●悪しき初夢
1月2日、早朝の武蔵野周辺に夜の帳をそのまま外套とした何者かが現れる。冬場の早朝は今だ暗い、その中で夜の外套持ち主――悪夢の尖兵は無造作に力を振るい建物を破壊していく。
それが何を意味するものか、果たして。
●
新年早々悪いんだけど急ぎの事件なんだ。有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)はそういって灼滅者達を集めた。
「……武蔵野市がシャドウの攻撃を受けているんだ」
ざわりと、動揺が走る。
「第2次新宿防衛戦で撤退した、四大シャドウの一体、歓喜のデスギガスの配下、アガメムノンが灼滅者達の初夢をタロットの力で悪夢化して、それ尖兵へと変えて現実世界に出現させたんだ」
灼滅者の顔ににわかに緊張の色が浮かぶ。
「アガメムノンはボク達の拠点が武蔵野市にあることを知らないはずだから、この意図は『どこにあるか分からない、灼滅者の拠点を攻撃する』ためのものだと思うんだ。つまり武蔵野市周辺を攻撃したのは偶然なんだと思う。ついでにこちらの規模も分かってないみたいだしね、分かってたらもっと規模が大きくなっているだろうから」
それでも、とクロエは続ける。
「放っておいて被害が大きくなるのは避けなきゃいけないから、みんなには武蔵野市周辺に現れた悪夢の尖兵を倒してきてもらいたいんだ」
クロエはその悪夢の尖兵についての説明を始める。
「悪夢の尖兵は本当はソウルボードの外に出ることはできないんだ、けど初夢であることとタロットの力で無理やりに外に出しているみたい。だから1日経てば消滅しちゃうんだ」
ただその間暴れるので消滅を待っているわけにはいかない。
「悪夢の尖兵は最初は夜色のシーツを被ったお化けみたいな姿なんだけど、戦闘の時に本気になるとシーツを捨てて本当の姿を現すんだ」
それがどんな姿をとるのかと問えば彼女は答える。
「悪夢の尖兵の本当の姿は灼滅者が見た初夢が元になってて、戦闘方法や性質もその内容に沿ったものになるんだ。……正体がわかった時に何の夢が元になったか分かれば有利に戦えるかもだけど……、ちょっと霧をつかむような話だよね」
とにかく、とクロエは資料を閉じて灼滅者達に言う。
「年明け早々面倒な相手だけどささっと片付けてお正月休みを続けちゃおう。それじゃ、行ってらっしゃい!」
参加者 | |
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神坂・鈴音(魔弾の射手は追い風を受ける・d01042) |
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632) |
武野・織姫(桃色織女星・d02912) |
笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707) |
琴鳴・縁(雪花の繭・d10393) |
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709) |
只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402) |
秋山・梨乃(理系女子・d33017) |
●初夢の力
1月2日の早朝。いつもの日常よりもなお静かな町である。人々が生まれ故郷へ戻っていたり、あるいは夜遅くまで過ごしていて遅い目覚めを迎えるためか。いずれにせよより静かなのは変わらない。
「……一般人は、殆どいないようだな」
静まり返る道を行きながら秋山・梨乃(理系女子・d33017)は周りをうかがう。強いて言うのなら悪夢の尖兵が民家を破壊しようとする寸前に気にしなければならないくらいか。無論意識していく事に越したことはない。
「うんうん、誰かが気にしてくれると思ってたん。ホンマやで?」
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)がうんうんと首を縦にふる。誰かにぶん投げとか。
