ソロモンの大悪魔達~魔性の獣ヴァレフォール

    作者:天木一

     夜の帳が下りた山は闇に包まれている。その麓にあるもう既に誰も使わなくなった屋敷は埃だらけで、電気も通っておらずもはや山と同化しているようだった。
     そんな暗闇の中、誰も居ないはずの屋敷内の広間に突然現れた魔法陣が輝き出す。光が周囲を照らし限界まで達した時、魔法陣は砕け散り、眩い光は一瞬にして消え去った。
    『ハッ、ハハッ……アハハハハハハッ、地上だ! とうとう出てこれた!』
     目の眩むような光の残像の中から女性の声が聴こえる。人影がするりと猫のように音も無く着地した。その足は女性のものではない、体毛に包まれた獣の足、そして長い尻尾が鞭のようにしなって床を打つ。
    『体が自由に動かせる! 窮屈な封印とはこれで永遠におさらばだよ!』
     腕を振るうとその爪が容易く周囲の壁を切り裂く。その腕もまた獣の姿をしていた。
    『ん~、久しぶりの外が埃っぽいのが残念だけど、それでもやっぱり娑婆の空気は最高だ!』
     月明かりが天窓から室内を照らす。そこにはライオンがいた。ネコ科の俊敏で力強い手足。だがその胸から上は獣ではない。体毛は胸のあたりから薄くなり、柔らかな乳房と、勝気な顔は人の女のそれだった。動く度に長い髪が鬣のように揺れる。
    『さーて、まずは何をしようかね~。手下でも見つけるか、それとも何か奪いに行こうか!』
     うきうきとした様子で半獣半人の女が体を動かす。
    『ああ、だけどやっぱり体が重いねぇ。暫くは休養して英気を養わなくっちゃ駄目か……』
     自らの体を見下ろし、その身に宿る力が全く足りていない事に肩を落とした。
    『出たらあれをしようこれをしようと思ってたけど、まだ少し我慢しなくちゃいけないね』
     その背中から巨大な鷲の翼が広がり、周囲の埃を消し飛ばす。そして体を包み込むように重なった。
    『だけどもう少しの辛抱だ。今までと違って先が見えているんだからねぇ……。力が戻ったら何をしようか、今から楽しみで仕方ないよ!』
     女の口の端が吊り上げ、休息する獣のように体を丸めるのだった。
     
    「みんな、大変な事態が予知されたんだ!」
     慌てたように能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)がやって来て灼滅者達に声を掛ける。
    「封印されていた強力なソロモンの悪魔達が、一斉に解き放たれて出現しようとしているみたいなんだっ」
     第2次新宿防衛戦で灼滅したソロモンの悪魔・ブエルを、裏で操り、情報を集めさせていたのも、彼らであったらしく、これまでブエルが集めた情報を元にして、大攻勢を掛けようとしているようだ。
    「ブエルと同等以上の力を持ったソロモンの悪魔が、全部で18体も現れるんだ」
     ごくりと誰かが唾を飲む。それだけの戦力が揃ったならば未だかつて無いダークネスの勢力と成り得る。
    「相手は強力だけど、今なら付け込む隙があるよ。封印から脱出した直後は、まだ力が制限されていて、配下も呼び出せないような状態らしいんだ」
     全力を出せない状態ならば、こちらに勝ち目も僅かに出てくる。
    「それと、それだけ強力なソロモンの悪魔が複数同じ場所に現れれば、他のダークネス達に察知される可能性があるんだ。だから、ソロモンの悪魔は一体ずつ別の場所に現れるみたいだよ」
     つまり現れた一体だけを相手に戦える今回は、ソロモンの悪魔を倒す最大のチャンスでもある。
    「敵も十分に警戒しているようで、多くの戦力を投入すれば気付かれて逃げられてしまう。だから作戦に参加できるのは敵に察知されない8名となるよ」
     8人の力だけで強力なソロモンの悪魔を倒さなくてはならないのだ。
    「今回は非常に難しい作戦だよ。敵が万全でなくとも勝ちを拾える確率は低いんだ。だけど成功すれば大金星といえる成果を得れる。僕にはがんばってとしか言えないけど、みんなの無事と成功を祈ってるよ」
     誠一郎が真剣な表情で灼滅者達を見渡す。その瞳が心配そうに揺れると、灼滅者達は力強く頷いて任せろと胸を張る。
     厳しい戦いに参加する覚悟を決めた灼滅者は、勝利への道を切り開くため作戦を練り始めた。


