伏見城の戦い~己の道を選びとれ

    作者:六堂ぱるな

    ●背水の羅刹
     新春の空にたなびく、ありとあらゆるご当地のペナント。
     伏見城は押せ押せムードに沸いていた。
    「なんでこんな簡単なことがわからねえのかね」
     窓から外の様子を眺めながら、つくづくといった様子で大柄な男が唸る。
    「見ろよ、この勢い。天海大僧正の勢力なんか簡単に揉み潰せるだろうよ」
    「灼滅者に譲歩してやるなんざどうかしてる」
     別の男がそう声を荒げると、それまで黙っていた、額の両端から湾曲した角を生やしたひときわ体格の大きな男が窘めるように低い声を押し出した。
    「そんな野郎の側から来たんだ。俺たちの今後の立場は今回の戦働きにかかっている。気合い入れてかかれよテメェら」
     室内にいた七人が黙して頷く。
     全員が額や頭から黒曜石の角を生やし、左の上腕に血染めの帯を巻いていた。

    ●前哨戦に介入せよ
     教室に入ってきた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)は、京都の地図を黒板に貼りながら状況説明を始めた。
    「天海大僧正の勢力から、助太刀を依頼する連絡が入った」
     ざわっと教室の空気がどよめく。
     なんでも天海大僧正側の準備が整う前に、安土城怪人の勢力からの侵攻が始まってしまったというのだ。京都まで攻め寄せ、伏見区に城まで築いて勢力拡充をしているらしい。
    「天海大僧正の判断は、全力で伏見城を攻略。伏見城落城と同時に琵琶湖の敵拠点を攻めるというものだ」
     敵が拠点と最前線に戦力を分散したのを幸い、各個撃破を狙う。伏見城攻略は自勢力で行うので、武蔵坂学園には琵琶湖の拠点を襲撃する助太刀をして欲しいという要請だった。
    「伏見城攻めにはスサノオ壬生狼組を投入するようだ」
     伏見城の戦いは恐らく、痛み分けになる。
     スサノオ壬生狼組の壊滅と引き換えに伏見城は落城するだろうが、城から撤退した安土城怪人の勢力は、琵琶湖の本隊と合流する。
     伏見城の戦いの助力を頼まれてはいないが、手を貸して伏見城から脱出するダークネスを減らせば、琵琶湖での戦いが有利になる可能性があった。それに伏見城で壊滅することになるスサノオ壬生狼組が生き残ることで、琵琶湖での決戦に彼らが参戦してくれる可能性も出てくる。メリットがなくはないのだ。
    「助力の方法は諸兄らの現場での判断に一任するが、これはダークネス同士の抗争に介入することでもある。諸兄らの納得できる形で行って貰いたい」
     念を押して、玄乃は敵勢力の説明を始めた。

     遭遇することになるのは羅刹の集団だ。
     頭である大柄な羅刹、八咤(やた)を筆頭に配下が七人、合計八人いる。全員が神薙使いと同じサイキックの他、六人が無敵斬艦刀に似た大きな斬馬刀を、二人が護符揃えに似た呪符を使って戦う。
     六人のうち八咤を含む三人はクラッシャー、三人はディフェンダーとして仲間を庇う。呪符使いはメディックだ。
     考えるべきは参戦するタイミング。
    「スサノオ壬生狼組は壊滅までに、安土城怪人の敵勢力を半分にまで減らす。だから伏見城から撤退するところを狙う場合、敵は半減していることになる」
     壬生狼組に同行して最初から参戦する場合、伏見城の中では敵の戦闘力が一割増しになる。しかし誰かが天守閣を制圧できれば、この戦闘力の嵩増しはなくなるだろう。
     伏見城の戦いを素早く終えて、時間と余力がある場合、伏見城にいるいけないナースやレプラコーンなど非戦闘要員ダークネスの灼滅が視野に入る、とも玄乃は告げた。
    「最重要事項は諸兄らの安全。次いで優先するのが、琵琶湖に敵勢力が合流するのを防ぐこととしてくれ。どうあれ私は諸兄らの判断を尊重する」
     無事に戻って貰いたい。そう付け足して、玄乃は説明を終えたのだった。