「あとは初夢の何ンやアレをアレしてアレやな。出てきたアレをアレして終わりや、簡単やな」
「アレって?」
「そりゃアレや」
「よくわからない」
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709)が問うが何一つ説明できていない。
「初夢から出てくる悪夢の尖兵を倒す、でいいのよね」
神坂・鈴音(魔弾の射手は追い風を受ける・d01042)が意味をきちんと言い直す。いまいちよくわからない相手ではあるがそのままにしておくわけには行かない。
「初夢を元にした悪夢を見せるとか、シャドウって性格が悪いよね……全力でやっつけて、気持ちを晴れやかにしよう!」
武野・織姫(桃色織女星・d02912)がぐっと拳を握る。
「……初夢の力、か。シャドウにとっても年始は特別ということかな?」
彼女の隣で笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)が瞑目して呟く。少なくともこのタイミングでなければこのような事件は起こせなかったようなので特別と言っても間違いなのだろう。
「誰の初夢が出てくるんでしょうねー。ハコ、ちょっとだけ楽しみです」
「どんな敵なんでしょう? 精神的ダメージの少ない感じだと良いんですが……」
どことなく楽しそうな只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)の言葉とは真逆の雰囲気を琴鳴・縁(雪花の繭・d10393)は漂わせている。そんな話をしていると町中を壊すものはないかとさまよっている悪夢の尖兵を発見する。破壊活動をする前にと灼滅者は悪夢の尖兵に殴りかかった。
●悪夢の尖兵
現れた灼滅者達に対して悪夢の尖兵はふよふよと浮きながら距離を取る。とりあえずこの状態でも戦えるらしい。本気をだすのはもう少し後ということだろう。
「まずは態勢を整えよう!」
元気よく織姫が預言者の瞳で命中精度を高めて相手をうかがう。恐らく相手は強めの眷属というところだろう、灼滅者達は慣れた調子で戦いを進めていく。
「……何か、今の所普通?」
鈴音がマジックミサイルをぶつけながら呟く。取り立てて今の所特殊な攻撃をしてくるわけではない。相手の攻撃を防いでいる縁や琥珀や葉子、そして彼女らのサーヴァントにしても強力な一撃を受けたとかそんな雰囲気ではない。
「ミケ、回復を揃えるのだ」
梨乃がバックアップすれば深い傷以外は大体癒える。よほどの長期戦にならないかぎりは安全に戦えるだろう。だからと言って油断できる相手でもないが、かといって手強い相手というわけでもない。
「ククク、これなら楽勝やなあ!」
「そうだと良いんだが……」
右九兵衛の旗の立ちそうな言葉に鐐が小さく呟く。それなりに強烈な攻撃も加えているのだが、相手が弱った様子があまり見えない。
「ちょっと防御厚すぎ?」
琥珀がラウンドフォースの装甲の傷を見て呟いた。ディフェンダーが互いにかばいあっているせいで集中攻撃にすらなっていないし。
「……清助にあげるジャーキー、少なめでいいでしょうか」
縁の言葉を聞いて清助はぽかんと口を開けた。すぐさまに悪夢の尖兵に向かって唸るが相手はふよふよと適当に攻撃しているだけだ。
「あのー、本番まだですかー?」
このままだと調子が上がらないと葉子が相手に尋ねる。このままだとメリハリもないまま色々終わってしまう。それはいけない。大体楽しみにしてたのに正体が現れないのはちょっと寂しい。どんなにポーズとか決めてもこれでは盛り上がらない。
彼女の言葉に答えるように悪夢の尖兵の動きがピタリと止まる。同時に灼滅者達の表情にも変化が現れる。
鐐の表情にはにわかに影が差し、織姫もキッと唇を結ぶ。縁が小さくため息を付けば、梨乃は何かを恐れるような表情を浮かべる。鈴音が疑問符を浮かべた表情で、琥珀は何時も通りの表情。右九兵衛は意味のない笑顔を貼り付けていて、葉子は何が出るのかを楽しみにしている笑顔だった。
そんな灼滅者達の集中する視線を前に、今、夜色のヴェールが開かれる。
●誰の?
