溶けた生クリームまみれにしてやんよ!

    作者:芦原クロ

     商店街の中を堂々と、大胆な水着姿の花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)が歩いていた。
     そんなせりすの耳に、『噂』という単語が聞こえて来る。
    「売れ残ったクリスマスケーキって、値引きされるじゃん? それでも売れ残ったら……どうなると思う?」
    「店員が持ち帰るか、廃棄処分だろ?」
    「そう思うよな。でもさ、ネットの掲示板でちょっと噂になってんだ。ほら、これ」
     青年が、スマホの画面をもう1人の青年に見せる。
    「クリスマスに食べて貰えず、ずっと冷凍保存されていたクリスマスケーキのお化け……って、タイトル長げーな!」
    「注目するのはそこじゃなくて、ここだって!」
    「長期間、冷凍保存されてたクリスマスケーキがお化けになって、味が落ちた恨みを晴らそうと、人々を生クリームまみれにしている……」
    「この噂、マジみたいなんだよ。しかも場所って、この商店街なんだぜ」
     青年は興奮と畏怖がまじった様子で、強く言った。

    「売れ残ったクリスマスケーキの、お化けさんなのですよぉ~……」
    「ネットの掲示板に書かれた噂に尾ひれがついて広がり、都市伝説として実体化したようだ。この都市伝説だが……見れば直ぐ分かるぜ。首から膝辺りまで1個のホールケーキで覆われている、サンタ服の男だからな。大きなホールケーキの中心に人が埋まって、頭と両手両足を外に出している姿、と言ったほうが想像しやすいか? ……夜、この商店街を歩いていると都市伝説は出現するぜ。夜だが、興味本位で見に来る一般人が居るので、人払いは必須だ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が用意した資料に目を通しながら、説明をする。
    「この都市伝説は、遭遇した相手をクリームまみれにして来る。溶けてドロドロになった生クリームを掛ける事が、楽しいようだ。クリームをマズいと言ったりすると、こいつは弱体化してゆく。汚そうに拭ったり、吐き捨てたりなどすると、効果抜群のようだな……何故かは知らないが。まあ、妙な物は含まれていないが、味が落ちているのは確かだ」
     ヤマトは、「1つ重大な事が有る」と告げ、人差し指を立てた。
    「都市伝説が掛けて来る、生クリームだが……食べる分には問題無いが、体につくと老若男女問わず、とても恥ずかしい気持ちになるぞ。これは都市伝説の能力のようだ。あまりの恥ずかしさで、動けなくなってしまったらキュアが有効だな。弱体化させて倒すか、出現したら即攻撃して時間を掛けて倒すか、お前達で決めると良い」
     変態の都市伝説なのかと言いたげな灼滅者たちの視線に、まるで気付いていない様子でヤマトが促す。
    「灼滅者であるお前達なら、この都市伝説を必ず倒せる筈だと俺は信じてるぜ!」


    参加者
    響野・ちから(ポップンガール・d02734)
    松苗・知子(吸血巫女さん・d04345)
    花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    咲村・菫(ハナの妖精さん・d28400)
    輿水・優夏(ヤマアラシのジレンマ・d34448)
    夕霧・絢莉彩(遊び彷徨う化け物・d34941)
    神坐・咲良(中学生七不思議使い・d36301)

