ソロモンの大悪魔達~三頭の悪魔王

    作者:泰月

    ●雷鳴と共に
     過去に環境問題で生産停止となり、地図からも記憶からも忘れられた工場跡地。
     生き物の気配のしない廃墟と化したそこで――パリッ、パリッ、バヂヂヂィンッ!
     下から上へ。
     地上から、空へ。
     漆黒の雷が迸り、そして何かが姿を現した。
     それは、巨大で歪な異形の姿。
     紫の瞳を持つ巨大な蜘蛛のようなモノの上に、左右2対の腕と背中に悪魔のような翼を持った人間の上半身の骨に似た体が生えている。
     それらの特徴よりも目を引くのが、両肩に付いた巨大な『猫と蛙の頭』。そして猫と蛙の間にある、作り物のように白い頭部に頂いた禍々しい王冠。
     一言で言い表すなら――異形の王。
    「ふむ。どうやら、誰にも悟られずに済んだか」
     猫と蛙の間にある人の顔が口を開き、厳かに声を発する。
    「やはり、封印を破るのに随分と消耗した。力を取り戻すのが先決であるか」
     そう言うと、異形の王はふわりと浮き上がり、何処かへと姿を消した。

    ●敵の名は
    「ブエルっていたでしょう? この間、新宿で灼滅されたソロモンの悪魔」
     教室に集まった灼滅者達に、夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、そう切り出した。
    「ブエルが灼滅される間際、『封印されし者達』と口にしたのは聞いてる? どうやら、ブエルを裏で操っていた他の悪魔達がいたみたいなのよ」
    「もしかして――」
     大変な予知が判明した。
     そう聞いていた灼滅者達の1人が発した言葉に、柊子は頷き続きを話始める。
    「そう。そいつらが一斉に、封印を破って現れるわ。総勢18体。いずれも、最低でもブエルと同等の力を持つ強力なソロモンの悪魔達よ」
     これまでブエルに集めさせた情報を元に、動き出す大悪魔達。
     その力が結集されれば、現在活動が確認されているどのダークネス組織よりも強力な組織になる可能性すらあるだろう。
    「でも、今ならまだ、付け入る隙があるわ」
     18体ものソロモンの悪魔が一箇所に出現すれば、他のダークネス組織に察知される危険性がある。それを避ける為、悪魔達はそれぞれ別の地に出現する。
    「更に、封印から脱出した直後は能力が大きく制限され、配下を呼び出す事もできない状態になるらしいの」
     本来の実力を出せず、孤立した状態。それでも強敵には違いないが、出現直後が灼滅する最大のチャンスと言える。
    「とは言え、悪魔達も自分が弱体する事は充分に判ってるわ」
     こちらが大きな戦力で動けば察知され、出現場所を変えられる。
     気づかれずに送り込める戦力は、8人。
     いつも通りの人数と言えばそれまでだが――。
    「……バエル」
     出来る限り、声が震えるのを抑えて。柊子はその名を告げた。
    「蜘蛛の下半身の上に、作り物めいた骨の体。王冠を被る頭の両脇に蛙と猫の頭を持つソロモンの悪魔。悪魔王バエル」
     それが、この教室にいる8人が相手にする悪魔。
    「敵の武器はバエル自身の強大な魔力が可能とする、悪魔の魔法」
     雷や風を操るものから、純粋な破壊に自身の回復、敵の精神に作用するものまで。多彩な魔法を殲術道具を必要とせず操る。
    「……正直に言うけどね。勝算は、低いと言わざるを得ないわ」
     言いにくそうに、柊子はそう告げた。
     それでも各個撃破できるこの時に1体でも多く倒せれば、メリットは大きい。リスクを承知で賭けに出る価値はある。
    「無理はしないで、なんて言える敵じゃないけど。皆で、勝って無事に帰って来るのを待ってるわ」


    参加者
    空井・玉(野良猫・d03686)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)
    戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    東屋・紫王(風見の獣・d12878)
    黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)

