おせちってつけば何でもいいわけじゃねえぞオラァ!

    作者:空白革命


     おせち料理!
     日本人が元旦からの三が日くらいは休んでよかろうという気持ちから日持ちするめでたい食材を集めて作った伝統的な料理である。
     しかし!
    「フランスおせちだよー!」
    「お菓子おせちだよー!」
    「刺身おせちだよー! 賞味期限は今日中だよー!」
     大抵の店が年末年始休まず営業しているブラックなジャパンにおいておせち料理の意味はなし! おせちってつけときゃ皆買うだろ的な思考でどこもかしこも適当なモンを作り始める始末!
     そんな現代のおせち業界に!
    「活(カァツ)!」
     謎の怪人が突然あらわれ、亜流おせちを売る店を店ごと吹き飛ばした。
    「余はおせち怪人でおじゃる! 伝統を無視したおせち料理には死あるのみでおじゃーる!」
     

     神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)はチョコおせちとかいうチョコとビスケットだけで作られた『もうそれおせちじゃなくね?』みたいなものをパクついていた。
    「まーねー、気持ちはわかるよ? 俺も昔から守ってきたものを壊されたり、関係ない人が土足で踏み込んできたら怒ると思うしー……たぶん?」
     黒豆じゃなくチョコビーンズをつまむ。
    「でもだからってお店を壊しちゃったりするのは、やっぱり闇に堕ちたダークネスならではだよね」
    「いかにもですね」
     かまぼこじゃなくて板チョコをぱくつくエクスブレイン。
     今回の事件も、天狼の調査と彼の探査で見つけたものである。
    「お互いお店の売り上げがかかった死活問題ですから譲れないとはいえ、もっとちゃんとしたやり方はあるものです。しかし『ちゃんとしない』やり方をとる人たちには通じない。だから……」
    「俺たちの出番ってわけ」
     綺麗に作られたエビ型チョコを指にのせ、天狼はにっこりと笑った。
     
     『おせち怪人』はおせちのパワーをもったご当地怪人である。
     彼はおせち料理の食材を模した戦闘員『くりきんとんマン』や『かまぼこマン』といった小柄な人型眷属を引き連れて商店街を襲撃するようだ。
     こちらは商店街に先回りして彼らを撃退しよう!
    「気持ちはわかるけど……チョコおせちおいしっ。時代の波だよねー!」


    参加者
    夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)
    神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)
    中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)
    篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    ペーニャ・パールヴァティー(羽猫男爵と従者のぺーにゃん・d22587)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)
    月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)

