アガメムノンの初夢作戦~バッド・ドリーム・レポート

    作者:君島世界

     ――1月2日早朝、武蔵野市内の工事現場。
     日の出前の空から、夜色をしたシーツのようなものが、ふわりと、何の前触れもなく地に落ちた。間もなくその内部から、沸騰する湯面のように、ぞぼ、と何者かが立ち上がる。
     誰一人として見る者の無い場所で、それは布を被った腕……のような何かをふるい、鉄骨へと叩き当てた。鈍い音が響く。頑丈な鉄骨はしかし、自身が全く針金細工であったかのように曲がり、屈服し、ついには破断した。
     工事中の建物が、わずかにだが傾く。
     するとそれは、建物の内部を滑るように行き始めると、先ほどの腕のようなものを派手に振り回し始めた。一振りごとに近くの鉄骨を潰し折り、建物の反対側に出るときには、1階の柱の大部分を破壊してしまっている。
     自重を支えきれなくなった建物は、建築中の地下部分までをも含む、完全な自壊へと導かれるのであった。人的被害が一切ないことだけは、不幸中の幸いだったが――。
     
    「おはようございます、皆様。いきなりの質問になりますが、皆様は初夢を見られましたでしょうか? ……いえ、これは今回の事件に関係のあることですわ」
     早朝、眠い目をしばたく灼滅者たちを前に、鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は表情を引き締めて語り始めた。
    「新年早々ですが、急ぎの依頼があり、皆様に連絡をさせていただきました。というのも、我らが武蔵坂学園のある武蔵野市が、シャドウによる攻撃を受けていますの。……よろしいでしょうか?」
     武蔵野市への直接攻撃――由々しき事態である。灼滅者たちの間に動揺が走る前に、仁鴉は手早く言葉を繋げていく。
    「首謀者は、第2次新宿防衛線で撤退した四大シャドウの一角、歓喜のデスギガスの配下であるところの、『アガメムノン』ですわ。アガメムノンは、灼滅者の見た初夢をタロットの力で悪夢化し、『悪夢の尖兵』を現実世界に出現させたようですの。この悪夢の尖兵の灼滅が、今回の作戦目標となりますわ。
     アガメムノンは、わたしたち灼滅者の本拠地が武蔵野である事を知らないはずですから、この作戦は『どこにあるか判らない、灼滅者の拠点を攻撃する』ためのものだと思われますの。また、武蔵坂学園の規模についても知らなかったようでして、襲撃自体は学園の危機に直結するものではありませんわ。
     ですが、このまま放置すれば、武蔵野周辺に大きな被害が出ることは避けられません。皆様は市中に出撃し、これら悪夢の尖兵を撃退してくださいませ」
     
     本来であれば、悪夢の尖兵がソウルボードの外に出ることは不可能である。今回の事件においては、初夢という特殊な夢を用い、加えてタロットの力をもって無理やり発生させることで、現実への出現を叶えているようだ。その為、これらは24時間程度で消滅するものと思われている。
     だが、消滅するまでの間は、ダークネスに匹敵する戦闘力で破壊活動を行うため、時間切れを待つことはできないだろう。
     悪夢の尖兵の外見は、夜色の布を被った『シーツお化け』のようなものとなっている。戦闘時に本気を出すと、このシーツを捨てて本来の姿をあらわにするが、これは『灼滅者が見た初夢』に由来するものとなる。戦闘方法や性質なども、その初夢の内容に準じるようだ。
     正体を現した時、その初夢の内容が何であるかを適切に判断できれば、戦闘を有利にすることができるだろう……が、若干難しいかもしれない。
     
    「とまあ、奇妙な事件が起きてしまったものですわ。悪夢と変えられた初夢が形になって出てきてしまうのですから、対処するにあたって、人によっては精神的に大ダメージを被ってしまうかも……いえ、戦闘続行には支障はありませんわ。
     すこし心にぐさーってくるかもしれないだけですの。ぐさーって、ね」
     と、手にした何かを逆の手の何かにぐさーってやる仕草を見せる仁鴉であった。


