貴方が寂しくないように

    作者:彩乃鳩

    「あの、あの、故人さんが寂しくないように、お花を棺に入れてもらって良いですか」
     喪服の者達が溢れる。
     生前の故人の人柄を物語るように、葬儀には多くの者達が訪れていた。そんな中、一人の少女が熱心に葬式参列者に花を配る姿が目に付く。
    「花? ああ、はい」
     少女から花を受け取った若者は、棺の中へと花を供えた。皆がやっているのかと思ったが、不思議なことに花を持っている者と持っていない者がいる。
    「はて?」
     少し引っ掛かりながらも外に出ると、そこには花を配っていた少女が待っていた。ニコリと喪服姿には似合わぬ、天真爛漫な笑みを見せる。
    「貴方は良い人ですね」
     少女はゆっくりと近付き。
     手に持つ花が、ゆらりと大振りなナイフへと変わった。
    「この故人さんには、生前にお世話になりましてね。何か出来ないものかと考えた結果、たくさんの道連れを送ってあげることにしたんです」
     六六六人衆。
     ハナゾエ・ハナは凶器を振りかぶり――
    「お花を添えてくれるような人なら、きっとあの人も喜んでくれますよね? 寂しくなくなりますよね?」

    「西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)さんの情報により、六六六人衆ハナゾエ・ハナの動きが分かりました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者達に説明を始める。
    「ある葬儀の参列者を狙って、犯行を行うのですが。故人に供える花を配っていて、それを受け取った者をターゲットにしているみたいですね」
     このままでは犠牲者が、出ることは避けられない。この六六六人衆を撃退することが今回の依頼となる。
    「皆さんには、六六六人衆が配っている花を受け取って故人の棺に供えてもらいます。そうすれば、ダークネスの注意はこちらに向いて囮となることが出来るでしょう」
     葬儀場には大勢の人がいる。
     その中に紛れ込むのは比較的容易なはずだ。
    「くれぐれもお気をつけて。皆さんの健闘を祈ります」 


    参加者
    歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254)
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    斉藤・歩(猫と気攻の炎武極・d08996)
    ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    鈴鹿・美琴(二刀流・d20948)
    四方祇・暁(天狼・d31739)
    アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)

