プレスター・ジョンの国防衛戦~再生怪人奮闘記

    作者:長野聖夜

    ●とある再生怪人の不幸
    「くっ……クソッ! 何故だ、何故貴様達の様な雑魚どもに、ネット(網)の真実を理解した俺が……ギャァァァァァァァ!」
     思いっきり、腹部を蹴り飛ばされ、鞠の様に吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた、その男。 
     それは、再生温泉饅頭怪人Ωと呼ばれている残留思念。
     ビクビクと体を痙攣させるその青年を、漆黒の衣装に身を包んだ、仮面の男が踏みつけ首に刃を突き立て、喉仏を切り裂く。
     ヒュー、ヒュー、と言う音を立てながら、消滅していくΩの様子をニヤニヤとした笑みを浮かべて楽しむ後ろの男。
    「中々、いい鳴きっぷりでしたねぇ。これが女だったらもっと良かったんすけどね」
    「血狼」
     隣で静かに佇む様にしているフード付きのローブに身を包んだ女らしき者が軽く睨み付け、血狼と呼ばれた男はチェッ、とつまらなそうに、舌打ちを一つ。
    「邪魔者は片付けた。さっさと先に行くぞ。血狼、乙姫」
     ヒュッ、と血を払う様に武器を納める止めを刺した男の一瞥に、乙姫が一礼する。
    「御意」
    「まっ……殺し合いが出来るなら、何だっていいぜ。噂のあいつら、来るのかなぁ。来たらどんな悲鳴を上げるのかなぁ。いや~、楽しみ、楽しみ♪」
     あっけらかんとした血狼の呟きを合図に、3人の殺人鬼は、一路先を進みゆく。

     ――目指すは、プレスター・ジョンの首、ただ一つ。

    ●急転する状況
    「やあ、皆。……来てくれてありがとう」
     武蔵坂学園、保健室前。北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が、心配そうな表情で集まって来た灼滅者達に小さく頷きかける。
    「もう聞いていると思うけれど。優貴先生が、高熱を出して倒れてしまい、今、保健室で手当てを受けて休んでいる。……その原因に、先日、タロットの力を使って皆の初夢を現実化させた、歓喜のデスギガスによる、プレスター・ジョンの国への侵攻があるらしい」
     淡々と、しかし少しだけ顔色を青ざめさせながら続ける優希斗に、灼滅者達が小さく頷く。
    「どうもデスギガス達は、プレスター・ジョンを暗殺して、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪取し、それをベヘリタスの秘宝で実体化させるつもりの様なんだ」
     其れを阻止する為に、コルネリウス派であるプレスター・ジョンを守って欲しいと言う事の様だ。
    「ただ……」
     そこまでを説明した優希斗の表情に深い陰りがあることに気が付き、灼滅者達が怪訝そうにしながら続きを促す。
    「……多分、アガメムノンの発案だと思うけど。……デスギガスは、六六六人衆と手を組んだ。……今回の暗殺の実働隊も……彼等、なんだ」
     優希斗から告げられたそれは、灼滅者達の頭に、一瞬の空白を作るのには、十分だった。


    ●その実力は
    「デスギガスに協力し、攻め込んでいる六六六人衆たちは、最近になって闇堕ちした序列外の者達の様だ。だから、戦闘力自体は、序列を持つ六六六人衆よりは低い様だが、その分、複数人でチームを組んで行動している」
     簡単にそこまでを説明した所で、1つ息をつく、優希斗。
    「……縁、と言うのは確かにあるみたいだね。俺が見たのは、かつて君達と一度刃を交えた、再生温泉饅頭怪人Ωが、3人の序列外の六六六人衆により倒される、そういう夢だった。つまり……君達に俺が頼めるのは、プレスター・ジョンの国に向かい、再生温泉饅頭怪人Ωに協力し、六六六人衆の3人……壊李、血狼、乙姫を灼滅して欲しい、と言うことになる」
     3人は、いずれも殺人鬼及び、シャウトのサイキックから幾つかを使ってくる可能性が高く、また、壊李は其れに加えてガンナイフのサイキックを、血狼は、エアシューズのサイキックを、乙姫は護符揃えのサイキックを使用してくる可能性が高いらしい。
     また、壊李はクラッシャー、血狼はディフェンダー、乙姫はメディックの様だ。
     しかし、彼等の一番の脅威は連携力、にあるらしい。
    「だから、序列外とは言え、油断はできない。再生温泉饅頭怪人Ωは、クラッシャーで、バトルオーラとご当地怪人のサイキックを使うけれど、協力してくれるかどうかは微妙な所だ。でも、状況が状況だし事情を説明すれば、或いは手を貸して貰えるかも知れないね」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で首を縦に振った。