    参加者
    龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    東雲・菜々乃(あけましておめでとうですよ・d18427)

    ■リプレイ

    ●洋館
     山道を月明かりを頼りに進むと、緑に覆われ既に使われなくなって久しい朽ちた洋館が現れた。
     箒に乗ったアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)がぐるりと屋敷の上を周回し天窓を見下ろす。曇った窓からは広間に眠る一匹の獣の姿がうっすらと見えた。それを確認するとすぐさまアリスは地上に降りて仲間と合流する。
    「入ってすぐの広間に居たわ、それとどの窓も錆付いていて開けるのは大変そうよ」
    「だとすると忍び込むのは難しそうですね」
     龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)は周囲を警戒しながら、音を出さぬようにゆっくりと歩を進めドアを確認する。ドアも同じように古びており蝶番が錆びついていた。
    「圧倒的格上を相手に、しかも敵のデータはまったく不明か。今まででも一番厳しい戦いになるな」
     険しい表情の比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)が、それでも負けるつもりはないと気を張る。
    「……強力な、悪魔が、18体……出来る限りの事を、やりましょう」
     これから起きる死闘を思い、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は覚悟を決めて戦いに臨んでいた。
    「一気に踏み込むの!」
    「ん、迅速に行動ね」
     小さな声で気合を入れた今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が呼びかけると、新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)が頷く。仲間達も突入するタイミングを計る。
    「ヴァレフォール……明らかに強敵ではありますがここで撃退する気で全力で挑みましょう。万が一負ける事はあっても当分出てこれないくらいにはしましょう」
     東雲・菜々乃(あけましておめでとうですよ・d18427)が仲間と視線を合わせ皆の準備が整ったと頷き合う。
    「ソロモンの悪魔も、いよいよ大物登場ね。いいでしょう、相手になるわ。今の灼滅者がどんな存在か教えてあげる」
     アリスがカードを取り出す。
    「用意はいい? それじゃ始めましょ。Slayer Card,Awaken!」
     力が解放されると同時に、ドアに魔法の矢を撃ち込んだ。衝撃にドアが砕けて吹き飛ぶ。
    「……行くわ」
     戦いの前でも表情を変えずに、ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)が踏み込むと同時に折ったケミカルライトを部屋にバラ撒く。すると月明かりしかなかった室内が突然明るく照らされた。広間の中央、そこには一匹の翼を持つ獣の姿。そこへ灼滅者達が殺到する。だが間合いに入る前に獣を包んでいた巨大な鷲の翼が羽ばたいた。同時に魔力が吹き荒れ灼滅者達の足が止まる。
    『なんだいなんだい、レディの住処に勝手に入ってくるなんて、アンタ達泥棒かい?』
     獣がすっと立ち上がる。その上半身は美しい女の姿をしていた。
    『それともこのアタシ、ヴァレフォール様を狙ってきたのかい?』
     ヴァレフォールが挑発的な笑みを浮かべ、灼滅者達を見渡す。
    「どんな相手だって、紅葉達がやっつけるの!」
     きっと視線を返した紅葉が漆黒の弾丸を撃ち出す。敵はそれを翼を盾にして受け止めた。