    ■リプレイ


    「あの、あの、故人さんが寂しくないように、お花を棺に入れてもらって良いですか」
     六六六人衆は、そう言って皆に花を渡す。
     気付いているのか、いないのか。一般人、灼滅者関係なく。
    (「喪服を着用して参列者に加わる。ハナから花を受け取ったら、故人の棺に花を添えて外にでる――ね」)
     着物の喪服を身に纏った歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254)は頭の中で、流れをおさらいする。
    (「花をもらいに行く際は怪しまれない様に、年相応にゆっくり通らないと……」)
     今回は戦闘までエイティーンは念のため未使用。
     鈴鹿・美琴(二刀流・d20948)は喪服を着て参列に加わる。顔は伏せできるだけ参列者に顔を見せない様にし、花を渡しやすい位置へ移動する。
    「はい、お花をどうぞ」
     六六六人衆は、淡く笑って花を差し出す。
     美琴は出来るだけ自然にそれを手に取り、また花を受け取った人物をできるだけ把握した。
    「……とてもお世話になったから……最後のお別れにきたの……」
    「そうですか。是非、お花を添えてあげて下さい」
     葬儀に参列する為にゴスロリの喪服を着用したアリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)は、一般人に紛れ係員や参列者になりすまし花を受け取り場内へ。
    「……故人へ棺へ纏めて納めます……」
     場内で花を受け取った人達から花を回収。
     それは、他の面々も同じだった。学生服を着用し、四方祇・暁(天狼・d31739)は参列者として葬儀に参加していた。
    「一緒に沢山供えてあげたい」
     会場でハナから花を受け取った後、他に彼女から受け取った参列者を捜索。標的認定されないようにと申し出て、できる限り花を回収する。
    (「葬式ってのはこれまで生きた人のためじゃなくて、これからを生きていく人達のためのもんだ。そんな場所で死人を増やそうなんざ、させるかよ」)
     斉藤・歩(猫と気攻の炎武極・d08996)は、社会人のような服装で花を受け取って葬儀会場に入る。会場内では防具ESPを使用し、葬儀社の関係者として振る舞う。
    「失礼します。少々よろしいでしょうか」
    「ああ、はい」
     花を持つ一般人に出棺時まで預かる、という旨を花の回収を行っていた。
    (「目立たないようにお葬式らしい格好で参列。花を受け取り葬儀場へGOです!」)
     立花・銀二(黒沈む白・d08733)の方も、すでに花を受け取った人を見つけ出し見られていてもバレないように知り合いの体で近づく。
    「花は葬儀屋の人が纏めて棺に入れてくださるそうですよ。僕が代表して渡しておきますね」
    「あ、そうなんですか。では、お任せしますね」
     ラブフェロモンを駆使しての、花の回収は順調に進んだ。
     そんな中、喪服で参加していたルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)はスタート地点より六六六人衆から花を受け取り、棺桶に花を添えると迅速に動き出した。
    (「避難誘導は他の方にお任せして、すぐに外に出てハナさんの抑え役に回ります」)
     更に、それより早く動いた者がいる。
     ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)も、なるべく怪しまれないように葬儀には喪服を着ている。事前に故人の事を調べてぼろが出ないようにと、準備にも余念がない。
    「生前お世話になったのでせめてお別れをと参列させて頂きますわ」
    「そうですか、故人さんも喜んでいることでしょう」
     と、六六六人衆から花を受け取ったら、敢えてそのまま後を追って外に出る。人気のない方へと歩いていくダークネスの背中へと一声。
    「お待ちなさい、六六六人衆」
    「はい?」
     ハナの注意がこちらに向く。
     ベリザリオはすかさずスレイヤーカードを解放して挑んだ。
    「全力で行きますわ」