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)
    若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)
    興守・理利(赫き陽炎・d23317)
    黒絶・望(結実する希望と愛の風花・d25986)

    ■リプレイ

    ●共闘
     日本全国ありとあらゆるペナントがたなびき、威容を誇る伏見城。
     その前に、今スサノオ壬生狼組と武蔵坂学園の灼滅者が攻め寄せつつあった。
    「まずは前哨戦という所ですか。先の決戦の為、ここは狼さんたちと手を組ませて頂きましょうか!」
     茂多・静穂(千荊万棘・d17863)が伏見城を見上げた。深呼吸をひとつ、エアシューズの調子を確かめながら無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)も気合いを入れる。
    「天海と安土城怪人の戦いも今回が最終戦になるのかな? まずは攻城戦を制して次に弾みをつけよう」
     浅葱色の羽織を身に付けたスサノオの群れ。ブレイズゲートへ行けば敵でしかない相手を前に、三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)も興味深げだ。
    「並んで共闘するのは初めてだね。この機会に彼らの戦い方を一つでも学んで帰ろうかな」
    「先手を取られたのは痛いが、まだ巻き返せる状況だ。加勢するからにはきっちり仕事するぜ」
     伏見城を見上げる天方・矜人(疾走する魂・d01499)に並び、興守・理利(赫き陽炎・d23317)はスサノオへ一礼した。目的達成の為全力を賭すだけと腹を括っている。
    「興守・理利、伏見城制圧の戦において共闘することになりました。宜しくお願いします」
    「初めまして! 札幌のご当地アイドル・若林ひなこです! 一緒に頑張りましょう!」
     どこをどう見ても女子、可愛さ全開の笑顔で挨拶をした若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)だったが、スサノオ壬生狼組の反応は極めて薄かった。
    「委細承知。だが敵の詳細を如何にして知ったのだ」
    「申し訳ありませんが秘密です。ですが情報はすべてお話ししましたし、天海大僧正との約束ですから我々も同行し戦います」
     二人目の一見どう見ても女子、目隠しをしたままと異彩を放つ黒絶・望(結実する希望と愛の風花・d25986)は言い切った。今回はスサノオとの共闘体制が重要だ。下手に出すぎれば侮られ、上から目線になれば相手の神経を逆撫でする。
     一方で理利はスサノオとの交流のため、積極的に話しかけていた。
    「先日の祝勝会に参加しましたが、大僧正は愛嬌のある方なのですね」
    「興守とやら。四方山話は内輪でせよ」
    「……足手纏いにならないよう頑張ります」
     戦を前にしているせいか、反りが合わぬのかはわからないが、意志を尊重し理利は一言だけ添えて引き下がることにした。代わって矜人が話を持ちかける。
    「よろしくな。ものは相談だが、何人か人員を借りられないか。できたらでいい」
    「クラッシャーかディフェンダーでお願いしマスデス。戦って頑張って散ってくださいネ。侍らしく」
     共闘はあまり気が乗らないが、仲間が傷つくのが避けられるなら狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)も否やはない。スサノオは毛皮を膨らませ、鼻を鳴らした。
    「士道に生きる者、虎口から退きはせぬ。助勢は構わぬが、はぐれるなよ」
     敵城に討ち入れば乱戦、同じ敵を前にしなければ意味がない。
    「よろしくお願いします」
    「サンキュー。健闘を祈るぜ」
     淑やかな望の一礼を見据え、矜人の言葉に耳を僅かに動かしたあとはもはや振り返らず、スサノオたちが隊伍を整える。城攻めが始まろうとしていた。

