今年は申年だから

    作者:なちゅい

    ●申年だから現れるのかな
     かぽーん。
     温泉。それは、人々にとっては魔法の言葉。
     そして、実際の温泉は、肉体的にはもちろんのこと、精神的にも、忙しい現代人の疲れを癒してくれる。温泉の成分には健康や美容にいい成分も含まれ、それを求めに行く者もいるが、それはそれとして。
     人々は束の間の休息を求め、温泉へと足を運ぶのだ。

     現在、何者かの手によってブレイズゲートを破壊されるという事案が起こっているが、ブレイズゲートの全てがなくなっているわけではないらしい。
     その破壊がいつ起こるとも限らず、放置するわけにもいかない。武蔵坂学園の灼滅者達も、ブレイズゲートの発見の為に巡回を続けていた。
     それは、この大分県別府市でも続けられている。
     この地は温泉街として知られる。湯治を楽しみにしながらやって来る客で賑わう場所だ。
    「今年は申年だからね……」
     梢・藍花(白花繚藍・d28367)は巡回をしながら、ぼんやりと考える。もしかしたら、イフリートもタイミングを見はからったかのようにしてあらわれるのではないかと。
     まさかとは思うのだが。実際に現れるのだから、困ったものである。
     とある温泉へと乗り込むように現れたのは、巨大な獣。真っ赤に燃えるような体躯をしたそれは、一見すると猿にも見えるが、その正体は、イフリートだ。
     イフリートは、神話の存在である巨大生物「幻獣種」。
     ただ、どうやらここに現れるのは、溶岩でできたまがい物だ。本物に比べれば戦闘能力は落ちるが、それでも、一般人にとって脅威となる存在なのは間違いない。
     また、このイフリートもどきは温泉の中にいることで湯を温め、蒸発させようとすることが確認されている。温泉の湯が全てなくなれば、イフリートはこの温泉を後にして付近の温泉街を襲ってしまうという。それだけはなんとしても止めたい。
     しかも、間が悪いことに、この猿が温泉へと入ってくる際、ちょっと遅い正月休みを取っていた男性サラリーマンが1人酒を飲み、ほろ酔い気分で入ってしまっていたのだ。現状、この男性に被害はないが、できることなら早く助けてあげたい。
     武蔵坂学園の学生達……灼滅者はそんな中へと駆けつける。
     灼滅者達はイフリートが湯を温めているのを発見する。一般人も、イフリートも、湯船にいたまま動こうとはしない。
     このままでは、イフリートによって、温泉の湯は蒸発してしまう。その前に、イフリートを灼滅せねば。そう考えた灼滅者達はスレイヤーカードの力を解放するのである。


    参加者
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    伏木・華流(桜花研鑽・d28213)
    琴宮・総一(子犬な狼・d28217)
    御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238)
    愛染・愛悪(独走する追跡者・d28324)
    梢・藍花(白花繚藍・d28367)
    シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)
    依代・七号(後天性神様・d32743)

