転がし、倒せ、晩白柚で!

    作者:泰月

    ●おとしだまじゃなくてころがしだま
     ゴロゴロゴロゴロ――ガコーンッ!
    「ふぅ……また門松を破壊してしまった」
     腕を振り上げたポーズのまま呟いた頭は、巨大な柑橘類だった。
    「だが、門松がいけないのだ。あの並び方が!」
     そう言って、柑橘頭は新たな柑橘類をボーリングのようなポーズで振りかぶる。
    「あんなボーリングのピンみたいに並んでると、投げたくなってしまうじゃないか!」
     みたいじゃなくて、ボーリングのつもりだったらしい。
    「まあ、こうしてストライクを取りまくっていれば晩白柚(ばんぺいゆ)ボーリングが世界に広まる日もそう遠くないだろうな! ふんっ!」
     ゴロゴロゴロゴロ――ガコーンッ!
     光を纏って投げられた柑橘類が、再び門松を軽快になぎ倒す。
     柑橘頭の怪人が去った後には崩れた門松と柑橘類――晩白柚が残されていた。

    ●門松の竹の並び、ボーリングのピンっぽくね
    「晩白柚?」
    「ザボン類の一種で、柑橘類の中でも特に皮が厚く、大きい種類の一つですね。甘酸っぱい香りで食べても美味しいですよ」
     聞き慣れない名前に首を傾げた灼滅者に、西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)はその晩白柚にナイフを入れながら語り始めた。
    「そしてその晩白柚の怪人が――」
    「晩白柚ボーリングを思いつくって、僕の予想が当たったみたいなんだよ」
     アベルの言葉を引き継ぐ形で、ヴィンツェンツ・アルファー(ファントムペイン外付け・d21004)が口を開く。
     そして晩白柚怪人に狙われているのが、門松である。
     ボーリングのピンに並びが似ていると言う理由で。
    「門松以外の被害は勢い余って塀を壊したくらいで、怪我人も出てはいません。ですがこのまま松の内が終わってしまうと、次に何をするかは晩白柚にも判らないそうです」
     と言う事で、今の内に討伐するのが望ましいのだ。
    「さて、怪人の晩白柚ボーリングですが、勿論、戦闘に応用してきます」
     ストライク狙いのパワーショット。
     スペア狙いのピンポイントショット。
     スプリット対策の回転ショット。
     いずれも投げ転がすのは、怪人のご当地パワーで包んだ晩白柚。
    「後はボーリングと言いつつ足で蹴り転がすのと、晩白柚の木を槍の様に使って地面を掘る技があります」
     最後の、ボーリング関係なくない?
    「それが……ボーリングのガターを掘る為に編み出した技のようです。しかも、穴を空ける方のボーリングだと言い張るとの事ですよ」
     そう説明しながら、アベルは果肉を皿に並べていく。
    「もう1つ、怪人には変な習性があります。これを見てください」
     皿の上には、晩白柚が三角形に並べられていた。
    「このようにボーリングのピンを連想させる並べ方になっていると、ですね」
     アベルは三角の頂点の1つ、灼滅者達から見て先頭の果肉に爪楊枝をぷすり。
    「『ほぼ必ず』先頭を狙うようなのです。ストライク狙いで」
     この習性、上手くやれば、門松を壊して回っている怪人を誘き寄せるのにも、戦闘中の狙いを変えさせる事にも使えるだろう。
    「被害規模で言えば酷くはないですが、最終的な狙いはやっぱり世界征服です。見過ごすわけには行きません。よろしくお願いします」


    参加者
    中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)
    桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    軽田・命(ノーカルタノーライフ・d33085)
    セティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)
    守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)
    柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288)

    ■リプレイ

    ●敢えてボーリングで表記します
     熊本のとある田舎町を、数人の男女が歩いていた。
    「怪人もよくこんなこと思いつくよな……」
    「門松とボーリング結びつけるってすごいですよね。いっそ感心する発想ですよ」
     晩白柚によって壊された門松の残骸に、中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)と宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)は、どちらからともなく顔を見合わせる。
    「ま、だからと言って、晩白柚の間違った使い方は許せないけど」
    「3人に付いて移動して、要請があったら先頭に入ってね」
    「イチジクも、手伝いよろしく」
     軽く肩を竦める翔汰の後ろで、セティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)と東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)がそれぞれウイングキャットに指示を与える。
    「いたぞ。1本向こうの通りだ」
     そこに、高所から周囲を探っていた桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)が、建物の屋根から飛び降りてきた。
     晩白柚怪人の位置と姿を目視で確認した所で、灼滅者達は作戦を開始した。
    「最近の門松って壊れ易いのかしらね?」
    「門松よりも倒しがいがありそうなのが、あっちにあったよね」
    「なに? 門松よりも……?」
     セティエと八千華が通りすがりのように残した会話に釣られて、怪人が晩白柚を転がす手を止め周囲を探りだす。
    「おお! 確かに門松よりもボーリング……あ、待てっ」
     そして怪人に見つかるのを待って、男性陣3名と猫達は三角の並びを崩さないように留意しながら、角を曲がって怪人の誘導を開始した。