    ●大悪魔
    『そうかいそうかい、なら目覚めの運動といこうかねぇ。少し付き合ってもらうよ』
     楽しそうに笑うヴァレフォールはその手に生える鋭い爪を舐める、そして音も無く一足で間合いを詰めると紅葉の首を狙って腕を横に薙いだ。
    「少しといわず、眠くなるまで付き合います」
     そこへ割り込んだ光理が漆黒の十字剣で受け止める。だが勢いに押され爪が肩に刺さり吹き飛ばされた。
    「ん、気を付けてね」
     七葉が黄色い標識を立てて前衛の仲間の傷を癒すと同時に耐性を与える。
    「もう一度眠らせてあげる」
     アリスが占い札を投げる。敵は躱そうとするが、半歩間に合わずに腕に張り付いた。符が意識を惑わせ上体がふらつく。
    「……好機、です……」
    「……一緒に仕掛けるわよ」
     蒼が帯を、ライラが肩のベルトから蒼糸を撃ち出し、敵の腹と胸へ突き刺した。
    『痛……思い出した。これが痛みってものだったわね……お陰で目が覚めたわ。お礼にお返ししてあげる』
     獣の手が帯を引き抜くと血が滴り落ちる。ヴァレフォールが飛ぶようにライラに接近して両腕を振るう。 守るように前に出たウイングキャットのノエルとプリンが代わりに攻撃を受けて壁に叩きつけられた。
    「まだ本調子でなくてもこの強さか」
    「それでも倒してみせるの」
     逢真が飛び蹴りを浴びせて敵の動いを止めると、紅葉が影を纏った拳で顔を殴りつけた。
    『この程度でアタシを倒すだって? お嬢ちゃん、身の程を知るべきよ』
     爪が左右から紅葉を襲う。
    「身の程が知らずと分かっていても、挑ませてもらいます」
     菜々乃がキッチンミトンとナイフで受け止める。しかし衝撃に腕が弾かれ隙だらけの腹に鋭い爪が食い込んだ。
    『へぇ、じゃあどれくらいで音を上げるか試そうか』
     爪を捻り傷口を広げる。血が溢れツンと鉄のような匂いが漂う。
    「そんな余裕すぐに消してあげるわ」
     横から銀のオーラを纏ったアリスが手に平に凝縮したオーラを撃ち出す。敵は咄嗟に翼でガードするが衝撃に体が宙に浮いた。
    「ダイダロスの迷い道、癒し守れ」
     七葉が帯を伸ばし菜々乃の傷口に巻きつけると、血が止まり帯はそのまま身を守る防具と化した。
    「……どこに、封印、されていたのか、知りませんが……次は、奈落に、落とします……」
     そこへ蒼が跳躍し、獣の如く変化させた腕を振り下ろし、地面に叩き落とした。
    「……力を取り戻す前に押し切るわ」
     そこへ間髪容れずライラが魔力の弾丸を撃ち込む。
    『いいわねぇ、ずっとこうやって好きに動き回って暴れる日を夢見てたんだよ』
     ヴァレフォールが跳ねるように間合いを開けた。そして右へ左へと猛スピードで動き出し、分身したように見える速度でライラを襲う。庇おうと飛び込んだノエルが一瞬で四方から引き裂かれて霧散した。
    『ほらほら、避けないと死んじまうよ!』
    「見えなくても耐えてみせます!」
     更に迫る追撃を菜々乃がオーラを纏って受け止める。すると標的を変えて爪が菜々乃の体を裂いていく。菜々乃は気合を入れてオーラを増し傷口を塞いだ。
    「何とか動きを止めなければ」
    「注意を引くの!」
     紅葉がオーラを撃ち出すと敵は軌道を変えて避ける。そこへ逢真が体当たりするように巨大な十字を構えて飛び込み、敵の体にぶつけて足を止めた。
    「調子に乗らすと危険ですね」
     背後から光理が剣を振り下ろし、背中を斬りつけた。

