アガメムノンの初夢作戦~悪夢の尖兵を打ち砕け

    作者:のらむ


     1月2日、午前5時。武蔵野周辺のとある工事現場にて。
     正月という事もあってか普段よりも更に外を出歩く人々をは少ないこの場所に、突如として何かが姿を表した。
     全身を夜色のシーツの様な者に覆われ、中身の分からない何か。
     その正体は、悪夢の尖兵。誰かの初夢から生み出された異形の存在である。
    「………………」
     悪夢の尖兵はゆらりとシーツを揺らし、建設途中の建物に近づいていく。
     すると尖兵は建物に向けいくつものサイキックを放ち、暴れまわる。
     その暴虐は建物が完全に崩壊してもなお止まる事無く、唯ひたすらに周辺を破壊していくのだった。


    「さて、新年早々に申し訳ありませんが、至急の依頼があり皆さんを呼び出させて貰いました。ソロモンの大悪魔たちとはまた異なる、新たな脅威が現われました」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「第2次新宿防衛線で撤退した四大シャドウの一角、歓喜のデスギガスの配下、アガメムノンが、灼滅者の初夢をタロットの力を使い悪夢化し、悪夢の尖兵を現実世界に出現させたようです。……タロットの力がどの様なものか分かりませんが、こんな事も出来たんですね」
     アガメムノンは灼滅者の本拠地が武蔵坂であることを知らない筈なので、この作戦は『どこにあるか判らない灼滅者の拠点を攻撃する』為のものだと思われる。
    「ですがアガメムノンは武蔵坂学園の場所だけではなく規模についても知らなかったようで、この襲撃が直接武蔵坂学園の危機になるという事はありません」
     しかし放置すれば大きな被害が出るのも事実。速やかに灼滅せねばならないだろう。
    「悪夢の尖兵は本来、ソウルボードの力で外に出る事は出来ません。今回の事件は初夢という特殊な夢である事と、タロットの力で無理矢理発生させているようです」 
     その為今回出現する悪夢の尖兵は24時間程度で消滅すると思われるが、それまでの間はダークネス並の戦闘能力をもって破壊活動を行うため、時間切れを待つことは出来ないとウィラは言う。
    「悪夢の尖兵の外見は夜色のシーツをかぶったまさにおばけといった格好をしていますが、戦闘時に本気になるとそのシーツを捨て、本来の姿を見せる様です」
     悪夢の尖兵の本来の姿は、灼滅者が見た初夢が元となっており、戦闘方法や性質などもその初夢の内容に準じる様だ。
    「正体を現したときにその初夢の内容が何かを判断できれば有利に戦えるかもしれませんが、かなり厳しいかもしれません」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。正月早々厄介な事件だらけですが、アガメムノンの奴に、武蔵坂はこの程度でやられるか舐めるな。と、思い知らせてやってください。それでは、お気をつけて」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)
    泉・火華流(自意識過剰高機動装甲美少女・d03827)
    秋良・文歌(死中の徒花・d03873)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)
    ジェルトルーデ・カペッレッティ(幼きアッセディグイーダ・d26659)
    芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)

    ■リプレイ


     冷たい空気が広がる午前5時の工事現場。
     アガメムノンの手によって生み出された悪夢の尖兵が出現するこの場所に、灼滅者たちは集まっていた。
    「えっと、初夢をですか……。わたしたちの夢がって考えちゃうと、被害が出ちゃう前に頑張って倒しちゃいましょう」
    「人の悪夢に姿を変える尖兵か……なんていうか、凄く陰湿な戦略だよね」
     アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)と泉・火華流(自意識過剰高機動装甲美少女・d03827)はそんな事を言いつつ、じっと尖兵の出現を待っていた。
    「一体誰のどんな夢が具現化すんだろーな。ちなみに俺の初夢は乳丸出しの可愛い子ちゃん達が……」
    「あーうん、大体分かったからもういいよ。まあアタシの夢も似た様な系統だったけど」
     影道・惡人(シャドウアクト・d00898)と一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)がそう言った直後、灼滅者の眼前にズズズとどす黒い影が集まっていく。
    「あっ、やっと出て来たね! おばけは怖いけど、勇気だして、たおしちゃお!」
    「『Kill me if you can』……さっさと倒して、今度こそいい夢でも見るとしようか」
     ジェルトルーデ・カペッレッティ(幼きアッセディグイーダ・d26659)と芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)がスレイヤーカードを解放すると、殲術道具を構え悪夢の尖兵と相対する。
    「…………」
     夜色のスーツを被った尖兵は様子を窺うようにその場に漂い続けていたが、
    「ああ、そういえば本気にならなきゃ正体は現さないんだったかしらね……だったら、これでどう?」
     秋良・文歌(死中の徒花・d03873)が白き斬撃を放つと、尖兵が身に纏うシーツが切り裂かれその姿が露わとなる。
    「これは正義……俺の行いも、俺自身も正義なんだ……」
    「ああ、成る程ね……」
     手に血塗れの両刃槍を持つ己と瓜二つの男の顔を見ながら、水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)は静かに呟いた。
    「あれは、俺の悪夢だ」