     一方、その頃。
    「私、晩白柚って初めて知りましたー。どの位大きいんでしょう? あまりイメージがわかないのですー」
    「晩白柚は、ゆずの良きライバルなのです」
     畑の中で、軽田・命(ノーカルタノーライフ・d33085)は蜜柑もぐもぐ、柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288)はゆず茶をすする。
    「晩白柚ね。好きですよ。実家にいた頃、母様がよく剥いてくれました」
     守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)も手の土を払うと、勧められたゆず茶を手に取りながら話に加わる。
     戦場に決めた畑での準備を終えたこちらは、和やかだった。
    「晩白柚の話? あんなに大きくて丸いと、確かに転がしてみたくはなる、かも」
     戻ってきた八千華も、晩白柚の話に口を挟む。
    「誘き寄せに成功したわ。そろそろ来る筈よ」
    「今度こそストライク! 晩白柚ショット!」
     視線で問われてセティエが作戦の経過を答えた直後、そんな声が聞こえた。
    「くっ……ナイスボールッ……!」
     少し遅れて、黄色い何かの直撃を受けて吹っ飛ばされた陽坐と、それに巻き込まれる形で荒蓮も翔汰も、畑の中に転がり込んできた。
     てんてん、と転がり落ちる大きな柑橘類。
    「門松発見。晩白柚っ」
     一方怪人は、畑の近くに置いておいた門松に釣られてなぎ倒しつつ近づいてくる。
    「むむ! あそこのカラーコーンは……10個だ! まさにボーリング!」
     スコーンと小気味の良い音を立てて、赤いコーンが蹴散らす晩白柚は、記憶の中にその色はなくとも、在方にとって大事な思い出の果物なのだ。
    「1、2、3……よっしゃ、ストラーイク!」
    「……それがなんで、こんなボーリングめいた話になってるんです?」
     倒れたコーンの数を数えて拳を上げる怪人に、在方は冷たい視線を向けた。

    ●ボーリングって屋外スポーツだっけ
    「ふぅ……いいストライクだった!」
    「いい加減、こっち気づきなさいよ」
     ボーリングの事しか考えてなさそうな怪人に、いつもは温厚なセティエが思わず背中にツッコミ代わりに重たい蹴りを叩き込む。
    「うぉっ!? だ、誰だお前達」
    「良きライバル、晩白柚を救うため! マジカルゆずりん、華麗に参上!」
     背中からの衝撃にたたらを踏む怪人へ、柚香が堂々と名乗りを上げる。
    「晩白柚怪人!お前の果物愛は間違っている!」
    「待った、その位置は……!」
     柚香が一歩前に出てびしっと告げるのと、翔汰が警告の声を上げるのと、いきなり晩白柚が投げられたのは、ほとんど同時だった。
    「ちっ。ストライクは取れなんだか」
     立ち位置に気をつけないと、これである。
    「うう……いきなり投げるなんて。果物を愛するならば、いかに食べて貰うかを広めるべきなのです! 人様に迷惑をかけたら敬遠されるのが目に見えるではありませんか!」
     幸茶の癒しの視線を受けつつ柚香が振り上げた縛霊手の拳が、晩白柚に逸らされる。
    「そうですよね。こうなんというか、ご当地怪人にしては、食べ物としての晩白柚は推さないんですねー」
     好きなんだけどなぁ、と胸中で続きをこぼし。在方が反対側から叩き込んだ縛霊手の拳が怪人を捉えた。
    「常識の1つや2つ、世界征服の為なら捨ててやるさ!」
     霊力の網も気にせずきっぱり返す怪人。
    「むぅ。でも私と同じように間違いに気づけば――」
    「うーん。あれはもう無理だと思いますよ」
    「あそこまで行っちゃってますからね」
     諭すのを諦めようとしない柚香に、命がバベルの鎖を瞳に集めながら声をかけると、陽坐も同意し頷いた。
     3人のように、闇堕ちしかけで救われる方がレアケースなのだ。
    「そもそも、何でこんなに灼滅者がいるんだ」
    「個性的な習性を利用して、誘き寄せたのよ」
     怪人の今更な疑問に、セティエが何か作業しながら返す。
    「……まさか、さっきのボーリングみたいに並んでいたのも、お前達の仲間か!」
     間抜けな空気が、どうしようもなく漂った。
     並び方しか見てなかったとか、どれだけボーリング脳なんだ。この晩白柚。
    「……なら、改めて。――鳴神抜刀流、霧淵荒蓮だ」
     若干の呆れ顔を抑えきれないまま、荒蓮が名乗りながら、ゆっくりと前に出る。
     そして、その姿がふっと消えた。
    「縁起物壊すんじゃなくて晩白柚飾るとかすればいいのに」
     足運びの緩急を急激に変え、一瞬で怪人の懐に飛び込み脚を切りつける。
    「そういや昔じいちゃんから聞いた事あったな。門松は神様が宿る依代だって。それを倒すなんて、罰当たりじゃないか!」
    「ボーリングのピンに見えてしまうから、仕方がない!」
    「仕方ないだろ。ボーリングのピンに見えてしまうんだから!」
     飛び出した翔汰の煌きと重力を纏った重たい蹴りを受けながら、言い返す怪人の手に晩白柚が握られる。
    「イチジク! 作戦名トライアングル戦法」
     胸にクラブのスートを浮かべた八千華の合図で、彼女のイチジクを先頭に、にゃんにゃんワンとサーヴァント達が三角に並んでみた。
    「今度こそ、ストライクだ!」
    「さぁっ、その陣形を打ち砕かれるまえに倒させてもらうからねっ!」
     晩白柚が回転して大きな弧を描くと同時に、八千華の帯が怪人に突き刺さった。