    ●死闘
    『チッ、一人頭の力は大したことないけど、群れると厄介なタイプって訳か。なら一人ずつ始末していけばいいわね』
     飛び退き獲物を狙うようにヴァレフォールの鋭い視線が七葉に向けられる。仲間が守ろうと動いた瞬間、瞳が輝いた。魔力が広がり冷気が吹き荒れる。攻撃を受け止めるようにプリンが前に飛び出る。
    「この手の攻撃をしてくるのは予測済みよ」
     迎撃しようとアリスが白光の剣を振り下ろし打ち消そうとするが、圧倒的魔力に剣ごとその腕が凍りつき、氷はどんどんと腕から体の方へと侵食していく。
    『予測していたからって実力の差を埋めるには足りないんだよ!』
     周囲を覆う魔力が直撃したプリンは凍結し、落下したその体をヴァレフォールが踏み砕いた。
    「すぐに解凍します」
     菜々乃がアリスの背中に触れ気を送ると、腕の感覚が戻り始める。
    『まずは回復役から潰していこうかねぇ』
    「先にわたくしがお相手します」
     ヴァレフォールの前に光理が立ち塞がる。互いが睨み合い光理が剣を振るう。キンッと甲高い音と共に獣の爪がぶつかっていた。だがその一瞬の攻防の間に背後に回った敵が光理の背中に爪を突き立てていた。
    『ほら、これで邪魔は無くなった』
    「……まだ、ボク達が、います……」
     蒼が蝋燭に火を灯すと、燃え上がった火の花が襲い掛かる。敵がそれを躱そうとしたところへ、ライラが死角からチェーンソー剣を振り抜いた。
    「……達と言ったわよ」
     脇腹に当たった刃が駆動して肉を抉り取り、炎が獣の体を包み込む。
    「個々の力が弱くても、合わせれば強くなれるの!」
     懐に飛び込んだ紅葉が拳の連打を叩き込む。
    『離れな!』
     ヴァレフォールが翼を羽ばたかせると、暴風が巻き起こり紅葉とライラを壁に叩き付けた。
    『さあ、これで守る奴はもう居ないさ』
    「ここに居るよ」
     勢いをつけた逢真が背中に魔力を込めたロッドを叩きつける。よろめきながら振り向いたヴァレフォールは逢真の首目掛けて腕を振り抜いた。
     そこへ菜々乃が腕を差し込む。爪が深く突き刺さり二の腕の辺りから骨が覗き千切れそうになっていた。
    『邪魔するならアンタから消してやろうか?』
     ヴァレフォールが反対の腕を振り上げる。
    「そうはいかないわ」
     七葉が標識を突き立てる。力が仲間に流れ込み傷を癒す。そこへアリスが背中から剣を突き立て、切っ先が腹から出た。
    「どう? 実力の差を埋めるのにまだ足りないかしら」
    『そんな、まさか……このアタシが……なんてね』
     敵の姿が掻き消える。次の瞬間アリスの四方からヴァレフォールが襲い来る。爪が太腿、脇腹、胸、首を切り裂き血が噴き出した。崩れ落ちるようにアリスは倒れながらも無意識に魔法の矢を撃ち出す。それは敵の翼を貫いていた。
    「かっは……」
    『ハァハハッ、流石に痛いったらないね、けどこれで一番ヤバイ攻撃をしてくる相手は潰せた。予定通りってことさね』
     アリスが血に溺れて意識を失ったのを確認して、口の端を吊り上げたヴァレフォールは瞳に力を宿して自らの腹に空いた穴を塞ぐ。
    『次は誰を潰そうかねぇ』
    「これ以上はやらせません」
     好きに動かせないよう光理が間合いを詰める。敵は迎撃しようと爪を構えるが、その直前に光理は止まって歌い出す。美しい旋律がヴァレフォールの脳を揺さぶる。
    「血止めだけでも」
     七葉がアリスの全身に帯を巻きつけて出血を止めた。
    「……これ以上、攻撃を受ける、前に、決めます……!」
     動きを止めた敵の腹に蒼が巨大な鋏を突き立てる。刃が長い髪ごと肉を切り裂き血が溢れ出た。
    「3年間、戦いの中で積み重ねた俺の全てを出し切り、乗り越えて見せる!」
     続けて逢真が助走をつけて跳び、流星のように敵の顔面を蹴り抜いた。
    『やってくれたね、倍にして返してやろうか』
    「まだ終わりじゃないの!」
     頭を振って意識をはっきりさせた敵に、紅葉が影を纏った拳で殴り上げた。
    「……これで終わらせるわ」
     仰け反ったところへライラが漆黒の弾丸を胸中央目掛けて撃ち込む。しかし人間ならば心臓を貫いた一撃は悪魔に対する致命傷とは成り得なかった。
    『久方ぶりの戦いで痛みも楽しめたけど、流石にそろそろ限界ってもんさね。ここからはこちらの番だよ』
     ヴァレフォールが翼を羽ばたかせて紅葉とライラを打ち上げ、宙に浮いた2人を狙って飛ぼうとする。
    「飛ばせません!」
     菜々乃が傷の残る翼に刃がジグザグになったナイフを突き立てる。ばさりと左翼が半分程で千切れ落ちた。
