伏見城の戦い~亡霊武者の見据える先は

    作者:長野聖夜

    ●新たなる城
     ――京都府伏見区。 
     それなりに高く築きあげられた、雄々しい城。
     階下から、いけないナースや、レプラコーン、数多くのペナント怪人達の喧騒が聞こえて来る。
     皆、自分達の勝利を信じて意気軒昂としている中、とある武者アンデッドが、天守閣から琵琶湖の方角を見つめていた。
    「……上屋抽梯と言ったところか。此方の戦力を削るうえでは効果的だが、其れもこれでは意味があるまい」
     城にたなびく多種多様なペナントを見つつ、首肯する武者アンデッド。
    「義時殿。いよいよですな」
    「うむ、そうだな。セイメイ殿の元を離れて、7ヶ月。セイメイ殿への恩義と、北征入道様の為にも、今回の作戦、必ず成功させねばならぬな」
     城内から姿を現した武者アンデッドに頷きながら、義時と呼ばれたダークネスは、再度琵琶湖を見つめる。
     彼等の背後には、4体程の武者アンデッドが控えていた。
    「さて、あの夏の日に、我と痛み分けに終わった娘の手引きで、天海大僧正と同盟を結んだ灼滅者達は……どう出るか」
     かつて幾度も灼滅者と刃を交えた義時が呟き、再び琵琶湖へと視線を移した。
    ●作戦概要
    「……天海大僧正勢力から、連絡が入った」
     挨拶もそこそこに、やって来た灼滅者達にそう告げる北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) の声音は硬い。
     何時になく気を引き締めた表情の優希斗の様子に集まった灼滅者達も、僅かに息を詰めている。
    「安土城怪人勢力が、京都府伏見区に攻め込んで、伏見城を築き、戦力を集めているらしい」
     淡々とした優希斗の説明に、灼滅者達が続きを促す。
     一つ息をつき、感情を押し殺すような形で話を続けた。
    「天海大僧正は、安土城怪人勢力の攻勢を各個撃破する好機と判断。一気に伏見城を攻略すると同時に、琵琶湖の敵拠点に攻め込むつもりみたいだ。……併戦の計、と言うことになるのかな」
     其れが、天海大僧正の策なのか、偶々そうなったのかは判別がつかないけれどね、と苦笑を零す優希斗。
    「それで、武蔵坂学園への要請は、伏見城の攻略は天海大僧正勢力で行うから、君達には琵琶湖の拠点に攻め込む助力をお願いしたいと言う話だったんだけれど……」
     安土城怪人勢力の士気は高い。
     もしかしたら、其の同時攻撃を行うよりも先に、天海大僧正勢力が滅ぼされる可能性もある。
    「そこで……」
     戦略の一環として、になるんだけど、と続ける優希斗。
    「武蔵坂学園は、此処で天海大僧正勢力に助力して、伏見城から脱出する安土城怪人勢力のダークネスを減らす方針で行くつもりだ」
     そう話しながらその手に資料を持った優希斗が、沈痛な面持ちになる。
    「君達には、この伏見城を攻略する為に、ある武者アンデッドの一群と戦って欲しい。……かつて、手筒花火城と呼ばれる城を攻略した折に、君達の仲間が戦い、闇堕ち者を1人出した……高倉・義時と、彼が率いる5体の武者アンデッド達を」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で頷きかけた。
     