    ■リプレイ

    ●大悪魔、顕現
     ――パリッ、パリッ、バヂヂヂィンッ!
     廃墟と化した工場に雷鳴が鳴り響き、黒い雷が天を衝く。
     その根元に巨大な影が現れると同時に、周囲の廃墟から幾つもの影が飛び出した。
    「――っ」
     標的の背後に飛び出した川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)が、悪魔のような翼を持つ背へ巨大な十字架を振り下ろし――不可視の障壁に、阻まれた。
    「これは、殲術道具か? と言う事は灼滅者か」
    「おうよ。寝起きのとこ悪いけど、相手してもらおうか」
     口を開いた異形――ソロモンの悪魔、バエルの正面に飛び出した東屋・紫王(風見の獣・d12878)は同じく巨大な十字架を敵の蜘蛛の下半身に叩き付けた。
    「行くよクオリア。為すべき事を為す」
     空井・玉(野良猫・d03686)が操る暗い黄金が脈打つ影に絡まれながら、バエルは障壁でライドキャリバー・クオリアの突撃を弾き返す。
    「敵性確認。殺します」
     ヒルデガルド・ケッセルリング(Orcinus Orca・d03531)の影はオルカ――鯱の形となって泳ぐように飛び出すと、ほぐれてバエルに絡みついた。
    「この数……我は包囲された、いや、包囲の中に飛び込んだと言うべきか」
    「驚いてくれたかね? バエルくん」
     状況を確かめるように呟くバエルの真横から、月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)が縛霊手の拳を叩き込む。
    「不愉快な驚きである」
    「序列一位の大悪魔バエル、それだけの相手ですよ」
     ぼやくバエルに返して、戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)は手にした模造魔剣を振り上げた。刃の嵐を擬似再現し、バエルに叩き込む。
    「そうそう。バエルくんってソロモン72柱の1位なんだよね? やっぱ一番偉くて一番強いんじゃないの?」
     口の端についたチョコをぺろりと舐めた黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)は背後に浮かぶのは、少女の形をした影。その髪が刃となって、悪魔に斬りつける。
    「……」
     無言を返す悪魔に、左右から2人の少女が飛び掛る。
     笑顔を浮かべたビハインドが振り下ろした刃は悪魔の翼に阻まれるが、黛・藍花(藍の半身・d04699)のチェーンソーが唸りを上げて下半身の蜘蛛を切り裂いた。
     藍花とビハインドは、そのまま駆け抜け互いの位置を入れ替える。
    「行って来い!」
     玲は敢えて待たせて突撃させたライドキャリバー・メカサシミの機体が、下半身の蜘蛛に突き刺さった。
    「……まあ良い。我は悪魔王バエル。灼滅者如き、今の魔力でも充分蹴散らせる」
     幾つかは防いだものの奇襲を受け、囲まれても。
     バエルはそれが当然だと言う風に、余裕を崩さず灼滅者達を睥睨する。
    「だが。我を罠に嵌めた者を黙って見逃すほど、我は寛容ではないぞ」
     バエルが腕を天に翳すと、晴れているのに雨が降り出した。
     バエルの頭上にだけにサァサァと。
     雨に濡れる悪魔の体から傷が薄れて、黒く禍々しい魔力が滲み出だした。