    ●狂乱
     鬨の声が上がる。轟きは伏見を席巻した。
     一行は城門へ向かう流れに乗った。明確な目標のもと、嵐のような熱気と高揚がダークネスたちを巻き込んでいく。
    「これでは灼滅者もダークネス勢力の一端ですね……でも、悪い気はしません」
     迷いに光明が差すような、と言うべきか。いつもより乗り気なのは確かで、そんな己に戸惑いも感じる。うまく言い表せない理利の横を駆けながら、あきらも小さく呟いていた。
    「でも、これは面白そうなヤツだよ、確かに……」
     城門の前で小競り合いが始まる。熱と血に浮かされたような争いが広がる中、灼滅者たちも呑まれかけた時だった。
    「密室事件後、鋏ゲットで更に変化した戦闘スタイル! とくとお見せしましょう!」
     声の主をダークネスが振り返る。そして敵味方の区別なくほとんどが唖然とした。
     なにしろそこにはダイダロスベルトで己をぎりぎりと縛り上げ、その先に殲術道具を装着して絞めつけを存分に堪能する静穂がいるわけで。
    「ああ、また敵味方から侮蔑の視線を受けている気がしますが、これも実に……!」
     遠慮のない万感こもった衆目を浴び、静穂は羞恥に頬を染め身を捩った。どんな局面でもある意味しっかり己をもち、ぶれない静穂の痴態に、戦の空気に呑まれかけていた灼滅者たちが我に返る。
     城門が破られ、寄せ手が雪崩こんだ。離れず移動してきたスサノオ壬生狼組が吠える。
    「遅れるな灼滅者!」
     階段を駆け上がっていく。その先で、上階に駆けこんだスサノオの頭めがけて二本の刃が唸った。咄嗟に理利と矜人がその一撃を受け止める。
    「助太刀するぜ。武蔵坂学園の灼滅者、天方矜人だ!」
    「ほう、遂に現れたか」
     名乗りに応えたのは攻撃してきた二人の羅刹ではなかった。その後ろからずいと前へ出たのは一回り大きな羅刹。額の両端から水牛のような湾曲した角が生えている。遭遇が予測されていた八咤であろう。
    「彼奴らは任せた。隊士を四人つける」
     スサノオ壬生狼組の本隊は、そう告げると四人を残し前へ進んでいった。
    「みらくるピンキー☆ めいくあっぷ!」
     ひなこがカードを解放した。北海道のご当地ヒーロー、ご当地パワー全開のもふもふピンクな羊さん勝負服へと変貌を遂げる。渚緒も穏やかな笑顔のまま、墨染衣の戦闘モードへ切り替わった。傍らに烏面をかぶったカルラが顕現する。
    「今まで争ってた敵方に寝返ってまで、今回の同盟が許せなかったのかな?」
     渚緒の問いに、大柄な羅刹――八咤が即答した。
    「気にくわんな」
    「君たちには君たちの理由があったんだろうけど、その理由を知ったところで意味はないね。宿敵を目の前にして、退く理由はないだろう」
    「覚悟が済んでいるようで何よりだ。八咤とその一派が相手をしよう」
     床板も一刀両断にしかねない巨大で刃幅の広い刀を担ぎあげ、八咤が配下を叱咤する。
    「始めるぞ、テメェら!」
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     矜人の叫びが開戦を告げた。

