●死拳の果て
夕陽が差す道場に、死屍累々と転がる門下生たち。肩を抑え膝をつきながらも、鋭い眼光を絶やさぬ老師範。
「まだまだ修行が足りぬのう」
「くっ……」
老いた瞳が捉えるは、悠然と胡座をかく壮年の大男。大男は乱取りもかくやという勢いで門下生を叩きのめし、老師範すらも打ち倒したばかりというのに、息が乱れた気配など微塵もない。
――当然だ。大男は既に人を止めているのだから。
「……いや、元より至るだけの才覚がない……といったところか」
「何のつもりだ!?」
老師範の叫びにも怯まず、大男は身軽に立ち上がる。指が小気味良い音を鳴らす中、転がる門下生たちを眺めていく。
「興が冷めた。故に」
「っ! やめ……」
笑みを消した大男が繰り広げるは、理不尽な殺戮劇。せめて幸いなるは、老師範以外に意識のある者がいなかった点か。
いずれにせよ……道場はやがて血に染まる。空が茜へと染まり、黄昏へと導かれていくかのごとく……。
●夕焼けの差す教室にて 集まってきた灼滅者を、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)はふんわりとした笑顔とともに出迎えた。メンバーが揃った折には頭を下げ、静かに説明を始めていく。
「エクスブレインの未来予測が、宿敵たるダークネスの行動を察知いたしました」
ダークネスにはバベルの鎖の力による予知がある。しかし、エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐりダークネスに迫ることができるのだ。
ダークネスは危険な強敵。しかし、ダークネスを灼滅することこそが、灼滅者の宿命。
「厳しい戦いになると思います。ですが、皆さんなら大丈夫と信じています。……どうか、よろしくお願いします」
今一度頭を下げた後、葉月は具体的な説明へと移っていく。
「今回、皆さんがお相手する事になるダークネスはアンブレイカブル。最強の武を求める、狂える武人」
名をサカキ。空手を基礎とする武術を操る壮年の男。
「彼は最高の戦いを求め、各地をめぐり道場破りを行なっています。アンブレイカブルとしての力は凄まじく……死者すらも出てしまっている状況なんです」
が、幸いにして接触できる状況を導き出せたと、葉月は若干声音を和らげる。
埼玉県南部の都市にある空手道場。赴く当日の夕方、そこにサカキは現れる。道場破りを行うために。
「彼が道場へと赴く進路上に、一軒家一個分が収まるほどの空き地が存在します。そこで待ち伏せるとともに戦う意志を見せれば、嬉々として戦いを挑んでくるでしょう」
サカキの力量は、現時点において最高レベルの灼滅者と比べても圧倒的。少なくとも、一対一では絶対に勝てないレベルである。
特に注意しなければならないのは破壊力。単体へ向けた掌底や蹴りなどの攻撃においては、防御に特化したポジションを除けば二撃受けきる事も難しいといった塩梅だ。また、仕切り直しとして放たれる足払いの威力も凄まじいの一言。
そして、その双方にキュアとブレイクの力が込められてもいるという有様である。
「以上が依頼に関する情報になります」
葉月はメモを閉じ、地図など必要な物資を渡していく。静かな息を吐いたあと、締めくくりの言葉を紡いでいく。
「未来予測の優位はあります。しかし、彼は決して侮れない力を持っています。どうか油断せず、全員で協力して……きちんとみんないっしょに帰ってきてくださいね。約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
松永・正義(輝石の従者・d00098) |
瑞希・夢衣(純粋危険思考少女・d01798) |
アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160) |
破狂魔・舞斗(バイオレンスギア・d04696) |
雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739) |
川原・咲夜(ニアデビル・d04950) |
メドヴィエチ・ドラグノフ(荒火熊・d07757) |
神枝・火蓮(中学生ストリートファイター・d08750) |
●暮れなずむ町中で
茜を残し落ちゆく陽、鋭さを増した風の冷。やがて訪れるであろう闇に追い立てられ、仕事帰りの人々は帰路へとついていく。或いは誘い入れるために輝き始めた灯火に、夕方セールを行うスーパーに台所を預かる者たちが集っていく。