    「お前らは、悪か……? なら、全員討ち果たすのみだ」
     悪夢の尖兵は双刃の槍を振るうと、そこから放たれた巨大な斬撃が灼滅者達を襲う。
    「中々派手にやってくれんじゃねーか。……んで? あの正義フェチ野郎になんか弱点はあんのか?」
     斬撃を避け尖兵に向けオーラの塊を撃ち出した惡人は、旭にそう問いかけた。
    「ああ、アイツは……悪に対して一方的に制裁を加えるばっかりで反撃され慣れていない。『痛みを与える』事で怯む可能性がある」
    「痛みね……とにかく守るより攻めろって解釈であってる? そうと決まればとにかく攻撃しまくるよ」
     旭の答えに聖は頷くと、『エンゲージ・ソウル』の名を冠す指輪に魔力を込めていく。
    「三が日の日の出前にこんな場所に来る人なんかいないだろうけど、まあさっさと倒しちゃおう」
     そう言って放たれた魔の弾丸が、尖兵の胸を貫き赤く染めた。
    「グァァ……!!」
    「確かに痛みは感じてるみたいだね。だけどまだまだ足りないみたい……行くよ、ペテっちゃん」
     聖はそのまま交通標識『ラブ・トラフィックサイン』を構えると、ビハインドの『ソウル・ペテル』と共に尖兵に突撃する。
    「そのまま雁字搦めになって動けなくなっちゃえばいいんだよ」
     聖は赤き電光を発する標識を脳天に振り降ろし、ペテルが放った青き花びらの如き霊力が尖兵の身体を蝕んだ。
    「この隙に、もう一撃叩き込んでおくなあ」
     聖の攻撃の直後飛び出した優生が魔力を帯びた杖を叩きつけ、尖兵の体内を一瞬にして吹き飛ばした。
    「ガッ……! 正義の為に……!!」
    「私の悪夢とは随分毛色が違うみたいだけど……これはこれで厄介みたいだね」
     火華流はエアシューズで滑走し、『ミレニアムガトリングガン』の狙いを定めていく。
    「武蔵野を破壊させない為にも、ここで倒させて貰うよっ!」
     そして放たれた無数の燃え盛る弾丸が、尖兵の全身を貫き焼け焦がしていく。
    「消えるんだ……!!」
     弾丸を受けた尖兵は、激しい風の刃で火華流の身体を鉄骨まで吹き飛ばした。
    「クッ……! だけど、ここからなら……」
     鉄骨に叩きつけられた火華流はそのまま鉄骨を蹴り飛び出すと、『ナイトメアブレイカー』のジェット噴射を利用し一気に尖兵の死角まで回り込む。
    「……ここだよっ!!」
     そして死角から放たれた重い杭が尖兵の身体に突き刺さり、その身体を構成する影を粉砕した。
    「攻撃が当たる、なら、おばけだって、怖くない! 多分!」
     火華流の攻撃によろめいた尖兵に接近したジェルトルーデは渾身の力で杖を振り降ろし、脳天に叩きこむ。
    「自分と瓜二つの誰かの夢……わたしの見た夢に近い気もしますけど、これは若干血生臭いですね」
     アイスバーンはクロスグレイブ『Sleepy Hollow』を構え、尖兵にその銃口を向ける。
    「とにかく痛く……でしたら、氷漬けにしてあげますよ」
     やたらとファンシーな発射音と共に放たれた光の砲弾は尖兵の胸に直撃し、その身体を凍てつかせる。
    「えと、まあまあいい感じ……ですね。次はどうしましょうか」
     しばし思案したアイスバーンだったがすぐに足元から数匹の羊の影を呼び起こした。
    「ジンギスカンさん、食べちゃって下さい。他の皆さんも頑張……いや、やっぱりいいです」
     するとその羊の中でも首長の『ジンギスカンさん』が尖兵に飛び掛かり、その身体に勢いよく喰らいついた。
    「…………離れろ」
     尖兵は膨大な殺気を放ちアイスバーンに反撃するが、
    「結構迫力ありますね……えっと、今日はちゃんと働いて下さいね?」
     アイスバーンの身体をオーロラ様に美しいリボンが包み殺気を防いだ。
    「それなりに戦闘能力はあるみたいだけど……ま、とりあえず自分の役割を果たすとしましょうか」
     尖兵の殺気が晴れた直後文歌は動き出し、黄色くスタイルチェンジさせた標識を掲げると仲間たちの傷が癒えた。
    「初夢とタロットを利用して……色々なやりようがあるものね。感心する気には到底なれないけど」
     文歌はぽつりと呟くと、静かに息を整え眼前の尖兵に目をやる。
    「ダークネス並の力を持っていても、私達とでは場数が違うのよ」
     そして文歌が紡いだ幻想的な歌声が尖兵の魂に直接響き、蝕んだ。
    「俺の、正義の邪魔をするな!」
    「邪魔するなと言われてあっさりやめる訳にもいかないわ」
     そして尖兵が振り下ろした刃を拳で弾き返した文歌は、そのまま剣を構え再び攻勢に出る。
    「ここよ」
     放たれた鋭い斬撃は尖兵の胸を切り裂き、尖兵は苦しげに膝を付く。
    「グ……正義を成す為に、俺はまだ死ぬ訳にはいかない……!!」
     尖兵は唯ひたすらに、目の前の悪を切り裂かんと刃を振るい続ける。