    ●問答無用でボーリング
    「そうか! 戦闘のドサクサで、戦いにも使えると晩白柚ボーリングをアピールして広めればいいのか!」
     何か開き直った怪人が、どこからともなく木製の槍を構える。
    「そうと決まれば、ガターが足りないな! 晩白柚ボーリング!」
     怪人が回転させて連続で突き込んだ槍は、土を抉り巻き上げ、大きな溝を2つ残す。
    「これでレーンっぽさがまして俄然ボーリング気分が……っ!」
    (「……実は土を掘ることもボーリングっていうこと、アベルの話を聞くまで知らなかったんだよな」)
     胸中だけで呟いて、翔汰はご機嫌に槍をぽいっと捨てた怪人を鋼の拳でぶん殴る。
    「盛り上がってる所を悪いけど。ピンはあっちにあるわよ?」
     セティエは縛霊手から癒しの霊力を放ちながら、反対の手で畑の隅を指差した。
     そこには、三角に並べ直されたカラーコーンとみかんの空き缶があった。
    「ふおっ!!」
     奇声を上げて反応する怪人。
    「……いや、今は戦闘中。……だが、気には……なる!」
     さすがに怪人も戦いを忘れはしない――のだけど、チラッチラッと見てたりした。
    「うん……もっと門松持って来れば良かったかな」
     ぼやいて八千華が放った矢が、彗星の様に飛んでぶすっと晩白柚頭に突き刺さる。更に横から背中から、猫の魔法をはじめとした攻撃の幾つかが怪人を捉える。
     三角の並びなら何でもいいし、灼滅者とサーヴァントのサイズ違いも気にしない。
     そんな怪人の習性を狙わない手はない。
    「こっちを見ろ! お前も餃子に包んでやろうかビーム!」
     三角並びの先頭から、陽坐が餃子のご当地パワーを込めて光を放つ。
    「何かこうカッコイイ三角に見えるポーズ!」
     更にその場で、幸茶の癒しの視線を受けつつ自分をボーリングピンに見せるつもりでスタイリッシュにポーズを取って、命に目配せ1つ。
    「お望み通りストライクにしてやる。晩白柚ボーリング・シュートッ」
     ボーリングと言いつつ晩白柚を怪人が蹴った、影がざわりと蠢いた。
    (「転ばせる絶好のチャンス!」)
     最初に背中を蹴られてよろめいたのを見て『こけたら立ち上がりにくそうだなぁ』と思って、命はこけさせてみたくてウズウズしていたのだ。
    「ぬぉぉぉっ!?」
     咄嗟に飛び退こうとした怪人だが、絡みついた命の影に足を掬われる。
    「くっ……このくらい……土が柔らかくて起き上がり難いっ!?」
    「マジカルユズパーンチ!」
     転んで晩白柚頭が畑にめり込んでもがく怪人に、柚香がを柚子の味わいで縛るように柚子を握った縛霊手の拳を叩き込んだ。
    「どうして蹴ったりして、果物そのものを愛する方法を考えないんですか。迷惑をかける使い方をすれば嫌われてしまうだけです!」
     柚香は諦めず、果物愛を解く。無駄だとしても、もしかしたら最後には純粋な晩白柚愛を取り戻してくれるかもしれないと信じて。
    「晩白柚ボーリングに愛がないと思うなら、果物愛に対する見解の違いだな」
    「ところで晩白柚怪人。実は俺は加熱した柑橘類が苦手なんだが……この晩白柚というのはどういう食べ方がオススメなんだ? あと、土産に1つ貰えるか?」
     ぶれない怪人に、戦いで興が乗った荒蓮が尋ねる。
    「普通に皮を剥いて食うのが一番だ。土産は、くれてやる!」
     くれてやると言いつつ、ボーリングの構えを取る怪人――の視界が、緋色になった。
    「邪魔だ!」
    「あらあら……」
     晩白柚に吹っ飛ばされ壊れた愛用の番傘を飛び越えて、在方は摩擦の炎を纏った足で怪人の頭を蹴り飛ばす。
    「皮を剥くか。ならそうさせて貰おう」
     そこに高速で間合いを詰めた荒蓮は、怪人の頭に光の刃を振り降ろした。