車の行き交う道路が隣にある仄かに草の匂いが漂う空き地に、佇む影は八人分。全て、ダークネスを迎え撃つためにやってきた灼滅者たち。既に武装を整えて、アンブレイカブル・サカキの到来を待っている。
うち一人、雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739)は己を見回し小首を傾げていた。
着ているのは体操服、戦いには少々似合わない。
「んー……まあ、運動するにはちょうど良いなのかもですねー」
思い直したのなら思考を切り替えるのも早く、彼女は忘れて大きく伸びをする。
再び正面へと視線を向け、ティーポットを片手に微笑む松永・正義(輝石の従者・d00098)の姿を瞳に映した。
「余り気を張っても戦う前に疲れてしまいます。まずはリラックスして、その上で準備運動を行いましょう」
どこから取り出したのか、正義は白い丸テーブルに乗せたカップにお茶を注いでいく。椅子は用意できなかったからと配って歩き、芳しい香りと程よい熱で皆の心も体も暖めた。
熱など既に極限突破していたのか、破狂魔・舞斗(バイオレンスギア・d04696)は飲み干したカップを返すと共に咆哮する。
「くーっ! 待ち遠しいぜ!!」
勢いのまま腕立て伏せを開始して、血の巡りを早めていく。スクワット、腹筋と続けていき、筋トレという形で体の調子を整えた。
他者は概ね軽い柔軟や体操などに留め、体の準備を進めていく。
一行程を終え一息つこうかという頃合いに、道着姿の大男がやってきた。
いかつい顔に浮かぶ笑みが、悠然とした足取りが、禍々しきオーラが、大男がアンブレイカブルである事を物語っている。
ならば彼がサカキなのだろう。
一斉に注意を向けた彼らに構わずサカキが空き地に足を踏み入れた時、小気味の良い銃声が轟いた。
●堕ちた空手家
不意に放たれた銃弾を、サカキは軽い手振りで弾き落とす。
視線を向けてくる彼に応対し、川原・咲夜(ニアデビル・d04950)が一歩前に出た。
「ちょいとそこ行く大男さん、ひとつ私達に稽古をつけてはくれませんか?」
「何?」
ギラつく瞳が彼らへと向けられた時、瑞希・夢衣(純粋危険思考少女・d01798)が素早く体を滑り込ませてサカキの下へと向かっていく。
「おじさん、おじさん……一緒に遊ぼう?」
幼く無垢な眼差しを向けると共に戸惑うサカキの手を引っ張って、空き地中央部へと招き入れる。
改めてサカキに向き直り、夢衣はペコリと頭を下げた。
「不意打ちとかしちゃってごめんなさい。でも……わたしたち、おじさんと戦いたいの。お互いの全部を出しあって楽しんでもらいたいの」
顔を上げ、上目遣いに見つめていく。なおも言葉を重ねていく。
「だって、遊びは本気になって遊ぶからこそ楽しいんだよね?」
「その通り。おじさんだって、戦場でもない、いのちがけでもない、戦ういしをうしなったった人たちをヤっちゃうのは、楽しいのとはちょっとちがうよね?」
神枝・火蓮(中学生ストリートファイター・d08750)が言葉を引き継いで、瞳にギラギラした光を宿していくサカキの注意を、嬉しそうな声音を引き出した。
「ならば!」
「うん、安心して。ここは既に戦場で、ここに居るのは闘う意思を持った人だけだから。死ぬ前に少しだけ、楽しい時間を過ごしましょ?」
言葉の終わりに火蓮が高らかに手を鳴らし、総員一旦距離を取っていく。
「さあ、貴方の好む戦いです……思う存分戦いましょう」
「その心意気や良し! 全力で叩き潰そうぞ!」
「さぁて、いっちょやってやるか!」
もう挑発は必要なかろうと、アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)が宣戦布告。メドヴィエチ・ドラグノフ(荒火熊・d07757)はオーラを爆発させ、筋骨隆々たる巨躯を覆い尽くした。
大地が鳴り、前衛陣とサカキが駆けていく。
最初にぶつかり合ったのは、笑うサカキと影を前面へと押し出した夢衣。
「受けてみよ、我が一撃!」
「っ!」
影越しに伝わる衝撃は、酷く重く貫くもの。腰を落としたけれど、土を草を削りながら約五メートルほど押し返された。
遅れて脳へと伝わった痛みを堪え、夢衣はにじみ出てきた涙を拭う。
「っ……さすが、だね」
痛み堪えながらの呟きが、開幕を告げる鐘となる!
