鬼神楽

    作者:atis


     太鼓、手打鉦(てひらがね)、横笛の音。
     神楽囃子が、山中に賑やかに響き渡る。
     かがり火に浮き上がる古い神社の舞殿での、奉納神楽の夜。
     きらびやかな衣装をまとった姫が舞う。
     音が変わって、その姫役と入れ替わりに出てくるのはザンバラ髪の鬼の面。
     金糸銀糸の煌めく衣装にザンバラ髪を振り乱し、斧を持って舞う鬼面。
     その時、観客席で妙な悲鳴が上がったが、舞台の囃子でかき消される。
     太鼓の音が大きくなって、小さくなって、終わりの一音。
     舞殿の鬼役は両手両足を大きく広げ、『決め』をしたあと、鬼面を取る。 
     かがり火に浮かんだその素顔に、黒曜石の角が鬼面と同じくにょきりと生える。
     気がつくと客席はガラの悪い男達の手で、血の海と化していた。

    「『奉納神楽』の鬼面が人間ではなく、本当の鬼だったんです」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は「羅刹の行動を予知したんです」とぺんぎんファイルを開いた。
    「その鬼……羅刹は、配下の男性10人くらいと、その夜そこを襲いに行くんです」
     なんてことでしょう、と呟きながら姫子は灼滅者達に赤丸を付けた地図を渡す。
    「羅刹はがっしりとした体格の巨漢です。力を与えられた配下は2人。あと、サイキックを使えない怖そうな男性が7、8人です」
     羅刹は神薙使いのサイキックと龍砕斧を、配下2人は妖の槍を使う。
     サイキックの使えない男達は単なる一般人で弱いが、邪魔かもしれない。

    「羅刹達は神社のすぐ隣山の見晴らし台で酒盛り中に神楽囃子の音に気づき、襲いに行こうと思い立つんです」
     見晴らし台から見える、かがり火に照らされた勇壮にして華麗な神楽を、自分も舞ってみたくなったからだという。
    「ただ羅刹は、本当の鬼役の人を血染めにしてその衣装と面を剥ぎ取り、舞殿に上がるんです」
     絶対に阻止です、と姫子は小さく呟く。
    「おまけに配下達には、客席で好きに暴れても良いという指示を出すので……」
     これ以上は言葉にできません、と姫子はうつむく。
    「皆さんには、かがり火がつく頃に羅刹達が酒盛りをする予定の見晴らし台に居て頂きたいんです」
     そうすれば、羅刹は灼滅者達に「場所を譲れ」と迫ってくる。
    「神事である神楽を、羅刹達に穢される前に、灼滅をお願いいたします」
     姫子は珍しく強く言いきると、灼滅者達に丁寧にお辞儀をした。


    参加者
    日辻・柚莉(ひだまり羊・d00564)
    穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    鳴海・ミチル(紅い風の巫女・d02981)
    盾神・一真(せつなさよりも遠くへ・d04440)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    遠江見・七織(琥珀色浪漫・d06905)
    天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)

    ■リプレイ

    ●見晴らし台
     四方の山々が、燃える様な夕焼けに包まれる。
     眼下の神社では、奉納神楽の準備が粛々と進んでいた。
    「綺麗やなぁ、とらまる?」
     山の中腹にある見晴らし台からの景色に感嘆し、鳴海・ミチル(紅い風の巫女・d02981)は傍らに座る甲斐犬型の霊犬とらまるの頭をなでる。
    「舞殿、よく見える、ね」
     やっと聞き取れるくらいの小さな声で、日辻・柚莉(ひだまり羊・d00564)が客席の埋まった神楽殿を見下ろす。
     横の木陰からの足音に気づいて、ミチルと柚莉が顔を上げた。
    「……問題ない」
     一房異色の金髪を揺らし、木陰から仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)が現れる。
     用心深い性質ゆえ、羅刹達との戦場となる見晴らし台の地形などを把握しておきたかった。
    「えとえと、メイテノーゼ様。光源も必要なさそうでございます」
     天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)の、のんびり、ほんわりとした声が響く。
     優希那の極端に白い肌と白い髪が、それだけで光を放っているようにも見える。
    「そろそろか……」
     神楽殿を囲む様に、かがり火がつき始めた。
     薄紫の夕闇に、神楽殿が厳かに浮かび上がる。 
    「……粗野にして横暴な鬼は退治しないとな」
     逆霧・夜兎(深闇・d02876)が唇の端に笑みを浮かべる。
    「大切なはずの神事を、台無しになんてさせない。何としても、止めなきゃだね」
     隣から、穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)の声。
     そして紗月は、鞄からなにやら取り出した。
    「あ、お菓子だけど皆も食べる?」
     お腹が減っては戦は出来ぬ、と甘党でマイペースな紗月。
    「あのあの、紗月様。私も頂いてよろしいでしょうか」
     甘い物は、食べるのも作るのも大好きと、引っ込み思案な優希那が目を輝かせてそっと手を出した。

