ソロモンの大悪魔達~アジール

    作者:来野

     初春の夜。薄く雪をまとった木々の奥に、小さな湖がある。
     黒く静まり返った水面は、磨かれた鏡のように美しい。
     しかし、岸辺には、黒焦げとなった煉瓦の塀と砕けた聖像とが無残な姿を晒している。
     それらはかつて、湖畔の修道院として人々の祈りを守っていた。苦悩を抱えた女性達が一時身を寄せる場でもあったという。
     それが劫火に焼け落ちたか、落雷に打たれたか。虚しくも倒壊し湖水へと崩れ行くと、好んで思い出そうという者もない。
     いないはずだったが――
     しんと静まり返った湖岸に、今、一つの影が揺れる。輪郭は暗く青褪めた銀色。全身を甲冑で覆った騎士のようだ。
     やがて、ひたり、という音が水際に響く。ひたり、ひたり。騎士の腰から下が陸地へと這いずり上がる。
     あるはずの脚がそこにはない。代わりに金属質のワニの頭があった。精緻で硬質なだけに奇異であり、仄暗く青褪め禍々しい。
     湖水に濡れた騎士は、ゆっくりとした動きで周囲を見渡す。
     軋む音でも立てそうなものだが、
    「雪、か」
     ヘルムの頬当の隙間から、思いの外、静かな声をこぼした。そして剣を携えた右腕を崩れた石組みに置こうとし、ふと、止める。
     石の上に、歯の欠けた櫛が転がっていた。
     忘れ去られて久しいのだろう。塗りはほとんど剥げかけている。在りし日に、どのような女がどのような想いで髪を梳いたものなのか。
    「……」
     今にも水辺に転げ落ちそうなそれを、金属に包まれた手の甲でそっと押し戻した。
     ワニの前脚が地を蹴り、宙へと浮く。鎧を伝って滴り落ちる雫は、水銀の玉のように冷たい。
     この騎士の名は、サレオス。
     ソロモンの悪魔である。
     
    「聞いてくれ」
     新年早々、石切・峻(大学生エクスブレイン・dn0153)は血相を変えていた。三割増しで墨臭い。手を洗うことも忘れている。
    「強力なソロモンの悪魔達が一斉に封印から解き放たれ、現れようとしているらしい」
     年始から? という声に苦く頷く。
    「第2次新宿防衛戦で灼滅したブエルという悪魔がいただろう。それを裏で操り情報収集をさせていたのも彼らだったようで、集まった情報を元にして大攻勢をしかけようという腹らしい」
     ブエルの配下に図書館を荒らされたのが、ちょうど一年前。とんだ繋がりに溜息がこぼれるが、説明は続く。
    「この悪魔達は総勢で18体だ。彼らは最低でもブエルと同等の力を有すると見られているので、戦力でいえば現在活動が確認されているダークネス組織の中で最強という可能性もあり得る」
     数は力か。しばらくの沈黙の後、峻は切り出す。
    「状況は厳しいが、糸口は無くもない。今ならばまだ、対処の可能性がありそうだ」
     どうして、の声に指を二本立てた。
    「まず、出現直後の悪魔達は能力を大きく制限されるため、配下を呼び出せない。加えて他のダークネス組織から察知されないように、それぞれ別の場所に出現する」
     単独行動の間隙を狙えそうだ。
    「ただ、この瞬間が弱みだということは悪魔も重々承知の上、出現場所は熟考しているだろうから、こちらも大人数を送り込むことはできない。一つの襲撃地点につき8名までで、灼滅を目指すことになる」
     タイトな状況を語ると、峻はホワイトボードに向かって見取り図を描き始める。
    「君達にお願いする場所は、高原の湖の畔だ。西の岸辺に向かって焼け落ちた修道院の跡地があり、そこにソロモンの悪魔が現れる。周囲に人影はないが、修道院跡地を挟んで湖と反対側に車道がある。そして、現れる悪魔だが……」
     戦闘の必要事項を書面で配り、峻は薄く眉根を寄せる。
    「名前はサレオス。浮遊する金属のワニの頭部に、甲冑姿の騎士の上体が融合している。無骨な見た目に反して、本来は穏健な方だ。必要に迫られなければ武には訴えないと言われているが、それだけに諾々とやられたりもしないだろう。場合によっては残酷にもなれる。くれぐれも警戒してくれ」
     手強いタイプだと呟いた。指先の墨をぐっと拭う。
    「正直、成功の見込みは少ない。苦しい戦いが予想される。だが、ハイリスクの見返りはハイリターンだ。強力な敵だけに、この機会に一体でも減らすことができたら嬉しい。十全な準備を固めた上で挑んでくれ。そして」
     続く言葉は言うまでもない。
    「どうか、皆、無事に帰って来て欲しい」
     冬枯れの窓の外、鳥が一声、鋭く鳴いた。


