び出したのである。
    「仲間は、しなせない」
     そっと後ろに周を移動させると、夜奈は残った綸太郎にシールドを展開した。壁を維持する事、仲間を支える事に意識を集中させる夜奈。
     シェレスティナが、空斗の攻撃に合わせてミサイルを撃ち込んでいく。
     確かに堕ちた空斗の力は圧倒的だが、既にこちらの戦力は大幅に削られていた。ひたすら攻め続ける空斗に対して、ザガンは冷静だった。
     攻撃を受けながら、残った綸太郎を炎で炙るザガン。
    「弱き者から死ぬのは必定だ。……次は誰だ」
     ザガンの視線が、止水に向けられた。
     今飛び出しては、またザガンに狙われるだけである。止水はその場を動かず、糸を放った。しかし糸はザガンに易々と躱され、ザガンの傷を引き裂くことも叶わない。
     壁はもはや崩壊寸前で、今のまま戦い続ける事は可能かもしれないが、このまま戦っても、良くてギリギリの戦いになるだろう。
     少なくとも、今はとても勝てる見込みがなかった。
    「……撤退しよう」
     止水より先に、シェレスティナが前を見据えたまま言った。
     リリアナは、攻撃の手を休める事はなかった。その答えのかわりに大きく咆哮し、体の傷を塞いでいく。
     深呼吸を一つすると、仲間を見返した。
     綸太郎が、空斗に視線を合わせて踵を返す。綸太郎に掴みかかろうとしたザガンの腕に、空斗が牙を立てた。
    『さっさと行け!』
    「……どうか無事で」
     綸太郎は空斗に言うと、周の体を抱え上げた。
     部屋を後にする綸太郎を見送り、止水が空斗に向けて弓を構える。殿を務める仲間が、どうか無事に戻って来るようにと止水は一矢放った。
    「……必ず戻ってこい!」
     日方が、空斗に向かって叫ぶ。
     仲間の撤退を支えるシェレスティナは、最後に歌を口ずさんだ。
     室内を包み、柔らかく癒すメロディに包まれて、リリアナが部屋を後にする。外は何時の間にか雲が空を覆い、暗闇に包まれていた。
     体を伝うのは、汗だろうか。
     リリアナは、悔しそうに俯き駆ける。
     だが、ザガンが追ってくる様子がない事が分かり、やがて速度を落とした。
    「……止められなかった…」
     ザガンも、仲間が堕ちるのも。
     リリアナの悔しそうな言葉に、日方が拳を握り締めた。

     仲間が姿を消した後の屋敷から、体を引きずるようにして一匹の狼が姿を現し、闇の中に消えていった。

    作者:立川司郎 重傷:淳・周(赤き暴風・d05550) 
    死亡:なし
    闇堕ち:天槻・空斗(焔天狼君・d11814) 
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