    「悪には、然るべき制裁を」
     尖兵が放つ嵐の如き刃が、再び灼滅者達を襲い切り刻む。
    「性懲りもなくやってくれる。だけど攻撃すればするほど、その勢いが弱まってる感じはするね」
     聖は仲間を庇いつつ斬撃を受け止めると、魔の弾丸を撃ち返し反撃した。
    「とにもかくにも攻撃、だね……街を壊させたりなんか、しないよ!」
     しないよのポーズをビシッと決めたジェルトルーデは己の魂を糧として霊子力原動機を駆動させ、その全身に力を込めていく。
     そのまま尖兵に突撃したジェルトルーデは、膨大な力が込められた拳を握り振り上げた。
    「これは凄く、痛いと思う、よ!!」
     力強い言葉と共に放たれた破壊的な拳が、尖兵の鳩尾を打ち大きく後退させた。
    「まだだ!」
     後退と同時に放たれた風の刃がジェルトルーデを切り裂くが、
    「霊子力原動機、ブースト……体力回復!」
     ジェルトルーデは再び生み出したエネルギーで己の傷を癒した。
     そしてジェルトルーデは余剰分のエネルギーを機械槍『ユピテル・ランペッジャメント』に全て注入し、激しく駆動する機械槍をジェルトルーデは構えなおす。
    「覚めない夢は、ないもん!」
     機械槍の爆発的な推力と共にジェルトルーデは再突撃し、
    「夢は、夢に、かえれ!」
     かえれのポーズと共に放たれた雷の如き一撃が、尖兵の胸を貫いた。
    「私も続くよ……本気の一撃、受けてみて!」
     ジェルトルーデに続き尖兵に接近した火華流が至近距離でガトリングガンの引き金を引き、尖兵の身体に風穴が空いた。
    「痛みを与える、な。俺のウルトラピンクな夢に比べればむしろ楽な気もするぜ。要は殺っちまえばいいんだからな」
     惡人はクルクルとガンナイフを手で弄びながら戦場をのらりくらりと駆け、次々とオーラの弾丸を放ち尖兵を貫いていく。
    「グ……俺の正義は、決して途絶えはしない……」
    「ぁ? 知るかんなもん。どーでもいいんだよ」
     呻く尖兵が放つ無数の斬撃を微かに受けた惡人は、バベルの鎖を瞳に集中させ傷を癒す。
    「さっさと終わらせるぞ」
     そして惡人は一瞬にして尖兵の懐に迫り、ガンナイフの銃口を額に突きつける。
    「正義だなんだと、碌な脳もねぇ悪夢の癖に一丁前な感情持ってるフリしやがって……余計なんだよ、そんなもんは」
     バン! と乾いた銃声が響き渡り、一発の鉛玉は尖兵の脳天に刺さり貫通した。
    「おぅヤローども、俺に続いて殺っちまえ」
    「それじゃあまあ、続くとしましょうか」
     惡人に続き尖兵に肉薄した文歌は白き刃を振るい、その足元を深く斬りつけた。
    「悪夢の尖兵……アガメムノンも新年早々、はた迷惑なことしてくれるよなあ」
     優生はかなりの傷を負ってきた尖兵の前に立ち塞がると、時を刻む杖『around the clock』に魔力を込めていく。
    「武蔵野に攻撃を仕掛けてくるのは厄介だけど、こんな大雑把な手段で倒される程俺達はヤワじゃないんだなあ」
     そして放たれた魔力の一撃が、尖兵の身体を打ち膨大な魔力が流し込まれた。