    参加者
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    森村・侑二郎(一人静・d08981)
    サフィ・パール(星のたまご・d10067)
    霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)
    ラハブ・イルルヤンカシュ(アジダハーカ・d26568)

    ■リプレイ

    ●反転聖域
     暗がりに幾つもの光が揺れる。
     照らされた地図に丁寧に書き込まれた印が、目的地がほど近いことを物語っていた。
     小さく二つ反射する瞬きは紫色。花衆・七音(デモンズソード・d23621)の瞳が、仄白い歩道の向こうを透かし見る。
     そして、見つけた。
    「あそこや」
     ぼんやりとした影は、ひどくなだらかな滑り台の形をしている。斜めに大きく崩れて落ちた修道院の石組みだ。その向こうの鏡面のような反射が湖水。
     九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)が赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)と共に先に立つ。この二人が盾役を担うこととなっていた。
    (「修道院跡に悪魔が現れるとは」)
     靴底の裏で煉瓦の欠片が崩れる。残った雪は薄い。
    (「皮肉ですが、似合いかもしれませんね」)
     出現地点は、ソロモンの悪魔たちが自ら考慮を重ねて選んだ場所だという。
     矛盾の魔が見せる光景は、何を意味するというのか。静寂は鼓膜を凍えさせるほどに冷たい。
     あとは僅かな瓦礫と床ばかり。そこで8人は散開し、明かりのいくつかを床に設置する。視界に問題はない。
     何かが光った。
     湖水の際、ぼぅっと浮き上がる燐光は銀の鎧の輪郭を描いて滴る。雫が反射しているのだった。
     ソロモンの悪魔、サレオスがそこにいた。
    「咲け≪黒百合≫」
     碧の声が響き渡り、
    「我が覚悟を刃とせよ」
     霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)の声が凛と重なった。開戦であった、が。
    「戦うつもりはない」
     敵意の感じられない声が、銀色のヘルムの奥から聞こえて来た。素顔はうかがえないが、砂糖を煮詰めて重たく滴らせたような低く柔らかな声だった。
    「矛を収めてくれたまえ」
     相手からも見えているのだろう。悪魔は掌を翳すかのように盾を持ち上げ、制止の仕草を取る。右手の剣は切っ先を降ろしたままだ。ゆらりと浮いたワニの前脚は虚空にある。
     サウンドシャッターで音を閉じ込めた空間の中、そこにも静寂が満ちていた。
     果たしてそれが必要なのかどうかも、現状ではわからない。だが、碧は車道側の安全確保のために殺界形成を用いる。
    (「時に残酷か……杞憂だとは思うが、車道もあることだし……念の為だ」)
     戦場よりも外界の方が殺伐とするさまは、異常だ。あたかも彼らだけが安全な場所に匿われているかのようにも見える。
    「聞きたいことがある」
     碧が問いかけると、悪魔は言った。
    「武器は引かぬのか」
     サーニャの足許でぎゅっという音が立った。エアシューズが薄い雪を踏み締める音だった。
    「公爵サレオス」
     地を白く削り、駆ける。
    「ここから先は一歩も行かせぬ。雪の上に散るがよい」
     悪魔の強さも狡猾さも知り尽くしていた。口車に乗ればどうなるか。
     粉雪を蹴散らす足先が、悪魔の正面を狙う。ほんの一瞬、彼女の全身が薄明かりの中から消え、ひゅっと風が鳴く。
    「……?」
     雪どころか真綿でも蹴ったかのような掴みどころのない感覚があった。
    「ならば、引こうか」
     そう答えたダークネスは、数歩後ろ、湖水の上に浮いている。二人の間を過ぎって悪魔の身に絡みついたのは、暗い色のマントだった。
     避けられた。
     ざんっ、と飛沫を上げて水際に着地し、頬の水滴を拭う。
    (「やはり」)
     前へと足を踏み出しかけて、サフィ・パール(星のたまご・d10067)はそれを引き戻す。
     包囲をしたい。だが、やれば逃げ道を背に取れない者たちが出る。周囲に注意を払うと、それを実感した。
    「人を惑わす悪しきもの。グランマにそう、教わりました」
     霊犬『エル』を前に出して、距離を保った後方に立つ。クロスグレイブの巨大な十字の影が、砕けた聖像へと斜めに落ちた。束の間、そこだけが真の聖域となる。
    「サレオス」
     呼び捨てると同時にモノリスを振りかぶり、サフィは突っ込んだ。