灼滅者達の脳裏に疑問符が浮かぶ。
「アレ誰のや? あ、俺はカマドウマが追いかけてくるやつやから違うな」
右九兵衛が呟く。なんでも無視すると弱体化するとか、無視だけに。寒い時期だと思わない? そんなのだから悪夢の尖兵に無視されたのでは。
「みかんじゃないし、鷹がイーとも鳴かないから私のでもないかな」
鈴音の見た夢はまさに夢と言う不条理な代物だったようだ。まあ普通の夢は大体そんなものである。
「うーん、ちょっと残念だったかも」
ダークネスと人間と灼滅者のライブではなかったのを見て葉子は少しだけ肩を落とす。まあもともと悪夢でもないし、現実でやる事に意味のある話だろう。
「よかった、お姉ちゃんじゃない」
「……俺のでもない」
梨乃が汗を拭い余計なことをせずに済んだとほっと一息つく。鐐も彼女とは別ベクトルで気負いを解く。少なくとも彼にとっては未だその時ではないということだろう。
「良かった、もう一度あの悪夢を見なくて……」
織姫も相手の姿を見て、もう一度悲劇を今度は自分の手で起こさなくて済むと胸をなでおろす。ガラスの脚を自分の手で砕くのは、苦しい。
「……おしい。正月っぽい食べ物というところまでは近いのだけれども」
琥珀の悪夢は鏡餅怪人だったそうだ。つまりこれいがいでお正月っぽい食べ物というと……。
「……なんで……私のなの……」
縁がへんにょりとした。包んでいる袱紗を開けるように夜色の衣を外した後に現れたのは重箱に収まったおせち料理だった。
「……食べていい?」
とりあえず食べ物ネタなので琥珀がラウンドフォースに乗って突っ込んでいった。彼女の狙いは甘い栗きんとん、とりあえずダメージ与えるついでにおこぼれにあずかればいいなあと言う算段。
「あ、ちょっと待って!」
縁が言うより早く接近した琥珀が重箱の中の者を取ろうとすると、鷹が飛んできて奪い去っていった。
「……こういうことする鷹なのね」
鈴音がどこからか飛んできた鷹を見て呟いた。鳶に油揚げを、ならぬ鷹におせち料理をである。
「見ろ、いつの間にか箱の中身がナスになっている」
「ハコの中はナスじゃないですよー?」
「いやそういう意味ではなくてな」
重箱の中身がナスに変わっているという意味である。そんなやり取りを鐐と葉子がしている隣で織姫が呟く。
「……鷹とナス、そうすると次は……」
「おお! 俺にも富士山の姿が見える! ちゅうか寒っ!?」
なんかおせち料理と化した悪夢の尖兵を中心に吹雪が舞った。ついでにおせち料理も凍っている。
「……これはどういう悪夢なのだ?」
梨乃が縁に問うと、彼女はゆっくりと答える。
「一富士二鷹三茄子でめでたいかと思いきや、用意した手作りお節が全て凍っていたり鷹に掻っ攫われたり茄子に変化して結局食べられない夢……」
色々とご愁傷様です
●返品します。
「それで、あれ何が弱点なの?」
鈴音が飛んでくる凍ったナスを振り払いながらこの悪夢を見た人間に問えば本人はなんとなくがっくりとした表情で口を開く。
「……今から行います」
どことなく虚ろな目で立ち上がり縁は台詞を読み上げる。
「あーお節食べてないわー忘れてたわー、料理下手だから作って無いし……」
「あー相手にせえへん系な、分かるわー。……俺ももうお節はいらんわ、腹いっぱいやし」
右九兵衛が意味を察して適当に言うなんとなく重箱の動きからアグレッシブさがなくなった気がする。あと琥珀が辛そう、ブラックホール胃袋には堪えるのだろう。
「エクスブレインの予知に従うなら、こうすれば良いのだな」
梨乃がなるほどとうなずきながら「ミケ、遠慮なく引っ掻いてやれ」と相方に攻撃を支持する。
「アイドルは少ししか食べられません!」
「私も馬みたいにたくさん食べられません」
「悪いが俺はお節は作れないのだ、趣味レベルだからな。だから必要ない」
いらないと断定されたお節の形をした悪夢の尖兵はそのまま動きを止めたところを灼滅者達にボコられて消滅していった。
「……お腹の空く相手だったの」
琥珀が死線をくぐり抜けた戦士のような表情で呟いた。
「お姉ちゃんに秘密を押し通せてよかったのだ」
梨乃がぼそりと呟く。果たして本当にそれで良いのだろうか。
「私のもならないだろうなって思ってたけれど、なると大変そうよね」
「そやなあ。……でもこんなんなるんやったらちょいエロい夢でも見れたら良かったのになあ」
右九兵衛に鈴音から冷たい視線が向けられる。まあ本人は気にして無さそうだし。
「とりあえず悪夢は倒したんだし、気持ちを晴れやかにしよう!」
凹んでいる縁を励ますように織姫が声をかける。
「厄落としに近くの神社にでも行かないか、その後はぜんざいでも食べよう」
「神社に行くなら今年こそライブが実現しそうだから、うまく行くようにお願いしたいです!」
葉子もその気になると縁も深くため気を吐いてから、気を取り直して居住まいを正す。
「そうですね、ぜんざいのあとはスイーツおせちでも食べましょう」
色々と吹っ切れた表情の縁と、ある意味彼女以上にダメージを受けていた琥珀が甘味のワードを聞いて目を輝かす。かくして武蔵坂市に現れた悪夢の尖兵は払われたのであった。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年1月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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