エスコートをお願い!

    作者:奏蛍

    ●たどり着けない……
    「あれ? わたし何をしてたんだっけ?」
     ふっと急に霧が晴れたように瞬きした結菜は首を傾げた。そしていつもより何か窮屈な気がして下を見る。
     視界に広がったのは、息を飲むほどに綺麗な振袖だった。ついこの間、姉が成人式だった気がしたが、もう一年たったのかと結菜はさらに瞬きする。
     来年は自分と思っていたが、いつの間にか一年が過ぎ去っていたのだ。そして結菜は不安に襲われた。
     姉の成人式はひどいものだった。式典に問題があったわけではない。
     しかし慣れない振袖に翻弄された姉は階段から転げ落ちて式典どころではなくなった。不自然に落ちた姉の姿と乱れた振袖。
     頭の中に焼き付いた姿はなかなか消えることはない。ごくりと息を飲んだ結菜は不安げに周りを見渡した。
     電車の中は混んでいる様子もなく、着崩れする心配はなさそうだ。ほっと息を吐いて目的の駅で降りた。
     前に進もうとした瞬間、何かに引っ張られる感覚がある。
    「え?」
     振り返った結菜は血の気が引いていくのを感じた。
    「ま、待って!」
     慌てて声を出した時には、電車はゆっくりと動き出している。それと一緒に、挟まれた結菜の振袖も引っ張られた。
     電車は止まる様子を見せず、どんどんとスピードを上げていく。足がもつれてしまった結菜の体が傾いて転がった。
     けれど電車は止まることなく、結菜の振袖と体がばらばらになっていくのだった。
    「あれ? わたし何をしてたんだっけ?」
     瞬きした結菜の目の前には、玄関のドアがある。そして視界の中には、綺麗な振袖が映っていた。
     しかしどうしたことか、信じられないほどの恐怖が体に残っているのだった。
     
    ●式典会場まで守ってあげて!
    「今回必要なのは、スマートなエスコートみたいです」
     魅力的な翡翠のような瞳で集まってくれた仲間を見渡した千凪・智香(名もない祈り・d22159)が口を開いた。そして須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話してくれる。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     智香の予感が的中して、シャドウの悪夢に囚われてしまった結菜の存在が明らかになった。姉の成人式で起きてしまった事故のせいで、来年の自分を心配し始めてしまった結菜は最悪な事態ばかりを想像してしまっていた。
     だんだんと恐怖ばかりが増えて、寝ても覚めてもそのことばかりが頭をちらつく。そんな不安でいっぱいになった結菜の心にシャドウが入り込んだのだ。
     悪夢の中で自分が想像した最悪の出来事を何度も経験させられ続けている。みんなにはこの結菜の救出をお願いしたい。
    「まずはソウルアクセスして、結菜様の悪夢に入ってもらうことになります」
     結菜が眠っている部屋までは大きな物音さえ立てなければ、難なく侵入できるだろう。そのためみんなには、どう智香を救い出すかに集中してもらえたらと思う。
     結菜は悪夢の中で、不幸な事故に陥っては再び式典会場に向かうことを繰り返している。そこで結菜をうまくエスコートして会場までたどり着かせてもらいたいのだ。
     しかし事前に事故に合わないようにしてしまうと、結菜がみんなに不信感を覚えてしまう。そしてこれが度重なると、事故が起きないことで異変を感じたシャドウが現れる。
     こうして現れてしまったシャドウを撃退すると、結菜が目覚めてから回復するまでに時間がかかってしまうのだ。もちろん、時間がかかっても問題ないとみんなが判断した場合は別だ。
     けれどできれば別の方法を選んでもらえたらと思う。無事に会場までたどり着けたとしても、結菜は悪夢のせいで自分から会場内に入ることができない。
     これを無理やり会場に入れることで、異変を感じたシャドウが現れる。こうして出現したシャドウを撃退すると、眠る前と変わらない結菜が目覚める。
     最後の方法は、無事に会場までたどり着いた結菜にこれが夢であることを理解させ自ら会場に入るように説得する方法だ。事故なんてそう簡単に起きないことや、事前に回避する方法などで説得するのがいいだろう。
     結菜が自ら会場に入った瞬間に、異変を感じたシャドウが現れる。こうして現れたシャドウを撃退することで、少し成長した結菜が目覚めてくれるだろう。
     エスコートの方法の例としては、階段を踏み外すことがわかっているとする。ここで階段を使わない方法を先に提示すると事故が起こらなかったことになる。
     階段を使ってもらった上で、踏み外しそうになったところを無傷で救出すれば悪夢が続いて次の最悪の事態のシュチュエーションに移動する。怪我をしてしまったりすると、ランダムに悪夢が継続していくため式典会場にいつまで経ってもたどり着けないので注意してもらいたい。
     結菜が想像した最悪の出来事は……。
     家の前の道路で交通事故に合う。
     地下鉄の階段を踏み外して、落下する。
     電車のドアに裾を挟んで引きずられる。
     人の荷物などに帯が引っかかり、解けてしまう。
     以上の四つだ。全員でひとつずつ対応してもらっても、個別に分かれて対応してもらっても大丈夫だ。
     少年の姿をしたシャドウはシャドウハンターのサイキックとガトリングガンを使ってくる。一緒に現れる配下は五体で日本刀を使う。
     シャドウは狙いがかなり正確で、配下は攻撃力が高いようだ。シャドウは配下が全て倒されたり、戦況が不利になれば別のソウルボードに撤退する。
     シャドウを灼滅することはできないが、結菜のために頑張ってもらえたらと思う。
    「どの方法を選ぶかは好きに選んでいいみたいです」
     どうしましょうというように、智香がゆっくりと首を傾げるのだった。