    ●激突
     八咤を見知っているのか、四人のスサノオが牙を剥き毛を逆立てた。
    「虎口より逃れ局を脱す、士道不覚悟なり!」
    「犬ころが士道を説くたぁお笑い草だ!」
     刀を振りかぶったスサノオをいなした八咤が咆哮し、気合いと共に力が漲る。八咤に倣って二人が己に不敗の暗示をかける中、三人の羅刹が斬馬刀を手に飛び出してきた。
    「灼滅者風情がこれまで生き延びたことは褒めてやる!」
    「まっ、今日死んじゃうかもしれないケドね! ハハハッ!」
     笑うあきらが身軽に跳び退くが、避け損ねた理利と矜人へ刃が落ちかかる。矜人の前に飛びこんだ静穂が傷を引き受け、彼女と理利を重い斬撃が襲った。手に強張りが走る。
     あきらの妖の槍が螺旋を描く刺突を加え、遅れずスサノオの一人が斬撃を見舞った。後方に控える羅刹の手から呪符がとぶ。
     理利を庇った静穂があきらや理央、スサノオとカルラと共に攻性防壁の痺れに囚われた。すかさず望が癒しの力のこもった風を吹かせる。
    「催眠を受けている人を確認したら報告を! その他大怪我をしている人がいたら速やかに伝えてください!」
    「応!」
     望の呼び掛けに応じたスサノオが衝撃波を放った。追うように鬼のものと化した腕で跳びかかる渚緒の一撃を、紙一重で羅刹が躱す。しかし烏面を持ちあげたカルラの一撃で、三人の羅刹が見えぬ何かに怯えた声をあげた。
     静穂が傷の嵩んだ羅刹へ接敵して鋏で切り裂く。ひなこが構えるクロスグレイブの全砲門が開き、聖碑文の詠唱が流れていた。
    「お覚悟ください☆ いっきますよー!」
     罪を灼くといわれる輝きが八咤以外の前衛に命中した。同時に後方の羅刹が撃った風の刃が望を引き裂く。
     ひなこの砲撃で足元がふらつく羅刹の前へ、拳を顔の高さまで上げた拳撃の構えで理央が滑り入る。弧を描く踵がこめかみをかすめ打ち、よろめく頭を跳ねた理央が両足でクラッチした。次の瞬間身を捻り、床に頭から叩きつける。割れた床板に頭をめりこませた羅刹はそのまま動かなくなった。
     床を蹴って構えに戻る理央に八咤が舌打ちをする。斬馬刀を振り上げスサノオ三人と灼滅者、いずれを狙うか――切っ先が理利に落ちかかる。その前に理央が立ちはだかった。重い斬撃に引き裂かれ、苦鳴をもらす理央を見下ろし八咤が吠える。
    「俺も配下を抱える身だ。拾ってくれた安土城怪人への恩義もある。どちらか死に絶えるまでやるぞ!」
    「残念だが、敵になるなら容赦しねえぜ!」
     『聖鎧剣ゴルドクルセイダー』を非物質化させ、矜人が庇い手の羅刹に鋭く振り抜いた。精神への手痛い斬撃に羅刹が苦痛の叫びをあげる。
    「自分の信念に従い迷いなく実行する、その生き様には憧れます。殺し合う道しか無いのが残念です」
     庇い手の羅刹の背後へ回り込み着流しを深々と抉り、理利は呟いた。

    ●帰趨
     羅刹の攻撃は一撃が重く、静穂や理央の消耗もかなりのものになる。カルラの数珠がうねり鞭のように打ちすえ、渚緒が異形の腕でしたたか羅刹を殴り倒しながら警告を発した。
    「列攻撃来るよ、気をつけて!」
     言わせも果てず薙ぎ払いが襲いかかる。矜人を庇いに飛びだしたカルラが遂に吹き飛んだ。四人中唯一の庇い手を引き受けたスサノオも全身に傷を負いながら、尚も理利を襲う斬撃の前に立ちはだかる。
    「ありがとうございます」
    「礼は不要!」
    「……味方だとこんなに頼もしいとは」
     思わず呟く理利の横で、一撃をくらったあきらが血にまみれながら不敵に笑った。
    「コレだから面白いんだ、灼滅者ってヤツは」
    「今日は流石にハードですね……それでもまだまだ!」
     神薙刃を受けて痛みと失血にたたらを踏んだ静穂も、陶然とした表情で闘志を燃やす。
    「符を食らった!」
    「回復します!」
     スサノオの叫びと庇い手たちの怪我の様子を見て、望が清めの風を吹かせた。スサノオの羽織にへばりついていた符が吹き飛び傷が塞がる。
    「行きますよー! 札幌カッコウダイナミック!」
     札幌市公式の鳥の名を冠したご当地技で残った攻め手の羅刹を思い切り床に叩きつけ、とどめを刺したひなこはニコリと笑ってみせた。
     理央が体当たりをする勢いで最後の庇い手の懐に飛び込み、ジャブの連撃を繰り出す。戦場から引き剥がして一対一の勝負に持ち込むつもりだ。その傍らを駆け抜け、矜人が静穂と同時に最後の攻め手へ襲いかかった。
    「スカル・ブランディング!」
     静穂の断斬鋏で狂気に侵される羅刹の鳩尾に、骨を模した矜人の『タクティカル・スパイン』が捻じこまれる。流れ込んだ魔力が弾け、羅刹が糸が切れたように崩れ落ちた。
     スサノオたちが残った羅刹へ集中攻撃を浴びせるのを見やり、八咤が血を吐き捨てて斬馬刀を構えた。血にまみれた前衛を一人ずつ眺めて唇の端を吊り上げる。
    「おまえらも黄泉路の道連れにするか」
    「黙れよ……さっさとケリをつけようじゃないか」
     殺気のこもったあきらの声に、八咤の笑みが深くなる。
    「来い、灼滅者!」
     理利とあきらが同時に仕掛けた。
     死角に回りこむ理利の『九結太刀』が背から胸へ血を噴いて貫通。息を詰まらせ動きの止まった八咤の正面から、あきらの構えた槍が氷針を撃ちこんだ。ばきばきと音をたてて身体を氷が侵す。
    「ここまで、か……」
     ぐらりと八咤の身体が傾ぎ、倒れた。事切れた表情は苦痛とも、無念ともとれる渋面。
     道は交わらず話すら噛みあわなかったけれど、理利は目を閉じて冥福を祈った。
     スサノオと理央がそれぞれ羅刹を倒したのは、まもなくだった。