    「この作戦に、天海大僧正勢力は、スサノオ壬生狼組を投入するらしい。だから、放っておけば痛み分けになるだろう」
     その場合、伏見城は落城するが、スサノオ壬生狼組も壊滅する。
     最も、伏見城から撤退するダークネスのことを計算に入れると、天海勢力が不利になる可能性は否めない。
    「要するに、安土城怪人勢力のダークネスを予め灼滅すれば、琵琶湖の決戦で有利になる可能性が上がり、スサノオ壬生狼組の戦力が残れば、決戦の時に援軍として参戦してくれるかも知れない。……助力の方法、及びタイミングをどうするかは君達に任せるけれど、琵琶湖への援軍を防ぐ事は、俺達にとってリスクを支払うだけの価値はある、とだけは、伝えておくよ」
     ちなみに伏見城には、義時達だけでなく、レプラコーンや、いけないナース等の非戦闘員も駐屯しているらしい。
     伏見城に攻め込み素早く敵を撃破して、尚且つ余力がある場合には、そう言ったダークネス達を灼滅することも出来るかも知れないね、と優希斗は小さく付け足した。
    ●戦力分析
    「高倉義時は、日本刀、エクソシスト、バトルオーラに類似したサイキックを使用してくる。強さはかなりのものだ。加えて、彼は其れなりの実力を持つ武者アンデッドを、5体程率いている」
     陣容としては、護り手が4体、癒し手が1体位。
     また、義時自身はクラッシャーだろう、と優希斗。
    「スサノオ壬生狼組は、全滅するまでに少なくとも敵を半分位まで減らせる筈だ。君達の介入のタイミング次第で変わるけれど」
     尚、伏見城内で戦う場合、敵の戦力は若干上がる。
     しかし、誰かが天守閣を制圧すれば、その戦力上昇も無効に出来る様だ。
    「どういう手段を取るかは、よく皆と相談して決めた方がいいだろう。……スサノオ壬生狼組だけじゃない。きっと今回の戦いは、君達の連携が重要な戦いになると思うから」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情を浮かべて返事を返した。
    「……ダークネス同士の抗争に手を貸すのは、恩を売ることにもなるから決して悪い事じゃない、と俺は思っている。でも……だからと言って、スサノオ壬生狼組を無理に救出するよりは、君達が安全な方が俺は良い。琵琶湖に敵勢力が合流することを防ぐのも考慮に入れて、だけど。……皆、どうか気を付けて」
     灼滅者達を見送る様に、優希斗は小さく微笑んだ。


    参加者
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)
    獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    ルナ・リード(夜に咲く花・d30075)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    荒谷・耀(護剣銀風・d31795)

    ■リプレイ


     ――京都 伏見城
    「……伏見城に潜む敵を確実させるためにも、あなた方壬生狼組のお力が必要になります」
     ルナ・リード(夜に咲く花・d30075)が、目の前の壬生狼組に誠意を籠めて、告げる。
    「我等は、天海大僧正様に忠義を尽くす者。お前たちの望み通りに動く謂れはない」
    「……分かりました。ですが、私達が戦う相手は、高倉義時と言う名の猛者です。陣形も強固ですから、気を付けて下さいね」
     荒谷・耀(護剣銀風・d31795)の忠告にも、返事を返さず先に進む壬生狼組。
     捕虜を得た時の扱い等の相談は出来なかったが、隊列から、彼等が守りを捨てた超攻撃的な布陣を取っていることは判別が付く。
    (……このまま行けば全滅は免れないですよね)
     其れ故のエクスブレイン達の予測でしたか、と妙に納得出来た。
    「馴れ合いは不要。我らは決して死を恐れぬ」
    「……それでも俺は、こう思っている。……生きて、最期まで主君を守るのが誠の忠誠だと思うから、貴方達にも死なないで欲しい、と」
    「好きにしろ」
     複雑な胸中を口にした水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)を一瞥し、進軍する。
     苦笑を零す旭の隣で、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) が自分達の動きを考えていた。
    (多分、俺達が合わせるしかないんだよな)
     何時か、本当の意味で理解し合い、共存できることを信じて、今の自分達が最善と思う行動をする。それが、今できる精一杯だろう。
    (……甘いわね) 
     咲哉と壬生狼組の背を交互に見ながら、如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535) は胸中に思い小さく溜息を一つ。
     しかしこれが耀達の選択ならば、口を挟む余地はない。
     其々の思惑を胸に秘め、戦士達は戦場に向かう。
     ――少しでも早く、自分たちの敵を灼滅して天守閣に辿り着き、他の仲間たちの助けになるために。