    ●世界の両翼
     最初の犠牲は、エルだった。
     ヨークシャー・テリアの愛らしいシルエットが、サフィと悪魔の間で盾となり真っ黒な闇に呑み込まれて消えた。
    「っ、賢夫人であるな。健在か?」
     その祖母の愛犬であった子犬の姿を葬り去っておきながら、悪魔は問いかけてくる。小さきものの消滅を悼むのか、片腕を胸の前に上げもした。
    (「落ち着いている。何を考えているでしょ。人の想い出があるのか」)
     そんな疑問すら湧いてしまいかねない。
     しかし、誘い出さねば、あるいは引きずり寄せねば、このまま湖水上に行かれてしまう。今はぎりぎりで引き留めているが。
     やはり慎重な距離を取っていたラハブ・イルルヤンカシュ(アジダハーカ・d26568)だったが、彼女もまたねじ切りを狙って地を蹴った。
    「ん、自由はやらない。おとなしく私に食われてろ」
     灰色の龍の三頭で、瞳の赤光が輝く。襲い掛かるその様は、あたかも古の書の版画のようだ。長い首がぐんっと撓る。まさに捕食の態。
     水上に浮いていたワニの前脚が、大きくのたうった。水飛沫が割れ、盾の面が耳障りな音を立てて削れる。
    「そう、っ……でなくとも、今は、少々不自由だ」
     逃げようとする動きが鈍い。召還酔いとは、これなのか。皆無が巨腕を構える。
    「出て来たばかりの今がチャンスです。相手が本気になる前に、倒しましょう」
     その時、チッ、という舌打ちの音が響いた。間髪入れずに闇を縫い、空切る音。レイザースラストだ。
     姿勢を崩した悪魔の胸を一撃したそれは、『Flugel』という。下肢であるワニが苦悶の咆哮を上げ、水面を鉤爪で引き裂いた。
     その正面に立ちはだかっているのは、ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)。前にひきずられることなく戦況に穴を開けてみせ、戯れるでもなく正面を向く。
    「とある物語曰く『正義の味方は世界を幸せにしか出来ない』と」
     赤い袖が両翼のように風を孕み、大きく翻った。
    「故に、俺が負ける道理は無いと知れ」
     サレオスは、盾を前に掲げて俯き、鈍く咳き込んでいる。やがて、ゆっくりと頭を持ち上げた。
    「私の幸せはどうなる」
     剣を一振りし、切っ先を上げる。
    「致し方ない――血路を開かせて頂こう」
     ぷつりと何かが切れた気がした。例えば、細く細く限界まで張り詰めた膠着の糸が。
     森村・侑二郎(一人静・d08981)が、目を眇める。
     ウイングキャット『わさび』は前に出ている。ちょうどその翼越しにサレオスの剣が見えるが、きっちりと後ろに引いた自分の方へは向いていないのではないか。
     上段に上げて見せはしたが、あれは。
    「前列では?」
     その声を聞くや否や、皆無と碧が動いた。仲間の多くは前へと誘われている。悪魔の姿が眼前へと迫った。
     七音の声が響く。
    「うちは右や」
    「了解、左です」
     無駄なく声をかけ合ったその時、世界が青白く反転した。