    ●テンフレ――決着
    「晩・白・柚っ!」
     怪人が投げた晩白柚が1人を直撃し、巻き込まれた灼滅者達も吹っ飛ばす。
    「これだけ言っても、まだ投げるんですか!」
    「投げなきゃボーリングにならんからな!」
     諦めない柚香の跳び蹴りにも怯まず、言い返す怪人。
    「そもそも食べ物でスポーツするなよ! 晩白柚は果肉だけじゃなく皮も食べられるんだから、普通にアピール出来るだろうが!」
     靴底を擦らせ摩擦の炎を纏った翔汰の蹴りが、怪人に叩き込まれる。
    「ぐぅっ……」
     気力はともかく、怪人の体力は尽きかけている。
    「煮込んだ皮のママレードを具にするか、果肉でフルーツサラダ系の具にするか……迷いますよね」
     そこに、ゆらりと陽坐がにじり寄る。
    「な、何をする気だ……?」
    「勿論、餃子の具にしてやるんですよ。そのために、初めて解体ナイフ使います。上手に切れなくても……怒らないでくださいね」
     限界突破で何かが外れたか、表情に影を落とした陽坐に怪人も引いてる。
    「上手でも下手でも怒るに決まっでんっ!?」
     抗議なのかツッコミのつもりだったか、怪人が上げかけた声は、在方が関節に突き立てた縛霊手の爪と、後頭部を叩いた命の赤く輝く標識が遮った。
     足が止まった所を、荒蓮の光刃と陽坐のナイフが切り込みを入れる。
    「そりゃっ!」
     八千華が思い切り叩き込んだ巨大な十字架に吹き飛ばされ、自身がボーリングの弾のように頭で地面を滑った怪人は、断末魔の声もなく爆散したのだった。

     ぽてん、ころころ。
     幾つかの晩白柚が、畑を転がる。
    「こんなに持ってたんだ……歪んだとは言え、晩白柚愛は深かったですね」
     足元に転がって来た晩白柚を拾いその香りを吸い込んで、柚香はしみじみと呟く。
    「……今度は、自分で剥いて食べてみましょうか」
     在方は何処か懐かしそうに、晩白柚を1つ拾い上げる。
    「確かに頂いたぞ。いい土産になりそうだ」
    「買えるなら買っていこうかと思ってたけど……これはこれで貰ってくか」
     荒蓮も宣言通り土産に、翔汰も頂いていく。
    「ところで、私、ボーリングしたくなりましたっ!」
     持ち込んだ諸々を集め終わった所で、八千華がそんな事を言い出す。
     怪人が何度もストライク決めてるのを見て、自分も出来るような気になったらしい。
    「……言われてみると、そんな気もするわね」
     それを聞いてセティエが、成る程と頷く。
    「俺、ボーリングやった事ないんですよ。流行った時代もあるようですが、今は大人のスポーツかなって。軽田さんはやった事あります?」
    「群馬にもありましたよ、ボーリング施設」
     陽坐の問いに、命が笑顔で答える。
     はたして、晩白柚怪人がボーリングの参考になったのか――定かではない。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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