    ●風雷を従える者
    「吹き荒れろ」
     バエルが告げた、直後。
     黒い魔力を帯びた暴風が空から吹き降り、地面に当たって弾けて周囲に吹き荒れる。
     ――ダウンバースト。
     そう呼ばれる自然現象にも似た悪魔の黒嵐は、範囲を絞れなかったため威力は落ちている筈だが、それでも凄まじい風だった。
     灼滅者達が数人吹き飛ばされ、その体にあった黄色い輝きが吹き消される。
    「さすが、大悪魔バエル。でも、伝説や神話が手の届くどころか目の前にいると、人生楽しくなってきません? 僕だけかな?」
    「かいどー先輩だけじゃないかな?」
     叩き付けられた壁から身を起こしながら軽口を叩く蔵乃祐に、玲も気軽に返した。
     同時に、玲の背中から、翼のように吹き上がった炎の加護が、周りの仲間の傷を癒し力を与える。
    「減衰してるんだよね、あれでも」
     いつも以上に髪がぼさぼさになった紫王の意志持つ帯が、バエルに突き刺さる。
     こちらの布陣によっては、黒嵐の勢いはより強力だった筈だ。
    「強敵だろうと、今まで通りに最善を尽くしましょう」
     壁を背にして吹き飛ばされるのを耐えた藍花が、指輪から制約の魔力を撃ち込む。
     合わせてビハインドも霊障で瓦礫を飛ばすが、これは翼で弾かれた。
    「バエルくんって、どこから来たの? どうして目覚めたの? 今何歳?」
     2人と反対側にある瓦礫の影から飛び出した唄音は、立て続けに問いをぶつけつつ、爆炎の魔力を込めた弾丸も撃ち込む。
    「……」
    「じゃあ、聞き方を変えましょう。今回の同時召喚は、18柱全員の利害が一致したということです?」
     沈黙するバエルに、今度は蔵乃祐が問いかける。
    「武神大戦獄魔覇獄は、ブエルとハルファス軍の幹部であったカンナビス、72柱同士の代理戦争になっていたようですが。ハルファスは超魔術空間ソロモンの鍵へと避難していた貴殿方から、心が離れていたのでしょうか?」
     言いながら、振り上げた光の刃で、バエルを濡らす雨の残滓を斬り飛ばす。
     別に答えは期待していない。撤退を考えさせない為の口八丁。
     だったのだが――。
    「気が変わった」
     バエルの声が、一段、冷たさを増した。
    「――今回の18柱、ソロモンの鍵。汝らがそこまで知っているなら、狙いは我だけではないだろう。汝らは未来の禍根になるやもしれん――蹴散らすだけでは生温い」
     明確な殺意を以ってバエルがそう告げた直後。
    「――っ!」
     バヂンッと雷鳴と同時に迅った漆黒の雷霆が、蔵乃祐を後ろの廃墟に叩きつける。
    「悪魔王が、汝らの命を奪う。生きて帰りたいのなら、平伏するが良い」
     冷たく告げたバエルが禍々しい光を放つ。悪魔の王威を孕んだ呪力が、飛びかかろうとしていた咲夜の精神へと侵入した。
    (「ふ、ざけるなっ……私が魔法使いになったのは、そんなことの為ではない!」)
    「断る! 敵が強大だ何だで負ける運命なら、そんな運命変えてやる!」
     咲夜は叫んで衝動に抗い、影を操りバエルに絡みつかせる。
    「本性を出した、と言うところかな」
     顔色1つ変えずに言って、玉は蔵乃祐が瓦礫の中から身を起こしたのを待って、標識を掲げて黄色い輝きを張り直す。
    「攻め方が変わりそうですね」
     ヒルデガルドもどうと言う事もなさそうに注意を口にして、咲夜の呪力を緩和する為に癒しの霊力を放った。