    ■リプレイ


    (「……なぜ、味を落とされた恨みで人に生クリームを塗りたくるんでしょうか……? アレですかね、パイ投げ……みたいな感じなんでしょうか」)
     輿水・優夏(ヤマアラシのジレンマ・d34448)は、仲間たちと共に、店がすべて閉まった夜の商店街にやって来た。
    (「売れ残ったクリスマスケーキが都市伝説化ですか? 最近、不景気なんでしょうか?」)
     念の為に持って来た灯りで道を照らす、火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)。
    (「生クリームって美味しいんだけどそれを付けられて恥ずかしがるっていうのはなんか不思議だねー。まあ、僕以外は女の子だし恥ずかしそうな姿を見れそうだから楽しみなんだけどね」)
     女性陣に紛れて、唯一性別が男の夕霧・絢莉彩(遊び彷徨う化け物・d34941)は、とても幸運に恵まれている。
     絢莉彩はいわゆる男の娘だが、ラッキーすけべ体質でもあるのだ。
     どこら辺が、すけべなのか。
     絢莉彩は七不思議を使役して戦い、敵味方問わず、特に女性を辱めるのが大好き。ここである。
    (「売れ残った食材が原因でこんな事になってしまうなんて……まさしく飽食社会と云われる日本ならではの都市伝説ですねぇ……」)
     絢莉彩の性質に気づかず、むしろ絢莉彩を女の子だと思っている花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)。
    「生クリームって聞いただけでもうなんかワクワクするよねっ! 女子力全開案件なのです! 体操服で準備万端! 動きやすさとヨゴレても平気っぷりのハイブリッドなのです!」
     体操服姿で元気良く跳ねている、響野・ちから(ポップンガール・d02734)。
    (「売れ残ってしまうのは可哀想ですが……だからって生クリーム塗れにされるいわれはないですよね。ケーキは嫌いではないですが私だって嫌ですもの」)
     いつ都市伝説が出現しても良いように、周囲を警戒する神坐・咲良(中学生七不思議使い・d36301)。
    「人を見境なく食べちゃう触手のお話、だよ」
     絢莉彩が怪談を話して人払いをする。
    『やっほいほい、女子がいっぱい! たまんねえなぁ! ハァハァ……っ!』
     突如現れた都市伝説の男が、バランス良く軽快なステップを踏んで喜びを露わにしている。
     明はすかさず、サウンドシャッターを展開する。
    「ケーキの食べ放題と聞いてきたのですが……な、なんだか、ちょっと気持ち悪いデザインですね」
     勘違いしていた咲村・菫(ハナの妖精さん・d28400)が、男を見てズバッと言う。
    「汚れても良いようにジャージを着てきました! 汚れても良いように!」
     優夏は汚いものだと主張する為、二回同じ言葉を繰り返す。だいじなことなので。
    『こ、心にキタぁーッ! 気持ち悪いとか汚いとか言うなよなッ! ええい、生クリームぶっ掛けてやんよ!』
     都市伝説の男、もとい変態は、溶けてドロドロになった生クリームを、菫目掛けてぶっ掛けた。
    「これっていわゆる、謎の白い液体ってやつね。なくはない、なくはないわ!」
     早速被害に遭った菫を見て、松苗・知子(吸血巫女さん・d04345)が納得したように頷いた。