    ■リプレイ

    ●申年だから現れたって割には……
     イフリートが現れるという温泉にやってきた、武蔵坂学園の灼滅者達。クラブ「努力同好会」のメンバーは中高生での構成ではあるのだが、平均身長は151センチほどと、なんとも可愛らしい面々である。
    「温泉……話には聞いたことあるっすけど、見るのは初めてっす。楽しみッス!」
     愛染・愛悪(独走する追跡者・d28324)は嬉しそうに目を輝かせている。彼女は黒と赤のライダースーツを身につけていた。これは、これからの戦いで服がずぶ濡れになることを想定してのことだ。
     御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238)も、白のビキニにレースのついた水着で戦いに臨もうと考えている。
    「新年早々、干支のイフリートということで、ちょっとだけ見るのが楽しみです!」
    「新年早々お猿さんに会えるなんて、縁起がいいですね。写真とか撮りましょう」
     ぱしゃぱしゃとスマホを撮影に使う、薄いピンクのタンキニ水着姿の依代・七号(後天性神様・d32743)。彼女は、イフリートとのツーショットはできそうかなと考える。
    「あけましておめでとーございまーす! 今年も宜し……く?」
     大人っぽいクロノビキニの上から武装ジャケットのみ羽織った、シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)。彼女は浴場の扉を開き、それを垣間見た。
     浴場手前には、ほろ酔いのサラリーマンの姿。そして、その奥に何か獣が見えるのだが……、浴場に陣取っているのは、真っ赤に燃え上がるような猿の怪物だ。
    「えっと、こういう時って、お賽銭に五円玉投げたほうがいいの?」
     シフォンはお財布を取りだしつつ逡巡していたが、仲間達はどうにも反応が渋い。
    「お猿さん……にしては、凶悪な見た目ですよね。怖い……」
     そのイフリートの見た目に震える、琴宮・総一(子犬な狼・d28217)。ちなみに、灼滅者の男性は彼1人である。
    「話を聞いたときは縁起がいいと思っていたけれど、ほとんどモンスターじゃない……」
     戦闘用の衣装として、リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)が選んだ衣装は、水色がかった白い服。背中には片翼の羽根が見えていて。
     そんな彼女は、今回現れた猿について、可愛らしいものを想像していただけに、実物を見て残念がってはいたのだが。
    「でも、折角の温泉とサラリーマンの方を放っておけませんし、頑張りましょう」
     今回は、仲の良い仲間との依頼。そして、何より、総一と一緒に温泉へ来られたことが、彼女にとってはとても嬉しそうだった。
    「思ったより似てなくて残念ですが……。気を抜かずに討伐、頑張ります」
     夢羽がそう意気込むと、他のメンバー達も動き始める。
     すでに、温泉の湯が煮立ってきていた。ほろ酔い気分のサラリーマンは非常事態を察することもなく、浴槽内でのんびりしているが、イフリートが暴れ出せば危険だ。
     スマホを濡れない場所へと置いてきた七号は、浴場内にふわふわとした風を巻き起こす。
    「それー、眠くなれー」
     疲れていたサラリーマンは、湯船の縁に寄りかかるようにあっさりと眠ってしまう。さらに、優しい風がその疲労も癒していたようだ。
     七号に代わり、前に出たのはパーカーを着た、梢・藍花(白花繚藍・d28367)。彼女がサウンドシャッターを行う間、同じくパーカーを着たビハインド、そーやくんがサラリーマンの体を抱える。
    「風邪……引かない様に、したげて」
    「運ぶのがんばれ~」
     脱衣所に運ぶようお願いする藍花に応じて、サラリーマンを運ぶそーやくんに、愛悪も声援を送る。
    「このメンツじゃ、さしずめ保護者といったところか。任せたぞ、そーやパパ」
     低身長のメンバーが多い今回のチーム。普段着の伏木・華流(桜花研鑽・d28213)が言う保護者という言葉に、「え、俺?」とそーやくんは戸惑いを見せていた。
     ちなみに、チームで最も背が高い華流でも、163センチ。そーやくんは全員を見下ろす身長がある為、保護者扱いもやむなしと言えた。
     ともあれ、難なくサラリーマンの対処ができたこともあり、リリーはイフリートへと向き直る。シフォンは戦いが始まるのを察し、浴場内に殺界を作り上げた。
     ギターを弾く総一は震えを抑えつつ、イフリートの気を引いていた。その音にわずらわしさを覚えたのか、大きく吠えたイフリートは早速、灼滅者に向け、爪を振り上げてくるである。