    ■リプレイ


    「余はおせち怪人でおじゃる! 伝統を無視したおせち料理には死あるのみでおじゃーる!」
     時は一月のはじめ。誰がなんと言おうと日本全国おせち喰ってる時期の話である。
     おせち怪人は全身タイツめいた戦闘員にエビやダシタマやクリキンといった名前をつけて解き放ち、お店に積まれた創作おせちをなぎ倒しにかかる。
    「やめてくれー! それは店員が徹夜して作ったんだー!」
    「ウルサーイ! お前もだし巻き卵にしてやろうか!」
     常人じゃまず言わないような台詞でもって、おせち戦闘員がぼうっきれを振りかざしたその時。
    「くらえー!」
     横から篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)のドロップキックが炸裂した。
     店内に突っ込んでいくおせち戦闘員。
    「三千の梅の力を借りて、水戸六名木・月影キック!」
     地面に両足片手でブレーキをかけ、アリスはキッと戦闘員をにらむ。
    「おせち怪人、きさまの好きにはさせないぞ!」
    「きさま灼滅者だな!? 余の邪魔はさせぬ。ものどもかかれぇい!」
     戦闘員の間を割って現われたおせち怪人が、両腕を振り上げて号令をかけた。
     アリスを取り囲むカマボコやミツマメの戦闘員たち。
     飛びかかろうとした所で、彼らの背後で剣閃が走る。はばたばたと倒れる戦闘員。
    「知ってるか。おせちを創作するとね、時々すっごく切なくなるが、時々すっごく熱くなる……らしいよ」
    「たっくん!」
    「たっくんちがう」
     夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)が剣を構え直し、アリスのそばへと駆け寄った。
     あえて囲まれるような位置でアリスを庇う。
    「こっちの避難誘導は終わったよ」
    「アドベント!」
     反対側の戦闘員がリング投擲によってはじき飛ばされ、戻ってきたリングを掴んだ中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)が駆けつけた。
    「ナンチャッテおせちには言いたいことはあるけど、今はこっちを倒すのが先よね!」
    「コシャクナー!」
     カマボコやダシマキの打撃をシールド化したリングではじき返し、周囲に展開する陽。
    「こっちの誘導も終わったわ。あとは北側だけだけど……」
     商店街の北側を見ると、白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)が客たちを大体逃がし終えるところだった。
    「年末年始や春先によく出る暴徒的なあれだから危ないわ」
    「えっでも成人式はまだですが」
    「時候をわきまえない子供ばかりで参るわね。温暖化の影響かしら」
     おまえ小四やんけとは誰も言わない。逃げるのに必死だからだ。
    「戦闘員の目を盗んで客たちを逃がすとはセオリー通りなやつめ。だが思い通りにはさせないでおじゃる!」
    「「ギーッ!」」
     カズノコやタヅクリと書かれた戦闘員たちが避難路を塞ぎ、取り囲みにかかる。お子様への配慮か知らんが地面や電柱を棒で叩いて威嚇するというイヤに穏便な囲み方だった。
     懐からメスを抜いて構える幽香。
     そこへ、月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)がハーフスライディングで現われた。
    「おせちもいいけどカレーもね!」
    「むむっ、その耳障りなフレーズは!?」
    「おせちはおせちでもカレーおせちや!」
     ゆずはタッパー保存されたカレーソースを見せびらかした。
    「創作おせちを狙ったなら、創作おせちに引き寄せられるはずや。さあこっちにこい!」
     効果線を出しながらシリアス顔をするゆずだが、幽香はかえって青ざめていた。
    「い、いや、どうなのよ。いくら彼らでもおせちを見せられた程度のことでいいように操れるほど馬鹿じゃ……」
    「オノレェ! ただでさえ憎きカレーをおせちと呼ぶとは許せんでおじゃる! まずは貴様から血祭りにあげてくれるわ!」
     馬鹿だった。
     というか、おせちへの執着が人の数百倍あった。
     ハーメルンとこの笛吹きさんじゃないが、タッパーもって後ろ歩きするゆずに全戦闘員と怪人が全力でついていくという、世にもアレな光景が展開されていると思っていただきたい。
     とはいえ仲良しクラブじゃねえんだから一人で全員を引きつけるのは無理があるってーもんだ。殴られたりしたらカレーこぼれるし。もったいないし。
     そこでだ。
    「創作おせちはひとつじゃない。さあ見ろ、広島が誇るもみじまんじゅうおせちだ!」
     『もみじまんじゅう!』の動きと共に現われる崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)。
     そんな動き未だかつてしたことねえのに、新年初笑い番組に頭がヤられたのだろうか。
     さておき。來鯉はおせちの中身をあえて丁寧に説明し始めた。
    「まず喜ぶめでたいの意味からコブダイのすり身を使って伊達巻き風の生地。そこに紅芋と牛乳で紅白を彩りを加え、更に黒豆の餡を使ったんだ。それとえーっと……」
     長くなるので割愛するが、來鯉は懇切丁寧におせちの内容を解説した。それを『へーそうなんだー』と真面目に聞く戦闘員たち。
     なんなんだこいつら。
     腕を組んでうんうんと頷く神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)。
    「需要にあわせていかないと、おせちを食べるって習慣もなくなっちゃうんじゃない? そうなったらヤだよねー」
    「ぐぬぬ、痛いところをつくショタでおじゃる……」
    「痛いところなんだ、そこ?」
    「あっでも私おせち好きですよ。ノリが」
     まるで最初っからそこにいたかのように会話に混ざっていくペーニャ・パールヴァティー(羽猫男爵と従者のぺーにゃん・d22587)。
    「よろ昆布(よろこぶ)で昆布巻きとか。そんな私があえてお勧めするのがこれ!」
     タッパーを担いだバーナーズ卿が嫌そうな顔で浮かんでいた。
    「カレーおせち!」
    「……」
    「……」
    「それ、さっきゆずさんがやった」
    「おつカレー!」
     カレーだばあするペーニャ。
     対しておせち怪人は。
    「ええい一度とならず二度までも! 絶対に揺るさぬ! 一人残らずひねり潰してくれる!」
    「効いてる」
    「よっぽど『おせちもいいけどカレーもね』のフレーズが憎かったんだなあ」
     とかなんとかやってるうちに、幽香たちはきっちり避難誘導を終えていたのであった。
     誘導シーン? 道の端に立って腕をくるくる回すだけのシーンに何を求めるか!