    参加者
    香坂・颯(優しき焔・d10661)
    千凪・智香(名もない祈り・d22159)
    レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)
    シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)
    玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)
    ミレイ・クローディア(紅焔の邪眼・d32997)
    癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)

    ■リプレイ

    ●波乱の道中
    「あっ、その……危ないです」
     震えるような小さな声を、フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)があげる。しかし振り返った結菜はすでに道路に飛び出していた。
     風を含んで広がった振袖が綺麗に広がるのと同時に、車がブレーキなしに突っ込んでくる。
    「危ない」
     言いながら手を伸ばした香坂・颯(優しき焔・d10661)が結菜を掴んで家側に引いた。そして着崩れしないように、そっと結菜の体を受け止める。
     通り過ぎた車は何事もなかったように遠ざかっていく。
    「あ、あの、ありがとうございます」
     顔を青くした結菜の手は微かに震えていた。
    「目的地は同じだから、一緒に行こうよ」
     首を傾げた結菜の視界に、颯の袴が映る。動き難くはあるが、袴の効果もあって結菜はあっさり納得してくれたようだ。
     颯からすると二度目の成人式に参加するというのも何だか不思議な感じがするのだが……。
    「えぅ、その……もう車は来てないみたいです」
     帽子の位置を直しながら、左右を確認したフリルが二人に声をかける。自分も振袖を着てみたいと思って、似合う帽子があるだろうかとフリルが首を傾げるのだった。
     ありがとうと結菜が言って足を踏み出した瞬間、灼滅者たちは微かに瞳を見開いた。気づいたらそこは駅の構内だった。
    「電車、こっちですね」
     颯に向かって微笑んだ結菜だけは、全く疑問に思っていないのがわかる。そんな結菜のそばに、レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)は移動した。
     結菜が目指す先には階段がある。周りにいる人に注意を向けている結菜ではあるが、そのせいか足元が疎かになっている。
     一生に一度の晴れ舞台。障害なんて、ですとろいだぜ! ということで、レイチェルが神経を尖らせる。落ちるとしたら中途半端などということはなく、高いところから落ちるはず。
     何せシャドウが用意した悪夢なのだ。
    「っ……!」
     息を飲む音が聞こえるのと同時に、結菜の体が傾いた。恐怖で目をぎゅっと閉じた結菜がゆっくりと目を開ける。
    「怪我なくてよかったぜ」
     ふぅと息を吐いたレイチェルがしっかりと結菜を抱きとめていた。
    「大丈夫ですよね?」
     振袖が汚れてしまわないように、咄嗟にたもとを持ち上げていた癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)が首を傾げた。それに合わせて柔らかそうなウェーブヘアがふわりと揺れる。
