伏見城の戦い~外様の憂鬱

    作者:J九郎

     京都の伏見に、城が築かれていた。
     安土城怪人が天海大僧正との決戦に備え築城したこの伏見城には、色とりどりのペナントが掲げられている。
     名産品のペナントを掲げるのは、各地から馳せ参じたご当地怪人。
     和風の鎧や武器のペナントを掲げるのは、白の王セイメイから遣わされた武者アンデッド達。
     そして、『月華団参上』と刺繍されたペナントの下には、天海大僧正陣営から離脱して安土城怪人陣営に加わったばかりの、羅刹の一団の姿があった。
    「……なんか、肩身狭えな、おい」
     羅刹の1人が、仲間の羅刹に同意を求める。
    「まあ、俺達は新参者だしよぉ」
    「しかも裏切り者だからな。馴染めねえのも仕方ねえ」
     そんな羅刹達の会話を断ち切ったのは、少女の凛とした声だった。
    「みなさん、卑屈になることはありません。私達は安土城怪人殿から直々に参陣を許された身。誰に恥じ入る必要があるでしょうか」
    「お、お嬢……」
     一団の中の紅一点にして最年少の羅刹の言葉に、しかし他の羅刹達はいたく感じ入ったようであった。
    「お嬢の言うとおり、変に縮こまる必要はないわい。じゃが、わしらが外様であることは否定できぬ事実。今のままでは古参のご当地怪人達には頭が上がらぬのう」
     そこに口を挟んだのは、年老いた禿頭の羅刹だ。
    「じいさま、なら俺達はどうすりゃいい?」
    「知れたこと。今も昔も、外様が上の信頼を勝ち得る方法はただ一つ。戦で功を上げることのみよ」
    「おう、そいつは分かりやすいぜ。いいかおめえら、お嬢のためにもこの戦、絶対勝つぞ!」
     おおう! と羅刹の一団は気勢を上げたのだった。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。安土城怪人勢力が、京都の伏見区に城を築き、戦力を集めているようだと」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
    「……加えて、安土城怪人との決戦準備を行っていた天海大僧正から連絡がきた。……大僧正達の決戦準備が整う前に安土城怪人が侵攻を開始して、京都周辺に攻め寄せてきたみたい」
     安土城怪人勢力は覇気に溢れており、このままでは天海大僧正勢力は、滅ぼされてしまうかもしれないと、妖は暗い声で付け加えた。
    「……これに対して天海大僧正は、全力で伏見城を攻略し、攻略成功と同時に琵琶湖の敵拠点に攻め込む作戦を行うみたい」
     敵が戦力を分けたのなら、逆に各個撃破する好機と考えているのだろう。
    「……伏見城の攻略は天海大僧正勢力で行うので、武蔵坂学園には、伏見城の攻略に成功した後、琵琶湖の拠点に攻め込む助力をお願いしたいと言ってきてる」
     それが、対タカト同盟の協定に基づく援軍要請の内容だ。
    「……この戦いは、ほうっておけば痛みわけとなると、サイキックアブソーバーは言ってる。……伏見城は落城するけど、精鋭として伏見に攻め込んだスサノオ壬生狼組は壊滅。……そして、伏見城から撤退した安土城怪人勢力のダークネス達は、琵琶湖の軍勢と合流することになるはず」
     もちろん、天海大僧正の要請に従えば、伏見城の戦いに最初から助力する必要はない。だが、ここで助力して伏見城から脱出するダークネスを減らす事ができれば、琵琶湖の戦いで有利になるかもしれないと、妖は言う。
    「……それに、壊滅する筈のスサノオ壬生狼組が生き残れば、琵琶湖の決戦に援軍として参戦してくれるかも。……助力の方法はみんなの判断に任せるけど、琵琶湖への援軍を防ぐ事は充分なメリットがあるはず」
     それから妖は、今回戦うことになるダークネスについての説明を始めた。
    「……みんなに担当してもらうのは、天海大僧正を裏切って安土城怪人側に付いた『月華団』と名乗る羅刹の一団」
     月華団は8人からなる集団で、全員羅刹で構成されているという。
    「……彼らの精神的支柱になっているのは『お嬢』と呼ばれてる少女羅刹。彼女を先に倒すことが出来れば、彼らの士気を挫くことができるかもしれない」