    「「ギィー!!」」
     爆発によって一斉に吹き飛ぶおせち戦闘員たち。
     それまで戦ってましたよといわばんかりに、爆発の中心から士元たちが歩いてくる。
    「やはり戦闘員たちでは今の灼滅者には勝てぬか。ならば余が直々に相手になってやるでおじゃる! くらえ、おせちビーム!」
     おせち怪人の放ついろあざやかなビームが來鯉に直撃する。
    「うぐっ!」
     霊犬ミッキーが前に出てビームを防御。來鯉は対抗してご当地エネルギーを拳に充填させた。
    「負けるか、もみじまんじゅうビーム!」
     ビームとビームがぶつかり合い、おせちビームを徐々に押していく。
    「なかなかのご当地ぢから。しかし日本全国で未だ愛されるおせちは負けないでおじゃる! おせちフルパワー!」
     ビームが急に極太になり、來鯉のビームを覆っていく。逆に押し返された來鯉は吹き飛び、お店に積み上げられた売り物の中に突っ込んだ。
     が、売り物が崩されることはない。横から飛ばした陽のシールドリングにキャッチされたからだ。
    「安易なナンチャッテおせちはは確かにどうかと思うけど、あんたたち怪人は手段が極端すぎるっての。ご当地商店街を守るための創意工夫は、否定できるもんじゃないのよ!」
    「伝統に工夫はいらないでおじゃる! 日本全国民が決まったラインのもと全く同じおせちを永久に作り続けるのでおじゃる! そして一年全てを元旦とし、一年三食おせちを食べ続けるのでおじゃる!」
     高笑いするおせち怪人。
    「だから極端だっての!」
    「心を忘れて他人を脅かすことこそ、おせちを名乗る資格無し!」
     士元は剣を構えてダッシュ。おせち怪人の放つビームは陽のリングが弾いていく。
     間合いを詰めての斬撃。しかしおせち怪人の腕を覆った御重型装甲がそれを弾く。剣が衝撃によって手から離れ、回転しながら頭上へと飛んだ。
     しかし士元は止まること無くハイキックを繰り出し、おせち怪人の顔面へと叩き込む。
    「ぐぬ!?」
    「ほら、高笑いなんてしてるから隙だらけになった」
     背後に回り込んでいた天狼が、帽子の中からステッキ状の影業を取り出すと怪人の背中を強かに叩いた。
     爆発が起こり、旗や鳩が飛び出していく。
     衝撃でつんのめった怪人は、そのままごろごろと地面をころがった。
    「そこだ! サンダーァッ、スマッシュ!」
     大上段からの飛び込み斬りを繰り出すアリス。
     刃を受け止めようと腕を翳すも、御重装甲はアリスの斬撃によって砕け散った。士元の入れていたヒビが更に広がったのだ。
    「しまったでおじゃる!」
    「くらえ、ボルトクラッシュ!」
     腕に届いた剣からエネルギーを注入。至近距離で爆発を起こした。
    「うおー、今です!」
     飛びかかったペーニャとバーナーズ卿が両サイドから殴る蹴るの暴行を加えにかかる。
     好き放題ぼかすかやられた怪人だが、起き上がってペーニャを投げ飛ばす。
    「ええい負けるか! おせちダイナミック」
    「ぺにゃー!」
     大量のかまぼこが積まれたワゴンに突っ込むペーニャ。
     突っ込んで足だけ出たまま不敵に笑う。
    「ふふふ。あなたはもう負けているのですよ」
    「なにっ!?」
    「バレインタインのチョコしかり、夏場のウナギしかり、始まりが解すな商業主義だったとしても、捧げた節句は神を呼び、感謝の心に神が宿るのですよ」
    「み、認めん!」
    「だが認めた! だからイタリアンおせちもスイーツおせちも売れるのです!」
    「すごい真面目に語ってる」
    「足だけで」
    「そういうことだ。お前の負けだよおせち怪人!」
     復帰した來鯉が刀を構えて怪人を取り囲む。
     正面には幽香とゆず。
    「おせちの伝統だって、昔の誰かが新しく生んだものや。だから人の数だけ、家庭の数だけおせちがある。うちにとって、カレーがおせちであったように」
    「人の数だけだと? そ、そんなはずは……い、いやちがう! おせちにかこつけて雑な料理を通販でうる業者だってあるのだ! 認めるわけには……!」
    「おいしくてまともな料理なら、なんでもいいのよ。正統なんて求めてないわ」
     幽香の放ったメスが突き刺さる。痛みに腕を掴んだ怪人の隙をついて幽香は急接近。腕や胸をメスによって切り裂いていく。
    「ぐおおおお! み、みとめん! みとめんぞ!」
    「その気持ち、うちだってわかる」
     高速スウェーで急接近したすずが、足払いからの掌底でおせち怪人を吹き飛ばす。
     空の段ボール群に突っ込んだおせち怪人は、大の字になって倒れた。
    「お、おせちは一つだけだ。他のおせちなど……」
    「確かにそうや。おせちを名が付けばおせちになるんやない。そういう雑な業者は、確かにある。けど『これ』に限っては断じておせちや。カレーおせちは、ボクの家を暖かくしてくれた!」
     起き上がろうとしていたおせち怪人は、その腕と頭をすとんと地面につけた。
    「家を暖かく」
     目を瞑るおせち怪人。
    「そう、なのかもしれん。皆がそうあってくれれば、おせちには、無限の……」
     呟きは途絶えた。
     おせち怪人は、そして部下の戦闘員も、跡形も無く消えて無くなった。
     最後に吹いた冷たい風に、ゆずは靡く髪をおさえた。

     三十分後。
     商店街は創作おせちを売るお店とそれを選ぶ家族連れでごったがえしていた。
     怪人が現われようと商売を続けるのが人である。
     これからも、色々なおせちが作られていくだろう。
     業者の怠慢によって悲しみのおせちが生まれることだって、あるだろう。
     だが人々が食と文化への想いを忘れない限り、おせちは人々の家を暖かくしていくのだ。
     今年も、来年も、ずっと。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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