    「そうか。汝らは、そう動いたか」
    「なるほど。噂には聞いていたっすが、本当に武人って感じっすね」
     鎧武者達の真ん中に陣取る、一際大きな鎧武者。
     武骨だが、威風堂々たるその姿と数多の戦場を駆けたにもかかわらず、曇り一つない銀の刃が、彼が歴戦の勇者であることを物語っている。
     無意識に武者震いをした獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)は、自分の胸が何処か高鳴っているのを感じていた。
    「こんな形で、貴方と戦うことになるなんて……。これも、乱世なれば、ってことなのかな……」
     旭の僅かな寂しさを含んだ其れに、義時は、彼とルナを見やりながら、首肯する。
    「あの折は、我とあの場にいたお前達の目的が一致し、共闘した。時は、川の様に移ろい、流れゆくものだ。……これもまた、その中の必然に過ぎぬだろう」
    「……必然、か……」
     微かに考え込む表情になりながら、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が小さく呟き、愛刀をそっと撫でる。
     多くの戦いの中で、自分の中に育まれた迷い。これもまた、武蔵坂に来て自分の時が流れて生まれた必然だったのだろうかという想いが、ちらりと脳裏を掠めた。
    「……義時様は、私のことも……」
    「共に闘っていた仲間との連携、見事であった」
     ルナの呟きに首肯した義時を、苛烈な眼差しで睨むは、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318) 。
    「初めまして、ね。高倉義時。とは言え、私は加賀琴の友と言えば、用件は分かるかしら?」
    「……あの娘の、か」
     敬意の籠められた義時の呟きに、エリノアは軽く目を細め、妖の槍を強く握りしめる。
    「まだ、琴は死んでいないからこの言い方もアレだけど。今日は仇を取らせて貰う為にここに来たわ」
    「そうか。……ならば、これ以上の問答も無粋だな」
     多くを語らず、太刀を構える義時に答える様に、旭が愛槍、鐵断を構え、礼をつくす。
    「水無瀬・旭。戦場に挑むは、後の子等の平穏の為」
    「文月・咲哉。同盟を結んだ仲間と共に決戦の地に向かわん為」
     日本刀を携え礼の作法を取る、咲哉。
    「高倉義時。我が主、我が恩人の為、そして誇り高き汝らと相対する為に、此処に参った。いざ、尋常に……」
    『勝負!』
     旭達と義時の声の唱和を合図に、戦闘が始まった。


     雄叫びを上げ、其々の鎧武者に狙いを定め、攻撃を仕掛ける壬生狼組。
     彼等の速攻で負傷した大剣使いの一体を庇う様に突出した盾使いの鎧武者の間隙を縫う様に、明日香が不死者殺しクルースニクを鞘走らせ、月光の如き煌きを帯びた衝撃波を叩きつける。
     傷を負った大剣使いの鎧武者が、鋭く放たれた衝撃波によろめく。
    「ぐっ……?!」
    「さ~て、いっちょやらせてもらうっすよ!」
     明日香の一撃で態勢を崩した鎧武者達に追撃するべく天摩が走る。
     獅子を思わせる様な猛々しい舞を舞い戦場を駆け抜けながら銃弾の雨を矢の様に降り注がせる天摩。
     次々に撃ち抜かれていく鎧武者達にミドガルドが畳みかけるように機銃を掃射し、緒戦で最も傷を負った鎧武者の後退が遅れる。
    「畳みかけるぜ!」
     ミドガルドの機銃に撃ち抜かれた彼に、上段から日本刀を振り下ろす咲哉。
     負傷の少ない鎧武者が庇う為に前に出る直前、彼等の攻撃から仲間を庇った千秋の影からルナが飛び出し回し蹴り。
     空気を切り裂き生み出された暴風が床を抉って礫を生み出し、鎧武者達の全身に礫が突き刺さっていく。
     僅かに動きを止めた鎧武者達を、春香が爆発を生み出す呪を紡ぎ、彼等が庇い合う隙を奪って全身を焼いた。
     春香達により、受けるべき恩恵を奪われた鎧武者が大剣で辛うじて咲哉の刃を受け止めるが、蓄積した負傷からか、その場に崩れ落ちかける。
    「倒れろ!」
     崩れかけた鎧武者の隙を見逃さず、旭が腕を鬼に変貌させ、その首を掻き切る様に一閃。
    「無念……」
     配下の鎧武者を一瞥し、義時が太刀を振るい、壬生狼組の1体に苛烈な勢いで斬りかかった。
    「そうはさせないわよ!」
    「……あの娘の友、か。名は?」
     壬生狼組の前に出て、妖の槍を風車の様に回して他の鎧武者を牽制するエリノアに、静かに問いかける義時。
    「エリノアよ」
    「エリノア、か」
     鋭い一撃を抑えきれず、袈裟懸けに斬り裂かれた傷口から噴き出している血に顔を顰めつつ、目を細めるエリノア。
    「……お前は今、どんな気分かしら、義時。お前が琴を闇堕ちさせたが故に、私達は此処にいて、お前の仲間を1人討ち取ったのよ?」
    「それもまた、流れ。今、この場にいる旭や、ルナ……そして、他にも多くの強者と戦うこともまた、我が一族の望みだ」
    「そう……!」
     血の線を引きつつ後退するエリノアにまだ健在の両手剣使いが斬りかかるが、天摩が前に出て銃を交差させてその強烈な攻撃を受け止めていた。
    「荒谷っち!」
    「その優しさと強さをかの者の為に……」
     天摩の指示に頷き、耀が清らかな癒しの祈りを紡ぐ。
     同時に、その背に鶴を思わせる三日月の様に美しい一対の翼が広がり、その羽根が舞い、エリノアを包み込み、その傷を癒した。
    「自分達の身だけではなく、かつての敵をも守るか、灼滅者達よ」
    「ええ。そして……其れがお前の敗因になるのよ、義時!」
     鮮血を癒しの霧に変換しながら、エリノアが決然と誓いを突きつける。
     ……まるで、戦場に冷厳と姿を現す死神の様に。