    ●抗い、積み重ねて
     一気に距離を詰めた唄音は、振りかぶったガトリングガンを叩きつけ、バエルの体を蹴って再び距離を離す。
    「我を足蹴にするとは、不遜」
    「……じゃあ、削ります」
     追撃に放たれた黒雷の前に飛び出して遮った藍花は、痛みを隠し痺れる腕でチェーンソー剣を振り上げ、先行したビハインドの刃の上から斬り付ける。
     その直後に、ガシャンッと事故のような鈍い金属音が響いた。
     バエルの呪力で敵味方を誤認識したメカサシミの突撃を、クオリアが止めている。
    「クク。思いの外使える玩具ではないか」
    「他人のものに手を出すなんて、随分と我が侭だね、バエルくん!」
     玲は悪態を吐きながら、縛霊手から癒しの霊力を放つ。
    「ならば汝も我に従えば良い」
     当然だと言う風に告げて、バエルが玲へ放つ王威の呪力を、すぐにヒルデガルドが癒しの霊力を放って払い、玉は藍花の傷を癒す。
     黒雷で体の自由を奪い、呪力で精神を支配する。
     1人1人を狙ったバエルの魔法は効果も厄介だが強力で、3人が回復にかかってもギリギリ、癒しきれないにせよ戦線を支えていた。
    「……それにしても、猫と蛙が静か過ぎる」
     十字架の砲門を向けて光の砲弾を放ちながら、咲夜が警戒を露わに呟く。
     バエルの猫と蛙の頭は、攻撃が当たっても沈黙し続けていた。まさか、唯の飾りであるとは考え難いが――?
    「頃合だな」
     そんな懸念が現実になったのは、ライドキャリバー達が沈黙し消滅した直後。
    『フシャァァァ』
    『ゲゲゲゲゲゲ』
     突如、猫と蛙の頭が威嚇するような鳴き声を発する。
    『ギチギチギチ』
     更に下半身の蜘蛛も鋏角を打ち鳴らし始めた。3つの異なる音が重なる。
     ほんの数秒後には、バエルの周囲に幾つかの魔法陣が組み合わさった球体が浮かび上がっていた。重なった人外の音が、多重詠唱。
     紡がれたのは、乱暴で単純な破壊の魔法。全てを空間ごと破壊する悪意の塊。
     球体から色のない光と衝撃が溢れて膨れ上がり、周囲の廃墟をも揺るがした。
    「ほう……纏めて殺すつもりだったのだがな?」
    「序列1位……なら、色々と賭けに出るに相応しいじゃない」
    「こうするのが、勝利への最善、かと」
     僅かに驚嘆を見せたバエルに返して、玲と藍花が崩れ落ちる。2人とも纏う防具はボロボロで、体の所々から煙を上げて。
     だが、倒れたのは2人だけ。
    「とは言え虫の息。先に潰しておくか――む?」
     バエルの言葉を遮って、蔵乃祐が模造魔剣の刃の嵐を纏わりつくように放つ。
     続けてバエルに叩き込まれたのは、猛る緋色の炎を纏った拳だった。
    「汝、イフリートか」
    「おう。犬死なんてする気もさせる気もないからな」
     バエルに応える声は紫王のものだが、その頭には、雄雄しい角が2つ生えていた。アスファルトが砕ける程に強く大地を蹴った足も、獣のそれに変わっている。
     先程のバエルの言葉を聞いた瞬間に、紫王は腹を括った。
    (「もう目の前で灼滅者を失いたくないんだ。だから――早く」)
     全員灼滅者のまま戦って隙を見せれば、バエルは倒れた者の命を奪うだろうと。
    「……何故、こうまで我に抗う」
    「さあ、なんでだろうねー?」
     訝しむバエルに対して唄音は答えをはぐらかし、ガトリングガンを向けた。
     浴びせる程に放たれた弾丸が爆ぜて炎でバエルの視界を覆い、その間にヒルデガルドとビハインドが玲と藍花を遠ざける。
    「まあ良い。1人闇堕ちしたくらいで、我との力の差が埋まると思うな」
    「いいや。この地に墓標を立てるのは私達ではない。お前の方だ、異形の王よ」
     爆炎の中からぬっと白い顔を出して告げるバエルに、咲夜が十字架を叩き込んだ。

