栃木県日光市。有名な東照宮だけでなく、豊かな自然に溢れる場所でもある。そこに、奴らはいた。
「諸君、今年は何年だ?」
「申年だ」
「そう、つまり我々の年だ!」
数人で集まり、声高々に叫ぶ猿怪人達。見た目はほとんど猿の着ぐるみである。
「すなわち、世界征服したも同然!」
「ゆくぞ、我らの時代だ!」
そして猿怪人は群れを成し、町へとくり出した。
「干支でいうと今年は申年ですが、それに便乗して面倒な手合が出てきたようです」
湯呑の茶を飲み、淡々とした口調で語り出す冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)。
なお、干支というと正確には十干十二支のことだが、今それを言うのは野暮だろう。
「日光猿怪人が3体で徒党を組み、我が物顔で悪さをしています。近隣住民や観光客に横柄な態度を取ったり、金品をかつあげしたりとやりたい放題のようです」
猿怪人はその辺をうろうろしているので、簡単に見つかるだろう。そこを襲ってボコボコにしてやればいい。
「猿怪人3体は、群れるだけあって1体1体はそれほど強くありません。ですが猿だけあってすばしっこく、やや厄介な相手です」
猿怪人は爪でひっかくほか、どこからともなく取り出した柿を投げて攻撃してくる。あとは尻尾を叩き付けることもあり、小賢しい攻撃には注意が必要だ。
「猿怪人は、不利を悟ると逃走する可能性があります。ですので、最低1体でも灼滅できれば成功と思ってください」
もちろん3体とも灼滅できるのが最善だ。何らかの工夫があった方がいいかもしれない。
「申年にあぐらをかいて地元をアピールすることもしない、ある意味ご当地怪人としても見下げ果てた連中です。二度とこんな真似ができないようにしてあげてください」
そして蕗子はなぜかにっこりと微笑み、灼滅者達を送り出した。
参加者 | |
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天津・麻羅(神・d00345) |
リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794) |
磯貝・あさり(海の守り手・d20026) |
ヴィンツェンツ・アルファー(ファントムペイン外付け・d21004) |
若桜・和弥(山桜花・d31076) |
田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002) |
秦・明彦(白き雷・d33618) |
アクレルド・ガージウェー(赤い忠犬・d35934) |
●調子に乗る猿達
「俺に近寄ってくんじゃねえ!」
無関係の人を遠ざけるべく田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)がガンを飛ばすと、周囲の人が遠ざかっていく。灼滅者達は日光に到着し、猿怪人を迎え撃つ準備を始めていた。
「ふっ、決まった……!」
何故か、何かをやり遂げたという表情を浮かべる良信。でも本当の戦いはまだこれからである。
「申年だから猿怪人ですか、なんともタイムリーな敵が現れましたね。人々に危険が及ぶ前に倒してしまいましょう」
「そうですね」
磯貝・あさり(海の守り手・d20026)の言葉に頷き、アクレルド・ガージウェー(赤い忠犬・d35934)がサウンドシャッターを展開する。物音を聞きつけて人がやってくる、ということが起きないようにしておきたい。
(「猿モドキが三体。日光だけに……アレな感じ。ミザル、キカザル、イワザル……灼滅せざるを得ない灼滅せざるを得ない」)
リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)は道の向こうは視線をやり、怪人が通りかかるのを待つ。そして一分と経たず、待ち人、いや待ち猿が現れた。
「フハハハ、猿怪人様のお通りだ!」
「頭が高いぞ人間ども!」
わざわざ肩をいからせ、3体で並んで道を占拠しながらやってくる猿怪人達。どれだけつけ上がれば気が済むのだろうか。
(「日光への愛が足りませんね。ご当地怪人としてもダメダメな連中です」)
秦・明彦(白き雷・d33618)はその様子に呆れ、心の中で嘆息する。歪な形であったり、表し方が間違っていたりしても、ご当地怪人の多くからはご当地愛が感じられる。しかしこの猿怪人にはそれすらなかった。
(「もしかしてアレ、毎年違う怪人がこういうテンションで出てくるの……?」)
あまりの小物っぷりに、小さく眉をひそめる若桜・和弥(山桜花・d31076)。干支に対応するご当地があれば、和弥の危惧も現実になるかもしれない。
「フハハハハッ、今年は我らの天下よ!」
「このチンピラがっ!」
「ぶほっ!?」
高笑いを上げる猿怪人の1体に、ヴィンツェンツ・アルファー(ファントムペイン外付け・d21004)が挑発しながらカラーボールの入ったネットをぶつける。良信も続けてもう1体にぶつけ、猿怪人の内2体が緑とピンクに染まった。
「何をする貴様ら!」
「ははっ! 手が滑った悪ぃ! でも可愛くなったぜ?」
激怒する猿怪人に、へらへらと笑って返す良信。その様子に、猿怪人はますます怒りを強めた。
「我々猿怪人に刃向かうとは畏れ多い。今年は何年か分かっているのか!?」
「今年は2016年、オリッピクイヤーじゃ! そんなこともわからんのか、このエテ公どもがっ!!」
今年は申年、と言わせようとした怪人を、意地でも言うまいと天津・麻羅(神・d00345)が睨む。
「なんだ貴様は?」
「わしの名は天津・麻羅、高天原の神なのじゃ! この地の民を誑かすエテ公どもが、このわしが成敗してやるのじゃっ!」
ビシッと怪人を指差して宣戦布告すると、スコティッシュフィールドに似たウイングキャット・メンチがパーカーのフードから顔を出して羽をはばたかせる。今ここに、日光を守るための戦いがここに始まった。
●申年パワー?
