●子供を守って鎌鼬をひたっすら駆逐し続ける依頼
「皆、良く集まってくれた! 現在とある廃遊園地にて子供達がはぐれ眷属に狙われている。至急現場に向かい、子供達を守ってくれ!」
千葉の南東辺りにあるというやったら古い遊園地跡。元々山ん中にあった上あんまりにも古いので大自然溢れる廃墟として廃墟マニアに人気が出たりする場所である。
「どうやらそこに子供達が入り込んでしまったらしい。探検のつもりらしいが、眷属に見つかって今は身を隠してるらしいが……」
子供達はコーヒーカップ的なものに身をぎゅっと隠して潜んでいるようなのだが、予知によれば割とすぱっと見つかり、眷属の群に一斉に襲われてしまうという。
「ここに住み着いてるのは鎌鼬だ。名前の通りと言ってはナンだが、鎌のついたイタチ型眷属だな。人間の子供程度の大きさがある。自然も言う程茂ってないからか彼等も弱い雑魚ばかりなんだが……数はなんと24匹。一匹見つけたら二十四匹というくらいにやけに連帯感をもってうろついているらしい」
こんなのに見つかったら子供達などひとたまりもない。
しかも、割り込めるタイミングは鎌鼬が子供達に襲い掛かるギリギリの所という予測が立っている。
形としては、子供達から見て北側と南側からのサンドイッチ襲撃だ。
「強引に割り込み二手に分かれて猛烈に撃退、と言う流れになるな。ということはファーストインパクトもそれなりに大事ということになってくるぞ。それに相手もちょっと緩急つけたり疲れさせたりという小技も利かせてくるはずだから、持久戦を意識したり面制圧を意識するのも大事になってくるだろう。その辺にもちょっと気を使ってみてくれ」
手書き地図にきゅきゅっと印をつけると、ヤマトは皆にそれを渡した。
「子供達の明日を救えるのは俺達だけだ。よろしく頼んだぜ」
●一方、子供達は。
オーソドックスな遊園地によくあるコーヒーカップ。これが隠れ蓑になる日がこようとはついぞ思わなかった。
私は弟と妹に小さくなっているように言い聞かせ、カップの隙間から周囲を覗いている。
この廃墟を探検中、うっかり遭遇してしまった化物。
それも一匹だけではない、沢山の化物がここには巣食っていた。
必死に逃げ惑い、なんとかこの隠れ場所を見つけたが、いつ知られてしまうか分かったものではない。
助けは来るだろうか。
そもそも、助けがきた所であの化物の群をどうにかできる人などいるのだろうか。
恐怖と不安にさいなまれつつも、私はじっと身をひそめる。
手の震えは止まらない。
この震えが止まるのは……もしかしたら、私が死ぬときかもしれない。
参加者 | |
---|---|
両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319) |
如月・縁樹(花笑み・d00354) |
クリストフ・ズィールベン(偽典・d00855) |
篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970) |
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632) |
オリヒメ・ブルースター(宵藍の星使い・d04534) |
鷲宮・ひより(ひよこ好きな・d06624) |
聖江・利亜(未来卵・d06760) |
●スターティング鎌鼬タイム
一部で有名な廃遊園地。その一角には今や動かぬコーヒーカップがある。
土台の機材ごと撤去されたのか、カップ型の乗りものだけが土の上に廃棄されていた。
だが今は、これが最後の頼りである。
誰の?
「あのおばけ、こっちに気付いた……」
遊園地に迷い込んだ子供たち。
彼らは身を寄せ合い、できるだけ見つからないようにしていたが、それも今で終わりだ。
凶悪な顔をした眷属『鎌鼬』。腕の先についた鎌をぎらつかせ天へと甲高い声をあげた。
何処からともなく大量の鎌鼬が出現。
子供達をミキサーのように細切れにするべく一斉に襲い掛かった!
まさに。
その時の事である!
「鏖殺――」
「領ッ域ッ!!」
カップを挟むように一陣の影が奔った。いや影ではない。物理知的殺傷力を持った殺意の固まりである!
出鼻をくじかれ本能的に飛び退く鎌鼬の先行隊。
目を見開く子供達の前に、赤いコートが靡いた。
「待たせたね。君達」
何処からともなく現れた刀の柄を掴み、どこからともなく抜刀する。
名を篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)。
「助けに来た」
「足止めなら任せとけ、行くぞお藤!」
凛とは反対側に回り込み、お藤(霊犬)と共にガンナイフで射撃を始める両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)。
「まずはそこを退いてもらおうか、有象無象ども!」
対して凛は炎を纏った刀を翳し鎌鼬の群へと飛び込んで行く。
だがこうも思わないだろうか。化物の群に対して立った二人だけか?