     ソーサルガーダーで守りを固める灼滅者に、六六六人衆はニコリと笑い掛ける。
    「ああ、武蔵坂の方ですか」
    「葬式会場増やさないでくれませんか」
     二人の間に、ルコが真っ先に合流し十字架戦闘術で足止めにかかる。ハナは手にした花を、刃物へと変化させて攻撃を受けた。
    「ふふ。どうやら、思ったより多くの棺が必要のようですね」
     灼滅者と六六六人衆がぶつかり合う。
     その衝撃は、葬儀場の方まで届いていた。
    「何やらごたごたがあったそうなので案内があるまでは、式場内に居留まるようにしてください」
     銀二は、わざとらしく外を覗くと会場内の者達に念を押す。集めた花をささっと棺に入れたら外へと向かった。
    「……少しだけ……ここで……待ってて……」
    「係員の指示通り待機をお願いするでござる」
     式も佳境に向かい、アリスは王者の風を使い一般人を場内に留めた。暁は一般人を説得しながら、攻撃の余波が人々に及ばないように注意した。その後に、回収した花は全て斬り捨てて処分しておく。
     歩も仲間が一般人を、おとなしくさせるのを確認して花を添え外に出る。仲間が献花をおわるまで、花を渡された人物をESP持ちの仲間へ誘導していた美琴も、敵へ接触せんと動いた。
    「おやおや、ゾロゾロと」
    「人払いをしておかないとね」
     六六六人衆は、次々と姿を現さす灼滅者達に目を瞠る。その隙に、めろは殺界形成を使用しておく。
    「顎門を開き切り刻め」
     美琴はカード解放と同時にエイティーン。
     きらきらと光を纏って十八歳の外見へと変化する。
    「さて、この姿でお相手しよう……鈴鹿・美琴、推してまいる」
     腕脚のリーチを補った姿で、戦神降臨で剣を構えた。
     伸びた手足の隅々まで、肉体が活性化するのを感じる。
    「へえ、やる気満々と言う感じですね」
    「会場内には入れないでござる」
     暁は外の一般人への被害阻止や、会場内への敵進入を防ぐためハナの動きを抑える。BS耐性獲得狙いで抗雷撃を見舞った。
    「……引き裂く……」
     アリスは木々や建物など様々な障害物を利用し、上下左右の変幻自在に飛び回りつつ相手の癖を観察しながら動いて幻狼銀爪撃の鋭い銀爪を振るう。
    「おっと」
     猫のようにしなやかに動き。
     狼のように鋭い攻撃に、六六六人衆は翻弄される。肩口から爪痕が刻まれ、血が流れ出る。
    「活きの良い人達ですね。これなら、あの人も寂しくないでしょう」
    「俺達をあの世に送れるもんなら送ってみな、お嬢ちゃん。さぁ、行くのはどっちか決めようか!」
     四肢を武器に格闘で挑む歩。
     抗雷撃で雷を付与した蹴り上げが、六六六人衆の刃と激突して火花が散る。
    「ハナ君に花をもらってはなを添えたらハナ君がハナしかけてくる……はな君にハナを……キエエややこしいのです!」
     葬儀場へ抜けられないように背にして囲むようにして。銀二はヴァンパイアミストで味方の強化を、サーヴァントのナノナノも回復でダメージの補填をした。
    「……確かに……我ながら、ややこしいですね」
    「葬儀で殺戮を行うなんて……六六六人衆と言うだけで不愉快ですのに、死者とのお別れを汚すような真似は許しませんの」
     ハナは数十の花をナイフに変えて投擲。
     ベリザリオは自身を盾にして、攻撃を受けきり逆に攻勢に転ずる。
    「参列者のみなさまも仲間もわたくしが守りますの」 
     スターゲイザーの蹴りが炸裂。
     溺愛せし者を狂気に染めて行き、闇堕ちまでさせた六六六人衆を彼は宿敵同然に敵視する。
    「むう」
    「さっき与えた足止めが、効きましたかね?」
     少し動きが鈍った相手へと、ルコはオーラキャノンをホーミングさせる。続いて、めろはレッドストライクで鋭く攻め込んだ。
    「故人を想う気持ちがあるのに、あなたが殺した人にも同じように死を悼む人がいる事、わからないのかな?」
     親子のような存在であるサーヴァントのウイングキャット式部は、喪服の着物を着用した灼滅者の言葉にこくりと頷いて肉球パンチを繰り出した。