    ●浴場での戦い
     炎を飛ばしてくるイフリート。その前に立ちふさがったのは、華流だ。彼女はWOKシールドを展開し、仲間へと攻撃が及ぶのを防ごうとする。ウイングキャット、サクラも、灼滅者を守るべく前へと出てくれていた。
     敵が爪を振るった際、お湯を被ってずぶ濡れになってしまった華流は服が透けてしまう。だが、彼女はとりわけそれを気にすることもなく、スカートの裾を絞りつつ戦闘を続けていたようだ。
     そーやくんはその間に、手早く脱衣所へとサラリーマンを運んでいたようだ。灼滅者達はそれを確認しつつ、イフリートを倒すべく仕掛ける。
     シフォンはダイタロスベルトを真っ直ぐに伸ばし、イフリートの体を引っ叩くどころか、頬を貫いてしまう。そこにリリーが飛びかかり、敵の頭上から流星の蹴りを食らわせた。
     灼滅者達の攻めは間髪入れずに叩き込まれる。七号が異形巨大化させた腕を叩き付け、高まる敵の力を霧散させてしまうと、藍花は意識を持つ帯を真っ直ぐに伸ばして、敵へと狙いを定める。
     仲間の戦闘態勢が整ったことで、総一は後ろへと下がっていた。
    「ちょっと怖いのもあるので情けないですけど、後ろから失礼して……」
     彼は足元の影を伸ばし、その先端を鋭い刃と成してイフリートの体を斬りつけていく。
     夢羽も続く。敵の高める力をブレイクする為のサイキックの活性をし損ねてしまっていた彼女だが、幸いにも七号の攻撃で、高まっていた敵の力はなくなっている。夢羽は安心して、仲間を守る為に小光輪を放ち、味方の盾として守りを固めていく。
     メンバーで最後に仕掛けたのは、愛悪だ。彼女はライドキャリバーのチェイサーちゃんから伸びる触手をむんずとつかんで、ぶん回す。
    「走り回って、ウチの盾となれ」
     そのまま、愛悪は思いっきり投げ飛ばすと、チェイサーは敵の巨体へと体当たりをかます。
     そこへ、愛悪も大きく膨らました腕でイフリートの顔を思いっきり殴りつけた。
     しかしながら、多少の攻撃ではイフリートはビクともしない。そいつはまたも吠えた後、身体から噴き出す炎を灼滅者へと浴びせかけてくる。それをチェイサーやサクラが防いでくれ、サクラは尻尾のリングを光らせて自分達の傷を癒す。
     今は回復の手が足りている。その分、灼滅者の攻撃回数が増えるというものだ。
     華流が縛霊手で殴りかかり、霊力の網で敵の動きを束縛すると、シフォンは巨大な杭打ち機の杭をドリルのように高速回転させ、ねじ込んだイフリートの体をねじ切らんとする。
     仲間達の攻撃に合わせ、藍花は半獣化させた狼の腕から伸びる鋭い銀爪を振るって斬撃を繰り出す。
     彼女が後衛へと戻ってくると。一般人の避難に当たっていたそーやくんが浴場へと戻ってきていた。
    「おかえり、いいこ……ね」
     藍花は優しい言葉を掛けるが。まだ、目の前の敵が荒ぶっている。相手は猿。狼のそーやくんにとっては天敵とも言える存在。
     彼は牙をむいて威嚇しながらも、灼滅者を庇おうと防御態勢で身構えるのである。

     吠えるイフリート。そいつが動く度に、高温の身体が温泉の湯を蒸気と化してしまう。
     灼滅者達は、危機すら感じることなく、果敢に己の全力を叩き付けていく。
     愛悪は大鎌を携えて断罪の刃をイフリートに突き立てると、リリーはエアシューズに身体から噴き出す炎を乗せて、敵の身体を蹴りつける。
     自身とは異質の炎がイフリートの体を燃やし、その体力をすり減らしていく。
     サーヴァントや、華流が攻撃を庇ってくれる状況。リリーは安心して攻撃しつつ敵を注視していた。
    「大きく吠えてから、仕掛けてくるようね」
     攻撃のタイミングが分かれば、対処も変わる。次に敵が吠えるまでの間に、無表情のままで飛び出す七号が全身を回転させながら敵の身体を切り裂けば、藍花も自身の影を大きく広げてイフリートの巨体へと覆い被らせる。
    「今年……暖冬だから、早くお山におかえり……」
     影に飲まれた敵は、何かが見えているのだろう。虚空目がけて大きく吠えたイフリートは、爪で何もない宙を薙ぎ払おうとする。
    「来ないでー!」
     それは、総一には自身に近づくようにも見えて。彼はギターを振り回し、イフリートの胴体を殴りつけた。
    (「ずぶ濡れって、キュアで治るのでしょうか……」)
     夢羽はそんな疑問を抱き、回復と同時に仲間の服を乾かそうと考える。起こした清めの風を浴びたメンバー1人の傷を癒すのと同時に、服を乾かした。夢羽は安心して仲間の支援を行う。
     さて、灼滅者とイフリートの攻防は続く。徐々に減る温泉の湯。それと同時に、両者の体力もまたすり減っている。
     浴場を走り回るチェイサーちゃんが発射した機銃。残念ながら、イフリートはそれを避けてしまったが、愛悪の刃となった影はイフリートを逃さず、その体を切り裂く。
     にやりと笑う愛悪。敵の傷口からは溶岩のような体液が零れ落ちていた。
     怯む敵にシフォンが仕掛け、彼女の足元から伸びる影は無数の影の剣となる。それはまるで、剣山のようだ。剣が内側になった影が、イフリートの身体へと突き刺さる。
     悶えるイフリート。その体力はもう少ないことは、誰の目に見ても明かだった。
     ウイングキャット、サクラが猫魔法に飛ばした直後、華流は己の深淵に潜む暗き想念を集めていく。
     漆黒の弾丸として形にした華流は、イフリート目がけて撃ち放つ!
     それを浴び、体を蝕まれる感覚を覚えたイフリート。湯船の中で抵抗を計っていたのだが、そいつに、抗うことができる体力は残っていなかった。
     紅い体毛は少しずつ灰色に変わっていき。火山岩に戻っていったイフリートは、ボロボロとその身を崩していき、砂のようになってしまう。
     温泉の湯は尽きることなく。音を立て、源泉から湯船へと流れてきたのだった。

