プレスター・ジョンの国防衛戦~嶺に燃える

    作者:佐伯都

     黒く煤けた杖を、それを握る手ごと踏みつけるごつい靴底。やがて骨と杖が砕ける音がして、体中にピアスを飾った男がけたたましい笑い声をあげた。
     足の下から光の粒と炎が千切れるように舞いあがり、深い山の中へ消えていく。
    「アーアーア―手間取っちまったなァ、アー!」
    「いちいちうるさいよアンタ」
     男を後ろから小突くように押しのけ、高校生ほどに見える男装の少女が周囲を見回した。
     幼女の姿のイフリートの他にもう敵はいない。目指すべき場所は折り重なる峰のはるか向こう、プレスター・ジョンが居座る城。
    「邪魔者は片付けた。さっさと城に向かうぞ」
     目深く軍帽をかぶったカーキ色の将校服姿の少女が先を急ぐ。その後ろを、ケタケタと笑いながら上半身裸のピアス男が続いた。さらに仲良さげに手を取り合う老婆と小学生ほどの少年も。
    「ねーばあちゃん、お城っていっぱい殺せるかなあ」
    「さあどうだろうねえ。まあ誰もいなけりゃ別のを殺せばいいんだよ」
     
    ●プレスター・ジョンの国防衛戦~嶺に燃える
     優貴先生が高熱で倒れた事は聞いただろうか、と成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)が話を切り出す。
    「どうも、歓喜のデスギガスが『プレスター・ジョンの国』へ攻め込んだのが原因らしい。目的はプレスター・ジョンを暗殺して残留思念を奪い、ベヘリタスの秘宝で実体化させる事」
     『プレスター・ジョンの国』。ただでさえ大規模作戦で灼滅した有力なダークネスが行き着くことの多い場所だ、もし残留思念が復活しデスギガス勢力に加わればどんな事になるか、簡単に想像がつく。
     かの国に侵攻したのは六六六人衆で、シャドウによってソウルボードに招かれたのだろう。かつ、最近闇堕ちしたばかりの序列外らしいことが判明している。戦闘力は低いものの、そのぶん複数で行動しており油断は禁物だ。
    「目的もプレスター・ジョンの殺害だけど、それを回避しようとする残留思念と戦闘になっている」
     だが残留思念の中にも、彼を護るのではなく侵略者に呼応して共に殺害を目論むものが出ているため、戦況は混沌としているようだ。
    「皆には山岳地帯へ向かってほしい。そこに六六六人衆を撃退するため踏みとどまっているイフリートがいるから、加勢してやってくれないかな」
     しかし実は件のイフリート、プレスター・ジョンの味方なので六六六人衆と敵対した、というわけではない。
    「まあ、おおよそ味方と思っていいけどちょっと方向性が……と言うか、何と言うか」
     城へ向かう途中の六六六人衆がテリトリーを侵した事に気付いて接触した所、そこで彼らの目的が暗殺と知らされたようだ。その気があるなら一緒に、と考えたのかもしれない。
    「ただちょっと六六六人衆に想像力がなかった、っていうね」
     イフリートはそれを『プレスター・ジョンの国』ごと、自分からテリトリーを奪う行為と捉えたようだ。そもそも気が立っているうえあまり複雑な思考を持たないイフリートに、あれこれ共に暗躍しようと持ちかけるよりも先にわかりやすいメリットを提示したほうが効果的、という想像力が六六六人衆にはなかったと言える。
     結果見事に交渉決裂したものの、1対4という数の優勢には勝てず、イフリートは倒されてしまうだろう。今から向かえば、そうなってしまう前に現場へ到着できる。
    「六六六人衆はセイクリッドウィンドとブレイドサイクロン、殺人鬼のものに酷似したサイキックを行使してくる。序列外とは言っても油断はしないように」
     戦闘中ということもあり少女イフリートは相当気が立っているはずだが、そこはやはり複雑な思考をしないイフリート、言葉を重ねるよりも行動で示せばさほど問題は起きないはずだ。