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    九条・雷(アキレス・d01046)
    羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)
    病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    栗元・良顕(雨の・d21094)
    秦・明彦(白き雷・d33618)

    ■リプレイ

    ●悪夢の夜明け前
     夜明け前。灼滅者たちはそれぞれに仮囲いを飛び越え、人気のない現場へと降り立つ。
     建築中の建物は、掲示板の表示によれば、地上5階の地下1階。どこかの企業の持ちビルとなるらしく、あまり広くはないが、さりとて莫大な建築費がかけられているのだろうと察せられた。
    「さて、悪夢の尖兵はどこだ? もう出ているか?」
     秦・明彦(白き雷・d33618)はあたりを見回すも、それらしき物は見当たらない。念のために空も見上げるが、変わり映えのない夜が広がっているのみだ。
    「まだ、のようだね。……うう、寒い」
     と、栗元・良顕(雨の・d21094)は『長いマフラー』の中に顔を引っ込めた。暖冬傾向の冬とはよく言われるが、それでも寒いものは寒い。柿崎・法子(それはよくあること・d17465)も、愛用の『無骨な手袋』のはまりを確認する。
    「じゃ、敵が出る前に悪夢のおさらいしとこっか。ボクは『思い出せなかった』んだけど、違う人もいるんだよね。えっと――」
    「では、拙者から説明させてもらうでゴザル! あれは確か、昨晩のことでゴザった……」
     いや時期は知ってるから、と法子が突っ込みを入れる間に、天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)は語りモードへと入っていった。
    「一言で言うなら、超展開のサイクリングでゴザルな。我が家への道すがら、なぜか森や砂丘をチャリで越え、その間熊とかオレンジ色の謎生物とかにずっと付け回されてたでゴザル」
    「超展開……?」
     良顕が呟く。続いて、若干生気の抜けた瞳の病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104)が語った。
    「……めっちゃ巨大なスズメバチ、でした。羽音がブンブンうるさくて、人に襲い掛かっては卵を産み付けて、するとすぐに、その人の体を食い破って幼虫が羽化するんです……」
     想像すると、うわあ、と嫌悪の悲鳴をあげたくなるような光景だ。新年早々そんな初夢を見せられたとあれば、眠兎の心労は察するに余りある。
    「あたしの悪夢はウルスラのに似てるかなァ? あの、なんとかマシン猛レースみたいな。色んな車が出てきて、妨害工作直接攻撃なんでもアリで、もうばんばか人が死んでくのさ。そんで――」
     九条・雷(アキレス・d01046)が身振りまじりで語る悪夢は、もしそのまま敵に回ったとしたら恐ろしそうだ。語りながらも雷は、殺界形成を使っておくことを忘れない。
    「えっと、あたしのはちょっと皆さんのと毛色が違うんですけど」
     次は羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)の番だ。
    「巨大なお菓子食べ放題、でした。あたしもうおいしくて幸せいっぱいで、そんなこんなで楽しんでましたら、ふと空からもっと大きなケーキが降ってきてですね……」
    「潰されたっすか?」
    「……ご想像にお任せします」
     ふむ、と考えこむのは十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)。最後に、狭霧も自分の初夢を語る。
    「俺のは、よくあるゾンビパニックっすね。これまで倒してきた敵とか、まあ色々っす」
     軽く苦笑。
    「ちなみに攻略法は、……自分に自信を持つこと、っすよ。皆さんも攻略法は大丈夫っすか?」
     それぞれに頷き、答える悪夢持ちの灼滅者たち。準備は万全だ。
     ――ふと、皆揃って口を閉じた。
     街中に薄い静寂が、物言わず横たわっているかのように感じられる。稀に道路を走る車の音がするくらいで、故に彼らは、さらに感覚を鋭敏にしていく。
     明彦が白銀の聖剣を抜いた。
    「…………」
     しゃらん、という鞘走りの向こうに、夜色のシーツお化けが浮遊している。