大丈夫だ。心配はいらない。
何処からともなく現れた影の塊が、翼の様に大きく広がる。
根性を出して凛たちを抜けてきた鎌鼬を触手状の影でからめとると、『彼』は背中越しにピースサインをした。
「じゃじゃーん、僕たち登場!」
アイン(ビハインド)とクリストフ・ズィールベン(偽典・d00855)が背中合わせに振り向く。
アインがレイピア型の武器を鎌鼬に突き立てて撃破。
そのタイミングを見計らってか無数のビームが鎌鼬の群へ打ち込まれた。
「スーパー鎌鼬タイム。ふんふん、ほなこっちはジャスティスヒーロータイムや。処刑用BGMかけたろかぁ? クヒヒヒヒッ!」
カップの傍まで近寄り、バスターライフルのデバイスをカタカタと操作する銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)。
長くて細い指がどこか蟲じみていて、子供達は若干怯えた。
眼鏡をくいっとやりながら振り向く右九兵衛。
「安心せーてー、バケモン一匹たりとも近づかせんから、任せときー」
などと言っていると、鎌鼬の一匹がビームの群をジグザグ走行で駆け抜けてくる。
「おわ、何か来よった! 早ッ!?」
右九兵衛のすぐそばまで駆け寄る鎌鼬。
しかしその首が真上から放たれた手裏剣に縫いつけられる。
「誰彼、宵闇、無月、啼き音響く――」
花葉が散り、長い髪がふわりと靡く。
「大禍時流れる――星帳を望む」
真上から飛来して着地。聖江・利亜(未来卵・d06760)は立ち上がり、乱れ髪を手の甲で払った。
「安全のため乗車中は立ち上がったり顔や手を出さないようにお願いします。良い子とお姉さんたちとの約束ですよ?」
利亜はちらりと子供達へ見返ると、腕を指先まで広げて鎌鼬の群へと飛び込んだ。
対抗して飛び掛る鎌鼬だったが、彼等に利亜は止められない。彼女は舞うような回転で次々と鎌鼬を打ち据えていった。
そのように次々と仲間が駆けつけたのは、なにも片側だけの話ではない。
彼等とは逆方向、北側鏖殺領域で鎌鼬を牽制し続ける式夜の所にも続々と仲間が駆けつけた。
例えばこの鎌鼬。
宙で盛大に振り回され頭から地面に叩きつけられる。
「もう大丈夫。子供達に手出しはさせないからね!」
鷲宮・ひより(ひよこ好きな・d06624)は昏倒した鎌鼬の足から手を離すと、別の鎌鼬の首根っこを鷲掴み。小柄な身長からは想像もできないような華麗なフォームで鎌鼬をぶん投げた。
「それ以上進むのは、私達が許さないよ!」
「そういうこと。数が多いから纏めていくよ!」
ひよりと並ぶようにして、オリヒメ・ブルースター(宵藍の星使い・d04534)が弓に光の十字架を番える。
「降り注げ、清らかなる星々!」
満を辞して射出。
放物線を描いた光が着弾。激しい光を展開し鎌鼬の群を焼いていく。
振り向いて笑うオリヒメ。
「必ず助けるから、そこを絶対動かないでね」
「と、いうわけで!」
手を頭上に掲げ、如月・縁樹(花笑み・d00354)がカードを投げる。
「さぁ、縁樹といっしょにあーそびーましょ!」
唐突に顕現したロッドを手に握ると、まずはぐるんと回転。
「うじゃうじゃ鬱陶しいのです、多すぎると可愛くないのですよ!」
巻き起こった竜巻が鎌鼬を蹴散らしていく。
それだけではない。
「皆纏めて凍るといいのです!」
回したロッドの先をこつんと地面に突き立てる。
すると急速に冷え切った大気によって鎌鼬の群が凍りつく。
「もう少しで終わりますから、そこに隠れててくださいね!」
「う、うん……」
歯を見せて笑う縁樹に、子供達は俯きながら頭をひっこめた。
●
光があった。
そう思えた。
「昔の調べを今に返し、歌えや友らよ、声も高く――」
利亜が声を上げるたび、大気が震えるたび、痛みや苦しみが晴れてゆく。
ただ歌うだけで傷がいえることがあるなどと、信じられるだろうか?