     ――戦いが始まり、7分が過ぎた。
     壬生狼組に合わせ、速攻で一体の鎧武者を灼滅した、ルナ達だったが、それが、鎧武者達の魂に火を点けた。
     此方が弱っている敵に集中攻撃を掛けるのと同じ様に、義時もまた、壬生狼組に、火線を集中させる様指示を出している。
     後衛の鎧武者が治癒の光で仲間達を癒し、其れを受けた2体が防衛のために生存へと作戦を切り替えたのも大きかった。
     結果、1体を灼滅したが、壬生狼組と自分達の連携のチグハグさが響き、優勢を維持してはいるものの、圧倒は出来ていない状況が続いていた。
    「千秋」
     両手剣による一撃で深々と切り裂かれつつも、その手で反撃を仕掛ける千秋に頷きつつ、春香が癒しの光条で仲間と壬生狼組を庇い、耀の回復のみでは追いついていない咲哉の傷を癒す。
    「助かったぜ!」
     感謝を述べながら咲哉が、地面に弧を描く様に日本刀を振るって衝撃波を撃ち出し、義時達を切り裂いた。
     蓄積してきている損傷を癒すべく周囲の魔力を集めかけた鎧武者に向けて、絶命と銘打った大鎌を振るうのは、明日香。
    「ごあっ……!」
    「もう回復させねぇぜ!」
     明日香の雄叫びを裏付ける様に、絶命によって鎧武者を覆った『断罪』の闇が、周囲の魔を吸収するのを妨げる。
    「おのれ……!」
    「行きます……!」
     忌々し気に呻く鎧武者にクロスブレイブから流れるメロディにのせて、ルナが透き通るようなソプラノヴォイスで高々と聖歌を歌い、光の砲弾を撃ち出す。
     武器の奏でる歌と絡み合ったその音に、威力を高められた弾丸が鎧武者を撃ち抜き、その体を凍り付かせていく。
    「ガ……!」
     驚愕、と形容できる表情の鎧武者に、闇色の刀身を飲み込むばかりの白光に包まれた刃を振るい、氷ごと、存在を砕く天摩。
    「後、3体っすね……!」
     天摩に答える様にミドガルドが盾を構えた鎧武者にぶつかり、鋭く鈍い音を立てる。
    「グ……?!」
     苦し気な鎧武者に、壬生狼組の内の一体が、刀を振るった。
    「壬生狼組……小癪な……!」
     絶叫を上げつつ繰り出した盾による強烈な殴打に腹部を殴り飛ばされ、血を吐き出しながら、吹き飛ばされる、スサノオ。
    「グァ……!」
    「怨の念、恨の念……尽く輪転し、浄化の光とせん……!」
     手甲に蓄えていた怨霊の無念を光に転じて指先から撃ち出し、彼を癒す耀。
    「礼は言わぬぞ……!」
    「傷ついた時は、お互い様ですから」
     背を向けたままのスサノオに微笑しつつも耀が返した。
     その間に、旭が音も無く、傷だらけの鎧武者の懐に飛び込み、鐵断で、その脇を深々と抉る。
    「ぐぁ……!」
    「これで終わりだ……!」
     脇を斬り下ろされ、動きを止めた鎧武者の命を刈り取るべく、プロペラの様に鐵断を回転させて斬り刻み、止めを刺した。
    「……3人、倒されたか……」
     冷静に呟き義時が刀先に光の矢を生み出し、耀に向けて撃ち出す。
    「荒谷っち!」
     酷くゆっくりとした仕草に見えていたが、その実、凄まじい速さで撃ち出されたその矢に咄嗟に反応できたのは、天摩。
     胸の辺りを深々と射抜かれ、膝をつく彼にエリノアが素早く集気法を施し、その胸の傷を塞いでいく。
    「慣れぬな、やはりこの技は」
     溜息の様にも取れる義時の言葉に、ルナが少しだけ目を細める。
    「私たちの回復の要を狙いますか……。流石、ですわね」
    「最後まで死力を尽くすのが礼儀だからこそ、だ」
    「いいぜ、そういうの!」
     明日香が笑い、鎧武者の死角から消えて、クルースニクで薙ぎ払い。
     その刃に両手剣を構えた鎧武者の体が爆発的に反応し、辛うじて受け止めた。
    「この程度で……!」
     だが、動きを止めた鎧武者を、壬生狼組が襲撃する。
     明日香の技よりも重く鋭い一撃を受け、度重なる攻撃に疲弊していた両手剣の刃が根元から音を立てて折れて斬り裂かれ、消滅していく。
    「後2体、ね」
     沈む直前、悪あがき、とばかりに無数の拳撃を明日香に向けて放っていた鎧武者の攻撃から、彼女を庇った春香が、自分の傷をジャッジメントレイで癒しつつ、呟く。
     ――決着の時は、後、少し。