     どう見ても心優しい女の子! な空煌だが、男の娘だったりする。
    「す、すみません!」
     再び青くなっていた結菜が、自分の足でしっかりと立ち顔を赤くした。
    「急いでても、転んだりしたらダメだぜ?」
     せっかく綺麗なんだからと、レイチェルも汚れがないかを確認する。
    「何もなくて良かったです」
     結菜が無事かどうかの確認を終えた空煌がふわりと微笑むのと同時に、視界が移り変わった。ソウルボードに入るのが初めてな空煌が瞬きする。
     その場にあるものは現実と全く変わらないのに、やはり悪夢の中……気づいたら電車に揺られていた。
    「綺麗ですね。どこかへ行くのですか?」
     やはり全く気にしていない様子の結菜に千凪・智香(名もない祈り・d22159)が声をかけた。魅力的な瞳をキラキラさせて着物を見る智香に、結菜が頬を緩めた。
     始終緊張している結菜の肩から微かに力が抜ける。
    「成人式なの」
    「あ、袖が長いので気を付けてくださいね」
     電車に合わせてたもとが揺れているのを見た智香が腕に抱えたらどうかと提案してみる。言われてたもとを持ち上げ始める結菜だったが、電車が止まったのと一緒に動きが止まった。
     降りる駅なのか、慌てて歩き出す。合わせて歩き出した颯だが、電車から降りた瞬間に結菜の足が止まった。
     持ち上げなかったたもとが気になって足を止めてしまったのだ。結菜の瞳が見開かれるのと同時に、可愛らしい足がドアに挟まる。
     たもとはひらりと揺れて挟まることなく落ちた。ドアが再び開いたところで、シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)が電車から降りる。
    「大丈夫、ですか?」
     青い顔をしている結菜にシェスティンが問いかけると、結菜は小さく頷いた。怖い思いをしそうになるだけで、実際には何度も経験した悪夢が恐怖となって押し寄せるのだろうか。
     もう怖い思いをしなくて済むようにしなければと、シェスティンが感じた時には歩道にいた。まだ青い顔を見せる結菜だが、何の疑問すらない様子で道を歩いている。
     十八歳に姿を変えた玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)がそっと結菜の斜め後ろに移動した。振袖を着ているおかげか、同じ方向に歩を進めても結菜が疑問に思う様子はない。
     これが最後の最悪な出来事……油断なく曜灯が周りを警戒する。
    「ちょっと待って、引っ掛かってるわよ?」
     曜灯の声がするのと同時に、颯がすっと結菜の前に手を出した。自然と足を止めた結菜が首を傾げている間に、引っ掛けた相手を曜灯が止める。
     崩れないようにそっと傘の柄を帯から外した曜灯がほっと息を吐く。
    「あ、ありがとうございます」
    「いい、着物での歩き方にはコツがあるの」
     もし止めてもらわなかったらを想像してか、結菜が震える声でお礼を言うと曜灯が着物での歩き方をレクチャーする。これで大丈夫というように、曜灯が一歩下がると視界が変わった。
     結菜の目の前には会場の入口がある。扉を開ければ会場だ。
     けれど伸ばされた結菜の手が止まった。いままでの比ではない恐怖が体を走り抜ける。
    「――これは夢、よ」
     固まって動けなくなった結菜に向かって、みんなを夢の中へ案内したミレイ・クローディア(紅焔の邪眼・d32997)が声をかけるのだった。