    ●鬼面
     空はすっかり紫紺色に包まれていた。
     ゆるりと昇った月に、群雲(むらくも)が掛かる。
     風に乗って聞こえ始めた。
     ーー太鼓、手打鉦、横笛の音。
     古い神社の神楽殿に、金糸銀糸の神楽衣装がひるがえる。
     かがり火に、浮かび上がるは奉納神楽。
     神人一体の宴が始まる。
     思わず見入る灼滅者達。
    「思うたより、近いんやなぁ」
     これでは羅刹が「神楽を舞ってみたい」と思うのも無理はない。
     だけど。
    「あんなに素敵な舞、壊させたりしない、よ!」
     柚莉が、小さな声で決意した時だった。
     灼滅者達のいる見晴らし台に向かって、がやがやと野太い男達の声が近づいてくる。
     ひょうたんの酒入れを肩や腰にひっかけて、見晴らし台に現れたのは羅刹様ご一行。
     見るからにガラの悪そうな、コワモテの男達が10人ばかり。
     龍砕斧をかつぎ、一際がっしりとした巨漢が羅刹だろう。
     その頭には黒曜石の角がにょきりと生える。
     神楽鬼面などしなくとも、そのままで十二分に鬼面がつとまる。
    「羅刹さん……こ、怖くないのですよっ」
     優希那がぷるぷる震え始めた。
    「だ、だだだ、大丈夫っ。今回の羅刹さんは私の家族を奪った羅刹さんとは無関係の筈なので……へ、平気なのですよっ」
     優希那が怯えるのも無理はない。
    「槍を持った2人が、配下ですね」
     羅刹から力を与えられているだけある。
     すでに風貌が赤鬼、青鬼だ。
     あとの7、8人は、恐そうだが単なる一般人。
     遠江見・七織(琥珀色浪漫・d06905)が羅刹達の反応を見つつタイミングを図る。
     ひょうたんの酒入れを振り回しながら、男達が近づいてくる。
    「やいやい! あやしき者ども!」
     怖そうな男達が、さらに脅すような形相を作って灼滅者達に凄みかける。
     優希那は今にも泣きだしそうだ。
    「おや、貴方がたも見学ですか?」
     クールに対応するのは七織。
    「そこな場所、譲れい!」
    「だが断る!」
     即答したのは、盾神・一真(せつなさよりも遠くへ・d04440)。
    「退けと言われましても……」
     困った様な顔をする七織。
     羅刹への嫌悪感は胸に秘める。
     己の怒りを相手に叩きつければ、それは彼らと同じとなってしまうと思うから。   
     羅刹達は灼滅者達へと、一段と声を荒げる。
     七織の胸ぐらを掴む羅刹達。
     女の子達には、からかうように怖い顔を作って脅しては笑う。
    「琥珀、ゆずと一緒に頑張ろう!」
     柚莉がピンクの髪を揺らし、驚き怯える振りをしつつ封印解除。
     柚莉のナノナノがふわっと現れるや、夜兎、七織のナノナノも現れる。
    (「ナノナノ……かわいい、な」)
     おもわず釘付けになるメイテノーゼ。
     突如、吹き渡る魂鎮めの風。
    「紅い風の巫女、いざ参る!」
     霊犬とらまるを従えたミチルだ。
    「お願い、おやすみして……!」
     柚莉、優希那も一生懸命に風を呼び起こす。
    (「ゆず、悪い人でも一般人さんに大怪我させるのは嫌なの」)
     羅刹の取り巻きとはいえ、ただの一般人。
     なんだなんだ? と不思議な風に驚きながらも1人、2人と夢の世界へと誘われる。
     ついにコワモテな男達は、全員その場で眠りについた。