     戦闘時には『お嬢』がメディックとして、司令塔の『じいさま』がジャマーとして立ち回り、残る6人は状況に応じてクラッシャーかディフェンダーに就くという。
     また、『お嬢』は護符揃えに似たサイキックと清めの風を、『じいさま』は縛霊手に似たサイキックを、それ以外の羅刹達は龍砕斧か断罪輪 に似たサイキックを使ってくるという。
    「……それから、伏見城内は敵の拠点。敵の戦闘力の上昇が見込まれるから注意して。……うまく伏見城に攻め込んで素早く敵を撃破する事ができれば、レプラコーンやいけないナースなど、非戦闘要員のダークネスを灼滅する事ができるかもしれないけど、無理はしない方がいいかもしれない」
     ちなみに、誰かが天守閣を制圧した場合、城内での敵の戦闘力の上昇は無くなるという。
    「……今回の介入はあくまで協定外のこと。だからまずは、自分達の安全と、そして、琵琶湖に敵勢力が合流するのを防ぐ事を優先して。今はまだ、無理をする時じゃないから」
     妖はそう言って、灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    鳳蔵院・景瞬(破壊僧・d13056)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    凪野・悠夜(朧の住人・d29283)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)

    ■リプレイ

    ●壬生の狼
     伏見城に幾つか設けられた門の前に、浅葱色の羽織を纏った狼頭の男が姿を現した。すると、それを待ち構えていたかのように押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が、城壁の影から飛び出す。
    「押忍! 壬生狼組の人っすね。盟約に従い、援軍に駆けつけたっす!」
     内心ではどきどきしながらも、それを表に出さず堂々と話しかけるハリマ。だがスサノオ壬生狼組は、
    「おやあ? 此度の伏見攻めにゃあ、あんさん達は呼んでねえはずなんだがねぇ」
     そう言って迷惑そうに顔をしかめたのだった。
    「そう邪険にすることはないだろう! せっかく助太刀に駆けつけたというのに!」
     鳳蔵院・景瞬(破壊僧・d13056)が大きな声でそう返せば、
    「アンタ達の被害、伏見城の戦力。その両方を出来るだけ減らすンがあたしたちの目的。互いの為。手を、取ってくれたら嬉しいんよ」
     堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)も続けて、壬生狼組に協力を持ちかける。
    「ここで一緒するのも何かの縁……ってね。余計なお節介かもしれませんが、味方はなるべく多く生き残ってくれた方が此方も助かりますしね」
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)がそう続け、
    「どうせなら連携した方が城攻めも有利に進むんじゃないかな」
     凪野・悠夜(朧の住人・d29283)も、戦闘時の連携を提案する。
     だが、
    「天海大僧正の方針に背く気はないけどねぇ。あんさん達にはこれまでに同志が何人も灼滅されてんだ。はいそうですかってな具合に易々と手を組む気はないよ」
     飄々とした口調とは裏腹に、壬生狼組の声は冷たい。
    (「まあ当然の回答ですね。俺だって、壬生狼組との共闘には忸怩たる思いがあるんですから」)
     花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)はそう内心で呟くが、その想いを表に出すようなことはしない。
    「……とはいえ、あんさん達の邪魔立てをする気もないけどね。あっしはあっしで好きに戦わせてもらうよ」
     壬生狼組はそう言い置くと、行く手を阻む鉄扉を蹴り一発で叩き壊して城内へ侵入していった。灼滅者達も、その後へ続いていく。