    「んんぅ、変な味……。こ、こんなに濃いの、飲みきれないですよぉ……」
     クリームまみれになった菫は、泣きながら生クリームを飲む。
     味を変と言われて変態は傷つくが、必死に飲む菫の姿は、変態の興奮を煽る。
    『変な味言われた!? チクショー……ん!? いいぞいいぞ、たまんねえ! 他の女子たちにも、ぶっ掛けてやるよォーッ!』
     それにしてもこの変態、傷ついては興奮したりと、落ち着きがなさすぎる。
     変態によって放たれた生クリームが、洪水のごとく灼滅者たちに襲いかかった。
    「いつ製造したのかはしらないですけど、今頃、出現しても誰も食べないですよ」
    『ぐお!?』
     明が変態の心を深くえぐりながら、魔殺の帯にサイキックエナジーを喰らわせる。
     黒色の帯を勢い良く発射し、変態を貫いた。
    「いくら冷凍保存していたとしても、おいしさを100%保てる訳はないですから」
    『や、やめろ……言うなッ!』
     変態が嫌がっても、明の言葉による精神的な攻撃は続く。
    「ほら、全然おいしくない」
     凍てつくような瞳で変態を見下し、ズバッと。
     言葉で撃たれた変態のハート。それはもうガラスのようにひび割れている。
     もろい、もろいぞ、この変態。
    「味は不味いんだねー」
     生クリームを一口舐めた絢莉彩が平然と、けれど思い切り告げる。
    「……あう……ベタベタします……」
     優夏も心底、嫌そうな表情をして、変態をチラリと見る。
    「あと、その……あんまり、おいしくないですね……」
     口の中に入ったクリームの味に対するダメだしも、おこたらない。
    「美味しくないです……吐き捨てるのはちょっとはしたないのでしませんが、とても……汚いです」
     すごく嫌そうな顔をして、ハンカチで顔の汚れを拭う咲良。
    『やめろおおお! 生クリームを拒絶するような、心にくることをしたり言ったりするのは、もうやめろぉおおッ!』
     変態は地団太を踏み、弱体化しつつあるが、それでも生クリームを放出するのをやめない。
    「あうぅぅ……べとべとします……気持ち悪い……うぅ……マズイよぉ……」
     生クリームを拭い、変態に聞こえるように、弱体化させる為の単語だけは、しっかりハッキリ言うせりす。
    「この白い液体が、液体が……うぇ、まずいっていうか、微妙に変な味」
     知子も変態を弱体化させる為に罵り、ペっと吐き捨てる。
    『ちょ、女子! おまえ女子だろ!? 吐き捨てるなんてそんな……! ダブルショック!!』
     どうやら効果てきめんだったようだ。
     変態はぷるぷると震えている。
    「うー、もう服の中までぐっちょぐちょなのですよー……はっ! 胸に入れてたメロンパンが! クリームメロンパンに!!」
     生クリームまみれになったちからが、自分の姿に気づき、慌てて両腕をクロスさせ胸元を隠す。
    『濡れ透けた体操服から覗く胸のメロンパンが、ただならぬエロスを感じさせている』
    「いや……実況しないでなのです……なんか恥ずかしいのです」
    『……って、んなワケ有るか! そもそもなんで胸にメロンパン仕込んでんの!? どういうことなんだ!?』
     ちからの行動に全くわけが分からず、混乱している変態。
     そこへ、知子が急速な動きで接近した。