     残るは灼滅者達と、羅刹と槍の2人だけ。

    ●禊
     風がやみ、見晴らし台に静寂が訪れる。
     太鼓や手打鉦の音が、華やかに聞こえる。
    「神楽囃子を聞きながら鬼退治とか……なかなか風情があるかもな」
     ふ、と夜兎が神楽殿へと目を流す。
     そして、羅刹達へと向き直った。
    「それじゃ、鬼退治を始めようか……」
     羅刹へと挑発的に微笑む。
     羅刹が受けて立とう、と豪放に笑う。
    「あな可笑しやな、面白やな!」
    「いざ、たちあえい!」
     赤鬼、青鬼も槍を構えた。
     ジャリ、と土音。
     刹那、羅刹より豪風が巻き起こる。
     最後方の柚莉へと、羅刹の風刃が激しく襲いかかる。 
     すっ、と前に出る夜兎。
     柚莉を守るように、風の刃をその身で受ける。
    「……お前の相手は、オレだろう?」
     戦闘のスリルを楽しむように、くすりと笑う。
     その夜兎共々、前衛達へと槍を回転させながら突撃してくる赤鬼。
     優希那、メイテノーゼ、一真、夜兎、紗月が軽くふっ飛ばされる。
     そこへ最後方の七織へと、青鬼から冷気のつららが撃ちこまれる。
     優希那が、あばばっとしつつ尻餅を払って立上がる。
     攻撃は苦手だけど、今は頑張る。
    「ま、参りますっ」
     自分へ突撃して来た赤鬼へと照準を合わせるや、魔法の矢を放つ。
     羅刹が再び風を纏い始める。
    「おっと、大人しくしてて貰おうか」
     夜兎の指が細やかに動き、その鋼糸が羅刹に巻き付く。
     束縛は嫌いだが、縛るのは好きかもな、と微笑む夜兎。
     童顔女顔のメイテノーゼが、華奢な手に解体ナイフを構える。
     構えた解体ナイフに、蓄積された犠牲者達の呪いが浮かび上がる。
     その呪いは毒の風となり、赤鬼青鬼を竜巻の如く襲う。
     竜巻に弄ばれる赤鬼青鬼の隙間から、一真は羅刹を見据える。
    (「みんなが配下を倒すまでの時間を稼がなくっちゃな。……ともかくオレは羅刹と戦うぜ!」)
     一真が日本刀を上段から振りかぶる。
    「女の子には優しく、男には鬼のように厳しく!!」
     それがオレのポリシーだ! と叫びつつ、羅刹へと重い斬撃を叩き込む。
     斬撃を喰らい、肩を抑える羅刹。
     月草色の髪を揺らし、護符揃えを扇状に開く紗月。
     小学女子冬服をふんわりとドレスの様に持ち上げて微笑む。
    「……ねぇ、鬼さん。今宵はボク達と踊ろうよ?」
     内心のドキドキは笑顔に隠し、心を惑わせる護符を羅刹へと放つ。
     重ねる様に、柚莉からも催眠を誘う護符が放たれる。
    「あんなに素敵な舞を邪魔するなんて、めっ、だよ!」
     ね、琥珀。
     ふわふわ浮かぶ、自分のナノナノと目を合わせる。
     そうだよ、と言うが如く琥珀、ミルキーから、赤鬼青鬼へとたつまきが襲う。
     夜兎のナノナノは自分の主をふわふわハートで包み込む。
    (「ナノナノ……かわいい、な」)
     ついチラチラと見てしまうメイテノーゼ。
    「大切な神事を汚すやなんて、巫女のはしくれとして絶対ゆるせへん」
     なぁ、とらまる?
     霊犬とらまるが斬魔刀を赤鬼へと叩き込む。
     追い打ちをかけるように、ミチルの矢が突き刺さる。
     赤鬼、青鬼が前衛へと槍で襲いかかろうとした、瞬間。
     大震撃に足が止まる。
     大地に叩き付けられた、七織のロケットハンマー。
     七織は羅刹の行動原理を、純粋に否定する。
    「かくなる上は、是非もなし!」
    「よいやさぁ!」
    「ほいさぁ!」
     かけ声も威勢良く、羅刹が龍の翼の如き高速で突入してくる。
     羅刹は龍砕斧をブンブン振り回し、前衛達を次々と薙ぎ払う。
     畳み掛けるように青鬼が、槍を回転させ前衛達を蹴散らしていく。
     その隙を縫うように、赤鬼も旋風輪をミチルとナノナノ・琥珀に浴びせかける。
     メイテノーゼが赤鬼に向い、解体ナイフの刃をジグザグに変形させる。
    (「服が、少し破れた」)
     肌の露出を極端に嫌うメイテノーゼ。
     赤鬼の隙を突き、その咽周辺を回復しづらい形状へと斬り刻む。
     赤鬼は声一つ立てられず、血飛沫と共に、のけぞって倒れた。
     