治療中な夢衣から注意を逸らすため、アルヴァレスは銃口を差し向けた。
「その虚ろな力で至った所で何になるというのですか!?」
「力に良しも悪しきもない。在るのは強か弱か、それだけよ!」
言葉とともに撃ち出した弾丸をたたき落としていくサカキに対し、アルヴァレスは今一度銃口を向けていく。今度はエネルギーを充填し、まばゆき光を漏らしていく。
「ただ力を使う……それでは獣ではないですか?」
「獣の何が悪い! 人の本質こそ、獣の闘争本能なるぞ!」
言葉も畳み掛けていくものの、サカキが揺らいだ様子はない。
もとより揺らがせるために投げかけている言葉ではないと切り替えて、彼は照準を合わせていく。
その軌道上に正義が突っ込んだ。
巨大な剣を掲げたまま跳躍し、勢いを乗せて振り下ろす。
音は響かない。ただ、たくましき腕に阻まれただけだから。
「私がお相手をさせて頂きましょう」
「貴様にわしの相手が務まるかのぅ!」
刃を立てても傷すら与えられぬ鋼鉄の肉体。されど正義の浮かべる笑みに変化はなく、優雅な動作に違いもない。サカキが力を緩めると見るや軽く体を捻り、受け流し、火蓮が切り込むための道を作り出す。
「こんどは私が相手だよ!」
懐へと入り込んだ火蓮は体を捻り、勢いをつけて龍骨すらも断つ軌跡を叩き込んだ。
「っ……」
「やわい、やわいわぁ!」
太い腕に阻まれて、僅かな傷も与えられていない。
でも、きっと積み重ねる事はできている。次の手を紡ぐため、彼女は一旦飛び退いた。
自由を取り戻し、サカキは舞斗のライドキャリバー・デルタに襲いかかる。
ストレートを牽制に放たれた拳が車輪を捉え、壁際までの後退を余儀なくされた。
更にサカキの動きがより鋭敏になった。
否、重ねていた力の幾つかが消し飛び、動きの淀みがなくなった。
正義の余裕は崩れない。巨大な剣片手に駆け、構えるサカキへと迫っていく。
側面を狙い、咲夜がサカキに指輪を向けていく。
最初に挑発として用いた魔法の弾を、体の中心めがけて撃ち出した。
迫るは大きな剣と小さな弾。どちらも受けることにしたのか、サカキはまるで動かない。
左腕だけで剣の軌道を逸らし、右腕だけで弾を叩き落す。
堪えた様子もまたなかった。
ならば何度でも。百でも千でも万でも億でも、那由他の彼方まで撃てばいい。さすればいつか制約の二字が撃ち込まれ、よろめき動けない時が来るはずだと、咲夜は再度指輪に力を込める。
続く攻撃をサポートできるよう、アルヴァレスが魔力の矢を発射した。
前衛の斬撃を、拳をさばいていたサカキの肩へと突き刺さり、僅かに動きを封じていく。
されど、追撃する間もなく舞斗が蹴られた。五メートルほど吹き飛んだ。
「おっと、ここは通行止めです」
追撃の進路は正義が塞ぎ、斬りかかる。
同時に影を背後へと送り切りかからせもしたけれど、全て鋼の肉体に弾かれた。
それこそが目的と、正義は小さな笑い声を響かせる。
間髪をいれずに咲夜のはなった弾が、サカキの薄く抉った。
此度初めて、サカキの肉体が傷ついた。
「ぬっ」
「うまく行きましたね」
呪詛も内部まで浸透したのだろう。サカキは拳を握った姿勢のまま動くことができていない。
「その虚ろな力で絶望を招くのなら撃ち抜く…!」
好機と、アルヴァレスの集めた光条がサカキの道着を薄く焼く。されど喜ぶことはせずにライフルを構え直し、静かに照準を合わせていく……。
一時動きを封じられ、サカキはなお笑っていた。