    「……まあ一発二発くらいは覚悟しておいたほうがいいかもしれないけどね」
     この戦いの行方が気になる所だが、二つのシャドウ勢力――デスギガスとコルネリウス、これらに属するシャドウが戦いに加わっていないのは、果たしてどういう意味なのか。
     引き続きシャドウの動向を注視する必要があるだろうね、と説明をしめくくった樹はルーズリーフを閉じた。
    「そう言えば、忘れていたけど」
     最後に、たった今思い出したように付け加える。
    「加勢すべきイフリートは、シロガネだよ」


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    火之迦具・真澄(火群之血・d04303)
    阿剛・桜花(年中無休でブッ飛ばす系お嬢様・d07132)
    華槻・奏一郎(抱翼・d12820)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    浅山・節男(勇猛なる暗黒の正義の使徒・d33217)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)

    ■リプレイ

     ざわざわと樹間を渡る風の音も、もし平常時なら心地良いものとして聞けただろうか。緑濃い山岳地帯を急ぐ火之迦具・真澄(火群之血・d04303)の眉間には、浅く皺が寄っている。
     こんな形で再会する事になるとは思わなかった。侵入者と共に王を誅しようと思わずにいてくれたことは、高熱を発した優貴先生の症状を思えば喜ぶべきことだろうと思う。
    「優貴先生って何かと大変だよね」
     学園のヒロイン枠って感じ? と軽く首をかたむけた陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)に神凪・陽和(天照・d02848)がやや曖昧な笑い方をした。
    「さあ、ヒロイン枠かどうかは定かではありませんが……少なくともシロガネは、死して残留思念と化しているとしても助ける事に変わりありませんし」
    「だいたい、六六六人衆を雇って襲わせるなんて、やる事があくどいんだよ」
     ふんす、と鼻を鳴らしたイフリートの着ぐるみ姿の垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)がひらりと倒木を躍り越える。
     迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)としてもイフリートに積年の怨みはあるが、このたびの六六六人衆のやり口はただ単純に気に入らない。まあ六六六人衆が相手の幸せだの何だのを考慮してくれすはずがないので言ってもどうにもならない事ではあるが、頼んでもいないのに他人の身の回りの世界を破壊していくような輩はイフリートよりも嫌いだ。
     黙々と先を目指す浅山・節男(勇猛なる暗黒の正義の使徒・d33217)の目に、青々とした葉を茂らせた梢よりも高く、紅蓮の炎が噴き上がったのが飛び込んでくる。
    「……接触前に介入できないことはわかっていたものの、面倒ですね。まったく、イフリートは短気でいけない」
    「残留思念とは言っても、このまま倒されるのを見過ごすわけにもいかないしね」
     いかにも面倒そうに言い放った浅山・節男(勇猛なる暗黒の正義の使徒・d33217)に、華槻・奏一郎(抱翼・d12820)が苦笑した。
     次第になにやら常軌を逸した様子の若い男の声や、激しく争う音が聞こえてくる。陽和と共に低い藪を突破し、やや広く開けた様子になっている場所に出た阿剛・桜花(年中無休でブッ飛ばす系お嬢様・d07132)は、その場へ満ちていた熱量に一瞬息を飲んだ。
     こちらへ背を向けるように立ち尽くす小柄な背中。ゆるく波打つ銀色の髪をふわりと広げた白いキャミワンピ姿の周囲へ、ひどく毒々しい色のなにかが凝る。