     そのまま優生は剣程の大きさがあるアンティーク調の銀の鋏『R.I.P.per』を構え、
    「俺は、正義の味方なんだ……」
    「君の正義は、俺には関係ないなあ」
     尖兵が振り下ろした重い刃を優生は鋏で受け止め、ガキンと金属音が戦場に響く。
    「この刃は、悪夢すら喰らい尽くす」
     そして優生は尖兵の胸に鋏を突き立て切り開き、鋏はその禍々しい影の肉体の一部を喰らった。
    「えっと、流石にもう終わり……の様ですね。悪夢の尖兵の攻撃は、もう脅威には成り得ません」
     アイスバーンは光の砲弾で追撃しつつ、尖兵の攻撃の威力が明らかに弱まっている事を感じ取っていた。
    「正直、自分に似た奴がズタボロに斬られ殴られている様を見るのは複雑な心境だね」
     だけど、と旭は言葉を続ける。
    「例え貴方が俺の夢であろうとも。……俺は、貴方の命を奪う、悪となる」
    「悪……? お前、今自分の事を悪と言ったか?」
    「…………」
     旭は尖兵の言葉に無言で返すと、双刃の馬上槍『鐵断』を構え対峙する。
    「これで終わりだ。知将と言われるだけあって厄介な手だったけれど、これで確実に終わらせる」
    「終わり……? 何を言っているんだ、俺は正義でお前は悪……正義の俺が、負ける筈が無い!!」
     そして尖兵は双刃から再び斬撃の嵐を放つ。
     灼滅者達はその一撃を避け、あるいは受けきると、悪夢の尖兵に一斉に攻撃を叩きこんだ。
     優生が放った蒼き斬撃が肩を斬り、
     アイスバーンのジンギスカンさんが脚に思い切り喰らいつく。
     文歌が放ったグーパンチが顔面を打ち、
     火華流が放った激しい蹴撃が首を刈る。
     聖が振り降ろした赤の標識が動きを封じ、
     惡人は至近距離からの銃撃で6発の弾を心臓に撃ちこんだ。
     ジェルトルーデが超高速の突きで脚を地面と縫い止め、
     旭は双刃槍を掲げ尖兵に迫る。
    「正義とは。絶対的な公平無私であるべきだ。だから……僕も、君も。我欲がある者に、『正義の味方』は相応しくない」
     一閃。
     旭が放った真っ直ぐな斬撃が尖兵の身体を縦に両断した。
    「あ、アァァァアアアアアアア…………」
     分断された身体は嘆きの声と共に影の粒子へと崩れていき、最後には全て消えてしまうのだった。
     悪夢から生み出されし魔物は、こうして討ち果たされたのだった。

     こうして戦いを終えた灼滅者達は、相も変わらず寒すぎる工事現場を後にした。
     大将軍アガメムノンの策略の1つはこうして阻止する事が出来たが、もしもアガメムノンが本格的に灼滅者達を危惧視すれば、次は更に危険な作戦を仕掛けてくる可能性もある。
     そうでなくても厄介な事が多い昨今の世情ではあるが、1つ1つ解決していくしかないだろう。
     各々の考えを巡らせながら、灼滅者達は学園へと帰還していくのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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