    ●尖兵来る
     ゆらゆらと、風に吹かれるカーテンのように、シーツお化けのドレープが波打った。
    「いつの間に、と問う意味はないのだろう、悪夢の尖兵」
    「…………」
     明彦の問いに、答えることも、神経を向けた様子すらもなく。
     臨戦態勢を取った灼滅者たちの前で、悪夢の尖兵はぼんやりと浮遊したままだ。
    「……あ、あれがシーツお化けだね。あの中身は一体誰の初夢になってるのかな?」
     法子の言葉に、雷は指の体操をしながら答える
    「ああ、大当たりするのは誰だろうねェ……。それじゃその正体、暴かせて貰おっか!」
     間を置かず、前衛も後衛も同時に駆け出した。狭霧と陽桜のサウンドシャッターが、その足音を効果的に遮断する。と、狭霧が一番手となった。
    「この一撃はどうっすかねぇ……!?」
     鉄骨を駆け上がってからの高角度斬り。すると悪夢の尖兵は腕……のような何かをガードに構え、そこに硬質の音を響かせる。
    「ッ! 手応えアリ! 物理行けるっすよ、物理!」
    「あ、それを聞いて安心しました。撃ちます」
     狙撃ポイントについた眠兎がガトリング銃を撃った。並の眷属ならボロ雑巾にするであろうその連射は、しかし相手の布ですら目立った傷をつけられていない。
     ワンセットを撃ち終えて、眠兎は別のポイントへと移動する。その間にウルスラが用意周到と駆け出し、急制動に踏み込む踵から影業を繰り出した。
    「『クリッターズ・ハンド』! そのシーツお化けを捕まえるデース!」
     空へ向かう影の腕が、悪夢の尖兵の脚……であると思われる箇所に絡みつく。影の指がその表面を押し斬っていき、すると間合いに入った雷が、紫電の拳を握り締めた。
    「Now! 好機でゴザルよ!」
    「応!」
     ゴガンッ!
     人間型であれば肝臓が位置する場所を、雷はしたたかに打ち据える。その威力に慢心せず、バックステップで距離を取る。打撃は徹ったが、肝心の正体は掴めずに居た。
    「これは、あたしのじゃ無さそうだよねェ……宝くじに続いて、また外れかい」
    「…………!」
     すると、悪夢の尖兵のシーツから腕……のような何かが飛び出した。その場で旋回を始め、次の瞬間、暴走車のように周囲を走り始める。
    「あれは、予知にあった攻撃だね! 守りはボクに任せて!」
     軌道上に陣取った法子が、その全身で悪夢の尖兵を止めようとするが。
    「あの勢い……九条さんのでも、あながち間違いじゃないかもしれませんね……」
     眠兎の言うとおり、敵の回転連打を前に、法子はじりじりと押されている。
     せめてとばかりに法子は、斜め方向へと敵の勢いをずらした。衝撃に耐えかねて手をひらひらさせる彼女に、陽桜はイエローサインで治癒を施す。
    「大丈夫ですかぁ!?」
    「だ、だいじょぶだよ……あ、いたたっ」
     一方弾かれた悪夢の尖兵は、空中で反転しこちらへと向き直った。陽桜は交通標識を構え、味方を隠すように立ち塞がる。
    「確か、『本気を出すと、シーツを捨てて本来の姿をあらわにする』って……あっ」
    「えっと……」
     どこか眠そうな瞳のまま、良顕が敵に向かう。深く考えないままに、流されるままに――というのは、この場においてもそうなのだろうか。
     歩くような勢いの中で、マフラー代わりのダイダロスベルトが、紅く発光する。
    「……そこ」
     ずざん、と重い斬撃が通った。怯む敵に、すかさず明彦が突っかかる。
    「はぁあああああっ!」
     魔力のこもった黒鉄棍の一撃が、頭部……らしき部位にクリーンヒットした。明彦は勢いを殺さず、悪夢の尖兵を力任せに弾き飛ばす。それは二、三度地面にバウンドすると、再び何事もなかったかのように直立姿勢を取った。
    「これでもまだ、本気を出さないつもりか? なら――」
    「………………ヂ」
     と、遭遇してから初めて、悪夢の尖兵が声……であると思われる音を出した。すると溶けるようにして夜色のシーツが消えていき、悪夢そのものの姿を現出させていく――!