    「……Ωの残留思念を招き入れに姿を現した時、コルネリウスは俺達にデスギガスの弱点を教えてくれた。その借りを返して欲しい、と言うのもあるんだけれど……それ以上に、今回の戦いは、もしかしたら、残った四大シャドウたちの戦いの前哨戦なのかも知れない。となると今後のことを考えたら、俺達はコルネリウスとの交渉も、視野に入れるべきなのかも知れないね。……皆、どうか気を付けて」
     優希斗の見送りに灼滅者達は頷き、その場を後にして戦場へと向かった。


    参加者
    古室・智以子(花笑う・d01029)
    氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)
    新月・灯(誰がために・d17537)
    神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)
    武藤・雪緒(道化の舞・d24557)
    仲村渠・華(琉鳴戦姫クールドメール・d25510)

    ■リプレイ


     ――プレスター・ジョンの国
    「ぐっ……ぐぐっ……こ、この俺……ネット(網)の真実を知った筈の俺が、何故、これ程までに……?!」
    「……な~にが、ネットの真実だよぉ! さっさと、イッちまいなぁ~!」
     優男風の血狼が舌なめずりをしながら踵落としをΩの脳天に決めようとした、その時……。
    「そうはさせないよ!」
     突如として、その場に響いたのは少女の声。
    「んあっ?!」
     少し驚いた様子の血狼だったが、構わず止めを刺そうとした時、声を上げた氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917) が2人の間に割って入って踵落としを受け止める。
     血狼の脇から飛び出した漆黒の衣装に身を包んだ男、壊李が隙をついてあすかに素早く接近しようとした矢先、殺気を感じ取り素早くバックステップをし、銃を其方へと向けた。
     銃口の先にいたのは、蒼いヒーローコスチュームに身を包んだ、仲村渠・華(琉鳴戦姫クールドメール・d25510)。
    「暁に煌めく海の心、クールドメールただいま参上! 取り敢えずここで暴れるならたっぴらかす!」
     何故か、背後で一緒に見切りを決めている、Ω。
    「ただいま惨上! ……はっ、何故、俺の体が勝手に?! と言うか、何やらとても良い温泉饅頭の匂いが……!」
     匂い分かるの?! と内心でツッコミを入れつつ神無月・佐祐理(硝子の森・d23696) が懐にしまった温泉饅頭をワタワタしながらΩの前に突きつけた。
    「お久しぶりです! 温泉饅頭の美味しさの恩に報いる時が来ました!」
    「お……おおっ! そうか、そうか! 遂にお前達にも温泉饅頭の素晴らしさが分かったのか。フハハハハ……流石は、ネット(網)の真実を知ったΩの名は伊達ではないわ!」
    「……ふむ、そこまでネット(網)に拘るなら、投網も装備すればよかったであろうに……」
     フォルムチェンジをして戦闘態勢を取った鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)の突込みに、Ωは、文字では表現できそうにない位、寂しげな表情で項垂れる。
    「……悲しいかな、悲しいかな。俺はあくまで再生温泉饅頭怪人Ω。……生前ならさておき、ネット(網)を装備し、サイキックとして操ることが出来ないのだ……」
     大人の事情と言う名の、そこはかとない哀しみを携えその場に立ち尽くすΩ。
    「で、でも、是非、ネット(網)の真実を理解したことを聞かせて欲しいです」
     新月・灯(誰がために・d17537)が慰める様にそう言い、かつて某有名RPGがアニメ化した時に流れていた懐かしさを感じさせる歌を歌い勇気付けようとする。
     その歌が髑髏スライム形態である武藤・雪緒(道化の舞・d24557)の心に悪戯心を芽生えさせた。
    「やぁやぁ、怪人さん、ぼくわるいスライム髑髏じゃないよ!」
     雪緒の口から突いて出た其れに、Ωが、驚愕を絵に描いた表情となる。
    「お……おい、待てお前、其れはあの某クエストの……!」
    「ってそうじゃなかった。つい」
    「……分かるのか」
     一瞬攻撃する手を止めて、突っ込む壊李は無視して、捲し立てる雪緒。
    「俺達はそこの六六六人衆を倒す為に来たんだ」
    「わ……悪いスライムじゃないと言うのは本当だろうな?!」
    「勿論です。温泉饅頭好きとして、貴方とご一緒に戦えるなんて幸福ですから」
     優貴先生を救う為にさらりと嘘を吐く黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)にΩが口元を綻ばせ、両手を腰にして胸を張った。
    「フフ……フフフ……やはり正義は我にあり! さぁ、そこの悪しき3人組よ! この、再生温泉饅頭怪人Ωと愉快な仲間達が貴様を成敗してくれるわ~!」
    「……協力してくれるのなら、構わないの」
     愉快な仲間達との呟きに一瞬眉を顰めた古室・智以子(花笑う・d01029)だったが、元々六六六人衆と戦うつもりだったので構わない。
     傷ついた者を回復できるよう、冷静に戦場と戦況を見据える。
    「こいつらが、噂のあいつらっすかね~? 数多くの上位の奴等を灼滅したとか、多くの仲間達を殺したと巷で噂の」
    「はい。噂のあいつらこと、武蔵坂学園参上です」
    「惨上の間違いな気もするが……まあ、良い。ならば、殺す」
     血狼の呟きに律儀に返す璃羽への乙姫の溜息を切っ掛けに、改めて戦いが始まった。