    「なんでえ、今の音は! って、壬生の狼と武蔵坂の餓鬼共!? こいつら、いきなりカチこんで来やがった!!」
     だが、数歩も行かぬうちに、扉の壊れた音を聞きつけてやってきた羅刹達と鉢合わせしてしまう。敵味方の識別の為なのか、彼らが掲げるペナントに刺繍されているのは『月華団』の三文字。
    「狼よ、馴れ合わぬと言うならそれもよい。だが敵の情報は知っておいて損はなかろう? 武蔵坂の情報収集で、敵の支柱は回復役の少女羅刹と判明している。恐らく、後方に控えるあの少女だろうな」
     御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)が指し示すのは、羅刹の集団の一番後方に位置する、真紅の着物を纏った少女の羅刹。
    「そうかい。だがあっしは、飛び道具は持ってないんでね。せいぜい手前の羅刹共と遊ばせてもらいやしょうか」
     そう言うが早いか。壬生狼組は強烈な飛び蹴りを先頭の羅刹に叩き込んでいた。

    ●月華団
    「みな、うろたえてはなりません。今こそ戦果を挙げて私達月華団の存在を示す時。壬生狼組と武蔵坂ならば、相手にとって不足はありません!」
     少女羅刹の凛とした声が、一瞬で羅刹達に冷静さを取り戻させた。
    「お嬢の言う通りじゃ。予期せぬ遭遇にせよ、やることに変わりはない。お嬢を守り、こやつらを殲滅すればよいのじゃ」
     そして禿頭の羅刹が、すかさず隊列を指示していく。
    「まったく、そんな女の子が君達の頭だなんて……これなら案外簡単に終わりそうかな? 大した事無さそうだし」
     その様子を見て、悠夜が馬鹿にしたような口調で挑発した。
    「いきなり守りに入るんですね? 形勢不利と見るや天海さんの元をすぐ離れただけあって、やっぱり身の安全が一番なのでしょうか!」
     続けて、カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)もきつい言葉を放つ。
    「……んだと? このガキども!」
     色めきだつ羅刹達に、カリルはなおも言葉を続ける。
    「百戦錬磨の羅刹さんが多いと聞きましたが、皆さんが及び腰ならちょろいのですよ!」
    「てめえ、なめやがって!」
     少女羅刹の守りに付こうとしていた羅刹の内の1人が、飛び出してカリルに斧で斬りかかっていった。その攻撃を防いだのは、霊犬のヴァレンだ。
    「何をやっておる! これではお嬢の守りが手薄になるではないか」
     じいさまが勝手にポジションを変更した羅刹を叱りつける間にも、今度はリーファが口を開いた。
    「月華団ですか。忠義を尽くさない、裏切り物達には過ぎた名前ですね。お嬢というのもお里が知れてます」
     辛辣な言葉と共に放たれた漆黒の弾丸が、狙い違わず少女羅刹を撃ち抜く。
    「お嬢!!」
    「私は大丈夫です。みなさんは、敵の撃破を最優先に!」
     少女羅刹は懐から取り出した札を傷口に貼り付け、気丈に微笑んで見せた。
    「くっ! お嬢のためにもやるぞてめえら!」
     羅刹達はある者は斧を構え、ある者は断罪輪を構え、一斉に攻撃に転じる。その様子を見て、じいさまがそっと溜め息をついた。
    「やれやれ。少々守りが薄くなってしまったが、攻撃は最大の防御というしの。なんとかなるじゃろうて」
     だが、やがてじいさまは己の見立てが甘かったことに気付かされることになる。灼滅者達の攻撃が、少女羅刹に集中していたからだ。
    「貴方の大切な姫君、さぞや良い悲鳴を上げて下さるでしょうね?」
     颯音の放った風の刃が少女羅刹を四方から切り裂いていく。
    「くっ! しかし私は悲鳴など上げません!」
    「こいつら! か弱いお嬢ばっか狙いやがって、どこまで薄汚ねえ連中だ!」
     とはいえ、少女羅刹に攻撃が集中している間、残る羅刹達はほぼ放置状態だ。羅刹達は互いに連携しながら、灼滅者達を切り崩さんと波状攻撃を仕掛けてきていた。
    「来るか! 強者がいる、戦う理由はそれだけで十分だ! さあ! 存分に! 死合おうじゃないか!」