    「肌を魅せることは、全然嫌いじゃないていうか、むしろ好きっていうか……なのに、何かしらこの湧き上がる恥ずかしさ! 見せてもいいはずなのに」
     クリームがついて恥ずかしい気持ちになっている知子は、自分の体を思い切り強く抱き締めたい衝動に駆られる。
     しかし、そこは灼滅者。
     知子はそんな衝動に必死で抗い、展開したシールドで変態を殴りつける。
    「冷蔵庫の中にいる間にカビでも生えたんじゃないかしら! これで売り物になるとか思ってるのが犯罪的だわね」
     精神的なダメージを与える事も忘れない、知子であった。
     活性化し合った互いの感情がエネルギーとなり、知子の後にせりすが続く。
     コールブランド・マスプロダクツを眼前に掲げ、風に変換した祝福の言葉で、せりすは前衛たちのバッドステータスを解除する。
    「皆さん大丈夫ですかぁ? あっ……!」
     足元のクリームで滑ってしまう、せりす。
     そのまま、ちからに絡みつく形で倒れ込んだ。
    「わーっ! 花桃ちゃんの胸が当たって! わーっ!」
    「あうぅ……ご、ごめんなさい……今、どきますねぇ」
    「メロンパン越しでも伝わる花桃ちゃんの胸の圧迫感! すごいっ!」
     謝るせりすと、恥ずかしくなりながらも感動を抑えきれないちから。
    『百合ぃ……たまんねえなオイ! 巨乳とメロンパイがぶつかり合って……って、メロンパイってなんだよ!? ああーっ、メロンパンが気になって仕方なくなったじゃねーか! どうしてくれる!?』
     最初は喜んでいた変態だが、自分で自分にツッコミを入れ、最終的にちからの所為にする。
    「知らないですよ! ……せっかくの生クリームなのに食用からそんな特殊なプレイ用になっちゃったら価値もう無いのですよ? 牛さんに謝るがいいのです! 食べ物粗末にする人は! ウチに投げられ灼滅されろーっ!!」
     ちからは変態を掴み、思い切り投げ飛ばす。
    『ぐへあっ!? か、価値が……無い……だと……!? ケーキは冷凍すると味が落ちるが、だからって価値が無いとまで言うかぁっ!?』
     変態は涙目になっている。
    「あぅぅ……不味いですよ、こんなに不味いクリーム、食べたことないですよ……」
     追い打ちの如く、必死に生クリームを食べていた菫の言葉が変態にのしかかる。
     変態の中で、ガラスのハートがパリン……と音を立てて崩れた。
     人造灼滅者の菫は、スレイヤーカードの封印を解いた際の自分の戦闘姿にコンプレックスを持っている為、封印は解かずに半泣き状態で生クリームの処理をしていたのだ。
     その努力が報われたと言っても良い。
     変態は弱体化して膝をつき、ケーキもろともぐしゃりと崩れ落ちる。
    「七不思議として可愛がってあげるから吸収したいなー」
     絢莉彩が機嫌良さそうに言うが、本心は、恥ずかしい気持ちにさせれるならいっぱい遊べそうだからという、すけべ心によるものだ。
     影の触手で変態を絡めとる、絢莉彩。
     変態は、なにも言えないぐらい弱体化している。
    「しっかり皆さんの盾になりますからね! 頑張らないと……! ひゃいっ!?」
     意気込んだそばから、生クリームに足を取られ、ずるっと転ぶ優夏。
    「わ、わ、私は大丈夫です! まったく問題ないですよ! のーぷろぶれむですよ!」
     クリームまみれになり、混乱して若干目を回しながらも、白く光り輝く斬撃を優夏は繰り出した。ナノナノのポコは、直ぐに優夏を回復する。
     ダメージが入っても、変態はぐったりしたまま動かない。
     こうなってしまえばもう、見切りもなにも無い。あとはトドメを刺すのみだ。
    「徹底的に嫌がって弱体化成功しましたね……では、トドメです」
     咲良が、怨恨系の怪談を語る。
    『ぐあああああ!?』
     都市伝説の断末魔が響き、倒された都市伝説は絢莉彩によって吸収された。


    「夕霧さんはちゃんと都市伝説を制御出来てて凄い……私ももっと経験を積まないと……うぅ、うちの都市伝説がなにかロクでもない事を思いついた顔してる……」
     戦闘が終わると、咲良はげんなりとした様子で、溜め息を吐く。
    「というかあの格好、動きにくくないんです? 転んだら自分で起き上がれるんでしょうか……」
     優夏は都市伝説の姿を思い出し、疑問符を並べる。
    「は、はあ……恥ずかしい、のも、気持ちいいかもしれないわ」
     なんだか開けてはいけない、新しい扉を開けてしまった様子の、知子。
    「皆さんクリーム塗れになってしまっているでしょうから、これから銭湯や温泉等はどうしょうかぁ……」
    「おふろっ! いいねいくいくーっ! クリームまみれから泡まみれにジョブチェンジなのです!」
     せりすの案に真っ先に反応する、ちから。
    「付いて行こうかな、一緒に入っても良さそうなら一緒に入りたいしねー」
     戦闘を終えても絢莉彩は、すけべ心を隠さない。
    「うぅ……服の中までベトベトですよぉ……お風呂に入りたいです」
     菫は疲れ切った様子で、切実に風呂を求める。
    「24時間営業している温泉や銭湯もありますから、みんなで行きましょう」
     現場を綺麗に掃除し終えた明が、そう締めくくった。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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