「……楽しい?」
「おう! わしが危機を感じるなんざ、久しぶりじゃ……と!」
夢衣の放つ問いかけながらの斬撃は、肩に容易く食い込んだ。守りも削げた手応えはあったけれど、巨躯が揺らいだ様子はまるでない。
鈍い動きで繰り出された拳が、メドヴィエチの鳩尾へと突き刺さる。
すかさず雲雀は響かせた。天使がごとき歌声を。
「いっぱい回復するのですよー」
その一撃、酷く重いはずだから。少しでも多くの傷を癒さなければ、二撃、三撃と耐えていくことなど叶わぬから。
入れ替わり、立ち代りサカキの一撃を受けていく。そんな動きを何度も繰り返してきたからだろう。
サカキはデルタの突撃を受け止めると共に、腰を深く落としていく。
「はっ!」
右腕で体を支え、放つは重い足払い。前衛全て誰一人逃れることができずに打ち据えられ、二歩、三歩とたたらを踏む。
「が……ちっ、つえぇなぁ。一撃とほとんどかわらないじゃねぇか!」
言葉とは裏腹に嬉しそうな色をにじませつつ、マイトは高く咆哮した。
メドヴィエチはしばし悩む素振りを見せた後、脇腹を抑えながら退いた。
「仕方ない、アタシャ一旦治療に回るよ! アルヴァレス、代わりを頼んまぁ!!」
「わかりました。回復、お願いします」
一分の時を要しても、癒し手になればその分だけ打ち消せる。二つ、三つと時を重ねれば、十二分なほどにお釣りが来る。
守護者として前に出て、反撃を防ぐのも同様。アルヴァレスは回転ノコギリに似た剣を引きぬいて、サカキの間合いへと踏み込んだ。
「調子を崩さず立て直しましょうー」
さなかに生じる空白は自分が埋めると、雲雀が優しい風を吹かせていく。薄く、広く仲間を癒し、概ね二撃耐えられるだけの状態へと引き上げる。
さなかに放たれた拳撃を、舞斗は真正面から受け止めた。目を爛々と輝かせ、揺らいだ分だけお返しした。
その頃にはメドヴィエチも移動を完了し、集めた気を彼へと送る。
「さあさあ、まだまだやれるってところを見せてやらなくちゃね!」
一度治療に追われても、次で攻め返せば押し返せる。
勢いが通じたのか、サカキが僅かによろめき、動きを止めた。
一瞬の空白を見逃さず、メドヴィエチは素早く駆け出す。雲雀はそんな彼女を癒すため、守るための光輪を差し向けた。
●勝者もまた天を仰ぎ
反撃を受けた者は、傷の多少に関わらず治療に回る。攻撃の手が、弱体化への力が施される回数が減っていく。
既に悟ったか。既に道着などほとんど吹き飛んでいるサカキが腰を落とす。
「足払いが来ます。皆さん、注意を!」
「遅い!」
咲夜が予告した通り、繰り出されたのは風をうならせる足払い。舞斗ら前衛陣が薙ぎ払われ、体力を大きく削られた。
「安心しな! 傷の深いのはアタシが癒す! 浅い奴は攻撃に回っとくれ!」
メドヴィエチが再び気を集め、特に深い衝撃を受けている夢衣を治療する。
「はっ、堪えぬのならば何度でも放つのみ!」
「またか!」
体勢を整えいざ再び反撃せんという頃合いに、再び足払いが放たれた。
無論、拳ほど強大な威力ではない。だが、衝撃を半分ほどに抑えたとしても連発されれば治療が追いつかない程度に広く積み重なる。攻撃の手が緩まる結果、サカキが動きの精鋭さを取り戻してしまうという結果が導かれる。
「ピンチかもですねー、お互いに」
「喜べ、若者たちよ。わしを、なりふり構っていられん程に追い込んだのじゃからのう」