    ●正体見たり
    「さて、中身はスズメバチ? カーチェイス? はたまたゾンビ?」
     法子が興味深げに見つめる先で、悪夢の尖兵はまず『長細い多脚』を露にした。次いで『堅い表皮』『無感情な複眼』『騒ぎたてる羽』『極太の刺針』を……そう、これは。
    「スズメバチ……っ」
     己が持つ恐怖症の対象を前に、眠兎の瞳が光を、肌が血の気を、言葉が生気を失う。
    「知っているの? 病葉さん!」
     法子の振りに、眠兎は満足に答えられず、ゆえに態度で応えた。
    「……あは」
     がしゃこん、と眠兎はその場でガトリングガンを構える。甲高い音を立てて回る多銃身は、ほどなくして文字通りの『炎』を吹いた。
    「あはははははははははッ!」
     無闇に浴びせられる放火の間隙を、悪夢スズメバチは抜けていく。しかし全弾を避けきるには至らず、表皮に炎がまとわりついていく。
     瞬間、灼滅者たちは『サイキックの命中率』の上昇を感じ取った。ということは、つまり。
    「つまり、炎が弱点だ。あははっ、超悪趣味な初夢の割には解りやすくて有難いねェ!」
     笑う雷の『赤い靴』が、サイキックの摩擦炎に燃え上がる。踏み切りの焦熱を残して、彼女は悪夢のスズメバチに肉薄した。
     見下ろす視点は、敵の上空3メートル。
    「――可愛い女の子には、針があるのさ」
     こちらを見上げる敵の頭部を、雷は地面まで踏みつけにする。めり、と表皮を潰すなんとも言えない感触が伝わってきた。
    「ここは続けていくよ!」
     暴れて身を起こすスズメバチに、間髪いれず駆け寄った法子が、燃える拳を叩きつける!
    「炎なら、ボクだって使えるんだ!」
     ――ドォン!
     火の粉と残光とが描くラインの先に、しかし六つ足で立つスズメバチは、威嚇するように羽を騒がせ、ガチガチと顎を鳴らしている。
     小さく息を呑む眠兎を、狭霧が背後に庇った。
    「……ったく、ほんっとにシャドウってやらしい事ばかりしてくるんすから」
     と、狭霧から見て左サイドへ、悪夢スズメバチが不意に飛び込んできた。縦飛びになって針を突き刺してくるのを、反応が間に合わずクリーンヒットを許してしまう。
    「! 痛……うわッ! なんすかこれ!」
     その傷口から、白い蛆虫がボコボコと湧き出してくる。腕を這って首筋にまで上がってくるそれらが、一斉にヤツメウナギのような口を開けて――!
    「あたしには見えませんが『トラウマ』ですよね! 癒します!」
     間一髪、と言っていいだろう。メディックである陽桜のエンジェリックボイスがそれらを吹き飛ばした。思わずへたり込んだ狭霧は、はたと気づき追撃が来る前に立ち直る。
    「大丈夫です! どんな悪夢でもみんなで立ち向かえば、怖いことなんてありません!」
    「陽桜ちゃん――うん、そうっすよね、うん……!」
     調子を取り戻した狭霧は、改めてファイティングポーズをとる。その様子を隠れて眺めていた眠兎にも、どうやら少しだけ生気が戻ったようだ。
    「恐怖……怖いこと、は」
     良顕が行く。手にした殺人注射器『刺したりできるやつ』を、手の内で回しながら。
     敵への攻撃に集中し、すると走馬灯を見る瞬間のように、良顕の思考が高速化した。その時、脳裏に何かが閃いたような気がして――。
    「……なんだっけ」
     形のある考えにする前に、接敵範囲に入っていた。次はただ、武器を刺すことに集中する。吸い取った敵の生命エネルギーを自分に投与する頃には、前の考えは霧散してしまっていた。
    「GYAAAAAAAAA!」
     顎から泡を吹く悪夢スズメバチが、羽音の音量を凶暴なレベルにまで引き上げた。例えではなく鼓膜を突き破ってくるかのような音の暴力に、明彦は鋭く突き進む。
    「負けるものか! おおああああああっ!」
     真正面からぶつける怒号は、声量の点では決して引けを取らないものだ。まるで遠慮のない発声で体に満ちた力を、明彦は拳に込め、引いた。
    「初夢を悪夢に変えられた仲間たちの嘆きに! それをもって破壊を行う敵の卑劣さに!
     俺は今、全身全霊で怒っている! 手加減なしだ、粉砕する!」
     音速を優に超える一撃が、あやまたず敵の正中線を打ち抜いた。スズメバチの堅い外殻、その全身に大きなヒビが入り、内容物らしきものがぼたぼたと零れてゆく。
    「おお、NICEなPUNCHでゴザル。そしてこれが、『虫の息』ってヤツデースね!」
     ぱちぱちと陽気な手拍子を立ててから、ウルスラは『なげやり』を構える。と、ふとある逸話を思い出して、キスをした指で槍先を軽くなぞった。
    「サムラァーイの虫退治はこれがお作法デス……トータ・タワラーノゥ!」
     槍でぐさりと、スズメバチの眉間を突き貫いたウルスラ。引き抜く間もなく敵が風化し、消えて行った光景を前に、頬を軽くかいて微笑んだ。
    「……あや。ちょっと美味しいトコ貰いすぎたデースかねー?」

