ソロモンの大悪魔達~黄昏に立つヴァサーゴ

    作者:三ノ木咲紀

     空に蓋をしたように重く垂れこめた灰色の空に、紅い光が差し込んだ。
     荒れ狂う海との境界線上に、沈みゆく真っ赤な太陽。
     血を溶かし込んだような光が空を照らし、海を渡り、砂浜を染める。
     歪み、曲がりながら沈む太陽が、ふいに裂けた。
     太陽の裂け目から、複雑な魔術紋様が溢れ出し、砂浜に魔法陣を描き出す。
     やがて魔法陣の中心から、一体のダークネスがゆっくりと現世へと出現した。
     海を荒し回る海賊を取り締まり、公的権力を持って海を荒らす提督。
     そんな雰囲気を湛えたソロモンの大悪魔・ヴァサーゴは、鈍重な雲を照らす紅を見渡した。
     やがて魔法陣から降り立ち、両足が砂を踏む。
     紅く染まった有象無象の砂どもが足の下で崩れ、か弱い悲鳴のような音を立てる。
     その感触を確かめたヴァサーゴは、口元を邪悪に歪めた。
    「久方ぶりの現世――悪くない」
     ヴァサーゴは巨大な鉤爪を一振りして魔法陣を消し去ると、いずこかへと去った。


    「緊急事態や」
     いつになく真剣な表情のくるみは、集まった灼滅者達を見渡した。
    「正月早々、集まってもろうて堪忍や。せやけど、よう見過ごせへん事態が起こったんや。――強力なソロモンの悪魔達が、一斉に封印を解かれたんや」
     第二次新宿防衛線で灼滅したソロモンの悪魔・ブエルを操って情報を集めさせていたのも、彼ららしい。
     ブエルが集めた情報を元に、大攻勢をかけてこようとしているのだ。
    「その実力は、最低でもブエルと同程度。それが総勢、十八体」
     十八体、の言葉に、灼滅者達は息を呑んだ。
    「この戦力は、今まで確認されたどのダークネス組織よりも強力な可能性すらあるんやわ。勢力図が、一気に塗り替わるかも知れへん」
    「そんなの……何とかならないのかよ!」
     立ち上がって叫ぶ灼滅者に、くるみは頷いた。
    「付け込む隙はあるで。かなりシビアやけどな」
     彼らは、封印から脱出して出現した直後は、その能力が大きく制限され、配下を呼び出す事もできない状態になるらしい。
     更に、複数のソロモンの悪魔が同じ場所に出現すれば、他のダークネス組織に察知される危険がある。
     そのため、ソロモンの悪魔は一体ずつ別の場所で出現しなければならないのだ。
    「つまり、出現した瞬間こそが灼滅する最大のチャンスなんや。……せやけど、ソロモンの悪魔も馬鹿やない。この弱点は十分理解しとる。もし出現予定場所にようさんの戦力がおったら、別の場所に変更するやろう。襲撃に加われる灼滅者は、一つの地点に八人まで。それが限界や」
     強大なソロモンの悪魔に対して余りにも少ない戦力だが、ここで一体でも多くソロモンの悪魔を灼滅するのはとても重要なことだ。
    「今回はホンマに、難しい依頼や。下手をすると……全滅も、十分あり得るで。危険な依頼に送り込んでしもうて申し訳あらへん。せやけど、皆だけが頼りなんや。よろしゅう、頼むで」
     くるみは泣きそうな目を隠すように、深く頭を下げた。


    参加者
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)
    阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)
    逢魔・歌留多(黒き揚羽蝶・d12972)
    薛・千草(パワースラッガー・d19308)
    黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216)
    黒嬢・白雛(白閃鳳凰ハクオウ・d26809)
    海弥・有愛(灰色の影・d28214)