「……!」
和弥は胸の前で両の拳をぶつけ、自らに痛みを与えて自分だけの儀式を執り行う。猿怪人の動きを見据え、構えた縛霊手から祭壇を展開。自身を中心にして結界を構築して敵を包み込む。リーリャは無言で手の中に炎を生み出し、火炎の波を解き放って怪人を攻撃した。
「さぁ、お猿さん達、私達が相手をしてあげますよ」
「この程度で……!」
あさりは鈴のような声を響かせ、海の歌を歌う。歌声がピンクの猿に届き、その精神を揺さぶった。だが怪人は少しくらりとした程度で、まだ余裕がある様子だ。
「おぬしらには教育が必要なようじゃな!! こっち見るでないわ、そこのミザル!」
「遅い!」
麻羅は毒々しい錆びを帯びた鋏を緑の猿に突き立てるが、猿はすばしっこく動き、紙一重で切っ先を躱した。
「ハハハッ、これでも食らえ!」
「こいつら、強え……!?」
猿怪人が一斉に跳びかかり、鋭い爪で襲う。良信とそのライドキャリバー・餃子武者が盾となって受け止めるが、良信はその勢いに眉をひそめた。
「さ、申年パワーの強力な恩恵を受けておりますね……」
猿怪人の怒涛のような攻撃に驚きつつ、慌てて仲間を回復させるアクレルド。心を落ち着けながらアーチェリーの構えで矢を番えて正確に射抜き、ダメージを取り除くとともに眠っていた感覚を呼び覚ます。
「くっ……このっ!」
「ハハハッ、効かんなぁ!」
ヴィンツェンツは手甲から手裏剣を取り出して投げ放つが、猿怪人は面の皮が厚く、額に刺さっても平気そうにしている。ビハインドのエスツェットは周辺のゴミを浮かせて飛ばすが、反応は似たようなものだった。
「こいつら、なんでこれほど強いんだ!」
「フハハハハッ、当たり前よ! 今年は申年だからな!」
明彦は巨大な十字架を構え、刻まれた碑文を口ずさんで無数の砲門を展開。歯を食いしばりながら光条の雨を放つが、怪人達はのらりくらりと躱した。
「我ら猿怪人に楯突いたこと、後悔するが良い!」
一匹は長い尻尾を鞭のようにぶつけ、また一匹は妙に様になったフォームで柿を投げつけて灼滅者を攻撃する。その狙いは正確で、灼滅者達を確実に苦しめた。
(「……その調子で頼むよ?」)
だが、苦戦しているのは実は猿怪人を逃走させないための演技。敵全員を徐々に弱らせてからトドメを刺す作戦だ。その証拠に、猿怪人を囲む包囲はずっと解けていない。さらに調子付いた猿どもの様子を確認し、ヴィンツェンツが心中でほくそ笑んだ。
●反撃
「くっ、強い……! しかし逃げる訳には……」
「ハハハハッ、そうだろうとも! 何せ今年は申年だからな!」
猿達の攻撃を受け、唇を噛む明彦。しかしその表情とは裏腹に、縛霊手から結界を展開し、着実に反撃を続けた。
「い、いま回復しますねっ」
灼滅者達の苦戦は演技だが、アクレルドが落ち着かない様子なのは半分本気である。戦いに不慣れなのか、それとも元来の性質か、どこか動きがたどたどしい。けれど夜霧を放ち、きちんと仲間を回復した。
「猿の力を思い知れ!」
「ぬっ……」
ピンクに染まった猿怪人が麻羅に迫り、連続で爪撃を繰り出した。猿は余裕そうな顔をしているが冷や汗を垂らしていて、実は消耗しているのが目に見える。
「そろそろかな?」
「うわあっ!?」
エスツェットが隠された顔を晒すと、続いてヴィンツェンツが再び手裏剣を投げつける。先ほどと同じ攻撃だが、弱ってきているせいか反応は違った。
「行くよ!」
「がはああっ!」
和弥が弾丸のように突進し、鋼のごとき正拳を繰り出す。拳は正確に鳩尾を捉え、和弥が拳に手応えを感じた瞬間、ピンクの猿怪人ががっくりと崩れ落ちてその場に倒れた。
「猿太ぁーーーっ!?」
「くっ、こうなったら逃げるぞ!」
「おお!」
仲間を倒され、悲鳴を上げる猿怪人達。先ほどまでの勢いも一瞬で消え失せ、動揺のままに逃走を図る。
「そうはさせません」
「なっ!?」
しかしあさりが立ちはだかり、猿の進路を阻んだ。灼滅者達は猿達の逃亡を予想し、怪人を逃さないよう包囲を敷き直していたのだった。あさりはそのまま攻撃に移り、妖気を帯びた槍を突き出すと、螺旋描く一撃で怪人を貫く。リーリャは冷たい瞳に猿を映して高速で接近、ガンナイフの刃に炎をたぎらせて一閃した。