    ●祓
     一真の日本刀が、羅刹の死角から放たれる。
     夜兎に結界糸を張られた羅刹。
     一真の斬撃は羅刹の急所を捉え、その勢いのまま剣閃くるり一回転。
    「この世に斬れぬ物無し! 盾神流斬魔剣!」
     怒号と共に上段から、武器ごと羅刹を叩き斬らん、と重い斬撃を見舞う。 
     うなり声を上げ、爛々と光る目で一真を睨みつける羅刹。
    「羅刹もまだ人の心が残っているのなら、なんて思うけど……期待は、出来ないかな」
     紗月が翠玉色の瞳を伏せる。
     そして夜空に向かって吠える羅刹へと、魔法の矢を放った。
    (「戦いは怖いけど、ゆずは負けない、よっ」)
     青鬼へ、柚莉の神薙刃が襲いかかる。
     風刃に重ねるようにナノナノ達から、たつまきが放たれる。
     とらまる達が回復を担う。
    (「クリオネの食事風景……!」)
     メイテノーゼが唐突に何かを思い出し1人怯える。
    「必ず、悪事は未然に防いだる」
     ミチルと七織の天星弓から、青鬼へ。
     煌めく百億の星が、夜空から降り注ぐ。
    「こしゃくな奴らめ! 生きて帰れると、思うなよ」
     羅刹の片腕が異形巨大化する。
     優希那へと、凄まじい膂力と共に殴りつけた。
     ……が。
     羅刹にえぐられんばかりに殴られ、手ひどく地面に叩き付けられたのは一真。
    「……オレは、女の子を守る『盾』になるぜ!」
     盾神、の名前の通り!
     全身打撲で頭から血を流しながらも、一真はどこか嬉しそうだ。
    「オレの時も『盾』になれよ?」
     夜兎がからかうように言葉を紡ぐ。
    「男は知らん! てめーで何とかしろ! だぜ、逆霧先輩」
     だろうな、と笑う夜兎。
     その2人の横で、紗月へと青鬼の激しい螺穿槍が繰り出された。
    「……!!」
     思わず身を踊らせて、紗月を庇い守る夜兎。
     その身に槍が突き刺さる。
    「誰一人犠牲者は出しませんですっ」
     バベルの鎖を瞳に集中させた優希那。
     夜兎へ槍を打ち込んだ青鬼へと、マジックミサイルを放つ。
     魔法の矢が、青鬼を綺麗に貫いた。
     青鬼はぎょろりと優希那を睨んだ後、口から吐血しその場に伏した。