    ■リプレイ

     血溜まりを落としこんだような夕日が、荒れる世界を映し出す。
     魔法陣を消したヴァサーゴを前に、海弥・有愛(灰色の影・d28214)は魂の昂ぶりを感じて知らず微笑んだ。
     目の前にいるのは、ソロモンの大悪魔・ヴァサーゴ。
     あのブエルと同等か、それ以上の実力者を前にして、不思議と怖いとは感じなかった。
    「悪魔提督ヴァサーゴ。その強さに敬意を以て、ここに討ち取らせてもらう!」
     有愛の言葉に、ヴァサーゴは口元を歪めた。
    「ほう、灼滅者か。ブエルの知識にも、そなた達のことは記されておったな。塵芥を護るなど、理解不能にも程があるわ」
     高慢なヴァサーゴの言葉に、逢魔・歌留多(黒き揚羽蝶・d12972)は手を握り締めた。
    「塵芥……?」
     最近の情勢に、ダークネスとの共存なんて考えてもいたが、そんな矢先にこの宣戦布告だ。
    「いいでしょう! 私は私らしく、ダークネスを灼滅する者として、責務を果たすと致しましょう!」
    「やってみるがいい! 成り損ないの鼠どもが!」
     声が終わるのが早いか、ヴァサーゴの鉤爪が消えた。
     一気に薙ぎ払うように放たれた鉤爪が、後衛に襲い掛かる。
     うなりを上げる鋭い爪が、後衛をねじ伏せるように叩き込まれる。
     庇う隙さえ与えない攻撃に、歌留多は砂地へ倒れ伏した
     顔を上げ、仲間を見る。一撃で倒されたりはしないものの、ダメージは相当深い。
     反射的に天星弓で受け流し、直撃を免れたのは幸運と言えた。
     歌留多は手を翳すと、清めの風を解き放った。
     吹き抜ける一陣の風が、後衛を癒してゆく。
    「参りますわよ!」
     白い装甲を纏ったヒーロー姿に変身した黒嬢・白雛(白閃鳳凰ハクオウ・d26809)の背中から、白い炎が放たれた。
     翼のような白い炎が癒しとなり、後衛に敵防護を破壊する光が宿る。
     いきなり飛んできた後衛への列攻撃に、今回は対応が遅れた。
     だが、予備動作は把握した。次の攻撃は、極力避けられるように行動できるはずだ。
     癒しの光を受けたジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)のナノナノ・軍師殿が、体をきゅーっと縮ませた。
    「ナノ!」
     声と共に放たれたふわふわハートが、歌留多の傷を癒す。
     同時に阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)のウイングキャット・良心回路のしっぽが光り、後衛を包み込んだ。
     状況を確認した薛・千草(パワースラッガー・d19308) は、白雛にダイダロスベルトを放った。
    「白雛!」
     白いベルトが白雛を包み込み、傷を癒して防護を固める。
     完全ではないものの後衛へのダメージを回復させた灼滅者達に、ヴァサーゴは腹立たしげに鉤爪を振った。
    「まずは敵の補給線を叩くのが定石。だが……この程度か。召喚酔いが忌々しいわ」
    「大悪魔つーても弱ってるとこを仕留めるだけなんだし、簡単なお仕事じゃん」
     からかうように言ったジュラルは、余裕を口の端に登らせながら解体ナイフを閃かせた。
     ナイフから溢れ出した霧は中衛を包み込み、その姿をぼやけさせる。
     その隙に、フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952) は瞳に魔力を集中させた。
     霧の向こう側に立つヴァサーゴの姿が、より鮮明に映し出される。
     余裕の表情で、戦闘を楽しむかのようなヴァサーゴの姿は、確かな実力に裏打ちされている。
    「……油断はできない」
     ヴァサーゴの姿を追いながら、フィリアは気を引き締めた。
     その隣で、大きなエンジン音が響いた。
     フルスロットルで己を回復したフィリアのライドキャリバー・バイク王のタイヤが、鋭い魔力を帯びる。
     小うるさそうに眉をひそめたヴァサーゴに、一筋の帯が迫った。
    「序列三位の大悪魔ヴァサーゴ。相手にとって不足はない!」
     隙を窺っていた黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216)は、麗華藍帯【護鎧剣】を解き放った。
     瑠威の背中から放たれた六対三本の帯が、剣のように鋭くヴァサーゴの腕を貫通し、引き裂き戻る。
     一瞬怯んだ隙を逃さず、再びの帯が解き放たれた。
    「そこだ!」
     更に放たれた有愛のレイザースラストを、ヴァサーゴはひらりと避ける。
     避けた方向を狙っていたように、木菟は電磁BATTOくん肆號を閃かせた。
     闇を孕んだ刀身が、傷ついた腕を更に切り裂く。
     距離を取ったヴァサーゴを注意深く観察しながら、木菟はむしろ楽しげに口を開いた。
    「しかし大物がポンポンと気軽にポップしてくれるもんでござる」
     軽口を叩く木菟に、ヴァサーゴはおかしそうに笑った。
    「有象無象の雑魚どもか大挙したところで、意味はあるまい?」
    「いやいやそれはそれで、脅威でござるよ!」
     慌てたように手を振った木菟は、ヴァサーゴの行動に目を細めた。