    ●陥落
     スサノオは庇い手の一人が斃れたが残りは意気軒高だ。忙しく立ち回って仲間の傷を癒しながら、望が心配そうに仲間に問いかけた。
    「皆さん、天守閣へ行く余裕はありますか?」
    「私は大丈夫ですよ!」
    「ボクも平気だよ」
     もっとも怪我が重いひなこと理央が応じる。理利は壬生狼組へ向き直った。
    「共闘、有り難うございます。天守閣制圧にもご助力頂けませんか」
    「礼は不要。約定の上の共闘、我ら恩義を感じず恩を着せるつもりもない」
     スサノオ壬生狼組は灼滅者と友好的になる気はなさそうだった。正面から向き合った態度の分だけ、侮られていないのがマシとすら言える突き放されぶりだ。
     廊下を駆けだすスサノオ壬生狼組を見送り、あきらがやれやれと続いた。
    「じゃ、お手伝いに行きマショウか」

     天守閣への道は開けていた。戦いを終えた壬生狼組や灼滅者たちが合流してくる。ひなこは首を傾げた。他班を見ても損耗は少なく、辛勝という雰囲気ではない。こうも簡単なものか?
     果たして、到着した天守閣はもぬけの殻だった。城内にいるというレプラコーンやいけないナースの姿もないことを確認して、渚緒はため息をついた。
    「非戦闘員も連れて撤退したようだね」
    「戦った痕跡もないね。早い段階で逃げられたかな」
     天守閣を隅々まで調べて回りながら理央も呟いた。
    「ぬかった。退路を断つ班を置くべきであったか」
     スサノオが唸り声をあげる。
     壬生狼組の損害を抑えることに主眼を置き、灼滅者の多くが天守閣の抑えも『敵の撃破後に余裕があれば』という優先度になった。その結果天守閣の軍勢が撤退する時間を生んだのだろう。
    「互いに損害軽微、戦力を温存した形になりましたね」
    「そうだな。まあ勝つには勝ったか、お疲れさん」
    「矜人さんもお疲れさまでした」
     静穂の呟きに首肯した矜人が仲間を労い、望が安堵の息をつく。太刀を収めた理利は天守閣の窓から外へ目をやった。
     彼方、琵琶湖に待つ戦いこそが総力をあげた決戦となるのか。

     伏見城の戦いは灼滅者とスサノオ壬生狼組の勝利に終わった。
     だが敵戦力も健在。雌雄を決する戦いまで、おそらくもう、時はない。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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