    ●緋の境界
     どぅ、という重たい衝撃は、体の内側に生じた地鳴りのようだ。見えないところから切り刻まれる苦痛に、殲術道具を握る指先が硬直する。
     しかし、弓引く音が闇を裂き、清かな光が夜を縫う。回復の動きに無駄がない。
     二枚盾となった二人が一歩大きく後ろに押され、視界を塞ぐほどの水飛沫が上がったが、さすがに固い。倒れない。
     回復を受けたサーニャが退き、庇われたサフィが前へと出る。ひゅん、と矢の走る音。サーニャの癒しの矢が仲間の命中精度に磨きをかけ始める。
    「耐えたか」
     手応えを見て退こうとするサレオスを、ラハブが追った。
    (「私は、悪魔に対する絶対悪。何が目的でも知ったことじゃない」)
     裂帛の一撃が、大きく突き出された盾と噛み合う。
    (「ここで必ず喰い殺す」)
     ガチガチガチィッという凶悪な音は、金属を砕こうという顎門のもの。次第に押されるサレオスが、盾の陰で大きく肘を引いた。
     そして、
    「頂くぞ」
     突き出す。
     盾を引き付け、額も触れ合おうかというところまで切迫し、銀の兜に赤い瞳の明滅を映し込んだ。
     水打つ音が聞こえる。足許だ。
    「下る、気……っ」
     ぐっとこみ上げる血の息を吐いて、それを仲間に伝えた。ラハブの声が濁る。
     そこにクロスグレイブを構えたニコが駆け込んだが、目の前に血塗れの仲間を突き付けられた。水際が彼の装いを映したかのように赤く染まり始めている。
     それを見て侑二郎が前へと駆けた。
    「代わります」
     腕を差し伸べ、深手のラハブを受け止める。逆の腕には縛霊手。一度大きく退いて一気に光を注ぐ。
     その隙にワニが身を翻し、水際へと退いた。抜け目なく位置を取り、燐光に似た眼差しを一人一人に注いでくる。足首まで水に浸かって踏み込み、ニコがモノリスを振るった。これ以上、行かせるわけにはいかない。
     鈍い手応えがあったが、そのまま敵が身を返す。踏み込んだ勢いで更に深みに向かいそうになり、我に返って後ろに引いた。
     その足許が。
    「凍る」
     前に出ようとしていた仲間に向かって、来るなと片手を上げる。その時にはもう、赤く染まった湖水が波紋を失っていた。
     凍る。靴底が、足首が。そして、鋭い牙に似た破片を突き出して湖がニコの脚に噛み付いてきた。脇腹を押さえたサレオスは、その背後へと逃れる。
     序盤、押し気味だったのが効いて、戦況は境界線上をぐらぐらと綱渡りしている有様だった。少しずつではあるが追い詰めている。
     ソロモンの悪魔の戦い方は、騎士などではない。まさにワニだ。少しでも柔らかいところを狙ってピンポイントで喰らい付き、深みへと引きずり込もうとする。
    「数、減らしにかかってるんや」
     確実な位置を取って癒しの矢を放ちつつ、七音が奥歯を噛んだ。
     悪魔が剣を一振りし、鮮血を払う。
    「私も、死に物狂いなのだよ」
     その一瞬をついて、サフィがエアシューズを駆る。
    (「少し、迷うです」)
     足許で水が割れ、さ、と飛沫が走る。その重さを振り払うように、力強く水底を蹴った。
    「それでもあなたが悪魔なら、人の為に……討つですよ」
     一撃には惑いがない。
     硬い音を立てて盾が跳ね上がり、ワニが水上へと叩き付けられた。