    「そなた等の戦力は把握した。補給線の鼠を一匹ずつ処分するのみ!」
     彼我の状況を見定めたヴァサーゴは、再び腕を軽く振るった。
     最も大きな癒しを与えた歌留多に向けて、巨大な鉤爪が真っ直ぐに伸びる。
     壁のように巨大な迫力を以て迫る鉤爪が歌留多に当たる寸前、ジュラルが動いた。
     ジュラルが展開したWOKシールドが鉤爪の軌道を逸らし、その隙に歌留多が反対の方向へ避ける。
     歌留多が軌道上から避けたのを確認した時、盾が砕けた。
     吹き飛ばされたジュラルは、血色に染まった砂浜に叩き付けられる。
     一撃でKOされてもおかしくない威力の攻撃を凌いだジュラルは、何とか体を起こした。
    「……これまじ弱ってんの? 詐欺じゃね」
    「雑魚が、邪魔をしおって」
    「雑魚は、どちらですか!」
     ヴァサーゴに迫った瑠威は、幻鋼刀槍【穿牙刃】を繰り出した。
     避けた足を踏みしめ、反動をつけるように突き出した氷の刃が、ヴァサーゴに真っ直ぐ深い穴を穿つ。
     その穴が、石に変わった。
     脇腹に開いた穴に叩き込まれたフィリアのペトロカースが、ヴァサーゴの体を徐々に石に変える。
    「……出てきたばかりで悪いが。ここで倒す」
     主の意向に応えるように、バイク王が突撃をかけた。
     唸りを上げて突撃するタイヤに宿る鋭さが、ヴァサーゴを深くえぐる。
     バイク王の反対側から、白い帯が突き刺さった。
     再び伸びた有愛のダイダロスベルトが、ヴァサーゴを引き裂く。
     楽しそうにベルトを戻す有愛の目を、ヴァサーゴは覗きこんだ。
    「ほう、お主過去に……」
    「黙れ!」
     ヴァサーゴの声に、有愛は鋭い声を上げた。
     一瞬だけ豹変した有愛の様子に、白雛は駆け出した。
     有愛の過去に何があったのかは分からない。だが、大悪魔相手に過去を晒されるのだけは避けなければならない。
    「海弥さん!」
     有愛の意識を励ますように声を掛け飛び出した白雛は、ヴァサーゴのこめかみにエアシューズを叩き込んだ。
     流星を帯びた蹴りに、ヴァサーゴは脳震盪を起こしたようにぐらりと揺れる。
    「ソロモンの大悪魔・ヴァサーゴ。さあ……断罪の時間ですわ!」
    「小娘が……やってみるがいい!」
     挑発するように言い放つ白雛に、ヴァサーゴは苛立ったように吐き捨てた。
     歌留多は天星弓を構えると、千草に目を向けた。
    「千草さん!」
    「了解!」
     一瞬で意思を疎通させた歌留多は、ジュラルに癒しの矢を放った。
     癒しを与える矢はジュラルに当たる寸前にほどけて消え、深いダメージを癒して消える。
     不敵な笑みで狙いを定めつつ立ち上がったジュラルの姿に、ヴァサーゴは歌留多を見た。
    「ほう。なかなかの癒し手。名を聞いておこうか」
    「私の名は逢魔・歌留多! 闇を祓う者なり!」
    「覚えておこう。そなたが立っている間はな!」
    「立っているわよ。ずっと」
     千草が解き放ったダイダロスベルトが、ジュラルを包み込む。
     癒し、守りを固めたのを確認した千草は、ヴァサーゴの目を真っ直ぐに見据えた。
    「ソロモンの大悪魔……。刺し違えてでも、なんて言うつもりはないわ。私たちには帰る家があるの。だから、勝って帰るのよ!」
    「案ずることはない。そなた達の家とやらも、いずれ蹂躙してくれよう!」
    「わあ怖い!」
     軽口を叩きながら木菟が放ったエアシューズが、石化した脇腹に叩き込まれた。
     石化した鋭い体を更に突きさすような蹴りに、ヴァサーゴは一瞬よろめく。
    「ほら、拙者らって弱いでござるし、手加減してくれると有り難いでござるな」
    「これほどの連携と実力。全力を以て相手してくれるわ!」
     ヴァサーゴが腕を動かした瞬間、ジュラルは仲間を振り返った。
    「薙ぎ払いが来るぞ!」
     ジュラルの声に身構えた直後、再び鉤爪が後衛を襲った。