彼女は言う。
否、彼女は歌う。
「『エンジェリックボイス』」
煌めく大気の中で、縁樹は天にロッドを翳す。
「雑魚の勢いも落ちてきましたよ。きっともうすぐです!」
飛び掛ってくる鎌鼬にマジックミサイルを乱射。
魔矢に射抜かれた鎌鼬が次々と朽ちる中、縁樹はロッドを大きく振った。
「縁樹の雷は痛いですよ。いっけー!」
突如として発生した雷が鎌鼬に炸裂。
悲鳴をあげる間もなく力尽き、灼滅を始めた。
そして。
灼滅する鎌鼬を踏みつけながら、一回り大きな鎌鼬が姿を現す。
「おっとー、やっとボス様のおでましか」
「まだ勝つつもり? それとも怯えてにげちゃう?」
カップを囲んでいた灼滅者たちは陣形を整え直し、一人の獣を狩る態勢へと移り変わった。
「足止めは俺の得意分野ッ!」
霊犬の六文銭射撃と併せて援護射撃を仕掛ける式夜。
二枚刃の鎌を翳しいざ飛び掛らんとしたボス鎌鼬は反射的にバックステップ。その僅かな隙が、クリストフには大きなチャンスとなった。
「アイン!」
「――!」
影の刃を出現させるクリストフ。彼はアインと共にそれぞれ左右から急接近すると、ボス鎌鼬にX字の斬撃を叩き込んだ。
振り切り体勢でビシッとキメるクリストフ。
「ナーイスコンボ、じゃんじゃんいくでー!」
デバイスを操作しながらバスターライフルの照準を合わせる右九兵衛。
だがボス鎌鼬とていつまでもやられるわけにはいかない。風の如く駆け出すと、カップの周りをぐるぐると高速で走り始めた。
式夜がオーラキヤノンを流し打ちするも樹幹や土を抉るのみ。
「うお、速いなこいつ!」
「命中確率、ちゅーちゅーたこかいなっ、と……ほいでた」
トンッとエンターキーを叩く右九兵衛。その途端バスタービームが弧を描いて発射され、ボス鎌鼬の脇腹に思い切り命中した。
「ウッヒャッヒャ、かっこえーやろー!」
「頭下げて、頭!」
眼鏡をくいっくいしながら笑う右九兵衛の後ろで魔矢を弓に番えるオリヒメ。
「フィナーレだよ、そろそろ終わらせるからね――ハッピーエンドで!」
慌てて屈んだ右九兵衛の頭上を彼女のマジックミサイルが高速で飛び、ボス鎌鼬の首に突き刺さる。
甲高い悲鳴があがり、血が吹き上がった。
目を血走らせてとびかかってくるボス鎌鼬。
だが彼の二枚刃が届くことは無かった。凛が颯爽と割り込んだからである。
彼女の刀が鎌を受け止める。だが湾曲した先端が両肩を回り込み、肩を大きく切り裂いた。
「我が名はリン。篁凛! 闇を払い魔を滅ぼす一振りの剣なり!」
だが凛は引き下がらない。
「煉獄の刃を、その身に受けるがいい!」
一度ボス鎌鼬を蹴り飛ばすと、炎を纏わせた刀で大胆に切りつける。
炎をあげ首をふり乱すボス鎌鼬。
「ここが決め手だね。いっくよー!」
凛の背後から大きく跳躍するひより。彼女の背からは炎の翼がジェットの如く伸び、まさにミサイルさながらの勢いでボス鎌鼬へ突撃した。
頭を掴んでモロに地面へ叩きつける。
派手な衝撃に土砂が激しく噴き上がり、そしてボス鎌鼬は。
「グ、グギ……」
目をぐるりと回し、灼滅したのだった。
●
人が生きている。
それはとても尊い事なのだろうと思う。
だがそれ以上に、助けた誰かが生きているというのは、式夜の目頭にグッとこさせるものがあった。
頭をわしわしとかくと、子供達の隠れているカップへと振り返る。
「終わったぞ、出てきな」
カップの淵からそっと頭を出す子供達に、式夜はにっかりと笑った。
「よく頑張ったね、みんな!」
利亜が飛びついていき、子供達の頭をいとおしそうに撫でまくった。
「後でちゃんと家まで送ってあげるからね」
同じく頭をぽんぽんと叩くように撫でるひより。
子供達は家に帰ってこのことを話すだろうか。例え話したとしても、大きく伝播することはないだろう。
人々の間で架空の話としてひっそりと流れてゆくに違いない。
だが、残るものはある。
「おねえちゃん、その」
子供の一人が顔を上げた。
暫くまごまごと口を動かして、子供は言うべきことを、素直に言った。
「ありがとう」
それから彼らは遊園地の外、それも人のいる場所まで子供達を送り届けることにした。
「怖くなかった?」
優しげに問いかけるクリストフに、子供達は首をかしげる。
まだ世界を知らない年頃だ。眷属そのものへの恐怖というより、殺気立った群への恐怖が勝っていたのだろう。手負いのクマに襲われたようなものだ。
「まあでも、子供を助ける為に戦うってトコ、ヒーローぽいやないの。クカカカカ!」
眼鏡をギラギラさせながら高笑いする右九兵衛。子供が若干ヒいた。
フォロー気味に顔を出す縁樹。
「ちかいうち、お父さんやお母さんに遊園地に連れて行ってもらうといいのです。ここよりずっと楽しいですよ!」
「うんっ」
ここまでくれば安全だ。
そういう場所へやってきて、彼等は子供たちとお別れする。
「それじゃあね」
手を振るオリヒメに、子供達は手を振りながら離れていった。
歩いていく子供達の背。
小さくとも、彼らがちゃんと守ったものが、日常へと帰って行く。
凛は何処からともなく薔薇の花を取り出すと、天へと放った。
「君達の終わりに、花を」
ある時、ある場所で、子供達は不思議な体験をした。
見たこともない凶暴な動物に追われ、逃げ隠れた。
そこへ何処からともなくかけつけた少年少女の名を、彼等は知らない。
知る必要はない。
ただこう呼べばよいのだ。
ヒーロー。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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