    「おいしい温泉饅頭くださいな。……ってそんな場合じゃないわよね」
    「ああ、やるぞ、やるとも! もはやお前たちは我が輩! この戦いが終われば幾らでも温泉饅頭を食わせてやろう!」
     ヴァンパイアミストで前衛の仲間たちを強化するあすかを勇気付ける様に、ドン、と自分の胸を叩くΩ。
    「まあ、温泉饅頭は美味い。それは真実だな」
     雷を帯びた拳でジャブを血狼に繰り出しつつ、呟く朱香。
    「おっ、俺とやるんすか? いいねぇ、いいねぇ、いい悲鳴聞かせてくれっすよ!」
    「正面から、打ち破るのみ」
     嬉しそうに舌舐めずりをする血狼の戯言を、すまして聞き流す。
    「……あまり集中して殴られてくれるなよ」
     溜息をつきつつ、湿布を血狼の背中に投げつける、乙姫。
     張り付いた湿布がジャブの負傷を癒す間に、華が上空に飛び出しクールドキック。
     鈍い音と共に僅かに踏鞴を踏む血狼の前に、佐祐理が飛び出した。
    「Das Adlerauge(鷲の目)!」
     スレイヤーカードを解放すると同時に、鷲の羽を広げたサイレン形態となり、両腕に装備された注射器を突き刺し、横合いに薙ぎ払う。
    「……っ?!」
    「随分と中二病を患ったようなお名前ですね」
     挑発も込めて契約の指輪を光らせ、動きを拘束する弾丸を、乙姫に向けて撃ち出す璃羽だったが、その僅かな間に、壊李が間近に迫っていた。
    「……死ね」
     零距離から撃ち出された銃弾をまともに受けて仰け反る璃羽。
    「やらせないの」
     智似子が呟き、その傷を塞ぐべく指先から光を撃ち出すその傍で、歌に合わせて放たれた灯の帯が璃羽を包み込みその傷を癒し、守護を与える。
     舌打ちをしながら後退する壊李の影から傷ついた血狼が飛び出し、星屑を帯びた蹴りを璃羽に加えようとするが、僅かに速くシーサーがその斜線に立ち塞がった。
     鈍い音とともにボディが凹むが、青く光り輝きその傷を修復するシーサー。
    「よーし、派手に行こうかぁ!」
     雪緒が空洞の筈の髑髏の眼窩をキュピ~ンと怪しげに輝かせ、スライムの内部の靴をうにょ~んと出して星屑キック。
     命中精度の上がったその蹴りが、血狼の頭蓋骨に直撃し、目から火が飛び散りそうな衝撃を受ける。
    「流石は、良いスライムだ! 俺も負けてられん! 喰らえっ! 温泉キ~ック!」
     先ほどまでのヘタレップリはどこへやら。
     勇ましい雄叫びとともに上空に飛び上がり、Ωが強烈なキックを放つ。
     何気に集中攻撃する辺り、ノリのいい奴である。
    「ぬ……グェアッ?! ……い、イテェ。イテェっすよ~……ママ~!」
    「……その魂の叫び、いい加減にやめろ」
     派手に悲鳴を上げて傷を再生する血狼を軽く睨みながらも、乙姫が痺れる体に鞭打って湿布を貼った。
    「回復などさせはせんぞ~!」
     続けて温泉饅頭型闘気を叩きつけようとするΩだったが、その時には、壊李が一瞬でその間合いに入り込み、Ωの脇腹から肩にかけてを切り裂いている。
    「ぎゃ、ギャァ~!」
     叫ぶΩの左右を、朱香と璃羽が駆け抜け瞬く間に血狼との距離を詰めていく。
    「正面から、殴るのみ」
     ステップを刻む様な身軽さで屈み込み、一気に伸びあがりアッパーを繰り出す朱香。
     雪緒に脳を蹴られて動きが鈍っていた血狼の顎をぶち抜いた。
    「……痛いっす、痛いっす!」
    「大人しくしててくれたら、面倒もないですのに」
     涙目になりながら痛みを訴える血狼の足を、接近して撃ち出した璃羽の影が締め上げる。
     硬直した血狼の胸を、あすかが容赦なく殴りつけていた。
    「げ……げほ、げほ」
    「さっきまでの威勢はどこ行ったの?」
     トラウマを植え付けられたのか、微かに苦し気に喘ぐ血狼へのあすかの問い。
    「何と言うか……デジャヴを少し感じます」
     苦笑を零しつつ、注射器を真っ直ぐに放ち、その身に突き刺し吸血する佐祐理。
     突然の大量の失血により、一時的な貧血症状による軽い眩暈を起こす血狼の後ろに華が回り込む。
    「行くよ! クールドダイナミック!」
     そのまま血狼を持ち上げ地面にその体を叩きつけた。
    「ママ……ママ~!」
     叫んで傷を癒していく血狼を、星屑を纏った蹴りで追撃したのは、灯。
    「大した実力もないのに、プレスター・ジョンの国に侵入することができましたね。使い捨ての駒なのに」
    「ち、畜生、俺様達はなぁ……!」
     足に強烈な一撃を与えながら挑発する灯に、怒り心頭に発したか、顔を真っ赤にする血狼だったが……
    「……安い挑発に乗るな、血狼」
     溜息をつく壊李に、宥められ大人しくなる。
    (どうやら、易々と情報を渡すつもりはないようですね)
     彼等の様子を見て、灯が小さく溜息をついた。