     激戦を極めた。
     列減衰を警戒し、補給線を叩くことに決めたヴァサーゴの攻撃は重く、深い。
     ヴァサーゴの攻撃を観察し、攻撃を予測し庇いながら回復するが、それはディフェンダーへの負担増という形でのしかかった。
     だが、それも計算の内だ。
     攻撃と回復をディフェンダーとメディックが請け負っている間、ジャマーとスナイパーが確実にバッドステータスを積み重ね、クラッシャーが的確なダメージを与えていく。
     後衛へのカバーへ入ったウイングキャットの良心回路が消え、列減衰の効果が消える。
     そして、ついに後衛が崩れた。
     これを機に、ヴァサーゴは前衛へと攻撃を展開。
     単体の突きに加え、後列への薙ぎ払いよりも威力の高い列攻撃が来るも、灼滅者達も着実にダメージを与え続ける。
     積み重なるダメージをシャウトで回復した隙を突き、灼滅者達も回復を図る。
     だが、回復量は決して多くない。ヴァサーゴもまた、確実にバッドステータスの影響を受けている。
     そんな中、戦局が動いた。

     鈍く身を引いたヴァサーゴは、腕を庇い一歩下がった。
    「この、鼠どもがぁっ!」
    「……鼠に負けるお前は何?」
     腹立たしげに声を荒げたヴァサーゴに、フィリアはジグザグスラッシュを放った。
     冷静な声と共に閃く解体ナイフが、ヴァサーゴを深く引き裂く。
     そこへ、有愛のグラインドファイアが迫った。
    「私たちを侮ったこと、後悔させてみせる!」
     炎を纏ったエアシューズがヴァサーゴを引き裂くように突き刺さり、更に炎を重ねていく。
     そこへ、瑠威のクルセイドソードが迫った。
    「この身を賭してでも、倒す!」
     左手で構えた氷の長剣が、ヴァサーゴを切り裂く。
     大ダメージを負いながらも、ヴァサーゴは未だ倒れない。
    「……油断は禁物ね」
     薄笑いを浮かべるヴァサーゴに不気味さを感じながら、千草はワイドガードを展開した。
     防護の光が前衛を包み、傷を癒す。
     だが、回復は万全とは言いがたい。ジュラルはソーサルガーダーで己を癒すと、油断なくヴァサーゴを睨んだ。
    「仮にも、大悪魔だからな」
    「レアドロップの為の、千回アタックのように出てきたでござるがな」
     軽口を叩きながらも、木菟の強烈な蹴りがヴァサーゴに突き刺さった。
     その時、ヴァサーゴの口元が歪んだ。
    「終わりか」
     その一言が終わるが早いか、鉤爪が消えた。
     灼滅者達の行動が終わるのを待っていたヴァサーゴは、全力で前衛を薙ぎ払った。
     今までで一番重い攻撃が、前衛を薙ぐ。
     ダメージの積み重なった瑠威は、鉤爪を目の前にして終わりを悟った。
     この攻撃を受けたら、戦闘不能は免れない。
     ダメージを覚悟した瑠威の前に、木菟が飛び出した。
     薙ぎ払いの攻撃を一身に受け、一気に吹き飛ばされる。
    「木菟!」
     瑠威の声に笑みを浮かべた木菟は、そのまま砂に叩き付けられて意識を失う。
     薙ぎ払いを受けた千草もまた、砂地に倒れ伏す。
     何とか耐え抜いたジュラルに、返す刀で鉤爪が迫った。
     ヴァサーゴが放った打撃を腹に受けたジュラルは、耐えきれずにそのまま意識を失う。
     三人に数を減らした灼滅者達に、ヴァサーゴはゆらりと立ち上がった。
    「この我をここまで追いつめたこと……褒めてやろう」
     迫り来るヴァサーゴに、有愛は撤退を決意した。
    「フィリア殿、瑠威殿。ここは撤退を」
    「……今は生きて帰るのが優先」