     次々と繰り出される攻撃に傷つく仲間を、景瞬がある時は襷型のダイダロスベルトを鎧状に展開させ、ある時は清めの風を発生させて傷を塞いでいく。
    「ちょいとお前さん方。あっしをお忘れじゃあないかい?」
     そして、灼滅者に気を取られていた前衛の羅刹達を、旋風の如き回し蹴りで吹き飛ばしたのは、他ならぬ壬生狼組だ。
    「なんだこいつ!? 壬生の狼のくせに刀を使わずに蹴ってきやがった!」
    「生憎と腰の刀は飾りでねえ」
     飄々と答える壬生狼組に、戦場全体を見渡していたじいさまが、不意打ち気味に肥大化させた右手の籠手で殴りかかった。だがその攻撃を、ハリマの腕に装備された宿儺が受け止める。
    (「半年前は敵として戦ったのに、今日は共同戦線張るってなんだか複雑っすけど……」)
     しかし今は城落としという共通の目的を持った者同士だ。
    「だったらできる限り、全員を護り通す!」
     そんなハリマの決意に応えるように、霊犬の円も羅刹達の攻撃から、仲間を守り続けている。
    「さて、忠義なき裏切りの羅刹にどれほどの気概があるのであろうな」
     皆が少女羅刹に攻撃を集中させる中、百々は前衛の羅刹達に狙いを定めていた。手にした都市伝説『禁帯出の白紙本』から半透明の腕が伸び、羅刹達に襲いかかっていく。
    「奇怪な術を!」
     少女羅刹が、自分の回復よりも羅刹達の回復を優先させて、癒しの力を秘めた風を巻き起こした。
    「いかんお嬢! それは、回復を分散させる敵の策じゃ」
     百々の狙いを察したじいさまが少女羅刹を諭すが、それでも少女羅刹は傷ついた仲間を見捨てることができない。
    「くそう! お嬢は絶対に守り抜く!」
     灼滅者達の挑発に応じず守りを固めていた二人の羅刹が、その身を盾にして少女羅刹を守ろうとするが、
    「どんなに邪魔だてしようと……このあたしから逃れられると思わんといてぇな!」
     朱那の放ったオーラキャノンはその二人をかわすように飛んでいき、少女羅刹に直撃した。
    「くうっ! 例え誰の目にも止まらずとも、月明かりの下で誇り高く咲き誇る華こそ私達月華団。このようなことで、屈するわけにはまいりません」
     よろめきつつも耐え抜いた少女羅刹だったが、
    「ハッ、御託はいらねぇ……さっさと終わりにしようじゃねぇかッ!」
     戦闘前とは打って変わって荒々しい言動になった悠夜の放った影の刃の追い打ちには、耐えきることができなかった。
    「みなさん、申し訳ありません……」
     月華団の仲間達に一言詫びると、少女羅刹の身がぐらりと傾ぎ、そして地面に倒れ伏したのだった。

    ●瓦解
    「お、お嬢が、やられちまった……」
    「そんな……。これから俺達は何のために戦えばいいんだ」
     少女羅刹が灼滅されたことで、羅刹達は明らかに動揺していた。
    「敵ながら結び付きは深かった様で。けれどその縁は無辜の人を殺めるもの……ならば断ち切りましょう」
     その隙を逃さず、颯音が牙剣『Orcinus orca』を鞭のように振るいながら羅刹達の中に斬り込んでいく。
    「まずいのう……。このまま戦えば或いは灼滅者の2、3人は道連れにはできようが……。この戦い、お嬢を失った時点で詰んだか」
     常に戦局の先の先を読んできたじいさまは、それ故に自らの敗北の未来を予測し、諦観に囚われてしまっていた。そんなじいさまに、灼滅者達の攻撃が集中する。
    「こ、この上じいさままでやられたらまずい! おまえら、じいさまをやらせるな!」
     羅刹達も、させじと反撃を開始するが、
    「ここ京都は僕のご当地。戦場になるのは見逃せません。住んでる皆さんを巻き込みかねない事態は絶対防がないとなのです……!」
     自らのご当地を守るためにいつも以上に気合いの乗ったカリルが、巧みに攻撃を捌きつつ、隙を見ては回し蹴りを叩き込んでいった。
     そして、
    「司令塔には早々に消えてもらわぬとな」