「おぬしがキカザルか、それともイワザルか……どちらでもよいわ!」
麻羅は猿怪人をじっと見つめるが、カラーボールで色付けされた以外に外見の差異はないようだ。構わず光の盾を展開し、拳とともに顔面を殴りつける。
ちなみに『見ざる聞かざる言わざる』といえば東照宮にあるものが有名だが、この猿は日本発祥ではなく世界各地で見られるシンボルらしい。
「へっ、今度はこっちの番だな!」
「ぐおおっ!」
良信がニヤリと不敵に笑み、影が形を変える。影はいくつもの腕に分かれ、怪人に絡みついて動きを奪った。
●申年はまだこれから
「必殺! 神ビ~ムッ!」
「うあああっ!」
麻羅が鋭く怪人を睨もうとするが、その顔は小学生のものなのでいかんせん迫力はない。しかしビームの威力は変わらず、シールドから放たれた光線が緑の怪人を焼いた。メンチも宙を舞って近づき、肉球でパンチを繰り出した。
「この攻撃、受けてみなさい!」
あさりの影が地を這って伸び、怪人に迫る。影は怪人の眼前で飛び出し、薄く鋭い刃となってふさふさの毛ごと切り刻む。
「おまえらがその昔人間であった頃……名前に騙されてシーモンキーという名のプランクトンを育てた事があるとしよう……。でも死ね」
「なんじゃそりゃっ!? ぎゃあああっ!」
ガンナイフを携え、リーリャが音もなく肉薄。すれ違いざま急所を斬り抉り、猿怪人は鮮血を噴き出して力尽きた。これで残るは色を付けていない1体のみだ。
「くそおっ! どうしてこんなことに……?」
「そりゃ、調子に乗ってたからでしょ」
狼狽える怪人を前にヴィンツェンツがクスリと笑う。エアシューズで加速して跳び上がり、流星のように真っ直ぐ落下して蹴りを食らわせた。
「はは! ヴィンツさん張り切ってんなぁ」
良信は豪放に笑い、負けるものかと餃子武者に跨って続く。ライドキャリバーと自身を光らせて餃子ビームを放ち、食欲を刺激するにんにくの匂いが一瞬漂った。
「あれ、もう終わり? まだ年は明けたばかりだって言うのに、随分と短い時代だったね」
呆れるように呟き、和弥が大きく踏み込む。信ずるのは己が肉体、手刀を鋭く振り下ろし怪人の動きを鈍らせた。
「これならどうですか?」
アクレルドの足元から影が浮き出して波打ちながら進む。影は獣のように大きく口を広げ、怪人を呑み込んだ。
「おまえらには……愛が足りん!」
「ぐっ、ぐおおおおっ!」
そして明彦は猿怪人を見つめ、両の拳にオーラを収束させる。左の拳から出た気弾が怪人を打ち、続いて勢いよく右腕を突き出す。遠距離から連続のブローが炸裂し、愛なき怪人は吹っ飛びながら消滅した。
「お疲れ様でした」
「うむ」
灼滅者達は見事な作戦と連携で、見事3体の猿怪人を倒すことができた。これで日光も少しは平和になるだろう。和弥が仲間に労いの言葉をかけると、麻羅が得意げに頷く。
(「軽卒に餌付けした人間が悪かったのか、強奪するようになった猿が悪いのか……」)
栃木県のご当地ヒーローである良信は、野生の猿による被害もしばしば耳にする。うまく共存できないところはダークネスとの関係も想起させ、複雑な表情で空を見上げていた。
「田中君? どうかしたの?」
「……へっ、何でもないぜ」
ヴィンツェンツに話しかけられ、良信は誤魔化すように笑う。この想いは今は胸にしまっておこうと思った。
「日光って何があるかな。せっかくだから、お勧めがあったら案内してもらっていい?」
「私もいいですか? 私は自然の多いところに行きたいです」
「おう、お安い御用だぜ! まずは華厳の滝でも行くか!」
ヴィンツェンツとあさりの要望に応え、快諾する良信。そして灼滅者は冬の日光散策へと向かった。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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