されどのんびりゆるゆると、雲雀は優しい風を吹かせ称賛に微笑み返していく。
さなか、デルタがけたたましい排気音を響かせた。
「だったらよぅ、倒れるまで打ち合おうぜ!」
守りに優れるとはいえ三割ほどを削られた状態のまま、舞斗は拳を握り締める。闘気を雷へと変換し、デルタと共に吶喊する。
「なあ、サカキよぉ!」
「はっ、言うではないか!」
拳を胸部へと撃ち込んで、雷撃を仲間で伝わせた。
勢いのまま掴みかかり、デルタの機銃を全て背中で受けさせた。
「……回復ばかりに気をとられて好機をにがしたら、格好つかないね」
火蓮も同様に傷が完全には癒えぬまま、斧に紅蓮を宿らせ吶喊する。治療できない分だけ奪い取ると、背中を斧で切り裂いた。
刹那、拒絶するかのような足払いが両者を襲う。
激痛が足から全身へと伝わって、僅かに視界が揺らいでいく。
「だいじょうぶ、倒れてない」
斧を握り、火蓮は紅蓮を刃に宿す。どこか眠そうに、けれどどこか楽しそうに、再び奪い取るのだとにじり寄りともすれば両断せんと言う勢いで振り回す。
転び、頭を切った舞斗もまた退かない。
雲雀が、メドヴィエチが施してくれる治療だけを頼りに、頭に流れる血を拭うことすらせずに掴みかかった。
「ぬっ」
「ははっ……戦いてぇな、もっと、もっと!」
動けぬ隙を付く形で、デルタが突撃をかましていく。
衝撃を受け止めながらも持ち上げて、サカキを脳天から投げ落とした。
「お前もそうだろう!? なあ!!」
「ああ!」
頭をしたたかに打ち据えても、サカキは揺らぐ隙など見せはしない。ただ、今一度足払いを放っていく。
風圧に負けず、火蓮が上空を飛び越えた。
「!?」
「……ほんとはもっと強くなってから、一人で会いたかったな。数の暴力で轢殺されちゃうなんて、おじさんツイてないよ。ごめんね」
詫びながらの一撃は、彼方へと送る投げ飛ばし。サカキは背中から落下して、そのまま動けぬ身体となった。
「……何、侘びなど必要ない」
「……んと、楽しめた、かな?」
消えゆく中、言葉を絞り出すサカキに問う夢衣。言葉が一旦途切れた後、大きな笑い声が鳴り響く。
「その通り、久しくない充実ぶりじゃった! 全く、良い人生だったわい!」
風が声を運ぶ頃、巨躯もまた攫われるようにして消え失せた。
静寂を取り戻した空き地の中、アルヴァレスは茜色の空を仰いでいく。
「僕は貴方の命を奪った……許してくれとは言いません。恨んでくださって結構です。貴方の事もまた背負って往きますから……」
……もし、サカキが聞いていたらどんな答えを返しただろう?
既に問うことのできぬ言葉もまた町中へと消えていき、冷たい冷たい風が吹く。気付かぬ内に堆積していた疲労が導かれ、彼らの体を支配した。
座り込む者がいた。
ボコボコの地面に背を預けるものがいた。
表面上は変わらぬ笑顔を浮かべたまま、正義が優雅に口を開く。
「少し休んだら、道場を覗いて行きましょうか。ええ、念の為に……ね」
あるいは、そう。守れたのだと確信するために。勝利を確かなものにするために。
大丈夫、落ちゆく陽も、昇りゆく月も、きらめき始めた星々も、皆を祝福してくれている。藍色へと変わりゆく大空が、全てを優しく抱いてくれているように……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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