    ●夜明けを迎えて
     戦闘終了から十分後。
    「……ふふ。燃えろ。滅べ。燃えて滅べ。ふふふ……」
     と、悪夢の尖兵が消えた辺りに、蚊取りスプレーを散布する眠兎は別として。
    「任務、遂行。みんな、怪我はもうないかな?」
     明彦が確認するまでもなく、灼滅者たちの肉体的・精神的ダメージはほぼ抜けきっていた。
     気づけば、明るい日差しが工事現場に差し込んできている。もう少しすれば工事会社の人も来るだろう。若干踏み荒らされたような形跡こそ残ったが、破壊活動を未然に防げたのは、なによりの戦果だ。
    「おーい、こっちこっちー、上ー。もう敵の気配はないよォー、脱出しよー……ねっと!」
     最後の一言で、雷が工事中の建物から飛び降りてくる。いちいちアクションが派手なのは、まだまだ体を動かし足りないからかもしれなかった。
     ほぼ同時に、現場内を歩き回っていた法子も一行のところへ戻ってくる。理由をきかれると、
    「ちょっと何か残ってないかなーって思ってね」
     とのことだった。
    「……さて、無事悪夢払いもできたっすから、これで新たな気持ちで新年を迎えられるっすよ!」
     2番目にひどい目にあった狭霧の言うことに、1番目以外は深く同意する。
     今年も、始まりから波乱含みで、油断のできない一年にはなりそうだが……。
    「それではみなさん、おつかれさま、でした! よろしければ、干支のお紅茶とお菓子をご用意しましたので、どうぞ暖かくしてくださいね」
     笑顔の陽桜がすすめるそれらを、良顕はよくわかっていないままに受け取って、よくわかってないままに口にするのであった。
    「いただくついでに、拙者は神社に詣でてから帰るとするでゴザルかな。節目節目を楽しむというのも、悪くはないでゴザルよ、皆の衆」
     ウルスラの言葉に、帰宅ムードになった灼滅者たちは退散を始める。列の最後で、良顕はそっと、小さく呟いた。
    「……おいし」

     殺界形成を切ったあと、通りすがりに、灼滅者は作業着を来た一般人たちとすれ違った。
     新春だというのに彼らは、黙々と工事現場へと入っていく。
     笑顔こそ多くはないが、物造る者のプライドが、彼らをそうさせるのだろうか。
     すこし嬉しくなった。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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