     一進一退の戦いが続く。
     戦い方、Ωとの連携は良案であったが、連携力の高さは敵も同じこと。
     連携力、そして強さが拮抗するのならば、戦いは互いの意地の張り合いとなる。
     そして……意地の張り合いでは、予め其れを想定し、回復と防御を充実させた陣形を整えていた灼滅者達に一日の長があった。
    「くらえ~!」
     うにょーっと言う擬音と共に、スライム体からマテリアルロッドを取り出し、接近する雪緒。
     先端から収束した魔力の塊が撃ち出され、凄まじい爆発と共に血狼を飲み込んだ。
    「ママ~、ママ~!」
     爆発の痛みを抑えるべく、叫びで自らの傷を癒そうとする血狼だったが……。
    「ゲェッ!? 回復が追いかねぇ……?!」
    「いきますよ!」
     今までにない程に焦った表情になる血狼の隙を見逃さず佐祐理が接近して、鷹枝切鋏を活用した殲術執刀法。
     鋭く袈裟懸けに切り裂かれ、苦しげに後退する血狼。
    「血狼!」
     焦り、咄嗟に乙姫が湿布を投げつけるが、それは、あすかの指に嵌められた指輪から撃ち出された死を齎す漆黒の弾丸によって撃ち落とされた。
    「やらせないよ」
    「一気に行くよ!」
     あすかに符による回復を阻害され、軽く舌打ちをする乙姫を無視して華が血狼に接近し、海の様に蒼いオーラを拳型にして叩きつける。
     無数の乱打の直撃を受け、千鳥足となっている血狼の背後に朱香が音も無く回り
    「きつく縛ってあげようか」
     呟きと同時に全身を鋼糸で締め上げ、その身を砕いた。
    「ぎゃ……ギャァァァァ~! 死にたく、死にたくな~い!」
     末期の悲鳴を上げつつ消え逝く、血狼。
     血狼の死を無駄にするわけにもいかず、そのまま壊李が朱香の死角から消え、彼女の急所を狙って斬撃を放とうとするが。
    「させませんよ!」
     佐祐理がその前に立ち、体を切り刻まれつつも、強気で返す。
     其の間に、璃羽が死角から姿を現し、壊李の身を切り刻んだ。
    「ぐっ?!」
    「食らえっ! 温泉ダイナマイト!」
     パッ、と脇の辺りから噴き出した血に顔を顰める壊李に接近し、傷だらけになりながらもがっしりとその身を掴み、バックドロップを決めるΩ。
     反射的に壊李の手から放たれた短刀がΩの肩を斬り裂くが、その傷は智似子が癒していた。
    「ぬぅっ?! 礼を言うぞ、お前!」
    「勝手にしただけなの。気にしてくれなくて結構なの」
     感に堪えぬ、と言う様子のΩを気にすることなく智似子が、灯のギターに合わせて歌う。
     2人の音楽が絡み合い、生み出されたデュエットがΩを含む、前衛の負傷を癒していった。
    「ありがとう!」
     礼の言葉を述べつつあすかが壊李に近づき、霊状の網を展開した拳による一撃を叩きつける。
     霊力によって作り出された一打が、壊李に痛打を与え、彼の愛用でしている銃を締め上げていく。
    「くっ……」
     忌々しげに舌打ちする壊李を癒そうと、乙姫が湿布を投げつけようとするが、最初に璃羽によって撃ち込まれた麻痺弾の毒が体を蝕み、微かに乙姫の集中を乱した。
    「こんな時に……!」
    「皆さん!」
     チャンス、と見て取った灯が、その隙を見逃さず声をかけつつ、炎を纏った膝蹴りを放って壊李の体を焼く。
    「ググ……?!」
    「そこだね!」
     雪緒がその隙を逃さずうにょ~んと、再びスライム状のボディから撃ち出した杭で壊李の体を撃ち抜きその身を縫い止め、すかさずシーサーが機銃を乱射してその体を撃ち抜いていく。
     肩や足を撃ち抜かれ踏鞴を踏む壊李に佐祐理が接近して毒性のあるサイキックワクチンを注射。
     サイキックの過剰摂取による中毒症状の様なものを起こし、ぜぇぜぇ、と息を切らす壊李を、璃羽の契約の指輪から射出された弾丸が撃ち抜いた。
    「やらせる……ものか……!」
    「続けていくよ!」
     唇を噛み締めて意識を保つ壊李を追い詰めるべく華が接近して、刃を抜き放つ。
     刃を覆う蒼龍型のオーラが壊李の命を奪うべく襲い掛かる。
     壊李は、後ろに飛んで少しでもその負傷を抑えようとするが。
    「今だよ!」
    「遅い」
     華の合図に小さく返した朱香が踏み込み強烈な右ストレート。
     避ける暇もなく、鳩尾をぶち抜かれた壊李が鞠の様に吹き飛び、乙姫を巻き込んで地面に倒れた。
     それでも態勢を整えて反撃に転じるが、ディフェンダーと言う壁を失った壊李たちに逆転するチャンスは無い。
     執拗な抵抗の甲斐なく、壊李が倒れ……それから暫くの後、璃羽の撃ち出した制約の弾丸が最後に残った乙姫の胸を撃ち抜き、乙姫もまた、苦しげに呻きながら消滅していった。