    「助太刀させて頂きますわ、シロガネさん!」
     桜花の声にシロガネと呼ばれたダークネス、いや正しくはその残留思念体が勢いよく振り返る。
    「なにしにきた、すれいやー!!」
    「この人達をブッ飛ばしたらすぐに退去するので、ご安心を♪」
     うすく煙をくすぶらせている、マテリアルロッドと思わしき杖を構えてシロガネは吼えた。全身のあらゆる箇所にピアスを飾った男が、桜花とシロガネの会話を阻むように飛び込んでくる。
    「アーアーアーなぁに言ってくれちゃってんのかなー! お前等も一緒にぶっ殺されてーのかなー!?」
    「馬鹿者さがれ!!」
     どこかおかしな薬に酔ったような、あやしげな口調の若い男の襟首を、軍服姿の少女が捕まえて引き戻した。
     ふうふうと荒い息を吐いて六六六人衆と灼滅者を交互に睨みつけているシロガネは、改めてよくよく観察してみれば体のあちこちが煤けたり白いワンピースの裾が破れたり手脚から血がにじんだりしている。
    「……灼滅者がなぜここにいる」
     多少は男よりも頭が回るのか、目深く軍帽をかぶった軍服姿の少女が桜花達をざらりと視線で薙いだ。
    「やぁ、大変そうだねシロガネ」
     刺激しないよう気安い声をかけたつもりだったが、シロガネの薄青い瞳がぎらりと鋭くなったので、奏一郎はやれやれと肩をすくめる。
    「俺達もこいつらを倒したいんだ。一緒の方がお前さんも楽だろう、加勢させて貰えないか」
    「まーまー、こっちに協力してくれとは言わないからさ、とりあえずこっちを上手く利用してよ。持ちつ持たれつってやつ」
     油断なく鳳花を睨みつけていたシロガネが怪訝な顔になる。何故灼滅者と共闘することが持ちつ持たれつになるのか理解できなかったのか、あるいはただその単語がわからなかっただけかもしれない。
    「シロガネ、俺達はそこの六六六人衆を倒しに来たんやで」
     炎次郎が直剣を抜き、何かを宣告するように肩の高さへ持ち上げて六六六人衆に切っ先を向ける。
    「お前に手を出すつもりはないから安心せえや。……ほな、覚悟はええな六六六の野郎共」
    「ねーばあちゃん、あのお兄ちゃん何で僕らを倒せる気になってんの? ばかっぽくない?」
    「ははは、そうだねえ、まあ勘違いさせておいで。勘違いしていようがいなかろうが、殺せばいいんだよ」
     孫と祖母の微笑ましい会話……とはいかず真澄は一瞬乾いた笑いを漏らした。まあダークネスなので血縁関係ではなかろうが。
     人畜無害系を名乗るものの、まず毬衣はそれ以前に灼滅者である。
    「うーん……ベヘリタスの秘宝がばら撒かれたから、どこかしらがプレスター・ジョンの国のダークネスを狙ってくるのは無理もないけど……」
     ブラフをかけるように呟いてみるものの、リーダーめいた物言いをする軍服の少女はもちろん六六六人衆からの反応はない。マテリアルロッドを中段へ据えて毬衣は言い放った。
    「シロガネの住処を守るためにも頑張るんだよ!」
    「要するに僕達はあなたを助けにきました、ということです」
     ツンデレ気味なことを呟いた節男を見上げ、シロガネはぱちんと音がしそうな瞬きをする。
     さらに節男が傷だらけのシロガネへラビリンスアーマーで防御をほどこしたのを皮切りに、桜花を除くメンバーが一斉にシロガネの前へ扇状に立ちはだかった。
    「灼滅者。我々は事を荒げるつもりはない」
     意外に落ち着き払った声音で軍服の少女が呼びかけるものの、それを聞き入れるつもりは誰にもない。
    「痛い思いをしたくなければ立ち去れ。今なら見逃そう」
    「やだね」
     ククッと喉の奥で笑う笑い方をして真澄がシロガネの目の前で封印解除した。
    「見せてやるよ、アタシの真っ赤な炎と……白銀の炎の断片と、甘ちゃんの思いを!」