    「貴様、故人とどういう関係でござるか」
    「……関係、ですか?」
     暁とハナの黒死斬が絡み合う。
     灼滅者とダークネスの戦いは、苛烈さを増していく。
    「そうですね……まあ、私が世界で最も愛した人とでも言っておきましょうか。ふふ、照れますね」
     六六六人衆は乾いた笑いをこぼした。
    「あの人が、寂しくないように。出来るだけたくさんの人を送ってあげないと」
    「死者が本気で望むと思っているなら……やはり貴様は、ここで斬る」
     冷静に冷徹に標的を仕留める暗殺剣士として、暁は静かな怒りを燃やしつつ任務に挑む。
    (「人を失う悲しみは、連鎖するものなのに。寂しくないように?とんだエゴだ」)
     ルコは黙示録砲を狙いすまし、必要があれば味方に回復を施した。最優先するのはディフェンダーの面子だ。
    「懇意にしていたかなど、関係ない……所詮は、マヤカシ……死者を送る為に死者を生むなど、本末転倒だ」
     警戒していた相手の投げナイフを、剣で撃ち落とし。
     美琴は紅蓮斬で斬り込む。鮮血の如き緋色のオーラが武器に宿り、危険な輝きを伴う刃と化した。
    「大切な人のための、最後の贈りもの……邪魔をしないで欲しいですね」
    「……タタリ・ナナじゃないけど……別れの日に……血で汚すのは……見過ごせないの……」
     速さに緩急のフェイントをつけながら、アリスは攻撃を繰り出す。
    「……斬り裂く……」
     サイキック斬りの斬撃が、敵の身体と強化を文字通り斬って裂く。敵はその勢いに数歩の後退を余儀なくされた。
    「葬式ってのはこれまで生きた人のためじゃなくて、これからを生きていく人達のためのもんだ。そんな場所で死人を増やそうなんざ、させるかよ」
     そこへ歩の鋼鉄拳が決まる。
     サーヴァントの燐火は、茨の形をした炎を敵の体に纏わりつかせて捕縛して主人をサポートした。
    「……っ。違います、別れは死者のためものであるべきです。あの人が悲しくないように……だから」
    「何を添えたところで、死んだあとには嬉しいも悲しいもないのですよ」
     六六六人衆は、ナイフを舞い散らせる。
     花開く斬撃を受けて負傷が重なる中、銀二は回復を優先しつつ敵の攻撃範囲に合わせて列と単体回復を使いわけダメージを緩和させて戦線を支えた。
    「皆さん、態勢をしっかりと整えましょう」
    「相手の動きは、めろが縛るよ」
     ベリザリオも、味方前衛にソーサルガーダーをかけて防御を堅く固める。めろは主従揃ってパラライズを優先したジャマー活動を行った。
    「むむむ。もっとお花を咲かせる必要がありますね」
    「なかなか、どうして……切り続けるしかないか」
     戦いは一進一退を繰り返す。
     六六六人衆は次々と花を手にすると、それを刃に変えて躍らせる。美琴はできるだけ相手の土俵外である自分の射程範囲で戦線を維持。戦況がエスカレートするにしたがって、剣を振るうその顔には戦闘狂特有の喜悦の笑みがこぼれた。
    (「命を賭した戦い……悪くないですね」)
     本質は博打家であるルコも、自身の中に高揚を感じる。逃亡対策で、相手を挟み込むように位置取り。
    「ただね、一緒に棺桶に入れられる気はないので――」
     閃光百裂拳を狙いすまして、相手を確実に削りにかかる。仲間と連携しながらハナを囲み逃亡させないように構えていたアリスも、合わせて目にも止まらぬ抜刀を繰り出した。
    「……最速で……斬り裂く……」
    「っ!」
     六六六人衆は思わずバランスを崩す。
     好機を逃さず、暁と銀二は追撃をかけた。
    「参るでござる」
    「ハナ君の花はもう充分です」
     暁の妖冷弾と鋼鉄拳が敵をとらえ。銀二の斬影刃が、影の先端を鋭い刃に変えて敵を斬り刻む。ハナの持つ花々が、赤く染まった。
    「殴り飛ばしますわ」
     ベリザリオがグラインドファイアと縛霊撃で、バッドステータスを敵へと重ねる。鬼神変で異形化した腕を振り抜き、膂力を発揮した拳がエンチャントごと打ち砕く。
    「……私の、お花をよくも」
    「式部、正念場だよ」
     六六六人衆は、傷を負いながら猛攻を仕掛けてくる。めろはイエローサインと集気法で味方をカバー。いつも通り感情の起伏が少ない様子で、パラライズ以外にも、炎と足止めも使って敵を追い詰めた。
    「私は……私はまだ……あの人が……あの人が寂しくないように」
    「教えてやるぜお嬢ちゃん。それ、余計なお世話、ってんだよ」
     敵の刃をかいくぐり。
     相手が勢い余ったところへ、歩はグラインドファイアで足を払って転ばせる。ハナは地面へと大きく倒れた。
    「地獄で待ってろ、すぐに他のダークネスもたくさん送ってやるよ。ほら、寂しくないだろう?」
    「私は……」 
     灼滅者の炎の足が、満身創痍の六六六人衆を踏み抜く。
     ダークネスの身体全体が炎に包まれ、抱えていた花々も宙へと散りながらその身を焦がしてやがては灰となる。
    「――ああ、ごめんなさい。貴方の元へと、逝くのは私一人になりそうね」
     決して大きくはない声。
     けれども何故か耳に残る呟きだった。
    「――どうか、それでも寂しいことがありませんように」
     最期の言葉と共に、六六六人衆の身体は光となって消滅する。それは花弁が弾けたような光景でもあったが、すぐに煙のように跡形もなくなってしまった。
    「葬式、誰かの死に執着するダークネス……俺も一歩違ったら……」
     相手の最期を最も近くで看取った歩は、誰にともなく息を吐く。暁は式場を振り返って、騒動の謝罪と魂の安寧を祈った。
    「どうか、安らかにでござる」
    「……アリスたちや……ダークネスに……花は……必要ない……の……」
     灼滅した相手が昇っていた空を見つめて、アリスは頭を振る。
     そうかもしれない。
     でも、それでも――
     歩は回収した花を一輪、供える。ハナが灼けて滅した場所へと。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月31日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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