    ●届いた彼岸は――
     イフリートの膂力で叩き付けた十字架が、パキッと軽い音を立ててバエルの障壁を撃ち破り、その巨体を弾き飛ばす。
     バエルの守りが崩れ所に、蔵乃祐が光の刃を飛ばし、咲夜は十字架から光を放つ。
     藍花のビハインドも、新たな指示はなくとも霊障で攻撃を加える。
    「いつまで無駄な足掻きを……吹き荒れろ!」
     至近からの射撃で凍った蜘蛛脚の先端を撃ち砕いた唄音は、語気を荒げるバエルから慌てて距離を取る。
     立て続けに吹き荒れた黒嵐が、玉と唄音以外の全員が吹き飛ばされて、廃墟に叩き付けられた。衝撃で廃墟の壁が崩れる。
    「限界が見えたな。あのイフリートはまだ立つだろうが、汝1人では癒しきれまい」
     睥睨するバエルの言葉が玉に突き刺さる。否定は仕切れない。
     だが、退く気は誰にもなかった。
     紫王は瓦礫を押し退けるなりバエルに飛び掛り、ヒルデガルドもふら付きながら立ち上がって来た。
     動ける3人で撤退するとしても、負傷者4人を抱えた所をバエルが見逃すだろうか。それに、今の紫王でも1人では敵いそうにない。闇堕ち直後で倒されれば、待っているのは最悪の結末。
     退けなら、戦うしかない。
    (「……何も出来ないなんて冗談じゃない。出来る事があると思ったから、望んで此処に来たんだ」)
     喪うかもしれない恐怖も、憤りも表には出さず。
     音もなく、玉の踵から大きな翼が出現した。染めていた髪も生来の空色に戻る。
    「限界だとか、勝手に決めてくれるな」
     強力な癒しの霊力を受けた紫王が、バエルの蜘蛛足を蹴りで叩き折る。
     体勢を崩したバエルを、ヒルデガルドが指輪に集めた制約の魔力が撃ち抜き、唄音の少女の影の刃が翼を斬り落とす。
    「どこまでも、無駄に足掻く。人の身で、悪魔王を超えるとでも言う気か!」
    「如何なる損害を出そうと如何なる手段を用いようとも」
     ヒルデガルドの答えにバエルの手から放たれ、荒れ狂う黒雷を、唄音はギリギリだったが身を捻って避け、逆に爆炎の弾丸を撃ち込む。
     バエルの魔法の精度が、明らかに落ちていた。
     荒くなる語気は焦りの証。包囲にも奇襲にも崩れなかった王の余裕が、崩れている。
    『フシャァァァ』
    『ゲゲゲゲゲゲ』
    『ギチギチギチ』
     バエルの苛立ちに誘われるように、獣頭たちが再び人ならざる音を鳴らす。
     魔法陣が現れ、紡がれたのは灼滅者達の後ろ。
     多重に組み合わさった魔法陣の球体が――パキンと、霧散した。
     それは、この一度だけだったかもしれないが、灼滅者達が重ねた制約の魔力が、悪魔王を凌駕したのは確かな事実だ。
     倒れた者達も含めた、全員で積み重ねて、届いた成果。
     悪魔王は無駄な足掻きだと言ったが、無駄なものなどひとつもない。
    「なん……だと……」
     己が身に起きた事が理解出来てしまい、驚愕を隠し切れないバエルに、ヒルデガルドのオルカの影が絡みつく。
     我に返ったバエルの黒雷と、玉が首の傷跡から引き抜くように生み出し投擲した闇が互いを同時に撃ち抜き――紫王が炎を纏った拳をバエルに叩き込んだ。

     ――カラン。

     悪魔の王冠が落ちて、乾いた音を立てる。
    「――ク、ククッ。我とした事が……よもや、読み違えるとはな。誇るがよい。召喚酔いがあったとは言え、この悪魔王バエルを超えた事を」
     呟いたバエルの下半身、蜘蛛の瞳から光がふっと消える。
     両肩の猫と蛙が色も失い、4本の腕と共にボロボロと崩れていく。
    「だが、他の大悪魔はどうだろうな? 我より狡猾な悪魔もいる。1人でも生き延びていれば、我らの――」
     最後まで言い終わる前に、白面も崩れ落ちる。
     地に落ちた王冠も、全ては崩れて灰となって消えていった。
     そこまで見届けてから、紫王と玉はそれぞれに何処かへと去っていく。
     代償は、あった。
     全員で帰る事は、今は叶わない。
     だが、それでも。
     届いたのだ。
     勝ったのだ。
     死力を尽くして積み上げて、乗り越えたのだ。
     悪魔王バエル――灼滅。

    作者:泰月 重傷:黛・藍花(藍の半身・d04699) 川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) 戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549) 月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030) 
    死亡:なし
    闇堕ち:空井・玉(双子星・d03686) 東屋・紫王(風見の獣・d12878) 
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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