     それが誰のことだったのかはもちろん、真澄が掲げる刀の意味もシロガネにはわからなかっただろう。しかし改めて仕切り直すように陽和がピアス男へ巨大な爪で切りつけると、灼滅者を警戒する姿勢は崩さぬものの最前列へ出てきた。
     再びの交渉決裂を悟った軍服の少女が一瞬目を細めるものの、次の瞬間には鳳花の相棒『猫』の死角へ回り込み斬撃を放ってくる。
     ミナカタに回復を任せ、炎次郎自らはひとまず言動が色々やかましいうえ、体中にピアスをジャラつかせる若い男へ狙いを定めた。
     人員のほとんどを前衛に配し『中衛から順に各個撃破』が灼滅者の立てた作戦だったが、範囲サイキックに対し不安が残る前のめりの布陣には潤沢な回復手段が欠かせない。
     もし相手の六六六人衆が4人ではなくその半分であったとしたら、戦況は早めに安定したかもしれなかった。
    「回復は得意じゃないですから苦情は受け付けませんよ」
     ツンデレ気味な節男の物言いではあるが、メンバーの大多数が範囲サイキックを食らう状況で回復専門が節男一人では、さすがに得手不得手にかかわらず手にあまる。奏一郎のミナカタも回復の必要がないかぎり攻め手に加わるはずであったが、すぐに節男ひとりでは回復量が追いつかなくなった。
    「援護しますわ、真澄さん!」
     ピアス男は他にまかせ、もう一方の中衛である少年を真澄が射程に捉えたのを察し、桜花が真澄のカバーに入る。
    「こうして肩を並べて戦えるだなんて貴重な体験ですね」
    「……よく、わからない」
     今のシロガネにとって灼滅者とは『あそぶ』相手であって共に戦う相手ではない、ということなのかもしれない。記憶も失い、厳密に言うなら『シロガネによく似た別の何か』である残留思念となってしまった今では、陽和としてもこれが精々、だった。
     ふわもこの着ぐるみ姿な毬衣が、がうーっと鳴き声をあげながらも凶悪なフォルムの縛霊手を振り回すのは少々シュールな光景かもしれない。メンバー随一のダメージ量を誇る陽和が切り拓いた活路を、それぞれが回復に追われつつ勝機をこじあけるような、そんな戦いだった。
     炎次郎はミナカタが攻め手に回れるほどの余裕がまるでない事に歯噛みしつつ、それでもピアス男を攻める手をゆるめない。
    「たとえシロガネが残留思念で、倒されても復活するとしても……何やらあとあと色んな方々から怨まれそうです」
    「違いないなあ」
     倒れる=死、ではない以上かばい立てすることが無駄であると言われたとしても、いや節男はもちろん炎次郎も、そもそもシロガネを庇ったところでただ自分が痛い思いをするだけで得なことなどなにもない事はわかっている。そして、たとえ庇われず傷を負っても癒やされることなく放置したとしても、それをシロガネ自身がどうとも思わないはずの事も。
     それは損得勘定の理屈ではなく、単に気分の収まりが悪いという、ただそれだけの話なのだ。
     『猫』が六六六人衆四名分の猛攻に沈み、序列外とは言えさすがはダークネス、という火力で鳳花は軽く唇を噛む。しかしまだ諦めるには早い。
     どこからどうみても小学生かそこら、という少年ダークネスの凶刃をぎりぎりで回避し、それで生じた空間を背後から、轟音をたてて何かが通り過ぎた。
     わずかな隙を突き、後方からシロガネが放ったヴォルテックス。風の刃の嵐は派手に少年の体を薙ぎ倒し、次いですでに限界の近かったピアス男を文字通りに吹き飛ばした。アーアーアー、と特徴的な声が山間に響き、ダークネス二人をあっけなく消し去る。
    「うわぁ」
     ひくり、と鳳花の頬がひきつった。思えばシロガネは元々はひとりで六六六人衆4名を相手取っていたのだ、実力は言わずもがなである。
     薄氷を踏むようだった戦況も決して最後まで余裕あるものとは言えなかったが、それでも数を着実に減らしていくことで勝利をたぐり寄せていく。
     毬衣もまた、奏一郎と共に攻める手を休めない。