    ●扉の前で
    「え?」
     何を言われているのかわからずに振り返った結菜の視界に、見た顔が並んでいる。困惑するように眉を寄せた結菜にミレイが言葉を続ける。
    「貴方は何度も繰り返してるの……」
     辿り着けない不安と事故にあう恐怖に潰さながらと真っ直ぐ瞳を見られて結菜が息を飲んだ。
    「結菜様、落ち着いてください」
     何がなんだかついて来られていない結菜を落ち着かせるように、智香が優しく声をかける。そしてミレイが言うようにここは現実ではないことを再度告げた。
     家からずっと一緒だった颯を見る。
    「これだけの事故に遭遇するの、現実にはそうそう無いよね」
     よく考えてみてというように、颯が結菜の瞳を覗き込む。ひとつくらいなら起きる可能性もあるが、こんなに立て続けに事故が起きることはほとんどないだろう。
    「ここは夢だから、考えてる不安な事が起きるんだ」
    「ゆ…め……?」
     颯の言葉に呆然と繰り返す結菜に空煌が優しく頷く。
    「だからもうこの悪夢を終わらせて……」
     この扉を開けば終わりにできると空煌がそっと結菜を促す。震える指を扉に向かって再び伸ばす結菜だが、激しく心臓が鼓動する。
     怖い、怖い、怖い……もしもっと大きな事故が扉の先に待っていたら?
    「……今回は私たちがギリギリで避けたりしていたけれど……」
     ミレイが首を傾げながら、そんな結菜に言葉をかける。普段の結菜はこんなにも不注意なのかと。
    「事故や不幸な出来事は、そう連続して起きる者ではない……はずよ」
     かけられた言葉に結菜が苦しそうに眉を寄せる。わかっている、頭ではわかっているのだ。
     事故なんて滅多に起きることではない。けれど実際に起きるときは起きるのだ。
     姉の姿を思い出して、嫌な汗がゆっくりと流れていく。
    「階段を踏み外すのが怖いならエレベーターに乗れば良い」
    「え?」
     何を言われたのか最初は理解できずに、結菜が颯を見る。交通事故に会うのも電車で挟まれるのも怖いなら、家からタクシーで行けばいい。
     回避する方法はいくらでもあるのだ。
    「不安ならお姉さんに一緒に着いてきて貰うのも1つだよ?」
     ひとりで行くと想像するから、さらに悪いことばかり浮かんでしまうのだ。
    「だから本当の自分の成人式の時には、どうか怖がらないで」
     大丈夫と言うように、颯が誠実に頷いてみせる。彷徨わせていた瞳を、結菜は再び扉に向ける。
    「いいかい結菜さん。美しい女の人には神のご加護があるんだぜ」
     真っ直ぐ向き合おうとする結菜にレイチェルが大丈夫、保証すると笑みを見せる。
    「着付けがある以上は直し方もあるのよ」
     扉を開く勇気を与えようと、曜灯が結菜の振袖に手を伸ばす。崩れてしまった時の正し方を教えながら、結菜の振袖を直していく。
    「ほら、これだけ覚えてたら自分でも出来るわ」
     もう大丈夫ねと言うように、曜灯が結菜を見る。
    「良くない出来事、想定するの、大事、です」
     ゆっくりと言葉を紡ぐシェスティンが励ますようにきゅっと結菜の手を握った。
    「でも、せっかくの、お祝いですから、楽しい、気分で、行ってきて、ほしいなって……そう、思います、です」
     恐怖ではなく希望や喜び、期待、楽しみを抱いて欲しい。
    「この扉を開くのはおねえさんの役目です」
     もう一回、試してみてとフリルが結菜を見る。下を向いた結菜が顔をあげて、みんなを見た。
    「うん」
     柔らかく笑った結菜が、扉に向き直って扉に手をかける。その美しい晴れ着姿に興味があるのか、ミレイが羨望の眼差しを向けた瞬間に、地面が消えた。
    「きゃっ!」
     驚きの声をあげた結菜とは逆に、灼滅者たちは瞬時に身構えた。そして見えた地面に音もなく下りる。
    「現実ではこんなこと起きないから安心して」
     無事に地面に結菜を下ろした颯が笑みを見せながら後ろに庇う。辺りの雰囲気が変わって、地面が盛り上がり形を作っていく。
    「何でこう邪魔が入るんだよ」
     イライラとした声が聞こえるのと同時に、盛り上がった地面が少年の姿になった。そして一緒に五体の配下が現れる。
    「――貴方、以前にも別のソウルボードで会っているんじゃ……ないかしら?」
     ミレイの言葉に視線を向けた少年の口元が肯定を示すようににやりと弧を描く。そして次の瞬間には弾丸を嵐のように撃ち出してきた。