    「……っ」
     頷くフィリアに、瑠威は悔しそうに唇を噛んだ。
     倒れた仲間に駆け寄った三人を前に、ヴァサーゴは一歩踏み出した。
    「小娘どもが……。我が誇りを傷つけたこと、後悔させてくれるわ!」
     ヴァサーゴはフィリアと有愛に向けて、鉤爪を振りかざした。
     この行動が、勝敗を分けた。
     灼滅者達が撤退するのだから、ヴァサーゴもまた撤退すれば良かったのだ。
     だが、中衛の二人が与え続けた度重なるバッドステータスはヴァサーゴの誇りを傷つけ、苛立たせ、判断を誤らせた。
     鉤爪が、フィリアと有愛の背中を薙ぎ払い、二人を砂地へと叩き付ける。
     その攻撃に、瑠威は目の前が青く染まるのを感じた。
    「……もう、犠牲を作るのは嫌だ!」
     瑠威の姿が青く染まる。
     魂を闇に傾けた瑠威は、奥底から湧き上がる底無しの魔力に身を委ねた。
     次の瞬間。
     氷の装備と氷の翼を身に着けたヴァルキュリアが、毅然と殲術道具を構えていた。
     六本三対の翼状に配置した剣が、ヴァサーゴに向けて一気に伸びる。
     更なる攻撃を仕掛けようとしたヴァサーゴを引き裂き、楽しそうに鋭く宙をうねった。
    「くっ……! ここは撤退を……」
    「……させない」
     攻撃から何とか身を起こしたフィリアは、ヴァサーゴに狙いを定めて制約の弾丸を打ち込んだ。
     ヴァサーゴの足に穿たれた弾丸が、ヴァサーゴの自由を奪う。
    「お前をここで、討ち取る!」
     砂を踏みしめた有愛は、バベルブレイカーを起動させると一気に飛び出した。
     高速回転するドリルがヴァサーゴの胴を貫き、なおも逃げようとするヴァサーゴの動きを止める。
    「くっ……! 我としたことが、戦局を見誤ったか……!」
     身動きの取れないヴァサーゴの頭上に、氷のヴァルキュリアが迫った。
     これを機にソロモンの大悪魔のエナジーを奪い取ろうと迫るクルセイドソードが、ヴァサーゴを袈裟懸けに切り裂く。
     真っ二つに裂かれたヴァサーゴは、大きな咆哮を上げると口元を緩めた。
    「……窮鼠、猫を噛むか。成程これが灼滅者。侮れぬ」
    「……ソロモンの鍵とは何?」
     昂然と問う瑠威に、ヴァサーゴは笑い声を上げた。
    「そう……簡単に、情報は渡さぬよ。精々、足掻くが、いい。我が……灼滅、されようと……大局は……」
     夕日に紅く照らされたヴァサーゴは、満足そうに高笑いを上げると黒い霧となって消えた。


     意識を取り戻した千草は、黄昏に立つ青いヴァルキュリアに目を見開いた。
    「……るいるい?」
     千草の声に、瑠威は振り返る。
     夕日が放つ最後の紅にもなお青い氷のヴァルキュリアは、千草の視線を受け止めて立つ。
     瑠威のことは心配いらない。千草よりも強いのだから。
     そう、分かっていても。分かってはいたが、それ以上声が出なかった。
    「……」
     瑠威は千草に背中を向けると、夕闇に向けて飛び立った。
    「るいるい!」
     千草の声は、瑠威には届かない。
     迫る暗闇の中、灼滅者達は立ち去る背中を見送るしかなかった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:黒影・瑠威(闇の観測者・d23216) 
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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