     残るは、羅刹ただ1人。
     神楽太鼓が、耳につく。
     わなわなと、怒りで全身を震わせる羅刹。
     炎を吹かんばかりの形相だ。
     闇にカッと見開いた目が、地獄の絵図を思い出させる。
    「……この上は、我のこの手で汝等の息の根を止めてくれるわ!!」
    「……これ以上、血生臭い息を吐くな。汚らしい」
     白刃、2閃。
     メイテノーゼと一真が、死角から羅刹の急所を斬り裂いていく。
    「これで、終わりだ」
     夜兎が鋼糸を高速で操る。
     斬弦糸が、羅刹を斬り刻む。
     紗月が導眠符で畳みかける。
    「皆の事はゆずが守る、の」 
     柚莉の防護符が一真へ飛ぶ。
     ナノナノ達のふわふわハートが一真を包み込む。
     ミチルの片腕が異形巨大化する。
    「悪事をするヤツは絶対ゆるせへん。手加減はせえへんよ」
     羅刹へと鬼神変を叩き込む。
     羅刹を斬り抜ける、霊犬とらまるの斬魔刀。
    (「お神楽の音が聴こえる。楽しげな人達の、楽しげな息遣いがある。……彼らの笑顔を、守りたい」)
     七織のナノナノ・ミルキーがたつまきを起こす。
    (「それがエゴだと言うなら、それでいい。僕は僕の守りたい者の為に灼滅する」)
     七織が、己が身にカミの力を降ろしていく。
    「……それが僕のあり方だから」
     七織から激しく渦巻く風の刃が、羅刹へと疾音と共に襲いかかる。
     神薙刃に斬り刻まれ、体中から血飛沫を撒き散らす羅刹。
    「……我の力が、ままならぬとは!」
     斧を地につき、夜天をあおぐ。
     もう一度、灼滅者達をぎょろりと睨む。
    「あな口惜しやな、無念やな……!」 
     ドウ、と地響きを立てて、羅刹は巨体を大地に沈めた。

    ●神迎え
    「……前が見えない」
     メイテノーゼが、血飛沫で真っ赤に染まった眼鏡を拭く。
     汚いの嫌だし、と返り血も拭い始めた。
    「でも、毎日エイリアン状態を見るのはやだな」
     唐突に呟く、メイテノーゼ。
    「とらまる、無事やね~っ」
     ミチルが愛霊犬とらまるに急いで駆け寄る。
     実のところ自分の身の安全より、とらまるのことが気になっていた。
     あたりの片付けをしていた柚莉が、ナノナノ・琥珀と皆の所に戻って来た。
     ナノナノ達が愛らしく集い、闇に白い身体をふわふわさせる。
     優希那と紗月が倒れた羅刹達の前にたたずむ。
     羅刹と配下2人は、不思議な炎に包まれて、跡形も無く灼滅される。
    「ごめんなさい、どうか安らかにお眠り下さい……」
     静かに、羅刹達の冥福を祈る。
    「残った一般人さん達……どうしよう?」
     ……反省の意味も込めてこのままで良いのかな、と紗月。
     見晴らし台にゴロゴロと転がるコワモテの男達。
     あれほど激しい戦闘だったのに。
     男達は目を覚ます気配など微塵も見せず、すやすやと深い眠りについている。
     さすが、皆で魂鎮めの風を吹かせた甲斐があった。
    「ゆっくり夜風に当たっていれば、頭も冷えるよね?」
     優希那とうなずき合う紗月。
    「……舞、終わっちゃってるかな?」
     柚莉が小さな声でぽそり、と呟く。
     かがり火に浮かぶ、神楽殿。
    (「……まだ、やってる」)
     柚莉がほわっと微笑む。
     神楽殿で、きらびやかな衣装を纏った姫が舞う。
    「なー、やっぱ姫役の女の子って可愛いのかな?」
     一真の浮かれた声が静寂を破る。
    「いや、可愛いに決まってる! そうに違いない! オレ、奉納神楽を見物してから帰るわ! じゃーなっ」
    「あっ、うちも行くでぇ! 神楽、すごく神秘的で勇壮そうやもん!」
     とらまる、ほな、はよ!
     ミチルも漆黒のポニーテールをひるがえし、既に神楽殿へと山を駆け下り始めた一真を追う。
     
     太鼓、手打鉦、横笛の音。
     大自然や神々に、感謝を捧げる奉納神楽。

    「こういう夜も……いいかもしれないな」
     夜兎が神楽囃子にそっと耳を傾ける。
     神楽舞を、うっとりと見つめる柚莉。
    「綺麗に舞えたら、ゆずも素敵になれるかな」

     きっと、朝まで。
     五穀豊穣、子孫繁栄、天下泰平。

    作者:atis 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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