    『アタシの自慢の翼を! この小娘がぁ!』
     初めて感情を剥き出しにしてヴァレフォールが菜々乃を蹴り上げる。そこへ右の貫手で腹を貫き壁にゴミでも捨てるように放り投げた。
    『これで2人、そろそろ心が折れたかい?』
     厭らしい笑みを浮かべる敵を前に、傷だらけの灼滅者達は奮い立つ。敵もまた癒えぬ傷を幾つも負っている。ここが踏ん張り時だと立ち向かう。
    「諦めるくらいなら、最初から戦いを挑んでないの!」
     紅葉が漆黒の弾丸を撃ち出す。敵は弾丸を手で弾く、だがその間にライラが間合いに入っていた。
    「……もう片翼ももらうわ」
     ライラが駆動するチェーンソー剣を振り下ろす。
    『何度も同じような手を食らうと思ってるのかい?』
     ヴァレフォールは振り向きながら腕を振い、剣が弾かれ隙が出来た。そこに貫手を構える。
    「……攻め、続け、ます……」
     だがその一撃が放たれる前に、蒼が横から風の刃を放って胴体を切りつけた。
    「大悪魔だろうと倒せない相手じゃない!」
     追い込むように逢真がロッドをフルスイングで腹部にぶちこみ、その反動でもう一度振り抜く。だが攻撃は空を切った。見ればその手からロッドが消えていた。
    『探し物はこれかい? 全力が出せないからって舐められたものだね』
     ロッドはいつの間にか敵の手にあった。一目見るとつまらぬ物のように放り捨て、ヴァレフォールの鋭い爪が逢真の胸を狙う。
    「そうはさせません」
     光理が剣を差し込んで爪を受けようとする。
    『ハッ、庇いにくると思ってたよ。これで仕舞いだ』
     ニヤリと笑ったヴァレフォールは狙いを変えて光理の手首を貫く。力が抜け剣がするり手から零れて床に刺さった。そこへ爪が襲い来る。
    「まだ、終わってないよ」
     七葉が帯を光理の手首に巻きつけると、戻った握力で剣を抜いた光理が腹に突き刺す。
    『本当に諦めの悪い奴等だね』
     ヴァレフォールは腕を一振りし、光理の首から胸にかけて深い爪痕を残した。血が噴き出し光理は崩れ落ちる。
    「……その通りよ」
     一瞬の隙に近づいたライラが背後からチェーンソー剣を振り上げ、残った翼を斬り落とした。
    『アタシの翼を……っ、いいわ、アンタ達の事を強敵と認めてあげる』
     口元の笑みを消したヴァレフォールの姿が消える。ライラが咄嗟に振り向く、そこには爪を突き立てようとする敵の姿。ライラはブーツで爪を蹴り上げる。だが次の瞬間には横から脇腹を刺されていた。更に敵は頭上から爪が振り下ろされる。
     敵の攻撃を止めようと紅葉と蒼が飛び掛かる。すると敵は攻撃を防ぎながら反動で間合いを開ける。そこには逢真が待ち構え巨大十字架をぶつけて動きを止めた。そこへ七葉によって手当てを受けたライラがチェーンソー剣を振り下ろす。その一撃は肩口から肉を抉り胸へと届くはずだった。だが肩口で剣は止まっている。
    『盗まれた後の驚いた顔ってのは何度見てもイイもんだね』
     ヴァレフォールの手から駆動部のチェーン状の刃がじゃらりと床に落ちた。ライラは肩ベルトから糸を射出しながら距離を取ろうとする。だがそれを躱しながら踏み込んだ敵の爪が一閃し、逆袈裟に腰から肩へと爪跡が刻まれた。

    ●逃走
    「ん、ここまでね」
     ライラが倒れたのを見て七葉が声を掛ける。
    「悔しいけど、しょうがないの」
     紅葉が光理に近づき、七葉がアリスを担ぐ。
    『諦めるのかい?』
    「次は必ず倒してみせる」
     悔しさを滲ませながらも逢真が菜々乃を担ぎ上げる。蒼もライラを背負い壊れた入り口へと駆け出す。
    「イイ運動になったよ。久方の地上で楽しませてもらったんだ、見逃してやるからさっさと消えちまいな」
     興味を失ったようにヴァレフォールは背を向け、獣が傷を癒すように丸まって眠り出した。
    「……後一歩、届きません、でした……」
     蒼が洋館を振り返る。ああすればよかったこうすればよかったと考えが巡る。だが今は足を動かすしかない。灼滅者達は洋館が見えなくなるまで懸命に駆け続けた。

    作者:天木一 重傷:龍海・光理(きんいろこねこ・d00500) アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068) 東雲・菜々乃(本をください・d18427) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:失敗…
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