     ――それから、7分。
     漸く、その時が訪れようとしていた。
     生き残ったのは、義時のみ。
     その義時が、傷を負った壬生狼組の1体に、凄まじい速さの突きの連撃を繰り出す。
     彼に、其れを避けられるだけの体力はない。
    「危ねぇ!」
     息を切らしながら咲哉が警告を発し、日本刀で其れを受ける。
     だが、咲哉の体力も底を尽いており、突きの全てを捌けない。
    「やらせません……!」
     耀が白翼の羽根を散らして威力を減じさせるも、完全に勢いを押し殺すことは出来ず貫かれ、日本刀を杖代わりに辛うじて咲哉が立っていた。
    「……咲哉、と言ったか。よくぞ、壬生狼組を護り通した」
     義時の称賛に口元に笑みを浮かべるが、其れが限界。
    「あんたの最後を、見届けるつもりだったんだけどな……悪い……」
     そのままガクリ、と地面に倒れる。
    「これで、終わらせるぜ!」
     息をつく義時の隙をついて明日香が素早く絶命に緋色のオーラを這わせて命を刈り取るべく鋭い一撃。
     義時の体が斜めに刻まれ、彼が少しだけ苦しげに後退した。
    「貴方が生身であったなら、戦いから離れた席で、一献酌み交わしてみたかったなぁ……!」
     今までの戦いに敬意を表しながら、旭が縛霊手を纏った腕で正拳突き。
     鎧を貫いた衝撃に、鬼気迫る表情となった義時を、ミドガルドが機銃を乱射して撃ち抜き、千秋が素顔を晒して追撃する。
    「これで、終わりね」
    「そろそろ、終わりっすよ!」
     春香の光の十字架が義時の身をその場に縫い止め、天摩が舞う様に振るったエクリプスが、体を逆袈裟に切り裂いた。
    「私たちは、貴方を必ず倒します」
     疲労から顔色を青ざめさせつつも、懸命に意志を籠めたルナが、霊力を帯びた拳で貫手を決める。
     そして……。
    「その首貰い受けるわ、敵討ちよ!」
     力強いエリノアの一撃が、義時を、蹂躙のバベルインパクトで貫いた。
    「見事だ……灼滅者、そして壬生狼組たちよ……」
     掠れた声で呟きながら、エリノアが杭を引き抜く動作に合わせる様に、義時が遂に地面に倒れた。


    「……最後の戦は、良いモノだったかい……?」
     倒れた義時に旭が尋ねる。
    「……強く、優しき者達だな、汝らは。だが……戦場では、その優しさが時に命取りになることを、覚えておくがよい」
    「義時様、其れは……?」
     僅かに残った命の灯火を使い果たそうとしている義時に、ルナが微かに眉を顰めて首を傾げた。
    「……汝らは、壬生狼組と共に正面から我らに挑んだ。故に、逃すべきでない、お前たちの敵となる者を、逃がしたのだ」
    「……もしかして、非戦闘員たちのことですか?」
     ふと、思い当たった様子で呟いた耀に、義時が瞑目する。
    「その通りだ。我等は、汝らが現れた時には、あの者達を守る為の捨て石になる覚悟だった。……ただ、それだけのこと」
    「アンタ……なんで……」
     義時の告白に、俯き加減になるのは、明日香。
    「我らは、戦士。……戦えぬ同志を守るのは、当然であろう」
    「最後まで、格好つけてくれるっすね」
     苦笑を零す天摩には答えず、光となりはじめる、義時。
    「高倉義時という、古き武士がいたこと……俺は、決して忘れないから」
    「我は、果報者よ。汝らの様な強者と戦場で全力で戦い、敗れて死すことが出来た……この先にあるやも知れぬ、我が主の敗れる様を見ることもなく……さらばだ……」
     旭の呟きに譫言の様に返し、義時は光の粒子となり空へと消えた。
     ――春香と耀が仲間の手当てをし、ルナ達と共に天守閣に辿り着いた時、彼の言葉通り、そこには既に、誰もいなかった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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