    「やはり、温泉饅頭を好きなものに悪い奴はいない! フハハハハ……正義の勝利だ~!」
    「……何にせよ、あの時の恩返しが出来て良かったです。……コルネリウスさんに」
     高らかに笑い声を上げるΩに苦笑を零しつつ、灯がそっと胸を撫で下ろした。
    「取り敢えず、一安心なの」
     智似子の安堵を感じさせるその呟きが、灼滅者達に勝利を実感させていた。
    「ねぇねぇ、おススメの温泉饅頭頂戴!」
     戦いが終わり、汗を拭う様にする華の言葉に、意気揚々とΩが頷き、自慢の温泉饅頭を全員に振る舞う。
    「あら……これ、懐かしい、いい味ですわね」
    「ええ。とても美味しいですわ」
     憶えの有る甘味に感動している佐祐理に頷きつつ、温泉饅頭を頬張りながら朱香が周囲を見回す。
     どうやら、この周囲に他の敵が出る様子はなさそうだった。
    「フフ……当然だ! あの時に食べた温泉饅頭こそ、俺にとっての至高の味だったのだからな!」
     自慢げに胸を張るΩに苦笑を零す佐祐理。
    「そう言えば、先程の六六六人衆はプレスター・ジョンをつけ狙っていた様ですけど、何か言っていたことはありますか?」
    「いや……特に何も言ってなかったぞ」
    「まあ……そうでしょうね」
     分かってはいたことだが、明確な情報が手に入りそうにないことに、璃羽が少しだけ溜息をつく。
     ともあれ、灯が約束した通り、暫くの間歓談を楽しんだ後……灼滅者達はΩに見送られ、その場を後にするのだった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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