     百々の手にした『禁帯出の白紙本』から放たれた霊界の炎が羅刹達を燃やす間に、朱那がサイキックソードの切っ先をじいさまへ向ける。
    「連携やったらこちとら負けへんヨ!」
     そして放たれた光の刃が、じいさまの痩せた胸を貫いた。
    「……天海の下で数百年の時を生きてきたが、やはり、最後まであやつを信じるべきじゃったか。儂の読み違いにお嬢や月華団を巻き込んでしまったのは、不覚じゃったのう……」
     それが、じいさまと呼ばれた羅刹の最期の言葉となった。
    「そんな、お嬢に続いてじいさまが!?」
    「くっそう、もう月華団もおしまいだ! かくなる上は、せめて死に花を咲かせてやるぞ!」
     だが皮肉なことに、じいさまを失った羅刹達は、少女羅刹を灼滅され動揺していた時よりも明らかに動きが良くなっていた。
    「覚悟を決めて迷いが無くなったか! 敵ながら天晴れだ!」
     景瞬が右腕を異形化させて天星弓を引き絞り、癒しの矢を放った。矢は羅刹達の猛攻をその体躯をもって防いでいたハリマの傷を、たちまちの内に回復させていく。
    「助かったっす! さあ、後は力と力の真っ向勝負! 推して行くっす!」
     活力を漲らせたハリマは、得意の張り手で羅刹達を押し返していき、
    「おいおい、覚悟を決めてもそんなもんかよッ?!」
     悠夜は絶鋏【鈍色】で、羅刹達の力を切り取っていった。
    「悪いけどあんさんらにいつまでも構ってられんわ。とっととくたばって下さいや」
     やがて、壬生狼組の飛び膝蹴りが守りを固めていた羅刹の頭を砕いたことで、戦況は一気に灼滅者側に傾きだした。
     奮戦していた羅刹達も、1人、また1人と倒れていき、
    「まだまだ先はあるのですから、あなた方の相手ばかりはしていられません」
     リーファがガンナイフ『Equilibrium』を駆使した零距離格闘で羅刹を一体仕留めた時には、戦場にもはや戦える月華団の羅刹は残っていなかった。

    ●天守閣
    「さて、では伏見城の制圧に向かいましょうか」
     シャウトで自らの傷を癒した颯音の言葉に、全員が頷く。
    「安土配下に対しての城攻めは2度目となるか。しかし城の規模の差は歴然、気を引き締めてかからねばな」
     かつて掛川に作られた城に乗り込んだことのある百々は、当時の事を思い出しながら周囲を警戒し、
    「城攻め……というのもなかなか経験し難いものですよね。何気にわくわく? かもですね、ええ」
     リーファは高ぶる感情を抑えつつ、天守閣目指して歩を進めていった。
     ハリマが壬生狼組に話しかけてはすげなくされてうなだれる場面もあったりしつつ、城内の探索は進んでいく。
     だが、いくら探索を進めても城内からは敵兵どころか、存在するはずの非戦闘員すら姿を現さない。
    「……ダークネスさん達、出てこないですね」
     偽装のために奪取したペナントを掲げていたカリルが、首を傾げる。
    「もしかして、羅刹達にてこずってる間に逃げられてしまったんでしょうか?」
     戦闘が終わって、すっかり元の様子に戻った悠夜の言葉は、この場にいる全員の思いを代弁したものだっただろう。
     ほどなくして、灼滅者達は妨害に遭うこともなく天守閣にたどり着いていた。だが、そこには安土城怪人配下のダークネスの姿は全くなく、他のルートから侵入してきたであろう他の灼滅者達や壬生狼組の姿があるだけだった。
    「もぬけの殻、という奴か! まあ、伏見城を落とすという目的は達成したのだから、良しとしようじゃないか!」
     拍子抜けする仲間達を励ますように、景瞬が明るい声を上げる。
    「まあ、逃げる敵も気にはなっていたんですが……」
     天守閣から外の様子を眺めながら、リーファが呟き、
    「う~ん。敵さんの退路を断っておけば良かったンかな?」
     朱那がそう言って首をひねった。

     この日、伏見城は落城。だが安土城怪人勢力の多くは逃げ延び、決戦は次の戦いへと持ち越されることとなったのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