    ●楽しいお風呂タイム!
     かぽーん。
     無事、イフリートを灼滅したクラブ「努力同好会」一行。
    「お風呂、お風呂だよっ!」
     シフォンはすぐさまジャケットを脱ぎ、黒ビキニを露わにする。
    「美肌効果の文字は無視できないわ」
     リリーは青いビキニの上から、薄手の白い服にショートパンツという姿で美肌効果があるという温泉に浸かる。
    「見て見て、総一。美肌ですって、美肌!」
     ところで、ビハインドのそーやくんを除けば、男性は総一1人。水着とはいえ、開放的に素肌を晒す女性陣の姿に、青の海水パンツを履いた総一は小さくなって目を瞑ってしまっている。
    「……どうして目を瞑ってるのよ」
     リリーはそんな総一に呆れていた。
     七号はというと、リリーの大きな胸を見て、ちょっとだけ沈んでしまっていたのだが、近づいて来る華流の胸を見て、心の中で勝ち誇る。
    「お、いいな、依代。後で私にもくれ。12年後の年賀状に使う」
     七号が戦闘前にとった写真の中には、先ほど倒した猿のイフリートの姿。次に干支が申となった際に使えるかもしれないと華流は考え、画像の転送を希望していたようだ。
     そのそばには、金魚を連想させるような、ふわふわとした水着をきた藍花が体育座りでまったりしている。隣には、黒いサーフパンツ姿のそーやくんもいた。
    「温泉に入れることはできないから、これで我慢しておけ」
     そーやくんの頭に、華流がサクラを載せる。その上にタオルを乗せていたようだ。
     まったりとするメンバーの中、七号は興味を持っていたのは、ライドキャリバーだ。
     黒と赤のウェットスーツを纏った愛悪は温泉に浸かることなく、ライドキャリバー、チェイサーを洗車していた。
    「……別に構わないッスよ!」
     一度、ライドキャリバーに乗りたかったという七号は、チェイサーにまたがり、浴場内を走り始める。さすがに温泉の中なので、スピードを出すつもりはなかったのだが……。
    「わっわっ、チェ、チェイサーくん、はや、はやいっです、うわわっ」
     のろのろと走っていた七号が横転にするのに、愛悪が驚いて駆け寄ると、七号はそれでも楽しそうに笑っていた。
     その七号の身長と胸を見て、勝ち誇っていたのは、シフォン。だが、七号も同じようにシフォンを見て胸を張る。全くもって、胸が気になるメンバーの多いチームである。
     さて、そのシフォン。総一とリリーをちらりと見てニヤニヤしつつ、頭を洗っていた白ビキニ姿の夢羽へと近づく。
    「夢羽ちゃーん! 体、洗ってあげるねっ」
    「ひゃうっ!?」
     いきなり飛びつかれた夢羽は、不意をつかれて可愛らしい声で驚く。
    「次はこっちの番だからっ!」
     夢羽はシフォンを洗い返し、思いっきりくすぐり始めた。
     一方、リリーは目を瞑る総一に業を煮やし、流し場まで連れてきて背中を流すことにしていた。
     総一はできる限りリリーの魅力的な身体を見ないようにと顔を伏せ、洗ってもらったいたのだが……。
     そこへ、夢羽のくすぐりで暴れるシフォンが、たまたまリリーの背中にぶつかる。その勢いで、彼女の豊かな胸が総一の背中に……。
    「…………!!」
     柔らかい感触を覚え、総一の髪の毛がゆっくり逆立ち、たらりと鼻血が……。
    「リ、リリーさんとは健全なお付き合いなので、そういうのはまだちょっと……!」
     総一はおろおろし始め、立ち上がって後ろを向くのだが。そこには、クラブの女性達の水着姿。彼はのぼせてばったりと倒れてしまうのだった。

    作者:なちゅい 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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