    ●悪魔の眼差し
     ぐら、と揺れたサレオスが、頭を大きく横に振る。重たい動きで、しかし身を立て直した。
     一歩前に出た碧が妖刀《黒百合》を振りかぶると、刃で押し止めて来る。そこへと問いを投げた。
    「教えてくれ」
    「戦うのであろう」
     元より勝敗を捨ててまで問うつもりはない。そのまま口を開く。
    「お前たちの目的は何だ」
     沈黙が落ちた。刀と剣は拮抗している。味方と敵とが一直線上の位置取りで、手を出しにくい。
     何を考えているのか。無言を続けた悪魔が、ゆっくりと顔を上げる。ヘルムの頬を湖水が伝い落ちた。
    「サイキックアブソーバーの力が弱まった今、力あるダークネスたちが動き出している」
     答える声は静かだった。刃さえ交わさなければ、こうなのだろう。
    「我らソロモンの悪魔が次の世の覇権を握るために、ここでやられるわけにはいかぬ」
     鍔迫り合いは崩れない。頷いて、碧は続ける。
    「お前たちの中で危険人物は誰だ」
    「知りたいか。ならば、とくと聞きたまえ」
     す、と息を吸う音が聞こえる。ワニの瞳が音もなく一つ明滅した。青白い。
     ソロモンの悪魔は最初の一句以外、さして渋るでもなく答え続けている。
    「今回の作戦には、悪魔王バエル様じきじきに出陣している。たとえ、この私が灼滅されても、ソロモンの悪魔の勝利は――」
     じっと状況を見つめていたサーニャが、はっと頭を跳ね上げた。弓を下ろしてチェーンソー剣へと入れ替える。悪魔の声が響き渡った。
    「動かない!」
     重たげな盾が、水へと落ちる。
    「左手!」
     駆け込む目の前で、悪魔の左手から漆黒の矢が放たれる。碧の頭ががくんと大きく後ろに振れた。
    「……っ!!」
     ジャッと振り抜いたチェーンソー剣の軌跡を、悪魔が仰け反ってかわす。落ちた盾をワニの牙で咥えて放り上げ、再び左手で握り取った。
    「その目、潰しておくに限るな」
     突き出されるのは禍々しく光る剣。ぐっと顎を上げたサーニャの喉の前で、それを皆無が掴んで止めた。
    「指が飛ぶぞ」
    「飛ばせますか?」
     思い切って水を蹴り、前へと出る。少しでも湖側へ。味方から遠く。遠く。
     諸共に倒れこみ巨大な水柱を上げる。侑二郎が前へと出て傷付いた者を癒そうとしたが、げぇと水を吐きながらも立ち上がったのはダークネスが先だった。
     漆黒の矢が、先頭を走る気概のある者をほど狙う。
     侑二郎と七音が傷付いた仲間の腕を掴んで真後ろへと飛び退ると同時、ワニの足もまた湖面を打った。
     さ、と湖水を爆ぜさせて二手に大きく離れた影は、片や異形が一つ、片や倒れた仲間を車道側へとやりながら立つ四つ。
    「く……っ」
     限界だ。深追いはできない。冷静な判断を下した時、灼滅者たちの足は一歩、後ろに下った。
     痛恨の思いを胸に退く闇の中、いつまでも纏わりつこうとする残像がある。
     青白く光るワニの眼光だった。
     

    作者:来野 重傷:ラハブ・イルルヤンカシュ(アジダハーカ・d26568) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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