    「不審者を追い出すシロガネのお手伝い、するんだよ!」
    「せっかくこんな所まで来たんだ、お前さんたちには消えてもらわなければ」
     軍帽をかぶった少女が奏一郎の物言いに眉をゆがめるものの、半数まで削れば、あとは数の有利が天秤を傾けるだろう。炎次郎の炎の剣が、欺瞞に満ちた孫と祖母の猿芝居に引導を渡すべく追い詰めた。
    「孫があっちで待っとるで!」
    「他人の居場所へ土足で入る不埒者は、消えなさい!」
     陽和が振り下ろしたクロスブレイブ【rosa mistica】が老いた体をとらえ、さらに折り重なる衝撃を叩き込む。がッ、とおよそ人とも思えぬ獣じみた声を漏らして老婆が沈黙し、残りは軍服姿の少女のみ。
    「熱いの一発お見舞いだよ!」
     毬衣自身六六六人衆の猛攻に晒された後で、足元が危ういことは隠しようもなかった。しかし桜花が回復と援護に追われつつも前衛に付与し続けた盾は、ここでものを言う。
     着ぐるみ姿も相まって、まさしくイフリートよろしく咆哮をあげた毬衣を男装の少女が睨みつける。真澄が咄嗟に毬衣を庇おうと前へ出るが、抜き手の要領で繰り出されたティアーズリッパーが毬衣の腹へ吸い込まれた。
     惨劇を想像した節男が一歩前へ出る。しかし、想像していたような結末はいくら待っても訪れなかった。
     クロスカウンター気味に腕が交差した毬衣と少女。
     桜花によって分厚く積み上げられた防御によって、命中こそ避けられなかったものの毬衣は腹への衝撃で一瞬息を詰まらせただけだった。しかし、少女は。
     雷をまとった毬衣の拳の衝撃によりずるりと地面へ崩れ落ちる。はっと我に返って灼滅者達がその場から一歩退いた時には、六六六人衆であったはずの少女の体はもうどこにも残っていなかった。

     よく晴れた山岳地帯には、いつも良い風が吹いている。
    「ありがとう、すれいやー」
     救助に訪れた理由はわからないまでも、シロガネは訥々と感謝の言葉を口にした。
    「俺たちの事を覚えてくれていなくとも、俺たちはお前さんを覚えてるよ」
     奏一郎の言葉にあかるい青の瞳を瞬かせ、シロガネは小さく首をかたむける。それもそうだろう、シロガネにとっては誰が何と言おうとここで初めて会うはずの相手で、それぞれ灼滅者であることはわかっているが危急に際しこうして手をさしのべられるような縁になど、全くもって心当たりがないはずだ。
     残留思念となっても、『プレスター・ジョンの国』に居る限りこうして争いに巻き込まれる可能性は残るのかもしれない、と奏一郎はほろ苦い気分で思う。
     なるほど心を傾ける者もいるわけだ、と内心ひっそり納得して、節男が軽く会釈した。別れの時が来たのだ。
    「さようならは敢えて言わないでおきます。それではごきげんよう」
    「……多分アイツならこう言うと思う。『ごめんな』」
     ふわふわと風に泳ぐ銀の髪へ触れる真澄の手を、白銀のイフリートは避けない。ただひたすらに不思議なものを見上げてくる目につい悲しくなり、真澄は急いで残りの言葉を言いきった。
    「それから、『元気でな』って……じゃあね、シロガネ」
     そうか、と要領を得ないまでもシロガネは小さく首肯して灼滅者が去っていくのを見送っている。振り返りそうな自分が嫌で、真澄は無理に前を向いた。
    「残留思念……ね」
     残留思念に『死』の概念はないらしい。
     たとえ倒されてもやがて何事もなかったように復活する、という。鳳花は胸の奥に残った違和感のような、何とも言えない重しのようなものを抱えながら底抜けに明るい空を見上げた。
     緑濃い山間部には梢を吹き渡る風の音が、ずっと響いている。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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