    ●少年のシャドウ
     後方にいる灼滅者たちが弾丸に息を飲むのと同時に、飛び出してきた配下の攻撃を曜灯が避ける。そしてそのまま緋色のオーラを宿して向かってきた配下を蹴り飛ばした。
     結菜が可愛く綺麗に成人式を迎えられるように、容赦をするつもりは曜灯にはない。衝撃に吹き飛ばされた配下の体を、颯が射出した帯で一気に貫く。
    「エイティーン、起動!」
     シャドウの弾丸を浴びながらも、力を解放したレイチェルがその場でくるくると回る。
    「ふはは! 私に惚れたら火傷じゃすまねえぜ!」
     言いながら爆炎を弾丸に込めていく。
    「こっちも弾丸をサービス!」
     にやりとレイチェルが笑って弾丸が放たれる。合わせて颯が帯を引き戻した。
     貫かれていた配下の体が地面に落ちる前に、レイチェルの弾丸が撃ち抜き燃やす。形をとることができなくなった配下が燃え落ちて、一気に崩れた。
    「力を貸してっ!」
     力を解放した空煌が、迫ってくる配下と間合いを取るように地面を蹴った。そして後ろに下がりながら帯を射出する。
     空を斬った配下を、空煌の帯が貫いていく。さらにフリルが全方位に翼のように帯を広げ、配下を纏めて捕縛した。
    「回復、します、です」
     声をかけたシェスティンが、帯でミレイを覆いながら傷を癒していく。その間にミレイは常に手に持っていた魔道書を自らの影に落とした。
     そして影から霊縛手を引き抜くと、青白い鋼糸が周囲を舞った。シェスティンにお礼を言うのと同時に飛び出したミレイが、一番弱っている配下を殴りつけながら網状の霊力を放射して縛っていく。
    「新しい風よ」
     縛られた配下を見ながら、智香が力を解放した。カミさまと祈り叫ぶと渦巻く風の刃が生み出されていく。
     その刃を捕縛された配下に向かって智香が放つ。斬り裂かれた配下の体がボロボロと崩れて消えた。
    「貴方は何を……探しているの……?」
     すっと鋼糸を戻したミレイが再び少年を見据えるのだった。

    ●夢
     半獣化した片腕を振りおろし、その鋭い爪でフリルが配下を引き裂いた。引き裂かれた配下がそのまま地面に沈む。
     残りは二体とフリルが思うのと同時に体に衝撃が走る。バランスを崩した体が地面を転がった。
     フリルの体は少年が放った漆黒の弾丸で撃ち貫かれていた。
    「フリルちゃん、大丈夫、ですか」
     魅力的なピンク色の瞳を微かに見開いたシェスティンがすぐに帯を射出させる。フリルの体を守るように覆って傷を癒していく。
     倒れたフリルを狙って飛び出した配下に向かって、智香がオーラを放つ。
    「フリルさん」
     心配そうに声をあげた智香に応えるように、フリルがふわりと起き上がる。痛みを飛ばすようにぷるぷると首を振って、帽子を深く被り直す。
    「大丈夫です」
     小さな声でお礼を言いながら、再び襲いかかってきた配下の攻撃をフリルが避ける。その間にもう一体が颯に飛びかかった。
     さっと前に出たビハインドが代わりに攻撃を受けるのと同時に、颯が炎を叩きつける。
    「決めるぜ!」
     炎に包まれた配下に向かって、レイチェルがガトリングを連射していく。蜂の巣状態にされた配下の体がバラバラと崩れる。
    「くそっ……!」
     イラ立ちを隠しきれずに歯ぎしりした少年が前に飛び出す。曜灯が気づいたときには、目の前に少年がいる。
    「……!」
     影を宿した武器が容赦なく曜灯を吹き飛ばす。
    「ミケ!」
     レイチェルの声に反応したウイングキャットのミケが回復に駆ける。ふわりと動いたミレイの手元で青白い鋼糸が舞う。
     素早い動きで操られた鋼糸が残った配下を斬り裂いていく。柔らかくしかし鋭く操られる鋼糸は、まるで雪が舞っているようだ。
    「いかせてもらうよ!」
     言葉と共に空煌の手元に赤い炎が揺らめく。
    「合わせるわ」
     ミケに傷を癒してもらった曜灯が軽やかに駆け出した。空煌が放つ赤い炎の花を追うように曜灯が跳躍する。
    「悪い夢は蹴飛ばすわ」
     炎の花に焼かれる配下に、オーラを宿した曜灯が蹴りを決めていく。ふっと空煌が炎を消すと配下が激しく燃えて消えた。
     そして舌打ちが聞こえるのと一緒に、少年の姿も消えてしまう。辺りに立ち込めた不穏な空気が消えて、灼滅者たちも力を抜いた。
     けれどミレイの瞳は少年がいた場所をしばらく見つめていた。少年の体に浮き出たスートはスペードだった。
    「来年の成人式には、久し振りの友人達との再会を楽しんでおいで」
     座り込んでしまっていたところに手を差し伸べてくれた颯に、結菜が瞬きする。そしてその手を取ってしっかりと立ち上がった。
    「大人になったという自覚と未来への希望……忘れないでくださいね」
     智香の言葉に結菜は微笑む。
    「成人式、かあ。そん時の自分なんてまだ、想像もつかねえってのが正直なとこだな」
     晴れやかな笑みを見せる結菜を見て、ミケを撫で撫でしながらレイチェルが呟くのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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